今はもう、遠い昔に思える過去を取り戻す為に――

 

爆発の光が宇宙に生まれる。
星の輝きに負けないくらいに眩い爆発の光が。

「くそっ!」

星に負けないくらいに眩い爆発――に比べると明らかに見劣りする小さな爆発も生まれる。
今の言葉はその爆発の中で発せられたもの。
身体中を包み、防護するスーツ。唯一口元のみが見えて、その口が言葉を形作ったのだ。
憎々しげに真空を挟んで対峙する赤い機体を睨む。

「よもや汝が生き延びたとはな……」

僅かな感嘆と嘲りを含ませた声に彼は――アキトは歯をかみ締める。
ネルガル――正しくはネルガルより依頼を受けた工房より渡された機体。
それを用いても目の前の敵は強かった。

「それほど驚く事ですか? 人が……執念を持った人がしぶといのは貴方の方が分かってると思いますが」

静かな声が響く。
氷を思わせる蒼い機体、それを操るパイロットが発したものだ。
一個の芸術品を思わせる程に洗練された機体。
それは兵器として見ても素晴らしい。
だが、今は腕は錫杖に潰され、脚は錫杖に貫かれ、見るも無残な姿になっている。

「……これもまた奇縁、否、鬼縁と呼ぶべきか。汝と再び出会う事になろうとはな」
「あの時、貴方が言った事が現実になった――それだけです。北辰」

シンジの言葉に北辰は苦笑を浮かべ、

「その通りよ。そして、この様な再会であるならば――我らの敵としてただ討つのみ」

シャランと錫杖を鳴らし、夜天光とその背後に控える六連が動き出す。
その光景を見て苦々しげな表情をするのはアキト。
だが、シンジはそれでもアキトに語りかける。

「アキトさん、既に勝敗は決しました」

それは冷たい声であり言葉であった。
心配さを滲ませた声を掛ける事もできた。
だが、あえてシンジは冷たく語りかけた。
慰める言葉ではなく、冷たい言葉を掛けるほうが――現実を知らしめる言葉を掛ける方が良いと思い。
決断する為の時間はあまりにも少ない。
距離があるとはいえ、機動兵器で見れば僅かなものにしか過ぎない。
それ故、アキトは血を吐く想いで、

「……ジャンプ」

と呟いた。
そして光を放つチューリップ・クリスタル。
ジュデッカ、シンジもまた同じ言葉を呟き、二機はその姿を消した。
ボソンジャンプの残光を無言で見る北辰。
シャランと錫杖を再び鳴らし、口元に笑みを浮かべる。

「逃げたか。それもまたよかろう。テンカワアキト、復讐人よ。……いずれまた会おう」

そしてその剣よ、汝にも、な。
最後の言葉は口にする事無く、北辰は機体を動かし始めた。
彼らが帰るべき場所へと。

 

 


 

 

「くそっ!!」

感情を昂ぶらせてアキトは壁を蹴りつけた。
その昂ぶりに合わせて顔に光の線が走る。

「どうして……どうして勝てないんだ!」

憎むべき敵を前にして逃げざるを得なかった事を呪うアキト。
コロニーを落とす事はできた。だが、目的であったユリカは無く、狙うべき敵よりは逃げるしかなかった。
なればこそ、己を呪うのも当然と言えるだろう。
それを静かに見るはシンジ。
そして静かに言葉を掛ける。

「向こうは最新型。それに対し、こちらはジュデッカはともかくアキトさんの機体は……」
「言うなシンジ!」

アキトの機体――追加装甲の中にエステバリスを収めた機体。
木連との戦争中は縦横無尽の活躍を見せたエステバリスも、木連にそのノウハウが伝わって行くと共に時代遅れの機体に成り下がった。
ゼロより最新の技術を用いて作り上げた機体ならばもっと戦えただろう。
だが、追加装甲と言う形を取った事により発生した問題はあまりにも大きかったのだ。

「……分かっているんだ。普通に零より作り上げれば良いと言う事は」
「……」

ベッドに座り、アキトは独白するように口を開く。

「だが、それでも俺は捨てられない。エステバリスを、ナデシコで乗っていたあの機体を……」

最早戻る事が叶わぬ時を思い出し、アキトは哀しみを滲ませた。
復讐人となる事を決意しながらも、それでも忘れたくない事がある。
己が手を血に汚そうとも、たった一本だけ残るか細い糸の様にエステバリスがある。
全てを捨てねば相手にできぬ敵と知りながら、それでも捨てきれないもの。
それは余りにも不確かなものであるが、それ故に捨てたくは無かった。
シンジもそれを分かっているのだろう、

「そう、ですね……」

懐かしむ表情で小さく呟いた。
色々な意味で忘れらないあの時を思い出す。
あの、騒がしくも楽しかった時を。
その邂逅を断ち切ったのは彼らの目の前に開かれたウィンドウであった。

 

 

その艦は黒く塗られていた。
その艦に乗る者を表す様に。
それは、陰たる事を選び、生きてきた者達の艦。
それは、木連――火星の後継者の刃。
そう、北辰達が乗る艦だ。
ボソンジャンプと言う距離を無いものとする技術があっても、それを自在に使う権利は持たぬ故に、その艦はあった。
だが、その使い方は移動に用いられるだけ。
その為、戦艦と呼ぶには小さい。
小型で高速高隠密性を最も重要視したのだ。
これを造る為にはクリムゾンの、地球の技術が必要不可欠であり、完成したのは戦争終了後だ。
乗る者は北辰とその部下達。
それ以外は全て、虫――つまりバッタなどと言った機動兵器だ。
機密性を保つ為に選ばれたのだ。
そこで夜天光より降り、北辰は小さく息を零した。

「如何されましたか、隊長」

重くはあるが心配げな言葉を掛ける部下の一人。
それに対し、北辰は微かに笑みを浮かべて、

「なに、下らぬ事よ」

と返した。
考えていたのはアキトとシンジの事だ。

「かつては己が正義のために遺跡を跳ばした輩が復讐人となって戻ってきた事を、な」
「はっ。あの時の彼奴らの行動によって、閣下の理想は遠のきました」
「その通りだ。歴史より封殺され、蜥蜴としか呼ばれなんだ我らが今一度歴史に現れる為に目指したモノ、それが遠のいた」
「ナデシコの奴らこそ憎むべき、そして狭量な世界しか見れぬ者達で御座います」
「そして今、我らは、火星の後継者は起つ。……今一度、ナデシコの者達と相見えるか」

かつての戦争、地球側では紛争と呼ぶものの時には北辰達は表に表れなかった。
だが、木連の敵と言う意味では再び戦うと言う意味で同じだろう。

「……主らももう、休め。テンカワアキトとその剣とは近いうちに再び出遭う事だろう」
「はっ! されど隊長、彼奴らは我らの敵と呼ぶには余りにも脆弱ですが――」

部下の言葉を断ち切ったのは北辰の眼光であった。
鋭く、なにもかもを切り裂きそうな眼光。
その眼光には暗部の猛者と言えど恐怖を憶える。

「たわけ! ならば主らは赤子の頃より強くあったか? そうではなかろうが!」

一喝する北辰。身を竦める部下。
赤眼と黒の眼。その双眼が六人の部下を射抜く。

「死に至る傷を負うた者がその執念をもって帰ってきた。我らと相対してから今までの時、長くは無いが、決して短いものでも無いぞ」

最初に遭遇した時は確かに弱かった。
機体も、その技量もだ。
だが、出遭う度に技量は上がり、北辰達と戦いあっている。

「牙は生えるものではない。生やすものなのだ。その様な油断こそ最大の敵と知れ!」
「申し訳ありませぬ隊長。確かに恐れるべきはこの油断。例えいかなる敵であろうとも、決して抱いてはいけぬもの」
「分かれば良い。……では、休め。主らの代わりはそうそう居ないのだからな」

凶気とも呼べる雰囲気は霧散し、微かに労わる言葉を掛ける北辰。
木連内部に置いても悪鬼外道と恐れられる北辰であったが、決してそればかりではないことを感じさせる。
部下達が格納庫を出て行く姿を見送り、北辰は中空を見上げた。

「そう、その通りよ。テンカワアキト、精々足掻き、強くなれ。己が執念を以って立ち上がる者、討たねばならぬ敵と言えど、我は嫌いではない」

そして自分の考える事が木連の為にならない事と考え、北辰は苦笑を浮かべた。

「暗部として生きてきた時、決して後悔などせぬが、それでも武人として生きたいと思う時はある、か……」

そして自分もまた、歩き始める。
足音を立てる事無く歩く姿が彼の時を知らしめる。

「イカリシンジ、テンカワアキトの剣よ。汝とは酒を酌み交わしてみたくもあるな」

格納庫を抜け、その背は闇の中に消えていった。

 

 

ウィンドウに映ったのはアカツキの顔だった。
軽薄そうな顔の下で実は、なのかそれとも本当に軽薄なだけなのかは不明だが、そんな表情で彼らは向き合う。

『やあ、二人とも。今回は残念だったねえ』

軽い調子のアカツキを睨み付けるアキト。
バイザーに隠され、その眼光は届かないがそれでもアカツキは怯えた仕草でウィンドウを小さくする。
もっとも、ポーズにしか過ぎないが。

『これで『タカマガ』と『ホスセリ』そして今回の『ウワツツ』……全部遅かったり、外れだったねえ』
「……それで、次の場所はどうなんだ?」

鬼気が混じった声で問いかけるアキト。
それはさすがに伝わりはしないが、

『おいおいテンカワ君。まだサレナもジュデッカも壊れたままだよ』

今すぐにでも飛び出して行きそうなアキトを留まらせるためにアカツキは言う。

「アキトさん、取り敢えずは今回のデーターをシミュレーターに入れて、ですね」

シンジも柔らかく笑みを形作り、アキトに言う。
アカツキの言葉ではその鬼気を抑えられなかったが、シンジの言葉であればふっ、と逆巻く鬼気がやんだ。
和らいだ表情になったアキト。
それを見たアカツキはやれやれと肩をすくめる。

『ま、暫くは動けないと言う事さ。その間に訓練でもしておくことだね』

お金は無尽蔵にあるわけじゃないし、と付け加えてアカツキは通信を切った。
静かになった室内に小さく響く息を漏らす音。
アカツキとシンジによって霧散された危険な雰囲気の代わりに虚脱感が押し寄せたのだ。
力無く、椅子に腰を落とすアキト。
シンジが備え付けのコーヒーメーカーに歩み寄り、コーヒーを入れる。

「シンジ」

自身の膝を台代わりに肘をつき、口元で手を組んだアキトが呟くように言った。

「なんですか?」

手馴れた手つきでコーヒーを二つ目のカップに注ぐシンジ。
一つをアキトに手渡し、もう一つを啜る。

「俺は……勝てるのか、奴に?」

受け取ったカップの中身を覗き込むようにしながら気弱な声でアキトは言った。

「勝ちます。……諦めない限り、死なない限り、幾らでも負けなど覆します」

凛とした声でシンジは断言した。
その表情にも、声にもアキトは笑みを浮かべたくなる衝動が浮かんでくる。

「僕らの行いは決して褒められる事ではないでしょう。ですが……」

口を真一文字に引き締めてシンジは言葉を紡ぐ。
己が意思を確固たるものにする為に、アキトにそれを告げる為に。

「ですが、諦められないのなら、石持て追われようとも意思を貫くのみです」
「お前は……諦めた事は無いのか?」

苛烈とも呼べるシンジの意思表示にアキトはふと、そんな事をたずねて見た。
シンジと過ごしてきた時は短いとは言えないが長いとも言えない。
未だ知らぬシンジの過去、その中ではこの様な苛烈さで物事にぶつかってきたのかと思ったからだ。
……自分とは違って。
だが、アキトの考えとは異なり、シンジは苦笑とも自嘲とも取れる笑みを浮かべて、

「まさか。諦めて、逃げて、そして後悔して……そればかりでしたよ。だからこそ、諦めたくない。そう、思えるんです」
「後悔して、か……」

自分は全て終えた後、後悔するのだろうか、そう考えるアキト。
天井を見上げるアキトにシンジは微笑を浮かべてその肩に手を置いた。

「後悔は何事にもついてきます。問題は後悔し続ける事ではなく、その後どうするかです」
「確かに、な」
「アキトさん、僕は後悔しながら結局はその後も同じ事を繰り返してました」

寂しそうに語りかけるシンジ。
肩に置かれた手は微かに震え、アキトはその震えを感じながらシンジを見ている。

「誰かが助けてくれるのを待ち、自分に力があればと夢想し、何一つ自分では動こうとしませんでした」

結局、それでなにもかもを無くしてしまったんですけどね、そう続かぬ言葉を表情が語る。

「でも、いえ、だからこそ、僕は自分で動きたい! 諦めたくない! 後悔しようともそれを糧に進みたい!!」
「シンジ……」
「これが僕が僕自身に誓うこと! もう……亡くすのも、ただ泣き叫ぶ自分も認めたくないから……」

そう思えるまでにどの様な想いが渦巻いていたのだろうか。
ナデシコに乗っていた時には見せる事の無かった表情。
ナデシコに乗っていた時には、常にどこか寂しげな雰囲気が纏わりついていた。
それが今では確かに寂しげで自嘲の影を見せる事はあるが、不屈の意思を秘めて立っている。

「行くか……」

暫しの沈黙の後にアキトはポツリと言った。
立ち上がり、マントを翻す。

「泣き言を言うのは全てが終わってからだ。まだ俺は北辰を倒していないし、ユリカを助けてもいない」
「ええ」
「シンジ、シミューレションに付き合え。今日のデーターで奴との戦い方を研究するぞ」
「喜んで付き合いますよ」

結局飲まなかったコーヒーのカップを置いてアキトは部屋を出て行った。
シンジもまた、僅かに飲んだカップを置き、部屋を出て行った。
喜びを表す笑みを微かに浮かべて。

 

 

スペースデブリ同然として放置されてるチューリップを用いて火星の後継者が身を潜める場所へと帰った北辰。
部下達には休むように伝え、北辰はその足で草壁の下へと向かっていた。
元より贅を掛けることなどできない木連であるが、そこは殊更装飾などが排されていた。
木連内部に置いても北辰の存在は秘されている。
なぜならば北辰達の暗殺の対象となるものが地球の人間だけとは限らないからだ。
木連内部に於いて権益を貪ろうとする者。
そして、草壁にとって邪魔になる者だ。
例えば北辰もそうだが、草壁の懐刀として名を轟かせる四方天の一人であった東舞歌であったり。
地球連合と戦ってではなく、和平を以って繋がりを持とうしたその意思は邪魔なだけだったのだ。
昔馴染みとも言えた彼女を思い出し、北辰は手に掛けた時を思い出す。
これから殺されようという時に在っても、凛とした表情で北辰を見た彼女を。
草壁の下に向かう足がふと止まる。
素性を隠す為の笠を下げて、殊更表情を隠す。

「東舞歌……汝の意思は見事だった。だが、それはそれぞれの立場が対等であったのみに選べる事よ」

木連は弱い。
地球に比べれば人員も物資も比べ物にならないほどに少なく、唯一上に立てるものがプラントだけだ。
その中で地球との和平を結べば――

「木連は搾取されるだけの国家に成り下がる。それは決して認める訳にはいかぬのだよ」

木連に於いて目立っていたナデシコは大したものだと言えたが、政治方面よりみればあまりにも信頼も信用もできなかったのだ。

「故に草壁閣下の行動は間違ってはいない。正しいとは言い切らぬが木連の未来を考えた方向では閣下の方がより確かなものだ」

もう一枚草壁側には切り札とも呼べるべき者が在ったのだが、それは少し前に没している。

「北斗を使えば木連にとっては有利に働いたであろうな」

だが、それは使えなかった。
己を僅か10の時に凌ぐ存在であったが、たった一人で戦局を打破する存在は危険なカードだ。
『それ』が動けなくなれば『それ』に頼った木連はあまりにも弱い存在になる。
北斗に――己が子に対する想いなど微塵も無い。
暗部に身を置いて以来、人並みに家庭を築き幸せに暮らそうなどとは思っていない。
契り、子を成した事とて体裁と血を残すことが目的しかすぎないのだから。

「……我は火星の後継者の陰。この身は木連の為だけにある。必要なのは帰るべき場所ではない、木連の剣よ……」

笠を上げ、前を見る北辰。
この先に続くは修羅・外道の界。
情を切り捨て、不退転の決意を秘めて北辰は再び歩み始めた。
――全ては草壁の、木連の為に……。

 

 


 

 

右手に銃を握りシンジは通路を駆け抜ける。
今尚、現役で活躍するMP5シリーズの最新型だ。

「ちっ!」

目指す場所まで後少しと言うところで警備員と鉢合わせをする。
誰何の声も無く、響き渡る連続した銃声。
コートの裾を翻し、シンジは今来た通路の陰に身を隠す。
銃弾が壁を削り、それが止んだと同時に銃口を差し出す。
引き金を引くと同時に吐かれる幾数もの弾丸。
吐かれる弾丸は弾頭に火薬を仕込んだ爆裂弾。
とても拳銃弾サイズのものが撃たれてるとは思えない音を響かせて……沈黙。
フルオートで吐かれた為に3秒程度で弾が尽きたのだ。
空のマガジンを抜き捨て、コートの内側より出したマガジンを差す。
そして鏡を取り出し、通路の向こう側を確認する。
惨状――そうとしか形容のできない光景が広がっていた。
弾丸の破片で切り裂かれ、飛び散った肉片と溢れ出る鮮血。
もはや動くものが無い事を確認したシンジは再び通路を駆け始めた。

ここはターミナルコロニー『シラヒメ』

今現在、内よりシンジが、外よりアキトが攻め入ってる場所である。

 

 

眦を鋭く上げ、眼前に見えるコロニーへと攻め入るアキト。
ブラックサレナの暴力的なGに耐えながら防衛の任につく機動兵器を体当たりで吹き飛ばす。

「くそっ! まだ着かないのか!!」

恐らく既に北辰はコロニー内部にいるだろう。
そしてその目的はユリカの移動と、研究員の口封じ。
研究員など幾らでも殺されてしまえと思うアキトだが、ユリカは助けたい――そう考える。
だがそれを阻む『シラヒメ』の防衛隊。
碌に戦いを経験した事などない輩を配置しておきながら数だけはいる。
そして戦艦もまた阻むもの。
対北辰に特化させたブラックサレナの火力では戦艦の防御力を貫く事はできないのだ。
既にコロニーの懐に入り込んだ故にグラビティブラストの光条は無いが、そこに至るまでに幾多もの洗礼を受けた。
頑強なDFとサレナの搭乗者を考えていないような速度のお陰で損傷と呼べる損傷は無いが、それでも時間を奪われた。

「まだだっ! 諦めたりなどしない!!」

ハンドカノンより弾を撒き散らしながらアキトは叫ぶ。
歯を噛み締め、IFSを輝かせる。
ウィンドウに表示される映像を確認しながら、アキトは外部隔壁を破壊し、内部へと入り込んだ。

 

 

警護の人間を排除し、シンジは目的の場所へと辿り着いた。
弾数を確認し、ドアを開ける。
そして……白刃が迫る!

「――!」

咄嗟に手に持ったMP5で刃を受ける。
金属が擦れ合う嫌な音ともに、見たのは北辰と共に行動する六人衆の姿。
舌打ちをし、前蹴りを放つシンジ。
それは目前の男に入ったが、軽い衝撃しか帰ってこない。
くるりと中空で一回転し、床に降り立つ男。
考えるのは後回しで、横跳びをしながら銃口を男に向けて引き金を引く。
爆裂し、凶悪な破片を撒き散らすそれを猫の様な動きと、身に纏うDFで防ぎ、避ける。
床に足を着くシンジ。
バイザー越しに認めるのは、倒れ付し血を流す研究員達と北辰、六人衆の姿。

「来るのが遅いようだったな、テンカワアキトの剣」

背後に合流した一人を含め、前に立つ北辰は言った。

「ミスマルユリカは既にここには無い。汝らの行動、無意味なものと知れ」
「無意味を恐れたりはしない、恐れるべきは無為になる事」

MP5を投げ捨て、シンジはナイフを取り出した。
単分子の刃を持つナイフ……物理的に最高の切れ味を誇るナイフである。
それを右手に逆手で持ち、構える。

「ここでの行動は無意味かもしれない、だけど、無為ではない。残るは『アマテラス』だけ」
「なるほど、確かに汝の言う通りよ。未だ時空跳躍を掌握しておらぬのに我らは、『火星の後継者』は表に出なければならぬ」
「ユリカさんは必ず取り戻す。そして……」

身を屈め、駆けだすシンジ。

「貴様達を殺すっ! それが、あの人の願いだからっ!!」
「その意気や好し!」

裂帛の声のもと北辰達へと向かうシンジ。
疾駆してくるシンジを北辰は微かに笑みを浮かべて見る。

「されど、この場この時に向かうのは無謀と言うのだ! イカリシンジ、この場は我らの勝ちよ!!」

静かに上を見上げ、

「汝と同じ様に遅れし復讐人にもそう伝えておくことだ――参れっ!」
「なにがっ!!」

ナイフを振るうシンジ。
嘲りの笑みを浮かべた北辰はダンッと床を踏みしめ、一刀を振るった!
鞘を滑り、まさしく放たれたという言葉が相応しい剣閃。
甲高い音が響き渡る。
北辰の一閃を受けるシンジ。
吐く息すら炎と思えるシンジの殺意。
真正面から見返す北辰は、

「いずれ決着をつけよう……」

刀を引かれ体勢の崩れたシンジの腕を掴み、放る北辰。
片手で青年を放るその膂力、恐るべし。
放られたシンジは舌打ちをし、床に足を付き滑りながら止まる。
そして走る振動。
アキトの襲撃による振動ではなく、別の因による振動だ。
それは着実にこの場へと近づいてきて――姿を現した。

「DFがあるとはいえ、艦をコロニーに突撃させるなんて……無茶をする」

着地した時の体勢――膝を折り曲げたままの姿でシンジが見たものは、北辰達が乗る艦。
光はおろか、レーダーにすら反応しない塗料を塗られた漆黒の艦。
北辰の『参れ』という言葉はこれを呼んだのであろう。
それを証明するのはDFの向こう側で艦に乗り込んでいく北辰達の姿。
六人が乗り込み、最後の北辰が乗り込もうとした時、北辰は頭上を見上げて小さく鼻で笑った。
そして今度こそ乗りこみ、艦は動き出す。
無理矢理に艦首を転換させ、DFに瓦礫が当たる。
それを見送るしかないシンジ。
既に時は遅く、艦が『シラヒメ』より離れればすぐにでもコロニーが爆破されるだろう。
逃げ遅れた者がいようと関係なく。
それを止めようにもシンジが持つ武器では歯が立たない。
外へ出た艦を追うとしても追いつくことはサレナの速度を以ってしても難しい。
その事実を理解するが故に、シンジは歯を軋らせて、

「くそっ!!」

拳を床に叩き付けるのであった。

 

 

次々と爆発を起こしていくコロニー。
爆破される直前でシンジからの通信でボソンジャンプを以って爆破の影響外へと現れたサレナとそれを操るアキト。
崩れ行くコロニーを彼は苛烈な憎悪の眼差しで見ている事しかできなかった。

 

 

代理人の感想

・・・・イヤホント、暗い話だと筆が走るよーですねー(爆死)

どーせなら止まっている他の作品の続きをげふんげふん。