四章

 ゴルトが陥落して、半月が過ぎた。
 ほんの半月前まで、苦しいながらも人々の営みがあった町は、現在は公国軍の補給拠点と化していた。町中には公国兵ばかりが闊歩し、魔力カートリッジや食料品を収めた木箱を積んだ馬車が行き交い、そこで働いているのは逃げ遅れ、強制労働に従事させられている町の住民たちだ。その光景を鉄格子の嵌められた窓から見るたび、リーデは悔しさのあまり嘔吐しそうになる。
 リーデはいまや自分の者ではなくなった屋敷の一室に軟禁され、食べて寝る以外の自由を一切奪われた状態で時を過ごしていた。この半月は、自分の守りたかったものが傷付けられている様を、手も足も出せないまま見守るしかない屈辱の日々だった。
「ヴィンフリーデ様、夕食をお持ちしました」
 礼儀正しくドアをノックし、入室してきたのはティオンだ。彼が持つトレイには肉や野菜を煮込んだシチューやパン、果物などが山と盛られている。
「ティオン――――!」
 その姿を見るなり、リーデは座っていた椅子で殴りかかった。ほぼ本気で殺すつもりの一撃は、しかしあっさりと片手で受け止められる。
「ティオン、早く私をここから出しなさい……!」
「それはできません。ヴィンフリーデ様は自分と共に、シュランゲ公国へ亡命していただきます」
 殺気を孕んだ言葉も、仮面のような無表情で返される。こんなやり取りももう何十回目だろうか。殴り倒してでも逃げ出そうとしたリーデだったが、武器を持たず魔法を使えないまま抵抗しても、ティオンに魔法でそれを封じられるだけだった。
 監禁生活が始まってから、リーデの身の回りの世話はティオンが行っていた。この半月間肉体的な危害を加えられなかったのも、彼が守ってくれていたからだろう。
 それでも、リーデは彼が許せなかった。
 ティオン曰く、彼が公国軍と接触したのは襲撃の一ヶ月ほど前。魔境の森を通過できるルートの情報を提供し、ゴルトの大規模魔法障壁を破壊して侵攻を手引きする。見返りは自分とリーデを、公国に亡命させてくれる事。
 当然ながら、スカルビアたちも罠の可能性を警戒していた。信用を得るためにはゴルトでの略奪を容認するしかなかったとティオンは語った。
「私は嫌です……! 皆を裏切って、敵国に身売りするなんて! 私はここの領民と、国民のために――――」
 続くリーデの言葉は、「ヴィンフリーデ様は!」と語気を強めたティオンに遮られた。
「この王国に先があると、本気でお考えなのですか?」
 前に明人へ言ったのと同じ問いを、ティオンは繰り返す。
 二ヶ月前までなら、答えに窮していた。王国の魔力不足は悪くなる一方で、公国や周辺国は確実に侵略の手を伸ばしてくる。中央は完全に地方を切り捨て、難民は飢えと寒さで虫のように死んでいく。
 こんな王国の滅亡はそう遠くないと考えていたのも確かだ。ティオンの絶望もよく解る。だが……
「明人さんが科学文明の産物を持ってきて、私にはやっと一抹の希望が見えました。それはあなたも同じだと思っていたのですが……」
「魔力不足が多少改善したところで、他国の侵略を退けられないのなら一時の延命措置に過ぎません。死病を患った病人を無理に延命させたとて、苦しみが長引くだけでしょう。それよりも他国に取り入ったほうが生き延びられる確率は高い」
「だから……ゴルトと皆を売ったのですか……?」
「そうです。自分が懸念したのは、ゴルトへ公国軍を呼び込む事ができても、用済みとなれば始末されかねなかった事です。今の劣勢な状況では、自分と同じ事を考えている貴族や騎士は王国内に少なからずいる。なにより彼らは王国民を蛮族と見なしていますから。今後に亘って自分とヴィンフリーデ様の安全を担保するには、相応の手土産が必要でした」
 そのためにティオンは公国との接触に踏み切れないでいたが、明人と科学文明の産物が彼の背中を押した。今後も継続的に金の卵を産むであろう雌鳥を手土産とすれば、公国内でも自分とリーデの立場を確保できる――――そう考えた。
「……あなたが見出した希望は、私のそれとは別のものだったわけですね……町と王国を救い得る希望も、外患誘致の餌にしか見えていなかったと……」
「町の人たちと騎士諸侯――――そして明人には悪い事をしました。ですがやむを得ませんでした」
「あなたは明人さんの努力を水の泡にしたのですよ。協力を得られると思っているのですか?」
「ヴィンフリーデ様のためとあれば、協力してくれるでしょう。彼はあなたを悪からず思っているようでしたから」
「…………」
 ティオンの言葉に、少し頬が紅潮する。
 感謝も尊敬もしている相手だ。好かれていると言われて悪い気はしない……と同時に、そんな明人の気持ちまで利用するティオンの卑劣さに改めて怒りが沸く。
「ですが明人さんが逃げおおせた今、それも破綻したのではないですか」
「逃げ切れはしません。間もなくスカルビア男爵が東方軍の城砦を落とします。そうなればなだれ込んできた一万の公国軍によって、エーレンブルクも他の諸侯の領地も全て公国の支配下に置かれます。逃げ場はありません」
 ぎゅ、とリーデは拳を握る。業腹だが、ティオンの言葉に反論する余地がない。
 外の戦況がどうなっているのかリーデに知るすべはないが、今頃スカルビアは兵を率いてゴルトを離れ、城砦の西側で魔力流路を遮断しているはずだ。そうすれば城砦は王国の国家魔力圏から外れ、東方軍は備蓄してある魔力カートリッジで防衛線を戦うしかなくなる。いかな強固な城砦でも、魔力が尽きれば容易く陥落するだろう。
 そして、エーレンフェルス家を含む周辺諸侯は先のグロスター伯爵領での敗戦の傷も深く、領主あるいは身内を人質に取られた彼らは抵抗できない。スカルビアは一切の妨害を受ける事無く魔力流露を遮断できているはず。
 唯一止められるとすれば、国軍最大の戦力を持つ中央軍くらいだろうが、中央の守りを担う彼らを中央の大貴族が動かすとは期待できない。そんな中央だから、ティオンは裏切りなど決意したのだ。
 希望が何もない。じわじわと心が絶望に侵されていくのを感じる。
「全てを捨てて、新しい人生を始めましょう。そうすれば、理由もなく殺された母や、生きるために春をひさいで死んでいった姉のようにはなりません。ヴィンフリーデ様は――――ヴィンフリーデ様だけは、幸せにしてみせます」
 ふざけるなと一蹴するべき独りよがりな言葉が、酷く優しく聞こえる。
 半月の監禁生活で弱った心に、ティオンの言葉は甘い毒のように沁み込んできた。
 ――屈服してしまおう。そうすれば楽になる――――
 心の中でそう囁く声が確かにある。何度頭を振って追い出しても聞こえるその声に、やがて負けてしまいそうになる。それが死ぬほど悔しい。
「私は……」

 その時――――窓の外で何かが光った。

「な、あれは……!?」
 驚いた顔でティオンが、鉄格子の嵌った窓に駆け寄ってくる。
 崩れたまま修復されていない東の城壁付近で、間違いなく攻撃魔法の光が見えた。
 一瞬遅れて爆音が轟き、火の手が上がる。ゴルトに残る公国軍の兵たちも異常に気付いたのか、夜闇に沈んでいたゴルトがにわかに騒がしくなる。
 そして今更のように響く、緊急事態を報せる鐘の音。
『敵襲! 敵襲――――! 蛮族共の襲撃だ! もう城壁の中に入り込まれて……う、うわああああああああっ!』
 悲鳴と共に放送が断ち切れる。見張り塔の放送室が制圧されたのか。
「馬鹿な、城壁には見張りがいたはず……いったい誰が」
 ティオンは信じられないと言いたげな顔だ。リーデもこの状況でゴルトを攻撃できる勢力がいると思っていなかった。しかも、城壁の壊れた東から進入したにせよ、中に進入するまで気付かれない手際の良さ……
 まさかと思ったリーデへ答えるように、再び拡声ラウドボイスの魔法で増幅された声が響く。
『――――あーあー、野蛮で卑劣な侵略者の公国軍と、裏切り者のティオン! 聞こえてるよね?』
「この声……!」
 ティオンは愕然と目を見開き、リーデもまた愕然とする。
「明人さん……そんな」
 あの虫も殺せそうになかった少年が――――まさか軍勢と共に戻ってきたのか。
『返してもらいに来たよ。この町と、リーデさんと、奪われたもの、全部!』


 ――リーデさん、聞こえてたよね? 助けに来たよ。
 自分の声が、少しでもリーデに勇気を与えられた事を願いつつ、明人は城壁から下へと駆け下りる。その足が雪を踏みしめるたび、手にした銃と身に付けたその他の武器がガチャガチャと音を立てた。
 銃の開発は簡単ではなかった。どんな銃を作りたいのかと問われれば、現代地球の軍が使う自動小銃や機関銃が理想だ。だがあれは機構が複雑で、作ろうとしたら相当時間がかかる。この銃は限られた時間で作る事ができ、銃を知らない人が使えるほど操作は簡単で、量産性も高くなければいけない。
 発射薬については、魔法で土中から直接硝石を結晶化して取り出す方法が見つかり、黒色火薬の量産の目処は付いた。だがより強力な無煙火薬は原料が手に入らず、入手は断念した。口惜しいが、この時点で既に明人の銃は現代から大きく後退した物にならざるを得なかった。
 一番の問題は弾丸、正確には薬莢だった。大量の金属薬莢を生産するには材料となる大量の真鍮と、専用の設備が必要だ。そんなものを整えていたら全てが手遅れになる。薬莢が作れなければ、もはや戦国自体の火縄銃やマスケット銃といった十六世紀レベルの前装銃にまで後退せざるを得ないが、そんな物であの恐ろしい侵略軍に勝てるわけがない。
 散々考えた明人が目を付けたのは、現代から約二百年前の十九世紀前半に、後にドイツ帝国を打ち立てるプロイセン王朝が治める地で開発された、画期的な銃だった。
 火薬と弾頭、起爆装置の雷管を紙で包んだ紙製薬莢を後部から装填し、針を雷管に突き刺して激発する世界初のボルトアクション式後装銃。開発者の名前からドライゼ銃と命名されたこの銃は、プロイセンとオーストリア帝国の間で戦われた普墺戦争において、マスケット銃兵主体のオーストリア軍を圧倒した。
 明人はそのドライゼ銃を元に、銃身を短くし取り回しやすさを高めたカービンライフルを作った。射程は犠牲になるが、交戦距離の短い市街戦を想定するなら問題はない。
 無論、ゴルトに進入する前に発見されて野戦となれば、数の差で一蹴される。そこで明人は全員に真っ白な長衣を着せ、顔に白粉を塗り、武器にも白い布を巻いた雪中迷彩を施し、夜間に匍匐前進で接近した。効果は見ての通り。公国軍の見張りは誰一人気付かず、領地軍は無傷でゴルトへの侵入を果たした。
「第一段階は成功。作戦はこれより第二段階へ移行する――――全軍、状況を開始しろ!」
「おっしゃあ! 行くぜーっ!」
「リーデ様、今お助けに参ります!」
 明人の号令一下、百三十一人の領地軍がゴルトの各所へ散っていく。内訳は魔法戦士が三十一人と、キリシマ銃、と名付けた銃を持つ雑兵隊、改め銃兵隊が明人を含めて百人。敵に比べてあまりに少ない数だが、これ以上は兵を鍛える時間も、武器を作る金もなかったのだ。
 だが寡兵には寡兵なりの戦い方がある。明人はフレイたち五人の魔法戦士と、エルを初めとする二十人ほどの銃兵を引き連れて大通りを走った。
 ――いきなり城壁の中に敵が現れたんだ。公国軍の奴らは相当慌てるだろう……あとはそれをどこまで大きくできるか。
「来たぞ! 道の先に敵だ!」
 エルが叫ぶ。道の先に敵兵が集まっているのが見えた。目算でおよそ五十人。魔法戦士も十人はいるか。
「迎え撃つぞ! 横隊を組んで奴らを狙え! 僕が合図したら射撃開始だ、訓練を思い出せ!」
 戦力差は二対一。本来なら遁走していい差だが、明人はあえて迎撃する。どのみち数で向こうが上回るのは承知の上だ。
 二列の横隊を組み、敵に銃口を向ける。フレイたち魔法戦士は、攻撃魔法に無防備な銃兵を魔法障壁で守れるよう前に出る。城壁陣と呼ばれる、戦場での基本陣形だ。
 公国軍もまた同様に城壁陣を組み、歩調を合わせて向かってくる。その様は鉄の壁が迫ってくるようだ。
 ――僕たちには力がない、だから奪われて当然。あんたはそう言ったね、スカルビア……
 苦い記憶を思い起こす明人の前で、攻撃魔法の撃ち合いが始まる。赤熱した火球が夜の闇を裂いて飛び交い、互いの魔法障壁に防がれ爆ぜる。
 魔法障壁は複数発の攻撃魔法を撃ち込めば破れるが、魔力の消費を考えると非効率だ。撃ち合いである程度数を殺ぎながら接近し、敵が崩れたら超重量級武器での接近戦に持ち込むのが効率的で定石。魔法戦士の数でも魔力の量でも負けている領地軍は、ひとたまりもなく殲滅されるところだ。
 だが今は違う。
 ――見せてやる。これが僕たちの力だ!
「……撃、てえええええええっ!」
 引き金を引き絞る。黒色火薬が爆ぜ、反動でストックが肩に痛いほど食い込む。
 それを合図に、銃兵隊による一斉射撃が始まる。数十の銃口が銃声の多重奏を奏で、赤熱した鉛弾が怒りと共に飛ぶ。
「ぐはっ!?」
「ぎゃあああああっ!」
 くぐもった悲鳴が上がる。公国兵数人が血煙を吹いて倒れ、それを見た他の連中にも動揺が走る。
 そこに魔法戦士の一人が、武器を振り上げて叫ぶ。
「ええい、怯むな! 斬り殺せ!」
 強引に突撃再開を命じ、駆け足で迫ってくる。騎士の立場上簡単には退けないのだろうが、それはあまりに無謀な突撃だった。
 即座にボルトを引き、煙を上げる薬室に次弾を装填。油と蜜蝋でコーティングされた紙製薬莢はするりと抵抗なく銃に飲み込まれ、ボルトを戻して再度射撃。所要時間は僅か数秒。
「俺たちの町から出て行け!」
「消え失せろ――――!」
 公国軍から明人たちまでの距離は、目算で二百メートルほど。重たい武具を身に着け、おまけに雪で足元も悪いこの状況で彼らが明人たちと接触するまで、全力で走って一分弱。キリシマ銃の連射性能なら全滅させておつりが来る。
「ごほっ! た、助け……!」
「ああああああ! 痛え、痛えよぉっ!」
 明人たちの銃が火を噴くたびに、雑兵が血を吹き、悲鳴を上げて倒れていく。数秒の間に石畳の道は倒れた雑兵で舗装された。
 だが一方で、魔法戦士に当たった弾は火花を上げて弾き返される。
「チッ……!」
 明人は舌打ちする。やはり魔法戦士の鎧を貫くには威力が足りていない。
 魔法戦士も銃弾が鎧で防げると気付いたのだろう。役に立たない雑兵を放って魔法戦士だけで突撃してくる。
 ――ここまで出来れば十分か。
「射撃中止、射撃中止! 逃げろ!」
「わー! もう駄目だ逃げろー!」
 明人が叫び、全員が散り散りに逃げ出す。まるで魔法戦士の接近に怯え、肝を潰したように。
「みんな、予定通りに。フレイも合流地点に移動して」
「解ってる。……でも、本当に大丈夫なのあんた?」
「お気遣いどうも。でも気持ちだけ受け取っとく。みんなに危ない橋を渡らせて、自分だけ守られてたらみんな納得しないよ」
「解ったわよ。ご武運を!」
 軽く手の甲を合わせ、フレイたち騎士と別れる。魔法戦士がいなくなるのは心細いが、これも勝つためだ。
「さあ、近代戦争の恐ろしさを見せてやる……!」



 この時点ではお互い遠くて気が付かなかったが、明人と対峙した公国軍の中には因縁浅からぬ二人の騎士もいた。
「逃げたぞ! 追え!」
 テレンツィオは眼前の領地軍が逃げ散ったのを見て、かさにかかって攻めかかる。それを一歩引いた所でティオンは見ていた。
 あの後、屋敷に怒鳴り込んできたテレンツィオから迎撃に加わるよう強要されたティオンは、仕方なく従った。ここから出せと喚くリーデを置いてだ。
 隙を見て屋敷へ戻るつもりでいたティオンだったが、ふと振り向くと領地軍の攻撃で倒された雑兵隊が雪の上に転がっていて、瀕死の兵が上げる呻き声とその数に思わず息を呑む。
 ――明人、なんて武器を作ったんだ……
 あの破裂音は、薪騒動の時に明人が使っていた物と同種の武器だろう。五十人はいた雑兵隊が三十人近く倒された。
 魔法戦士の鎧を貫く威力はないと見て、テレンツィオたちは恐れるに足らずと思ったようだが、これで終わるとは思えない。
「おい! 迂闊に……!」
 前に出るな、と叫んだティオンの声を、あの破裂音がかき消した。雑兵の一人の頭部が果実のように弾け、横殴りに倒される。
 ――横から!?
 攻撃の飛んできた方向を見ると、民家の二階の窓から武器を突き出した影が見えた。
 ティオンは咄嗟に炎熱球ファイアボールを撃ち込んだが、手ごたえはない。着弾前に逃げたのだろう。
 そこへ背中に衝撃。それは鎧に弾かれたが、「うわっ!」と思わず一歩よろめく。
 ――これは……!
「囲まれてるぞ!」
「盾を構えろ! 密集陣形!」
 誰かが叫ぶ。民家の窓、屋根の上、さらに物陰――――そこら中で何かが光り、攻撃が飛んでくる。
 公国軍は堪らず小さな円陣を組んで防御陣形を作る。雑兵隊は盾を構えて攻撃から身を守ろうとし、テレンツィオら魔法戦士は攻撃魔法で応戦し始める。だが夜闇の中敵の姿はろくに見えず、めくら撃ちされる攻撃魔法が敵を仕留めているのか判然としない。
「チッ……! 雑兵隊は建物の中を捜索しろ! 敵を燻りだせ!」
 テレンツィオは苛立った叫びを上げる。魔法戦士は家屋の中には入っていけない。武具が重過ぎて床を踏み抜くからだ。建物の中へ踏み込むのは雑兵隊が適任なのだが――――
「い、嫌だっ! あんな恐ろしい連中のいる中に、俺たちだけで入っていけるか!」
 雑兵の一人が怯えた声を漏らす。魔法障壁を持たない彼らは、魔法戦士が傍にいなければたちまち攻撃魔法の餌食になる。魔法戦士の傍を離れるのは相当な勇気の要る行為であり、まして彼らの大半は金で雇われた盗賊兼業の傭兵。そんな勇気を張る理由はないのだった。
「もう敵は抵抗できないとか言ってたじゃねえか! こんなやばい戦場なら俺は逃げ――――」
 その言葉に、テレンツィオは彼の身体を縦一文字に切り裂いて返答に代えた。周りの雑兵がひいっ、と怯えた声を漏らす。
「貴様たちは黙って従えばいい! 逃げる者はこの場で叩き切る!」
 魔法戦士の武威を背景にした、抗弁の余地のない恫喝。逆らう事もできずに雑兵たちは家の中に踏み込み――――戸を開けた数秒後、爆発がそれを出迎えた。この短時間でどうやってか知らないが。家の中に罠が仕掛けてあったのだ。前に進もうが逃げようが、雑兵たちには死が待ち構えている。
 侵略者だったはずの彼らを、ティオンは初めて哀れに思った。



 背中のほうで爆発音が響き、路地裏を走っていた明人は敵がブービートラップに引っかかったと知った。
 せっかく犠牲を払って家の中に踏み込んだのに、そこにいた明人はもう逃げた後だ。公国軍の連中はさぞ業腹だろう。
 ――思った通り、ゴルトに残ってる敵は千人もいない。
 東方軍からの情報提供と、ゴルトから逃げてきた住民の証言によって、スカルビアは三千の兵を率いて西からの城攻めに当たり、残る二千もゴルトにそう多くは残っていない事は事前に解っていた。
 後詰が来ていないのが不可解だったが、これはフレイから聞いた話で氷解した。公国は四公家という四つの公爵家が建国した国で、四公家の中から貴族の投票によって公王という名の王が選ばれる特異な権力構造の国らしい。王家が四つあるようなものだから、次の公王の座を巡る権力争いは激しいものがある。
 スカルビアも四公家の一門に仕える家臣で、奴が手柄を立てればその主は次期公王の座に大きく近付く。だから多少無理をしてでも自分たちだけでやろうとしている。明人はそこに、付け入る隙を見出した。
 おかげでゴルトの守りは薄く、かなり自由に動き回れているが、周辺で補給路の確保をしていた部隊がこの騒ぎを聞きつけて、すぐに集まってくるはずだ。こちらは武器もそのうち使い果たし、時間が経つほど不利になる。
「この武器……すげえ……!」
 興奮気味に呟いたエルに、明人は口の前で人差し指を立てる。このジェスチャーが『静かに』の意味で通じるのは偶然ではなく、明人が教えたからだ。
 数の不利を補うために明人が選んだ戦術は、二・三人程度の小部隊に分かれ、逃げて隠れながら戦うゲリラ戦だった。短い時間で装填でき、物陰に隠れながらでも攻撃可能なキリシマ銃があるからこそ実現した戦術だ。
 成功率と生存率を高めるため、雪中迷彩である長衣を脱ぎ捨てた下には真っ黒く染めた皮鎧を着て、顔の白粉を雪で落とした上に墨を塗り、夜間迷彩に切り替えた。さらに声で動きを悟られないよう意思疎通は簡単なハンドサインで行い、魔法戦士に狙われないよう一撃を加えたらその場からすぐ逃げる一撃離脱を徹底させた。
 一連の戦術を確実に行うため、明人はこの半月間エーレンブルクの一角から人を立ち退かせ、市街戦を想定した訓練を行った。おかげである程度は自分の判断で戦える軍が出来上がった。
 余談ではあるが、訓練のため家を追い出されたエーレンブルクの住民は大いに苦しんだし、反発も起きた。ついでに言えば今明人たちが使っている武器を作るため、難民への援助を後回しにさせて餓死者を増やす真似もした。戦争に勝つため民に犠牲を強いる明人は、我ながら立派な戦争指導者だった。
 だがそれを止める気はない。
 ――ここで攻撃するよ。
 近くに敵の気配を感じ、明人とエルは手近な民家の二階に上る。玄関の裏に手榴弾を固定してワイヤーを張り、進入防止兼警報装置のブービートラップを仕掛けるのも忘れない。
 窓からそっと外を覗くと、表通りを公国兵が右往左往していた。自分たちを探しているのだろうが、明人が連れてきた兵は大半がゴルトの住民。地の利はこちらにある。
 ――投擲する!
 明人は腰からゴルフボール大の丸い鉄の塊を掴み取る。薄い鉄の入れ物の中に火薬を入れ、簡単な遅延発火装置と組み合わせた手投げ爆弾、つまり手榴弾。中でもこれは黒色火薬の威力不足を補うため、鉄片を仕込んで殺傷力を上げた破片手榴弾フラググレネードだ。安全ピンを歯で引き抜き、しゅうしゅうと煙を上げ始めたそれを公国軍に投げつける。
 爆発。爆圧で一人が足を吹き飛ばされ、六人が飛び散った破片を浴びて倒れ伏す。
 さらに明人とエルは、無事な敵を窓から狙い撃ちにした。高所からの撃ち下ろしは狙い易い事この上ない。発砲と再装填を繰り返し、公国兵を狩猟の如く撃ち倒していく。
 良心の呵責はもうない。敵が血を吹いて倒れていくたび、たまらないほどの高揚感が全身を駆け巡る。アドレナリンの大量分泌によって引き起こされる異常な興奮状態――――いわゆるコンバットハイという奴だろうと思った。全てが終わってアドレナリンが薄くなった時、一時的に忘却していた恐怖や罪悪感が心を苛むのかもしれないが、今はあるかどうかも解らない先の心配などしていられない。
 二人合わせて五人を血で赤くなった雪の上に倒し、十分な損害を与えたところで逃げようとした時、下でガラスの割れる音がした。思わず「げっ!」と声が漏れる。
「ここに入っていったぞ!」
「上だ、探し出して殺せ!」
 窓から入ってきたか。玄関にトラップを仕掛けたのは失敗だったと思いつつ、明人はエルと頷き合う。
 ――ここで戦うしかないよ。
 ――やってやる。
 二人は腰のナイフを引き抜き、キリシマ銃の銃口下部に付いた金具へと装着する。銃剣を取り付ける事で接近戦に対応できるのも銃の利点だが、殴り合いの経験もろくにない身でどこまで戦えるだろう。
 知らず、銃を強く握り締めていた。怖い――――だけど、こんな所で死んでたまるか。
 明人とエルは部屋の戸の両脇に位置取り、エルが破片手榴弾を握り締める。荒々しい、複数人の足音が階段を駆け上がってきて、二人がいる部屋の前にやってきた刹那、明人が僅かに開けた戸の隙間からエルが手榴弾を投げ入れた。
 爆発。悲鳴が上がると同時に戸が壊れて倒れる。そこから廊下へ出て、可能な限り迅速に敵の状態を把握――――敵は五人、内一人が破片を浴びて倒れ、残りは四人!
 最も怪我の軽い二人にそれぞれ一発づつ銃弾を叩き込む。次弾を装填する暇はない。敵に立て直す隙を与えず銃剣で切り込む。
「う……ああああああああああっ!」
 叫び、全体重を乗せて銃剣の切っ先を眼前の公国兵に突き入れる。ずぶりとおぞましい感触と共に刃が左肩部に沈み込み、「あが……!」と公国兵が呻き声を上げたが、致命傷には遠い。とにかく銃剣を引き抜こうとし、思わぬ抵抗に驚く。そういえば筋肉が収縮するんだった。
「この野郎!」
 激高した公国兵が鉈で切りかかってくる。やむなく抜けないキリシマ銃を手放し、右の太腿に提げたホルスターからM36モドキを引き抜いて――――
「あっ!」
 鉈が一閃。弾かれたM36モドキが手を離れて床に転がった。
 間伐入れずに前蹴りを胴に食らい、「げほっ!」と呻いて床に転がった。そのままマウントポジションを取られて抵抗を封じられる。エルが「明人!」と叫んだが、彼も別の敵と格闘している最中だ。
「死ね!」
 殺意を叫び、公国兵が鉈を振り上げる。逃れられない死に目を閉じた刹那、左手に何かが触れた。
 ――死んでたまるか!
 無我夢中でそれを掴み、力の限りぶん回す。がしゃん! と公国兵の側頭部に当たって砕けたのは陶器製の植木鉢だった。押さえつける力が弱くなり、その隙に明人は拘束から抜け出して、腰から三つ目の武器、手斧を引き抜く。刃の反対側がピッケルになり、より武器としての機能に特化した軍用トマホークだ。
「くたばれ!」
 よろめく公国兵の、武器を持った右手を斧で一撃して反撃を封じ、最後は力任せに数度頭を殴って止めを刺す。非力な明人でも扱いやすく、かつ致命傷を与えやすい物をと思って作った武器は、期待通りに公国兵の頭蓋を叩き割った。
「――っ! 大丈夫か、明人!?」
 こちらも格闘の末に一人を倒したエルが駆け寄ってくる。
「な、何とか……それより、急いで脱出!」
 明人は落とした武器を大急ぎで拾い、窓に向かって走る。あれだけ音を響かせた上に長く一箇所に留まりすぎた。
 ――ここはもう、敵の魔法戦士に捕捉されてる!
 途端、轟音と共に無数の氷塊が民家へ突き刺さってきた。木材が粉砕され、家が一瞬にして蜂の巣になっていく。
 氷襲弾アイスバレット――――外の雪をビー玉サイズの氷に変えて連射するその攻撃魔法は、まるで機関銃の掃射だった。「ひあああああ!」と悲鳴を上げて、明人とエルは窓から飛び降りる。
 なんとか足を挫かずに着地した二人は、息つく間もなく走り出す。一刻も早く移動して、敵を振り切らないといけない。
 そこへ目の前の民家の壁が突然爆ぜた。木片を撒き散らして、中から豪奢で重厚な鎧を纏った騎士が現れる。
 ――魔法戦士!
 もう勢いが付きすぎて止まれなかった。横薙ぎに振るわれる大剣の斬激を、明人とエルは咄嗟に前へ飛び込む形で避ける。
 巨大な剣が頭上数ミリの所を通過し、雪の上を転がって態勢を立て直す。何とかすれ違う事はできたが、このままでは背中から攻撃魔法で狙い撃たれる。
「エル!」
 呼び、明人は腰に一本だけ挿しておいた酒瓶を手に取る。中身はエタノール、つまり高純度のアルコールだ。銃弾の雷管に使われる雷酸塩を生産する過程で必要となったエタノールを転用した副産物――――火炎瓶。
 明人は火炎瓶に魔法で着火。振り返りざまに魔法戦士目掛けて投げつける。魔法戦士が反射的にそれを避けた刹那、エルがキリシマ銃を撃ち放った。
「ぐわあああああああ!?」
 銃弾が空中の火炎瓶に命中し、撒き散らされたエタノールが燃え上がる。その炎が容赦なく魔法戦士に襲いかかった。
「ナイスショット!」
 明人の意図を瞬時に見抜き、空中の瓶に命中させる技を成功させたエルに、明人は賛辞を送る。
 たぶん致命傷にはならないだろう。だがこれで逃げる時間は稼げた。
 ――魔法戦士が増えてきてるな……
 ゲームと違い、全体の戦況を上から見下ろしはできないが、時間が経つにつれ魔法戦士との遭遇率が上がっているのが解る。逃げ回るこちらと役に立たない雑兵に苛立った公国軍は、とにかく魔法戦士を増やして明人たちを狩り出そうとしているのだろう。
「頃合いかな……作戦第三段階だ! 正念場だよ!」
 空に緑色の信号弾を打ち上げる。作戦が第三段階へ進んだ事を全軍に報せる合図だ。
「頼むよ、フレイにみんな……エル、僕たちは屋敷に行く」
「伯爵令嬢の救出か? 燃えるねえ」
「魔法戦士と出くわす可能性も高いよ。危険は覚悟して……えっ?」
 不意に異変を感じ、明人は空を見上げる。まるで打ち上げ花火のような光が、幾筋も空へ上り――――落ちてくる。
 花火などではない。全て炎熱球ファイアボールだ。
「まずい、伏せろ!」
 咄嗟に雪の中へ伏せた明人とエルの周囲に、炎の塊が高熱を伴って、雨のように降り注いでくる。周辺の家屋がたちまち燃え上がり、寒い冬の町から一転して焦熱地獄が現出する。
「わあああああああっ!」
 領地軍の銃兵数人が、火を背負って建物の中から飛び出してくる。熱さに雪の中を転げまわる彼らは公国兵に群がられ、刃で突き刺されて死んでいく。
「野郎、俺たちを火責めで燻りだす気かよ……!」
 エルが怒りを口にする間にも煙が充満し、呼吸が苦しくなる。表通りに飛び出したくなるが、そうすれば敵の餌食となるのは目に見えていた。
「こっちだ! 煙を吸い込まないよう姿勢を低く……!」
 やむなく雪を頭から被って身を守り、火災地帯を突っ切ろうとする。
 その頭上から、崩れた家屋が火と共に落ちかかってきた。



「く……! 今度は私たちの町に火を……!」
 窓から炎上する町が見え、リーデは壁に拳を叩き付ける。重ね重ねの蛮行に、彼女の怒りもピークを越えていた。
 ティオンは迎撃に駆り出されたきり戻ってこない。公国軍は思った以上に混乱していてリーデの監視に気を使っていない。
 今のうちならと意を決し、リーデは半月の監禁生活で凝り固まった筋肉をほぐすように肩をコキコキと鳴らす。そして窓際へ寄って呼吸を整え――――
「――っああああああああ――――――!」
 助走をつけて、自分を閉じ込めている部屋の扉へ体当たりする。特別頑丈でもない木作りの扉は大きく悲鳴を上げて軋んだが、破れるには至らない。体重の軽い女の身体を恨めしく思いつつも諦めずにもう一度体当たりすると、今度は扉がくの字に曲がった。
 その時「何だ、今の音は!?」と声がし、複数の足音が近付く気配がした。焦りを抑えつつ渾身の力で三度目を試みる。
 限界を超えた衝撃に、バキイ! と扉が見事真っ二つに割れた。と同時に、数人の公国兵が剣を抜いて現れる。
「伯爵令嬢……! 逃げ出したのか!?」
「ビビるな! 魔法が使えなきゃただの女だ!」
「逃げたら殺せって言われてる! やっちまえ!」
 ――舐められたものですね。
 小娘一人ならどうとでもなると思って攻めかかってくる雑兵三人。リーデは壊れた扉の取っ手を掴んで盾のように構えると、雑兵たちが目の前まで来た刹那に踏み込み、先頭の一人を押さえ込む。
 狭い廊下だ。こうして先頭だけ押さえ込めば、後ろの敵は前の敵が邪魔でリーデを攻撃できない。そうして生まれた均衡状態の中、リーデは右手で窓ガラスを叩き割り、さらに服の襟周りを引き裂いてガラス片に巻きつける。
 雑兵が押し返そうと力を込めてくる。リーデはそこで盾を横に投げ捨て一歩引いた。急に抵抗がなくなりつんのめった雑兵を受け流し、首の後ろに左の肘を叩き込んで倒す。それと同時に逆手に構えたガラス片を、驚いた顔をした二人目の喉目掛けて突き立てた。
「わああああ!」
 一瞬で二人を倒され、恐怖に引きつった三人目が剣を滅茶苦茶に振り回す。それを左手で払い除け、その円運動の勢いを殺さず右上段回し蹴りを叩き込む。折れた歯を以前明人がご馳走してくれたポップコーンとかいうお菓子のように撒き散らして、三人目がぶっ倒れる。
 雑兵隊を片付けたリーデは、今いる二階から一階へ降りる階段に走る。鎧と武器を取り返せればこっちのものだ。後は明人と合流して――――と考えていたリーデを、階段の下から飛来した氷襲弾アイスバレットが襲った。咄嗟に後ろへ飛び退き身を隠す。
「逃がさんぞ、ヴィンフリーデ・エーレンフェルス! 貴様はこの私が殺す!」
 憎悪の目でリーデを狙ってきたのは、あの時スカルビアと一緒にいたテレンツィオとかいう魔法戦士だ。ティオンが離れた隙を狙って殺しにきたか。戦闘に集中するべき時に私怨を優先させる執念深さには呆れるばかりだ。
「あなたは……! なぜそうも私を目の敵にするのですか!?」
「貴様は我が公国を侵略した蛮族の子孫でありながら、ウンベルト卿をその穢れた手で殺した! その罪は死を持って償わせてやる!」
「ウンベルト? ……ああ、あなたはあの騎兵隊の生き残りですか」
 侵略者が返り討たれただけだろうに、お互い生まれてもいない大昔の事を持ち出して罪呼ばわりとは逆恨みも甚だしいと思ったが、リーデの記憶にあるウンベルトという騎士は貴下の兵を逃がすために殿となって戦った勇気ある騎士だった。テレンツィオが彼を強く尊敬していたのは、なんとなく想像できる。
「……彼は立派な騎士でした。あなたたちを逃がそうと盾となって戦った勇気には敬意を表します」
「貴様が卑怯な手を使ったのだ! そうでなければウンベルト卿が負けるはずがない!」
「あの場にいたなら見ていたはずでしょう? 彼は正面から私と戦った。……そして私が勝って、彼が負けた。それだけの事です。卑怯な手を使ったなど彼の勇戦に対して唾を吐く言葉ですよ」
 その言葉への返答は攻撃魔法だった。飛来した氷弾がリーデのすぐ傍の壁を大きく抉る。
「貴様如き蛮族の女が、ウンベルト卿を騙るな! その口引き裂いてやる!」
 怒声を上げたテレンツィオが二階へ上ってこようとし、鎧の重さでバキッと階段を踏み抜いた。チッ! と舌打ちし、鎧を脱ぎ捨てて階段を上がってくる。
 ――バカな男……!
 自分に都合のいい理屈だけを並べるくだらない男だ。ついでに言えばリーデも忘れていない――――奴が無抵抗の明人に暴力を振るった事を。
 殺してやりたいが、今は戦いようがない。業腹だが今は逃げるしかないと判断して窓から身を乗り出す。
 瞬間、足首に温度のない何かが絡みついた。
 ――しまった、縛鎖陣グレイブニル
 魔力で編まれた不可視の鎖に足首を引っ張られ、抵抗空しく引き倒される。そこへインナー姿のテレンツィオが、普通サイズの剣を持って切りかかってきた。
「ウンベルト卿の仇……! 死ね!」
 逃げようのない状況。不可避の死だと経験が教えてくる。
 覚悟しかけたが、それでも諦めたくなかった。あの敵兵に刃を立てる事さえ躊躇した優しい少年が、勇気を出して助けに来てくれたのに――――自分が諦めてどうする。
「――っ!」
 先刻倒した雑兵の死体から剣を抜き取り、テレンツィオの鼻先に振るう。惜しくも届かなかったが、目の前に刃物を突きつけられたテレンツィオは「ぬうっ……!」と唸ってたたらを踏んだ。
「チッ、悪あがきを……!」
 鎧がなければ危険と踏んでか、数歩離れて攻撃魔法の切っ先を向けてくる。この状況では今度こそ、リーデは確実に黒焦げにされる。
 次の瞬間――――突然傍の窓ガラスが割れ砕けた。
「何だ!?」
 思わず手を止め、窓の外を見やるテレンツィオ。そこへ再び先ほどの攻撃が飛んでくる。
 明人だ、と根拠もなくリーデは思った。


「くっそ、当たらない……!」
 銃のボルトを引き、次弾を装填しながら明人は毒づく。
 公国軍による火責めに晒された明人は、本来魔動暖房とバイオコークス暖房の温水が循環する水路に潜り込んで難を逃れた。
 苛立った公国軍が火責めという手段に出る事は、作戦前に可能性の一つとして想定されていたのだ。そうなった時の対処として水路に飛び込めと全員に指示してあったから、他の銃兵たちも概ね逃げ切っている――――と思いたい。
 とにかく水路を通って火炎地獄を抜け出した明人とエルは、予定通りリーデを救出するべく屋敷へ向かった。だがその途中屋敷の中で攻撃魔法の光が見え、まさかと思い民家の窓から偵察したところ、見覚えのある魔法戦士にリーデが襲われているのが見えたのだ。
 ――あの野郎、またリーデさんを……ぶち殺してやる!
 脳細胞が沸騰した明人は、カービンタイプのキリシマ銃より銃身が長く、パイポッドと呼ばれる二脚でまっすぐに固定できる狙撃タイプの銃を即座に用意。そして魔法で光の屈折率を変えて擬似的なレンズを生成し、スコープ代わりに照準とした。
 テレンツィオとリーデの距離が離れた一瞬に銃弾を撃ち込み、注意を逸らしたはいいが、命中弾を送り込む事は明人には出来なかった。彼我の距離は四百メートル以上――――この距離の狙撃なんて明人は練習していない。
 下手な銃も数撃てば当たると次弾を撃とうとした明人だが、そこへ「代われ」とエルが割り込んできた。
「ちょっと、狙撃なんてできるの?」
「問題ねえ。……弾の飛び方は覚えた」
 エルは先刻まで明人がしていたのと同じように膝を突いて照準を覗き、ストックに手を添えてぶれないよう固定。口から息を吸って止め――――力を入れすぎず、そっと引き金を引き絞る。
 銃が吼えた。


 ぴしっ! とガラスが弾ける音がし、三度目の攻撃が飛んできたと思った瞬間、鮮血が飛び散った。
「ぐあ……ああああああああああああっ!?」
 下腹部から血煙を吹いたテレンツィオが悲鳴を上げる。
「よくも、よくも……! 許さんぞ貴様らぁっ……!」
 それでも彼は剣を手放さなかった。怨嗟の言葉と共にリーデを睨みつけ、被弾した傷からどくどくと血を流しながら緩慢に剣を振り上げる。
 だがそれは、リーデにとっては十分すぎる隙。被弾で集中が乱れ、足に絡み付く不可視の鎖も消えていた。
「許さない? ……私たちの言葉です!」
 袈裟切りが一閃。テレンツィオの剣を振り上げていた右手が肘から切り飛ばされ、くるくると回転しながら宙を舞った。
「あ……あああああああっ! 私、私が……蛮族……ふぜ、に……夢だ……」
 失った右手を受け入れられない顔で見ながら、テレンツィオはふらふらと前に進み、割れた窓から落ちてどすんと鈍い音を響かせた。
 今の攻撃は明人だろうか。とにかく手を振って無事を伝えると、よく見えないが向こうも手を振り返した気がした。
 邪魔者がいなくなり、改めて下へ武具を取りに行こうとしたリーデだったが、そこで玄関からまた誰かが入ってきた。鎧の鳴る音からして魔法戦士――――また敵が来たかと警戒したが、入ってきたのは敵とも味方とも言い難い人物だった。
「ティオン……」
「ヴィンフリーデ様……! ご無事でしたか」
 喜色を浮かべたティオンは、鎧も二刀の剣も血で濡れていた。
 恐らくは彼もリーデがテレンツィオに襲われているのに気付き、急いで戻ってきたのだろう。そこで屋敷を警備する公国兵に止められ、彼らを切り殺してきたのだろうが……
「ここは危険です。ひとまず安全な場所へ行きましょう。彼らは戦死したと言えばまだごまかせます」
「あなたという人は……!」
 リーデはティオンを怒りの目で睨みつける。この裏切り者は、この期に及んでまだリーデを身売りさせる事に固執している。
「断ります! 私は彼らと共に公国軍と戦います、そこを退きなさい!」
「彼らは既に、公国軍の魔法戦士と火責めに追い詰められつつあります! 勝ち目はありません! それより……」
 続く言葉を「ティオンッ!」という怒りの声が遮った。振り返ったティオンの鎧にあの攻撃が当たり、派手に火花が散る。
「明人さん!?」
「明人……!」



 奇妙な形状の槍を構えて走ってくる二人の兵―――― 一人は間違いなく明人だ。
 くっ、と呻いてティオンは炎熱球ファイアボールを放つ。二人は左右に飛び退いてそれを避け、建物の陰に隠れた。
「明人! 君はなんて事をしてくれた!? いったいどれだけの人を巻き込んだんだ!」
 玄関から外に出て、ティオンは叫ぶ。リーデもティオンも公国兵を手にかけてしまった。二人の立場は相当に危うくなったろう。
 ティオンに言わせれば、明人が攻撃を仕掛けたせいでこうなったのだ。
「あんたにだけは言われたくないよ裏切り者! 人の働きを全部無駄にして!」
 返答は怒声と攻撃だった。建物の影から飛び出した明人は例の武器をティオンへ放ち、もう一人と共に肉薄してくる。それを鎧と剣で弾き、ティオンも接近――――拙い動作で突き出される刃を難なく避ける。
 両手の双剣を一閃。二人の武器を叩き折る。殺すのは簡単だが、重要な存在である明人はティオンとしては生かしておきたい。
「だあっ! よくも苦心して作った銃を……!」
 主武器を失った明人は左手で鉄球を掴み取り、歯でピンを引き抜いてから投げつけてくる。それが爆発して鉄片を撒き散らす武器だと知っていたティオンは咄嗟に顔を腕で庇った。
 爆発。鉄片がティオンの鎧に当たって雹のような音を立てたが、魔法戦士の鎧には大した傷でもない。だがその隙に、二人はどこかへ隠れてしまっていた。
「明人……無駄な抵抗はやめろ。いい武器だが、魔法戦士に対抗できないのではいずれ押し切られる。今からでも自分と一緒に来い」
「い・や・だ・ね。死んだ方がましだよ」
 降伏の呼びかけに対する明確な拒絶。
「おい、騎士様……俺は今でも信じられねえよ。弟のためにわざわざ魔力を使ってくれたお優しい騎士様が、裏切り者だなんてよ……」
 続いて言葉を発したのは、明人と一緒にいたもう一人の兵――エルと言ったか――だ。
「君は……薪騒動の時にいた、難民の兄弟の片割れか。悪いとは思っているが仕方なかった。自分は……」
「リーデさんを生かすために公国に身売りした、って言いたいんだろ?」
 落ち着いて思い返せば、あの時もなんだかんだでリーデさんを守っていたからね、と明人。相変わらず頭のいい男だ。
「ああ、そうだ。そのために踏めと言われた踏み絵を全て踏んだ。明人という金の卵を産む雌鳥がいれば公国内での立場も担保できる……だから自分は」
「でもあんたはリーデさんを傷つけた」
「……この半月、危害は一切加えられていない。貞操だって守られている……自分が守ってきたんだ。それは我が騎士の名にかけて保障するよ」
 そう答えたティオンに、明人がほっと安堵の息をついたような気がしたが――――
「確かに朗報だけど、あんた何も解っていないね。リーデさんが一度でも、敵国に身売りしてでも生き延びたいなんて言った事があった? こんな事をして彼女が喜ぶと本気で思ったのかあんたは?」
「意に反している事くらい解っている……だから黙っていたんだ。怒りも恨みもいくらでも受けるし、事が済んだら金輪際ヴィンフリーデ様の前に現れないと誓うつもりで――――」
 裏切りに至った覚悟を語るティオンだったが、明人は「あのさあ……」と苛立ちと呆れが同居した声で言う。
「あんたがどう思われるかなんてどうでもいいんだよ。『リーデさんがどれだけ傷付いたか』を問題にしてるんだ。彼女はあんたを含めたみんなが大事だった。貴族の跡取りとして、自分を支えてくれたみんなに恩返しがしたかった。だからあんなに強い魔法戦士になれたし、率先して戦争にも行けた。臆病者の僕とは違う……守るべき人のために戦ってあげられる、立派な勇者だった」
「……その通りだ。だからこそ自分は――――」
「ところがあんたは、リーデさんが大事にしたかったものを全部踏みにじった! 町の人たちも、騎士のみんなも、領地や国民も全部ないがしろにして、捨てさせようとした! それがどれだけ心に刺さるか想像できるか!? 捨てちゃいけないものを捨てた、見捨てちゃいけない人たちを見捨てたって後悔を、一生抱えさせるつもりか!?」
「口挟んでいいか? 俺も他所でいい暮らしができるならそうしたいが、そのためにルカを見捨てろって言われたらご免だな。たぶん一生後悔する」
 ティオンはリーデを救いたいあまり、リーデ自身の大事にしてきたものを全部奪った――――明人とエルは、そう糾弾してくる。
 この会話が時間稼ぎである事に、ティオンは既に気付いていた。明人の声が聞こえるあたりから、魔力の律動が感じられるからだ。
 二人の武器を壊した時、明人のそれだけ金属部品が薄緑色の燐光を放っていた。恐らく明人は聖銀ミスリルで作った武器をその場で直している。
 発想は悪くないが、所詮魔法戦士の鎧に歯が立たない武器を直したところで、もはや脅威ではないし、なにより――――
「あんたは結局、自分のエゴを押し付けただけだ! それが彼女の何を傷付けたか理解しようともしないあんたに、彼女の騎士を騙る資格は無い!」
 自分の行為どころか、その動機までも全否定してくる明人に、ティオンも背中がざわついていた。
「……言ってくれるじゃないか。ほんの二ヶ月程度共に暮らしただけで、ヴィンフリーデ様の全部を知ったつもりか?」
「あんたこそ、十年も一緒だったくせに何を見てきたんだよ」
「十年一緒だった家族同然の存在を、滅びの運命から救いたいと思って何が悪い! ヴィンフリーデ様に生き延びてもらうには、この道しかないんだ!」
 声の限りに叫ぶ。全てを捨てる覚悟で皆を裏切ったのに、それを会って間もない異邦人に否定されてたまるか。
 だがその時、今までにない大きな炸裂音が連続して響き始めた。明人たちの武器ではない、攻撃魔法が連続して炸裂する音だ。
 ――あの方向は、魔力カートリッジの集積所……!
 とうとうあそこまで攻撃が及んだのかと、一瞬意識がそちらに逸れる。それを隙と見たのか明人とエルが飛び出し、左右からティオンを挟みこむ形で向かってきた。
 難民の青年――――エルが性懲りもなく爆発する鉄球を投げつけてくる。それを左の剣で明後日の方向に弾き――――次の瞬間、煙が目の前を覆い尽くした。
 ――煙での目隠しに乗じて、接近するつもりか。
 即座に風の攻撃魔法の一部を使って突風を起こし、煙を吹き散らす。案の定、ティオンから一・二メートル離れた所で明人が武器を向けて来ていた。剣で武器を破壊し、腹に一撃入れて気絶させれば……と無力化の算段をしたところで、ふと気付いた。
 ――さっきの武器と……違う!?
 明人たちの武器は、先端の穴から火を吹く槍のような形状だった。その穴が先ほどのそれより二回りは大きく、上下に二つ並んでティオンを睨みつけている。
 咄嗟に腕で顔を守ったティオン目掛けて大型の武器が火を吹き――――被弾した腕に、棍棒で殴られたような衝撃が走る。
 ゴキィ、と恐ろしい音が腕から響き、肘の関節があらぬ方向に曲がった。激痛に思わず「うぐ!」と悲鳴を漏らしたティオンのがら空きになった頭部目掛け、ノーリロードで二発目が放たれる。
「ぐああああああああああああっ!?」
 今度こそ盛大に悲鳴を上げる。
 明人の攻撃は、ティオンの左目とその周辺をごっそり粉砕していた。反射的に顔を後ろに逸らさなければ、確実に脳漿を撒き散らしてあの世行きだったろう。
「確かにライフル弾程度じゃ、装甲車にも匹敵する魔法戦士の鎧は貫けない。固い鎧を着た相手に有効なのは、鎧をひしゃげさせるような威力のある武器だ」
 仰向けに倒れたティオンを見下ろし、明人は手にした武器を半ばから二つに折り、通常のそれとは違う大き目の弾丸を二つ押し込み、ガチッと音を立てて元に戻す。
「棍棒みたいに、重い物を叩き付ける衝撃力で相手を打ちのめす――――スラッグ弾なら、少しは効くかと思った。一か八かだったけどね」
「……まさか、壊れた聖銀の武器を直すのではなく、作り変えていたとは……つくづく常識外れな発想をするな君は」
「大した事ないさ。再形成にも時間と集中が必要で実用的じゃない。……無駄話に付き合いすぎだよティオン。本当にこの道を行くしかないと決意していたのなら、グダクダ話していないで僕を捕らえればよかったのに」
 おかげで銃を再形成する時間ができたよ、と明人。
「なにが『この道しかない』だよ。そんな下らない言い訳を何百万回繰り返したって僕達どころか……自分自身さえ納得させられやしないよ」
「…………」
 ティオンはもう、何も言い返せなかった。
 明人がバイオコークスを作った時は、これを餌にすれば公国に取り入れるとしか考えられなかった。どうせ王国は滅ぼされる運命だし、そうなって当然の腐った王国だとも思っていた。
 ところが、思っていた以上のペースでゴルトが持ち直していくのを見て、だんだんと自信がなくなった。自分はせっかくの希望の芽を潰してしまったのではないかと。だがその時には既に手遅れで、こうする以外に道はないと思い込む事でティオンは自分を保とうとした。だが……
「……向こうで戦っているのは、騎士諸侯か。最初から魔力カートリッジを狙って攻めてきたんだな……」
 今だ公国の国家魔力圏に入っていないこの地域で公国軍が戦うために必要な、数千個の魔力カートリッジ。公国の神威結晶は王国のそれより力を残しているのだろうが、一度にそれだけの魔力を都合するのは難しい。それに魔力カートリッジそのものも新品を買えば一軒家が建つ高価な代物だ。それを失えば、スカルビアの部隊は作戦行動を続けられなくなり、撤退するしかなくなる。理に適った戦術だ。
 だがあそこには二十人からの魔法戦士が警備に当たっているぞ、と言ったティオンに明人は「こっちは三十一人だよ」と答えた。彼はそれで全てを悟った。
「エーレンフェルス家の騎士全員を一極集中投入したのか……自分たちを囮にして」
 明人たちは終始、魔法戦士の守りなしで戦っていたのだ。ごく僅かな魔力しか持たないエーレンフェルス家の騎士たちを温存し、最大目標である公国軍の魔力カートリッジを破壊する。これまでの戦いは、全てそのための陽動だった。三十一人全員が万全の状態で攻撃したのなら、きっと成功するだろう。
 だがそれを実行するのは、並大抵でない苦労があったはずだ。いくら明人の武器で逃げ隠れできるといっても、魔法戦士の守りなしで戦うなど普通なら兵が逃げ出す。それを乗り越え、この常識外れな作戦を実行できる軍を短期間で作り上げた手腕――――
「あなたは竜の尾を踏んだのです、ティオン」
 がしゃり、と鎧を鳴らし、武具を装備したリーデが屋敷から出てきた。「リーデさん……!」と喜びの表情を浮かべた明人に、リーデも微笑みを返す。……この半月、ティオンには一度として向けてくれなかった笑顔を。
「ティオン。ごめんなさい……とは言いません。私はあなたとは行かない」
「……そうでしょうね。」
 この身体でリーデを捕まえるのはもう無理だ。完全に計画は破綻し、戦う理由を失っては、もう抵抗する意味もなかった。
「無事でよかった……でもまだ終わってない。すぐみんなの加勢に行こう。リーデさんの姿を見せればみんなの士気も上がって、僕たちの勝ちだ」
「はい。ですがその前に、ティオンに治癒魔法を施してもいいでしょうか。今までお世話になったよしみとして、命だけは助けてあげたいのです」
「リーデさんがそう言うなら……感謝するんだね」
「ま、恩人を殺すのも目覚めが悪いしな……」
「感謝します。それから……明人さん」
 治癒魔法でティオンの右腕と左目の傷を塞ぎながら、リーデは恥ずかしそうに頬を染めた。
「お褒め頂いて光栄なのですが、あまり大きな声で言わないでいただけますか? ……恥ずかしいので」
「え? ……ああ、聞こえてた?」
 リーデが言っているのが、明人が口にした立派な勇者云々の話だと思い至り、明人も急に顔を赤くする。戦場にそぐわない甘い空気に、ティオンは己の完敗を悟った。
 先を見通す知略も、戦いに挑む覚悟も、リーデへの思いさえ、ティオンは明人に負けていたのだ。それを思い知り、ティオンは明人へ口を開こうとした。
 だがそこへ――――
「おやおやみっともない。貴様も所詮その程度の駄犬だったか」
 突然投げつけられた嘲笑に、戦慄が走った。



 公国軍の魔力カートリッジの集積場は、中央広場に設けられていた。主要な門に大通りが通じているここは輸送隊が出入りするのに便利だったためだが、守りの事はあまり考えられていない。もはやここが攻撃されるなどまずないと考えられていたからだ。
 そこにフレイたち、エーレンフェルス領地軍の魔法戦士全員が襲い掛かった。これまで戦闘にほぼ参加せず、乏しい魔力を温存していた騎士たちは溜まりに溜まった怒りと戦意を、刃と攻撃魔法に載せて叩きつけた。
「おらあ! 死にたくない奴は消えろーっ!」
 フレイの戦斧が唸り、公国軍の魔法戦士が胴体を両断され倒れる。
「もうだめだ、これ以上持たないぞ!」
「この魔力カートリッジを失えば、我が軍は終わりだ、死守しろ!」
「死んで守れってか!? ふざけるなバカ野郎!」
 騎士たちの猛攻に、魔力カートリッジの集積場を守る公国軍は明らかに腰が引けていた。彼らとて自分たちが守る物の重要さは承知しているが、明人の陽動によって局所的ながら戦力の優位を失った状態だ。
 対する領地軍側は魔法戦士の数で上回り、さらに敵の雑兵隊は集まってきた銃兵が片端から撃ち倒してくれるので、フレイたちは魔法戦士との戦いに集中できる。身を隠しながら戦う銃兵はいちいち守ってやる必要もなく、戦い易い事この上ない。
 ――このまま行けば押し切れる! あたしたちの勝ちだ!
 だがその時、横から攻撃魔法の炸裂音が響き、爆煙の中から鎧を着た人影が飛び出してきた。
 フレイは一瞬敵かと思ったが、一度雪の中に転がりすぐ態勢を立て直したその魔法戦士を見て、フレイは思わず戦いも忘れて駆け寄っていた。
「りっ……リーデ様あああああああああっ! よくぞご無事でぇっ!」
「フレイ……心配をかけました。他の騎士諸侯と、兵の皆様にもお礼申し上げます。私は無事です……よく来てくれました!」
 おおおおおお、と領地軍から歓声が上がる。懸念の一つが取り除かれて一気に士気が盛り上がっていたが、リーデの表情はなぜか厳しい。
「フレイ、みんな、無事!?」
「明人! やったわねあんた!」
「ごめん、感動の再開は後! やばい奴も一緒に連れてきた!」
 切羽詰った明人の言葉の後、彼らの来た方向から一人の魔法戦士が現れる。
 三枚の浮遊する盾を従者のように従えた、漆黒の鎧の魔法戦士――――それの姿を見て、フレイは不覚にも戦斧を落としそうになった。
「す、スカルビア男爵……! ちょっと、ゴルトを離れてるんじゃなかったの……!?」
「そのはずだったんだけど……予想外だった」
「ごめんなさい、フレイ。足止めを試みたのですが……ここまで押し切られました」
 そう言ったリーデの鎧は所々傷付いていて、スカルビアとの激しい戦いを物語っていた。しかしリーデに対し、スカルビアは息を乱した様子も、鎧に傷もない。
「つまらない用事でやむなく戻ってみれば、随分面白い事になっているものだ。雑兵隊は壊乱、魔力カートリッジは破壊される寸前、おまけに伯爵令嬢は脱走……死に体の地方貴族の軍がよくもここまで戦ったものよ。その奮戦と軍才に敬意を表して……君が我が公国に付くならこの場の全員、助けてやってもよいが?」
「断る。あんたは僕たちの敵だ」
「明人さんは私たちにとって大事な人です。絶対に渡しません」
 あまり本気とは思えない誘いをはねつける明人とリーデに、「そう来なくては面白くない」とスカルビアは笑みを深くする。
「我が軍をここまで追い込んだ知略、我と互角に戦ってみせた武威――――認めよう。貴様たちは対等な敵だ。我は公国貴族として、貴様たちに改めて宣戦を布告する」
「……どうやらここで、あいつを倒すしかないみたいだね」
 明人の言葉にリーデが頷き、フレイたち騎士と銃兵もまたスカルビアと相対する。



「騎士は二十人で攻撃続行! 魔力カートリッジの破壊が最優先なのは変わらない! 銃兵隊は援護射撃を続けろ! 残りは全員でスカルビア男爵を打つ!」
 明人は声を張り上げて、この場にいる領地軍へ指示を出す。
 集積所への攻撃は続けるとして、問題はやはりスカルビアへの対処。ゴルトを離れていて戦う想定ではなかったとはいえ、交戦する事になった時の対策は、皆と検討してある。
 ――東方軍からの情報によれば、あいつは公国軍じゃ結構名の知れた猛将で、戦場で傷付けられた事が一度もないって話だった……
 確かにとんでもない強さだった。騎士五人で戦ってまるで歯が立たなかった相手。特にあの浮遊する盾が厄介だ。
 東方軍曰く、あの盾は『黒竜の鎧』と呼ばれる魔動兵器の一種。その名の通り竜麟、ドラゴンの鱗を盾にした兵器らしい。
 竜麟というのは強固なだけでなく、魔法障壁と同種の力場で魔法を打ち消す性質がある。昔伯爵は戦場で竜麟の鎧を着た敵と戦った事があるが、複数発の強力な攻撃魔法を叩き込んでようやく破壊できたらしい。ましてスカルビアのあれはドラゴンの中でも希少かつ強力な黒竜の鱗を使っていると見られ、その強度は伯爵が戦ったレッサードラゴンの鎧を数段上回る。そんな化け物じみた強度の盾が持ち主を守り、さらには攻撃もしてくるのだ。戦場で傷付いた事がないとされるのも頷ける。
 攻略手段として考えられるのは主に二つ。盾を壊すか……盾の守りを掻い潜って直接奴を攻撃するか。このうち前者は手持ちの火力を考えると現実的ではない。
 ――そもそも浮遊する盾を動かすなんて、魔力の消費が無駄に大きいはずだ。本当なら竜燐で鎧を作ったほうがずっといい。
 想像ではあるが、恐らくは希少な黒竜の鱗を鎧一つ作れるほどには手に入れられなかったのだろう。浮遊する盾というのはそのための苦肉の策だと思われた。
「銃兵隊、両翼包囲! 一斉射撃――――撃て!」
 明人の号令一下、三十強の銃口が一斉に火を吹く。文字通り目にも留まらぬ速さで飛来した銃弾は全て竜麟の盾に防がれたが、間伐入れずに騎士たちの攻撃魔法がスカルビアを狙う。
 ――三枚しかない盾の対処能力を超える数の一斉攻撃――――飽和攻撃! 工夫に乏しいやり方だけど、現状思いつく限りじゃこれが最も有効のはず……!
「氷の魔法を使え! 一発の威力より手数で攻めろ!」
 ビー玉サイズの氷の弾丸、氷襲弾アイスバレット。鋭く尖った氷の槍、氷烈槍フローズン・スピア。周囲にこれだけ雪が積もっている状況なら、空気中の水分を集めて氷結させるより効率よく氷を精製し、より多くの手数を放つ事ができる。
 一発一発が殺人的なエネルギーを持った氷と鉛の嵐に、さすがのスカルビアも棒立ちをやめて動き出す。巨大なグレイヴを振りかざし、騎士の一人に狙いを定めて向かってくる。
「接近戦に持ち込ませるな! 散開しつつ、あいつを取り囲め!」
 接近戦になれば誤射を恐れて撃てなくなると見てか、積極的に接近してくるスカルビアから離れて遠距離攻撃に徹するよう指示を出し、明人はエルたち銃兵を引き連れて背後へ回り込む。同時に聖銀の銃を狙撃銃に再形成し、エルに投げ渡す。
「くたばれ!」
 前後左右、そして屋根の上からの多面攻撃に盾が反応し、斜線が開いた刹那にエルが弾丸を撃ち放つ。騎士との戦いに夢中のスカルビアはこちらを向いておらず、弾丸は必殺の弾道で頭部へ吸い込まれていき――――盾に弾かれた。
「チッ……! あいつ、背中にも目があるのかよ!?」
 確殺と思った一撃を防がれ、エルが毒づく。
 あの盾――――スカルビアがいちいち操っているのかと思っていたが、三枚の盾を同時に操って三百六十度全方位から襲ってくる攻撃を捌く、というのは人間の処理能力を超えている。まして今の一撃は、確実に意識の外だったはずなのだ。
 仮にあれが完全自立して持ち主を守るのだとしても、攻撃を感知する何らかの手段がなければ成立しないはずだが……
 ――悠長に分析はしてられないな。
 明人は腰から手榴弾を掴み取り、同時にハンドサインで周りの銃兵たちにも攻撃の合図を送る。
投擲しろフラグアウト!」
 十個以上の破片手榴弾を同時に投擲。連続して起きる爆発と襲い掛かる破片に、スカルビアは動きを止め、盾を密集させて防御の体制を取った。
「今だ!」
 動きが止まった刹那、リーデたちが一斉に攻撃魔法を放つ。氷河破槌グレイシア・スレッジハンマー――――人間の体躯より大きい氷の塊が、自動車の全速力に匹敵する速度でスカルビアへ殺到。全方位からの攻撃によってその姿が氷に覆い尽くされて見えなくなる。
「やったか……?」
 あれだけの質量をまともに受けたのだ……とすれば、いくら魔法戦士でも押し潰される。三枚の盾では全部は防げなかったはずだと、明人は思った――――その時、リーデの切迫した声が響いた。
「明人さん、右っ!」
「えっ!?」
 振り向くと、そこにあったのは高速回転しながら明人を狙う竜燐の盾。「うわっ!」と叫んで尻餅をついた明人の鼻先を盾が掠め、避け切れなかった銃兵数人が身体を粉砕された。
 ――盾は三つともスカルビアを守ってたはず……どこから飛んできた!? 
「盾の対処能力を超えた手数で押し切る、か。まあ発想としては悪くない」
 嘲笑う声が氷の中から聞こえ、氷の小山が内部から破裂したように砕け散る。そこに佇んでいたのは無傷のスカルビアと、その周囲に浮遊する三枚の盾。それに先刻飛来した盾が加わり四枚になる。
 さらにスカルビアの鎧、その両足の装甲が剥離し、やはり盾となって周囲に浮遊した。合計六枚の盾――――それこそ奴が、幾多の戦場を無傷で乗り越えてきた所以。
「盾が増えた……! まだあったのか!」
「だが甘かったな。我が『黒竜の鎧』はこの程度では破れぬ」
 にいっ、と楽しげに口唇を三日月形に歪め、スカルビアは六枚の盾のうち四枚を放った。
「来るぞ! 回避しろ!」
 まるで回転のこぎりのように高速回転しながら、唸り声を上げて盾が襲い掛かる。騎士は武器で弾き返す事ができるが、完全に無防備な銃兵は避けるしかない。
 避け切れなかった者が次々に身体を粉砕され、あるいは四肢を切断されて倒れていく。見かねた騎士が守りに入るが、そこへ切り込んできたスカルビアがグレイヴを一閃、騎士の体が鎧ごと両断される。
「くそっ……! 怯むな、撃ち続けろ! 一発でも盾を突破できれば勝機はある!」
 苦し紛れに指示を飛ばすが、盾が六枚に増えた事でスカルビアの対処能力は大きく向上し、守りながら攻撃を行う余裕さえ生まれていた。盾に叩き潰され、グレイヴで切り裂かれ、攻撃魔法に焼かれて犠牲が増えていく。それに伴って火力は低下し、比例して盾を突破できる確立は下がっていく。
 ――想定が甘かった。このままじゃ……!
「明人さん、ここは私が……!」
 これ以上犠牲は出せないと、リーデが前に出る許可を求めてくる。
 少し迷ったが、飽和攻撃で盾を突破する作戦は既に破綻した。他に策もない以上、こちらの最大戦力であるリーデの力に頼るしかない。
「……許可する。あいつを止めて!」
「はい!」
 頷きを返してリーデは駆け出す。自分も魔法戦士だったら、一緒に付いていけたのにと思った。
 ――とは言ったものの……あの盾を突破できなきゃ、いくらリーデでも勝てるかどうか解らない。それに……
「男爵に続け!」
「蛮族風情に後れを取るな! 公国騎士の力を見せろ!」
 ――まずい、敵の士気が上がり始めた……!
 焦燥が胸を焼く。スカルビアの戦いぶりに、士気を挫かれかけていた公国軍が盛り返しつつある。おまけに周辺に展開していた部隊も徐々に集まりだし、中央広場に突入してくる別の敵にも対処しなければいけなくなっている。
「南の大通りに三人回せ! 敵をこれ以上中央広場に入れるな!」
「早くしてくれ! これ以上食い止めきれない!」
「弾がなくなった! 誰か弾をくれ、誰か! わあーっ!」
 領地軍は次第に追い込まれ始める。全力で戦っていた騎士は、そろそろ魔力切れで攻撃魔法が使えなくなり始める。銃兵も弾がなくなれば銃剣で殴り合うただの民兵だ。
 スカルビアを倒せなくても、騎士たちが魔力カートリッジを破壊するまで足止めできればいいと考えていたが、彼らも増える一方の敵に阻まれ攻めきれていない。
 全滅の二文字が頭をよぎった。



 殺戮を撒き散らすスカルビアに向け突貫したリーデは、空爆波エアーバーストの魔法を背中で発動させ、爆ぜる空気の勢いを受けた突進を繰り出した。直撃すれば分厚い鉄板をも貫く一撃は、しかし盾に阻まれ――――る瞬間、リーデは大剣を振り下ろして石畳の床に叩きつけた。
 衝撃で雪と砕けた石畳、その下の土までが舞い上がり、リーデはその反動を利用し高々と跳躍。そのまま空中で前転し、突撃の運動力を殺さず乗せた振り下ろしを繰り出す。盾を飛び越えると同時に放たれた攻撃は、それでも間に割って入ったもう一枚の盾に防がれた。
「く……!」
 やはり接近戦でも確実に防御してくる。その上フェイントも容易には通じないほど高精度な守り。
 忌々しさに顔を歪めたリーデの眼前で盾が急に退き、その後ろからスカルビアのグレイヴが突き上げられる。盾を殴った反動を使って身体を捻り、辛うじて刃の直撃を避け地上に足をつける。
「スカルビア男爵! あなたに殺された我が騎士と領民たちの無念、今ここで晴らします!」
「クク、奴等は弱いから死んだだけだよ……!」
 リーデを嬉々とした顔で迎え、スカルビアはグレイヴを横薙ぎに一閃、振り切ったところから間伐入れずに繰り出される石突での突き、さらに流れるように繰り出される振り下ろし――――長柄武器の手本のような連続攻撃を、リーデは避け、受け、いなして切り抜ける。
 その攻防は一見して互角。だがその実、リーデは攻めあぐねていた。スカルビアのグレイヴが柄と刃を合わせおよそ三メートルあるのに対し、リーデの大剣は刃渡り二メートル弱。リーチで負けている事もあるが、リーデは長柄武器を扱う敵とも幾度となく戦ったし、中にはスカルビアと同程度の技量を持つ者もいた。そしてそれらを屠ってきた。
 ――純粋な剣技と、魔法の制御なら負けていないはず。だけど……!
 スカルビアの繰り出す、叩き付けるような上段からの振り下ろしを後方に跳躍して避ける。広場の石畳が粉砕され、雪と土砂が舞い上がる中を突き抜けてグレイヴの刃がリーデの胸を目掛け突き出される。
 破城槌の如き刺突を右に逸らしたリーデは、それを大剣と両手で抑えたまま思い切って前へ踏み込んだ。グレイヴの柄と大剣の刀身が擦れあって火花が散り、リーデの刃が届く間合いへと飛び込む。
 そこでひゅんひゅんと風を裂く音がし、反射的に左足で地を蹴る。グレイヴと大剣の組み合った部分を軸に回転する形で横に跳んだリーデの、先刻まで足首と側頭部があった高さを左右から盾が通過――――藍色の髪が数本切れて舞った。
 つくづく厄介な盾だ。隙を見て攻撃すればそれを的確に防ぎ、反撃までしてくる。スカルビアに集中すればするほど死角からの攻撃を食らう危険が高くなるから、常に全方位を警戒しないといけない。一対一というより、実質一対七だ。
 空中で体勢を整え着地したリーデを、向こうから踏み込んできたスカルビアの左の拳が襲う。顔を狙ったパンチを左腕でガード――――途端、腹に鎧越しでもずしんと伝わる重い衝撃を感じた。
「うっ――――!」
 まともに腹へ蹴りを貰い、たまらず雪の上に倒れこむ。そこへ追い討ちのように真上から降り注ぐ盾が目に入り、リーデは雪の中を転がって回避。左手を付いて反転しつつ立ち上がる勢いを利用して大剣を切り払い、振り下ろされようとしていたグレイヴを受け、組み合う。
 そこへ横から盾が飛来し、リーデの頭を狙ってくる。組み合ったままで避けられないリーデは一発受ける事を覚悟したが、飛来した盾は横から割り込んだ戦斧に弾かれた。
「リーデ様の美しいお顔に傷付けんじゃないわよ、下郎!」
「三下が、貴族の一騎打ちに割り込むとは無粋な……」
 激戦を繰り返し、傷付いた姿で戦闘に割って入ったフレイの攻撃を盾で防ぎ、スカルビアは一歩後退。追撃するリーデとフレイをグレイヴの刃と石突で牽制し、手の中でそれを一回転、石突で雪を舞い上げ二人の視界を塞ぐ。
 ヒュッ、と風を薙いで盾が迫る気配。雪が目に入る中、リーデは殆ど勘で大剣を振るい飛来した三枚の盾を叩き落したが、「がはっ!」と横から苦悶の声がした。フレイは弾き損ねた一枚に腹を直撃され、鎧越しに肋骨の折れる嫌な音を響かせて雪の中に転がった。
「フレイ!」
 止めを刺そうとグレイヴを振り上げるスカルビアの前に飛び出し、やむなくフレイの体を蹴飛ばして遠ざける。生きている事を祈りつつ、リーデはスカルビアと切り結ぶ。
「ははっ、強いな伯爵令嬢! 君といいキリシマといい、なかなか楽しませてくれるじゃないか!」
 戦とはこうでなくてはつまらん! と剣戟を交わしながらスカルビアは哄笑を上げる。戦う事が心底楽しいと言わんばかりに。
「強敵と知略の限りを尽くして兵をぶつけ合い、全力を持って武威を競い捻じ伏せ、屈服させ、奪い取る! これぞ勝利の美酒だ! そう思わんかね伯爵令嬢!?」
「私は奪うために剣を振るうつもりなどありません……! 私は貴族として領民を、国民を守るために剣を振るってきた! 弱い者から奪うだけのあなたたちとは違う!」
「は! 奪うと守るは常に不可分のものだよ伯爵令嬢。我とて妻も子もいる身、家族と子孫の、安寧と豊かな暮らしを守りたい! この王国はそのための生贄だ! 君とて思っていたのではないかね、他国の神威結晶を奪えれば、その力があれば領民を飢えから救えるのにと!」
 スカルビアの言葉は正しい。八方手を尽くしても悪くなるばかりの状況に、他国の神威結晶を奪えれば全てうまくいくのにと思った事は一度や二度ではない。
 少し前なら言い返せなかっただろう。だが今は違う。
「確かに思っていました……ですが、明人さんが私たちに教えてくれた! 奪う以外のやり方で国を立て直す方法を! ずっと暗闇の中にいた私たちに、光を見せてくれた!」
 明人が灯した科学文明の光は、奪うのではなく生み出すやり方で町も国も立て直せるのだと教えてくれた。それはリーデにとって紛う事なき希望だった。
「彼は互いに奪い合う必要も取り除けると言った! 私も……その未来が見てみたい!」
「わはは! 素晴らしい未来図じゃないか、ぜひそれを叶えてくれ、我々の元でな!」
 ティオンが何を危惧していたか、今更のように理解できた。この連中にとっては、明人の見せた希望さえ奪うべき獲物にしか見えていない。甘い蜜の匂いに群れ集まる羽虫のように、略奪者は明人へ引き寄せられるのだろう。それでも――――
「明人さんは渡さない……! 彼は私が守る!」
 子供の頃から修練を重ねて魔法戦士になっても、領民や難民を救う役には立たない。何度戦争に参加しても、勝って侵略者を退けたためしがない。
 何一つ成し遂げられない自分が嫌だったリーデだが、明人はそんな自分を立派だと――――勇者だと言ってくれた。
 なら自分は勇者として、彼のために戦おう。彼に二度も助けられた分、力の限りを尽くして彼を守ろう。
「私は……彼の勇者だから!」
 鎧は傷付き、刃は欠け、魔力が尽きかけていても――――リーデの黒瑪瑙色の瞳は、戦う意志を失っていない。



「おい明人、もう弾がねえ! なんか手はねえのか!?」
 エルが悲鳴じみた声を上げてくる。
 領地軍はますます追い込まれ、取り囲む公国軍の環が次第に狭くなってくる。明人とエルのところにも公国兵が殺到し、必死に応戦する明人は落ち着いて打開策を練る暇もない。
 ――リーデはよくやってるけど……やっぱりあの盾を何とかできなきゃ、あいつは倒せない……!
 そうこうしている間にも兵が凶刃に倒れ、動ける味方が少なくなっていく。家族を、町を取り返したいと無茶な戦いに付いてきてくれた人たちが、その願いを遂げられぬまま果てていく。
「くそ……力及ばずかよ……」
 絶望が胸に広がる。結局――――力のない者は、暴力の前に屈するしかないのか。
「明人、危ねえっ!」
 ドン、と突き飛ばされる。そこへ公国兵の矢が飛来し、明人を助けたエルの肩を貫いた。「ぐあ!」と呻いたエルが銃を取り落とし膝を突く。
「エル! この野郎……ッ!」
 M36モドキで応射。エルに矢を当てた一人を撃ち倒し、さらに剣や槍を手に向かってくる二人を撃ち抜き――――そこでガチッとハンマーが空の薬室を叩く。
 ――しまった、弾が……!
 慌てて拳銃弾を入れた袋を探るが遅い。公国兵の刃が目の前に迫る。
 もう駄目だと目を閉じて覚悟しかけたが、戦い続けるリーデの姿がそれを許さない。彼女がまだ諦めていないのに、自分が諦めてどうする!
 手斧を引き抜き、振り下ろされた剣を何とか受け止める。次にどうするべきかを考えたところで――――公国兵の体が叩き切られ、崩れ落ちた。
「まだ無事のようだね……明人、それにヴィンフリーデ様も」
「ティオン!? どうして……!」
 先刻倒したはずの裏切り者の騎士が、折れたままの右腕をぶら下げ、血が固まった状態の左目に布を巻いた痛々しい状態で立っていた。
 状況が状況だけに、彼がまたぞろ明人とリーデを捕まえて公国に取り入ろうとする可能性を捨てきれず身構えた明人だったが、ティオンは「……すまなかったな」と頭を垂れた。
「自分が間違っていたようだ。王国を守るなんてもう無理だと思い込んでいたが……この痛みの前には考えを改めるしかないな。魔力の代替となる技術だけでなく、魔法戦士にも対抗しうる、二等国民でも平等に扱える武器……ついでに公国軍とここまで戦った君の戦争の才能。少し怖いが認めるよ。君なら他国の侵略を跳ね除けて、王国を救えるかもね」
 ヴィンフリーデ様はバイオコークスを見た時そう思ったんだろうが、自分はこの有様になるまで思わなかったよ、とティオンは場にそぐわない、柔和な笑みを浮かべた。
 その笑みに決意じみたものを感じ、明人はまさかと思った。
「おい、何をするつもりだよ……!?」
「君たちとヴィンフリーデ様を助けて、愚行のけじめをつけるよ」
 後は頼む、とティオンは駆け出した。リーデと戦い続けるスカルビア目掛けて左手の剣を一閃。それをあっさりと盾で受け止めてスカルビアが口を開く。
「主君を裏切った貴様が、今度は我を裏切るか、狂犬めが」
「勝手で申し訳ありませんね……ですが、ヴィンフリーデ様だけは死なせない……!」
 その言葉の後、ズドン! と爆発のような音と共に雪と、空気が爆ぜた。空爆波エアーバーストの魔法を受けて、「ティオン!?」と驚いたリーデが吹き飛ばされる。
「うっ……おおおおおおおおおおっ!」
 雄叫びと共に繰り出される斬激。しかし傷付き緩慢なそれをスカルビアは難なく捌き――――右手に短く持ったグレイヴの刃が、ティオンの身体を貫く。
「終わりだ裏切り者――――ぬ?」
 血を吐いたティオンの口が笑みの形に歪み、剣を落とした左手がスカルビアの手首を掴む。
「終わりにしましょう、共に!」
 その言葉と共に、ティオンの鎧が外からでも解るほど強く輝く。装填された魔力カートリッジの膨大な魔力が一度に、何の方向性も与えられない純粋なエネルギーとして開放され――――爆発する。
「ティオン――――――!」
 リーデの叫び声さえかき消す、耳を弄する爆音と爆風。
 少し離れた明人でさえ地面に伏せて、吹き飛ばされないよう必死に耐えるしかない嵐。それが過ぎ、顔を上げると――――
「ああ……!」
 絶望の声。
 雪が蒸発して起きた蒸気と、爆発で舞い上がった噴煙が濛々と立ち込める中、轟然と立っていたのは無傷のスカルビアだ。爆発の瞬間に盾をティオンとの間に割り込ませ身を守ったのだろう。その足元に、鎧が割れ砕け、身体は黒く焼け爛れたティオンが横たわっている。
「魔力カートリッジのオーバーロードによる自爆か……覚悟は大したものだが、無駄死にだったな」
「あ……あああああああああああああっ!」
 身を投げ出したティオンを侮辱され、激高したリーデが切りかかっていく。
 ――駄目だ、あんながむしゃらに攻めてもあいつは倒せない……
 これじゃあティオンは、本当に無駄死にだ、と唇を噛んで――――眩しい光に目を瞬いた。
 ――何だ? 鎧から赤い光……!?
 スカルビアの身に付けた漆黒の鎧――――つまり『黒竜の鎧』から、正確にはその各所にあしらわれた赤い球体が、赤く発光しているのだ。夜にずっと戦っていたのだから、発光する物があれば気付かないはずがない。
 ――蒸気や噴煙の中で見えてるって事は……赤外線か何かの、不可視波長の光か……?
 赤外線は人体を初め多くの物体から発せられる光の一種だが、可視光線ではない。ああして目に見えるのは蒸気や噴煙の中を通過して光が散乱を起こしたためだろう。
 と同時に、科学文明における赤外線の用途は実に幅広い。テレビのリモコン、自動ドア、車の衝突防止システムといった民生用途、そして――――熱源探知や、ミサイルの誘導などの軍事用途。
 頭に電流が走る。
「エル! 聖銀を――――!」
 手を突き出して叫ぶ。肩に矢を受けて動けないでいたエルだが、その言葉に応じて聖銀の狙撃銃を掴み、投げ槍の要領で明人へ投げよこす。それをキャッチし、即座に聖銀形成ミスリルクリエイトを発動する。
 ――無駄なんかじゃない!
 形成されるのは、手持ちの手榴弾を核にした拳大の鉄球。ずしりと重いそれを右手に持ち、明人はスカルビアの元へ向け走った。
「無駄死になんかには……意地でもしないっ!」
 安全ピンを抜き、投擲。当然盾がそれを防ぎにかかるが、接触するとほぼ同時にそれは炸裂――――無数の光り輝く、極薄の破片が周囲に漂う。
「紙状にした聖銀だと? 気でも狂ったか」
 呆れたような顔で明人を見るスカルビア。それに向けて明人はM36モドキを引き抜く。
 確信なんてない。魔法の世界で明人の知識がどこまで通じるかなんて解らない。この予想が的外れだったら、今度こそ万策尽きる。
「当たれ――――――――――――!!」
 祈るような気持ちで引き金を引く。黒色火薬が爆ぜ、直径九ミリの鉛弾が夜闇の中を飛翔――――
 赤が散った。
「がっ――――――――!?」
 スカルビアが頭をのけぞらせて数歩後退し、グレイヴの石突で石畳を突いて転倒を防いだ。頭を押さえた左手から、見る間に血が流れ出してスカルビアの灰色の髪を赤く染めていく。
「当たった……!?」
 一瞬硬直していたリーデが、驚きの声を上げる。
 嵐のような攻撃魔法と銃弾の飽和攻撃も、何十回となく放った大剣の一撃も全て防いだ竜燐の盾が、たった一発の拳銃弾に気付かなかったかのように素通りさせ、戦場で傷付いた事が無かった男の顔に傷を付けた。当のスカルビアさえも、何が起きたと言いたげな顔で明人を見ていた。
 ――思った通り……! あの光は赤外線センサー!
 魔法戦士の鎧は、その武威を誇示し敵を威圧するため華美な装飾が施されている。スカルビアの鎧の球体もそれだと思っていたが、あれはきっと赤外線か何かの発信機と、それの反射波を検知する受信機が一体になった装置だ。センサーというよりレーダーに近い。『黒竜の鎧』の核はアクティヴ式レーダーによって接近する物体を検知し、自動で盾による防御を行うシステム。
 そのレーダーを無効化する方法はいくつかあるが、この場でできそうだったのは薄い紙状に成形した聖銀――――つまりチャフをばら撒き、レーダーの反射波を乱反射させる事。一時的ではあるが、『黒竜の鎧』はその目を塞がれた状態だ。
「全員、今なら当てられる! 鎧の目玉を撃て!」
 説明を省いた明人の言葉に、しかしリーデと銃兵たちは即座に反応した。リーデが攻撃魔法陣を展開、放たれるのは&127月光打矢アルテミス・フレシェット。純粋なエネルギーのまま凝縮された魔力の矢を二十発以上同時発射する。
 漂うチャフによって反射波はノイズだらけで、竜燐の盾は痙攣したように震えている。がら空きになったスカルビアに魔力の矢が突き刺さり、鎧の赤い球体を次々叩き壊していく。スカルビアはマニュアル制御で攻撃を防ごうとしたが、そこへ後ろから銃兵の一斉射撃が襲った。
「ははっ、一矢報いてやったぜ……!」
 傷付きながらも的確な射撃で球体を叩き壊したエルが、会心の笑みを浮かべる。レーダー機能の中核を全て失い、磐石の守りを誇った『黒竜の鎧』はその機能を喪失した。
「――――――ッ! 小僧、よくも、よくもおおおおおっ!」
 自慢の鎧に傷を付けられ激昂したか、スカルビアが二枚の盾を明人へ放つ。
 そこへ割り込んでくるリーデ。大剣を一振りし、盾が弾き飛ばされる。
「明人さんは……私が守る!」
 リーデの剣が、唸りを上げてスカルビアに迫る。盾はまだマニュアル制御が生きていたが、戦いながらでは意識を割けず、次第にスカルビアが後退し始める。純粋な剣技だけの戦いは確実にリーデが勝っていた。
「おのれええええええええっ!」
 苦し紛れの盾の攻撃。左右両サイドから二枚の盾がリーデを狙う。
「させるか――――! 当たれっ!」
「リーデ様は――――あたしが守るっ!」
 チャフを引き寄せ再び散弾銃に成形した明人のスラッグ弾による攻撃と、意識を取り戻したフレイによる戦斧の投擲に、左右の盾が弾かれる。
 残る二枚の盾は、どういうわけか動かない。恐らくティオンの自爆で、浮遊機構に損傷を受けたのだろう。命がけの自爆が、ここにきてその甲斐を発揮していた。
「スカルビアアアアアアア――――――――――!」
 跳躍し、体全体の捻りを使った渾身の袈裟切りがスカルビアを捕らえる。
 明人独りでは戦えなかった敵に。
 リーデ独りでは勝てなかった敵に。
 全員の力が結集し、手が届く。
 ギンッ――――! 金属が破断する断末魔の音が響き、スカルビアのグレイヴが半ばから叩き切られる。『黒竜の鎧』ごと両断された体が傾ぎ、二つに分断されて崩れ落ちるその間際、血泡を吹いた口から言葉が漏れた。
「公爵閣下……申し訳、ございませ……」
 主への懺悔を最後まで口にできないまま、スカルビアは倒れた。
 その場の全員が一時戦いの手を止め、幾多の戦場を無傷で勝利してきたと言われる猛将が倒される様を見つめ――――明人が叫んだ。
「スカルビア男爵は……公国軍の大将は死んだ! ヴィンフリーデ卿が勝利したぞ!」

 ――――おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ…………!

 領地軍から歓声が、公国軍から悲鳴が、天まで届かんばかりの声量で湧き上がる。
 戦局が確定した瞬間だった。



 戦いは、程なくして終息した。
 もともと勝利の報酬と略奪を目当てに参加していた傭兵ばかりの雑兵隊は、大将が死んだ今長居は無用と逃げ出し、魔法戦士や二等騎士もその大半が敵地に孤立する事を恐れて逃げ出した。大将を失ってなお戦意を失わなかった一部の魔法戦士も、リーデと騎士たちによって打ち倒され、やがてゴルトに静寂が戻った。
「兄ちゃん!」
「ルカ! 無事だったか!」
 逃げ遅れ、公国軍の人足として使われていたゴルトの住民たちも、町の一角に集められていたところを無事助け出され、エルとルカの兄弟を初めとする離れ離れだった家族が抱き合って無事を喜んだ。
 もちろん、二度と再開できない家族もあった。この戦いで領地軍は騎士の半数近くと、六割以上の銃兵が死傷した。
 大きな犠牲を払ったが、それでもこうして再会できた人たちがいるのは明人にとって救いだった。皆を戦争に駆り立てた甲斐は、あったと思っていいのだろうか。
 そして――――その原因の一端を作った裏切りの騎士は、まだ辛うじて生きていた。
「ヴィンフリーデ様……明人……勝ったのですか……?」
 息も絶え絶えの状態で、ティオンは口を開く。明人が負わせた怪我と全身の火傷、そして腹に開いた大穴。もう間もなく命が尽きる際に、彼は言葉を交わしていた。
「ええ……私たちの勝利です」
「ついでに、さっき東方軍から連絡があったわ。あたしたちが大将を討ち取ったのを受けて、砦から打って出たって。この分なら西の敵軍を撃退して、魔力流路を回復できるそうよ」
 東に控えていた一万の公国軍は、動く気配が今のところないらしい。それで明人は、スカルビアが連携の取れていない友軍を動かすために、通信を入れようとゴルトに戻ってきたのだと悟った。
「そう……か、よかった……資格があるか、解りませんがそう言わせて下さい……」
「私は……あなたを許す事はできません。ですが最後に助けてくれた事はお礼を言います……」
「あたしも……仲間を全員殺された事は忘れない。でもずっと一緒だったよしみよ、墓ぐらいは作ってやるわ」
「はは、は……裏切り者にはもったいない……待遇です」
 そう笑って、ティオンはそれまで黙っていた明人に、見えているか解らない目を向けた。
「明人……君を甘く見てたよ……君なら本当に、この滅びかけの王国も救えるかもしれないな……」
 だが、とティオンは言う。
「これから先、いろいろな奴が現れるだろう……自分のように利用したがる者、スカルビアのように奪いたがる者、君を疎んじ、排除しようとする者……本気で国を救おうとするなら、これからも、こんな戦いが続くかもしれない……」
「それなら心配ありません」
 明人の肩に手を置いて、リーデが答える。
「私が明人さんを守ります。どんな敵からでも」
「……なら、明人にお願いするよ。ヴィンフリーデ様を……彼女が守りたい人々と、王国を……どうか救ってあげてくれ。戦争と、滅びの運命から……」
「ティオン? ……おい、ティオン?」
 声が途切れ、呼びかけるも返事がない。リーデとフレイがくっ、と悲しそうに俯く。
「……あのさあ、僕まだはいともいいえとも言ってないんだけど? 言いたい事だけ言ってさっさと逝かないでよ」
 つくづく身勝手な男だと思った。リーデの気持ちも考えずに裏切り、明人を売ろうとし、最期は明人の事情も何かも無視して、願いを残したまま裏切りの騎士は逝ってしまった。
 明人は神様でも英雄でもない。ついでに言えばこの国の国民でも、この世界の人間でさえない。家と家族が心配で、早く帰りたいのは変わらない。こんな戦争を最後までやり遂げる自信もない。国一つ救ってくれなんて途方もない願い事、聞いてやる義理もないのだけれど。
 だが、それでも――――
「いいよ。どうせ僕がそうしたい事だから」
 この世界で明人は、リーデに命を救われ、人々から生きる意味を貰い、いろんな意味で救われた気がする。
 だからこそ、奪われたくない。戦争に身を投じてでも守りたいと思う。
「やれるだけ、やってみるよ」
 西の空が白み始める。長い夜が明け、また朝が来る。
「帰りましょう、明人さん。私たちの家に」
「そうだね。……リーデ、これからもよろしくね」
「こちらこそ」
 笑って頷き合い、明人は声を張って皆に告げる。
「凱旋だ! エーレンブルクに帰還する! みんな、よくやった!」



 この日、エーレンフェルス領地軍が公国軍指揮官、スカルビア男爵を倒しゴルトを奪還した事で、城砦を西から攻めていた公国軍は指揮系統を崩壊させ、東方軍の反撃により壊滅。戦況は再び膠着状態になり、公国軍の更なる侵攻は阻止された。  プラーティーン王国にとっては、続く敗北と後退の中の小さな勝利かも知れなかったが、後世の人々は誰もが口を揃える。
 後に『曙光の軍師』と呼ばれ、暗闇の世界に光をもたらしたと言われる少年と、彼を守って共に戦い続けた『暁の勇者』の物語――――これはその最初の一幕なのだと。




あとがき

 えー、本日は拙作『曙光の軍師と暁の勇者』をご一読いただきありがとうございます。シードです。
 今作はオリジナルで、ファンタジー戦記といろいろ初挑戦な作品であり、ファンタジア文庫などの新人賞に応募してみた作品です。……ここに晒している時点でお察しですが、結果は一度だけ二次落ちで、他は全て一次落選でした。
 自分で振り返って見ると、難民の悲哀とか、明人が武器を作る過程の試行錯誤とか、最初表現したかった事が受賞するためのリテイクを重ねるうちに見えなくなっていった気がします……
 こりゃもうダメだと思ったので、こちらに投稿した上で感想を元に次へ繋げようと思います。続編は書きたいですが、今のところ予定はありません。

 それでは、ナデシコ小説も引き続き頑張ります。




 ゴールドアームの感想

 読ませていただきましたが、読んだ感想として、

   ああ、これは確かに二次までだ。

 と思わされました。

 詳しく書くと長すぎる上にかなりの暴言ですので、別ページにさせていただきます。

 ゴールドアームでした。







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