ACT:3

 鉛色の空の下、灰色の大地を大小数十台の車両群が土煙を上げて驀進していた。
 戦車に装甲車、輸送用のトラックに四輪駆動車、さらには車両やヘリの燃料を輸送するタンクローリーまで随伴し、腹に抱えた人員は非戦闘職も含めれば100人は軽く超える。戦闘職はどれも高グレードの武器装備を身につけ、第一世代プレイヤーに率いられた見るからに精強な部隊。
 人類解放戦線の主戦力として何十回、何百回という戦闘を切り抜けてきた猛者たち、その先頭を行く装甲車の銃座から上半身を突き出して、ゴーリィは地平線の向こう、あと数十キロの距離まで近付いたユートのホームがある方向を睨みつけていた。
 ユートに今回の監視役として同行させたピアニーが、奴の元から戻って4日が経っていた。
 話を聞いたゴーリィは、まずピアニーの情報が本当である事を確かめるために偵察ヘリを出した。そして耕作地発見の報が齎されると即座に部隊を編成し、耕作地を奪いに乗り出した。
 偵察と部隊の編成に1日、そして荒野を進軍すること3日。ゴーリィ率いる解放戦線の部隊はまもなくユートのホームへと達しようとしていた。最寄のホームから足の速い車でも片道2日半はかかる距離であり、ピアニーの脱走からはこの時点で一週間ほど経っている。
『こちらアヘマル。間もなく合流するぜ』
 通信機からアヘマルの声が聞こえ、ゴーリィは全隊に停車を命じた。
 程なく彼らの頭上を、ヘリ十数機の編隊が爆音を上げてフライパスしていった。ゴーリィの本隊から2日遅れでホームを発ったヘリ部隊だ。大きく旋回して速度を落とし、地上への着陸態勢に入りつつある。
「ここに陣を張り、ホーム攻略にかかる。戦闘部隊は装備を確認して休息を取れ。補給隊は車両とヘリへの燃料と弾薬補給を急げ」
 ゴーリィはテキパキと指示を出す。ヘリは武器弾薬をフルに積んだ状態でそう長くは飛んでいられない。空荷の状態で戦場近くまで飛び、そこに設けた補給拠点で補給しつつ戦うのが最も効率的だ。そのために補給用の車両を含めた本隊を先行させて出発した。
 タンクローリーからホースが伸ばされ、着陸したヘリや、同じくらいに燃料をバカ食いする戦車がエサに群がる家畜のように集まって燃料と弾薬を食っていく。大型兵器というのはとかく運用にコストと手間がかかる代物であり、物資のやりくりはボスであるゴーリィにとって頭の痛い問題だ。リアルのミリタリー関係に詳しい奴の話ではこれでも相当簡略化されているというから恐ろしい。
「しっかし、今回は随分むさっ苦しい顔ぶれが揃ってるもんだな」
 リアルの軍人の苦労を想像していたゴーリィに、アパッチを降りたアヘマルが声をかけてきた。
「作戦中にまた『イベント』が起きても困るからな。今回は第二世代を使わずに攻略する」
 ゴーリィは今回の作戦において、参加するプレイヤーを第一世代だけで固め、解放戦線に所属する第二世代を全員部屋へ監禁させてある。『イベント』――――つまり第二世代の反逆がユート一人に留まらず、他の第二世代にも広まる事を懸念したためだ。
「第一世代を前面に出して死傷させるリスクは避けたかったが、今は仕方がない」
「大丈夫ですって。どうせ防壁も未完成で、まだ防衛戦なんてできっこないホームやから」
 第二世代を使わない事のリスクを懸念していたゴーリィに、楽観的な事を言ったのはピアニーだ。彼女はこの手柄でドンペリ――――レア度の高いアイテムである上等な酒が報酬として支払われ、幹部プレイヤーの小隊に配置換えとなっていた。
 即物的な性格で、丸一ヶ月戻って来なかった事からユートに取り込まれた懸念もあったが、偵察結果は彼女の証言と一致しているため、今のところ言葉に嘘はないと見られていた。
「イベントねえ……」
 アヘマルは思うところがあるように苦笑を浮かべたが、ゴーリィは無視した。今は無駄な議論をしている場合ではない。
「まあイベント云々は置いとくとしてだ。降伏勧告とかはしないのか?」
「既にした。今のところ返答はない」
「強情張りやがって……でもな、こっちにも手があるぞ。おい!」
「はい。……ほら、こっちへ来い!」
「放しなさい! 一人で歩けるわ!」
 アヘマルがNPCの一人に命じると、それはどういうわけか両手を縛って拘束したツバキを連れて来た。
「ツバキだと? 何のつもりだ。アレをつれて来いなどと誰が言った?」
「この子を人質に使えば、ユートたちは戦わずに降伏するだろ」
 アヘマルは卑怯な事を口走っているようでその実、戦わずに降伏させて穏便に済ませたがっていた。
 気持ちは解り――――たくない。
「無駄だろう。アレも結局はNPCだ。この事態もストーリーテラーが作成し、発生させたゲームのイベントに過ぎない」
「……だから降伏や和解の余地などあるはずもない、って?」
「ゾンビの襲撃と同じだ。イベントが起きた以上、それを正規の手段で攻略するしかあるまい」
 今更考えるまでもない当たり前の事を説いたゴーリィへ、アヘマルは困ったような目を向ける。
 するとピアニーが「せやせや」と大仰に頷いた。
「7番ホームを出たあと、ユートはんたちみんな様子がおかしくなってしもてな。みんな目の死んだゾンビみたいやったわ。今までのユートはんたちはもうおらへんのやろなって感じで――――」
「ピアニーさん! いい加減な事を言わないで!」
 突然大声で怒鳴ったツバキに、ピアニーは「おおう!?」とのけぞった。
「ユー君は私たちのために解放戦線を抜けた! 私たちも生き延びられると思って付いていった! みんな自分の意志で行動したはずよ! それをあなたたちは――――ぐ!」
 聞くに堪えず、ゴーリィは続くツバキの訴えを首締めで止めた。
「あまり余計な事を喋るな。他のNPCのメンタルにいらぬ影響が出かねん」
 ギリギリと手に力が入り、ツバキは呼吸ができず苦しそうにもがく――――というモーションを取る。「お、おい」とアヘマルが困惑気味に言ったが、ゴーリィは構わなかった。
「自分の意志? NPCが人間である事を主張でもするつもりか、気色の悪い。アダマスの残した悪影響は深刻だな。なまじNPCを人間扱いなどするから、こんな風に変な学習をした連中が出る。その結果があれだ。あの時その場にいたお前なら、よく解るはずだがな」
「……関係ないわ、あんな人。私たちは――――」
 その言葉を遮って、ブウウウウウウッ! とクローン牛の鳴き声に似た重低音が響き渡った。
 部隊に加えていたLAV−AD自走対空車両が25ミリバルカン砲を射撃し、空へ延びた火線が紙飛行機のような飛行物体を絡め取る。飛行物体はそのまま穴だらけになって墜落した。
「偵察ドローンだな……ユートのか?」
「ふん。奴らも一戦交えるつもりはあるようだな」
「チッ……ユートの坊主め。勝てるわけないのが解らねえのかよ」
 苦々しげに呟くアヘマルが期待していたのは、ユートたちが降参してくれる事か、それとも逃げてくれる事だろうか。
「余計な感傷は捨てろ。我々はただプレイヤーとしてイベントを攻略し、乗り越える。それだけの事だ」
「それだけの事だとか言いながら、なんて顔してんだお前」
「?」
 言われて、自分の顔に触れてみる。……無意識にだろうが、口の端が歪んでいた。
「ユートの奴を殺せるのがそんなに嬉しいかよ。そんなにあいつが憎いのか?」
「……」
 ユートは使える戦力だ。だからせいぜい使い潰すつもりで役立ててきた。
 だが今ユートがローグプレイヤーとなり、敵として公然と殺せる立場になった事を、ゴーリィは心のどこかで喜んでいた。たかがゲームキャラ相手に大人気ないというべきか――――あるいはゲームキャラだから、その程度のモノに自分たちの希望を壊されたのが許せないのか。
 懊悩するゴーリィの前で、補給を終えたヘリ部隊が回転翼を唸らせ、再び空に舞い上がる。
 第一次攻撃が、いよいよ始まろうとしていた。


 人類解放戦線の先鋒として投入されたのは、空中機動部隊。プレイヤーとNPCの全員が『ラベリング』スキルを見につけ、ヘリから降下して敵地に乗り込む戦術が可能な精鋭揃いの部隊。先の31番ホーム攻略戦でも活躍した猛者たちだ。
 彼ら20人を腹に抱えたCH−47、チヌーク輸送ヘリの前方には、護衛のAH−1S、コブラ攻撃ヘリの3機編隊がミサイルとロケット、機銃弾を満載し、解放戦線の先鋒として空を驀進していた。3機のコブラを駆る3人の第一世代プレイヤーは、これまでも3人チームで幾多の戦闘に参加して大いに戦果を上げ、解放戦線では『コブラの3羽カラス』で通っている歴戦のプレイヤーたちだ。
 変わり映えしない灰色ばかりの景色に、やがて鮮やかな緑色が見えた。ユートたちのホームと耕作地だ。事前のブリーフィングにあった情報の通り、非常に大きな耕作地でありながらそれを囲うべき防壁さえ未完成のまま、住居や作業場が剥き出しになっている無防備極まるホームだ。
『対空砲もミサイルも見当たらないな。いいカモだぜ』
『これで食糧不足ともおさらばだな。ローグのユート様様ってか』
 ヘリパイロットのプレイヤーたちは、無線で口々に楽勝だと言い交わす。今まで何度となくホーム攻略戦に参加してきた彼らにしてみれば、目の前のこれは戦闘というより作業にしかならない。その程度のホームにしか見えなかった。
 と、そんな彼らの目に発砲炎(マズルフラッシュ)の光が見えた。
『ん? 発砲炎を確認。一時方向、住居の屋根の上だ』
 木材を組み合わせただけの単調な真四角建築の住居、その上に数人の武装した人間が立ってヘリに向けて発砲していた。遠くて誰かは判別できないが、ユートではあるまいとパイロットたちは思った。位置取りも攻撃も稚拙すぎる。
『ばっかでー。あんな距離で撃って当たるわけないし、当たったところで痛くも痒くもないぞ』
『一応ミサイルっぽいの持った奴もいるな。接近前にロケットで吹っ飛ばしてやれ。畑には当てるなよ』
『あいよ。ハイドラロケット発射』
 編隊の先頭を行くコブラの一機が、スタブウィングにぶら下げたハイドラ70ロケット弾のポッドを住居へ向ける。空しく発砲していた連中が慌てて逃げ出し、その次の瞬間には発射された十数発のロケット弾が住居を粉々に粉砕した。
『敵沈黙。他に敵は見えない』
『よーし。歩兵を下ろせ』
 悠々とホーム上空でホバリングしたヘリ部隊は、コブラが周辺を警戒しつつ、チヌークが後部ランプドアから2本のロープを垂らして歩兵を降下させ始める。
『見ろよ、養鶏場があるぞ。クローン鶏がいる』
『俺たちがトウモロコシ粥で我慢してた頃に、あいつらはチキンかよ……』
『終わったら一羽くすねて、ローストチキンにして食おうぜ』
『俺は照り焼きがいいな。ちくしょう、想像しただけで涎が――――』
 鶏肉の皮算用をする声は、突然響いた雹が降り注ぐような音にかき消された。
『被弾した! どこからだ!?』
『左だ! あいつら畑の中に穴掘って隠れてやがった!』
『発砲炎は重機関銃だ! 何発も当たったら落ちるぞ、動け!』
『降下中の歩兵が狙い撃たれる! 奴らを排除してくれ!』
『ロックオン警報だ! ミサイル来るぞ、フレア出して回避――――!』


「俺らのホームへようこそ、先輩方! 今までの養育費利子付きで返してやるよ!」
 チヌークが歩兵を降下させ始めたタイミングを見計らい、カモフラージュシートを取っ払ったユートはM2重機関銃のトリガーを押し込む。今までの鬱憤をありったけ叩き付ける勢いで放たれる12・7ミリ弾がチヌークから垂直ロープ降下していた最中の歩兵たちを貫き、歩兵たちがバラバラと落下して地面に叩き付けられる。
 この一ヶ月の間、ユートたちもただ食糧生産にかまけていたわけではない。時にはフィーアたちと共同で廃墟を探索したり、NPC隊商と取引したりして武器を集め、戦力の整備にも努めていた。解放戦線と戦う事を視野に入れなくても、この世界で生きていく以上は当然の事だ。
 それら武器を扱うのは、第二世代プレイヤーがユートを含めて3人と、カエデたち戦闘職NPCが10人。これだけでは人手不足甚だしいので、仕方なく非戦闘職の中からも肉体年齢15歳相当以上で、多少でも武器を扱える者を選んで戦闘に参加してもらった。拒否権は与えたが、誰も拒否する者はいなかった。どのみち負ければ終わりだと、誰もが理解していたのだ。
 これにより加わった12人の非戦闘職NPCは三つの小隊に4人づつ配置され、ユートのブレイブ小隊も3人から7人に増えた。といっても非戦闘職を加えたところで解放戦線の全力攻撃を受ければ負けは見えているので、ユートは奴らが無傷で手に入れたがるだろう畑の中にタコツボを掘り、誘い込んで各個撃破する策を取った。怪しまれないように配置した囮部隊は無事を祈るばかりだ。
「コブラの3バカに攻撃させるな! ミサイルで撃ち落とせ!」
「発射します!」
 ユートの隣でカエデが91式携帯型地対空誘導弾、通称ハンドアローを構える。ロックオンを報せるビープ音が鳴り、カエデがトリガーを引くと同時に他のタコツボに隠れていた小隊からもミサイルが打ち上げられる。コブラはミサイルを欺瞞する囮弾、フレアをばら撒いて回避を試み、何発かのミサイルが騙されて空中爆発する。
 だが一機がミサイルに捕えられ、爆発。火達磨となって地上に落ちたコブラが巨大な炎を吹き上げる。
 一方、大きく旋回してミサイルを回避した2機のうち1機が機首をユートとカエデのほうへ向ける。まずいと思ったその時、コブラのテールローター部分でダメージエフェクトが散った。
「サクヤ……!」
 畑の中でギリースーツを着て伏せたサクヤが、AP弾でコブラを撃っている。攻撃に気付いたコブラが旋回して射線を外そうとするが、サクヤの射撃は一発一発が正確にテールローターを射抜き、やがて耐久力を削り取られたそれが破損。姿勢を保てなくなったコブラが回転し始め、ホームの外れに不時着していく。
「誰か、あの不時着したコブラのパイロットをふんじばっとけ! 聞きたい事がある!」
「最期の1機もミサイルで……っていけない、ご主人様伏せてーっ!」
 カエデが次のミサイルを用意しようとした刹那、僚機を落とされて頭にきたコブラによる激烈な機銃掃射とロケットによる面制圧が始まった。もはや畑の被害もお構いなしの攻撃に、ミサイルでコブラを狙っていた別の小隊が吹き飛ばされるのが見えた。
「ご主人様、レイヴン小隊が……!」
「解ってる! くっそ、M2がイカれた!」
 ユートは毒づく。ヘリに有効なM2が壊され、おまけにチヌークからは残った歩兵が降下を終えようとしていた。
「このままじゃ押し切られるか……カエデ、降下した歩兵に制圧射撃! 5秒だけでいい、奴らの頭を下げさせろ!」
「りょ、了解!」
 カエデが武器をM249に持ち替え、降下した歩兵隊へフルオート射撃を始める。どんな熟練した兵士でも、銃弾が雨あられと飛んでくる中で身を隠さずにいられる奴はいない。それを利用して頭を下げさせるのが機関銃による制圧射撃だ。
 敵が物陰に隠れた刹那、ユートはタコツボを飛び出してEXOスーツの出力全開で疾走する。5秒後、カエデは忠実にそのタイミングで射撃をやめ、歩兵隊は弾幕が切れた隙を見逃さず反撃に出ようと立ち上がって銃を構え――――
「とあっ!」
 その瞬間、地面を蹴って跳躍したユートの靴底が一人のNPC兵の頭を踏みつけた。「あがあっ!?」と痛そうに呻いたそいつを踏み台にして二段目の跳躍をしたユートは、離脱しようとしていたチヌークのロープを掴んでよじ登りキャビンに乗り込む。機首へ向けて走るユートにパイロット――第一世代プレイヤーだ――が気付き「こ、この野郎……!」と拳銃を向けてくるが、それが火を噴くより早くACRの銃身で弾いて逸らす。
「おらあ、このヘリよこせーっ!」
 そのまま顎に肘打ちをぶち込み、計器版に頭を叩きつける。気絶したパイロットをサイドドアから機外へ放り出し、完全に機体を乗っ取ったユートはしかし舌打ちする。
「ああくそ、武器はないか……」
 チヌークにも機関銃装備のバリエーションはあるので期待したが、どうやら非武装の機体らしかった。ならばとユートは操縦席に乗り込み、機首を暴れ回るコブラのほうへ向ける。ニアミス警報がうるさく鳴り響き、コブラのパイロットが驚いた顔を向けてきたのが見える距離まで接近した刹那、ユートはサイドドアから外に飛び出した。
 瞬間、背後で巨大な激突音。側面からチヌークに突っ込まれたコブラが胴体から真っ二つに割れ、両機共に炎上しながら墜落する。
「ヘリが落ちた! ご主人様がやったわよ!」
「おいらたちも行くぞ! 仲間の仇だ!」
「もうお前らの言いなりにはならないぞ! 死ね!」
 ヘリが全機撃墜され、カエデや他の小隊が一気に勢いづいた。カエデのバスタードソーが唸りを上げて敵兵を叩き切り、サクヤの狙撃が一人また一人と敵兵を撃ち抜き、今まで解放戦線の下で酷使されてきた第二世代とNPCたちが怒りの限りに銃撃を浴びせる。その攻勢に抗しきれず、降下部隊は大半が倒され、残りは両手を挙げて降伏した。
 一方ヘリを2機纏めて落としたユートだが、自身も無事ではすまなかった。五点着地で衝撃を逃がそうとしたが、それでもしたたか地面に身体を打ちつけていた。
「ご主人様、大丈夫ですか……!?」
「痛てて……大丈夫、骨折はしてない……!」
 駆け寄ってくるカエデに、ユートは手を振って無事を示す。
 と、そこへ手錠で拘束された第一世代の男が引きずられてきた。サクヤの狙撃で不時着したコブラのパイロットで、名前は覚えていないがトンチンカンのカンと呼んでいた奴だ。
「おい、カン。正直に答えろ」
「……おれはカンじゃねえ」
「ツバキ姉はどこにいるんだ?」
「知るか」
 その言葉を聞くなり、カエデが無言でバスタードソーの斧を振り下ろす。右手首を叩き切られ、「ギャーッ!?」と悲鳴を上げてカンが転げまわった。
「殺されたくなかったら正直に言え! ツバキ姉はどこだ!?」
「あああ、あのNPCなら、ボスと一緒に後方の補給拠点にいる!」
「……ゴーリィも来ているんだな」
 来ているだろうとは思っていた。複数の小隊が参加する大規模戦では、ゴーリィは自分や他の第一世代が死ぬのを恐れて危険な役は第二世代任せだが、ほぼ毎回現地で指揮を取り、旗色が悪くなれば自分でも戦う。今回もここに来ているはずだ。
「……も、もういいのか? だったら早く治療してくれ」
「ああ、もういいよ」
 ズドン。
 カンの眉間に弾をぶち込んで黙らせ、ユートは「四駆は出せるよな?」とカエデに訊ねる。ツバキ、あるいはゴーリィの居場所が解った時、ユートはそこへ向かうため四輪駆動車をホームの一角に隠しておいた。そこへ向かおうとしたユートをサクヤが止める。
「ユート、独りでゴーリィと戦う気?」
「当たり前だろ。お前たちはみんなを……」
「ゴーリィの傍にどれだけの戦力がいるかは未知数。第一ユートは相手が両親の仇だからと気が逸りすぎ」
 危険が大きすぎる、私情で皆を危険に晒すなと、サクヤの態度は非難気味だった。
 確かに、両親の敵であるゴーリィは自分の手で殺したいし、この役は誰にも譲りたくない。私情が入っているのは否定できないが、
「だったら、他に手があるか? このまま戦うのは論外。逃げるにしてもヘリに追撃されれば終わり。ゴーリィがいる限り、奴らは俺たちを逃がさないぞ」
 ここでゴーリィを倒し、解放戦線を混乱させる――――戦力差で勝ち目がない現状、私情を抜きにしてもそれが最善手であり、先鋒のヘリ部隊が全滅した事で主力の地上部隊が向かってきているはずの今が、ゴーリィの周囲にいる敵が最も少なくなるだろうタイミングでもあった。
 それが解らないサクヤではないはずだが、それでも行かせたくないのか唇を噛んで押し黙る。
 サクヤは後でフォローしておこうと、ユートは皆へ向き直った。
「みんな、後を頼む。塹壕に篭って損害を減らしつつ、少しでも持ち堪えてくれ。やばいと思ったらすぐ逃げ――――ってあれ、カエデ?」
 最期の指示を出そうとし、つい先ほどまで隣にいたカエデの姿がない事に気付く。
 その時車両のエンジン音が響き、ユートははっとしてそちらを振り向いた。どういうわけか、四輪駆動車にカエデが乗り込み、エンジンを始動させていた。
「何やってんだカエデ!? 車を止めろ!」
「ゴーリィと戦うのは任せてください、ご主人様! 必ず勝って、ツバキ先輩を連れて帰ってきますから!」
「バカ野郎、それは俺のセリフだ! 止まれカエデ! 止まれ――――!」
 ユートの静止も聞かず、カエデはアクセル全開で走り去ってしまった。
「なんでだよ!? 何考えてるんだよ!?」
 この大事な時に突然独断専行したカエデの考えが解らず、ユートは彼女の走り去った方へ叫ぶ。カエデがユートの命令を無視して勝手に動くなど、今まで一度もなかったはずだ。
「……カエデは、ユートをゴーリィと戦わせたくない」
「それは解るけどさ……もう少し俺を信じてくれてもよくないか……?」
 要するに、カエデはユートではゴーリィに勝てると思えないから自分で行った、とサクヤは言いたいのだろうか。
 だとしたらがっかりだ。カエデは自分を信じてくれると思ったのにとユートは落胆したが、サクヤは「それは違う」と首を横に振った。 「勝てる勝てないの問題じゃない……」
「ならどういう問題なんだよ!?」
「…………」
 ユートの問いに、サクヤは沈黙してしまう。答えられないという事なのだろうが、その煮え切らない態度が余計にユートを苛立たせた。何か理由があるならはっきり言ってほしい。
 だがこれ以上問い詰める暇はない。サクヤを置いてカエデを追いかけようとしたが、残っているのはトラック2台。本来はここで戦っている皆を撤退させるために残したものだ。これを使わなければカエデを追えないが、そうなれば残された皆は撤退の足を失ってしまう。
 この状況下で、トラックを使ってカエデを追うか否か判断に窮し、数秒間逡巡したのはユートの未熟さゆえだったかもしれない。
 だがその結果として、ユートは命拾いした。ひゅるるる、という聞き慣れた迫撃砲弾の飛翔音を聞いて、「隠れろーっ!」と叫び塹壕に身を隠す事ができたからだ。直後に砲弾はトラックに命中し、2台共に宙を舞ってひっくり返る。乗り込んでいたら確実に瀕死だったろう。
「ああくそっ! トラックが……!」
 決断の遅れが幸いして助かったユートだが、危なかったと喜ぶ気にはなれなかった。
 これではカエデを追うどころか、皆を逃がす事もできない。迫撃砲でトラックを狙い撃つような器用な真似はまず不可能だから、ただただ運が悪かった。
「ユート、敵が来る……!」
 サクヤが切羽詰った声で言う。塹壕から顔を出すと、すでに4両の戦車を中心とした地上部隊が土煙を上げ、鉄の壁のように迫ってきていた。
「ちくしょうめ、ここで戦うしかないのかよ……!」
 完全に作戦が破綻した。もう独力で立て直すのは無理だろう。
 ――悪い、みんな。全滅するかも……
 諦めるわけにはいかないと解ってはいても最悪の想像が頭をよぎり、ユートは心の中で皆に詫びた。



 猛烈な砲撃音が響き始め、カエデは右後ろを振り向いた。
 ユートたちがいるホームへ迫撃砲が連続して撃ち込まれ、爆炎と土砂が高々と舞い上がっている。そこへ解放戦線の地上部隊が大挙して押し寄せていくのが見え、カエデはぐっとハンドルを握る手に力を入れ、奥歯を噛み締めた。
「ごめんなさいご主人様、生きていればお叱りでもお仕置きでも受けますから……!」
 あそこにユートや皆を置き去りにしてしまった事が、今更のように胸を締め付ける。
 それでもカエデは、ユートを行かせる事ができなかったのだ。
「ご主人様を、ゴーリィとは戦わせられない……!」
 いい装備を手に入れた今、ユートなら戦えば勝てるかもしれない。逆に自分が勝てるかと言われれば、勝てると言い切れるほどの自信はない。
「それでも、ご主人様はわたしが守ってあげたいの……!」
『健気だねえ。しかしそう思うなら降参したほうがあいつのためだぞ?』
 突然通信機から聞こえてきた、聞き覚えのある男の声――――カエデの心臓が危険を感じて跳ねた瞬間、頭上を巨大な影が爆音と共に通り過ぎた。
「ロングボウアパッチ……! アヘマル先輩!?」
『おうよ。一ヶ月ぶりだな。その様子じゃゴーリィと独りで戦う気みてーだが……』
 悪いが行かせねーよ、と旋回したアパッチは、カエデから見て右斜め後ろの位置で併走してくる。昆虫の複眼じみた機首のガンカメラがカエデを睨み付け、それと連動した胴体下の30ミリチェーンガンもぴたりと砲口を向けてきた。
『いい装備手に入れたみてーだが、お前さん独りじゃあゴーリィに勝てねえよ。ましてやあいつは敵に容赦しねえ。戦えば殺されるぞ?』
「やってみなきゃ解らないでしょう……!」
『んなこと言って、お前さんが死んだらユートはどうなる? 親父もおふくろもいなくなってお前さんまで死んだら、あいつ悲しむぞ? 俺だってあいつが泣くのは見たくねえ。つうわけでこれ以上行くなら力づくで止めるぜ』
「そこまでご主人様の事を大切にしてくれるなら、どうしてわたしたちの好きにさせてくれないんですか!」
 カエデたちはただ、平和に安定して暮らせるコミュニティーが欲しいだけだ。少なくとも今、解放戦線に敵対する気はない。
 ユートも親の仇討ちより仲間を生かす事を優先させていたのだ。ピアニーが裏切って解放戦線を呼ばなければ――――あるいは解放戦線がここに来なければ、ここで静かに暮らす事もできたのに。
 だがアヘマルは『好きになんてさせられるかよ!』と声を荒げる。
『お前らが新しいコミュニティーを作れば、その分世界の統一が遠くなる! 俺が、俺たちが、リアルに帰れなくなるだろうが!』
「……結局それですか。前から言いたいと思ってましたけど、世界の統一なんてできると本気で思ってるんですか!?」
『…………ッ!』
「そんな途方もない目標を達成するより、あなたたちが寿命でポックリ逝くほうが早いに決まってます! そもそも世界の統一を果たせばゲーム終了なんて、根拠もなければ証拠もないでしょう!」
 そんなあやふやな目標にすがって、終わりのない殺し合いを続けるなどくだらない――――前から思っていたが怖くて言えなかった本音を盛大にぶちまける。
「そもそもわたしたちNPCや第二世代には、帰るリアルなんてない! そんなものに付き合わされる理由もないんです! だから――――」
『じゃあ教えてくれよ! 世界の統一がダメなら、オレたちゃどうすりゃリアルに帰れるんだ!? 教えてくれやこの世界の住人さんよ!』
「それは……」
 今度はカエデが答えに窮する番だった。
 そんな事、知っているならとっくに教えている。そして第一世代のいなくなったこの世界で、自分たちの好きに暮らしている。
『オレのリアルの家の事、お前らには話したっけか?』
「……確か食堂を経営しているんでしたね。とんかつの美味しい店だと」
『おうよ。親父とおふくろが二人で切り盛りして、俺が手伝いして……俺は高校卒業したら親父の後を継いで、商売広げてやるなんて言ってたもんさ』
 それは子供らしい見栄だったが、同時に切実な目標でもあった。アヘマルがこの世界に捕らわれる一年前、父は身体を壊して働くのが難しくなり、以来母が独りで食堂を切り盛りしていたからだ。
 本当は料理の専門学校に進みたかったが経済的な事情で諦めるしかなかった彼にとって、家業の食堂を継ぐ事が唯一残された目標であり、彼が夢を諦めた事を泣いて詫びた父を救う手段でもあった。だがこの世界に捕らわれた事で、それさえ叶わなくなったのだ。
『あれから30年だぞ? もう親父どころか、おふくろだって生きてるかどうか解らねえ。二人とももうとっくにくたばってるんじゃないかとか、食堂ももう無いんじゃないかとか、親父とおふくろはゲームの世界に行ったきり帰らなくなったオレを恨んで死んでいったんじゃないかとか……考えただけで気が狂いそうだ!』
 普段の飄々とした彼の態度からは想像もつかない、血反吐を吐くようなアヘマルの叫び。それはリアルに残してきたかけがえのない物を取り戻したいという切実な訴えだ。
 アヘマルのそれを聞いたのは今が初めてだが、だいたいそんな事だろうとは思っていた。NPCや第二世代を躊躇無く捨て石にする傍若無人な第一世代も、裏を返せば大抵このような帰りたい切実な理由を持っている。逆に言えば切実な理由があるからこそ、彼らは強硬な『統一派』として飽きもしないで戦い続けられる。
 アヘマルが妻も子も作らず、この世界に一線を引いていたのもそういう事なのだろう。彼自身はユートやカエデたちに人格があるのを認めてくれる、今の解放戦線では貴重な類の第一世代であっても、その理由がある限り敵になる。
『他の方法なんて何も思いつかないだろ? だから頼りなくても世界の統一に賭けるしかないんだよ! オレたちはどんな強いコミュニティーか相手でも、ストーリーテラーがどんな鬼畜難易度のイベント起こしても絶対に負けやしねえ! そのためにお前らの力と耕作地が欲しいんだよ! だから――――無理矢理にでも止めさせてもらうぜ!』
 その言葉に本気の敵意を感じ、カエデは咄嗟にハンドルを切る。瞬間、ズドドドドドッ! と右横で30ミリ砲弾が着弾する土埃エフェクトが、砲弾の威力を示して数メートルは舞い上がる。
 アヘマルの気持ちが切実なのは理解できる。カエデだってユートと別の世界に閉じ込められたなら何が何でも帰ろうとするだろう。
 だからこそ譲れない。アヘマルはともかく、既に何人もの第一世代を手にかけたユートをゴーリィや他の幹部連中が許すとは思えないし、食糧不足に陥っている今の解放戦線では非戦闘職NPCが戻れば間引かれるしかない。アヘマルが全てを守ってくれるとも期待できない現状、降伏は死と同義だった。
「わたしだって……守りたいんです!」
 一発でも致命的なアパッチの射撃を懸命のハンドル操作でどうにか避けつつ、カエデは上体を捻って右腕一本で構えたM249を射撃する。ささやかな抵抗だ。軽量化されたSPWタイプとはいえ、重い軽機関銃の片腕射撃では反動制御もまともにできず、狙いはまともに定まらない上にアパッチの装甲には大した傷も付かない。
『終わりだよ、譲ちゃん』
 アヘマルは動じる事も無く言い放ち、その瞬間射撃が止む。
 ――武装を切り替えた……!
 全身にぞわりと寒気が走る。チェーンガンで止めるのは諦め、ヘルファイアー対戦車ミサイルをロックオンしてきたと肌で感じた刹那、カエデは四駆を捨てて飛び降りていた。
 次の瞬間、スタブウィングにぶら下がったミサイルが発射され、一瞬で四駆に食らいついたそれが爆発――――その余波でカエデも吹き飛ばされ、数メートルは地面を転がった。
『そいつを捕まえろ、殺すなよ!』
 そこへアヘマルの命令を受けた3人のNPC兵が、たちまちカエデを取り囲んでくる。抵抗も空しく武器を奪われ、地面に組み伏せられた。
『悪いが人質になってもらうぜ嬢ちゃん。お前さんを人質にすればあいつも降伏してくれるだろ』
「そんな事……ご主人様の足手まといになるくらいなら……」
『自殺するとか言うんじゃねえよ? あいつを悲しませるだけだぜ。それに……早くしねえとユートどころか、皆殺しにされちまうぞこりゃ』
 アヘマルの言葉に、はっと顔を上げる。
 ユートたちがいるホームへの攻撃は、一層激しさを増していた。


 執拗なまでに続いた迫撃が終わり、ユートたちが塹壕から顔を出すと、周囲の光景は一変していた。
「ああ、畜生! くそったれ、畜生……!」
 盛大に悪態をつく。みんなで苦労して耕した畑が、収穫前の作物が、砲撃に抉り取られて見るも無残なクレーターになっていた。覚悟はしていたが、ここまで悔しいものだとは正直思っていなかった。
 ゴーリィはヘリ部隊の壊滅を見て、畑を無傷で手に入れる事に拘るのはやめたのだろう。それよりも第一世代の死傷を避けて、確実にユートたちを殲滅しにかかっている。
「ユート、来る……先頭に戦車が4、それと装甲車や歩兵がたくさん……!」
 MK12のスコープを覗き込んだサクヤが、彼女らしからぬ上ずった声で告げる。
 地均しの砲撃が終わり、多数の戦車と装甲車を擁する解放戦線の主力が土煙を撒き上げ、大地を揺るがして殺到してくるのが裸眼でも見える。さながら鉄の壁が迫ってくるような威圧感を前に、他の小隊には怯えて頭を抱えたまま、塹壕の中で小さくなっている奴もいた。
 大規模戦闘の基本は、砲兵が耕して歩兵が収穫する……いつか聞いた言葉が頭に浮かぶ。今畑の中に陣取っている自分たちが収穫されようとしているのは何の冗談だろう。
「でもな。俺たちが黙って収穫されると思うなよ。噛み付いてやる……!」
 折れそうになる戦意を声にする事で奮い立たせ、ユートは迫り来る解放戦線の部隊を睨む。
 先頭を進む4両の戦車は、全てM1A1だ。リアルのアメリカ軍が誇る第三世代MBTであり、その劣化ウラン複合装甲の防御力と120ミリ滑空砲の攻撃力は折り紙つき。間違いなく解放戦線の機甲戦力の中心たるそれを率いているのはゴーリィの腰巾着である第一世代プレイヤーで、ユートも面識はあるがとにかく傍若無人で嫌な奴だった。
「あと5メートル……4……3……2……1……ゼロ!」
 ユートのカウントがゼロになった瞬間、M1の1両が爆発を起こして停止した。地雷の爆発だ。中の乗員は生きているだろうが、キャタピラを損傷したあれはもう動けないだろう。
 ホームの周囲、北から西にかけての一帯には対人のほか、戦車砲弾と起爆装置でクラフトした対戦車地雷など数百個の地雷を埋めてある。本当はホームを囲む形で設置したかったが、時間も数も足りなかった。地雷のない方向がある事はバレない事を祈るしかない。
 とはいえ一つ地雷があれば、敵としては地雷原に踏み込むのは躊躇せざるを得ない。さすがの解放戦線も前進を停滞させる。
「今だ、撃て! 弾はケチるな!」
 解放戦線の足が止まったところにユートたちの攻撃が始まる。RPG−7やパンツァーファウスト、ありったけの対戦車火器が惜しげもなく発射され、後方からは非戦闘職の迫撃砲も撃ち込まれて何台かの装甲車が火を噴いた。脱出した兵はサクヤが狙撃し出血を強いる。
 当然、解放戦線の側も黙ってはいない。戦車、そして装甲車の強力な火器が容赦なく叩き込まれるが、塹壕に篭っていればそうそう致命傷は受けない。ユートも、他の連中も砲撃で巻き上げられた土砂を被りながらも生きている。
 このまま持ち堪えられそうに思えたが、その時「あれは……!」と誰かが空を指し示した。
 見上げると、3発のミサイルらしき飛翔体が解放戦線の頭上を飛び越えてくる。ミサイル攻撃かと思いきや、それは空中で蛇のように分解し、倒れこむような形で地雷原の只中に落ちた。
 次の瞬間、それらが一斉に爆発。地雷原を横断するような形で地面が抉り取られる。
「地雷原処理ロケット……!」
 ワイヤーで連結した複数個の爆薬で、地雷原に安全な道を作る兵器だ。こんな使いどころの限定される兵器を持ってくるあたり、ゴーリィが抜かりなく準備した上で攻めて来ているのが解る。
「敵、複数個所から突入してくる……!」
「先頭車両の足を狙え! 狭い道だ、先頭の奴が止まれば後ろの奴らも止まる!」
 地雷原に開いた3ヶ所の道を通り、戦車を前に出しつつ解放戦線の部隊が突入してくる。ユートたちは懸命な応戦でM1戦車1両のキャタピラを損傷させ動きを止めたが、そこまでが限界だった。地雷原を超えた残り2つの部隊が歩兵を展開させ、数十の銃口から嵐のような射撃が襲い掛かる。
 それだけでも絶望的な状況だが、そこへ追い討ちをかけるように再びヘリの羽音が響き始めた。
「近接航空支援(CAS)かよ……! 贅沢な戦争しやがる!」
 現れたのはAH−6、キラーエッグの編隊だ。ユートたちの頭上を飛び越え、後方の迫撃砲陣地にロケットと機関銃の掃射を雨のように浴びせる。ユートが警告する間もなく迫撃砲が破壊され、さらに逃げ惑うNPCたちが餌食になっていく。
「みんな逃げろ! 装備は放棄していい! ……誰か、あいつらを追っ払え!」
『自分が撃つ』
 サクヤが蹂躙をほしいままにするヘリ部隊に向けて発砲しようとする。
 だがこの時、地雷原の向こうで動けなくなっていたM1戦車が、まだ生きているその砲口をサクヤに向けていた。
「サクヤ、狙われてる! 移動しろ!」
『……っ!』
 息を呑む気配と同時に、M1戦車の120ミリ砲が吼え――――サクヤの姿が爆炎の中にかき消えた。
「サクヤァっ……!」
 通信機が沈黙し、ユートはサクヤが瀕死となった事を悟った。一刻も早く救出に行かなければサクヤが死ぬが、行けば確実に戦車とヘリの餌食になる。
「もうダメだあ、みんなやられる!」
「ああ、私が死んだら子供たちはどうなるの……!」
「こん畜生っ! 死ぬ前に一人でも多く殺してやらあ!」
 皆の絶望的な叫び声が、ユートの胸を抉る。
「くそっ……」
 ユートは奥歯が折れそうなほど強く噛み締めた。ここまでついて来てくれた彼らに、ユートはまだ何も帰せていない。勝てないのならせめて彼らを逃がす方法を考えるべきだが、空をヘリに抑えられていたのでは逃げる事もできない。
「負けるもんか……!」
 無駄と解っていても、ユートは吼え、ACRを撃ち放つ。
 父と母の仇をまだ討っていない。まだやっていない事だってある。まだ待ってくれてる人たちだっている。
 自分なりに考えた作戦のはずだった。全力を尽くしたはずだった。最後まで諦めなかったはずだ。
「こんな所で……負けてたまるかよ―――――――!」
 絶叫するユート目掛けて、M1戦車が突進してくる。巨大なキャタピラが目の前まで迫り、踏み潰そうとしてくる。
「父さん、母さん……!」

『何をしている。死ぬにはまだ早いのではないか?』

 死ぬと思ったその時――――聞き覚えのある声と共にどこかから飛来したミサイルが、戦車の脆弱な上部装甲を貫いた。
「どわあああああああああっ!」
 命拾いしたユートだったが、爆発の余波で盛大に吹き飛ばされる。
 いったい何が、と空を見上げたユートの視界の中、いいように暴れまわっていたキラーエッグの編隊がやはりミサイルに捕えられ、撃墜された。それと入れ替わるように轟音を上げて飛来したのは、ヘリよりも早く、鳥を思わせるフォルムの飛行兵器――――
『タァリホオオオオォォォォォォォ!』
『ヒャッハァ――――――――――! でかい耕作地に獲物がいっぱいだー!』
 2機編隊で飛来したそれは一瞬でユートたちの頭上を飛び越え、白い飛行機雲の尾を引いて旋回し、呆然と空を見上げる解放戦線の部隊へ機銃を掃射して再び通り過ぎる。対空砲が撃ち上がるもヘリより遥かに高速なそれを捕らえきれない有様で、去りしなに通信機からやたらとでかい声を撒き散らしているのはパイロットか。
「F−5E、タイガー2……!」
 ジェット戦闘機だ。当然ながらその機動力はヘリの比ではなく、攻撃力も高い。タイガー2は戦闘機としては小型の部類だが、戦場に出せばたちまち敵側のヘリを駆逐する事も可能なだけの力がある。
 反面、貴重な燃料をヘリの数倍はバカ食いし、飛び立つためには資材と時間と手間を相当費やして長大な滑走路を整備する必要があるなど、運用するのは容易ではない。ゴーリィはその運用コストの高さを嫌ってヘリの数を増やす事に力を入れていたため、ユートもあまり見た事がない。
「北! 上見ろ! ヘリや装甲車まで来やがった!」
「あのエンブレム……L&Pだ! 何でこんな所に!?」
 ボロボロになった戦闘職たちから驚きの声が上がる。
 タイガー2を先鋒に乱入してきたのは、L&Pの大部隊だ。突然の奇襲にさすがの解放戦線も慌てふためき、そこへ狂喜の声と共にL&Pが切り込んでいく。
「今のうちに……!」
 ユートはこの機を逃すまいと塹壕から飛び出し、倒れたままのサクヤの元へ走った。死亡カウントは残り一分を切ろうとしていて、間に合った幸運を神に感謝したい気持ちで蘇生アイテムを注射する。
「サクヤ、無事か……!」
「ユート……これは?」
「ああ……! あいつがやったみたいだ!」
 歓喜するユートたちの通信機から、その時先ほどの声が聞こえた。
『どうやら間に合ったようだな。無事か?』
「タイミング計ってなかっただろうな……ありがとう助かったよ!」
 声の主――――どこかから様子を見ているのだろうフィーアに向けて、ユートはなげやりに礼を言う。
「フィーア。そっちはうまくいったの?」
『おや、何の事だ?』
「とぼけんな。最初から利用するつもりだったんだろ?」
 若干苛立ちを込めたユートの言葉に、フィーアはふっと鼻で笑った。
 フィーアが去っていく時の、『私やピアニーが何を考えているか、もう少し疑う事だ』という言葉。疑うべきだったという過去形でないその言葉は、フィーアが策を弄している事を示唆する言葉とユートは受け取った。
 フィーアはユートたちの下を去った後、L&Pに戻ってこの耕作地の情報を伝えたのだろう。丸一ヶ月行方不明だった事も含めて相当怪しまれただろうが、ヘリを飛ばして確認すれば信じるしかない。そして解放戦線もこの耕作地を狙っている、とでも吹き込めばL&Pは大部隊を動員する。そうして手薄になったホームから家族を連れ出すのは、フィーアなら難しくはなかったろう。
『おかげさまでな。弟も仲間も全員連れ出せた。今は安全な場所で待機している』
 感謝しているぞ、とフィーアはしゃあしゃあとした調子で言った。ピアニーが裏切り、解放戦線が攻めてくる状況をうまく利用して利益に繋げたのは見事だが、体よく囮というかエサにされたユートとしては面白くない。
 それに、ユートたちにとって手離しで喜べる事態でもなかった。皆は「いいぞ! やってくれ!」「畜生! うれしいじゃないか!」と援軍が来たかのようにL&Pの部隊へ喝采を上げていたが、その攻撃が自分たちにも向けられ慌てて頭を下げる羽目になった。
『解っていると思うが、奴らは貴様たちにとって援軍などではないぞ?』
 フィーアに言われるまでもなかった。L&Pは味方ではなく、解放戦線同様にこのホームを狙って攻めてきた敵。敵同士潰し合ってくれる分にはいいが、勝った側の銃口は次にユートたちへ向けられ、それを撥ね退ける力は既に満身創痍のユートたちにはない。
「どっちが勝ってもこのホームと耕作地は俺たちの物にはならない……逃げるしかないわけだな」
 最初からそれしかなかった、と言ったほうが適切かもしれない。ピアニーがツバキを人質に取らなければ、こうして戦うまでもなく逃げていただろう。
『だが、ここで解放戦線とL&Pを共に消耗させればどちらも脱走者を追うどころではなくなり、私たちも貴様たちも後の憂いなく新天地へ旅立てる。貴様たちは混戦に乗じて脱出しろ』
「そうさせてもらうよ。……みんな、瀕死の奴を蘇生させて撤退しろ! フィーア、こっちは脱出用の車両がパーだ。トラック2台でいいから車両を貸せ。あんたの思惑に乗ってやった分は返せよ?」
『よかろう。装甲車の護衛付きで貸してやる』
「ありがとよ。非戦闘職のみんながいる合流ポイントに向かってくれ。案内はサクヤにさせる」
『貴様は……ああ、まだやる事があるか』
「俺は残った用事を済ませてくる」



 L&Pによる横槍は解放戦線に手痛い打撃を与えてはいたが、決して予想外の事態ではなかった。
「ヘリ部隊は全機、一時安全圏へ退避しろ。瀕死になったプレイヤーの救助はカヤックとレインボードクトルの小隊に任せる。それ以外の小隊は応戦しつつ後退。作戦はプランBに移行する。想定内だ。落ち着いてやれ」
 淡々と指揮を取るゴーリィに焦りの色はない。少なくとも表面上平静を保てる程度には余裕があった。
 そもそもユートがL&Pのフィーアと行動を共にしていた事は既知の事実であり、L&Pの介入も想定されていた。さすがに戦闘機まで投入してくるとまでは予想していなかったが、各小隊は事前に決めていた作戦に従い、態勢を立て直して応戦を始めている。
 さらにゴーリィは補給拠点の守備隊から対空車両を割き、主力部隊の援護に回して戦闘機を牽制させた。ここからL&Pの最寄ホームまで500キロはあり、そこから戦闘機を飛ばしてきたとして、戦場に留まれる時間はせいぜい数分だろう。L&Pも虎の子の戦闘機を燃料切れで失いたくはないはずで、少し耐えれば引き上げるはずだ。
 戦闘機さえいなくなれば、ヘリで制空権を取り戻せる。あとはいつも通り。十分勝てると踏んでいたゴーリィは、しかし密かに歯軋りしていた。
 ――ユートめ。奴も私を罠に嵌めるか。
 つくづく忌々しいNPCだと思う。所詮ゲームキャラクターのくせに、リアルの親子のような類似性を感じざるを得ないこの状況が、ゴーリィの心をかき回していた。
「ヘリ一機接近。コブラ3番機、帰還してきます」
「了解し……何?」
 対空警戒に当たっていたNPCの報告を危うく聞き流しそうになり、ゴーリィははっと顔を上げた。
 コブラの3番機……コブラの3バカ連中の搭乗機だ。つい先刻奴らは先鋒として突入し、全機撃墜されたはずだった。
「馬鹿者、あれは敵だ! 撃墜しろ!」
 ゴーリィに一喝され、護衛小隊のLAV−AD自走対空車両が慌てて砲塔を旋回させる。
 向こうも気付かれた事に気付いたのか、コブラがミサイル攻撃を避けようと高度を下げた。そこにLAVの25ミリバルカン砲が咆哮し、コブラが赤い火線にたちまち絡め取られ、派手な被弾エフェクトが散る。
「ふん。あれで奇襲のつもりか。……ぬ?」
 稚拙な奇襲を退けたと思ったゴーリィの目が、警戒に細められる。
 LAVのバルカン砲で蜂の巣にされたはずのコブラが、何故か止まらないまま突き進んでくる。確実に中のパイロットも瀕死になって、操縦できるはずがないのにだ。
 まさかと思い双眼鏡で確認すると、案の定と言うべきかコクピットに人影がなかった。
 ――無人で突っ込ませる気か!
「スティンガーを私に寄越せ!」
 傍にいたNPCからスティンガー携帯型対空ミサイルをひったくる。ロックオンしている暇がもうない。タイミングを計った上で構えてすぐに撃つ。
 直撃。コブラの機体が爆発四散し、「よっしゃあ!」「さすがボス!」と周囲のNPCやプレイヤーから歓声が上がる。さすがのゴーリィもほっと安堵の息をついた。
 途端、LAVが爆発を起こし、砲塔が数メートルは上に吹き飛んだ。
「何だ!?」
「対戦車ロケットだ! 敵が――――!」
 間伐いれずに銃弾が飛来し、不意を突かれた護衛小隊がバタバタと倒される。
 咄嗟に装甲車の陰に隠れて銃撃を避けたゴーリィがORIGIN12を手にし、応戦の構えを取ったその時、彼は自分の名を呼ぶ怒りの声を聞いた。

「ゴーリィィィィィィィィィィィィィッ!」

「ユート……!」
 やはり貴様かと、ゴーリィもまた憤怒に相貌を歪める。
 この忌々しいNPCは、もっと早く始末しておくべきだった。


 サクヤたちをフィーアに預け、不時着したカンのコブラを突貫で修理して飛び立ったユートは、解放戦線とL&Pの戦場を突っ切ってゴーリィの元へ向かった。
 こんなものでゴーリィを欺けるとは、最初から思っていない。ユートはコブラの操縦桿を固定してまっすぐ飛び続けるようにし、あわよくばゴーリィたちの元に突っ込むようにしたところでコブラから飛び降りた。飛び降りる瞬間は被弾エフェクトで隠され、ゴーリィと護衛小隊はヘリが無人である事に気付くのが一瞬遅れる。
 その隙を突いて護衛の装甲車を対戦車ロケットで破壊し、邪魔な取り巻きはACRの銃撃で倒していく。
 ――ツバキ姉は……カエデはどこだ……!?
 2人の姿を求めて視線を巡らせるが、先に向かったカエデの姿はない。戦った様子もないのを見ると途中で足止めされたようだった。ツバキの姿も見当たらないが、恐らくはどれか車両の中か。
 ツバキを盾にでもされるとまずい。その前に終わらせてやるとユートはゴーリィに狙いを定め、3年間抑えていた怒りを解き放つように叫ぶ。
「ゴーリィィィィィィィィィィィィィッ!」
 この男は……ゴーリィだけは、今ここで殺す。
 父と母の仇を討ち、この男の支配を完全に断ち切る――――!
 EXOスーツの運動力強化と、元々の運動力を併せたステータスが生む瞬発力で一気に肉薄し、ゴーリィが隠れる装甲車を跳躍で飛び越えつつ上から射撃する。さすがのゴーリィも3次元的な動きに一瞬回避が遅れ、1発か2発は手ごたえがあった。
「っ!」
 それも束の間、ゴーリィはすぐさま体勢を立て直し、ORIGIN12をぶっ放してきた。一発でも食らえば危険な高威力の散弾を横っ飛びで避け、自身が破壊し炎上しているLAVの陰に隠れる。
 ――大したダメージはないか……!
 予想はしていたが、ゴーリィが身に付けるコンバットドレスは強固だ。特殊戦闘服でも防御力に秀でた型で、強化セラミックの防弾プレートで全身を保護するそのデザインはまるで甲冑を思わせる。重いため運動力にマイナス補正がかかるが、グレード6のACRでも容易には貫けない防御力はデメリットを補って余りある。
 確実に仕留めるには接近する必要があるが、下手に近付くのはリスクが高すぎた。EXOスーツは運動力をプラスする反面防御が頼りなく、ORIGIN12の散弾を食らえば一撃死しかねない。その必殺の弾丸が、丸型ドラムマガジンから20発セミオート連射されるのだ。まともに突っ込めば結果は見えている。
 まずはあの銃をなんとかしないとと思い、3年間考え続けたゴーリィの攻略法を思い出そうとするユートだったが、そこへ横からの銃撃が襲ってきた。まだ護衛小隊のNPCが残っていたのだ。
「邪魔すんじゃねえよ!」
 仕方なくそちらへ応戦する。だがユートの注意が護衛小隊に向いた刹那、すぐ近くに何かが投げ込まれる音がした。
 ――しまった、スタングレネード!
 咄嗟に飛び退こうとしたが、起爆のタイミングを完璧に計った上で投擲されたそれは地面と転がるとほぼ同時に、強烈な爆音と閃光を発して炸裂。ダメージはないが、数秒間は目と耳が利かなくなる。
 これは致命的な隙だ。今ゴーリィは装甲車の残骸を迂回してORIGIN12の射線を確保しようとしているはずで、今撃たれたら確実に殺られる。
「くそっ……!」
 ユートはACRを適当に撃って牽制したが、逆に強烈な反撃を受けて尻餅をついた。ダメだと思った。
 その時、金属を擦り合わせるような耳鳴りの中でも聞こえる、ドンドンドン! という重い発射音が響いた。
「ぬうっ……!?」
「うわあああああっ!?」
 恐らくは装甲車の機関砲だろうそれの攻撃を受けたのか、ゴーリィの唸り声と護衛小隊の悲鳴が上がる。誰かの援護射撃? まだ視界がハレーションを起こしてよく見えないユートに、通信機越しの声が飛び込んでくる。
『ユー君、大丈夫!?』
「その声……ツバキ姉!?」
 無事を確認できて安堵するが、まさかツバキが装甲車――――LAV−25を鹵獲したのか? そんなバカなと思った。
 その疑問はすぐに解けた。ツバキと一緒に、『ユートはん、無事かあ?』とあまり聞きたくなかった声が聞こえてきたからだ。
「ピアニーッ! 貴様、何の真似だ!? やはりユートに取り込まれていたか!」
 そう怒鳴ったのはゴーリィだ。奴から見ればピアニーがユートと行動を共にしている間に懐柔されたと思っても仕方ないが、ユートにそんな覚えはない。
『えろうすんまへんなあ、ボス。ついでにユートはんにも。あたしL&Pのフィーアはんに買われとったんよ』
『ユー君、フィーアちゃんを信じたらダメよ! あの子がピアニーちゃんに私を連れて行けと唆したの! ユー君たちと解放戦線がここで戦うよう仕向けろって!』
「やっぱりそういう事か、あの野郎……!」
 何かおかしいと思ったが、やはりフィーアが裏で糸を引いていたのだ。
 ピアニーがゴーリィの回し者である事を、フィーアは早い段階で察していたのだろう。そして報酬で釣り2重スパイに仕立てた上で、予定通り解放戦線に戻らせた。ユートたちが逃げないようツバキを人質にしてだ。
 解放戦線を潰したかったのは解らないでもないが、そうまでしてユートたちを戦わせる必要があったのだろうか。フィーアの意図がいま一つ読みきれないが、今は脇に置いておく。
 それよりも、今はピアニーの不意打ちで護衛小隊がほぼ全滅したのがありがたい。周囲にはまだ多数のNPCがいるが、大半は輸送車両の運転手など非戦闘職ばかりだ。これでゴーリィと一対一に近い状況で戦える。
「話は後でいい! ピアニー、ツバキ姉と一緒に逃げてくれ!」
『言われなくてもそうさせてもらうわ。ツバキはんはみんなのところに送っとくから、ユートはんは安心して――――』
 そそくさと離脱しようとするピアニーだったが、そこへツバキが『ダメ!』と割り込んできた。
『ユー君も一緒に帰るの! ハンドルを貸しなさい!』
『ちょ、あんた何すんねん!?』
『ユー君をゴーリィとは戦わせられないわ! このまま轢き殺して!』
「ツバキ姉!? あんたまでなにやらかしてんだよ!」
 驚くユートの眼前で、LAV−25が急発進しゴーリィに向かい突っ込んでいく。
 確かにコンバットドレスの防御力でも、装甲車に激突されればただではすまない。だが進路上のゴーリィは逃げるでもなく轟然と屹立している。
「舐めた真似をしてくれるな、このアル中と年長者気取りのNPCが」
 苛立った声を漏らしたゴーリィが、インベントリから何かの遠隔操作スイッチを取り出す。
 それを押した途端、なんと装甲車の足回りが爆発を起こした。車体右側のタイヤが三輪全て吹っ飛び、バランスを崩したLAVは急激にスピンを始める。
『な!? どわあああああああっ!』
『きゃあああああああああっ!』
 車内で激しくシェイクされ、2人が悲鳴を上げる。そのまま車体はゴーリィの身体を逸れ、横倒しになって止まった。
「私を甘く見るなよ。取りこまれた可能性のあるNPCへ、保険もなく装甲車を与えるはずがないだろう」
 この場で3人纏めて始末してやる、とゴーリィは横転したLAVのハッチに手をかける。
 そこへ銃撃。LAVの装甲に火花のエフェクトが散り、はっとゴーリィが身構える。
「あんたの相手は俺だ!」
 ようやく目と耳が回復し、ユートは全力疾走でゴーリィへと肉薄する。
 ユートからすればまったくもって訳が解らない状況だった。カエデとサクヤに続いて、ツバキまでもがユートをゴーリィとは戦わせられないと無茶を始めたのだから。
 皆が何を隠しているのかは知らないが、この状況ではユートが戦うほかない。そしてゴーリィの注意が逸れた今こそが最大のチャンス。
「チッ!」
 舌打ちし、ゴーリィがORIGIN12を撃ち放つ。一撃でも危険な12ゲージ散弾を、ユートはあえて足を崩して避け、そのままスライディングでゴーリィの足元へと滑り込んだ。
 そのまま地面に手を突き、ほぼ垂直に近い角度で蹴り上げる。ORIGIN12がゴーリィの手を離れ、数メートルは飛んで転がった。
 ――やった……!
 最大の脅威を取り除き、思わず会心の笑みが浮かぶ。バック転の要領で体勢を戻し、ACRの全弾をフルオートで叩き込んでやろうと銃口を向けた。
「ぬっ!」
 瞬間、ゴーリィは左の手刀でACRの銃口近くを払ってきた。発射された弾が狙いを反らされ明後日の方向に飛んでいき、続けざまに前蹴りでの反撃が来る。
 胴を狙った前蹴りをバックステップで避け――――たと思ったが、ゴーリィの狙いはユートの胴ではなかった。曲げた爪先にACRの吊り紐(スリング)を引っ掛けられ、足を引く動作で引き寄せられる。このまま体勢を崩されるのは危険と思ったユートは反射的に銃を手放した。
 ――父さんと同じCQC……!
 大抵のプレイヤーなら、銃を奪われた時点で慌ててサイドアームを抜こうとし、その隙に倒す事ができる。だがゴーリィは冷静に、徒手で反撃してきた。その技は間違いなくユートが教わったそれと同じ、アダマス仕込みのCQCだと思い至り、ユートは怒りに歯を食いしばる。
 別に不思議な事ではない。2人は20年近く一緒のコミュニティーでやってきたのだ。リアルへの帰還に熱心なゴーリィなら有用と見ればCQCでも何でも教わるだろうし、そのための努力も惜しむまい。
 だがそうまでしてくれたアダマスを、ゴーリィは方針を違えたからと罠に嵌めて殺したのだ。改めて怒りが沸き起こり、ユートは思わず叫んでいた。
「ゴーリィ! あんたは父さんの友達じゃなかったのか!? 一緒に『ブレイブ・ハート』を立ち上げた仲間じゃなかったのかよ!」
「……お前の親父は、ただの狂った裏切り者だ」
 期待していなかったが、以外にもゴーリィは返事をしてきた。
「お前のせいだよユート。お前とキキョウが奴を狂わせた。奴はこの世界での生活と家族に溺れ、リアルに帰る意欲を無くした。皆で帰ろうと誓って『ブレイブ・ハート』を立ち上げたはずなのに、それを裏切ってな。……お前なぞ生まれなければよかった。第二世代など実装されなければ奴も狂わなかったろうに」
「てめえ……!」
 アダマスどころか母も自分も、アダマスがこの世界で積み上げたものを全否定するゴーリィの言葉に、かっと頭に血が上る。腰のコンバットナイフを引き抜き、怒りと憎しみで真っ赤に染まった視界でゴーリィを睨みつけた。
「絶対にぶっ殺してやる……父さんと、母さんのっ……仇だあああぁぁぁぁぁっ!」
 叫び、怒りに任せて切りかかる。対するゴーリィも片手サイズの斧を構え、正面から迎撃。
 刃と刃が激突し、火花エフェクトが視界を焼く。ユートの繰り出す攻撃をゴーリィは尽く防ぎ、いなし、返って来る強烈な反撃を紙一重で避ける。得意のCQCに持ち込めば勝てると思ったが、ゴーリィはそこにも隙がなかった。攻めあぐね、ユートはバックステップで後退する。
 それを見逃すゴーリィではない。すかさず前に踏み出し、右上からの切り下ろしを放つ。
 瞬間、ユートは姿勢を低くしてそれを避けつつゴーリィの脇下をくぐる。そして逆手に持ち替えたナイフで延髄を狙い――――ゴーリィが背中に回した斧に防がれた。
 ――読まれた!?
 後退したと見せかけてのフェイント攻撃を成功させたと思いきや、ゴーリィは振り上げた斧を降り下ろさずに背中に回して防御していた。驚愕して一瞬動きを止めたユートの横腹にゴーリィの回し蹴りが叩き込まれ、「がはっ!」と呻いて地面に転がる。
「くっそ、まだまだ……!」
 ユートはなんとか立ち上がり、ナイフを左手に持ち替え右手でグロック17を引き抜く。拳銃程度ではコンバットドレスの装甲は貫けないが、この距離で頭をぶち抜けば倒せる。
 だがその時、ゴーリィも右大腿部のホルスターから拳銃を引き抜いていた。
 ――あの銃……!
 奴の大きな手に見合った大柄な、銀色に光るリボルバー拳銃を見た途端、ユートの全身にぞくりと戦慄が走る。攻撃より回避を優先し、グロックで牽制射を放ちながら全力で横に飛び退き、退避する。
 次の瞬間、ゴーリィの拳銃がガウン! と威力の大きさを感じさせる爆音を発し、ユートの左肩に衝撃が走る。
「うあああああああああっ!」
「ユー君!」
 被弾したユートの身体がスピンしたように回転し、倒れる。それを見たツバキが装甲車の中で悲鳴を上げた。
 続けて襲ってくる銃撃を、ユートは身体を捻って地面を転がり、辛うじて避けた。そのままツバキたちがいる装甲車の後ろに隠れ、破片手榴弾を投げてゴーリィを牽制する。
「ユー君、大丈夫……!?」
「なんとか……ちくしょうめ、まだあんな武器を……」
 心配そうに覗き込んでくるツバキに頷き、被弾した左肩部に応急処置用ナノマシン――――回復アイテムを注射する。
 タウルス・レイジングブル。リアルではブラジルのタウルス社が開発した大型拳銃だ。使用する弾丸はマグナムと呼ばれる中でも特に強力な破壊力を持つ454カスール弾。ユートは一発の被弾で肩の骨が砕けたような『重傷』のバッドステータスを受けて腕が動かなくなった上、体力も瀕死一歩手前まで持っていかれた。
 威力に比例して反動(リコイル)が大きく、反動を抑制するためバレル先端上面にエクスパンションチャンバーと呼ばれる内臓式のマズルブレーキが設けられているのを見ても解るように、筋力値要求が高く誰でも扱える武器ではない。それを軽々扱うゴーリィの姿は、奴のリアルに帰りたい気持ち、あるいは執念の強さを体言しているようだ。
「だけどな……俺にだって守りたい家族がいるんだ。父さんと母さんの仇を討って、みんなと……」
 自分を鼓舞するために呟く。……すると、ゴーリィが反駁する言葉を投げてきた。
「さっきから仇、仇と、子供の逆恨みも甚だしいな。内紛を始めたのはアダマスだろうに」
 その挑発的な言葉で頭に血が上り、衝動的に飛び出しそうになって危うく踏みとどまった。正面から飛び出せばレイジングブルの餌食だ。
「……そっちは責任転嫁甚だしいな? あの日、父さんはあんたと一緒にオプス攻略のためフィールドに出た。その先で父さんが死んで、あの内紛が起きた。あんたが父さんを罠に嵌めて殺したんだろうが! リアルに帰る気がなくなった父さんが邪魔になったから!」
 不愉快ながらも会話に応じる。それは体力が回復するまで時間を稼ぐためだったが、するとツバキが装甲車から顔を出して叫んだ。
「ユー君ダメ! ゴーリィと話さないで!」
「アホかあんた、頭引っ込めんと撃たれるで!?」
 血相を変えて顔を出してきたツバキを、ピアニーが車内に引きずり込む。それでも何かを喚いているツバキに、ゴーリィが声をかけた。
「ツバキ。いい加減このガキに真実を教えてやれ。貴様たちが甘やかしたばかりにこのざまなのだぞ? 本当にそれがこいつのためになると思うのか」
「…………っ!」
 その言葉に、ツバキが唇を噛んで黙る気配がした。それはゴーリィの言葉に正当性があり、言い返せない証拠。
「……ツバキ姉? 真実って何だよ……みんなが何を知ってるって言うんだ!?」
「は、本当に忘れているのだな。あの日、アダマスの身に何が起きたか、私よりお前たちのほうがよく知っているだろうに」
「どういう意味だてめえ……父さんはあの日、あんたが罠に嵌めて殺して……」
「罠に嵌めたのは私ではない、奴のほうだ!」
 私は奴に殺されかけたのだ! とゴーリィは感情を露わに叫ぶ。
「奴と私は友人同士だったと言ったな? 確かにそうだった。共に『ブレイブ・ハート』を立ち上げ、いくつものコミュニティーを攻略した。これならいつか世界の統一が成せると思ったものだ。奴も楽しみにしていたぞ? お前が世界の統一の力になる日をな」
 それが変わったのはお前が10歳を過ぎた頃だ、とゴーリィが語るアダマスの姿は、ユートの記憶にある父親像と若干ずれがあった。
 ゴーリィの言葉を鵜呑みにするなら、ユートが生まれてからもしばらくの間、アダマスは世界の統一を放棄していない。最終的に放棄したにせよ、それはユートが思っていたほど昔の事ではない。
「お前とキキョウ――――この世界の家族に溺れてリアルに帰る意欲をなくした奴に付き合っていたら、いつまでも我々はリアルに帰れなくなるからな。アダマスの事が邪魔になったから排除した、そこは認めよう」
 だが殺すつもりなど毛頭なかった、とゴーリィは言う。
「私はただ、奴にコミュニティーのボスの座を降りてもらえればそれでよかった。そのためにオプスの最中にキキョウを捕らえ、アレを人質にして要求を飲ませようとした。必要あればお前も一緒に使うつもりだった。罠に嵌めようとしたと言えばその通りだ」
 だが、そのつもりでフィールドに出たゴーリィたちを、アダマスたちは銃口を向けて出迎えた。彼らの計画をアダマスに報せた密告者がいたのだ。
「密告してくれたのはアヘマルだ。だが奴は直前で心変わりしたのか、私たちの元へ走り寄って逃げろと言ってきた。おかげで先制攻撃を受けて壊滅という事態は避けられた訳だが、奴がどちらの味方なのかは未だにはっきりしないな」
 アヘマルの思惑がどうあれ、アダマスの先制攻撃により火蓋が切られた内紛はもう止まらなかった。互いに少なくない数のNPCとプレイヤーが死傷する血みどろの戦いはやがてユートたちがいたホームにまで及んだわけだが、その頃には戦局はかなりゴーリィたちの方へ傾いていた。
「それから間もなくだ。アダマスが死んだと連絡が入ったのは。その時何があったのかは、その場にいたお前たちのほうがよく知っているはずだ」
 バカな事を、とユートは思った。
 ゴーリィの言葉を信じるなら、戦いがホームに及んだ時点でまだアダマスは生きていた事になる。そうであるならアダマスがユートたちを守りに来ないわけがない。ユートが最期にアダマス、そしてキキョウの姿を見たのは、彼らがフィールドに出たのを見送ったのが最期だ。――――最期だったはずだ。
 ――――なのに……言い返すべき言葉が、何も出てこない。
 頭蓋骨の裏側で、何かがキリキリと音を立てて軋んでいるような感覚。ずっと心の奥底に沈んでいた何かが、ゴーリィの言葉を呼び水に表に出てこようとしている。それがたまらなく不快で、恐ろしくて、ユートは「うああ……!」と頭を抑えてうずくまる。 「ダメよユー君、思い出してはダメ…………!」
 ツバキの叫び声が、皮肉にも最期の一押しだった。
「あ……ああああああああああああ――――――――――――!」
 記憶の殻が、破れる。
 あの日の情景が、フラッシュバックする――――


 ――――あの日、あの時、ユートたち子供は前触れもなく始まった大人たちの内紛にわけも解らないまま、全員で住居の一室に立て篭もった。

「ツバキ姉ちゃん、カエデ姉ちゃん、おいら怖い、怖いようっ!」
「あたしたち、どうなっちゃうの……」
「みんな泣かないで。大丈夫、こんなのすぐ終わるから……」
 怯え、泣き喚く第二世代の子供たちをツバキが懸命に宥めていたが、あまり効果はなかった。彼女たちだって不安で、恐ろしいのは同じだったから。
 そんな中で、銃の扱いを既に一通り見につけていたユートはカエデと共に銃を手にしてドアを見張りながら、「みんな落ち着け。父さんならすぐなんとかしてくれる」と皆を安心させようとした。アダマスがいる限り自分たちは大丈夫だと、その時のユートは信じて疑っていなかった。
 何物かの気配が近付いてきたのはその時だ。外を見張っているはずのサクヤが撃たないまま入ってきたという事は、害意のありそうな人物ではないのだろうか。それでも一応警戒しつつ、「……誰だ?」震える声で誰何したユートに、「ユートか、俺だ」と返事が返ってきて、全員がほっと安堵の息をついた。
 ユートがドアの鍵を開けると、入ってきたのは赤毛の男――――アダマスだった。彼はユートの姿を見ていつものようににかっと歯を見せて笑ったが、その身体は数箇所被弾したのか出血していた。
「父さん、血が……! ツバキ姉、回復アイテム!」
「うん!」
 ツバキはいそいそと棚から回復アイテム――戦闘時用のナノマシンではなく、時間はかかるがコストの安い包帯と傷薬――を取り出し、アダマスの手当てを始める。彼がこれほどの怪我を負ったところを見るのは初めてで、ユートも急に不安に襲われた。
「父さん、母さんは……?」
「キキョウは玄関で外を見張ってる。ちょいとヤバイ状況でな……」
「戦況が、芳しくないのですか?」
 不安そうに聞いたカエデに、ああ、とアダマスは頷く。その顔に余裕はなく、本当に自分たちのホームが、生活が、失われる寸前なのだとユートにも解った。
「そこでお前らに頼みがあって来たんだ」
「何だよ? 俺たちにできる事なら何でもするよ」
「それでこそ俺の息子だ。お前ら……」
 その場にいる子供たちを見回し、アダマスが口にした言葉。
 それが、全てを壊す弾丸だった。

「お前らも、銃を取って一緒に戦ってくれ」

「…………え?」
 一瞬、何を言われたのかと思った。
 カエデやサクヤ――――元々戦闘職のNPCを連れて行く程度ならまだ解る。ユートも銃の扱いは既に一通り習得しているから、父と共に戦うのはやぶさかでない。
 だがアダマスが戦えと言っているのは、この場のほぼ全員だ。ツバキのような非戦闘職に、まだ身体も十分成長しておらず、比例してステータスも低い第二世代たちまで、アダマスは戦えと要求している。
 それは、死ねと言うに等しい要求だ。
「ま……待ってください、ボス! ご主人様たちは、まだ子供です! 戦えるステータスじゃありません!」
 驚き、反駁するカエデを「戦力が足りないんだよ」と切り捨て、アダマスは立ち上がって子供たちに歩み寄っていく。
「さあ、銃を持ちな。ちょっと早いが、お前らも立派な『ブレイブ・ハート』のプレイヤーだ……戦えるはずだ」
「ダメです!」
 怯え、潮が引くように後ずさる子供たちに迫るアダマスの前に、ツバキが両手を広げて立ち塞がった。
「この子たちはまだ戦わせられません! 代わりに私が行きますから、この子たちは……」
「どけ!」
 信じられない事に、アダマスはツバキに手を上げた。右手の甲で殴りつけ、「あうっ!」と呻いたツバキが床に倒れる。それを見た子供たちの泣き喚く声がいっそう強くなった。
「このままじゃ奴らにコミュニティーを取られちまう……お前らだって嫌だろそんなの!? だから子供だろうが戦うしかないんだよ!」
 この時、ユートは目の前の男がアダマスであるとは、信じられない思いだった。
 ツバキを理不尽に殴りつけ、子供たちをも無理矢理に戦わせようとするその姿は、優しく、強く、頼れる父親の姿とはあまりにかけ離れていた。
「やめてください、ボス! 今のボスはどうかしています!」
「うるせえ! NPCが俺たちに逆らおうとするんじゃねえよ!」
 つかみ掛かったカエデを突き飛ばすと同時に放たれたその言葉が、決定的だった。
「う……うわああああああっ! やめろおおおおぉぉぉ!」
 恐怖と混乱、失望と絶望の中、とにかく皆を守らなければと思ったユートは、気が付くとアダマスへ手にした拳銃を向けていた。
「ユート……!」
 怒りに歪んだアダマスの顔が、被弾エフェクトに隠れる。
 額に2発の弾丸を受けたアダマスは、膝から崩れるように床に倒れ――――その頭上に死亡カウントダウンが表示される。

 ――――これが、空想と仮説の上に成り立っていた、ユートに都合のいい世界の下に封じられていた、真実。



「父さんを殺したのは……俺……?」

 あの日父を殺したのは、ゴーリィではなくユートだった。
 ユートはただ、辛い記憶を心に封じ、その上に都合よくつじつまを合わせた偽りの記憶を塗り重ねて、自分を守っていただけだった。それを思い出した今、ゴーリィへの怒りも憎しみももう保てない。
 濁流のように溢れ出した3年前の記憶は、ユートの戦意を根こそぎ押し流してしまった。力なく膝を突き、涙を流して天を仰ぐユートの横に悠然と立ったゴーリィは、レイジングブルの巨大な銃口をユートの額に押し当てる。
「その様子だと撃ったのはお前のようだな。慕っていた父親に最後の最後で裏切られた気分はどうだ?」
 結局妻だ息子だと言ったところで、全てはゲームの設定に過ぎない偽者なのだとゴーリィは言う。それに言い返す気力さえもう沸いてこない。
「お前のせいだよユート。お前が生まれてきた事でアダマスは狂った。リアルに帰還する意欲をなくし、この世界での暮らしに執着し、あの血みどろの内紛を起こした。最後の瞬間には正気に戻ったのかも知れんが、その結果守ろうとしていたはずの息子に殺された滑稽な狂人。それがお前の父だ」
 ユートをなじる言葉と共に、ぐりぐり、と額に押し付けたレイジングブルを抉る力が強くなる。
「お前さえ生まれなければこうはならなかったのだ。私がこう言ってやろう――――アダマスの仇、ここで討たせてもらう、とな」
 本人に自覚はないのかもしれないが、ゴーリィの顔は笑みの形に歪んでいた。
 ああ、そうか、とユートは呆然とした思考の中で思う。
 都合のいい仮説の世界に閉じこもっていたユートと同じく、ゴーリィもまたアダマスの仇としてユートを、そして全ての第二世代を憎んでいたのだ。第二世代を酷使し、NPCを捨て駒にし、容赦なく間引いてきたのも、奴にとっては復讐だったのだろうか。
「あの世でアダマスに詫びてこい。――――死ね」

 ――――銃声。


 時系列は数分、遡る。
 もはや防ぐ術のないユートたちを容赦なく猛攻していた解放戦線に、横から現れたL&Pの部隊が襲い掛かるのは、アヘマルの小隊に捕えられたカエデにも見えていた。
『なんだあこりゃあ!? 戦闘機だと!? いくらなんでも想定外だぞくそったれ!』
 アヘマルが狼狽した声を上げ、ロングボウアパッチがフレアをばら撒きながら急速離脱する。次の瞬間フレアにミサイルが突っ込んで爆発し、次いでタイガー2軽戦闘機が1機、機銃弾をばら撒きながら通り過ぎた。
 タイガー2は大きい獲物を逃がすつもりはないのか、飛行機雲の尾を引きながら急旋回して再びアヘマルのアパッチへ向かってくる。アヘマルはフレアと操縦テクニックで機動性に勝る戦闘機の攻撃を紙一重で避ける。
「マスター!」
「なんとかしないと!」
「たしか、車にスティンガーが!」
 アヘマルの率いる3人のNPCが、襲われる自分のマスターに注意を奪われる。それにより一人がカエデを置いて四駆へ走り、左右から腕を押さえつける2人も力が緩んだのをカエデは感じた。
 その一瞬の隙を突いて、カエデは一か八かの反撃に出る。
「は――――――――っ!」
 右腕を強引に引き抜き、喉を狙って肘打ち、間伐入れずに鼻狙いの裏拳。ぐえっと呻いた右のNPCが折れた鼻を押さえて後ずさる。
「えいやーっ!」
 さらにカエデはフリーになった右手で左腕を押さえている左のNPCの胸倉を掴み、渾身の力で背負い投げた。背中から倒れた左のNPCに起き上がる隙を与えず首を踏み潰して無力化し、即座に180度反転。拳銃を向けようとしていた右のNPCの腕を掴み、銃口を逸らしつつ引き寄せて顔面を鷲掴みにし、力任せに地面へ叩き付け気絶させる。
 これで残るNPCは一人。だがその一人は、既に拳銃をカエデに照準していた。 
 隠れる遮蔽物なし。倒したNPCの銃を拾う暇もない。ならばとカエデは銃口を向けるNPC目掛けて徒手で突っ込んだ。銃火(マズルフラッシュ)が瞬き、手足に衝撃が走る。「ぐっ!」と漏れ出る苦悶を歯を食いしばって堪えた。
「わああああああ――――――――っ!」
 叫び、被弾に構わず向かってくるカエデに驚いた表情をしたNPCの顔面目掛け、全力で拳をぶち込む。鈍い手ごたえと共にNPCの体が一瞬宙を舞い、動かなくなる。
 はあはあと荒い息をつき、被弾した箇所に回復アイテムを注射する。そのまま緩慢な動作でNPCたちの乗ってきた四駆に乗り込もうとし、カエデは戦場を横断する形で飛ぶコブラに気が付いた。それに誰が乗っているか、カエデが悟るのに時間は要らなかった。
「あれはサクヤが落とした……まさか、ご主人様!?」
『なんだと!?』
 通信機にアヘマルの声が響く。彼はしぶとくも戦闘機相手に巴戦を続けていたが、カエデの声が聞こえたようだ。
『おい、カエデの嬢ちゃん! このままだとあいつゴーリィのとこに行っちまうぞ! そうなったら……思い出しちまう!』
 自身もギリギリの戦闘中でありながらユートを気遣うアヘマルの言葉に、カエデも唇を噛む。
 ユートがゴーリィとかち合えば、ゴーリィはきっとあの時の事をぶちまける。ユートも思い出してしまうだろう……3年前のあの日、両親を失った時の事を。
 あの日の記憶がユートにはない。目の前で起きた出来事のはずなのに、翌朝にはその時の記憶が切り取ったように抜け落ちていた。
 無理もない。突然始まった大人たちの内紛、豹変したアダマスの暴力、そのアダマスを撃った自分――――11歳の少年には受け止めがたい出来事が、連続して起こりすぎた。その辛く恐ろしい記憶から心を守ろうと、ユートは記憶を封じたのだろう。
 だからカエデも、サクヤも、ツバキも、アヘマルも口裏を合わせて、その時の事は口に出さないようにしていた。アダマスはゴーリィの手にかかって殺された――――そう思い込んでいるほうが、ユートにとってまだしも楽だろうから。
 とにかくユートより先にゴーリィを倒さなければと、カエデは四駆のエンジンを始動する。だがアヘマルは『行くんじゃねえ!』とカエデを止めた。
『今すぐユートに戦いをやめさせろ! そんで解放戦線に帰れ! それで解決だろうが!』
「それは嫌だと言ったはずですよ! ボス――――アダマスも、ゴーリィも、わたしたちを道具扱いして、使い捨てて、間引いて――――もううんざりなんです!」
『……ああ、お前らが出て行きたがるのも解るよ。ゴーリィの奴は確かに独裁者になっちまった。でもな! それは友人だったはずのアダマスに裏切られて、殺し合いになっちまったせいで、帰りたい気持ちが振り切れたからだ! あいつだって苦しかったんだよ! だから帰ってこい、オレたちがリアルに帰る手伝いをしてくれ! いつかはコミュニティーもましにしてやるからよ!』
「その言葉を信じるのはちょっと難しいですね……!」
 NPCを躊躇わず間引くゴーリィは言うに及ばず、アダマスさえも最期は『NPCが逆らうな』と口にした。それは苛立ち任せに放たれた言葉のあやだったのかもしれないが、NPCを格下の存在と見なし、服従を要求するその言葉は『ブレイブ・ハート』の理念も、両者の関係も、破壊してしまうものだった。
 あれからの3年は、第一世代と、第二世代並びにNPCとの間に対等な関係を築くのは現時点では無理だと、カエデたちに確信させてしまうには十分すぎた。ましてやゴーリィに強く意見できず、『間引き』を止める事も終ぞなかったアヘマルだ。いまさら解放戦線を改革すると言ったところで、とても期待や信用には値しない。
「あなたは誰の味方なんですか!? 3年前だって、あなたがゴーリィとアダマスの間をフラフラしたから内紛が激化したんですよ!?」
 アヘマルのコウモリが如きはっきりしない態度には、カエデも相当苛立ちが募っていた。
 3年前、アヘマルがアダマスへゴーリィの罠を密告しなければ、アダマスはすみやかにボスを下ろされていただろう。あるいはアダマスの先制攻撃をゴーリィに報せなければ、ゴーリィ派はあの場で壊滅し内紛は早期に終息していた。それがあそこまで激化し、多くのプレイヤーとNPCが死傷し、アダマスに血迷った真似をさせるまでに至ったのはアヘマルの2度に亘る裏切り行為のせいだ。アヘマル自身はゴーリィにアダマスの罠を報せた『功績』を評価されて幹部に残れたわけだから度し難い。
『オレはあいつらに話し合って欲しかっただけだ! あんな事になるなんざ思わなかったし、なって欲しくなかった! でもその結果があれで……このざまで……畜生めぇっ! どいつもこいつも大バカ野郎だあっ!』
 彼もまた自分の選択を悔いているのか、アヘマルは涙声で絶叫する。
 そんな彼のアパッチ目掛け、L&Pのタイガー2が何度目かの攻撃を仕掛けてきた。既にアパッチは多数被弾して機体から煙を噴いている状態で、タイガー2のパイロットは止めを刺してやろうと舌なめずりをしている事だろう。
『くそったれが! 邪魔すんじゃねぇっ!』
 途端、アヘマルは機首を返してタイガー2に正面から向かっていった。それはあまりに無謀な突撃。タイガー2が嘲笑と共に放ったバルカン砲弾が、アヘマルをアパッチもろとも撃ち抜く――――
 刹那、『うおりゃーっ!』と叫んだアヘマルのアパッチが機首を斜めに持ち上げた。そのまま反時計周りに螺旋を描く形で飛ぶそれは、コークスクリューと呼ばれる曲芸(アクロバット)飛行だ。本来固定翼機でやるそれをヘリでやってのけるという大道芸により、射線軸を外されたタイガー2はアパッチを捕らえ損ねてすれ違う。
 交錯の刹那、アパッチは機首の30ミリチェーンガンを真横に向けて射撃した。その砲弾がタイガー2の主翼を切り裂くように撃ち抜き、破損した主翼が真ん中から折れ――――バランスを崩したタイガー2はきりもみに陥って墜落し、遠くで火柱を吹き上げた。
「う、嘘でしょう……!?」
 アヘマルを甘く見ていたわけではないが、まさかヘリで戦闘機を撃墜するとは。驚愕するカエデに、アパッチのチェーンガンが再び砲口を向けてくる。
『逃がさねえぞ、譲ちゃん! こうなりゃ瀕死にしてでも連れて行くからな!』
 ――ご主人様、申し訳ありません……!
 今度こそ逃げられない。やられるのを確信したカエデは心の中でユートに守り切れなかった事を詫びた。
 だがその時、アパッチのテールローター部で被弾エフェクトが散った。
『なんだと!?』
 恐らくは地上からの攻撃――エフェクトの大きさから大口径の対物ライフルによるものだろう――を受け、アパッチの機体が大きく傾ぐ。アヘマルは慌てて回避行動を取ろうとしたが、その機動を見越したように2発目が同じ場所に命中し、テールローターの破損したアパッチが回転を始める。
『落ちるんじゃねえ! クソが!』
 アヘマルは必死に機体を立て直そうとするが、急所というべきテールローターを破損したヘリはもう安定を保てない。
『ちっくしょう……母ちゃん――――――――!』
 アパッチの機体は駒のように回転しながら墜落していく。アヘマルの生死は判然としないが、もう追ってはこられないだろう。
「……すみません、アヘマル先輩……でも、わたしたちも譲れないんです……」
 さすがに少し申し訳なくなり、カエデはアヘマルにそっと詫びた。
 所詮は身勝手な都合とエゴの押し付け合いだ。勝たなければ自分たちの都合は通らない。だから打ち負かす。相手の都合を捻じ伏せる――――それに徹底したほうが勝つ。ただ一方的に都合を押し付けられる立場だった自分たちが、少し対等に都合を押し付けられるようになった結果だ。
「そういえば、さっきの狙撃はいったい……」
「なんだ、誰かと思えば貴様か」
 カエデの疑問に答えるように、一台の四駆が横付けしてくる。
 その運転席に座る者の顔を見て、カエデは眉根を寄せた。
「あなた……」



「ぐあっ――――――!?」
 銃声が響くより数瞬早く、ゴーリィの背中で被弾エフェクトが散り、衝撃で大きくのけぞったゴーリィはレイジングブルの狙いを外し、そのまま倒れた。
『――――ユート……!』
『ご主人様、ご無事ですかっ!?』
 通信機から聞こえてきたのは、先に飛び出していったカエデと、皆と共に脱出させたはずのサクヤの声だ。
 銃弾の飛んできた方角に目をやると、2台の車両が砂煙を上げてユートの元へ爆走していた。1台はカエデが独りで乗る四駆で、もう1台のハンヴィーには銃座(ガンルーフ)からサクヤが上半身を出し、据え付けられた巨大な銃でこちらを睨んでいた。
 ダネルNTW−20。リアルでは南アフリカ共和国が開発した、世界最大級の対物体狙撃銃だ。1メートルの銃身から撃ち出される弾丸は、本来対空砲などに使われる20ミリ砲弾。最大射程はおよそ1・5キロメートルにもなる。重量もこれまた破格の26キロと一人で携行するには重すぎるため、サクヤは専用の台座を使ってハンヴィーに車載している。もはや銃ではなく砲と言うべき代物だ。
 ――あれって……前にステーションの中で、シュバルツ小隊の取り分になった……
「よう来てくれはりましたなフィーアはん! ダメかと思うたわ!」
『ツバキは無事か』
「私なら無事よ。でもどうして……」
『私は第一世代の連中とは違う。非戦闘職、それも世話になった“人”を危険な場所に放り込んだままにするほど恩知らずではないよ』
 サクヤとNTWを乗せたハンヴィーを運転するフィーアは、人を散々振り回しておきながらしゃあしゃあと言ってのけた。
 それでも一応、人質として放り込んだツバキを自分で助けに来る程度の仁義は持ち合わせていたらしい。それに蘇生したばかりのサクヤが同行を申し出て、道中でカエデと合流した、といったところか。
「チッ、新手か……!」
 サクヤのNTWによる狙撃を受け倒れたゴーリィは、多少ふらつきながらも起き上がる。『20ミリを直撃させたのに……』とサクヤはコンバットドレスの頑強さに改めて驚愕していたが、ゴーリィもさすがに狙撃を警戒して装甲車の影へ隠れた。
『398……いや、サクヤ。奴が顔を出したらすぐに撃て。切り裂き魔、貴様は我々が奴を拘束している隙にツバキたちを拾って離脱しろ』
『誰が切り裂き魔よ。……ご主人様、その様子じゃもう……』
「……思い出したよ、全部。父さんを殺したのは……俺だったんだな」
『……え』
「何やってたんだ、俺は。嫌な事を全部忘れて、都合のいい仮説を上塗りして、勝手に人を恨んで……みんなにも、気を使わせてたんだな」
 カエデもサクヤもツバキも、きっとアヘマルさえも、ユートが辛い記憶を思い出さないように気を使っていた。守っているつもりで、守られていたのは自分の方だった。それがどうしようもなく情けない。
『……ユート。それは違う』
『そ、そうです! わたしは――――!』
『こんな時になにをウダウダやっている? 見てられんな』
 必死に何かを言わんとするサクヤとカエデの言葉を、フィーアが遮った。
『詳しい事情は知らんが、皆を無理矢理戦わせようとした父を殺した? よくやったではないか。貴様は狂った父から家族を守ったのだろう、何を恥じる事がある?』
「……でも俺は、ずっと父さん母さんの仇を討つんだって思ってて……でも、そんな奴はいなくて、いや俺自身の事で……」
 アダマスが殺され、その結果ゴーリィの独裁を許したのなら、皆を苦しめた原因を作ったのはユートだ。
 父を殺してしまった自責の念が溢れ、自分がした事への恐怖に縛られ立ち上がれないでいるユートに、フィーアは深く失望のため息をついた。
『あれは使い物にならぬな。切り裂き魔、貴様が3人とも拾って離脱しろ。解放戦線のボスは私とサクヤでやる』
 動けないユートに見切りをつけたフィーアが、右にハンドルを切る。蘇生したばかりで満足に動けないサクヤを気遣い、距離を取りつつ射線を確保してNTWで仕留める気だろう。
 だがその時、数個の手榴弾が投擲され、周囲一面が濃密な煙に包まれる。
『サーマルスコープでも見えない。恐らくグレード6以上のスモーク』
『次から次へと高グレードの装備を……だがあれでは奴からも見えまい』
 出てきた所を狙い撃ちにしてやればいいとフィーアは余裕を見せたが、煙の中から出てきたのはゴーリィではなく白煙を引いた飛翔体だった。『なに!?』とフィーアが驚愕の声を上げた瞬間、飛び出した対戦車ロケット弾は2人の乗るハンヴィーを直撃した。
「サクヤ! フィーア!」
『そんな、スモークの中から当ててくるなんて……!』
 戦慄するユートとカエデの前で、スモークの中からゆらりとパンツァーファウスト対戦車ロケットを担いだゴーリィが歩み出てくる。
 恐ろしい事に、ゴーリィは頭にサーマルスコープの類は一切身に付けていなかった。奴はまったく見えないはずの、高速走行しているハンヴィーの速度やルートを予想し、殆ど勘だけで無誘導のロケット弾を直撃させたのだ。30年分の経験則に裏打ちされた射撃技能が、その照準をカエデへと向ける。
「カエデ、避けろおおおおおおおおっ!」
 叫ぶユートの眼前でパンツァーファウストが再び火を噴き、弾頭は回避しようとした動きを予知したようにカエデの四駆へと喰らい付き、炸裂した。
「きゃああああああ――――――――!」
 吹き飛んだ四駆から、カエデの体が悲鳴と共に投げ出される。数メートル転がって地面に倒れたカエデをゴーリィは足で踏みつけ、「消えろ」とレイジングブルの銃口を向けた。
 そこへLAVから「ちょお!?」とピアニーの声。無謀にも、ツバキが制止を振り切って装甲車から飛び出し、ゴーリィの右手にしがみ付いたのだ。
「ツバキ姉、何やってんだよ……!?」
 ユートには血迷ったとしか思えない行為だった。非戦闘職のツバキとゴーリィでは、ステータスの差はひ弱な子供と屈強な大人ほどある。ゴーリィは赤子の手を捻るようにツバキの首をへし折る事さえできるのだ。
「やめなさい、ゴーリィ! これ以上、私の家族を傷付けないで!」
 それでもツバキは懸命に喰らい付いた。カエデを撃たせまいと渾身の力で右腕を押さえつけ、手首に噛み付いてさえいる。
「ご主人様は……わたしが……!」
 さらにカエデまでも、軽くない傷を負いながら立ち上がり、バスタードソーを唸らせてゴーリィに切りかかっていく。2人とも、勝てるわけがないのに一歩も引かないその姿は、ユートには3年前のあの時とダブって見えた。
 あの時も、2人は追い詰められ、戦えない子供たちを無理矢理戦わせようとするアダマスに対して、子供たちを守ろうと一歩も引かずに立ち塞がったのだ。それに逆上して暴力を振るうアダマスを、ユートは撃った。父から、皆を守らなければと思ったからだ。
『――――いつまで呆けている気だ貴様。今立たなければ、全員死ぬぞ……!』
 通信機から、苦しげなフィーアの声が聞こえたのはその時だった。あの状況で咄嗟に脱出できたのは大したものだが、明らかに無傷ではなかった。
『貴様が父を殺してまで守ろうとしたものは何だ!? 戦わなければ、それが全部無駄になるのだぞ!』
 その言葉に答える暇はなかった。「どけ!」とゴーリィは斧でカエデのバスタードソーを受け止め、がら空きになった腹に蹴りを入れた。「こはっ!」と肺の空気を吐いたカエデが地面に倒れ、間伐いれずツバキのしがみ付く右腕を強引に振りまわす。ツバキの身体が布切れのように軽々と宙を舞い、背中から地面に叩きつけられる。
「揃いも揃って狂ったNPCが。全員殺して、消してやる……!」
 苛立ちの言葉と共に、レイジングブルの巨大な銃口が倒れた2人に突きつけられる。
 刹那、ユートの身体が動いていた。

「俺の家族にっ……手を出してんじゃねえ――――――――!」

 全力でゴーリィに向けて走り、グロック17を連射する。コンバットドレスは抜けないが、被弾したゴーリィの注意はユートに向く。
 懐に飛び込み、喉笛目掛けてナイフ一閃。素早く反応したゴーリィに避けられ、斧による反撃が返ってくる。それをクロスした両手で受け止め、組み合う体勢に入る。
「ユート、貴様……! アダマスを殺しておきながら、まだ歯向かうつもりか!」
 憤怒に歪んだ目でユートを睨み、組み合う斧に力を入れてくる。その憎しみに満ちた目は、完全にユートを人間として憎む目だ。心を持たないゲームキャラクターに、人間がこんな本気の怒りを向けるわけがない。
 この男は口先とは裏腹に、内心ではユートたちに意志や人格を感じていたのだ。ただかけがえのない仲間で友人と思っていたアダマスに裏切られた怒りと、その原因になったユートやこの世界へ向けた憎しみが、それを認めさせない。対等な敵同士の立場になり、過去を思い出して、ユートは初めてゴーリィの真意が少し理解できた気がした。
 ゴーリィを独裁者にした原因の一端は、ユートにあるのかもしれない。だがそれでも、申し訳ありませんでしたと首を差し出す事はユートにはできない。
「悪いな、ゴーリィ……俺にはカエデやサクヤやツバキ姉……まだたくさんの家族がいる。父さんを殺してでも守りたかった家族を、これからもずっと守っていかなきゃいけない、そのためにまだ死ねないんだ!」
 ナイフを傾け、斧を横に滑らせて受け流す。一歩たたらを踏んでつんのめったゴーリィの横腹をキックして間合いを取り、カエデが落としたバスタードソーの柄に足を引っ掛けて跳ね上げ、持ち替える。
「第一世代の事情に振り回されて、第一世代同士の争いで仲間を亡くすのはもううんざりだ。俺は俺たちのために生きる……そのためにあんたを倒して、支配から解放させてもらうよ、ゴーリィ!」
「愚かな真似を。貴様たちのコミュニティーが存在する限り世界の統一は成らない。ここで逃げてもいずれは叩き潰すぞ」
「解っているよ。だから誰にも負けない強いコミュニティーを作ってやる。残された家族みんなが人間らしく生きられる、俺たちの理想郷を作ってみせる! 身勝手で申し訳ないけど、俺たちも譲れないんだ!」
「……ならば、私も我々の悲願――――リアルに帰るために、悪い目はここで積ませてもらうぞ」
 片や世界の終わりを願う第一世代と、世界と家族の存続を願う第二世代。
 手を取り合う余地はないと無言で語り合い、互いの武器を叩き付け合い火花を散らす。恐らくはこの30年で初めてであろう両者の対等な戦いは、いよいよその熱さを増していく――――


 ユートとゴーリィの戦いは、数十メートル離れた所で破壊されたハンヴィーからも見えていた。
「フィーア、しっかり……」
「くっ……奴め、とんだ化け物だな……」
 サクヤに回復アイテムを注射されながら、フィーアは荒い息をつく。
 ロケットに着弾される寸前に車外へ飛び出そうとしたフィーアだが、爆発の余波をもろに受け、さらに破壊されたハンヴィーに足を挟まれていた。サクヤも似たようなものだが、銃座から身を乗り出していた彼女はより早く脱出できたためにフィーアより怪我はむしろ軽かった。
 サクヤがバールでハンヴィーの残骸をこじ開け、なんとか足を引き抜く事はできたが、怪我は重く戦闘は無理だ。生還するにはユートがゴーリィを倒してくれるのを期待するしかないが、苦戦振りは明らかだった。
「サクヤ、NTWはまだ使えるか……?」
「……機関部は壊れていない。でもスコープが使い物にならないし、銃身も曲がっている可能性がある。狙撃は無理」
「ならば近付けばよかろう……! 手伝え!」



「はああぁっ――――!」
 裂帛の気合と共にバスタードソーの回転刃を横薙ぎに振るう。攻撃を掻い潜り懐に潜っての一撃はゴーリィの胴を捕らえたが、コンバットドレスのプレートには浅い傷を穿っただけで終わる。
 ――浅い、おまけに硬すぎる……!  決め手がなく、歯噛みするユートへゴーリィの蹴りがハンマーのように叩き込まれる。寸でのところでバックステップしそれを避け、さらに上から振り下ろされる斧をバスタードソーの柄で受け――――ると思った瞬間、意識の外から伸びてきたゴーリィの左手に柄を掴まれた。
 ――しまった、フェイント!
 そのままぐるりと柄を回され、握っていられなくなったバスタードソーがユートの手を離れる。ユート目掛けて振るわれた回転刃を腰を屈めて皮一枚のところで避け、ゴーリィの間合いから必死に後退した。
「くっそ、まだまだ……!」
 強がってみせるが、バスタードソーさえ失ったユートはゴーリィのコンバットドレスを貫いて致命傷を与える手段がない。どうする――――と思考をフル回転させるユートの耳に、2人分の声が飛び込んできた。
『ユート! これだ!』
『ユート……!』
 フィーアとサクヤの声に目を向けると、2人は傷付いた身体でNTWを担ぎ、這いずるようにこちらへと向かっていた。そして最後の力でそれを持ち上げ――――放り投げる。
 ――ダネルNTW−20……! この距離で20ミリ弾なら!
 ユートは踵を返し、全速力で勇者の剣よろしく地面に銃身から突き刺さったNTW目掛けて走る。
 無論、ゴーリィも黙って行かせはしない。レイジングブルをホルスターから抜き、ユートの無防備な背中に向ける。
 その瞬間、パパパッ! と数発の破裂音が響き、「ぬおっ……!」と驚いたゴーリィが背中から煙幕に飲み込まれた。ピアニーがLAVの砲塔側面に装備された煙幕弾を発射したのだ。
 その援護射撃が稼ぎ出した数秒の猶予は、ユートがNTWの元まで辿り着くには必要十分。渾身の力で引き抜いたそれは、しかし銃口が地面を向いたまま。
 ――重い……!
 元々人間が担いで使うなど考えられていない銃だ。ステータスを運動力に多く振っているユートでは持ち上げるだけで精一杯だった。
「ユートォッ! 貴様はここで殺す! 私が、ここで殺してやる――――!」
 叫び、ゴーリィが煙幕の中から姿を現す。その顔にはまるで鬼のような形相が張り付き、NTWを抱えて動けないユートへ殺意に満ちた目を向けてくる。
 そこへ「ご主人様っ!」とカエデがおぼつかない足取りで追いついてきた。
「わたしが台座代わりになります……! それで狙ってください!」
「……っ! 頼む!」
 ユートが背を向けて跪いたカエデの肩にNTWの銃身を預け、膝立ち射撃の体制を取るのと、ゴーリィがレイジングブルをユートへ向け構えるのはほぼ同時。
 意志と憎しみをそれぞれ込めた視線が交錯し、銃口が向かい合う。

「ユート――――――――――――!」
「ゴーリィ――――――――――――!」

 響いた2つの銃声は、殆ど1つのそれに聞こえた。
 刹那、NTWの機関部が爆ぜるように壊れ、ユートの肩口に衝撃が走った。「うあっ――――!」と声を上げ、背中から倒れる。
「ご主人様!」
 カエデに抱き起こされる。ゴーリィが胴を狙って撃った弾丸はNTWに当たって跳ね返り、ユートに左肩に当たった。急所こそ外れたものの454カスール弾の威力は凄まじく、多大なダメージに意識が遠くなりかける。
 だが意識は手放せなかった。ユートの目には、未だレイジングブルを構えて轟然と立っているゴーリィの姿が映っていたのだ。
 ――外したのか……!? くそ……!
 絶望に目の前か暗くなるが、それでもホルスターからグロックを抜く。カエデも同じく拳銃を抜き、2人で支え合うように銃を向けた。
 …………だが、銃声は響かなかった。
「……ゴーリィ?」
 気が付いた。ゴーリィの頭上には、既に死亡カウントダウンが表示されていた。
 2本の足で立ち、レイジングブルを構え、憤怒の形相を張り付かせた、そのままの格好で――――胴に大穴を穿たれて、ゴーリィは死んでいた。
 倒れていなかったのはNTWの20ミリ砲弾がコンバットドレスごと奴の体を貫通したためだろうが、その姿はゴーリィの尽きる事のない憎しみと執念を物語っていた。
「……なんでそこまでならないといけなかったんだ、あんた……」
 ある意味、アダマスの仇を追い続けていたのは、ゴーリィの方だったのかもしれない。
 ずっと殺してやりたいと思っていた男だったが――――
 今はもう、誰を憎めばいいのかも、ユートには解らなかった。


 エピローグ

『いったい何がどうなってやがる、ボスがやられただと!?』
『敵のニセ情報だ! そんなものに騙され――――な、何をする貴様ら!?』
『ゴーリィは死んだ! 俺たちは自分のコミュニティーに帰らせてもらうぞ!』
『これで解放戦線もおしまいだ、今までよくもアゴで使ってくれたな!』

「……ゴーリィが死んだ途端に離反者が続出か。脆いもんだな……」
 目の前のゴテゴテした機械から聞こえる声に、ユートはふうっとため息をついた。
 ゴーリィを倒した後、ユートたちは負傷したフィーアとサクヤを拾い、ツバキとピアニーを連れて、解放戦線のトラックを1台奪取して逃走した。そのまま先に脱出した皆と、フィーアがL&Pから連れ出してきた仲間たちがいる合流地点まで、妨害や攻撃を受ける事はなかった。
 ゴーリィが死ぬまでその場で見届ける余裕はなかったが、ダメージの大きさから蘇生猶予時間は3分弱だった。あの状況で蘇生できたとは思えないし、この混乱振りを見る限り死んだのだろう。
「独裁政権は独裁者が死ねば終わるって本当だね。それに解放戦線はかなり強引に拡大を推し進めてきたわけだし、ユートさんみたいに反乱の機会を伺っている人は、何人もいたんだと思う」
 カタカタと機械を操作しながら答えたのは、白っぽい髪にメガネという知的な雰囲気の少年だった。姉とは似ても似つかない雰囲気の彼が、フィーアの弟ツヴェルフらしい。
 フィーアにL&Pからの離脱と、自分のコミュニティー立ち上げを決心させた存在であるツヴェルフとユートは初対面だが、なるほどフィーアが戦場に出したがらないわけだ。見た目にも弱々しい彼は明らかに戦闘職向きではない。反面、こうして解放戦線の通信をあっさりと傍受してみせるほどの電子戦スキルは大したもので、使い方によっては下手な戦闘職よりよほど大きな戦力になりそうだった。
「後方のホームでも、吸収された別コミュニティーの人や、軟禁されてた第二世代の人たちが反乱を起こしてるみたい。解放戦線はおしまいだろうね」
「一矢報いたというところだな。これで死んだ仲間も浮かばれるであろう」
 フィーアは仲間の仇討ちを遂げ、満足げな表情を浮かべていたが、ユートたちにとってそれは古巣が消えた事を意味していた。
「……不思議なもんだな。ずっと逃げ出したいと思っていたはずなのに、こうなってしまうと複雑な気分だよ……」
 解放戦線に残った中にも、共に戦った戦友や、世話になった非戦闘職がまだいるユートとしては、申し訳ない気持ちがあった。さりとて、この事態の引き金を引いた張本人が今更助けに戻れるわけもなく、またそんな力もない。
 それに、今ユートは家族みんなの命を預かるボスの立場にある。父を殺してでも守ろうとした皆を最期まで守り切らなければ、これほど多くの人にエゴを押し付けた意味がない。
「さて、感傷が終わったところで我々は行くとしよう。……サクヤ、やはり我々と行く気はないか?」
「フィーア、くどい。自分はキキョウに頼まれている。ユートを守って欲しいと。それは裏切れない。……そっちこそ、一緒に行く気はないの?」
「最初に決めた契約の通りだ。こうして皆を連れ出せた以上、協力関係は今度こそ終わりにさせてもらう。それに貴様たちのボスも、これ以上馴れ合う気はあるまいよ」
 目を向けてきたフィーアに、そりゃそうだ、とユートは苦笑する。
「ステーションで手に入れた蘇生アイテムのおかげでみんな生きているからいいようなものの、好き勝手利用してくれやがって。また同じ目に遭わされるのは御免だからな……これからは、お互いライバル同士だ」
「上等だ。どちらがよりよいコミュニティーを作れるか、競争といったところだな」
「あたしもそっち行かせてもらうで。フィーアはんのおかげで一生の夢やったドンペリが手に入ったんや。一生付いていくで」
「いいよ、行っちまえ」
 フィーアの側に行くと宣言したピアニーに、シッシッと手を振る。今はピアニーを引き止めるだけの報酬は提示できそうにないが、いつかこの実利主義者を使ってフィーアに今回のお返しをするのも悪くないな、とユートは密かに思案していた。
「そういえばあんた、俺たちを戦わせたのは……」
「ではまたな。縁があればまた会おう」
「あ、おい!」
 ユートの質問に答えず、フィーアは車列を発信させた。
 最期まで、振り回してくれる奴だとユートは思った。



「姉さん。1つ聞いていい?」
 フィーアが運転する電子装備を積んだトラックの中、助手席に座ったツヴェルフが不意に訊いてきた。
「なんでわざわざ、ツバキって人を人質にさせたりしてユートさんたちを戦わせたの? 別に必要ない気がするけど」
 確かに、必ずしも必要性はない行為だった。解放戦線とL&P、2つのコミュニティーをぶつけて消耗させるだけならユートたちがいる必要はないし、ゴーリィを殺したいならフィーアだけで行ってもよかった。
「……ユートの奴が、自分の敵と決着を付ける瞬間を見たかったのだ」
「それだけ? 嘘」
 ツヴェルフは疑いの目を向けてきたが、フィーアはのらりくらりとはぐらかすだけだった。
 言えるわけがない。
 例え一時期でも親の愛情という、フィーアが与えられなかった物を受けながら育ったユートが羨ましく思えて……少し困らせてやろうと思ったから、なんて。



「……さ、これからが大変だな」
 ユートは呟く。なにせ60人近い人員はそのまま、ホームも耕作地も失ってしまったのだ。食糧はそれなりに持ち出せたが、状況は逼迫している。
 幸いなのは、サテライトスキャン端末のおかげで向かうべき耕作地の場所は解っている事だが、辿り着けるかは別問題。その先で別のコミュニティーと交戦を余儀なくされる可能性もある。
「大変でしょうけど……でも、わたしたちはどんな時でも、ご主人様の味方ですから」
「ユートは自分たちが守る。だからユートは皆に道を示してくれればいい。自分たちはそれに付いていく」
「アダマスもみんな、こうやってゼロからコミュニティーを立ち上げてきたのよ。ユー君たちにできないはずがないわ」
 カエデが、サクヤが、ツバキが、ユートを励ましてくれる。ずっと守っていたつもりで守られていた感のある家族たちだが、だからこそこれから、ユートがボスとして皆を引っ張っていかなければいけないのだろう。
「行こう。新生ブレイブ・ハート……ああいや、別の名前とエンブレムを考えておくか」
 最後の最後で血迷い、全てをご破算にしてしまったバカな父――――その功績を全否定するわけではないが、これからユートが作るのはアダマスでも成しえなかった、真に第二世代とNPCが人間らしく生きていけるコミュニティーだ。父のコミュニティーを再建するのではなく、それを超えるものを作るのだから、名前も新しくするべきだと思った。
 と、目の前が明るくなり、「あーっ!」と誰かが空を指し示した。
「青空だ……!」
「きれーい!」
「何年ぶりかしら……」
 常に空一面を覆っていた灰色の雲が途切れ、その向こうから青い空が、そして燦々と輝く太陽が、鮮やかに顔を覗かせていた。
 全てが汚染されたこの世界で、青空が見えるのは数年に一度あるかないかだ。今ではプレイヤーの間で吉兆の前触れとされているそれが、まるでユートたちの前途を祝福するように光を降り注がせている。
「どうやら、ストーリーテラーも応援してくれてるみたいだな……」
 プレイヤーに果てのない争いを強制する機械仕掛けの神は、果たして何を考えているか――――そもそも考えなんてものがあるのかも解らないが、少なくとも今、アレはユートたちに生きる道を示しているように見えた。あるいはそれが、この世界の活性化に繋がると判断されたのかもしれない。
「行こう、新天地に……俺たちの理想郷に!」
 高らかに宣言し、車列は灰色の荒野へと走り出す。
 その先に、臨んだ理想郷があると信じて、










あとがき

 まず謝罪を。本当に申し訳ありません。ナデシコ小説については執筆、CG製作、共に手間取っていてまだ当分お届けできない状態です。
 今年一年で投稿回数一回だけというのはどうしても嫌だったので、本来投稿するつもりのなかったこちらの作品を中継ぎとして投稿し、生存報告に代えさせていただきました。二年前にMF大賞で二次落ちした程度の作でお目汚しですが、これしかなかったので……
 来年はもう少し持ち直せたらいいなと思っております。

 一応本作について。見ての通りのVRMMO閉じ込められものという奴で、SAOのヒット以来同様の作品が大量に作られているのを見て自分もやってみたいなあと思ったのが始まりです。当然その中で少しでも他作との違いを出さないといけないのであれこれ試行錯誤した結果、『誰もゲームの世界から脱出できないまま数十年が経ち、その世界で生まれた子供たちの物語』という感じに落ち着きました。
 設定については私の好きな現代兵器でドンパチ賑やかにやる路線で、マインクラフトやMGS5など、お気に入りのゲームから思いついた要素を盛り込んでいます。GGOの二番煎じ感は否めないですが、現代兵器は外したくなかったので。
 で、最後までご覧になってくれた方はみんな思っていることと思いますが、この話、結局根本的な解決には至ってません。世界の真相について考えていなかったわけではないですが、そもそも帰るべきリアルがないユートたちにとって関心のある事ではないのと、規定枚数の中でそこまで行くのは無理と思って早々に諦め、支配を逃れたユートたちが旅立つシーンで一旦終わると決めました。

 それでは、来年はもっといい物をお届けできるよう努力します。お読みいただきありがとうございました。



代理人より

手違いで更新が年明けになってしまいました。申し訳ありません。
なお作者様の意向により、この作品には感想がありません。
ご了承ください。





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