機動戦艦ナデシコSS

Rebellion 〜因果を超えし叛逆者〜


Episode:00 未来での終わり、過去の始まり






ドゴォォォォンッッ!!



ズガッ!バゴォォォォンッ!!!



深遠なる宇宙、その静寂を切り裂くように、爆音が響き渡る。

『3番艦から5番艦まで、全艦沈黙しました!』

『ステルンクーゲル隊、全滅!』

『ジンタイプも20機中12機が大破!残りは全て中破です!』

『残っている艦はグラビティブラストを発射しつつ後退、この宙域を離脱しろ!!』

爆音の狭間に、通信が入り乱れる。その内容は、全て絶望的なものだった。その通信を離
れた所で傍受していた少女−ラピスは、彼女の半身であるとも言える存在−アキトに、通
信の内容を伝える。

<アキト、敵は後退を始めるみたいだよ・・・>

<了解した。・・・逃がしはしない>

ラピスの呼び掛けに、温かさなど微塵も感じさせぬ冷たい声でそれだけを答え、アキトは
愛機ブラックサレナを駆り、敵戦艦の群れへと突っ込んで行く。生き残りのジンタイプや
無人兵器等の攻撃を、全て掠らせる事さえせずに回避し、擦れ違い様の反撃で確実に殲滅
していく。その様、正に死神。

「沈め」



ドゥッ!ドゥッ!ドゥッ!



ドガァァァァァァァァンッッッッッ!!!!



ただ静かにそれだけを告げ、カノン砲を艦首、砲塔、機関部に直撃させていく、僅か3射。
それだけで、その戦艦は宇宙の藻屑と化した。

「・・・残り戦艦3隻。」

グラビティブラストを連射しつつ、後退を続ける3隻の戦艦。ブラックサレナは3隻の上
方に一気に上昇すると、腰にラックされた筒のようなものを手に取る。それを振るうと、
微かな振動音と共に、漆黒の刃が形成される。10M程の長さに伸びた刃を振りかざし、
ブラックサレナは一気に下降する!

「沈めぇぇぇぇぇぇっっっ!!!」



ズバッ!ザンッ!ドシュッ!!



ドゴォォォォォォォォンッッッッ!!!



ドグワァァァァァァァァンッッッ!!



バゴォォォォオォォォンッッッ!!!



漆黒の刃に斬り裂かれた3隻の戦艦は、爆音と共に沈んでいった。それを見遣ったアキト
は、つまらなそうに鼻を鳴らす。

「フン・・・」

そして、何事も無かったかのように自らの母艦、ユーチャリスへと帰艦していった。その
時、彼は戦闘の興奮の余波からか、普段なら気付いたであろう僅かな見落としをしていた。
もしその時彼が気付いていたら、後の事故は防げたのであろうか?それとも・・・。






「お疲れ様、アキト。」

「・・・あの程度では、それ程疲れてはいないさ。」

ユーチャリスのブリッジ、帰艦したアキトを労うラピスに対し、アキトの返答は素っ気無
い。だが、ラピスはそれに気分を害した様子も見せず、シートに座ったアキトの傍らに立
つ。そんなラピスを一瞬見遣り、アキトは今までの事を少し思い返した。




ナデシコCがその真価を発揮し、火星の後継者の首脳部を押え、更にアキト自らの手で北
辰を滅ぼしてから早一年以上が経過していた。一度はルリ達の下を去ろうとしたアキトだ
ったが、補給の為に立ち寄ったネルガルの秘密ドッグで、ユリカが既に余命幾ばくも無い
事を知り、最後の刻を共に過ごす為、ユリカの元に戻った。
アキトとユリカ、そしてルリとラピス。家族4人による、慎ましやかだが幸せな日々。だ
がその日々も、長くは続かなかった。
ユリカ救出から僅か1年後の冬。降り積もる雪の中、アキトの腕に抱かれ、ユリカはその
生涯を終えた。
そして、その日を境に、アキトは再び修羅となった。「火星の後継者」の残党を刈る為に。
それは復讐の意味もあったが、寧ろ恩返しと言う意味合いが強かった。ユリカ同様、アキ
トの命もまた、残り僅かでしかなかった。その残された僅かな時間で、今まで世話になっ
た者達に恩を返すには、如何すれば良いか?その答えが、「火星の後継者」の殲滅であった。
アカツキを始めとしたネルガルや、ルリ達連合軍・統合軍が「火星の後継者」殲滅に乗り出す
事は、容易に予想し得た。その際の負担を少しでも減らす為、残された時間を費やす事。
それこそが、アキトの恩返しだったのだ。
勿論、皆には止められた。ルリやエリナ、イネス達は勿論、嘗てのナデシコクルー達は、
皆反対した。恩を返したいと言うなら、せめて最後は一緒に居て欲しい――ルリにはそう
言われもした。だが、アキトの決意は変わらなかった。止めようとするルリ達を振り切り、
アキトは再び戦場へと舞い戻ったのである。
その際、本来はラピスを付き合わせるつもりは無かった。ラピスとのリンクを切っても、
視覚補正用のバイザーとユーチャリスのAIのサポートを利用すれば、視覚や聴覚と言っ
た主要な感覚は補えるのだから。だが、ラピスは付いて行くと言って聞かなかった。アキ
トの傍らこそが、自らの居るべき場所だと言って。
アキトは最早何も言わなかった。元々ラピスを復讐劇に付き合せたのは自分である。なら
ば、ラピスが望む通り、最後まで付き合わせる事が、せめてもの誠意と言えるのではないか。
そう考えたからだ。




そして、二人は今に至る。
自らの感傷を振り切るように頭を振ると、アキトはラピスに指示を出した。

「ラピス、奴等が居そうなポイントは?出来れば、此処から一番近いポイントが良い。」

「ちょっと待って。・・・ポイントM−678辺りが良いんじゃないかな?確率的にも高いし、

何よりここからかなり近い位置だよ?」

「・・・火星近くの小惑星帯か・・・。フン、薄汚いゴミの分際で、よくもまぁそんな所に居を構
える事が出来たものだ。まぁ良い、どちらにしろ潰すのだから・・・。ラピス、ジャンプの準
備を。」

「うん。」

答え、ユーチャリスのシステムを起動させる。

『ジャンプフィールド展開開始』

機械音声による案内が入った後、ユーチャリスを淡い光が包み込んでいく。

「イメージング完了・・・座標軸固定・・・何時でも行けるよ、アキト。」

その身を淡く輝かせながら、ラピスが傍らのアキトを振り返る。アキトもまたその身を輝

かせながら、頷く。そして・・・

「ジャン・・・」



ドガァァァァッッ!!



激しい破砕音と共に、ユーチャリスが揺さぶられたのは、正にその瞬間であった。

「クッ・・・何が起こった!?」

「・・・!?敵残骸からのグラビティブラスト!?ジンタイプが一機、活動可能状態だったみ
たい!」

「ちぃっ、艦隊にかまけ過ぎたか!?ラピス、至急ジャンプを中止しろ!」

「・・・駄目っ、さっきの一撃が、ユーチャリスのジャンプフィールド発生装置を貫いてる!
制御出来ないよ!」

ラピスの答えに、一瞬絶句するアキトだが、直ぐに気を取り直したかのようにシートに深
く座りなおした。ラピスもまた、アキトの傍らに寄り添う。

「フッ・・・咎人の最後にしては、あまりに呆気無かったな。」

「アキト・・・」

「すまなかったな、ラピス。こんなくだらない事に巻き込んで。」

「・・・ううん、いいの。私の居場所は、アキトの傍以外に無いんだから・・・」

ブリッジ内は警報が鳴り響き、ジャンプフィールドの暴走による揺れが、二人を間断なく
襲う。だが、命の危機ともいえる状況を前にして、二人はひどく冷静であった。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

アキトの微かな呟きを最後に、ユーチャリスは虹色の光に包まれ、何処かへと消え去って
いった。運命と呼ぶにはあまりに哀しい事象に振り回され、哀しき刻を過ごした一人の青
年と、唯その青年に寄り添い続けた一人の少女は・・・今この瞬間、時の流れの中からその存
在を消した。残された者達に、拭い切れぬ悲しみだけを刻み付けて・・・・・・。






だが、物語はこれで終わりではない。寧ろ、これから始まるのだ。哀しき「未来」を変革する
為に、運命に抗った青年の物語は。






某日・地球某所


「ん・・・・・・」

ベッドと机だけが置かれた質素な部屋の中、ベッドに眠っていた青年が、身動ぎをし、ゆ
っくりと起き上がる。

「くっ・・・随分と、体が重いな・・・それに何だか眩しい・・・・・・!?眩しい・・・だと・・・!?」

何かを気付いたかのように、跳ね起きる青年−アキト。そして、何かを確認するかのよう
に、幾つかの動作を取る。

「・・・臭いを嗅げる・・・物を見る事が出来る・・・物に触れる感触が解る・・・音を聞き取る事が
出来る・・・!」

そして、アキトは室内を見渡し、机の上に無造作に置かれてたペットボトルを手に取り、
少し残っていたお茶を恐る恐る飲んでみる。

「・・・味覚も・・・戻っている・・・・・・五感が・・・戻っていると言うのか・・・」

訳が解らず、呆然とするアキト。そのアキトの頭の中に、直接響く声があった。

<アキト!アキト、聞こえる!?>

<!ラピスか!今何処に居る?>

<それが・・・過去に私が捕らえられていた研究室なの・・・それにね、体も昔の私に戻ってし
まっている・・・>

<・・・あのランダムジャンプで、過去に跳んでしまったと言うのか?いや、しかし・・・>

頭の中で様々な考えを巡らせるアキト。その様子を察してか、ラピスも黙っている。やや
あって、アキトは考えが纏まったか、自分からラピスに呼びかけた。

<ラピス、どうやら俺達は、過去の時間に戻って来ていると見て間違い無さそうだな。>

<うん・・・。でも、これから如何するの?>

<・・・俺達が取りうる道は二つ。1つは、このまま何もせず、静かに暮らす事。幸い、俺に
はボソンジャンプと言う方法がある。此方の手持ちのカードを有効に利用すれば、戦火を
逃れつつ、暮らす事も出来るだろう。>

<もう1つは?>

<歴史を変えるために、積極的に動く。要するに、俺達があの忌まわしい未来を避ける為
に、動くと言う事だ。どちらにしろ、俺達の知る歴史とは随分と変わる事だろうがな。>

其処までアキトが言い終えると、黙り込む。ラピスが何か考えている事を察し、考える時
間を与えたのだ。

<・・・アキトは、如何したいの?>

<俺か?俺は・・・はっきり言って、どちらでも構わないと思っている。どんなに足掻いた所
で、俺の犯した罪が消える訳でもなければ、死んでしまったユリカが蘇る訳でもない。あ
くまで救えるのは此方の世界の皆であり、変わるのは此方の世界での歴史だけだからな>

何処までも冷静に答えるアキト。一瞬その冷静さに面食らうラピスだが、直ぐに気が付く。
アキトの心が、自分でも気付いていないであろう程に微細にざわめいている事を。

<・・・嘘。ホントはナデシコの皆を助けたいと思っているくせに>

<何故そう思う?>

<解るよ。だって・・・私の知っているアキトは、大切な人を護る為に、迷いや躊躇いを振り
切れる、強くて、優しい人だから。それにね・・・護れるかも知れない人を見捨てるような人
じゃないよ、アキトは。>

其処まで言い切り、アキトの反応を窺うラピス。アキトもまた、黙って何かを考えている。
暫しの間を置き、耐え切れなくなったかのようにアキトは笑った。

<・・・フッ・・・あっはははっ、やっぱり隠し通せないか?そうだな、俺は確かに皆を守りた
いと思っている。俺達の知る歴史の中では死んでしまったガイや白鳥さんも含めて、な。
それが所詮自己満足でしかない事は解っている。そんな事をした所で、何の意味もない事
もな。だけど・・・助けられるかもしれない人が居るのに、それを見て見ぬ振りをする事だけ
は・・・したくない>

<クスッ・・・それでこそアキトだよ。私も手伝うよ、だから・・・あの哀しい未来を、二度と
繰り返さないように・・・頑張ろう?アキト>

<そうだな。それじゃ、早速行動開始と行きますか。>

<如何するの?>

<先ずは、ネルガルと接触を持つ。と、その前に、今の年月日は?>

<えっと・・・2195年の・・・>

<・・・丁度俺が初めて地球に来た頃か。現状で出来る事は限られるが・・・やるしかないな>

感覚の戻った拳を握り締め、静かに決意するアキト。それが意味のある行為かどうかなん
て如何でも良い。偽善、或いは独善と罵られ様とも構わない。あんな一部の人間のエゴが
齎した、哀しい未来だけは・・・二度と繰り替えさせはしない。

「運命などと言うモノが、あの下らない未来を再現しようと言うのなら・・・俺は運命さえも
超えてみせる!」

揺ぎ無い思いを胸に、歩みだすアキト。今この瞬間から、新たなる未来へと至る物語は、
始まりを告げたのであった・・・。






Episode:00・・・Fin

 

 

代理人の感想

ユリカの最期をみとって、と言うのが好感度高しですね。

いや、ナデシコ逆行物というと大概はアキトとルリをくっつける為にユリカを邪険にしてますから。

それが悪いわけじゃないんですが、あまりに沢山あると突っ込む気にもならないんですよね。

一人のキャラの為に物語を歪めたら、そのキャラの狂信者しか読めないような話になるでしょう?