ゴールドアームの大上段な感想。

 ファンタジア文庫等に応募して、一次通過一度、ほとんど一次落ちという結果を踏まえてということなので、素人ながらばっさり行かせていただきます。
 まず、応募の結果が妥当かという点から見ますと、妥当だと思います。
 この作品は、小規模で丁寧に目を通していただければ二次には残れるが、ざっとだと一次落ちが見える作品だと私も思います。
 面白いかといわれれば、面白いです。
 ですが、いろんな点で、『売れるか』と言われるとかなり問題点が多いです。
 小説家になろうとかで運良くランクが上がれば書籍化の声が掛かるかもしれない、という位でしょうか。
 
 物語としての出来は、ある意味ありきたりですが悪くは無いと思います。
 ですが、作品として大きく一つ、応募作として二つほど明らかに悪い点があります。
 
 この作品最大の問題点、それは、キャラクター、特に主人公が、ただの役割を持った駒でしかないという点です。
 出来上がった戯曲にただ役者をはめ込んだ、そんな印象しか受けません。
 同じく戯曲でいうならば、『役者の個性が感じられない』のです。
 主人公霧島明人が、『霧島明人』という人物であると、物語を読んでもほとんど伝わって来ません。印象に残らないのです。
 
 能力は個性になりません。過去は個性を作る要素で、個性そのものではありません。
 読者と位置を同じくするべき主人公の存在が、この物語からは伝わってきません。
 それが、最大の問題です。
 
 周辺の人物にもこの傾向は見られますけど、そちらはまだ問題にはなりません。
 ある程度はそうならざるをえませんし、主人公より生き生きしている人物もいますので。
 
 
 
 応募作としての問題は、まず構成にあります。
 序章、これがまずダメダメです。
 
 応募作、商業作品としての小説には、一つの鉄則があります。
 
 『三行、出来れば一行目で読者を引きつけろ』というモノです。
 
 こんな状況説明のような序章なんかを応募作に書いたら、一次で撥ねられて当たり前です。
 選者ははいわば、書店の小説棚からランダムに引き抜かれた百冊の小説の中から、面白いと思ったものを一時間以内に挙げろ、といわれているようなものです。
 ぱっとめくってそこに書かれた文章が面白そうでなかったら、いちいち続きを見ようとは思いません。
 そういうものです。
 ましてやこの序章、主人公が登場していません。
 これも大減点です。
 著者の名前で売れるようになる前にこんな構成やったら誰も読んでくれません。
 明確な主人公が存在しない群像劇ならともかく、文庫本一冊程度の長さの小説なら、主人公は極力早く登場して、主人公であることを印象づけないといけません。
 
 もしこの序章を手直しするとすれば、一章の出会いのシーンを冒頭に持ってくるべきです。
 
 
 
 
 「あぶないっ!」
 
 少年――霧島明人はおもわずそう叫んでいた。はっきりいって訳がわからない。ただの日本人であるはずの彼の目には今、湖畔で襲われようとしている全裸の女性の姿が写っていたのである。
 彼の渾身の叫びは幸いにも彼女に届いたようで、全裸の女性は恥ずかしがることもなく傍らに置いてあった剣を取り、襲撃者を打ち払っていた。
 よかった。
 ほっとすると同時に、彼女の姿を思い出して、顔が紅潮するのを感じる。
 そんな自分を落ちつけるように周りを見渡した彼は、恐ろしげな襲撃者に見つからないようにしゃがみ込んで草むらに隠れると、自分に言い聞かせるように独りごちた。
 
 「ここ、どこだ?」
 
 
 
 
 
 
 
 こんな風でしょうか。
 はっきり言ってこれでも一次落ちレベルの拙いものですが、印象が大分違うと思います。
 
 主人公を明確にする。
 主人公が異常な状況(=読者の興味を引く状況)にあることを明示する。
 次に起こる事態を期待させる・想像させる。
 
 これが一番始めに必要なことです。
 逆に、舞台となる世界の事を説明するのは、絶対にやってはいけないと言えるほどの禁忌です。
 これをやるとまあ一次はともかく二次はまず通らないでしよう。
 説明は後回し、これは鉄則です。
 もう少し詳しく言うと、説明は主人公(=読者)が疑問を持った時にすべし、です。
 要は聞かれないことをいちいち説明するな、ということですね。
 現実でも聞かれもしないことをいちいち言われたらうざったいと感じませんか?
 読者もそう感じるという事です。
 
 
 
 応募作としてみた場合の欠点その二は、主人公の印象にも通じますが、主人公の能力に説得力が設定・描写ともに足りません。
 元々主人公にはあらゆるチートが許されます。ただし、それを読者に納得させることが大事です。
 主人公の場合は軍事知識と現代知識がその武器となるチートですが、ちょっと説得力に欠けます。
 ただの興味でもかまわないと言えばかまわないのですが、出来ることなら、チートと主人公の在り方は一体化している方が魅力的かつ説得力を増すことになります。
 軍事知識は平凡な学生設定の主人公はまず興味を持たない特殊な知識です。ならそこに説得力を持たせる理由が必要となり、かつそこにこそ主人公の在り方を盛り込むポイントが生まれます。
 霧島明人君に関して言うならば、読み取れる限りでは妹さんを見捨てた事による無力感への反発だと『読み終わった後なら』読み取れます。
 そう、読み終わった後なら。
 これでは逆です。
 説明はともかく、もっと早い時点で、それを暗示しないといけません。
 本文では
 
 あまり自慢にはならないが、ミリタリーや戦史には人並み以上に興味があったし、戦争物のゲームもそれなりに嗜んでいた。だからこそ早く逃げないと、自分たちも皆殺しにされる状況だと解る。
 
 と書かれていますが、はっきり言ってこれでは足りません。というか、この程度では読者から見ると危なっかしい付け焼き刃にしか見えません。
 主人公の力の源泉たるチートには、もっと強力なものであることを印象づける必要性と理由が要ります。
 さらに、付け焼き刃程度の知識が通用してしまうと、相対的に現地の人をアホに見せる、すなわち白痴化するというよくない風に読み取られてしまうこともあります。
 むしろここは、主人公の軍事知識が、一般常識や興味本位のオタクを越えた何かに見せる方がむしろ魅力的な主人公像を生み出します。
 
 
 
 あまり自慢出来ないが、彼には学生レベルを超えたミリタリー系の知識があった。彼はある一時期、そんな知識を『身につけなければならない』と思い詰めていた時期があったのだ。時が経てば黒歴史として笑うしかない事実。だが、その時の彼にとってはそれは必然としか思えなかった。
 まさかそれが役に立つ事態が降りかかるとは、想像も出来なかっただろう。が、その知識が、今の状況が危機的状況であることを教えている。
 一刻も早く逃げねば、自分たちも皆殺しにされる状況であると。
 
 
 
 このくらい盛っても、小説としては許されるでしょう。
 後の話も作りやすいですし、さらに『そんなものを身につけると思い込む状況』で、主人公への興味を引くことが出来ます。
 興味を越えた何かでプロレベルの知識を身につけられるのか? という疑問には答える必要はありません。『出来た』と言い切れるのが小説の主人公です。
 チートは遠慮無く、かつ必要量で、ですね。
 あ、魔法関連に関してはいうことはありません。
 説得力を求めるたぐいではないので、出来ると言い切っちゃったほうが問題ないです。
 
 
 
 私が言えるのはこのくらいでしょうか。素人がなに言ってるんだと言われそうですが、その辺はご勘弁を。
 何か得るものがあれば幸いです。
 
 
 
 ゴールドアームでした。