――海面を滑るように、一機の機動兵器が海の上を駆けて行く。
 肩部に<JF>のマーキングがされたそれは、統合軍所属のステルンクーゲルだ。重力波スラスターを一杯に吹かし、水平線の向こうに見える日本本土へ急いでいた。
 目的は一つ。本土の基地まで急行し、彼の所属する部隊の状況を伝える事。
 通信手段の発達している今日びでは時代錯誤と笑われるかもしれなかったが、今の彼にとっては重要な任務だ。何せ二百人の同僚の命が掛かっているのだから。
 一分一秒も無駄に出来ない……そんな焦りに追い立てられて、まだ年若いパイロットは機体を走らせる。
 水平線の向こうに見える程度の距離など、ステルンクーゲルならさして時間はかからないはずなのに、今日に限っていやに遠い。
 気が付くと、額に冷たい嫌な汗が浮いていた。コクピットの中は適温に保たれているはずだが、この緊張と焦燥は冷や汗をかかせるには充分だ。
 ……ええい、気分が悪い。
 パイロットはヘルメットのバイザーを上げ、手の甲で汗を拭う。ほんの僅かな間右の手が操縦桿から離れた、その時だった。
 ビイイイィィィィ――――! 甲高い警告音。
 ロックオンされた!? 咄嗟の事態に動揺しつつも、パイロットの反射神経は正常に作用した。左手で掴んでいた操縦桿を一杯に倒し機体を左へ傾ける。次の瞬間ビュン! と右のスクリーンに映る空が一瞬白煙に覆われた。下から打ち上げられたミサイルが機体を掠めたのだ。
 あと一瞬遅ければ直撃していた――――! 先ほどのそれとはまた別の冷や汗が、全身からどっと湧き出る。
 警告音はまだ鳴り止まない。レーダーには何も映っていない。少なくとも周囲の空には何もいない――――
「下かっ!?」
 海面がざばあ、と白く盛り上がるのが見えた。そこから姿を見せたのは、彼の見慣れたバッタに良く似た黄色い甲殻を持つ虫型兵器。しかしバッタより二回りは大きい。木星の水中戦に特化した虫型機動兵器『ゲンゴロウ』だ。
 ――そんなバカな。何であんなのがここにいるんだ。
 ゲンゴロウのミサイルポッドが開く。吹き上がる白煙に黄色い甲殻が覆い隠され、その中から十数発のミサイルが彼の機体を追う形で飛び出す。
 くそっ、武器なんか無いってのに……! 悪態を一つつき、パイロットは操縦桿を倒し機体を降下させた。背後からミサイルが徐々に距離を詰めてくる。背中にざわざわとする嫌な感覚を感じながらもそれを出来るだけ無視してレーダーでミサイルとの距離を図る。着弾まであと五秒……四秒……三……二……
「――――――――――っっっ!」
 今だ! 見計らったタイミングで最大角度での右旋回。急激過ぎる機動に慣性制御システムが付いていけず、強烈な横Gに腹の中で内蔵がよじれた。苦痛からの解放を求めて操縦に意識を集中する。左旋回、右旋回、急上昇、急下降。空間に円を描くような形で必死に回避機動を取る。もう慣性制御システムなど意味を成さない。何も言わずにGに耐え、生きる道を求めて機体を操る。
 懸命な回避行動に、ミサイルは次々目標を見失い、あらぬ方向へ飛び去って爆発し、海面に突っ込み、その使命を果たせないまま散っていく。いけるかとパイロットは思ったが、横合いから一発のミサイルが襲ってきたのを見つけ表情をさらに歪ませた。
 ――近すぎる。これじゃ避けきれない。
 仕方無く最後の手段、グラビティ・チャフ・ディスペンサーを放出しようとする。しかしその瞬間、ガガガガッ! と強い衝撃を感じ機体が傾いだ。現れたウィンドウには脚部の重力波ユニットへ被弾したと示されている。
 ――やられた、下の奴から撃たれたんだ!
 重力波ユニットの片方を失い、機体のバランスが崩れきりもみしながら海に向かって落ちる。必死に機体の建て直しを試みつつグラビティ・チャフ・ディスペンサーを放出。目の前に現れた強力な重力波反応と金属反応に騙されたミサイルはそちらに向かって爆発した。至近距離での爆発。衝撃波がステルンクーゲルの機体を嬲り、破片が装甲に当たってカンカンと音を立てた。
 回避には成功した。だがそれでパイロットが命を永らえたのはほんの僅かな時間でしかなかった。ミサイルが爆発したのとほぼ同時に、ゲンゴロウが再度のミサイルを放っていたからだ。殺到するミサイルの群を前に、肩翼をもがれたクーゲルはもう抗う術を持たなかった。
 母さん! パイロットは心の中で叫んだ。衝撃。そしてスクリーンがブラックアウトする。ミサイルの一発がステルンクーゲルの腰部を吹き飛ばした。運悪くまだ生きていたパイロットを腹に抱えたまま上半身だけになったクーゲルは、海面に叩きつけられ、数度飛び跳ね、海中に没し、水柱を吹き上げた。

 ステルンクーゲルパイロット、一名戦死――――それがこの年若かったパイロットの無残な死を記した全てである。



 機動戦艦ナデシコ――贖罪の刻――
 第七話 ちっぽけなライオンハート 中編



「しょっと。……大丈夫か?」
「……ええ」

 一寸先も見えない、真っ暗な通路の中――――落ちていた何かを乗り越えた烈火は、後ろを歩く美佳が躓かないよう手を差し出した。その手を取る美佳の小さく柔らかい掌の感触に、烈火は不覚にもどきりと心臓が動くのを自覚した。
 いきなりメガフロートの地下深く――語弊があるかもしれないが――に落ち込み、訳も解らないままバッタに追い回されて……腕を折られた挙句に助けも期待できないまま、こうして地下を彷徨っている。
 まさに絶体絶命。生還の確率はどれだけあることやら。崩壊の影響かそれとも戦争の被害か判然としないが、通路のあちこちが崩れて通れずまるで迷路のようだ。水も食料も無く、頼みの綱である美佳のソリトン・レーダーはバッテリーが切れかけている。ライトは一応持っているが、電池の事を考えると点けっぱなしにはしておけない。
 ――はたして、俺たちは生きてここを出られるのか。永久に出られなかったりしてな……
 閉鎖状態に等しいメガフロートの内部は思ったよりも暑い。日の光など届かないくせに熱気だけは染み込んでくるのだから恨めしい。
 ――くそ。蒸し暑い。
 嫌な汗が全身から湧き出し、インナースーツなど上に居た時から汗で体に張り付いているのが常態になっていて、いまさら気にもならない。
 まあ肉体的な疲労はまだ許容できる範囲内だ。烈火は体力がなによりの自慢であるし、折られた腕も痛み止めが効いてきた。だが真っ暗闇の中を、しかもどこに敵がいるかもしれない中を歩き回るのは、肉体的よりも精神的に辛い。
 暗闇の閉鎖空間で長時間過ごしていると、人間は発狂してしまう、といつだったかテレビで見た。
 その時烈火は、そんなバカなと笑ったが、どうやらそれは間違っていたらしい。
 ――ああ、俺は実験台の人がこんな恐ろしい思いをしているのを、ポテチを食べ、笑いながら見ていたのか……
 本気で申し訳ない気分になり、烈火は実験台となっていた番組スタッフに心から詫びた。情けないが、今の烈火は内心恐くて堪らない。
 すぐ目の前にバッタがいて、烈火の頭蓋を叩き割ってやろうと腕を振り上げている――――そのような想像が何度も何度も頭に浮かぶのだ。いつまでもこの状態が続けば確かに発狂するかもしれない。
 そんな中で正気を繋ぎとめてくれるのは、すぐ傍に居る美佳の存在。
 好いた女を守ってやりたい。それだけが、今の烈火を――――

「……どうかしましたか、烈火さん」

「あ? おお、なんでもねえ、なんでもねえよ」
 美佳に覗き込まれ、はっ、となって烈火は身を引いた。ついぼんやりと感傷に浸っていたらしい。恥ずかしくなって足を大きく踏み出した途端、ずるっ、と足もとが滑った。
「おわあ!」
 派手にすっ転んだ烈火は、床と不本意な接吻を交わす羽目になった。その瞬間、ばしゃんっ、と水音が立つ。
 途端、口の中いっぱいに塩辛い味がむっと広がり、烈火は気持ちが悪くなって口の中の物をげほっと吐き出した。
「……大丈夫ですか?」
「うう、しょっぺえ! 海水飲んじまった……あん?」
 起き上がると、どういうわけか烈火は全身ずぶ濡れになっていた。単に転んだ所が運悪く水溜りだっただけなのだが……口の周りを舐めてみるとやはり塩辛い。海水だ。  なんでこんなとこに海水が溜まってんだ? と烈火は首を傾げる。
「……『溜まって』いるのではないようです。微かですが、一方向への流れを感じます」
 ちゃぷん、と海水に手を入れて美佳が言う。烈火も真似をして海水に手を入れてみたが良く解らない。美佳は目が見えない分触覚などが鋭いのだろう。物の形なども、触ればそれで解るというし。
「……遠くから水の音が聞こえますし、何処かから海水が入ってきているようです。これは……いけません」
 顔が見えない中で、美佳が緊張するのが手の感触から伝わってきた。何事だと訊こうとするや、美佳は烈火と手を繋いだままいきなり走り出した。
「お、おい、美佳!?」
 烈火は戸惑った声を上げるが美佳は答えない。
 とにかく、手を放してはぐれるのだけは避けないと――――そう思い、美佳に手を引かれたまま烈火は暗闇の中を走るのだった。


「負傷者の収容、完了しました」
「被害状況の確認急げ」
「センサーの設置に行く部隊は気をつけろ。まだ虫型兵器がいるかもしれないからな」
 破壊された虫型機動兵器の残骸が転がる広場の中、大勢の宇宙軍兵士がきびきびと立ち働いている。その様子を見たタカスギ・サブロウタ少佐はよく訓練してあるなと肯定的な感想を抱いた。多くの犠牲を出し、脱出手段も絶たれた中でパニックも起こさずに統率を失わないでいるその姿は、確かによく訓練が行き届いた兵隊の姿だ。しかしそれを認めるのが悔しいと思うのはなぜだろうか。
 崩壊の後サブロウタが戻った時、ここは本当の戦闘の真っ最中だった。突然制御不能になった虫型兵器による襲撃。何の前触れもないそれに不意を討たれた宇宙軍は最初こそ浮き足立って幾らかの犠牲を出したが、混乱する兵士たちをホシノ・ルリ中佐が纏め上げ、早期に統率を取り戻して反撃した事で、何とか撃退には成功した。
 それでも六分の一以上が死ぬか怪我で戦闘不能になり、さらに四分の一程度が市街地に取り残されたままなのだが。
 ――せめて、怪我人だけでも運び出したいところなんだが……
 サブロウタは広場の一角にこの島に兵士たちを運んできた大型輸送ヘリがおよそ十機、機首を並べてずらりと整列していた。……つい先ほどまでは。
 今そこにあるのは、破壊され炎上し、まだプスプスと火を燻らせる残骸の山だ。どういうわけか虫型兵器の数機が本物の爆弾を積んでいたらしく、特攻の一撃でヘリは残らず破壊された。
 絶海の孤島で孤立したのは、宇宙軍も同様……というわけだ。

「む……」

 嫌な奴に会った。その顔を見るなりサブロウタはそう思った。
 レイ・オールウェイズ宇宙軍中佐。彼は崩壊の時ちょうど近くにいたため、ほかの兵士と一緒にスーパーエステで拾ってきた。おかげで混乱も起きず、部隊は何とか平静を保っているのだが……
 サブロウタはこの男に対して完全に嫌いという感情が固定化していた。まだ顔を合わせて数時間しか経っていないが、

“イヤミたらしくて捻くれ者のカッコつけなスカしたルリにただならぬ視線を送る要注意人物”

 という評価が、サブロウタの中ではすでに定着していた。
「……中佐、ご苦労様です」
「ええ。そちらこそ」
 形式的な挨拶。見ている者がいたら火花散る光景が幻視できただろう。
 今日の今日まで面識など無い彼に不評や恨みを買うような覚えもないのに、レイはサブロウタに対して露骨な敵意を隠そうともしない。それが余計に癪に障る。
 しかし、レイが腹に手を当てて苦しそうにしているのはなぜだろう。
「負傷したんすか?」
「……大した事はありません」
 ツンと視線を逸らしてルリのいる仮設司令部の中へと入っていくレイ。ルリに近付けてなるものかと、サブロウタは割り込むようにそれに続く。
 中からルリの話し声が聞こえてくる。
「ハーリー君。市街地に出た部隊との連絡は取れた?」
「駄目です、なんかノイズばかりで……」
 ルリに問い掛けられ、マキビ・ハリ中尉は顔を向けないままで言った。彼の奮闘虚しく目の前の機械はザーザーとノイズを垂れ流すばかりだ。
 ルリもコミュニケで通信を試みてみる。……やはり、結果は同じ。
 他のオペレーターも似たようなものだった。皆自分が受け持つ部隊に通信を試みるもまったく繋がらない。中には心配のあまり泣き出す者や、逆に努力を放棄してヘッドセットを放り出す者も居た。
 ルリは重ねて訊く。
「統合軍とは? 本土とも繋がらないの?」
「ええ。どっちも試してみましたけど応答ありません。国際非常回線でも試してみましたけど同じです」
「やっぱり……あ」
 二人の気配に気が付いたか、ルリがサブロウタの方を向いた。
「ただいま帰りました!」
 背筋をピンと伸ばして敬礼する、サブロウタ。
「……ただいま帰りました」
 同じく背筋を伸ばして敬礼するレイ。しかし声が苦しげになるのは否めなかった。
「二人とも、無事で何よりです。……オールウェイズ中佐、負傷したのですか?」
 答礼を返しつつ、苦しそうな様子のレイを見てルリが言った。
「いえ、演習中に統合軍の兵士から一発蹴りを喰らっただけです。大したことはありません」
 レイは笑顔を繕って言ったが、その実かなり痛いであろう事はサブロウタにも察する事ができた。かなりいい所に当たったのかもしれない。
「そんなに強い人たちだったんですか?」
 そう訊いたのはハーリーだ。
「ええ。私の部隊の半数が死亡し、虎の子として用意したパワードスーツまでやられました。連中はかなりの手だれですね」
 ホントですかあ? とサブロウタ。
「俺もあいつらと戦いましたけど、どう見ても慣れてないヒヨッコでしたぜ」
「ヒヨッコ? 冗談ではない。少なくとも私が交戦した女は相当な実戦経験を積んでいると見た。型外れなところは確かにあったが、あれはヒヨッコなどでは断じて無い、熟練兵の動きだった」
 いや熟練兵とも違う。と深刻な顔でレイは言う。
「あの身のこなし……人間とは思えん。分が悪いと見るや、あんな真似をしでかすとは……」
「…………?」
「いや、今はどうでもいい……とにかく状況を整理しましょう。マキビ中尉。頼めますかな」
 レイは話を打ち切って目の前の仕事に向き直る。指名されたハーリーは「はいっ!」と立ち上がって気をつけの姿勢になる。
「ええっと……演習の途中、突然島の各所で原因不明の崩壊が発生。その後虫型兵器が制御不能に陥り、それによる襲撃で部隊は全体のおよそ六分の一が死ぬか怪我で戦闘不能。唯一の移動手段であったヘリも虫型兵器の自爆攻撃によりほぼ全機が大破。市街地に取り残されている部隊は完全に音信不通。そればかりか統合軍、本土の基地のいずれとも連絡が取れない状態です」
「は……ここまであからさまだとかえって冷静になれるな」
 乾いた笑いを漏らして、サブロウタが言う。
「通信を塞いで、脱出手段も完全に絶つ。俺たちをこの島に閉じ込めてどうこうってやっこさんの意図が見え見えだ」
 ルリたちは黙って頷いた。いまさら疑うまでも無い事だ。あの崩壊といい、虫型兵器の襲撃といい、この通信障害といい……何者かの作為でなければあり得ない。
「やっぱり、火星の後継者の仕業なんでしょうか?」
 ハーリーが言い、レイがそれに答える。
「まあ順当に考えればその可能性が一番高いでしょうがな。敵の姿も見えず声明の類も出ていない以上、断定は禁物でしょう」
 何を知ったかぶって、とサブロウタは内心で眉に唾した。地球連合軍という世界最大の暴力組織に攻撃を仕掛ける連中が、火星の後継者以外に誰がいると言うのか。
「制御不能になった虫型兵器は、まだ市街地に数十機はうろついていると思われます……すぐにでも捜索隊を編成して、助けに行くべきじゃないでしょうか」
 取り残された部隊が心配らしいハーリーはそう申し出たが、一同は難しい顔をする。
「助けに行きたいのはやまやまなんですが……オールウェイズ中佐。実弾はありますか?」
 ルリはレイに訊いた。制御不能になった虫型兵器がうろついている危険地帯に踏み込むには、せめて実弾がなければ危険すぎる。
 だが、レイは首を横に振った。
「一応、持ってきてはいたのですが……あれです」
 ガラス窓の外、レイが指さす先にあるのは、まだ火の手が治まらない一角だ。燃えているのは金属のケースだろうか。何人かが消火器を手に遠巻きに周りを囲んでいるが、危険なのか近づくに近づけない様子だ。何が燃えているのかは……考えるまでもない。
「狙ったように虫型兵器が突っ込んできましてな。もう使い物にならないでしょう」
「…………」
 落胆の空気が、その場に充満する。
「じ、じゃあ、エステパリスはどうです」
 諦めきれない様子のハーリーが食い下がる。
「エステパリスを護衛に付ければ、捜索に行けるんじゃないでしょうか」
「俺もそう思ったんだが……問題があるぞ」
 そう、サブロウタ。
「エスカルゴ……あのカタツムリみたいなエステ用の電源車があっただろ? あれが崩壊の時に全部壊れちまって、給電ができないんだ。下手に動かしたら、あっという間にバッテリーが無くなるぞ」
 この状況がどれだけ続くか解らない以上、頼みの綱であるエステバリスを使い潰すのは危険。かといってエステバリスを随伴させなければ、虫型兵器のうろつく危険地帯へ捜索隊など出せない。
 ここにいる兵の安全を考え取り残された兵を見殺しにするか、ここにいる兵を危険に晒してでも取り残された兵を探しにいくか。
 苦しい二者択一。
 だがレイは平然と答えた。
「出しましょう」
「え?」
「え? いともあっさり……」
 あまりに早い決断に、サブロウタとハーリーは呆気に取られた。
「危険は承知の上です。しかしかわいい部下を見殺しにするのは私の流儀に反しますからな。感情を抜きに純軍事的に考えても、彼等のようなベテランの兵を失う事は何にも替え難い損失となる。……違いますかな?」
 正論である。不本意ながら認めるしかない。
「そうと決まれば善は急げです。さっそく捜索隊の編成に入りましょう。タカスギ少佐にも護衛兼隊長として加わって欲しいのですが、よろしいかな?」
「……どうして俺、いや、自分が?」
 いつもなら即了承するところだが、サブロウタは渋る。
「しゃく……いや、タカスギ少佐がここにいるパイロットの中で最も有力な戦力と判断した結果です。私はここを離れられませんし、代わりに捜索隊のリーダーを務めてもらう分にも申し分ない。……何か問題でも?」
「いえ。ただハーリーとホシノ中佐をここに置いていくのがちょっと心配でしてね」
 ここに、のくだりをことさらに強調する。
 あんたのいる所に置いていくのが心配なんだよ――――サブロウタは暗にそう言ったのだ。
「ふむ。気持ちは解りますが心配は無用です。ここにいるのは皆ベテランの兵士です。たとえまた虫型兵器が襲ってきても、ホシノ中佐らの御身は守り抜いて見せましょう」
 サブロウタの言わんとする事を知ってか知らずか、だから安心して行ってください、とレイは笑みを張り付けた顔で言った。
「まあ、恐いなら他の者を出しますがね」
 怖いわけがあるか、とサブロウタは内心で憤慨した。
 だがルリたちを置いていくのはやはり心配だ。この男は信用できない。だがそれを口にしても、「やはり怖いのですね」と切り返されるのがオチだろう。
 サブロウタとしてはここに残りたいが、残る口実が思いつかないのだ。それに先ほどのレイの言い草も、サブロウタのプライドを刺激するには十分な毒を含んでいた。
「タカスギ少佐。私なら平気ですから」
 口を開いたルリの言葉が駄目押しだ。もう選択肢は一つしかない。
「……解りました。行きましょう」
 よろしいです、とレイは満足げに頷いた。
「重ねて言いますがご安心を。ホシノ中佐は必ず我々がお守りします。たとえあなたが帰ってこれなくても平気ですよ……」


 一方その頃……

「妃都美。そちらはどうだ?」
「コホッコホッ……駄目ですね。排水システムが完全に壊れています。これでは修理のしようがありません……」

 統合軍が陣を構える港湾施設、天を仰いだまま動かない水上輸送船の上――――それぞれ別の扉から出てきた楯身と妃都美は、顔を会わせるなりそう訊き交わした。妃都美の顔はススに塗れて真っ黒になっていて、まるで煙突の中にでも入ってきたような有様だ。
「そうか……こちらもいろいろ試してみたが駄目だな。機関室が完全に水に浸かったか、それともエンジンそのものが爆発で吹き飛んだか知らんが、どう弄くってもウンともスンとも言わん」
 これはもうお手上げだな、と楯身は落胆の溜息をつく。
 この場の統合軍にとってはこの輸送船が、現在のところ自力で島を脱出できる唯一の手段だ。何とか浮力は保たれているようだし、何とかエンジンを動かせないかと楯身はブリッジへ。奈々美は排水システムを動かして船の姿勢を回復させられないか試みるため、輸送船の中をあちこち回って――爆発でススだらけになった区域まで――操作端末を片端から操作してみたが、結局はスス塗れになっただけだった。
 顔のススを懸命に拭き取ろうとする妃都美を連れて輸送船を下りる。船を下りた先には和也、奈々美、そして美雪のメンバー全員が待っていた。つい先ほど和也がアントン准将と揉めて出てきた時を繰り返したような光景だ。違うのは駄目だった旨を伝えるのが楯身という事くらいか。

「そうですか。やはり駄目でしたのね」

 そう言った美雪の声音は、冷めた、という表現が一番近い。この生きて島を出られるかも解らない状況で、さも当たり前の事を聞いたように何の感情も無い口調。
 別に誰も驚いたりはしない。こういう奴なのだ、影守美雪という女は。
「島を出るのは現時点では無理ですな。本土が早く異常に気が付いてくれるのを待つばかりでありますが……」
「それまで持つかしらね。あたしらもそうだけど、みんなピリピリしてるわよ……」
 そう、奈々美。
 一同の周囲には大勢の統合軍兵士がいる。皆、荷物の整理をしたり怪我人の手当てを手伝ったり周辺を警戒したりと何らかの作業に従事していて、一見すると統制の取れた軍隊の様子に見える。
 ――――しかし、その間にはどこかギスギスとした嫌な空気が漂っていた。いつまた襲われるかもしれないという不安と、何ら有効な対策も取れないまま無為に時間を浪費していく事への苛立ち。それらを作業で紛らわそうとしてできずに、鬱屈したそれがジワジワと染み出して空気に淀んでいるような感じだ。
 無理も無かった。多くの同僚が虫型兵器の襲撃で犠牲になり、さらに多くのそれが市街地に取り残されていながら助けにも行けないのだ。この場にいる兵の安全を確保するという観点から見ればそれも正解かもしれないが、感情的には納得できないものがある。
 その内誰かが、堪忍袋の緒を切らして独走するかもしれない――――そんな危険な空気を、この場の統合軍は孕んでいた。
「通信は繋がらないし、捜索隊を出す許可は出ない。おまけに武器も無い……畜生、演習で拳を壊すんじゃなかったわ……」
 苦しげに奈々美が言う。
 せめて実包があれば状況は違ったかもしれないが、どうやら無いらしい。船の中で使い物にならなくなったのか、それとも最初から持ってきていないのか……他の兵士も誰も実包の置き場所を知らない事からして、後者の可能性が高い。
「少し前に伝令に飛んだステルンクーゲルはとっくに着いてる筈なのに、助けが来る気配は無いし……この分じゃあ」
「……そうでありましょうな」
 楯身が言う。多分クーゲルはたどり着けなかったのだろう。途中何があったかはあまり考えたくない……
 と、美雪が口を開く。
「良いんじゃありませんこと? 皆さん本当は烈火さんと美佳さんが見つかるまでこの島を離れる気なんてございませんのでしょ。むしろ船が壊れてくれて有難いと思うべきでは?」
 ……何たる事を言うのだ、この女は。
 楯身は不謹慎な事を言うな、とたしなめようと口を開きかけ――――先ほどから黙り込んでいる和也がバツの悪そうな顔をしているのに気が付いてそれを引っ込めた。美雪の言う事も案外、的を得ているようだ。
「……確かに二人は助けたいが……状況が悪化したには違いあるまい」
 和也の心象を慮ってそう言い替える。全てお見通しらしい美雪はニヤニヤと微笑った。
「まー、美雪の言う通りかもね。船を爆破した奴には感謝するべきかも。……でも、わっかんないのよねー……」
「……何がだ?」
 奈々美までが美雪に同調してしまい、かなりげんなりとした声で楯身は訊いた。
「あと少し爆発が遅かったらあたしらも船に乗ってて、今ごろみんな仲良く海の底よ。船が丸ごと吹っ飛ぶように仕掛けられてたらなおさら、ね。ならなんでそうしなかったのかが解んないのよ」
「む……」
 私もそう思っていました、と妃都美。
「船の中は私が一通り見てきましたが、被害の感じからするとどう見ても機関室のあたりだけ破壊されるようになっていました。爆発した時はまだそんなに沢山の人は乗っていませんでしたし。……まあ。機関室の近くにいた運の悪い人は何人か死んでいますが」
「私も運が悪ければそうなっていましたわね……」
 くわばらくわばら、と美雪はどこまで本気か解らない態度で手をすり合わせる。
「あれ、そう言えば……」
 思い出した、という感じに奈々美は美雪に顔を向ける。
「美雪。あんたはどうして船の中にいたのよ」
「そういえば……そうですね。周りを見回ってくると言ったきり、姿が見えませんでしたけど」
 奈々美と妃都美の二人に問われ、美雪は何故か頬に両手を当てて、
「あーら、嫌ですわねえ……お手洗いですわ。ちゃんとした女子トイレは船の中にしかありませんもの」
 ――ぴく、と妃都美の眉が動く。
「それは、もう済ませましたか?」
「あーらーらー、妃都美さんたら何をお聞きになりますの? ええ。済ませましたわ。用をたしていたらいきなりドカンですから、戦闘服のズボンを下ろしたまま飛び出してしまいまして……ご覧になりたかったですか?」
「はしたない事を言うな……淑女たる者、もう少し慎みと淑やかさを学んだ方が良いぞ」
 品の無い――と楯身は思った――事を言う美雪に、眉を潜めて楯身は言った。返ってきたのは「お堅いですこと」というせせら笑いだったが。
「……まあ、トイレの話はどうでもいいですけれど」
 脱線した話題を妃都美が戻す。
「私は、この状況は火星の後継者が私たちを殺すために仕組んだものだと思っていましたが……今の奈々美さんたちの話からすると、違うのでしょうか?」
「ああ、自分もそう思っていた。この演習は火星の後継者にとっては早めに潰しておくべき悪い種だろう。地球軍の精兵を減らす意味でも妨害工作を弄してくるのは理解できる」
 どうやらそれだけではないらしいが。と楯身。
「仕組んだのは火星の後継者として、どうやって、何を目的としてこの状況を仕組んだのか……不可解な事が多すぎるな」
「……そんな難しい話でもございませんでしょう」
 そう、美雪。
「要するに、敵は私たちを適当な数残しておくつもりなのではないかしら。ある程度数を減らして」
「…………」
「ここにいる方々皆殺しとまではいかないでしょうが、半分やそれ以上くらいは始末するつもりなのでしょうね」
「……もったいぶってないで、結論を言って頂戴」
 口元に手を当てて、奈々美が言った。それを一瞥して美雪は続ける。
「つまりですね。『居る』のでしょうここに。この状況を仕組んだ人間が」
 それは――――と全員が思っただろう。美雪が示唆した可能性は、恐ろしい事柄を表わしている。
「ここにいる誰かが、敵の内通者もしくは潜伏者……か。確かにそう考えればすべてつじつまが合うが」
 少し突き出た顎に手を当てて、楯身。
 ありえない、とは誰も言えないはずだ。
 火星の後継者の第一次決起では、地球連合軍――――特に寄せ集めの感が強い統合軍からは全軍の三割が離反したのだ。それだけ火星の後継者のシンパは軍や政府内に深く浸透しているという事。表向きは離反せず軍に残って、内部から火星の後継者に協力する者の存在は、今では疑う者など誰もいない。
「……敵の人間だけ生き残れば怪しまれるから、適当に残してその中に紛れるというわけですね」
 そう、妃都美。
「だけどそうなると、どこの誰が敵なのか……私たちのすぐ近くにいてもおかしくありません。どう思いますか? 美雪さん」
 なぜか美雪に話を振る。
「……そうですわね。もちろんここにいる方々ではありえないと私は信じておりますし、皆さんもそうだと思いますが……ほかの方々に対しては、例外なく疑ってかかるべきでしょう。たとえ見知った人間であってもね……」
 最後にそう言って、美雪はいつも通りの薄笑いを浮かべた。



 その場は、それで解散となった。
 一同はバラバラになり、思い思いの場所へ散っていく。ある者はただまんじりと時間を過ごすために、またある者は何か作業を求めて。
 和也は、強いて言うならば前者だった。
 今はただ、待つことしかできない。本当なら何か作業でもしていた方が気がまぎれるだろうが、今の和也はその気が無かった。作業をしながら考え事はできないからだ。
 そんな和也に、不意に声をかける者があった。
「……和也さん、ちょっといいですか?」
 声の主は妃都美だった。足早に和也へと歩み寄り、妙に深刻な顔をして隣に並んだ。
「どうしたの? 深刻な顔して」
「ここではちょっと言えませんから……そこのテントの陰で。なんでもない顔をしてください」
 言われるがまま、テントの陰へとついて歩く。
 妃都美はきょろきょろとあたりを見回し、誰もいない事を確かめる。人に聞かれてはまずい事を話すようなそぶりだ。何を言う気なのやら。
 少なくとも、愛の告白でないことは確かだろう。
「先ほどの美雪さんの話ですが……用をたしに船に乗って、そこで爆発にあったって言っていましたね」
「あー……ああ」
 和也は適当に相槌を打った。実を言うとそのあたりはさして重大な事でもなさそうだと思い、和也は半分以上聞き流していたのだが。
 しかし、妃都美はとんでもない事を口にした。

「……美雪さん、嘘を吐いています。あの人はトイレになんか行っていません」

「……え?」
 和也は泡をくう。
「確かに、あの船にはトイレが二つあります。でも、片方のトイレは配水管が壊れて使えませんでした」
「? 使用禁止のトイレなんてあったっけ?」
「あ、和也さんは知りませんね……私たちが演習をやっている最中に壊れたトイレがあるんです。わりと年季の入った船だから、よくある事なんだと」
「はあ。でもトイレはもう一つあるんだろ? そっちを使ったんじゃ……」
「使っていません。……使ってるはずが無いんです」
 妃都美は言う。
「だって使用禁止で無いもう一つのトイレは、爆発で吹き飛んだ区画にあるんですよ。美雪さんの言った通り『用を足してる最中にドカン』ときたのなら、美雪さんが無事で済むわけが……ありません」
 ――――沈黙する。
「いや、ちょっと待って……美雪が機関室に忍び込んで、船を爆破したって言うのか? まさかそんな……」
「私もそう思いました。だから少しカマをかけてみました」
「カマ?」
「『どこの誰が内通者なのか……私たちのすぐ近くにいてもおかしくありません』って。美雪さんが船を爆破したなら何かリアクションがあるかと」
 結局、そんなそぶりは見えませんでしたが……と妃都美は複雑な表情を見せる。
「その話、楯身や奈々美には話したのか?」
「いいえ。下手に動揺を広げるといけませんから。でも隊長の耳には入れておこうかと。……どのみち、美雪さんの話に嘘が含まれているのは確かですし」
「……解った。頭に入れておく。この件は僕が考えるから他のみんなには内緒にね」
 頷き、妃都美は歩き去る。多分美雪の事を見張りに行くのだろう。
 ――一体、何がどうなっているんだ。本当に美雪が船を爆破したって言うのか……?
 妃都美の話が本当なら、美雪は船の中にいた理由について確かに嘘を吐いている。妃都美のカマに反応が無かったといっても、その程度のはったりであのポーカーフェイスは崩れないだろう。
 逆に美雪が無実とすれば……今度は妃都美が嘘を吐いている事になってしまう。妃都美は船の中を見てきているから、思い違いということはまずあり得ないからだ。
 どちらかが嘘を吐いている……そうだとして、なぜ? 何のために? ――くそっ、僕が疑心暗鬼になってどうするんだ……!

 美雪、お前は一体何をしていたんだ……?

 思いも寄らない仲間への疑いに、和也はただ沈黙するしかなかった――――


 ――――真っ暗闇の中に、水飛沫の飛び散る音が高く響く。
 最初は雨上がりの道にある水溜り程度だった足元の水は、いつのまにか足首から下が完全に水に浸かるほどになっている。雨など降っているはずが無いのに、徐々に水かさが増してきているのだとようやく烈火にも解ってきた。
 烈火の手を引く美佳はどこへ行く気なのだろう。時折水の中に手を入れては方向を変え、まるで水の中に道しるべでもあるようだ。どこに行くんだと聞きたかったが、妙に焦っている様子の美佳を見ていると声がかけにくい。とにかく手を引かれるままについていくだけだ。
 そして五回ほど道を曲がった頃、二人は行き止まりにぶち当たった。元は通路があったはずの場所に、瓦礫が壁を作ってしまっている。
「行き止まりだぜ」
「…………」
 美佳はまた、足下の水に手を浸す。
「……この向こうです。烈火さん、瓦礫を除けられませんか?」
「んー? どれどら……」
 美佳に言われ、烈火は半信半疑ながら目の前の瓦礫に手を掛ける。
 見たところコンクリートの一枚壁だ。向こう側が完全に埋まってしまっている可能性も無いではないが……まあ美佳の頼みとあらば。無事な左腕を壁に押し付け、体重を乗せて力を籠める。
「ふんっ」
 浅い掛け声。
 押してみると、以外にあっさりと壁は倒れた。途端、急に目の前が明るくなった。暗闇に慣れた目にはいささか眩しいほどの光に思わず目を瞬く。
「ここは……?」
 目が明かりに慣れてくると、そこはわりと開けた場所だった。部屋ではなく、烈火たちが落ちた場所と同様、上の建物が崩壊の時に崩れて出来た空間のようだ。回り回って元の場所に戻ってきてしまったかと思ったが、瓦礫の形などが違う所を見るとそうではないようだった。
 決定的に違うのが、空間の真ん中から水……海水が絶え間なく湧き出している事だ。床に割れ目でもあるのか、ごぼごぼと音を立てて泡混じりの海水が湧き出してくる。烈火たちの落ちた場所にはあんな出来の悪い噴水は無かった。
 その光景が恐ろしく不吉なものに感じられ、烈火は半ば無意識的に噴水を止めにかかった。無事な左手で傍にあった瓦礫を掴み、噴水の上に積み上げる。わりとあっさり水の噴出は収まったように見えたが海水の流入を完全に止めるのは難しく、隙間からジワジワと染み出してきている。
 ……そういえば、と烈火はある事を思い出した。この島はメガフロートなのだ。
 メガフロートは、原理的には水上船と同じ物。巨大な鉄の箱が、内部の空気が生み出す浮力で海に浮いている……
「おい。美佳よ。これってもしかして……」
「……あれだけの崩壊が起こって、島が無事で済むはずは無いと思っていましたが……やはり、浸水していた……」
 浸水。それが水上船にとって何を意味するかは小学生でも解る。内部空間が水に浸食されれば、その分空気が逃げ浮力が低下する。増大する水と船体の合計重量が低下する浮力を上回った時、その船は――――
「……この島は間もなく――――沈没します」



「……駄目だ。こいつも殺られてる。くそっ!」
 叫び、歩兵の一人はやり場の無い怒りを拳で廃ビルの壁へと叩き付けた。その足下に倒れ伏した宇宙軍の兵士は、道路にうつぶせに倒れたままぴくりとも動かない。伸ばした右手は助けを求めているようだ。それをスーパーエステバリスのコクピットからカメラ越しに見たサブロウタも、顔を顰める。
 一番目に付く外傷はもげてどこかに行った左腕だが、致命傷は背中に穿たれた大きな風穴だ。左手から流れたらしい生々しい血痕から見て、虫型兵器と出会い頭に左腕をもぎ取られ、それでも意識を失うことなく必死に逃げたが、すぐに追いつかれて背中から心臓を刺し貫かれた――――といった所か。機械だけに容赦が無い……
「これで18人死亡確認か。徹底的だな……」
 唸るように、サブロウタは言う。
 十人程度の歩兵と、護衛のエステバリス二機で編成された捜索隊。サブロウタを頭とするそれが捜索に出てから、一時間ほどになる。
 出たまでは良かったが、道中目に付くのは宇宙軍や統合軍の兵士の遺体ばかり……生きている兵士には一度も遭遇できていない。その反面、虫型兵器とも全く遭遇しないのが不気味だ。
 予想通りと言うべきか、虫型兵器は市街地に取り残された兵士を片端から狩っているようだ。まだ見つかっていない兵士は大勢いるが、これでは何人生き残っている事やら……
「こちらタカスギ。現在までに死者18名、生存者0名を確認した。聞こえてるか? ハーリー」
 試しに通信を繋いでみる。するとノイズ混じりで――――というかノイズの中に混じってハーリーの声が聞こえてきた。
『りょうか……ました。そう……続行……ださい……』
「了解。捜索を続行する。以上」
 通信を切る。エステパリスの通信機であればまだなんとか通話圏内のようだ。
 遺体を仰向けにし、瞼を閉じてやる。せめて手向けの花も添えてやりたい所だが、今してやれるのはこれだけだ。エステバリスが動けるうちに、一人でも生存者を探さないといけないのだから。
「…………」
 スーパーエステの歩を進める、サブロウタの顔は固い。
 虫型兵器がいつまた襲ってくるかもしれない緊張もあるが、それは大したことはない。虫型兵器が相手なら、それが実包を持っていようがいまいが非武装のスーパーエステで撃退できる自信はある。
 だがそれとはまた別の疑念が、サブロウタの後ろ髪を引いていた。
「……おい、ちょっといいか?」
 後方を警戒するもう一機のエステパリスに回線を繋ぐ。僅かに砂嵐の混じったウィンドウが現れ、男性パイロットの顔が映し出された。
『何でしょう』
 感情の無い声。ずいぶん不愛想な態度だ。
「あんたたち、あの中佐さんの事どう思う?」
『オールウェイズ中佐ですか? 有能な隊長だと思っています』
「…………」
『中佐とはまだそれほど長い付き合いではないですが、志は同じです』
 ――部下からの信頼は厚い……か。
「あのよ。失礼な質問かもしれないんだが……」
 そう前置きして、サブロウタは問うた。
「あの中佐さんについて、何か怪しい話とか聞いてないか」
『怪しい話とは?』
「反連合思想とか……犯罪歴とか」
 これでも言葉を選んだのだが、自分でもかなり失礼な事を聞いていると思った。だが聞かずにはいられなかった。
 あの男は怪しい。そう思うのだ。
 第一印象が最悪だった事もあるが、どうにもあの男は油断がならない。誰かと話している時以外、常にルリを目で追っている……それだけなら別に珍しくはないが、自分やハーリーへの敵対的な態度も気にかかる。
 それだけではない……あの男は出発前、サブロウタに向かってこう言ったのだ。

『助けるのは宇宙軍所属の兵を優先。統合軍の人間は助けなくて結構です』
『な……!』
 サブロウタもハーリーも、きっとルリも――――これには言葉を失った。いくら嫌い合っていても統合軍は友軍だ。それを助けなくていいなど正気の沙汰ではない。 『おい、本気で言ってるの……ですか?』
『ええ』
 しゃあしゃあとレイは言う。
『統合軍の人間は統合軍の捜索隊が助けるでしょう。だからあなたは宇宙軍の人間を優先してくれればいい。エステパリスの収容力は限られていますしな』
『……了解。ただし場合によっては現場の裁量を行使させていただくので……あらかじめ了解のほどをお願いしますぜ』
『結構。くれぐれもお気をつけて』

 まるで助ける気など無いと言わんばかりの態度……これでどうして不信感を抱かずにいられるのか。
 印象だけで敵と決めつけるのは早計だが、気を許すには怪しすぎる。そう思うと、今度は何かよからぬことを企んでいるのではないかと疑念も湧いてくる。
『聞いた事が無いですね』
 パイロットは即答した。
『中佐は勿論の事、この部隊には反連合思想の持ち主など一人もいません。犯罪歴についても同様です。あまりにも失礼ではありませんか?』
 気分を害した様子で言った後、パイロットはウィンドウ越しにジロリと睨んできた。サブロウタは僅かに怯む。
『もしかしてタカスギ少佐……中佐を疑っているのですか?』
「う……い、いや違う。そんなつもりは毛頭無い」
 本当は大ありなのだが、それを口にするのは拙い。
『自分たちはむしろ……少佐の方が怪しいと思いますがね』
 ぷつりとウィンドウが消える。
 なにもそこまで怒ることないだろうに。パイロットのえらく刺々しい態度にやれやれと首を振って……
「……!?」
 ぎょっとした。
 下を歩く歩兵たちまでが、凄まじいまでの形相でサブロウタを見上げていた。その殺意さえ閃く眼光にスクリーン越しに射抜かれ、サブロウタは背中にぞっ、と来るものを感じた。
 ――なんなんだ、こいつらは。
 どうやらおかしいのはレイだけではないらしい……サブロウタはそう思った。
 そして今は下手に波風立てまいと決めて、気付かない風を装ってスーパーエステの歩を進めた。



 烈火は走っていた。美佳の手を引き、水飛沫を散らしながら。走って体力を消耗する事は危険だが、もうそんな悠長な事は言っていられない。
 最悪の事態になった。もうこれだけ水が入っている――――それは、島が完全に沈没するまでそう時間は無いという事を示していた。
 特に二人が今いるここは危険だ。ここは最下層。すぐ水で一杯になる。とにかく急いで、上の階に上がって行かないといけなかった。
 ――くそ、水が足にまとわり付いてくる。まるで烈火たちを引きずり込もうとしているようだ。忌々しい。
「と、とにかく脱出だな。上に行って、他の奴等にも水が入ってきてる事を知らせて、それから……」
 早口にまくし立てる烈火。
 しかし美佳は、少し言い辛そうな様子で言う。
「……確かに、それが最善でしょう。ですが……」
「なんだよ?」
「……この島には、まだ帰郷を望む人たちがいます。ここが沈めば、きっと彼等は悲しみます」
「いや、そうだけどよ……」
 今は俺たちの命の方が先決だろ……烈火はそう思ったが、どうにもそれを口にするのは憚られた。
 美佳の顔は本気だ。あのぬいぐるみの事を思い出しているのだろうか。戦乱の中で持ち主の手を離れ、焼け焦げた躯を晒していた、あの可愛そうなクマのぬいぐるみ。
「……私は、なんとかこの島を救ってあげたい。沢山の人の思い出が在るここを守ってあげたいです」
「思い出、ねえ……」
 渋る烈火だったが、ふとある事柄が頭に浮かんだ。
 ――そういえば、あの青いエステバリスに見つかってマンションの部屋に逃げようとした時、部屋の戸が溶接されていたよな……
 あの時は何でこんなバカな真似をしやがるんだと心底恨みに思ったが、頭を冷やして考えてみれば少しは部屋の主の気持ちが解る気がした。……思い出の部屋を、人に荒らされたくなかったのだろう。
 家族と過ごした思い出……ああ、畜生め。そんなお涙ちょうだいな話を俺に見せ付けるんじゃねえよ。
 そんな話を聞かされたら、何とかしてやりたくなっちまうじゃねえか。
「あー……この島を助けるには、どうしたらいいんだ?」
「……不測の事態による浸水被害は考慮されているでしょうから、各ブロックごとの隔壁を閉鎖すれば水の流入を食い止めることができます。それらの集中制御システムを見つけて、動かすことができれば……」
「沈没は免れるか。いいじゃねえの上等だ。島でも大陸でも助けてやろうじゃねえか……!」
「……ありがとうございます」
 ぎこちなく、それでもはっきりと美佳が微笑んだ。その微笑みに、烈火の心臓はまた刺激される。
「はは……自分が生きるか死ぬかの瀬戸際に島を助けようなんて、美佳はバカだぜ」
 あまり見る機会に恵まれない美佳の笑顔を見れてうれしいのだが、照れくさい気持ちを隠すように言ってしまう。こればかりは男の性か。
「そしてそれを手伝う俺も大馬鹿もんだ! 行ってやらあ、チキショー!」



 宇宙軍捜索隊の行軍は、生存者を見つけられないまま、間も無く時間切れを迎えようとしていた。
 歩兵たちも真夏の熱気による消耗と、誰一人として生存者を見つけられない徒労感から疲労の色を見せ始め、エステバリスのバッテリーも帰りの事を考えればそろそろ捜索を切り上げなければいけないところまできている。
 ギリギリまで捜索を続けるつもりだったサブロウタも、これはもうダメかと絶望的な気分になってきた時、その気分をかき回すような爆音が響いてきた。
「何だ? ヘリの音がするぞ」
 もしやお待ちかねの助けが来てくれたのかと希望の光が一瞬射したが、それはあっさりと裏切られた。
 やってきたヘリは、どことなく見覚えのあるそれだったからだ。
「あれは……またあいつらか」
 げんなりとした声で、サブロウタは言った。
 ヘリが近くまで寄ってくると、その腹にペインティングされた『♂』のマークが見えた。数時間前に見たものと同じ、火星の後継者・森口派の宣伝ヘリコプター。サブロウタたちに気が付いているのかいないのか、上空を素通りしながら罵声を撒き散らしていく。演習を中止しろ、この演習は平和に寄与しない、諸君らも平和を望むなら武器を捨て対話を――――内容に変化は無い。つい先ほどと全く同じスローガンを繰り返している。どうやらあれは録音のようだ。
「おい、追い出したんじゃなかったのか? あれ」
『そのはずなんですが……近くに母船でもいるのかもしれないですね』
 うんざりした声で言い交わす。手出しするなと言われているし、この場は無視するに限る。
 それでもやはり、この罵声にはささくれ立った神経が逆撫でされる。訓練用のミサイルでもぶち込んで黙らせてやろうかと一瞬邪気が湧いたが、ついにしびれを切らした様子の奈々美がすっくと立ち上がると、その事は頭から吹き飛んでいた。
『誰かいるぞ!』
 望遠スコープを覗き込んでいた歩兵が、前を指して叫ぶ。サブロウタもカメラを望遠モードにすると、なぜか道路の真ん中に突き立っている柱のような物に項垂れるようにして座り込む人影が見えた。まだ遠くてよく見えないが、三人ほどいるように見える。
「今度こそ生存者かもしれない。行くぞ!」
 下の歩兵たちが走るのに合わせてサブロウタも人影に向けてスーパーエステを進めた。正直また死んでいるのではないかという諦めが強かったが、その人影の今までとは少し違う様子に今度こそ生存者ではないかと期待が持てた。
 だが人影に接近し、その姿が鮮明に見えるようになると、そんな希望は粉々に打ち砕かれた。
 ――なんだ、ありゃ。
 道路に突き立っているのは高層建築物などに使われる太い鉄骨だ。崩壊の時近くの建物から落ちたにしては道路の真ん中に一本だけ、それも垂直にそそり立っているのは不自然すぎる。それにもたれかかっているのは宇宙軍か統合軍か――――所属などこの際どうでもいいが、戦闘服を着た三人の兵士だ。いや、もたれかかっているのではない。
 縛り付けられているのだ。胴から頭まで全身を執拗なまでに鉄骨に縛り付ける何かはよほど強く巻きつけてあるのか、輪郭が少し膨らんでいるのがここからでも解る。
 三人とも意識は無いらしく、力なくぐったりとうなだれている。死んでいるのかと思ったが、スーパーエステパリスのコンピュータが表示した情報はそれを否定した。
 体温――――対象A 36・7℃――対象B 36・4℃――対象C 36・6℃――すべて正常値。
 脈拍――――弱冠の乱れが認められるも、脈拍あり。
 呼吸――――少々弱いながらも、自発呼吸あり。
 対象、いずれも生命反応あり――――
「生きてる……のか」
 呆然とする頭で、サブロウタは呟いた。
 三人の所へ辿り着く。近くで見るとその酷い有様がよく解った。三人を鉄骨に縛り付けているのは針金のようなワイヤー状の物で、獲物をからめ捕る雲の糸さながら、これでもかというほど執拗に巻きつけてある。それも肉にワイヤーが食い込み出血するほど強くだ。ついでに殴られでもしたのか頭からも血が流れていた。
 陰惨な拘束を行った敵の姿は見えないが、訳も無くこんな手間のかかる真似をするはずが無い。こちらが助けようとしている隙を狙ってくるに決まっている……サブロウタは円陣防御の態勢を作るよう、兵士たちに命じた。
「長居は危険だ。急げ」
『待ってください。いまワイヤーを……』
 歩兵の一人が持っていたニッパーでワイヤーを切断しにかかる。だがその時、縛られていた三人の内の一人が意識を取り戻したのか僅かに顔を上げ、呻き声を漏らした。
『さ……触るな……!』
 弱々しい、しかしはっきりとした声をサブロウタは繋がったままの通信越しに聞いた。驚いた歩兵が縛られた三人を調べ、裏返った叫びが上がった。
『爆弾だ!』
「なんだって? 本当か」
『間違いありません! 時限式の奴です。爆発までおよそ1800秒……あと30分ほどです!』
「解除できないのか!?」
『無理です! ここには爆発物処理の訓練を受けた奴はいません! このワイヤーも通電していて、切ればその場で爆発します!』
 くそっ……! サブロウタは毒づく。野郎、次から次へと陰険な罠ばかり仕掛けてきやがって……いったいどこのサド野郎だ。見つけたら即ぶっ殺してやる。スーパーエステでプチッと踏み潰してやる……!
 ひとしきり犯人を罵倒した後、サブロウタは仮設司令部へ連絡を試みた。大分離れてしまったが、通信装置の出力を最大にすればまだ何とか通話できないか。
「ハーリー! 聞こえるか! 聞こえたら返事してくれ!」
 頼む、繋がってくれ……! 祈るような心境で叫ぶ。
『サブ……タさ……で、か』
 ノイズの中から、微かに声が聞こえた。間違いないハーリーの声だ。
「聞こえたか! こちら生存者を三人見つけた。だが爆弾を仕掛けられていて動かせない。すぐ爆弾処理ができる奴を寄越してくれるよう、中佐さんに――――」
 希望の光を逃すまいと、要点を早口にまくし立てる。
 だがハーリーにそれが伝わったかは確認できなかった。逆に慌てた様子のハーリーの声が、ノイズの中から聞こえてきた。
『……ブロ……ん、こっ……たいへ…………かんちょ……が……!』
『マキ……ういも……やく……』
『あ……オール……ズ中佐、ま……』
 そこで声が聞こえなくなった。
「ハーリー!? どうした、艦長が何だって、何かあったのか!?」
 必死に呼びかけるが返事は無い。聞こえるのはただノイズだけだ。
 ――まさか、向こうでも何かあったのか? ノイズでよく聞こえなかったが、ハーリーは確かに『大変』『艦長が』と言っていた。それに途中で聞こえたのは確かにレイの声だった……
 まさかあの野郎、ホシノ中佐とハーリーに何かしたのか!? サブロウタの中で不信と不安と怒りが一斉に巻き上がったその瞬間、甲高い警告音がコクピット内に響いた。
「敵反応……!? しまった!」
 レーダーに目を落とす。サブロウタら捜索隊の周りはもう敵性反応を示す赤い光点で一杯になっていた。ジョロやバッタなどの虫型兵器が十か二十……あるいはもっとか。こんなに集まるまで気が付かなかったなんて、俺としたことが……!
「完全に包囲されてるな。一難去らぬうちにまた一難か……」
 どうする? ここで戦えば確実に犠牲者が出る。まともな武器も無くバッテリーも残り少ないのでは、捜索隊の歩兵どころか自分の身を守れるかも解らない。かといって爆弾を縛り付けられた生存者がいるのでは逃げる事もままならない。おまけに司令部の方ではルリやハーリーが危険に晒されているかもしれない……

「戦うも地獄、逃げるも地獄か……畜生め、こんなところで殺られるわけにはいかねえだろう……!」



 同時刻、統合軍の司令部がある港湾施設に爆音が轟いた。
 港の外れにあった小さな倉庫が突然、爆発――――また襲撃かとその場の統合軍兵士たちは色めき立つ。
 爆発音は、ただの一度。その一度は爆心地となった倉庫にとって耐えられない傷を負わせるには十分な威力があった。まずは外壁の底部がぐにゃりと歪み、そこから文字通り崩れ落ちるように全体が崩壊。殆ど自重に耐えかね自壊する形で崩落した。
 この間、僅か数秒。見ていた統合軍の兵士たちが声を上げる間もないほどあっという間の事だった。
 舞い上がる噴煙。その中から数人の人影が走り出てくる。彼らは埃に塗れ、息を塞がれながら必死に叫んでいた。
「ゴホゴホッ……! た、大変だあーっ! 倉庫で爆弾が爆発した!」
「ガキどもが生き埋めになったぞ! 誰か手を貸してくれーっ!」
 その声を聞いた何人かが爆発のあったほうへ走った。まだまだ動くにも関わらず格闘戦能力が低いばかりに、役立たずの不名誉なレッテルを張られたステルンクーゲルも名誉回復のチャンスを逃すまいと現場へ向かう。
 しかし必死の救助活動の甲斐も無く、生き埋めとなった者はおろか、その遺体さえも一つとして見つかることは無かった。数分後、統合軍の生死不明者のリストに新たな名前が書き加えられる事となる。
 黒道和也、楯崎楯身、田村奈々美、真矢妃都美、影森美雪、以上五名行方不明。死亡の可能性が濃厚――――と。










あとがき(なかがき)

 贖罪の刻、第七話の中編をお送りしました。……はい、中編です。

 烈火と美佳は死にゆく島を助ける事を決意。一方宇宙軍、統合軍は共に脱出手段と武器を喪失し、いろいろきな臭い気配の漂う中、事態はさらに悪化の回でした。なんだかB級パニックアクション映画みたいな展開になってきました。

 今回は動きがあまり無い和也グループはあえて描写を最低限にし、サブロウタの視点から見た宇宙軍と烈火を重点的に描いてみました。……書いてみてルリのセリフの少なさに唖然。ヒロインの立場はー!

 次回でやっと孤島編は『結』へ至ります。烈火たちは死にゆく島を救えるか!? 爆発に巻き込まれた和也たちの生死は!? ルリたちの身に何が!? 君は、生き残る事が出来るか? てな感じです。

 初めましてゴールドアーム様、至らない身ですが今後ともご教授願います。

 最後に……今回また三ヶ月も更新を滞らせて申し訳ありません。次回からは、もっと努力いたします。

 それでは、また次回お会いしましょう。





ゴールドアームの感想

 どうも、ゴールドアームです。
 続き、読ませていただきました。
 前回も言いましたが、読んでみて景色がはっきり見えるのはシードさんの長所ですね。
 まだ終わっていないこともありますので、構成その他については言及を控えさせていただきます。
 パニック物みたいと言っておられていましたが、中盤に当たる位置で緊迫感を盛り上げていくのはよい手法です。TRPGのシナリオなどで使われる言葉に、『押し』と『引き』というものがありますが、シードさんはこれの使い方がうまいと感じました。
 キャラたちの行動に対して、外的要因から圧力をかける押しと、動機を刺激して行動を誘う引きを巧みに配置しています。烈火くんを例にとりますと、地下に閉じこめるという押しでまず動かし、これによる行動が煮詰まってきたところで島を救うという引きを持ってくるあたり、なかなかのものです。
 適切に配置された押しと引きは、キャラクターをアグレッシブにしますからね。
 この調子でがんばってください。
 
 
 
 なお、前回も指摘した誤字、今回もいくつか目につきました。今回のはあからさまに変換ミスなどの間違いでしたので、気づいたものはこっそり直してしまいましたが。
 一命、確立、触角などが不適切に使用されていましたので変換の際はお気をつけて。
 この手の誤字は一度読み直せば割とあっさり見つかるタイプのものですから、きちんと校正しましょう。誰か他人に読んでもらうのも効果的です。



 では、ラスト、がんばってください。ここをきちんと決めれば今回の話の作りからしてぐっと盛り上がる良作として評価できると思いますので、楽しみにしています。

 ゴールドアームでした。