中東に来てから、そう長い時間が経ったわけではないけれど、ある程度馴染んだつもりはある。
 日本のジメジメとした、蒸されるようなそれとは全く違う、肌に突き刺さるような暑さにも慣れてきた。ドライヤーの温風のような砂埃を孕んだ嫌な風も平気になってきた。服の中に容赦なく入り込み、汗と結合して肌に張り付く砂の不快な感触も気にならなくなってきた。
 この国の公用語も即席ながら会話に支障ない程度には覚えた。クウェート基地最寄の街はすっかり道を覚え、仕事が無い時は皆でそこにある洒落た雰囲気の喫茶店でお茶を飲んだりもした。
 しかし、
「なーんか……ここは違うね」
「何が違うと?」と独り言に反応した楯崎楯身に、「雰囲気が、かな」と黒道和也は答えた。
 21世紀後半の建国以来、開放路線を取っているこのバビロニア共和国では、中東でよく連想される宗教様式を目にする事はそう多くない。少なくともそこらの街を歩いている限りは。
 大都市圏には当然のように高層建築物が立ち並び、街ゆく人々もお洒落に着飾っている。地方によって違いはあるだろうが、この開放的、あるいは世俗的な外国の文化は、今や中東においても広く浸透していた。
 しかし、と和也は、車の窓から外を窺い見て思った。
 バビロニア共和国の南部に位置する、ジャザンというこの町はそんな世俗的な周辺とは明らかに趣を異にした感じがある。
「女の人は民族衣装を着ていない人なんてほとんどいない。男の人もみんな地味な格好してるし……」
「そういえば、民家の屋根に電波放送のアンテナや、ケーブルが繋がっていないところも多いですな。娯楽や情報が制限されているのでありましょうか……」
 和也の物言いに、楯身も頷く。
 この町は、まるで異文化を拒絶しているよう。中東諸国の中には宗教原理主義を貫いているところもあるが、バビロニア共和国は開放路線を取っているはず。なのにここだけ違う時間が流れているように和也には見えた。
 この町……ジャザンは、昔から過激派の集まる場所として悪名高い町なのだ。そして今でも、火星の後継者に扇動された現地人テロリストが多く巣食う場所でもある。こうして普通の車に乗って一般人の振りをしなければ、また前のように道路に仕掛けられたIEDや狙撃手にいつ狙われてもおかしくない危険地帯だ。
 こうやって待機している間にも、どこから銃弾が飛んでくるか……そんな張りつめた空気を、コミュニケから聞こえてきた電子音が震わせた。
『こちらブレード5。狙撃位置につきました。しかし建物や遮蔽物が多く、狙撃可能範囲は狭いです』
『……ブレード6同じく……目標内部のスキャン完了。人数はおよそ八人……多数の武器を所持しています』
 ブレード5――真矢妃都美と、同じく6の神目美佳からの準備完了の知らせに、和也は「ブレードリーダー了解。そのまま待機して」と伝えた。
 コールサイン『ブレード』それが和也たちの任務中の呼び名だ。伝えてきたのはホシノ・ルリ中佐だが、考えたのは多分タカスギ・サブロウタ少佐だろうなと和也は思っている。あの人もなかなか……と、次の報告が来た。
『こちらブレード3。こっちも位置についた。いつでも突入できるぜ』
『同じくブレード4。予定通り、裏口にはスタン・トラップを設置しといたわよ』
 3の山口烈火と、4の田村奈々美からの報告。が、一人足りない。
「ブレード7はどうしたの? おい美雪! 聞こえてたら返事しろ!」
『そんなに大きい声出さなくても、ちゃんと聞こえてますわ。ブレード7。配置につきましたわよ』
 茫洋としたブレード7――影守美雪の返事。
 やれやれ……と楯息をつく和也。言いたい事はいくらでもあるが、今はそれどころではない……
「じゃあ、全員そのまま待機。僕の合図で一気に突入だ。……楯身、行くよ」
「了解しました」
 各々銃を手にし、車から出る。顔を見られないようフェイスマスクで顔を隠すのは、これが戦闘任務である証拠だ。
 目標は目の前の民家……テロリストの、隠れ家だ。



 機動戦艦ナデシコ――贖罪の刻――
 第十一話 綺麗なバラには毒がある 前篇



「作戦通り、僕と楯身ブレード2が正面から行くから、烈火ブレード3奈々美ブレード4は横合いから、美雪ブレード7は二階からそれぞれ突入してテロリストの身柄を確保。美佳ブレード6妃都美ブレード5は索敵と、狙撃での援護をよろしく」
『またわたくしは単独ですの? 和也さんも無茶を言いますわねえ』
 作戦事項を確認する和也に、美雪が文句をつけてきた。言い返そうとする和也だったが、それよりも早く楯身が叱責を浴びせた。
「馬鹿者。せめてここでは隊長、あるいはブレードリーダーとお呼びしろ。単独行動が適任なのはお前が一番解っているはずだ。つべこべ言わずに給料分働け」
『……ふう。ブレード7了解、ですわ』
 美雪は渋々といった感じで従った。
 まったく、扱い難い女だ……内心で嘆息し、テロリストの隠れ家の前に立った、その時。
「おい。そこで何をしている?」
 不意に後ろから声をかけられ、和也と楯身は振り返った。
 そこに居たのは……二人組の警官。
「…………」
 和也と楯身は、一つ目を合わせる、……そして、頷く。
「僕たち……いや、我々は統合軍……今は宇宙軍か? とにかく、ここにテロリストが潜伏しているとの情報が入った。これから摘発を行うつもりだ。あんたたちは周辺住民に被害が……」
 出ないようにしてくれ――――と言い終わらない内に、警官たちが動いた。
「!」
 警告も無しに突き出される拳銃。和也はそれを見ると同時に拳銃を掴んで引きよせ、体勢を崩した警官の顔面目掛けて肘打ちを叩きつける。どさりと拳銃を取り落とした警官が倒れ、同時に楯身ももう一人の警官の腕を捻り上げ、完全に拘束していた。
「ったく、本当にいきなり撃ってくるなんて。あんたたちはそれでも……」
「隊長!」
 鋭い楯身の声。
 テロリストの隠れ家……そのちょうど向い側にあった空き家から、ざっと四・五人ほどの警官がライフルやショットガンを手に飛び出してきた。和也と楯身は咄嗟に路肩に止めてあった車の陰に隠れ、すかさず銃撃が浴びせられる。
「まだ居たのかよ! こんな時に……!」
 悪態をつく和也だったが、それで状況が良くなるわけも無い。テロリストの隠れ家から怒鳴り声が聞こえ、中がにわかに騒がしくなる。
 ――やばっ! 逃げられる!
「隊長、指示を!」
「あー……もう! 全員突入! こっちは僕とブレード2で何とかするから、みんなはテロリストを捕まえろ!」
 了解! と五つの返事。他のメンバーに浮足立った様子はない。作戦開始前から早々に予定が狂ったが、ここは皆に任せるしかないだろう。
 ――想定内の事態ではあるけど……くそったれ!
 和也は憤りを込めて、襲ってきた警官たちに反撃の銃弾を送り始めた――――



 和也の突入命令を聞くや美雪は動いていた。待機位置から飛び出し、少し助走をつけて思いっきり地面を蹴る。その瞬間に足に仕込まれた人工筋肉が力をフルに発揮し、美雪の身体は一足飛びで数メートル飛んだ。
 空中でくるりと一回転し、両腕を交差して顔をガード。そのまま足から二階のガラス窓を突き破って突入。割れ飛ぶガラスの飛沫の向こうに、銃を手に驚いた顔の敵が見えた。その数は――――四人!

 ――まったく、和也さんも無茶を言いますわねぇ……!

 ぎらりと凶暴な光を瞳に宿らせ、美雪は弾けた。一度の踏み込みで正面にいたテロリストの文字通り目と鼻の先へ飛び込む。「な……!」とテロリストが声を上げようとした瞬間、美雪はその右腕を振りかざしていた。
 はしゅう……! 空気と皮と肉が切り裂かれる音。そして噴き出す鮮血の噴水。
 美雪の五指に隠された特殊合金製の爪――――暗殺者の爪は、鮮やかにテロリストの頸動脈を切り裂いていた。
 一瞬の出来事に一時思考が停止していた残りのテロリスト三人も、ここでようやく我に返ったようだ。
「こ……この野郎!」
 叫びと共にナイフの一撃が繰り出される。それを上体を逸らすだけで避け、お返しにVサインの形を取った左手を、テロリストの両目へと突き入れた。

 ぶちゅ、

「――――っぎぃああああああああああああああああああっ!?」

 恐ろしい悲鳴が上がる。両目を潰された奴は放っておいて次に目を向けると、美雪に照準を合わせた二丁の自動小銃が目に入った。
「お、おい何やってる! 撃て! 撃っちまえ! 殺されるぞ!」
「わ、解ってる! よ、よ、よ、よくもタジクを! 殺して、殺してやるからな!」
 恐怖にがたがたと震え、まともに銃の狙いも定まらない。……とはいえ、こんな狭い部屋の中で自動小銃をフルオートで乱射されれば十分脅威か。
 何と言っても逃げ場が無い。弾丸を防げる遮蔽物も無い。二人は離れて立っていて、一度に倒す事も難しい。
 絶体絶命。四人もいる場所に単独で突入した、ある意味当然の帰結。

 ――それでも、美雪の口元には笑みが浮かんでいた。

「ウワァ―!」
 叫び声と共にフルオートの掃射が始まる。当たれば即、死に繋がる弾丸の大盤振る舞い。殺意のスタッカートだ。前方への跳躍で最初は避けたが、すぐ壁にぶち当たり――――瞬間、美雪の体は“跳ね返った”。
「な――――っ!?」
 テロリスト二人が仲良く仰天する。
 美雪は空中で姿勢を変え、壁を蹴って反対側へ飛んだのだ。壁から壁へ、天井や床も駆使した三次元機動に翻弄され、乱射される弾丸は美雪に掠りもしない。
 腰に帯びた45口径拳銃を抜き放つ。空中で構え、躊躇無しに二度続けて発砲。そして着地し再度二度発砲。ダブル・タップと呼ばれる、特殊部隊が室内戦で用いる射撃法だ。
「ぎゃあ!」
「ひぎい!」
 被弾の苦痛に呻き声が上がり、銃ががしゃっと床に落ちる。美雪の弾丸はテロリスト二人の利き腕を正確に撃ち抜いていた。
「さあ……降伏なさい。それとも、この場で天に召されるのがお望みかしら?」
「だ――――誰か! 助けてくれ! 神よ、ああああああああ……!」
 悲鳴を上げてテロリストの一人が逃げ出す。愚かな。どうせ下にいる烈火たちに捕まるだろう。そう判断した美雪は逃げた奴を追わずに、見捨てられて呆然としている最後のテロリストに向き直った。
「あらあら、腰を抜かしてお可哀想に……あなた、恋人さんはいらっしゃいますか?」
 怯えるテロリストに、現地語で美雪は問いかけた。
「あ……あが」
「どうなんですの?」
「い……いる」
「そうですの」
 んふっ、と美雪は満面の笑みを浮かべる。それに希望を見出したのか、テロリストも泣き笑いの表情になる。

「それはご愁傷様ですわ」

 瞬間、美雪のしなやかな足がひゅっと跳ねあがり、テロリストの股間を直撃した。
「―――――――――――――――――――!」
 人工筋肉で筋力を強化した足の一撃。声にならない悲鳴が上がる。そこへ最後の止めに、スタンガンの雷光一閃――――
「恋人さんを悲しませた事を、ムショの中で悔いるのですわね」
 オホホホ、と子悪魔的に笑う。
 そこへ、妃都美の切迫した声が聞こえてきた。
『ブレード5よりブレード7へ! 聞こえますか!?』
「こちらブレード7ですわ。何か?」
 妃都美から事の要点を聞くと、美雪は「そうですの」と答え、そっとコミュニケのマイクを指で塞いで――――チッ、と舌打ちした。

「……あの、ブタゴリラめ」



 時間は、少し遡る。
 和也の指示を受け、奈々美と烈火のチームもまた即座に動いた。烈火が突入口として確保しておいた窓を叩き割って、中に閃光音響手榴弾を投げ込む。
 数秒の間をおいて、轟く閃光と爆音。概念的には古くからある武器だが、効果は十分だ。閃光に目が眩み、爆音が耳を麻痺させる。中から聞こえたテロリストの悲鳴は効果があった証拠だ。
 すぐさま奈々美は窓ガラスを体当たりで突き破る。ほぼ同時に上からもガラスの破砕音。二階から美雪が突入したのだ。
「さあさあさあ、神妙にお縄を頂戴しなさいよ!」
「命が惜しかったら抵抗すんじゃねえぞコラ!」
 二人して一喝し、床で悶絶しているテロリスト二人に銃を突き付け、銃身下に装着したスタン・スティックのスイッチを押す。バチッ! と先端から青白い電光が弾け、ショックを受けたテロリストが気絶する。これで二人制圧。
 ドタドタと走りまわる音が聞こえ、奈々美と烈火は二手に分かれてそちらへ走る。
 普通なら、最低でも二人一組ツーマンセルで死角をカバーし合って行動するべき室内戦で二手に分かれるなどあり得ない。しかし和也と楯身が足止めを食らい、烈火と奈々美が唯一の突入チームとなった現状を受け、やむなく戦力を分けるしかなかったのだ。
 幸い、ソリトン・レーダーは完全に機能していて、美佳には室内の間取りと敵の位置が手に取るように解っている。神の眼のバックアップがあればこその措置だ。
 奈々美はすぐに逃げようとするテロリストの姿を捉え、トイレに逃げ込みドアを閉めようとするその手に向かってライアットガンをぶっ放す。テロリストは左の手首から先を粉砕され、悲鳴を上げて便器に倒れ込む。
「動かないで! 武器を捨てて手を上げなさい! さもないとぶっ殺すわよ!」
 左手と一緒に、戦意も失っていたのだろう。テロリストはあっさりと両手を上げ、奈々美はそいつを手錠で拘束した。



「止まれコラ! 撃つぞ! 撃っちまうぞ!」
 一方、逃げるテロリストの背中を追いながら、烈火はイラついていた。
 ――出来るだけ生け捕りにしろって和也に言われてるからな。ったくめんどくせえ……
 このようなチマチマしたやり方は烈火がもっとも苦手とする分野だ。むしろマシンガンを掃射したりロケットランチャーをぶっ放したりして、一気に多くの敵を制圧してやりたい。許されるなら建物もろとも吹き飛ばしてやりたい。
 しかし命令は命令。烈火は逸る心を必死に抑えねばならず、そのせいで撃つに撃てなかった。殺さないよう急所を外して撃つなど、烈火の領分ではない。非殺傷用の麻酔弾の発注が間に合わなかったのが悔やまれる。
 まあいい。このまま行かせてやればいい。どうせこの先には――――
 裏口の戸を開け放ち、テロリストは外に逃げようとする。途端に青白い電光が迸った。
 スタン・トラップ。モーションセンサーで敵を感知し、前を通る者に容赦なく電撃を浴びせ無力化する非殺傷兵器だ。その威力は絶大で、「ギャー!?」と悲鳴を上げてテロリストは気を失った。
「うはははは。スタン・トラップの効果てきめんだな。さあ、観念……」
 勝ち誇った気分でテロリストに近付く烈火。とりあえず手錠でもはめるかと思ったその時、再び青白い電光が迸った。
「ギャー!?」
 20万ボルトの電撃を浴び、朦朧とする意識の中、烈火は自分のとんでもない失態に気が付いた。
 スタン・トラップには、敵味方を識別する機能は無い事――――そして、自分がそれを失念していた事だ。
 数度銃声が響き、からからと熱い薬莢が後頭部に振ってくる。途端にむぎゅ、と背中をふんづけて誰かが外に逃げ出し、自分がテロリストを一人取り逃がす失態を犯したと悟った。
「ま……待ちやがれ、待てっつってんだろうがこの野郎……」
 自分のそれとは思えない弱々しい声。テロリストの姿は、すぐ見えなくなる。

 ――あー……俺、カッコワリィ……

 そして、烈火の意識は闇に沈んでいった。



 スタン・トラップを拳銃で破壊し、外へ逃げ出したのは無我夢中での行動だった。そのまま外へ飛び出し、死に物狂いで走った。
 撃たれた右肩が燃えている。撃たれた傷口は火が出るほど痛いのに、出血のせいか肩から下の右腕は妙に冷たくて感覚が無くなり始めている。
 ――冗談じゃない。こんな目に遭うなんて。
 彼はもともと、明確な思想や動機があってテログループに入ったわけではなかった。務めていた会社を勤務態度の悪さから首になり、やさぐれていた所を友人の誘いで入っただけだ。前の会社は外資系で、外国人に恨みが募っていた所もあったし、なによりこのグループに入れば生活するに十分な給料も支払われるから。
 そんなアルバイト感覚でテロをやっていたが、あの化け物みたいな女に襲われて、ようやくとんでもないバカな選択をしていたと気が付いた。
 相手は地球連合軍なのだ。自分は世界最大最強の暴力集団を敵に回してしまったのだ。
 もう駄目だ。どこか外国にでも逃げよう。そう考える彼の頭の中に、自首する、という選択肢は無かった。

 ――――地球軍に捕まればどこかの孤島の収容所に送られて、恐ろしい拷問を受ける――――

 仲間から聞かされた事だ。スナッフムービーさながらの証拠ビデオも見せられ、その話を本当と信じていた彼にとって、自首などとても考えられる事ではなかったのだ。 「ぜ……ひぃ…………」
 地面に膝をつき、四つん這いになって息を切らす。……ここまで逃げれば、もう追ってこないだろうか……
「おい、あんた、大丈夫か?」
 不意に声がかけられた。見上げると男性の老人が一人、彼を見下ろしていた。
「怪我、しとるじゃないか。救急車、読んでやるか?」
「い……いや、救急車よりも、警察。警察を……ヤバい奴らに追われて……」
 その時、周囲がざわついた。何かと思って後ろを向いて――――
「ひ……っ!」
 恐怖に引きつった声が漏れる。
 ――あの女だ!
 地球連合軍正式の戦闘服に身を包んだ人間が、屋根の上を飛んで追ってきていた。一回の跳躍でいったい何メートル飛んでいるだろう。どう見ても普通の人間には不可能な動きで向かってくるそいつの眼は、獲物を追う捕食者の光で彼を見ていた。
 逃げられるわけがない。
 思った時にはもう、半ば勝手に体が動いていた。



「う、う、う、動くんじゃねえ!」
 しゅたっ、と猫のように着地した美雪に向かって、テロリストの男が叫んだ。
 テロリストが一人逃げたと妃都美から知らされた美雪は、即座に追撃に出た。正直面倒臭かったが……そもそも最初に逃がしてしまったのは美雪である以上、追いかけない訳にもいかなかった。
 幸い、美佳の誘導もあってテロリストを捕捉するのは難しくなかった。しかしようやく追い付いたと思ったら、
「そ、それ以上近づいたら、このジジイを殺すぞ!」
「た、助けてくれー!」
 これだ。馬鹿な奴。人質なんて取っても逃げられるわけがないのに。
 もう服の中は汗まみれの上砂だらけで気持ちが悪い。早く終わらせてシャワーを浴びたいのに……手間を掛けてくれる。
「銃を捨てて、逃走用の車と薬を持ってこい! 今すぐにやらないと、ジジイの命は――――!」
 ――――鬱陶しい。
 警告を無視してつかつかと歩み寄る。愛用の45口径拳銃も、構えないまでも右手に持ったままだ。テロリストと人質両方の顔が引きつる。
「お、おいこら、近づくなって言ってるだろ! このジジイが死んでもいいのかよ!?」
「殺したいなら殺しなさい。その人が生きようが死のうが、ぶっちゃけわたくしには関係ありません」
 あなたを殺すか捕まえるかすればわたくしはお仕事終わりですから、と美雪は冷たく言い放つ。「ええっ!?」とテロリストは絶句し、人質の老人は「人でなしめー!」と身を乗り出して叫ぶ。それによって一瞬、突き付けられた銃口が虚空を向いた。

 その隙を見逃さず、美雪は銃を構え、発砲する!

 ドンッ―――――――! と余韻を引いて銃声が響く。続く、息も止まるような静寂。――――そして、どさっ、と重量のある物体が倒れる音。
「ふう……任務完了、ですわね」
 銃をホルスターに納めて一息つく。
「こちらブレード7。逃げたテロリストを制圧しましたわ。若干のトラブルはありましたが、特に問題はありませんわよ」
『ブレードリーダー了解。こっちもなんとか片付いたよ。で、逃げた奴はどうした?』
 美雪は倒れたテロリストをちらっと横目で確認する。美雪が放った45口径ホロー・ポイント弾は、正確にテロリストの額を撃ち抜いていた。この小さな傷口の奥では、分裂した弾丸がプリンをかき回したように脳味噌を破壊しているだろう。即死だったはずだ。
「殺しちゃいましたわ」
『そうか……まあ仕方ないね。すぐに処理班を向かわせるから、戻ってきていいよ』
「了解ですわ」
 はー、これでやっとシャワーが浴びれますわねと呟き、皆の元へ戻ろうと踵を返して――――ふと、尻餅をついたまま呆けたような顔で美雪を見上げている老人に向き直った。
「長生きしてくださいませね。お爺様」
 ちゅっ♪ と投げキッスを一つ。



 ――――それから、三時間ほど後。

「正直、あまり良い点は付けられませんね」

 ナデシコB艦内、ミーティングルーム――――学校の教室と同じくらいの大きさの部屋に、椅子と机とホワイトボードだけがある簡素な部屋。
 会議室よろしく長方形に並べられた机の、上座に位置する場所に座って、ホシノ・ルリ中佐は無表情にそう言った。
「確かに、作戦は成功ですけど……自分で仕掛けたスタン・トラップに引っ掛かって自滅。そのせいでテロリスト一名の逃走を許し、民間人を危険に晒しました」
 まかり間違えば、あなたたちの中に死者が出ていました。とルリは辛辣に言う。
 悔しいがその通りだ。和也以下、『草薙の剣』一同はぐうの音も出ない。
「め、面目次第もございませんで……あいつつつ」
 まだ電気ショックによる体の痺れが抜けないのか、机に突っ伏したままで烈火が呻く。
「カゲモリ上等兵」
「はい?」
「あなたが人質を助ける時の対応にも問題がありました」
「別にいいじゃありませんの。結果的にはお爺様も助かったのですし」
 飄々とした様子の美雪。――ぴくっ、とルリの眉が動いた気がした。
「あなたが人質を取ったテロリストに向かって、『殺しなさい』と挑発した事は多くの通行人が聞いています。明日には新聞とかでも取り上げられますよ」
「あらあら……それはご愁傷様ですわ」
「おい、美雪……!」
 あまりに慇懃無礼な美雪の態度。さすがに和也は窘めた。
「それだけじゃありません。テロリストを二人も殺害しちゃったのは、カゲモリ上等兵だけですよ」
 原則として捕縛と言ったはずです。と言ったのはマキビ・ハリ中尉だ。
「殺害も許可はされていたでしょう? わたくしは一人で四人を相手にしたのですから、その点は考慮していただきたいですわ」
「しかし……」
「いえ、それはいいんです」
 続くハーリーの言葉を、意外な事にルリが止めた。
「無理をしてまで捕縛に拘る必要はありません。大した情報も持っていない末端のテロリストより、あなたたちの命の方がずっと大事です」
「…………」
「…………」
「おお、そりゃどうもどうも」
 奇妙に優しいルリの言葉に、烈火だけが一人で喜ぶ。「……あんた、バカ?」と奈々美が小声で呟く声が、和也には聞こえていた。
 ルリが大事にしてくれているのは和也たち個人ではなく、戦力としての『草薙の剣』に決まっている。ここは喜ぶところではない。
「今回の作戦における不手際については、以後同じような事が無いよう努力します。……で、捕まえたテロリストからは、やっぱり大した情報は出てこないですか?」
「ああ。まだ尋問はさせてるが、やっぱり何も出てこないな」
 そう言ったのはタカスギ・サブロウタ少佐だ。
「奴ら自身は必死に知ってる事を話そうとはしてるが……捕まっても困らないよう、しっかり情報が遮断されてるな」
『草薙の剣』が中東入りしてから一か月余り。強襲して壊滅させたテロリストの隠れ家はこれで五つ目。戦果としては上々ではある。
 しかし、所詮は枝葉末葉。末端のテロリストをいくら潰した所で埒が明かない。第一、末端のテロリストは細かく細胞化され、上とは情報が遮断されていて、捕まえても得られる情報は多くない。
「一人、舌を噛み切って自殺を図った人もいます。一命は取り留めましたけど……あの人たち、捕まったら拷問されるって思ってるみたいですね」
 心外だなあ、と言いたげに、ハーリー。
 捕まったら恐ろしい拷問を受ける。あるいは殺されるという刷り込みは、戦争などにおいて古くから取られてきた手法だ。
 人間はやはり殺人、つまりは同族殺しという行為には本能的に忌避を感じるものだ。先の大戦――――蜥蜴戦争の初期に地球連合が木連軍を木星蜥蜴と呼び、ただの無人兵器と言い張っていた事も、過去の汚点を晒されたくないと同時に、兵士に戦争への忌避感を与えないためでもあったはず。
 そこで、捕まったら拷問されたり殺される――――という恐怖を刷り込む事で、能動的に戦争、つまりは殺人を遂行させる――――捕虜の人道的な扱いを定めた条約が制定された今では過去の話だが、このあたりの現地人テロリストの間では未だに古い手が通っていると見える。
「実際は、捕まえても拷問なんてしない。処刑なんぞ論外だ。クアラルンプール条約で禁止されているからな……」
 耳の穴をほじりながら、サブロウタが言った。
 クアラルンプール条約。
 テロリスト・ゲリラといった非正規戦闘員を捕虜とした場合の人道的な処遇を定める条約。大規模テロリズムの脅威が顕在化した21世紀に、非正規の戦闘員であるテロリストやゲリラの捕虜が増え、その扱いを定める条約が無い事が問題視された事から、2010年代中ごろに制定された。基本的には戦時捕虜の人道的な扱いを定めたジュネーブ条約の適用範囲を、非正規戦闘員にも拡大した物と言っていい。
 これによって、たとえ地球連合軍であっても拷問のような真似は出来ない。自白剤の使用も、強力かつ危険な物は上の許可が必要になっている。
 あえてその存在を伏せる事で、捕虜になる事への恐怖感を煽っているのだろう。
「……まあ、条約の事はどうでもいいですけど」
 口ではそう言っているが、どことなくルリは不満そうだ。
「コクドウ隊長。また警察官に襲われたそうですね?」
「ええ。これで三度目です。捕まえた奴から聞き出しましたけど、やはり上から命令されたような事を言っていました。といってもうわ言のような感じでしたし、すぐに怪我のせいで死んじゃいましたから、具体的な事は何も」
 アリを潰したほどの感慨も無く、和也はさらりと言ってのける。
「その警察署は、何か言ってましたか?」
「いつもと同じですよ。これは一部の奴らが勝手にやった事で、警察署は関係ないって」
 そう、ハーリー。
「ふん。あんな隠れ家を提供までして、よくもぬけぬけと……実感として言わせていただきますと、やはりあのジャザンという町は……」
 楯身は椅子から腰を上げて発言しようとし、「タテザキ上等兵。発言は座ってでいいですよ」とルリに言われて座り直した。
「ジャザンは特に現地人テロリストの活動が活発と感じます。押収した武器も、製造番号などは潰してありましたが、警察使用と思われる物が多い。間違いなく組織的な関与があるはずと、自分は考えまする」
「そしてそれを仕切っているのが、例のジャザン市警察の署長ってわけか……」
 和也が言うと、ハーリーが全員の前に警察署長の顔写真とプロフィールが書かれたウィンドウを表示してくれた。名前はマフメド・ムハドハーン。年は五十代後半。褐色の脂ぎった顔に、マジックペンで書いたような黒くて濃い髭と眉毛が特徴的な、パイプでも加えて椅子にふんぞり返っているのが似合いそうな男だ。
「やっぱり、何か決定的な証拠を掴んでこいつを逮捕したいね。そうすれば、敵の活動に大きな打撃を与えてやれる」
「では、当面の最重要目標はこの男という事で。そして、逮捕につながる情報を得るための手段でありますが……」
 マキビ中尉。先日提出したデータ、D−6をお願い致します、と楯身が発言し、ハーリーが手元のIFSパソコンを操作。すると、中空にまた別のウィンドウが現れる。  ウィンドウに映し出されたのは、全体的に細い輪郭と体つきの男性。年は二十代半ばと言ったところか。高級そうな服に身を包んだ、いかにも金持ちの家の放蕩息子といった風情の男だ。
「タジルハッド・アルバス。26歳。ジャザン市警察署長の甥で、父親が経営する会社の経理担当。彼の父親……つまり警察署長の弟はこの近辺の娯楽観光産業を一手に取り仕切っており、年収は日本円に換算して二億を超える資産家であります。その家を数日監視してみたところ……」
 さらに新たなウィンドウが複数現れる。望遠カメラで撮影したのだろう若干上から見下ろす視点の写真には、どれも件の警察署長を玄関にて出迎えるタジルハッドの姿がはっきりと捉えられていた。
「このように、警察署長が頻繁に訪れている事が判明した次第であります」
「つまり、この親子が警察署長を通じてテロリストにお金を流している?」
 ルリに問われ、楯身は頷く。
「あくまで推測に過ぎませぬが、恐らく。そこで……」
 とその時、部屋の中に場違いなほど明るい音楽が流れた。
「あらあら。ちょっと失礼いたしますわ」
 携帯電話を片手に退室する美雪。自動ドアが閉まる瞬間、何やら親しげな話声が漏れ聞こえた。
 普通なら、会議中に私用の電話など許されるわけがない。美雪の態度は本来ならよくて給料カット。最悪クビに値するだろう服務規程違反だ。……そう、本来なら。
「今の電話、タジルハッドからかな?」
 そう、和也。今美雪が電話で話している相手は、誰かは解らないがテロリストに関わりがあると見られている人間。あるいはその身内か何かだろう。
「だとよいのですが。……ああ、奴は不特定多数の女性を家に連れ込んでいるのが確認されているので、数日前から美雪にハニートラップを仕掛けさせてみた次第であります」
 タジルハッドは在宅勤務なので、仕事用のパソコンからデータを盗み出せれば、アルバス親子、そして警察署長逮捕の決定打となりうるでしょう、と楯身。ほう、とサブロウタが感心したように頷いた。
「あの人、諜報活動も出来るんですね……あんなに強いのに」
 そう、ハーリー。
 現地に浸透し、敵の情報を得るためのアンダーカバー・オペレーション。地味で手間のかかる仕事だが、テロリストと戦うには射撃練習より大事な任務だ。美雪は特にそれを得意としていて、今回テロリストの隠れ家を付き止める事が出来たのも、美雪の働きによるところが大きい。
「戦いながら諜報もこなして、八面六臂の働きと言うべきかね。いやはや大したもんだ」
 優秀な部下だな。とサブロウタ。これはさすがに、和也も悪い気はしない。
「僕たちは、潜入工作員としての訓練も受けましたから。諜報もある程度はできます。それに……失礼かもしれませんけど、宇宙軍の諜報部って、いまいち頼りにならなさそうですし」
「それについては同感です」
 そう言ったのは、意外にもルリだった。
「少し昔の話ですけれど、彼らは花嫁をめぐる義父と義息との話し合いをクーデターの打ち合わせと思いこんで、そこへ怒鳴り込んできた事がありますから」
「おお。知ってる知ってる。準軍事部門の強制介入班が突入したら、そこはラーメン勝負の会場だったってあれでしょ」
 ガハハ、と豪快に烈火が笑う。
「あはははは。おかしな奴らだわ」
「もはや笑うしかないね……」
 一同に失笑が漏れる。
 宇宙軍の諜報部は、所詮各国の利害対立や腹の探り合いで骨抜きにされた形だけの部署だ。所属するのは左遷先をたらい回しにされてきたような人間ばかり。とてもあてにはできない。その点に置いては、ここにいる全員が認識を共有できているようだった。
「ところで質問なんですけど……」
 ハーリーが手を上げた。
「そのタジルハッドって人は、女の人たちを家に連れ込んで何をしてるんですか?」

 …………しーん、と場が静まり返った。

「それは……あの……その」
 そういえば、マキビ中尉ってまだ12だったんだよな……と思いつつ和也は言いよどむ。
 こういう時どうすればいいのか、和也は何も知らない。はっきりと説明するには、ハーリーは年少過ぎる。
 その手の授業も受けているかいないかといった、微妙な年頃であるはずだ。いくら中尉と言えどそれは変わりないという事を、和也たちはすっかり失念していたのだ……
「お待たせいたしましたわ」
 ありがたい事に、絶妙のタイミングで美雪が戻ってきた。和也はこれ幸いにと話題を逸らしにかかる。
「さっきの電話、誰から?」
「件のタジルハッドからですわ。朗報ですことよ。明日、家に招かれる事になりましたわ」
 これまた絶妙のタイミングで舞いこんだ朗報に、「本当か!」「やりました!」「これで勝てる!」と一同から歓声が上がった。
「……確かに、土星に飛ばされた人よりは百倍優秀みたいですね」
 さすがのルリも、これには舌を巻かざるを得なかった。
「まだ編成完結式も行われず、捜査権限も定まっていない制約だらけの現状ですが……そこまで出来るなら心配いらないですね。皆さんには、今後一層の努力を期待しています」
 了解しました! と『草薙の剣』は唱和する。

 その後は、今後の方針などを簡単に確認して、解散となった。



 軍艦とはいえ、夜になれば大抵の乗組員は床に就く。もちろん夜班の乗組員は今も作業や警戒に従事しているが、それでも昼に比べれば動いている人間の数は多くは無い。ここはクウェート基地の敷地内であるし、すわ緊急事態となっても分厚い装甲に守られている安心感もある。むしろ四六時中気を張り詰めていたりしたら、それこそ気が狂うだろう。
 今も多くの乗組員が、今日一日の疲れを癒そうと一時の惰眠を貪っている。
 そんな刹那的な静寂の中、ハーリーことマキビ・ハリ中尉は一人でナデシコB艦内の大浴場にいた。

「えへへ、誰もいないや」

 ラッキー、と一人で喜んで、ハーリーは桶にお湯を張り、頭を洗い始める。
 風呂で体を洗う時、ハーリーはまず頭から洗う。頭を洗う時に汚れが頭から体に移る気がするというのがその理由だ。
 だいぶ前から使い続けている愛用のシャンプーハットを被り、支給品のシャンプーをつけてわしゃわしゃと頭をかき回す。自然にYOU GET TO BURNING〜と鼻歌が漏れた。
 いつもなら数十人が同時に入浴できるナデシコ大浴場の中も、夜の夜中である今では誰もいない。こんな時間に入浴するのがハーリーの密かな楽しみだった。この年になって未だにシャンプーハットが手放せないところが少々気恥ずかしいのもあるが、なにより広い湯船で他人を気にせず思う存分手足を伸ばして入浴できるのが楽しい。
 と、脱衣所の方でカラカラと戸が開く音。
 あれ、誰か来ちゃったか……今日も今日とて、広い大浴場を一人占めするささやかな贅沢を満喫するつもりだったハーリーは、少し残念に思いつつも気にせず頭を洗った。
「失礼あそばせ。ご一緒してよろしいかしら?」
「いいですよ」
 言って、シャワーで泡を洗い流す。
「あらあら、シャンプーハットですの?」
「ええ。これが無いと頭が洗えなくて……皆さんには内緒ですよ? からかわれますから。……あれ、石鹸忘れちゃった……」
「はい」
 石鹸が差し出される。「あ、すいません」とお礼を言って受け取り、垢擦りに石鹸をつけて体を洗う。君らしく、誇らしく〜、とハーリーが歌い出すと、相手も合わせて歌いだし、なんだか楽しくなってくる。
 …………と、そこでハーリーは気が付いた。

 ――僕、誰と話してるんだろ?

 ざばぁ、と桶のお湯で体の泡を洗い流しながら横を見る。すると、ちょうど同じく体を洗い終えた影守美雪の姿が目に入った。
「ん?」
 満面の笑顔。
 一瞬、ハーリーの思考は完全に停止した。
 混乱する頭を何とか落ち着かせて、状況を整理して――――美雪の生まれたままの姿を認めた途端、脳細胞が一気に沸点を超えた。

「う、うわ―――――――――――――――――――――――っ!」

 絶叫し、全力疾走して湯船に飛び込む。
「カ、カ、カ、カゲモリ上等兵っ! こ、ここは男湯なんですよっ!」
「あら、わたくしとの混浴はお嫌でして?」
 混乱するハーリーだが、美雪は意に介した様子も無く近づいてくる。ハーリーは美雪の体を見ないよう反対側を向いて叫ぶ。
「そ、そ、そういう問題じゃなくてっ! ぼ、僕だってお、男でっ! カゲモリ上等兵だって、お、女の人なんで――――!」
 そこまで言って、美雪がすぐ後ろまで来た水音がした。あわわわわ、と逃げようとしたハーリーだが、美雪のすらりとした腕が両側から伸びてきて、後ろから抱きよせられる。
「ああんっ、お逃げにならないでくださいませぇ……」
「ひゃうっ――――!」
 ハーリーは思わず声を漏らしてしまった。
 二つの柔らかい感触が、ハーリーの背中にふにゃっと触れ当たったからだ。
「せ、背中にっ、あああ当たってる、当たってますっ……!」
「当ててるんですわ」
「や、やめ、やめ、やめ、やめ、やめて……!」
 美雪の腕から逃れようと、じたばたと暴れるハーリーだったが、やはり美雪も機動兵器でなく身一つでテロリストと対峙する特殊部隊員だ。二つの腕は蛇のようにハーリーの身体へからみついて全く振りほどけない。
「うふふふふ、口ではやめてと言っていても体は正直ですわ。男の子ですものね」
「へ?」
 言われて、ハーリーは気が付いた。
 美雪の言う通り、ハーリーの体の一部は、美雪の感触にしっかりと反応していた……
「う、う、う……」
「まあ、可愛い」
 ――その一言で、羞恥心のバラメータが完全に振り切れた。

「うわあああああああああああああああああ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!」

 その絶叫は、ナデシコ中に響き渡ったという。



 ……二十分後。ナデシコB艦長室――――

「…………」
「…………」

 六畳ほどの空間に、事務机とオモイカネの端末。そしてデータディスクその他を収納する棚が備え付けられ、余計な飾り付けは一切ない事務室。その奥に一種の神聖不可侵な聖域とも言えるプライベートスペースがある。それがナデシコB艦長室の間取りだ。
 その事務室に、憮然とした顔のルリと、それによりすがってえぐえぐとすすり泣くハーリー。一人大いに恐縮している和也と、ケロリとした表情の美雪が集まっていた。
 と、そこへドアが開き、もう一人の男が入室してくる。
「遅れてすんません。雑用が多くて。……で、これは一体何が?」
 一同の様子を見まわして、状況が飲み込めないという風にサブロウタは言った。
 和也はぽつりぽつりと答える。
「えー……その、大変申し訳ないんですけど、うちの美雪が……その」
「お風呂でハーリー君に逆セクハラ行為を働いたそうです」
 端的に言い放ったルリに、和也はぎょっとした。
「あらあらセクハラだなんて。わたくしはただ、マキビ中尉があんまり可愛らしいので、ぜひ裸のお付き合いをと」
「余計な事言うなよ……!」
 美雪の駄目押しな言い方に、和也は小声で咎める。
 今日の分の書類仕事をようやく終わらせて、さあ寝ようとしていた矢先にルリからの呼び出しでそれを妨げられ、何事かと思って艦長室に来てみるとこのありさまだ。
 なんとなく、こんな事になりそうな気はしていたのだ。
「あうー……裸で抱きつかれたりされましたぁ……もうお婿に行けませんー……」
「何だと……! ハーリー! そりゃなんちゅう羨まし……あ、いや、げふんげふん。さ、災難だったな。うん」
「まあ。タカスギ少佐ったら。お望みとあらば、次は少佐とご一緒してさしあげてもいいですわよ?」
「美雪! ふざけるのもいい加減にしろ!」
「ともかく、です」
 好き勝手に騒ぐ一同を、ルリは一言で黙らせた。
「カゲモリ上等兵。あなたのやった事は明らかな逆セクハラ、下手すれば児童虐待です。能力的に優秀なら多少人格に問題があっても構わないというのはナデシコの伝統みたいなものですが、限度はあります。ここはラブホテルではありませんから、欲求に不満があるなら一人か外で処理してください」
「ホシノ中佐……その言い方にもいろいろ問題があるのでは……」
 控えめな調子で言った和也だったが、「コクドウ隊長」とルリに射竦められ、びくりと肩をすくませて口を噤んだ。……情けないが、立場が立場だ。
「カゲモリ上等兵はあなたの部下なんですから、その問題行動はあなたにも監督責任がありますよ」
「はい……」
「で、処分についてですが……」
「そこは、被害者本人の意見も聞いて決めましょ。おいハーリー。お前は影守に厳罰をお望みか?」
 突然話を振られ、え、とハーリーは顔を上げた。そしてまだ涙ぐんだ目で、和也たちの方を見てくる。
 ――ごめんなさいマキビ中尉。後でこの埋め合わせはしますから、どうか寛大な処置を……祈るような気持ちでハーリーに視線を送る。
「あ、えっと……僕はまあ、怪我とかさせられたわけじゃありませんし……」
 和也の祈りが通じたのか、それとも処分を決める事に尻込みしたのか、ぽつぽつと小声で言うハーリー。
「それで、どうしてほしいの?」
「その……もうこんな事が出来ないようにしてくれると嬉しいです」
「……じゃあ、カゲモリ上等兵はハーリー君が許さない限り半径一メートル圏内への接近を禁止。それと大浴場の使用も、今日から二週間禁止、という事で」
 ルリはそう言って、「これを破った時はまた別の処分を考えますから、そのつもりで」ときつく釘を刺した。



「まったく、散々だったよ……」
 ようやく針の筵から解放された和也は、廊下を歩きながらはあっと重いため息をついた。
 ルリの無言の重圧もさる事ながら、美雪が今度はハーリーに逆セクハラだなんて。明日にはこれが艦中に広まっていると思うともう情けないやら恥ずかしいやら。胃が痛みだす思いの和也だった。
 一方、問題を起こした張本人の美雪は、
「災難でしたわねぇ、和也さん」
 飄々として反省した様子など欠片も無い。いつもの事かもしれないが、今度ばかりは和也も堪忍袋の緒が切れた。
「美雪ぃ! 着任早々問題起こしてんじゃない!」
 全くお前は――――いたいけな少年の心に傷をつけて――――美雪だって一応女の子なんだから――――もっと自分を大切に――――次から次へと文句が口をついて出てくる。
「そもそも木星では淑女たるべき者はだね――――って」
 そこまで言って、ついさっきまで隣を歩いていたはずの美雪が忽然と消え失せているのに気が付いた。
 逃げられた……和也はしばし、呆然と立ち尽くす。そしてわなわなと全身を憤りに震わせ、
「やってられるかあのクソアマぁ!」
 普段絶対に口にしない暴言を吐いて、傍にあったくずかごを思いっきり蹴っ飛ばした。少し変形したくずかごが倒れ、空き缶がばら巻かれる。それを見て少し頭が冷えると同時に、自分の大人げないふるまいが恥ずかしくなってくる。
「はぁー、はぁー……美雪の奴……どうしていつも問題起こすのやら……覚えてろよ」
 悪態をつき、罪の無いくずかごを直して空き缶を拾い集める。
 今日はさっさと寝て、夢の世界に逃げよう……和也が切実にそう思った、その時。
「……コクドウ隊長」
 突然に後ろから声がかけられ、和也は「ひえ!?」と裏返った声を上げてつんのめった。

 ……最初、ルリは声などかけるつもりは無かった。
 ハーリーを宥めて部屋に帰し、サブロウタも退室して一人になった後、ルリは何とはなしに部屋を出て、和也と美雪の部屋がある方へ行ってみた。
 なんとなく、気になっていたのだ。
 案の定、和也がくずかごに八つ当たりしている場面に出くわした。美雪は影も形も無く、何があったかは大体察しがついた。
 ご愁傷様。そう思って一度は立ち去ろうとしたルリだったが――――
「はぁー、はぁー……美雪の奴……どうしていつも問題起こすのやら……覚えてろよ」
「…………」
 和也の悪態が、ルリの後ろ髪を引いた。
 部下の扱いに四苦八苦しているのは、私も彼も一緒か……そう思った時、ルリは「コクドウ隊長」と声をかけていた。和也が「ひえ!?」と悲鳴に近い声を上げて振り返る。
「ほ、ホシノ中佐……! こ、これはその、小指、そう、物に小指をぶつけると痛いですよね? ……じゃなくて、あの」
 ヤバい所を見られたと思ってか、血の気が引いて真っ青になった顔で言い訳する。その内容も和也の動揺を現して支離滅裂だ。
 しかし、何を言えばいいのか解らないのはルリも同じだった。……どうして、声をかけたりしてしまったのか……
「……とりあえず、片づけをお願いします」
 ルリに言われ、そ、そうですよね……と和也は、空き缶を拾ってくずかごに戻す作業を再開する。
「…………」
「…………」
 しばし、空き缶の触れ当たるカンカンという音だけが響く、気まずい沈黙が続いた。
 何を言われるかと内心気が気でないらしく、ちらちらとこちらを窺い見る和也に、ルリは思っていた事を聞いてみた。
「随分――――手を焼いているみたいですね」
 え? と最初和也は何を言われたのかと思い、すぐに美雪の事だと思い至ったらしく「……美雪の事ですか」と言った。
「かなりの問題児みたいですね。それも、問題児ばかりの小隊の中で一際突出した」
 一言多いかと思ったが、和也は言い返さなかった。
 和也自身、問題児揃いの小隊である事は否定できないのかもしれない。
「あなたはどう思っています? コクドウ隊長。昔からずっと一緒だったあなたの目にあの人はどう映っていますか?」
 それは……と和也は少し考え込む。
 一度ルリをちらっと横目で見たのは、何の心境の変化があってこんな事を聞くんだ、とでも思ったのだろう。……ルリ自身、そう思う。
「そうですね……いささか協調性を欠くものの、能力的にはトップクラスで、たぶん個人での戦闘力は僕たちの中でも一番強いと言っていいでしょう」
 メガフロートでの演習の時も美雪は、誰も知らない所で多くの点を稼いでいた。和也たちがそれを知ったのは全てが終わった後だ。
「ジョロと一対一で戦って勝利。宇宙軍のオールウェイズ中佐と戦って、他の部隊の邪魔が入ったせいで退いたものの、彼をあと一歩の所まで追い詰める。その後すぐに人質救出に成功してポイントを入手。この時、本来トラップが沢山あるビルを登らなければいけない所を、ビルの外壁を駆け上がってショートカット。この様子は、オールウェイズ中佐たちが目撃しているので間違いは無い。……確かに、飛び抜けた戦果ですね」
 ルリは和也たちが来る直前に見たデータを思い出す。常識外れな戦闘能力に、諜報員としても優秀。特殊部隊員としてはこの上ない逸材だろう。……データだけを見るのなら。
「ただ、見ての通り人格面に大いに問題のある奴です。小悪魔的な性格で、真性のサディストで、猟奇趣味の持ち主。付き合いが浅いから、僕でもいまいち何を考えているか解らないところがあります」
「付き合いが浅い? あなたたちは全員、同じ時期にインプラントを受けたと聞きましたけど」
「ああ。大抵はね。美雪だけは別なんですよ……何故か知らないけど、美雪だけは訓練課程の途中で急遽編入されたんです。普通はまずあり得ない、特例的な措置だとか」
 言って、当時の事を和也は語り始める。
 和也たちが訓練を初めて二年ほどが経った頃、何の前触れもなく美雪はメンバーに加わった。在庫が余っていた、バッテリーで動く旧式タイプの人工筋肉で脚力を強化し、指の中に暗殺者の爪と呼ばれる特殊合金製の爪を仕込んだ暗殺・破壊工作特化型の生体兵器として。
 いろんな意味で普通の人間とは違う生体兵器の中にあって、美雪は一際異彩を放つ存在だった。途中参加にもかかわらず同期の和也たちと遜色ない成績を収め、こと実技に置いては誰より抜きん出ていた。先輩方だけでなく、六人衆たちでさえ一目置くほどに。
「まさにチート、ですね。彼女、生体兵器になる前はどこで何をしていたんですか?」
「さあ。美雪は教えてくれないというか、喋ろうとしませんね。僕たちはお互い、自分から語らない限り過去の事には触れない事にしていますから」
 生体兵器の中には訳ありな過去を持つ者も多い。自分から語る分には問題ないが、他人のそれを掘り返す真似はしない。それが生体兵器たちの間での、暗黙のルールとして成立しているのだと和也は言う。
「ただ……教官長が直接拾って連れてきた、という話だけは聞いた事があるんですけど」
 ルリははっとして、金色の目を大きく見開いた。
 和也が教官と呼ぶ連中。そして教官長と呼んでいた人間は、ルリもよく知っている。忘れられるはずがない。
「……教官長? それってまさか、北辰の事ですか?」
 あの爬虫類じみた相貌を思い出し、緊張した声音で言ったルリに和也は、ええ、と頷いた。
「やっぱり、拉致されてきたとか……」
「拉致ね……それを言ったら、生体兵器の七割八割は拉致同然に連れてこられたと思いますけど」
 ルリがそう訊いたのはもちろん、かつて北辰たちが遂行していたA級ジャンパーの拉致を連想してだが、それに対する和也の答えは少々ピントを外していた。
 だがそれも当然か。
 A級ジャンパーの拉致、そして人体実験という事実は、今のところ軍事機密扱い。その理由は、名目上は公表に伴う影響が大きすぎると懸念されるため。その実態は、この情報を公にされたくない多くの国の圧力……
 和也たちも、今の階級では触れる権限が無い。だから、知らないのだ。
 教えてやりたかったが、我慢した。機密の漏えいは重罪だし、なにより意味が無い。
 そんなルリの内心での葛藤を知るよしも無く、和也の語りは続いている。
「まあ、こうして付いてきてくれたからには、彼女なりに木星、あるいは僕たちの事を大切に思ってくれているんだろう、とは思っているんですけどね。全く扱いにくい奴で……」
 胡乱気にそう言って、和也は一つ、ため息をついた。
「やっぱり、部下の舵取りは大変ですか」
 ルリは訊いた。
「そりゃあ大変ですよ。美雪だけじゃない……見ての通り個性の強い奴らで、みんな能力は高いけど致命的な欠点も抱えてる。どうして僕がこんな問題児の多い部隊の隊長に選ばれたのか、今でもよく解りません」
 僕より楯身の方が判断力も決断力もあるのに、と和也は言う。隊長の任を、部下を率いる責を重荷と感じ、他に適任者を求めるその気持ちは、ルリにもよく解った。
 同じ悩みを抱える者同士か、と思い、何か気の利いた事でも言ってやろうとして――――和也の目が、邪心を宿して細められた。
「まあ、部下の士気高揚が下手などこかの指揮官さんよりは上手くやる自信はありますけどね」
「――――――っ!」
 ある意味図星をついた和也の嫌味を、ルリは聞き流せなかった。
 ルリは和也を鋭く一睨みすると、すぐに踵を返してその場を立ち去った。

 ――ほんの少し、通じ合えるかと思ったけれど……やっぱり、この人たちとは相性が合わない……!


 翌日――――
「本日はお招きいただきまして、ありがとうございますですわ」
 ジャザン市内の一角。標準的な一戸建て住宅が立ち並ぶ住宅街に鎮座する豪邸。その豪奢な玄関ホールで、美雪は満面の作り笑いを浮かべて言った。
 フィットネスルーム付き。プール有り。冷暖房完備当然。周囲の住宅を高みから見下ろすような三階建てのそれは、一目で住人の所得レベルが推し量れる金持ちのお屋敷だ。中に並ぶ家具や調度品は素人目に見ても高級そうで、飾ってある壺をうっかり壊してしまおうものなら人生の過半を借金返済に費やす事になりそうだ。
 ――……まあ、わたくしなら一家皆殺しにしてでも踏み倒しますけど。
「よく来てくれたねぇ。ささ、上がってくれ。おーい! お茶だ! お茶の用意をしろ!」
 美雪の物騒な考えも何も知らずに、この軽薄そうな男――――タジルハッド・アルバスは、両手を拡げて歓迎の意を表現する。
 写真で見た時もそうだが、こうして当人を前にすると余計に金持ちな、世間知らずのお坊ちゃんという印象が増す。頭に巻いたターバンの下からはなにやら高価そうな整髪料の臭いがし、袖口からは趣味の悪い金ピカの腕時計が覗いている。
 美雪にしてみれば、お金を沢山持っていてなおかつ籠絡しやすい、格好の“獲物”に見えるのだが……同時に優秀なガードマンの類がいると相場が決まっているから油断はできないと、美雪は知っていた。
 今回の目的は、第一にこれからも家に招かれるよう関係を深める事。第二に、隙あらばパソコンや携帯電話からデータを盗み出す事だ。
 ――さて、どう隙を見つけたらいいものかしら。
 美雪は広さにして二十畳はあるだろうリビングへ通された。触り心地の良い絨毯の敷かれた、水煙草の臭いが微かに沁みついた部屋。
「水煙草、お吸いになりますの?」
「ん? いや、僕は吸わないよ」
 短いやり取りの後、絨毯の上に正座する。――――と。

「水煙草をお吸いになるのは、お父上でございます」

 びくっ! と心臓が跳ね上がった。
 いつの間にか、美雪のすぐ後ろにティーセット一式を持った女性が立っていたのだ。まるでマネキン人形のように無表情な二十代半ばほどの女性。その褐色の肌とは対照的に真っ白なフリル付きエプロンを纏ったその姿は、一目で解るメイドだ。
「こら、お客が驚いているぞ」
 半眼になって、タジルハッドが言った。
「申し訳ありません。……この家でメイドをしております、アジーと申します。以後お見知り置きを」
「…………」
 美雪は無言で一つ頷き、アジーと名乗ったメイドが運んできたお茶を口に運ぶ。
「む……」
 お茶を一口飲んだ美雪は、むっと顔を顰めてしまいそうになって何とか踏みとどまった。
 甘い。むせかえるほど甘い。正直ふた口以上飲む気がしなかったが、中東ではこの恐ろしく甘いお茶こそがお客への歓迎のしるしであり、一杯目を飲まないのは失礼に当たる事を、美雪は事前に学んでいた。
 とはいえ、さすがに外国人にこの甘さは辛い。二杯目のお茶を入れようとするメイドに、美雪はカップを横に振って要らない意を伝える。メイドもそこは解っているのか、冷たい水を持ってきてくれた。
 ――とりあえず、歓迎されているという事は確か。順調ですわね。
 内心でほくそ笑み、向かいに座っているタジルハッドとのお喋りに専念する。
 奴は最初に近くの観光名所案内を初めて――勿論、今度一緒に行かないかとのお誘いを承諾して、接点を維持するのも忘れない――やがて以前にタジルハッドがハンティングをした時の武勇伝に移っていった。
「……でな。すばしっこく逃げ回るジャッカルに狙いをつけて撃つんだよ。それもライフルとかじゃなく、こいつでね」
 悪趣味な金ピカの大型拳銃を見せびらかして、饒舌に喋るタジルハッド。
「どうだい、格好良いだろう。勿論ライフルの方が当てやすいけど、僕はこっちの方が好きなんだよ。それにこの五十口径弾なら、ジャッカルの頭も一発で粉々になる。その時の快感と言ったら……」
 嘘だ、と美雪は内心で断言した。走り回るジャッカルを、素人が銃、ましてや拳銃で仕留められるわけがない。
 大方、連れが麻酔弾で弱らせた所を撃った、といったところだろう。それをあたかも全力で疾走するジャッカルを一発で仕留めたかのように誇張して喋る辺りが、この男の自己顕示欲の強さを表しているな、と美雪は当たりをつけていた。
 ならそれを満足させてやるのが良いと思い、「素晴らしいですわ」などと適当に相槌を打っていたが、いつまでもこいつの相手をする気はさらさらない。
「失礼、お手洗いはどちらかしら?」
 この場を離れる口実として、一番自然な事を美雪は言った。
「ああ、そこの……」
「私が案内いたします」
 タジルハッドを遮るようにして、メイドのアジーが言った。
 じゃあ案内してやれ、とタジルハッドは横柄に命じ、アジーに案内されて美雪はトイレに向かう。
 無論、その間も情報収集は怠らない。何気ない風を装って周囲を観察する。――監視カメラや盗聴器の類は見当たらない。和也たちからも何も言ってこない所を見ると、監視機器などは無いと思っていいだろう。
 なら、少し歩き廻っても大丈夫か……そう思ってメイドに気付かれないようこっそり道を外れようとして――――
 ――おっと。誰か居ますわね……
 物陰からこちらを窺っている人影がいる。恐らくは男……使用人か。ご丁寧にも気配を消していて、もう少し気付くのが遅ければ怪しまれていただろう。
 やはり主人は無警戒でも、代わりに警戒している人間はいるという事か。迂闊に動かない方がよさそうだ。
 大人しくメイドの後を付いて歩き、トイレで用を足して出てくるとまだそこにメイドはいて、リビングはこちらですと先導される。……やはり、案内のためというより、美雪に余計な物を見られないよう見張っている。
 ――厄介なメイドさんたちですわね、と美雪は思った。
 美雪は人や攻撃の気配を察する能力においては『草薙の剣』の中で一番だと自負している。油断があったのかもしれないにせよ、背後に立たれるまで気付かないなどあり得ない。
 あの使用人もそうだ。警戒していなかったら気が付かなかった。
 ただのメイドや使用人にしては優秀すぎる。彼らがガードマンを兼ねていると見るのが妥当か、それとも……どうあれ、一筋縄ではいかないか。
 リビングに戻ると、大皿一杯のケーキと共にタジルハッドが待っていた。



 一方――――

「何よあの高級そうなケーキは! あたしらはカップ麺やレーションばっかりなのに! ちょっと美雪、それ少し持って帰ってきなさいよ!」

 双眼鏡でタジルハッドの屋敷を見張っていた奈々美が、大皿一杯に並べられたケーキを見て大声を上げた。
 タジルハッドの屋敷から一ブロックほど離れた所にある、五階建ての集合住宅。かなり認知症が進行していた感の有る老いた管理人から借りたこの部屋が、タジルハッドの屋敷を監視する『草薙の剣』の拠点になっていた。
 入居者がネズミばかりになって久しいのだろうその部屋は、当初灰色の絨毯と見紛うほどに埃が堆積し、以前不法侵入者が酒盛りでもやったのか、割れた酒瓶が部屋の隅に転がりアルコール臭を放っているというありさまだった。その燦々たる有様に、妃都美などは立ち入るのを躊躇するほどに。
 掃除機をかけても沁みついた埃とネズミの糞の臭いはなかなか消えない。壁に設置されたエアコンは当の昔に天寿を全うしたらしく動く気配がない上、戦闘服姿をなるべく外から見られたくない都合上窓も開けられず、和也たちは発狂しそうな暑さと臭いの中で監視任務を続けなければいけなかった。
「バカ、大声を出すな! 外は敵だらけって事を忘れるなよ!」
 和也は奈々美に向かって怒鳴り返した。ここはジャザン。テロリストの巣窟なのだ。ここに地球軍の部隊がいると感づかれれば、すぐさまロケット砲が飛んでくるかもしれない。
 ――とはいえ、豪華なお屋敷の中で作戦する美雪とここでは雲泥の差があるのも確か。奈々美の気持ちも解るけどね。
 内心で呟き、和也は訊いた。
「妃都美。それに美佳。屋敷の中には、美雪と目標の他に何人くらい居る?」
 美雪の身に危険が及ぶような事も無いと思うが、万一に備えてここで和也たちが待機し、美雪の服に忍ばせた盗聴器と、耳に仕込んだ耳小骨振動式の受信機で相互に連絡を取れるようにもしている。
 必要とあらば、狙撃銃でいつでも攻撃できる。何か起こるか解らない以上、備えておくにこしたことはないのだ。
「先ほど見えた限りでは、メイドさんと思われる女性が一人、確認できました」
「……その他に、二人ほど人影がレーダーで確認できますが……ここからでは、遠すぎて個人の識別ができません……」
 先週届いた新しいノートパソコンを操作しながら、美佳が言った。
「案外、そのパソコンも大したことないねえ……マキビ中尉が使っていたような、IFS対応のハイスペックな軍用パソコンが来るものと期待してたんだけど」
 届いたのは普通の視覚障害者用ノートパソコンだ。もちろん家庭用の、前に使っていた物と大差無い品だ。ついでに言えば、窓際に置いてあるアカツキN10狙撃銃も中古品。和也たちも一応特殊部隊なのだから、もう少し装備が優遇されてもいいの思うのだが。
「ホシノ中佐め、俺たちに良い装備を与えたくないのかもしれねえな」
「あり得る事だわね。あの女、あたしたちが裏切るのを警戒してたし」
 どうせ聞いていないと思ってか、烈火と奈々美は誰はばかることなくルリの悪口を言い合う。上官侮辱は軍隊に措いて厳罰に値する行為だが、この場にそれを止める者は居なかった。
 ――ホシノ中佐か……
 ふと、昨日の事を思い出す。
 部下の舵取り云々の話をしているうち、少し嫌味の一つも言ってやろうかとつい悪意が湧いた……これは確かだ。しかしあれは本当の事だと和也は思っていたし、なによりあの程度の悪意の言葉はすでに何度も交わしていた。その度にただ冷たく睨み合って終わりだったのだ。
 なのに、昨日に限ってルリは思った以上に過敏に反応した。なにより予想外だった事は、あの時ルリの唇が悔しそうに引き結ばれていた事だ。
 ――ひょっとして、気にしてたのかな……?
 これではまるで、女の子に意地悪をして泣かせてしまった嫌なガキじゃないか……そう思うと、和也の木連男児としての精神がチクチクと罪悪感を訴えるのだった。
 ナデシコに帰ったら、謝るべきか……と思い、今は目の前の任務に集中しよう、と気を取り直す。
「とにかく、妃都美はいつでも狙撃できるようにしておいて。それから奈々美。ケーキばかり見てないで、何かおかしな動きが無いか見張ってろ。奈々美の時間が終わったら次は楯身だ。二時間交代だからね」
「了解」
「りょーかい」
「承知致しました」
 指示を出し終えて、ふと小腹が空いた和也は袋の中に無造作に放り込んであったレーションを一つ手に取る。
 ……シイタケの炊き込みごはんパック入り。あまり人気の無い品だがどうでもいい。腹が減っては戦は出来ぬ。食える時に食っておかねば……どうせ味など関係無いのだから。
「なあ、和也よう」
 カップ麺をズルズルと啜っていた烈火が、箸を止めて話しかけてきた。
「今さらだけどよ。なんでわざわざ友達になって入りこむなんてまだるっこしい事しなきゃならねえんだ? 盗聴器仕掛けるとか、銀行口座盗み見るとか、手っ取り早い方法はいくらでもあるじゃねえか」
 烈火にしては珍しい真面目な質問。あー……と和也は口ごもる。情けない事だが、全てに答える自信は無い。
「僕たちがまだ編成完結式も行われていない未完の部隊である以上、下手に強引な真似は出来ないよ。そういう事をやる権限がまだ無いんだから。……そうだろ楯身」
 答えに窮する前に和也は楯身に話を振った。こういう難しい裏事情などは参謀長に聞くに限る。
「ええ。我々の活動は現在、連合憲章第73章D項の規定に基づき、連合警察の活動に置いてこれに『協力』しているという形で行われております。連合警察がその手に余る強力な武装を有する武装集団――この場合は火星の後継者と、それに扇動されたテロ組織という事になりますな――などと対峙する事態を想定した規定でありますが、あくまで荒事を想定したものであるため武器の使用や交戦は許されても、烈火が言うような踏み込んだ捜査を行う権限は与えられておらず、結果このような婉曲な手段に頼らざるを得ないのが現状であると言えます」
 立て板に水。『草薙の剣』の参謀を任じられた男は、その職責を見事に果たしてくれた。和也はこっそりと手刀を切る。
「ま、そう言う事だ。ちゃんとした捜査権限が与えられるまでもう少しの辛抱だよ……それに、美雪が自分に任せてって言ってるんだ」
 任せてやろうよ。と和也は言う。
「美雪のそっち方面のテクニックは本物だ。こんなつまらない仕事さっさと終わらせて、警察署長を逮捕……後は僕たちの本分だ。そうだろ」
「アイアイサー、隊長殿」
 おどけたように言って、烈火はにかっと笑った。


 ――ん……?
 何やら難しい話をしている和也たちをよそに監視を続けていた奈々美は、ふと違和感を感じて目を細めた。
 美雪とタジルハッドの様子に変化は無い。ついでに言えば大皿に並べられた美味しそうなケーキは順調に美雪の腹の中へ消えていっている。
 だが奈々美が気になったのはそこではなく、別の部屋で掃除機をかけていた使用人と思しき男性だった。
 ――あの男、なーんかこっちをジロッと見てたような気がしたけど……まさかね。
 気のせいだと断定し、奈々美は黙って美雪の方に視線を戻した。



「……あ」
 ふとした瞬間、自分が爪を噛みそうになっているのに気が付き、美雪はさっと手を引っ込めた。
「ん、どうかしたのかい」
 美雪の微妙な変化に目ざとく気付いたタジルハッドが、ニヤニヤ笑いで顔を覗き込んでくる。嫌悪感を顔に出さないよう努めながら、「いえ、なんでもありませんわ」と作り笑顔で返した。
 タジルハッド邸に来訪して数時間。結局、隙は見つからなかった。
 ケーキを堪能した後、フィットネスルームで体を動かし、プールで遊んで――奴の趣味であろうきわどい水着を着せられたのはさすがに屈辱だった――今はホームシアターで映画の鑑賞中だ。
 見ている映画は、20世紀のオールドムービー。かの有名な『アラビアのロレンス』。物語はいよいよ佳境に入り、ロレンス率いる人々がトルコ軍との戦いに挑むシーンだ。
 何度か隙を窺ったけれど、常に女メイドのアジーと二人の男性使用人の監視の目が光っていた。手が出せないまま時間だけが無為に過ぎ、もう太陽は地平線の向こうへ消えようとしていた。
 焦って無茶をするのは禁物とはいうものの、やはりここまで来て収穫無しというのは口惜しい……
「この映画は何度見ても素晴らしいね。イギリスの工作員だったロレンスが自由を求める人々の姿に心打たれ、彼らのために戦う姿はこの上なく素晴らしい。そう思わないかい?」
「え、ええ……そうですわね」
 ――あ、しまった。つい生返事をしてしまいましたわ……
 タジルハッドがこの映画を好きな事は事前に調べて、もっと気の利いたセリフも考えておいたのに……ミスを後悔しても遅い。タジルハッドが怪訝な顔になる。
「つまらなかったかな……僕は大好きな映画なんだけど」
「いえいえ、そんな事はございませんわ。ただ、知り合いにもオールドムービーの好きな方がいて、何度も見た映画なもので」
 なんとか誤魔化す。ここで気を悪くされたら接点を失うかもしれない。
 余談だが、美雪の言った事は嘘ではない。『アラビアのロレンス』はもう何度も見ている。
「お食事の用意が出来ましてございます」
 ちょうどいいタイミングで、メイドのアジーが料理の乗ったキャリーを押して入ってきた。この厄介なメイドに美雪は初めて感謝した。
 運ばれてきたのは、大皿に山と盛られた長米の上に味付けして焼いた子羊肉を乗せた、中東では一般的なカプサと呼ばれる料理と、オリーブの葉を使ったサラダ。本来なら手づかみで食べる所だが、美雪に配慮してかスプーンやナイフフォークが付いてきた。お飲み物は何になさいますかとアジーが訊いて来たので、美雪は何度か飲んだ事のあるラバンという飲み物を頼んだ。
『うきゃーっ! またあんただけそんないいもん食って! あたしにも食わせろぉーっ!』
『うるさい! 黙れ!』
 またぎゃあぎゃあと騒ぎ始めた耳の中を無視してカプサを口に運ぶ。確かに、スパイスの効いた子羊の肉はこの上なく美味だ。
「メイドさん。これはわたくしが中東で食べた中で一番美味しいカプサだと思いますわ。よろしければ作り方を教えていただけるかしら?」
「ありがとうございます。お帰りの際にレシピを紙に書いてお渡しいたします」
「よしなにですわ。ところで……あなた、先ほどのロレンスをどう思うかしら?」
「は……?」
 いままで眉一つ動かさなかったアジーが、さすがにぽかんと口を開けた。
「良い話、だと思いますが何か」
「いえ、聞いてみただけですわ」
 そう言って、美雪はカプサの山を切り崩す作業に戻る。
 と、米粒が左手に零れ落ち、何気なくそれを食べようとして……アジーに見咎められた。
「失礼。落ちた米粒などはこちらの塵紙の上にお捨てください」
 中東では、食事のときは右手だけを使う。左手はトイレで尻を洗ったりするのに使う不浄な手だからというのがその理由で、中東独特の衛生管理の方法と言えるが、ボタン一つで尻を洗える水洗式のトイレが普及している23世紀現在では、若い世代を中心に風化しつつある習慣でもある。
 アジーは壁と一体化しているダストシュートの蓋を開け、米粒を包んだ塵紙を捨てた。塵紙はエアで壁の中を運ばれ、自動的に分別された上で外のダストボックスに入るのだろう。
「いえ、こちらこそ失礼。うっかりしてましたわ……この家、戒律とか厳しそうですものね」
 解るかい? とタジルハッド。
「うちの家はかなり厳格なんだよ。昔の習慣とか戒律とかね……酒は飲むな、豚肉は食べるな、遊び過ぎず、神様へのご奉仕に一生を奉げろってね。勿論、僕もそれを守ってるよ」
 そうですの、と相槌を打って、美雪はそれとなく部屋の中に視線を巡らせる。
 ――厳格に、守ってる……ねえ。
「……まあ、そういうのを大事にするのはいい事だと思いますわ」
 言って、美雪はラバンに手を伸ばす。ヨーグルトを水割りにして、塩味をつけた飲み物。慣れるとこれが意外においしいのだ。
 と、タジルハッドの飲み物に目が行った。あれは確かカフウィとかいう濃いコーヒーだ。もう日が落ちる時間なのに。
「あら。こんな時間にコーヒーですの? 眠れなくなりますわよ」
「いいんだよ。僕は寝ないからね。君はゆっくり眠るといいよ」
 そう言って、タジルハッドはニタニタとほくそ笑む。あれはどう見ても何か企んでいる目だ。
 大方、ラバンに即効性の睡眠薬でも入っているのだろう。
「……」
 ラバンを口に含み、口の中で転がしながらしばし、考える。
 タジルハッドは無視していいとしても、メイドと使用人は油断ならない連中だ。深入りは危険……慎重を期すのならここで睡眠薬入りのラバンをこっそり吐き出して帰るべきだ。
 しかし、美雪はもしかしたらと思っていた。つい今しがた考えた、ある推測が正しいのなら……早くに結果を出せるかもしれない、と。
 ――危険を冒すものが勝利する、とも言いますしね。
 美雪は覚悟を決め、睡眠薬入りのラバンを一気に喉の奥へ嚥下した。

 ………………



「……はて。急に静かになったな……」
 沈黙したヘッドフォンをトントンと叩き、和也は呟いた。
「奈々美。中の様子はどうだ?」
「それが、カーテンを閉められちゃって……何かあったのかしらね」
 双眼鏡を覗き、緊張した声で言う奈々美。
 むう、と和也は唸る。よく解らないが、状況に変化があったのは確か。仮眠を取っていた烈火と美佳を「おい、起きろ」と楯身が揺り起こし、埃っぽい部屋の空気が、にわかにぴんと張り詰める。
「妃都美。念のために準備して」
「了解」
 狙撃の準備を促す和也に頷き、妃都美はほんの少し開けた窓からアカツキ狙撃銃を突き出す。
「最後に聞こえたのは、カプサが今までで一番美味しいとか、レシピを渡すとか何てことない会話だったけど、いきなりぷつっと切れたな……美佳、レーダーで何か見えないか?」
「……中で人間の動きは確認できます……ですが、やはり遠すぎて詳しくは解りません……」
 くそ。中の状況が解らないんじゃ動きようがないか……もどかしさに、和也は爪を噛む。
 とにかく、準備だけはしておいた方がよさそうだ。和也はメンバーに戦闘準備を命じ、フェイスマスクで顔を隠すよう指示を出すのも忘れない。
「あと誰か、ホシノ中佐に連絡しておいて。ブレード7との連絡が途絶えた、戦闘に突入する可能性ありって」
 了解、と楯身。自分でやってもよかったが、今はルリと顔を合わせ辛い。
 ――まさか、美雪に限って正体がばれたとも思えないけど。でも……
 なにせ、けしからぬ性癖の持ち主である疑いが濃厚な男だ。
「何かやらかしてもおかしくないよね……」
「撃ちますか?」
 殺意閃く声音で妃都美は言う。タジルハッドのように女性を欲望の対象としてしか見ていない男は、妃都美が何より嫌悪するタイプの人間だ。今すぐにでも撃ち殺してやりたいと思っているのがありありと窺えた。
「もう少し我慢しろ。美雪ならそんなヘンタイ野郎なんかに……」
 どうにかされたりしないよ――――和也がそう言いかけた時、ふわ、と視界の隅に埃が舞った。
 ――風が入ってきた? 窓は開けてないはずなのに……和也は怪訝に思って振り向こうとした。
 瞬間、背後に忍び寄っていた何者かに口を塞がれた。突然の事に悲鳴を上げるも、塞がれた口からは何も出てこない。仲間たちは異常にまだ気が付かない。もがく和也の視界に、鈍く光る刃が見え、首の頸動脈を切られる、と和也は直感的に思い――――――

 ばっ、と鮮血が部屋の中に撒き散らされた。










あとがき(なかがき)

 美少女スパイ美雪の潜入捜査と、忍び寄る謎の影でした。

 今回は悪魔っ子な特殊戦要員、美雪のお話です。お嬢様な言葉の端々に毒のあるチームの和を乱しがちな存在ですが、『草薙の剣』随一の実力を持つ優秀な兵士です。
 第八話の「なんですかその笑いは……まだ何か隠してますね」の伏線をようやく回収できました。いや、忘れていたわけじゃないんですが機会がなくて。
 なんかハーリー君に目を付けて色々ギリギリな事やっちゃってますが、セーフですよね?(汗)

 >特殊部隊が諜報活動もするって、どんだけ宇宙軍は人不足やねん
 うろ覚えなので、ソース求むとか言われると困るんですが……私は特殊部隊は国によってまちまちながら、現地人と仲良くなって情報を得るとか、そういう事も任務に含まれると本とかで読みました。特殊部隊員と諜報員の明確な区分は無いとも聞いていたので、こういう事もするかと思っていたのですが。はて、私は何か勘違いを?

 今回は難産でした……次回の仕掛けとかあれこれ捻りを入れてるうちにこんなに時間が……次回の流れとかはおおむね出来ているので次はもう少し早いとは思いますが、この調子では完結まで何年かかることやら。
 まあ地道に続けていくつもりではありますが、最近はマブラヴオルタネイティヴやその二次創作小説にもハマっちゃってまして。そっちも並行して書きたいかななんて思ったりしてます。(実はすでに構想が出来上がりつつある)

 それでは、また次回お会いしましょう。











感想代理人プロフィール

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代理人の感想
相変わらず和也君苦労してるなぁw
まぁ、半分位は自ら買って出てるようなもんですが。

とりあえず美雪は「ダーティーハリー」も見てるに違いない。

> …………しーん、と場が静まり返った。

(爆笑)
いや、確かにこの年齢の少年としては妥当な疑問だからなぁw




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