前半

Character
名前 種族 職業 性格
イカリ シンジ Human Samurai
ダイゴウジ ガイ(登録名) Human Fighter
テンカワ アキト Human Thief
ミスマル ユリカ Human Priest
ホシノ ルリ Human Mage
イネス フレサンジュ Human Bishop


後半

Character
名前 種族 職業 性格
イカリ シンジ Human Samurai
ダイゴウジ ガイ(登録名) Human Lord
テンカワ アキト Human Ninja
ミスマル ユリカ Human Mage
ホシノ ルリ Human priest
イネス フレサンジュ Human Bishop

 

尚、性格について他意は御座いません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ENTERING PROVING GROUNDS
OF THE MAD OVERLORD

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――二時間前。

爆発炎上し、墜落していく戦闘機。
同時に連合のエンブレムが描かれた落下傘が幾つも舞い降りていく。
そして爆音と共にナデシコに届くのは聞くに堪えない罵声だ。
それを聞くルリが思わずグラビティブラストを放ちたくなるなどあったが――

「そうか。もう、オモイカネの反抗期か……」

――地へと舞い降りていく落下傘を眺めながらシンジは呟くのであった。

 

―― 一時間前。

ウリバタケの私物が収められた汚れきった部屋の中には部屋の主であるウリバタケを含めて7人の男女がいた。
汚れきった部屋ではそれだけの人数が入りきらない為、色々とウリバタケが涙を流す場面などがあったりもしたが取り敢えずは関係無い。

「――で、だ。これから行く先はオモイカネの領域だ」
「それはわかっていますけど?」

まるで苦悶しているかの様な表情をしながらウリバタケが言うとルリがなにを今更と言った表情で言葉を返す。
その後ろではシンジとアキトが難しそうな表情をしている。
なにせ以前はアキトとルリのみで行ったというのに、今回は、

「んで、結局どういう事なんだ?」

腕組みをしたガイと、

「うわぁ、すご〜い」

ウリバタケ作のフィギィアを眺めて感嘆の声を漏らすユリカと、

「あら? 中々面白いわね」

同じくウリバタケ作の怪しい機械を眺めて闘争心を燃やすイネスの姿があるからだ。
どうして気づいたものかと、問いたくなるような面子であるがそれは今更だろう。

「つまりだ、内部はオモイカネの思い通りになる世界という事なんだよ」
「くぅ〜! なんか燃える展開な気がするぜ!」

なんとなく、そう、なんとなく燃えるガイ。
彼の望む展開が待ち受けているかは不明だが、それでも彼は燃えていた。
そんな彼をウリバタケはスパナで殴りつけて黙らせる。

「で、そのオモイカネが誰でも良いから六人で来るようにって、言い出したんだぞ?」
「……面白いコンピューターですね」

洒落っ気があるというか……と後に続けるシンジ。
アキトもまた、うんうんと頷いている。
確かに阻害するものを招くコンピューターなど様々な意味で面白い。

「それじゃあ、丁度六人居る事ですし……パァッと行っちゃいましょう!!」
「ユリカさん……」

溜息を零しながらルリがユリカの名を呼ぶが、当然ユリカは聞いていない。
助けを求めるように傍に居るイネスを見るが、

「……」

無言でナニカを待つ表情をして、駄目だという考えに至る。
そして今度はシンジとアキトを見るが、

「オモイカネの考えがどうあれ、結局は行かなきゃならないんだ。行くしかないさ」
「ああ。オモイカネ自身が招いているんだからユリカじゃないが、丁度良い」

と、言葉を返されてはルリも納得せざるを得ない。

「よぉし! それじゃあ全員これを被れ!」

なんだかんだでウリバタケもこの展開に燃えている。
その指が向けられた先にはヴァーチャルルームで使う例の奴が並んでいる。
どこで工面したものか、人数分だ。
それを被る六人。中々異様な光景だ。

「準備はいいな? それじゃあ行くぞ! あ、ポチっとな」

エンターキーを押すウリバタケ。
――彼等の冒険が始まる。

 

 


 

 

光など一筋も差し込まぬ、真闇の中にシンジは立っていた。
周囲を見回しても誰も見当たらない。
代わりに、

「これは……?」

ウィンドウが現れた。
そこに映し出されているのは 『あたらしい なまえは >        』 という文字の下に50音字の片仮名が並ぶ映像だ。

「……イカリ シンジ、と」

オモイカネの演出かな? と思いながら自分の名前を入力するシンジ。
その通りに名前が並び、画面が切り替わる。
キャラクター名の決定場面を過ぎて、五つの種族が並ぶ。

「……」

にんげん、エルフ、ドワーフ、ノーム、ホビットの五種が。
無言で『にんげん』を選ぶシンジ。
それは訳がわからないという表情ではなく、どこか怖さを感じる表情だ。
そして次に、ぜん、ちゅうりつ、あくと並んだ所でシンジは悩み始めた。
悪と善、どちらを選ぼうか悩んでいるようだ。
そして悩みに悩んだ末に、『ぜん』を選んだ。
次の画面はどうやら数字を振り分ける場面の様だ。
ちから、ちえ、しんこうしん、せいめいりょく、すばやさ、うんのつよさと並び、一段空けて、ボーナス 5、と出ている。

「……」

やはり無言のシンジ。
一番上にある『ちから』に5ポイント全てを振り分ける。
そして現れた文字が『せんし』という文字だ。それを選ぶシンジ。
そして恐らくはこれが最後だろう、『このキャラクタをつかいますか?』という文字が並び、その下に、はい、いいえ、と並ぶ。
が、そこでシンジは『はい』を選ばず、『いいえ』を選んだ。

「最低でも23のボーナスが必要なんだよ」

ワケノワカラナイ事を言って、画面は最初に戻った。
そうして再び同じ様に入力をして行き、数字を振り分ける場面へと至る。
今度は6だ。
再び『ちから』に振り分けてその後の場面で『いいえ』を選ぶシンジ。
そして画面は再び最初に戻るのであった。

 

 

もう、100回は同じ画面が過ぎたのではないだろうか。
延々とシンジは同じ事を繰り返し、遂に――

「よしっ! 25ポイント!!」

拳を握って叫んだ。
そして漸く、『ちから』以外にもポイントを振り分け始める。
『ちから』に15まで。『ちえ』に11まで。『しんこうしん』に10まで。『せいめいりょく』に14まで。『すばやさ』に10まで。『うんのつよさ』に残りを振り分ける。
そうして戦士以外に現れる文字、『さむらい』。
父親を彷彿させる笑みを浮かべながらそれを選ぶシンジ。
そして今度こそは『はい』を選んだ。
今まで光と言えばウィンドウの光だけであった世界に光が満ち――世界が切り替わった。

 

 


 

 

目を開けると目の前にはシンジにとって予想通りの世界が広がっていた。
石造りの家屋。遠くには城が見える。
だがシンジはそんなものに目もくれず、早々に歩き出して一軒の建物の中に入った。
最初に気づいたのはやはりというべきか、アキトだった。
黒い服に身を包んだ姿はなにげに違和感が無い。

「遅かったなシンジ」
「ええ。どうしてもポイントが足りなくって」
「……シンジ、お前、これがなんなのかわかるのか?」

アキトが驚いた表情で訊いた。
シンジは軽く頷き、

「ええ。父親がはまっていたもので。――それでは行きましょうか」

と言う。
唐突なシンジの言葉に着いていけないアキト。
そうこうしているうちに、

「ってシンジ! お前なんだそりゃ!? 俺が選んだ中には無かったぞ!」

ガイが叫んだ。
ガイの姿は鎖帷子に身を包み、剣と盾を持った姿だ。
どうやらガイだけはシンジを待つ間に、この世界に順応したようだ。
が、シンジは眉を顰めて、

「善で戦士、ですか」

と呟く。

「……まあいいでしょう。転職した後なら『どうにでも』なりますし」
「なんだそりゃ?」
「なんだ、って……勿論マーフィーズゴーストを、いえ、なんでもないです」

言葉を切るシンジ。
どうやらガイには聞かせられない話のようだ。
そして、

「アキトさんは悪で盗賊ですか。……『短刀』を入手しましょうね」

と言う。
勿論、アキトにはその言葉の意味など理解できなかった。

「あら? 漸く来たのね」

カウンターに座り、グラスを傾けるイネス。
琥珀色に満たされたグラスに口をつけ、嚥下する。
コク、と僅かに動く喉がどこか妖しく見えた。

「よりにもよって司祭ですか……」

絶望的な表情をするシンジ。

「せめて魔法使いか僧侶で、レベル13以上になったら転職なのに……」

ちなみに僧侶と魔法使いはレベル13でマスターレベル、つまり全ての魔法を扱えるのである。
司祭は全ての魔法を覚えるのが28である。

「まあ、いいでしょう。どうやら『かんてい』を作れないようですし」

後は『あ』さんとか。
作るだけ作ってその金を奪うという、非道な技である。
無論、シンジは実行していた。
良い装備は高いんですよ。

「それで――ユリカさんとルリちゃんは?」
「ああ、ユリカが街の中を見てみたいって言い出してな、ルリちゃんは……目付けだ」

とアキトが答えると、

「アキトォ、凄いよこの中!」
「戻りました」

扉を開けてルリとユリカが姿を現した。
その二人をシンジは一瞥し、

「ユリカさんが善の僧侶、ルリちゃんが善の魔法使い。まあ、パーティーの構成としては悪くないですね」

一人うんうんと頷く。
怪訝そうな表情で見るアキト達などなんのそのだ。

「それじゃあ装備を整えて、今度こそ行きましょう!」

一人、張り切るシンジ。
目指すものは唯一つ。

(例の『ぶき?』を求めて!!)

オモイカネではないようだ。

 

 


 

 

「僕としたことが……」

張り切ってギルガメッシュの酒場を出ようとしたシンジであったが、なぜかアキトとイネスと一緒では外へと出ることが叶わなかった。
ので、装備を整える前に迷宮の中に入り、二人と合流したのだった。

「そうだよ。善と悪の場合、迷宮の中で合流なんだよ」

一人ぶつぶつと呟くシンジ。
怖い。はっきり言って怖い。
他の人間は引いている。

「まあ、取り敢えずは装備も整えましたし、入りましょうか」

そうして漸く迷宮の中に入っていった。

 

 

迷宮の中はどうやら手が加えられているようで壁などがしっかりとした造りになっていた。
だが、それでも薄暗さや不気味さが溢れ、ルリやユリカ、そしてイネスすらも多少の怯えを隠せないで居る。

「くぅ! なんか燃える展開になってきたぜ!! これこそ漢の生きる道って感じだぜっ!!!」
「狂王の試練場、狂王の試練場! バブリースライムから始まって、グレーターデーモンの増殖までっ!! でも、マイルフィックとポイズンジャイアントだけは勘弁な?」
「……ヤバイな。なんか凄く楽しみだぞ」

女性達とは異なって男達はこの随分と馴染んでしまっている。
ちなみに上からガイ、シンジ、アキトの順である。

「マロールを使えれば8・2・8で早々に10階に行くところですが……生憎とまだ使えません」

楽しげな笑みを浮かべながら皆を眺めるシンジ。

「ので、取り敢えずはレベルを上げましょう」
「どうやってだ?」

アキトの言葉にシンジはフッ、と小さく笑い、

「当然、モンスターを倒すんですよ。千里の道も一歩から。狂王の試練場はバブリースライムから」

『けん』をカシャッと鳴らし、シンジはおもむろに歩き始めた。
それについていく五人。
現時点に於いて、オモイカネの事を憶えているのは女性陣のみであった。
――いいのかそれで?

 

 

「このゲームは大体はモンスターの出現場所が決まっています。基本的に扉を開けたら敵と遭遇――そう考えてもらって構いません」

時々、ワンダリングモンスターというのもいますがね、と続けて、

「つまり、この扉を開けると戦いになるということです」

目の前にある扉に手をかけるシンジ。
ふっふっふ、という笑い声がより迷宮の怖さを増させるBGM(演奏者:オモイカネ)をも超えて怖い。
――扉が開けられた。

「はははははは! バブリースライムだよ!! 僕らの糧だよ!!!」

高笑いを上げるシンジ。
其処にはまるで水溜りに色を着けたかのようなモノがいた。

「よっしゃあ! 行くぜシンジ!!」
「なんだか血が高揚してきたぞぉ!」

彼等はそれぞれ笑みを浮かべて剣を引き抜き、襲い掛かって行った。
そして女性陣は――

「なんだか……ついていけません」
「ふぇ〜ん、アキトが壊れちゃったよぉ」
「男って馬鹿ねえ」

と、冷たい反応であった。

 

 


 

 

「ふむ、どうやら毒針の様だな」

敵が落とした宝箱の罠を見定めながらアキトは言った。
現在いる場所は地下二階。この階にある通行用アイテムを回収し終わった時だ。
地下一階でバブリースライムを狩って、狩って、狩りまくってレベルを上げて漸くここまできた。
ちなみにレベルを上げる際にシンジが、

「ロイヤルスィート!? なに言ってるんですか! 歳をとりたいんですか!?」

と叫び、誰とは言わないがとある女性がその言葉に反応して馬小屋に泊まる日々が続いていた。

「よし、解除したぞ」
「まあ、どうせお金でしょう」

そう言うシンジ。
実際中身は金だった。
再び探索を続ける六人。

「けど、最初はなんだか怖かったけど、なんだか面白いね」

ユリカが言った。

「けど、ユリカさんは良いですよ。私なんて戦闘じゃ殆ど役に立たないんですよ? 呪文の使用回数はありますし……」
「あら? それを言ったら私なんて殆ど呪文を覚えてないわよ?」
「イネスさんは鑑定できるじゃないですか」

ルリが不満を言う。
嵌る前兆だ。

「そんな事無いさルリちゃん。ルリちゃんのKATINO……力が無ければ何度死ぬ事になったのかわからないくらいだ」

ちなみにKATINO――カティノは敵を眠らせる呪文である。
序盤はこれが必須だ。

「――シンジ」
「どうかしたんですかアキトさん?」
「なにか音が聞こえる」

会話に参加していなかったアキトが静かに言った。
その言葉に緊張が走る。

「クリーピングコイン……出て来いよぉ」

剣を抜き、構えるシンジ。
経験値を大量に持ちながら雑魚オブ雑魚のモンスターだ。
そして姿を現したのは、

「げっ! ボーパルバニー!!」

LATUMAPIC――敵判別の呪文の効果により、その正体が判る。
そうして判別されたのは……兎だ。
もう、こんな所にいるのが不自然な程に兎だ。

「て、撤退〜!!」

シンジが叫んだ。
それに従い、皆が逃げようとするが、ただ一人、ガイのみが、

「なに言ってるシンジ! 逃げるなんて漢のする事じゃない!!」

と叫び、兎へと向かって行く。

「ヤマダさん、待って! その兎は――」
「ダイゴウジガイだ!!」

シンジの言葉を遮るガイ。
そして、

「あれ?」

と呟き、その首が落ちた。
ゴトン、と妙に大きく響いたその音。

「ガイッ!」

とアキトが叫ぶが無論ガイには聞こえない。

「だからそいつは首を刎ねるって!!」
「LAHALITO!!」

シンジの言葉と同時にルリが叫んだ。
炎が渦巻き、五匹のボーパルバニーを呑み込む!
三匹が焼き払われ、二匹が残る。

「アキトさん!」
「ああ!」

剣を抜き、ボーパルバニーへと向かう二人。

「BAMATU!」

ユリカの言葉が響き渡り、全員のACが下がる。

「KATINO!」

イネスの声が朗々と響き、残った二匹が眠りに落ちる。

「よしっ!」

ブンッと剣が振るわれ、一匹が切り払われた。
アキトも短剣を眠っているボーパルバニーに突き立てる。
シンジが懸念した割には、呆気なく戦闘は終わりを告げた。
ただ一人、懸念の根拠となった犠牲者を残して。

「……」
「……」
「……」
「……」
「……ユリカさん。DIを……試してみてください」

沈黙の中でシンジが言った。
それを聞き、ユリカが驚いた表情でシンジを見る。

「でも、あれは成功率が低いからって、シンジ君が……」
「ええ。だけど――」
「だけど?」

一拍置き、

「ヤマダさんですし」

とシンジは言った。
そしてそれぞれの脳裏を過ぎったのはガイの死というものに喧嘩を売ってるようなタフさ。
シンジは思ったものだ。

(ZILWAN……効いたりして)

不死系の敵を即死させる呪文の事である。
とまれ、ユリカはガイに向けて、

「DI!」

と言葉を言い放った。
そして沈黙が再び訪れる。
誰も言葉を発さぬまま、それを眺め続けていた。

「……」
「……」
「……」
「……灰、だな」
「……灰、ですね」

取り敢えず、DIは失敗した。
それ故、ガイは灰と化した。

「流石のヤマダさんもDIの成功率の低さには抗えなかったという事ですか」
「――で、どうするんだ?」
「……灰を集めて、カント寺院ですね」

結局、今回の探索はこれまでとなるのであった。

 

 


 

 

ささやき――いのり――えいしょう――ねんじろ!!

 

「ぶはあっ!!」

――ガイは、いきかえりました

「オメデトウ、そしてお帰りなさい。ヤマダさん。兎に首を刎ねられた感想を一言――」
「ガイだ! ……あれが兎だなんて詐欺だと思うぞ」
「はい。ありがとうございます」

にっこりと笑いながらシンジは言った。

「取り敢えずは一度迷宮に入って、回復してから休みましょう」

異論があるはずも無く、一同は再び迷宮に入っていった。

 

「DIALMA!」

何回目かのDIALMAを掛けるユリカ。
傷ついた体が癒されていく。

「それでこれからどうするんですか?」

ルリがシンジに訊いた。
その身にDIALMAを受けながらシンジは、

「確か、ルリちゃんのレベルが上がるはずだからね。それでMAKANITOを覚えたら……」
「覚えたら?」
「四階にブルーリボンを取りに行く」

笑みを浮かべながらシンジは言った。

「……なんでリボンなんて取りに行くんだ?」

アキトは訝しげな表情をしながら訊いた。

「エレベーターを起動させる為に必要なんですよ」

エレベーターを起動させるのになぜ、リボンが必要なのかは全くわからない。

「それで10階に行って……」
「10階に行って?」
「モンスターを狩ります。……ウィルオーウィスプあたりを」

一番楽でありながら、経験値もそれなりに落とすモンスターだ。
コツコツとあれを狩り続けた記憶は忘れられない。

「というか盗賊の短刀とか、聖なる鎧を手に入れなければ転職なんてできません!」

盗賊の短刀無しに忍者に転職なんて考えられませんよ! と拳を振り上げて力説をするシンジ。
盗賊の短刀がどういうものか教えられた五人は、

「ああ。お前が言う様に、レベルも下がらず、初期パラメーターにも戻らない――そんなアイテムがあれば」
「つーか、俺は早く君主になりたいぞ」
「私は今度は魔法使いになりたいなあ」
「私は僧侶です。大丈夫です。DIでも復活させられる自信があります」
「ふっ。この鑑定を、説明をできる司祭以外に変わる気は無いわね」

それぞれ勝手な事を言う。
が、シンジもまた、

「僕が装備できる『ぶき?』さえあればグレーターデーモンなんて八つ裂きなのに……」

と物騒な事を言う。
というかシンジの目的はそれだ。
それ以外に無い。

「はい。みんな回復したよ」
「それじゃあ、休みましょうか」

そして地上へと戻り彼等は休む事にした。
やっぱり馬小屋で。

 

 


 

 

一階のダークゾーンを越え、六人は四階へと辿り着いた。

「いいかい? もう一度確認するよ? ルリちゃんはすぐにMAKANITOを掛ける。それで僕とアキトさんとヤマダさんは忍者を攻撃」
「だからガイって言ってるだろうが!」
「ヤマダさん、五月蝿いです」
「忍者は首を刎ねますから気をつけてください」
「ああ、わかった」
「それじゃあ……行きます!」

扉を開けるシンジ。
だが、

「拙いっ! 先制されたっ!!」

凄まじい勢いで向かってくる忍者の姿。
剣を振ろうとするが間に合わない!
そして、

「なんで俺がぁあああ!?」

と叫びながらガイの首が落ちた。
こりゃ駄目だ、と撤退する五人。
ガイの身体が荷物同然に引きずられていくのはどこか滑稽であった。

 

――二回目。

一度は灰になりながらも、なんとか甦ったガイ。
そして再び彼等は挑戦する。

「だから、なんで俺が!?」

そしてガイの首が飛んだ。

 

――三回目。

「……ヤマダさん。貴方、あの忍者になにかしたんですか?」

カント寺院で灰から甦ったガイにシンジは言った。
そう、またしてもガイが首を刎ねられたのだ。

「なにもしてねえ!」

とガイは返すのであった。

 

――12回目。

「……」

涙を流しながらガイは首の無い自分の身体を眺めるのであった。

「……凄い。12回連続で灰から蘇生するなんて」

シンジがどこか呆然とした表情で言った。
あれから何度も忍者に首を刎ねられたガイ。
なぜかガイにばかり向かっていくのだ。
その都度、撤退をするシンジ。
それはなぜか?

(ヤマダさんがいないと僕が指輪を持つしかないですからねえ)

謎な事を考えるシンジ。
けど結構酷いことだ。

「けど、ホント凄いわね。オモイカネが確率を弄ってるのか、それともヤマダ君がトンでもないのか、どちらかしら?」
「考えるまでもありません」
「そうですよぉ」
「ガイ、お前、やっぱ凄いわ」

はっはっは、と陽気に笑いながら勝手な事を言うアキト達。

「やかましいっ!!」

ガイが怒るのも当然と言えたかもしれない。

 

――13回目。

「いいか! 今度こそ倒すんだ! 13度目の正直とも言うしな!!」
「言いませんよそんな事」
「それを言うなら三度目の正直、よ」

ちなみに今、一番前にいるのはガイである。
今までは二番目にいたり、三番目にいたりしたのだが、もう、開き直ったのだ。
そうして、扉を開ける。

「MAKANITO!!」

今度はシンジ達が先制する!
ルリが放ったMAKANITOがメイジとファイターを即死させる!
残るはガイの天敵、忍者。そしてプリースト。
なぜかガイに突進してくる忍者。
その兇刃で13回目の首刎ねを行おうというのか。

「うおぅるぁあああああ!!」

奇声を発し、兇刃を受け止めるガイ。

「そう、何度も何度も首を刎ねられてたまるかっ!」
「……もう、12回も刎ねられたくせに」

ボソリと呟くシンジは無視だ。
とまれ、ガイではないが、『13度目の正直』の言葉通り、なんとか忍者を倒すことが出来た。
ついでにMONTINOで呪文を封じられて無力なハイプリーストも倒す。
そして落とされる宝箱。
アキトが罠を解除し、イネスに手渡す。

「……死の指輪ね」
「……この指輪は持ってるだけでHPが減っていくという凶悪なアイテムです」

イネスを無視し、シンジは説明を始めた。
そんなシンジを恨めしそうに見るイネス。
確かに説明は出来ないが、それでもなんとかかんとかと説明をしたかったのだ。

「ですが――」
「なんだ? 捨てないのか?」

言い淀むシンジにアキトが訊いた。

「――ですが、この指輪はボッタクル……じゃない、ボルタック商店で25万で売れます」
「……」
「……」
「……」
「……」
「なんでみんなして俺を見るんだよ」

そう、彼等はガイを見た。
この、12回連続で灰より甦り、現実世界に於いても理不尽な頑強さを誇る男、いや、漢を。

「ヤマ……ガイさん。貴方しかいないんです!」
「ヤマ……ガイさん。指輪を持ってください!」
「ヤマ……ガイさん。貴方なら大丈夫です!」
「ヤマ……ダイゴウジ君。私が保証するわ。貴方以外にこの指輪を持てる人はいないと」
「ガイ……というか、お前の蘇生で金欠状態なんだ。だから持て」
「アキトはともかく……お前ら、最初の『ヤマ……』ってなんだ!?」

もう、叫ぶしかないガイ。
叫んだところで結局はガイが持つ事になるのだが。

 

 

「不思議だなぁ」

指輪を売る為と休憩をする為に一度街に戻ろうと帰路に着く六人。
そして一階を歩く中でシンジが呟いた。
手元にはそれぞれの能力等を数値化したウィンドウが表示されてる。
今開かれてるのはガイのだ。

「ヤマダさん、本当ならもう、死んでる筈なのに残り1が減らないんですよ」
「うーむ、流石だ」

ナニが流石なのかはイマイチ不明だが、流石だ。

「ホント、興味深いわね。ヤマダ君、後で医療室に来なさい」
「絶対嫌だ」

ヤマダと呼ばれた事もそっちのけでキッパリというガイ。
こんな感じで彼らは街へと戻るのであった。

 

 

「それじゃあ、お金も手に入り、装備も整えてMPも回復しました。……最後の階、10階に向かおうかと思います」

髪の毛についた藁を払いながらシンジは言った。
他の連中も同じ様に藁を払っている。
もう順応しまくりである。

「それじゃあ、行きましょうか。ユリカさん、お願いします」
「うん! LATUMAPIC! MAPORFIC!」

迷宮に入ったらまずこれだ。
そうして彼らはエレベーターを使用し、最深部である、10階へと向かうのであった。

 

10階はその様相からして他の階とは異なっていた。
ただ岩を積み上げたかのような壁。そこら中から凶悪なモンスターの気配が漂っている。

「ここが……最深部か」

ゴクリと生唾を飲み込みアキトは言った。

「なんだか妙に寒くないですか?」
「うん、私もなんだか寒い……」

この階に漂う邪気とも呼ぶべきものにあてられたのだろう。
ルリとユリカがブルリと身体を震わせる。

「……行きましょう」

顔を見合わせてシンジが言った。
コクリと頷く六人。
そして歩を進め始める。

「ワードナーまでの道順は僕が憶えています。ですが、未だ僕らはレベル10です」
「まだ、戦いを挑むには早すぎるということか」
「はい。それに……この階のモンスターは強力ですがその分、経験値とレアアイテムを落とします」
「それじゃあ転職するのに必須のアイテムも……」
「そうか……遂に俺が君主に転職できる時が来るのかっ!」
「盗賊の短刀を入手できれば忍者になれるっ!!」
「経験値を落とすという事は早々にレベル13になれるという事ですね」
「私、早く魔法使いになりたいなあ」

転職に興味の無いイネスと、既に目的の職であるシンジを除いて騒ぎ出す。
そして一つ目の扉の前に辿り着いた。

「準備はいいですね?」
「おう! 早く行こうぜ!!」
「忍者か……クリティカルが遂にできるのか」
「経験値〜経験値〜」
「大丈夫です。アキトさん、シンジさん。死んでも私がDIで、いえ、KADORTOで甦らせますよ」
「ルリちゃん。さらりと不吉な事を言わないでくれ」
「早く全部の呪文を覚えたいわね」
「……さあ、行きますよ!」

扉が、開く。
それはまるで地獄の扉が開けられるかの様な錯覚を感じさせる。
目には見えぬというのに、開けられていく扉よりなにかが溢れ出てくる気がする。
そして開け放たれた扉。

「……………………」

一番前のシンジの長い沈黙。
そして、

「TI、TILTOWAITとブレスは嫌だぁああああああ!!!」

と叫び、勢いよく扉を閉めた。

「酷いよ。反則だよ。マイルフィックとポイズンジャイアントなんてインチキだ」

扉の前に座り込みながらシンジは呟いた。

「平均レベル10の僕らに死ねというのかい? ウィルオーウィスプが基本の筈だろ?」

前途は多難の様だ。

 

 

『盗賊の短刀』編

――せめて忍者らしく――

 

コツコツとウィルオーウィスプを狩り続けてレベルもそれなりに上がってきた。
ルリとユリカはそれぞれ転職し、今はルリが僧侶。ユリカが魔法使いだ。
そして転職した事により、ルリとユリカには五年分の時が加算された。
それに合わせて変わるグラフィック。
ルリはかつての姿に、ユリカも見目が多少大人っぽくなる。
その時のシンジとアキトの台詞。

「――随分と懐かしい姿だ」
「まさか、この時にその姿のルリちゃんと共に居る事になるとはね」

苦笑を浮かべながらそう言った。
ちなみにイネスは転職すると歳が加算される事を知って、絶対転職はしないと心に誓っていた。
――閑話休題。

 

「ルリちゃん! ZILWAN! ZILWAN!! 嫌だぁあ! レベルを下げられるなんて嫌だぁああ!!」

バンパイアを相手にして、というよりは逃げ回りながらシンジは叫んだ。
他の人間も決してバンパイアに触れられぬ様に逃げ回っている。
というかレベルを下げるのは反則だろ。
どれくらい苦労すると思ってるんだ。

「ZILWAN!」

ルリの一声が響き渡り、バンパイアは霧散した。
現れたのが一匹のみで助かったと言った所だ。
そして、ガーディアンである為に落とされる宝箱。
アキトが罠を解除し、中身を取り出す。
ちなみに今更だが、この世界に於いては未鑑定のアイテムはウィンドウ表示だ。
つまりウィンドウが浮かび、そこに文字が浮かぶ。
そう、例えば――

「『たんとう?』……早業の短刀だったら投げ捨ててやる」

この様にだ。
ウィンドウをイネスに渡す(?)アキト。
その表情は必死だ。
なにせ忍者になれるかどうかなのだから。
ちなみにアキトが捨てると言った、早業の短刀――実は結構な値で売れるのだが……。
死の指輪を売った25万がまだまだ残っているので大して金は必要ない。

「イネスさん……どうですか?」

厳かに切り出すアキト。
難しい表情をしながらイネスは口を開いた。

「……やったわねアキト君。これは『盗賊の短刀』よ」
「……よしっ!!!!!」

ガッツポーズをとり、喜ぶアキト。
念願の忍者になれるのだ。
レベルも下がらず、能力値もそのままで。
今や能力値は全て18。
なんの問題も無い。
そしてアキトは『とうぞくのたんとう』のSPを解放する。
この瞬間、忍者が生まれた。

 

「おめでとうございます、アキトさん。それじゃあ、全部外しましょう」

そう言われて防具を外していくアキト。
忍者の真価はクリティカルと普通とは逆に装備を外す事によって下がるACにあるのだ。
とは言っても、未だレベルは10台。
はっきり言って防具を装備していた方がACが下がるのだが……そこら辺は趣味だ。
誰の、とは訊いてはいけない。

「アキトさん、全部外さないと」
「ん? なんだ? 防具なら全部外したぞ」
「いえ、ですから全部ですよ。服も含めて」
「……待て、シンジ」

と言われて待つシンジではなかった。

「なに言ってるんですか!? 忍者は武器はおろか、服も身につけたら駄目なんですよ! 漢だったら裸です! 全裸です! それが忍者の義務です!!」
「ちょっと待てい! 服を脱いでもACは下がらんだろっ!? というか下がってたまるか!!」
「試しもしないでなにを言ってるんですか!? というか僕は絶対忍者は全裸だと思ってますよ!!」

ドタバタと組み合いながら暴れまわる二人。
それを傍から眺める面々は、

「なにやってんだあ?」

とガイはこんな調子だが、

「うわあ、アキトって身体凄く鍛えてるんだぁ……って、ルリちゃん見ちゃ駄目ぇ!!」
「ユリカさん! 後学の為なんです! そう、これは勉強なんです!!」
「さしずめ少し歪んだ保健体育かしら?」

少しなのかは兎も角、三人は二人を見続けた。
必死にアキトの服を剥ぎ取ろうとするシンジ。
同じく必死に抵抗するアキト。
結局、決着はアキトがシンジの首を刎ねようとした所で着いた。
流石にLOSTは勘弁と言った所だろう。

「はぁはぁ。ったくオカシイですよ。忍者は全裸が基本なのに」
「はぁはぁ。オカシイのはお前だ。服を剥ぎ取ろうとするなんて……」

互いに息を荒げている。アキトに至っては服がはだけている。
はっきり言って、妖しい、もとい、怪しい。
とりあえず、アキトは忍者となった。

 

 

『聖なる鎧』編

――皆が君をアイしてる!――

 

アキトが忍者になった事によってだいぶ戦闘が楽になった。
毎回とはいかないが発揮するクリティカル。
どれが首なのか判らないモンスターにもそれは発揮され、まさしく問答無用。

「いいな。うん、なんだか狩った首の数だけシールを貼りたい気分だ」
「くぅ〜! 俺だって聖なる鎧が手に入ればとっとと君主に転職するのに!!」

涙を流しつつ言うガイ。
勿論、聖なる鎧が無くても転職は出来る。
だが、聖なる鎧の無い君主など邪魔だ。
はっきり言って、戦士の方が役に立つ。
というか、聖なる鎧があってこその君主だ。
それの無い君主などさしずめクリープの無いコーヒーはコーヒーではないと言った所だ。
シンジはブラックを好み、飲むが。

「そんな貴方に朗報よ」

『よろい?』を鑑定し終えたイネスが言った。

「まさかっ!?」
「ええ。今の戦闘で手に入ったのは『聖なる鎧』よ」
「うおっしゃああああ!!」

暑苦しくガイは叫んだ。
と言うことで、今回の探索は終わり、転職する為に彼らは街へと戻った。

 

「ふっふっふ。見ろ! この鎧を! まさしく漢の鎧だっ!!」
「……ヤマダさんが『君主』だなんてなんだか悪夢ですね」
「つーか、ガイ。漢の鎧ってなんだよ?」
「兎に首を刎ねられる人が君主、ですか」
「え〜でも12回も灰から蘇生するのは凄いと思うよぉ」
「……鎧ごと彼を医療室に連れて帰れないかしら?」

というかどいつもこいつも酷すぎる。

「それじゃあ、盗賊の短刀を使ったアキトさんとは異なって、レベルは1に、能力値は基本値に戻ってしまいましたので――」
「ああ、レベル上げだろ」
「はい。最早君主に転職したことですし、『アレ』の所に行きましょう」
「アレ?」
「はい。『アレ』です。このシリーズに於ける永遠の友。その名は――」

 

――マーフィーズゴースト

 

――地下一階 某所

「だあ! なに言ってるんだシンジ!!」

ガイの大声が響き渡る。
その声に顔を顰めつつシンジは口を開く。

「ヤマダさん。この世界に於いて善なんてロードになる以外に役に立たないんですよ」
「いや、だからって……」
「最高の武具は悪でなければ装備できないんです! 悪の兜然り、悪の鎧然り、ヤマダさんは聖なる鎧があるからいいでしょうけど」
「なら――」
「でも、それでいいんですか?」

にやり、と笑いシンジは囁く。
それはさながらとある老学者に誘惑を囁いた悪魔の様に。
ちなみに他の連中は既に『狩る』準備をしている。

「最高の装備があると分かったのに、それ以下の装備で我慢できるんですか?」
「うっ……!」
「カシナートの剣、守りの盾、悪の兜、銀の籠手、その全てを装備してみたいと思わないんですか?」
「ううううう……」
「さあ、自分に素直になって。ほら、簡単な事じゃないですか。ただ、これから出る敵を倒し続ければいいだけなんですよ?」
「だけど、そいつは友好的な……」
「だからこそ、『性格』が変わるんですよ」
「ああああああ!!!」
「いつもの様に敵を倒すだけなんです。ヤマダさん、貴方は悪くない。だけど、僕らがこれをクリアするにはその装備が必要なんです」

別にそんな事は無い。
というかBAMATUがあるし。

「……」
「……」
「……」
「……そうか。そうだよな。これは仕方が無い事なんだ。このゲームをクリアするには必要な事なんだよな」
「ええ。このゲームをクリアするには必要な事なんです」
「そうか……じゃあ、仕方ないよなあ」
「はい。仕方が無い事なんです」

にっこりと笑いながら言うシンジ。
なんで、コイツまだ『善』なんだ?
兎に角、Wizフリーク達にある意味愛されるマーフィーズゴーストは哀れ、何度も殺される羽目になったのでした。
嗚呼、どうやらガイは聖なる鎧を手に入れた代わりに別のナニカを捨ててしまったようだ。
で、唆したシンジの言葉。

(もっともヤマダさんの場合、悪の兜しか変化しないんですけどね)

まさしく父親の血を引いている。
そう、思わせる発言だった。

 

 

『TILTOWAIT』編

――核撃発散娘 ホシノルリ 16歳――

 

TILTOWAIT――それは、この世界に於ける最強の攻撃呪文だ。
敵に与えるダメージは10〜100。
他の呪文がどれも100に至らない事と殆どの敵のHPが100を越えない事を考慮すればこの呪文だけで殆どの敵は殲滅できる。
中には呪文無効化率95%という反則なのもいるがそれは置いておく。
僧侶に転職したルリであったが、だからと言って魔法使いの時に覚えた呪文が無くなるということは無い。
レベル7まである魔法使いの呪文をルリは未だ使えるのだ。
そう、この様に。

「TILTOWAIT!!」

眩い光が玄室を埋め尽くす。
爆発が起きたのか、それとも敵を消し去る光のみが発生したのか、それはわからない。
だが、それを起こした者は、

「アキトさんの朴念仁!! TILTOWAIT!!!」

再び閃光が発せられる。
なぜこの階にいるのか分からないマーフィーズゴーストが閃光に呑み込まれ、消える。

「シンジさんの鈍感!! TILTOWAIT!!!」

なんでか連続して出現するモンスター。
今度はマスターニンジャとレベル7メイジが消える。
その光景を傍から眺めながらシンジとアキトは、

「なあ、シンジ。今度からルリちゃんにもう少し優しくしような…………怖いし」
「そうですね、もう少しルリちゃんに優しくしましょう…………怖いですし」

少し、いや、かなり本気で怯えたアキトとシンジであった。

「TILTOWAIT!!!!!」

頑張れモンスターズ。
彼女の呪文使用回数は後僅かだ!!

「僧侶に転職した意味無いよ、ルリちゃん……」

そんな事は無い。
なぜなら、遂にTILTOWAITの、レベル7の呪文制限数が切れた後に襲い掛かってきたモンスターに彼女は――

「MALIKTO!!」

と、僧侶が扱える最強攻撃呪文を唱えだしたのだから。
仲間の回復の為の僧侶じゃないのか?

 

 

『MALOR』編

――埋葬者/その名はミスマルユリカ――

 

ルリがTILTOWAITを連発した為に休む必要があり、彼らは街へと戻った。
そして再び迷宮へと入り、降りた所で止まった。

「それじゃあ、この上なく心配で、この上なく不安ですが……ユリカさん、MALORをお願いします」
「ぷんぷーん! ユリカ、そんな失敗しないもん!」
「……ルリちゃん。やっぱり君がMALORを……いえ、ナンデモナイデス」

TILTOWAITを使いたい為にMALORの使用を拒否したルリ。
流石にシンジもギンッ! と睨みつけてくるルリに抗する事は無理だった。

「座標は分かってますよね? 東に8、北に2、下に8、ですからね」
「なあ、シンジ。やっぱ歩いていかないか?」
「僕もそうしたいんですが……」

ちらり、とルリを見るシンジ。
ルリは弱い敵では発散できません、と言って10階の敵を求めているのだ。
TILTOWAITの餌食にする為に。
なので早く行きたいからMALORを使うように、と言うのだ。
というか拒否すれば自分達がTILTOWAITを喰らいかねない。
だから、この上なく不安なのだ。
せめて。せめて、イネスがMALORを憶えていたら!
彼らは心の底からそう思った。
が、それも虚しい祈り。

「えーと、東に8」
「そういえば、今、何時なんだろうなあ?」

ガイが唐突に言った。

「北に2」

構わず座標を決めるユリカ。
代わりにイネスが答えた。

「ここに来る直前で9時ごろだったかしら?」

最後の座標を決める。

「――下に9!! MALOR!!」
「って時そばかいっ!! 石の中は嫌だぁあああああ!!!!!!」

姿が掻き消えて――

 

 

 

 

 

 

 

いしのなかにテレポートしました!

 

 

 

 

 

 

 

ではなくて、どうやら出発点に戻ってきたようだ。

「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」

誰も口を開かなかった。
というよりは放心して口を開けなかった。
暫く呆然として、おもむろにルリが口を開いた。

「……すいません。今度から私がMALORを使いますので」
「うん……。そうしてくれると助かるよ。でも、今回はもう休もうか……」
「はい……」

実はユリカは敵ではなかろうかと思うシンジであった。

 

 

『LATUMAPIC(?)』編

――人間LATUMAPIC――

 

敵が現れた。
不確定名――『きょじん』
なぜ、LATUMAPICを使っていないかと言うと、イネスが不要だと言ったのだ。

「もはや私はモンスターを見切ったわ! LATUMAPICなんて不要よ!!」

さながら悪の大幹部の様に哄笑を上げながら。

「不確定名:巨人、ね。……分かったわ、フロストジャイアントね」
「おお〜」

驚きの声を上げるシンジ。
本来は自動で判明するか、LATUMAPICを使わなければ判別できないのだが、彼女なら出来かねないと思ったのだ。
なにせ、イネスだし。

「レベル:1 HP:51〜58 AC:6 ダメージ範囲:3〜30 特殊攻撃:無し 抵抗:呪文無効95% 冷 死:72%」
「はあ、凄いですねえ」

最早達観してしまったシンジ。
どうやったらそこまで分かるのだろうかと思うが、やはり、イネスだし、で終わってしまう。
そして正体が判別された。

「あの、イネスさん。あれってフロストジャイアントじゃなくって……」
「MAKANITO!!」

唐突に呪文を唱えるイネス。
巨人系の敵が簡単に死んでいく。
巨人系――ポイズンジャイアントが。

「――とまあ、この様に巨人系に関しては即死呪文が良く効くわ」
「あれってポイズン……」
「なにかしら?」
「だからあれってポイズン……」
「なにかしら?」
「ポ、ポイズン……」
「なにかしら?」
「い、いえ。なんでもありません……」

とりあえず……怖かった。

 

 

『MURASAMA BLADE!』編

――1981――

 

「HAMAN!!」

ユリカがHAMANを唱えた。
三つの選択肢が現れ、迷わず『まものをだまらせる』を選ぶ。

「はっはっはっはっは! これで怖れるべきは毒と麻痺のみ! さあ! 仲間を呼べぇ!!」

邪悪に顔を歪めながらシンジはグレーターデーモンに叫んだ。
その言葉に呼応したかの様に仲間を呼ぶグレーターデーモン。
3体から4体、4体から5体、と仲間が増えていく。
それを首を刎ねたり首を刎ねたりチクチクと攻撃したりで狩る、シンジ達。
それを何度か繰り返しているとその流れが止まった。
グレーターデーモンは仲間を呼ばず、MADALTO等を繰り返す様になってきたのだ。
ちなみにこのグレーターデーモンの唱える呪文は既にDILTOまで落ちてる。

「っだあ! 仲間を、仲間を呼ばんかぁ!!」
「首を刎ねさせろぉおおお!!」
「……」

シンジとアキトの性格が豹変している。
ちなみにガイは麻痺と毒を喰らって、後列に下がっている。

「DIALKO!」

ルリの声が響き渡り、ガイの麻痺が癒され、

「LATUMOFIS!」

ユリカの声が響き渡り、毒が癒される。

「BAMATU!」

イネスはBAMATUを唱え、全員のACを下げる。
というか暇なのだ。
前衛の誰かが毒か麻痺を喰らうまではやることが無い。

「仲間を呼ばないグレーターデーモンはグレーターデーモンに非ず!」
「くぉうらあ! なんで一体しかいないんだ! 俺の新必殺技! ガイ・スーパー首刎ねが使えないだろうが!!」
「向こうに言え! 向こうに! 仲間を呼ばないんだよ!!」

身を守って仲間を呼ぶのを待つ三人。
封じられてるくせにさっきから直接攻撃か呪文攻撃を使いまくってくるグレーターデーモンに怒り心頭だ。
で、なんとかグレーターデーモンを狩り続けて、DIALKOとMADIが切れてこの戦闘は終わった。
――今回の戦果:約250万の経験値でした。

 

 

沈黙の帳が降りていた。
誰もがイネスが持つ『それ』を見ている。
そして誰よりもシンジがひたむきな目を向けている。

「イネスさん……」

ゴクリと唾を飲み込み、シンジは訊いた。
そして厳かに口を開くイネス。

「これは……」
「これは?」

もったいぶった言い方をするイネスに早く言えよと言ってやりたいシンジ。
というか何度か鑑定に失敗してるだけだが。

「これは……『MURASAMA BLADE!』ね」
「……」

無言で拳を握るシンジ。
そしてイネスよりそれを受け取り、掲げる。

「来たぁあああああ!!」

刀身を眺めながら哄笑を上げる。
少しアッチ側に足を踏み入れてるようだ。

「これが……これがMURAMASA BLADEか」

刀身を舐めかねないシンジ。
だが、そんなシンジを裏切るかの様に、

「あら? 違うわよ? 『MURAMASA BLADE』じゃなくって『MURASAMA BLADE!』」
「は?」
「だから『MURASAMA BLADE!』」

そしてシンジは、

「ってアップル版かよっ!?」

理解できる人が少ない台詞を言いながら、吼えた。
「裏切ったな!? 僕の期待を裏切ったんだ!!? アキトさんの持つ手裏剣(同じ『ぶき?』表記)みたいに僕の期待を裏切ったな!!」
更に銀髪の誰かさんが敵になった時の様に吼えた。

「ちなみにダメージは1で固定。攻撃回数は0ね」
「なんじゃそりゃああああ!?」

聞け。この悲痛な叫びを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の父親は言った――

「シンジ、『MURAMASA BLADE』を手に入れるのだ」

――と。

 

 

 

 

 

 

 

 

――って、そんなわけないじゃん。

 

 

 

 

 

『MURAMASA BLADE』編

――狂王の試練場――

 

「ムラマサがぁ、ムラマサが出ない〜。僕のムラマサァ……」

幽鬼の如き足取りでモンスターを狩り続けるシンジ。
最早全員レベルは70を越えると言うのに、未だワードナーのところに行ってない。

「なあ、シンジ。そろそろ行かないか?」
「なに言ってるんですか!? ムラマサがまだ出てないんですよ!?」
「いや、でもムラマサ無くても倒せるだろ?」
「嫌だぁあああ!! ムラマサが見つからないなんて嘘だァああ!!」
「おーい、シンジく〜ん」

何年ぶりかに君付けでシンジを呼ぶアキトだが、シンジには届かない。

「というかアキトさん達は良いですよ!」

ちなみにアキトの装備、無し! 忍者に装備など邪道だ。というか服も邪道だろ?
ガイは、カシナートの剣、守りの盾、悪の兜、聖なる鎧、銀の籠手、回復の指輪。
で、シンジはというと、悪のサーベル、悪の盾、悪の兜、悪の鎧、銀の籠手、回復の指輪。
防具はシンジの悪の盾を除き、最高装備であるが、唯一つ、武器が最高ではないのだ。
まるで何者かが計ったかのように、『悪』装備に身を包んだシンジ。
まあ、相応しいと言えば、相応しい。

「ムラマサを持たない侍なんて意味が無いんですよ! ムラマサがあってこその侍! それがない侍なんて邪魔なだけです!!」

吼えるシンジ。
全員顔を見合わせて、コクリと頷いた。

「さ、行くぞシンジ」
「シンジさん、もう行きますよ」
「おら、シンジ。早く悪の大魔王を倒しに行くぞ」
「シンジ君、早く行かないとユリカ怒っちゃうぞ」
「もう諦めることね」
「嫌だぁああああ!! ムラマサが見つからないのに行くなんて嫌だぁああああ!!!」

涙を流し、駄々っ子の様に足と手をばたつかせるシンジを引っ張って、アキト達は最後の玄室へと向かうのであった。

 

 

「――よく来たね」

最後の玄室で彼等を迎えたのは、ワードナーの姿をしたオモイカネであった。
長い髭、つまり老人の姿と口調に違和感ありまくりだ。

「オモイカネ……」
「ムラマサムラマサムラマサムラサマムラマサムラマサムラマサムラマサムラマサ……」

アブナイシンジは放って、ルリが万感の想いを込めて呟く。
途中からオモイカネの事など忘れていたけど。

「語るのは後だよ、ルリ。――今、僕はワードナーなんだから」

そして、戦闘が始まる。

 

たたかう
たちさる

 

と二つの選択肢が現れた。
それを見たシンジは一時『MURAMASA BLADE』の事を忘れて呆然とする。

「ゆ、友好的なワードナーなんて初めてみた。……やっぱこれってアップル版?」

FC版です。

「じゃなくって、オモイカネ! ムラマサを寄こせぇええええええ!!!!」

一人で突進していくシンジ。
慌ててその後を追うアキトとガイ。
敵の数は全部で3。
オモイカネことワードナー。バンパイアロード。バンパイア。

「ZILWAN!」

ユリカの放ったZILWANがバンパイアロードを滅ぼす。

「ZILWAN!」

ルリの放ったZILWANがバンパイアを滅ぼす。

「MONTINO!」

イネスが唱えたMONTINOがワードナーの呪文を封じた。

「TILTOWAIT!」

ワードナーはTILTOWAITを唱える。
しかし、直前のイネスのMONTINOで封じられていて、発動しない!
そしてシンジが切りつける。
よろめくワードナー。
ガイがクリティカルを狙うが、流石だ。
こういう時に外すのは大したものだ。
やはり締めは主人公なのか。
アキトが、

「終わりだ! ワードナー!!!」

ノリノリでワードナーの首を刎ねた!!
目を見開き、落ちていく首。
あまりにも、あまりにも呆気ない最期であった。

 

 

「あーもう疲れたぜ」

背を仰け反らせながらガイは言った。
あの後、MALORで迷宮より脱出した5人。
一階の階段を上ると、スタッフロールはでなかったがオモイカネがクリアおめでとうといつものウィンドウで迎えた。

「そういえば、オモイカネ。どうして私達が入った後に連合に従った振りをしたの?」

そう、アキト達が入った直後にオモイカネは連合のプログラムに改変された振りをしたのだ。
その為、連合側は最早、オモイカネは自分達の思い通りになると確信して帰った。
その理由を問うルリ。
それに対して、オモイカネは、

『一度、やってみたくって――丁度良い機会だったから』

と答えて、ルリ達は盛大にこけた。

「そんな理由かいっ!?」
『……楽しくなかった?』

ツッコミを入れるアキトにそう、返すオモイカネ。

「いや、そんな事は無いが……」
「すっごく楽しかったね! アキト!」

本当に楽しそうに言うユリカ。
実際、彼女は楽しげだった。

「それより――」

唐突にイネスが口を開いた。
今まではアキト達を傍観していたのにだ。

「――それより、オモイカネ。なぜ、年齢の設定を現実のままにしたのかしら?」

途端、シン、となる五人。
なんだか触れてはイケナイものに触れてしまったかのように。

『……』

無言を表す文字を映して、オモイカネはウィンドウを開く。
そこには――

『個体認識をスムーズに行う為』

となんだか言い訳っぽい言葉が表示される。

「……」
「……」
「……」
「……」
「ゲームに忠実なら私は10台だったのに……」

イネスより離れる四人。
下手に口を出せば改造されかねない。
が、10台に戻ろうとは神をも恐れぬというかなんというか……。

「そ、それよりオモイカネ、シンジはどうなんだ?」

この圧し掛かる空気に耐えかねてアキトが訊いた。
イネス以外の三人がアキトを勇者の様に見る。
オモイカネも渡りに船とでも言うのか、ウィンドウを出した。
それに映し出されたのは――

『ムラマサァ……ムラマサァ……』

とさながら亡者の様に迷宮内を徘徊するシンジの姿。
ムラマサァ、と呟きながらモンスターを倒していくその姿に彼らは、
アア、遠イ所ニ逝ッテシマッタンダナア、と遠い目をする。

『どうしよう、ルリ……?』

オモイカネが問うてくる。
全員の視線がルリに集まり、ルリはただ一言。

「――デリートしちゃいましょうか?」

と言った。
全員、同時に頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムラマサはどこだぁあああああああああ!!!???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――彼がこの後に『MURAMASA BLADE』を手に入れたかは定かではない。

 

 

 

 

 

 

完!!

 

 

 

管理人の感想

皐月さんからの投稿です。

・・・・・・・・・・・そうか、今WIZで遊んでるんですね、皐月さん(苦笑)

それにしても、性格の設定が(汗)

シンジは見事に壊れてますしねぇ。(言ってる事は納得できますけど)

アキトも本編の姿が嘘のようですな。

唯一、女性陣だけが、何も変わっていなかったような気が(笑)

 

 

 

 

ガイの運の強さ ’1’ でしょ?