機動戦艦ナデシコ(劇場版after)


〜after the rebellion of Mars〜


第2話  集まったのは『バカ』ばっか?


 
 
 
 
 
 

 翌日、俺の目を覚まさせたのは執拗なまでのコール音だった。
 
 
 「・・・ったく、俺はまだ寝たいってのに・・・」
 
 
 傍らに置いてある時計を見ると、まだ針は8時前を指している。
 
 
 「はいはい、今行くって・・・」
 
 
 ベットから下り、適当に身だしなみを整える。
 
 さすがに、パジャマ姿に乱れた髪では人前に出れないし・・・
 
 
 「ど〜も〜、お父様から明日の事についての書類を持って
 
 きました〜」

 
 
 ドアを開けた瞬間、妙に元気な声が響く。
 
 俺は、初めて声が凶器になるんだなあとしみじみと感じた。
 
 あ、なんか向こうに川が見えるなあ〜
 
 
 「はいっ、それでは明日からのお仕事頑張って下さいね!」
 
 
 一方的に書類やその他色々な物を手渡される。
 
 
 「・・・・・一体、何だってんだ?」
 
 
 なんとか、こっちの世界に戻ってくると、すでに彼女は目の前にいなかった。
 
 そのままでいる訳にはいかないので、部屋に戻り受け取った書類に目を通す。
 
 
 (女性クルーが多いといいんだけどなあ、今度の職場・・・)
 
 
 なんせ、前の配属先ではほとんど男しかいなかったのだ・・・(泣)
 
 そのおかげで、髪を長くしていて、それにどちらかと言うと女っぽい俺は・・・
 
 ああっ、思い出したくない〜(号泣)
 
 乗員名簿を手にすると、なぜかものすごく薄かった。
 
 嫌な予感を抱きつつ、それを開くと、衝撃的な文字が目に入ってきた。
 
 紫陽花 総員7名
 
 ・・・・7名?マジで?
 
 それじゃあ、艦の運営っていうか、動けるのか?
 
 
 「げっ」
 
 
 疑問に思いながらも次のページを見ると、俺にとっては悪夢と呼べるような名前が
 
 そこにあった。
 
 副長  中葉 蛍(ナカバ・ホタル)
 
 をい・・・俺に死ねと言うのか?ミスマル提督は。
 
 よりによって、こいつが副長だとは・・・
 
 なぜ俺にとって悪夢かと言うと、こいつが何故か俺の命を狙っているのだ。
 
 木連との戦いの時に出会って以来、なぜか和平が成り立った今も付け狙っているのだ。
 
 何故、俺を狙うのかさっぱりわからないのだが・・・うざったいのも確かだ。
 
 
 「あ?なんだこれ?」
 
 
 あとの乗員を眺めていると、その隙間から紙切れが落ちた。
 
 
 カザマ・ヤヨイ君へ。
 
 1つ言い忘れた事があるんだけど、君の専用機。
 
 今日中に紫陽花の方に持っていっといて。
 
 いやあ、連合宇宙軍も人がいなくてねえ。それじゃ。
 
 ミスマル・コウイチロウ
 
 
 「はあ?」
 
 
 いきなり今日中、とか言われても・・・全く、あの親馬鹿野郎がっ!!
 
 っと、上官の悪口はいかんな。とりあえず、行くか。機体取りに。
 


 
 

 「チッ、俺が何したってんだよっ」
 
 
 「自分の胸に聞いてみるんだねっ!!」
 
 
 俺の機体の脇を、ロケットパンチがかすめて飛んでいく。
 
 今の所、なんとか避けてはいるがいつか終わりは来る。
 
 はたして、俺はサセボのドックまで無事に着けるのだろうか。
 
 
 
 

 事の始まりは、少し前にさかのぼる。
 
 サセボに行くのならば、いっそすべて用意してから、と思い身支度を整えた後、あまり
 
 多くない荷物を持って、機体が置いてある基地へ急いだ。
 
 
 「どうも。いきなりでなんですけど、こいつ動かせますかね」
 
 
 お世話になっているメカニックのチーフに声を掛ける。
 
 
 「ああ?なんだ、ヤヨイちゃんか、どうしたんだ?」
 
 
 「・・・ちゃんはやめて下さい・・・」
 
 
 がっくりとうなだれる俺を見て、格納庫全体に笑い声が響き渡る。
 
 ここのメカニックの人達は何故かとてつもなく腕がいい。しかし、性格の方は・・・
 
 
 「なんでい、そんなに落ち込むなって、それで?」
 
 
 「はい、これからこいつとサセボまで行きたいんですけど、予備バッテリーとかつけてもらえ
 
  ますか?」
 
 
 「ああ。それならすぐにでもなんとかするが、なぜトレーラーで行かない?」
 
 
 「そっちの方が速いじゃないですか。お願いします」
 
 
 「ふーん、またあの子がらみか・・・」
 
 
 「・・・すいません」
 
 
 前の任務の時、トレーラーで移動しているといきなり、問答無用で撃たれたのだ。
 
 バズーカ砲とかならまだいい、彼女専用の機体についている小型のグラビティブラストで、だ。
 
 何とかその時は死ななかったが、機体は動けないくらいやられてしまっていた。
 
 その後、上官に叱られるは、メカニックの人達に怒られるはで、散々だったのだ。
 
 
 「5分で終わらせる。それまでコクピットの中にいてもいいが?」
 
 
 「あ、そうします」
 
 
 荷物を持ったまま、自分の機体、デルフィニウム改に乗り込む。
 
 デルフィニウムと言っても、エステバリスより少し大きいくらいだ。
 
 ネルガルやら、クリムゾングループやらの協力で、何とか小型化し、エステバリス並の機動性を
 
 持っている。
 
 
 「・・・こいつに乗るのも、これで何度目だろうな」
 
 
 俺がこいつに乗り始めたのは、つい最近の事だ。
 
 まあ、試験機だから、色々不都合は存在するが、今ある機体の中で俺の反応についていけるのは
 
 こいつだけだったのだ。
 
 
 「おーい。ヤヨイちゃーん。終わったぜ。何か変な所とかあるか〜」
 
 
 ・・・だから、ちゃんはやめろってば。
 
 
 心中で呟きながら、システムのチェックをする。
 
 
 「問題ないです。ありがとうございました。この借りはいずれお返しします」
 
 
 「おう。まあ、期待はしてないがな。・・・カザマ機出るぞ、踏み潰されんなよ〜」
 
 
 「IFSスタート・・・カザマ・ヤヨイ出ます」
 
 
 「頑張ってこいよ〜」
 
 
 メカニックの人達の声を後ろに聞きながら、俺はゆっくりと機体を発進させた。
 
 
 
 

 

海上に出て、俺は目的コースを設定し、操縦をコンピュータに任せる。
 
 『OK。後は任せて!!』というメッセージが前に表示され、消える。
 
 息を吐き、シートに深くもたれる。
 
 
 「このまま無事に着けるといいがなあ・・・」
 
 
 呟いた直後、激しい振動が俺を襲った。
 
 
 「チッ」
 
 
 舌打ちをすると、操縦をオートからマニュアルに切り替える。
 
 レーダーに目を走らせると1つの見覚えのある機体の名が映し出されていた。
 
 
 「見つけた。今度はどこに逃げようって言うのっ!!」
 
 
 見覚えのある顔が目の前に現れる。眼の色は黒。肩まで伸びた黒髪。はたから見れば間違いなく
 
 美女であるのは間違いないのだが、今は憎悪に歪んでいる。
 
 
 「・・・別に、逃げる訳じゃない。これから」
 
 
 「言い訳は聞きたくないわっ。カザマ・ヤヨイ、こんどこそ殺してあげるっ!!」
 
 
 ここで、冒頭に戻る訳である。
 
 
 
 
 

 連続で放たれるグラビティブラストをなんとか避けながら、牽制の為にミサイルを数発撃つ。
 
 相手はそれを見抜いたのか、全く回避運動を取らずこちらに突っ込んでくる。
 
 ヤバイ、と思った瞬間には、もうすでにこちらの左腕が吹き飛んでいた。
 
 
 「後で相手してやるから、今はやめろ!市街地で戦う気かっ!!」
 
 
 目の前には、サセボシティが広がっている。さすがにここでは戦わないだろうと期待したのだが。
 
 
 「うるさいっ、あなたを海上で片付ければいい話だわっ!!」
 
 
 「・・・じゃあ、街中なら撃たないんだな
 
 
 短く呟き、手元にあるスイッチを押す。
 
 途端に機体が跳ねあがり、爆発的な加速で彼女を突き放す。
 
 
 「くうっ」
 
 
 無論、強烈なGが襲うわけだが、この際かまってなどいられない。
 
 市民に被害が出るのを見過ごすわけにはいかないからな。
 
 何とかサセボドックまで辿り着き、機体から降りる。
 
 メカニックの人やらなんやらがこちらを見ているが、仕方ない事だろう。
 
 
 「え〜と、今度紫陽花に乗ることになります、カザマ・ヤヨイです。よろしくお願いします」
 
 
 とりあえず自己紹介をするが、なんか俺を見る目が怖いぞ?
 
 
 「いやいや、変わった登場の仕方ですね。艦長」
 
 
 振りかえると、眼鏡を掛けたおっさんが目の前にいた。
 
 
 「すいません。私はこういう者です」
 
 
 ネルガルのプロスペクター?一体何なんだ、この人は。
 
 
 「えっと、本名、ですか?」
 
 
 「いえいえ、これは世をしのぶ仮の姿と言いますか、ペンネームみたいなものですね」
 
 
 「はあ・・・」
 
 
 「なんだ!!この新型は!?俺の見た事のないヤツだ。どことなく前にバラしたデルフィニウム
 
  に似てるが」
 
 
 「どっかで見た事あるような気がするんだけどな」
 
 
 気付くと、横に2人の人がいた。
 
 1人は、統合軍で鬼と呼ばれるスバル・リョーコ中尉。もう1人は・・・
 
 
 「ウリバタケさん。いいんですか?こんな事してて」
 
 
 「おうよ。そこらの機械いじってるのより、こっちの方が断然面白いぜ」
 
 
 ウリバタケと呼ばれた男がスパナを片手にプロスペクターさんに答える。
 
 どうやら、メカニックの人らしい。
 
 
 「すみません。なんとかこいつ直してくれませんか?詳しい事はこれに書いてありますから」
 
 
 俺がウリバタケさんに話し掛けると、瞳をきらきらさせながらこちらを向くウリバタケさん。
 
 
 「ホントにいいのか?くうっ、新型かあ。燃えるぜぇっ!!
 
 
 「わりい。すまねえが、あんたの名前教えてくれないか?どこかで見た事あるんだよ。あんたの
 
  機体」
 
 
 あっちの世界に逝ってしまっているウリバタケさんをよそに、スバルさんが話しかけてきた。
 
 確かさっき名前言ったような気がするが、ま、いいか。
 
 
 「カザマ・ヤヨイです。あなたの噂は聞いてますよ。スバルさん。ちなみに私の通り名は
 
  『黒紫の華』ですよ」
 
 
 「あー!!あのデルフィニウムライダーの、カザマ・ヤヨイ!?」
 
 
 いきなり大声出さないで欲しいんだけど・・・かなり鼓膜が・・・
 
 
 「男だろうと女だろうと容赦なく落とすあのゴッドスマイルの持ち主!!」
 
 
 をい。人をどこかの人間磁石みたいに言うなよっ。
 
 それに、俺は男は落としたりしないっ!!
 
 
 「・・・スバルさん。その噂は一体誰から?」
 
 
 「あ?軍の連中なら大概知ってるぜ。統合軍の方に流れてきたのは連合宇宙軍からだがな」
 
 
 「へえ」
 
 
 ほほう・・・連合宇宙軍の人、ですか。
 
 絶対探し出して、制裁を加えないといかんなあ・・・くくくく。
 
 あれ?なんで引いてるんですか?スバルさんにプロスペクターさん。
 
 
 「ま、まあとにかく、副長さんもいらっしゃった事ですし、艦内を案内しましょう」
 
 
 あ、完璧に忘れてた。そういえば、あいつもこの艦に乗るんだったっけ・・・
 
 プロスペクターさんの視線につられて上を見上げると、丁度蛍の機体が降りてくる所だった。
 

 
 
 
 

 「ほう、艦長と蛍さんとはお知り合いだったんですか。いや〜昔のナデシコを思い出しますな〜」
 
 
 「でも私、この人とはああいう関係じゃありませんから」
 
 
 「おや、蛍さんはあの現場にいらっしゃったので?」
 
 
 「ええ。あの時はパイロットとしてではありませんでしたけど」
 
 
 ・・・なんか俺だけ蚊帳の外のような気がするのは、気のせいか?
 
 
 「ところで艦長。この紫陽花の基本的なスペックはご存知ですよね?」
 
 
 「え、いいえ。知りませんけど・・・」
 
 
 あ、なんか冷たい視線が妙に痛いんですけど。だってほら時間なかったし。
 
 
 「普通、自分の乗る艦の事くらい事前に調べておくべきよ」
 
 
 いや、半分はお前の責任でもあるんだぞ・・・書類に目通そうと思ったら攻撃だったし。
 
 どっちかというと、あのミスマル提督のせいなような気がするが、まあ気にしてはダメだろう。
 
 
 「仕方ないですねえ。では・・・説明しましょう
 
 
 ん?どうして最後だけ小さな声になるんだ?
 
 
 「説明なら私にまかせなさい!!
 
 
 ・・・をい。かなりびっくりしたじゃないか。
 
 俺は少し離れていたからよかったものの、至近距離にいた蛍のほうは完璧に放心状態だぞ・・・
 
 間違いなく武器になってるのに、なぜ無事なんだプロスペクターさんは。
 
 
 「えーと、この人は誰です?プロスペクターさん」
 
 
 「私はイネス・フレサンジュ。ナデシコCの方でドクターを務めることになってるわ」
 
 
 コミュニケのイネスさんが、俺の顔の前に現れる。
 
 へえ、結構綺麗な人だなあ・・・少し年は食ってるみたいだけど。
 
 
 「あなた。今、何か失礼な事考えなかった?」
 
 
 「いえ、別に、少し年食ってるなあって考えただけで・・・ハッ!!」
 
 
 「ふうん・・・そう」
 
 
 「すいませんでしたっ!!あの、ところで説明してくれますか?」
 
 
 ものすごい勢いで頭を下げるが、あまり効果はなかった。むしろ『説明』という言葉に反応した
 
 ように見えるが。
 
 
 「まあ、いいわ。プロスさんと隣のお嬢さんはちょっとあっちの世界にいっちゃってるみたい
 
 だから、艦内の案内がてら説明してあげるわ」
 
 
 はっと、プロスペクターさんの方を見ると、先程の笑顔のままぴくりとも動かない。
 
 さすがというか何というか、スゴイ人だな・・・プロスペクターさん。
 
 
 「さて、この紫陽花なんだけど、基本的には初代ナデシコ、ナデシコAとほとんど変わりは
 
 ないわ。ああ、このあたりがあなた達クルーの部屋って事になるわね」
 
 
 なんか総員7名の割には部屋が沢山あるような気がするのだが、どうなんだろう。
 
 
 「ああ。部屋の数の事ね、これは何もあなた達専用の戦艦ってワケじゃないんだからこれくらい
 
 あってもいいでしょう?」
 
 
 こちらの心中を読んだのか、俺の疑問に的確な答えを返してくるイネスさん。
 
 
 「紫陽花の特徴としては、左右グラビティブレードにグラビティキャノン、中央に
 
  グラビティブラストを装備しているわ。火力の面では初代ナデシコを完全に凌ぐわね。
 
  あ、そこ左に曲がって」
 
 
 「しかし、ナデシコCには敵わない、でしょう?」
 
 
 「・・・なぜ、そう思うの?」
 
 
 イネスさんの真剣な目がこちらを見ている。
 
 どうやら、本当にそうだったらしい。
 
 さて、どうするか。適当にかわすか、それとも真面目に返すか。
 
 
 「相転移エンジン、ちらっとみただけですが、おそらくナデシコCと同じ性能でしょう?
 
  だったら、無駄な武器、つまり左右グラビティキャノンの分余計にエネルギーが必要
 
  なはずだから、ディストーションフィールドがちょっと薄くなるはずです」
 
 
 「しかしこちらは3つあわせないとナデシコのディストーションフィールドは破れない。
 
  かと言って、フィールドにエネルギーをすべて回せばいつかはこちらがやられる。
 
  さすがね、カザマ君。伊達に艦長になるわけじゃあない、か」
 
 
 俺の答えを途中から引き継ぐイネスさん。
 
 どうやら、かなり的を射た推理だったらしい。
 
 良かったあ、真面目に答えといて。
 
 
 「さて、ここがブリッジよ。あら、誰かいるみたいだけど」
 
 
 あ、ホントだ。オペレーターの所に誰かいる。
 
 
 「連合宇宙軍少佐 カザマ・ヤヨイ。若干23で艦長就任、ま、これはホシノ少佐には
 
 及ばないけど、実戦経験はものすごいみたい」
 
 
 「えっと、君は?」
 
 
 「ボクはヤマカゼ・コハク。12歳。この艦のオペレーターをやらせてもらいます」
 
 
 何故か少年のような話し方だが、見た目思いっきり少女である。
 
 
 「あなた、まさか・・・」
 
 
 隣のイネスさんが驚いた声を上げる。
 
 一体、目の前の子が何だと言うのだろうか。
 
 
 「ありゃ、そこのおばさんはわかったみたいだね。そう私はルリ姉さんやラピス姉さん
 
 ハーリー兄さんの妹ってことになるのかな」
 
 
 おばさん発言に少しイネスさんの額に青筋が見えるが・・・まあ、イネスさんも大人なハズ。
 
 まさか、怒る事はない、よな?
 
 
 「要は、マシンチャイルドって事。わかった?お兄さん」
 
 
 「・・・ああ、わかった。けど、なんで君は俺の右腕にくっついてるんだい?」
 
 
 「えへへ、いいでしょ。ダメ?」
 
 
 下から金色の瞳が見上げてくる。
 
 まあ、かわいいって言えばかなりの域に入るだろうが、まだ綺麗って言うにはほど遠い。
 
 それに、年が、ねえ。
 
 
 「ごめんね。もう少し艦を回りたいんだ、終わったらつきあってあげるよ」
 
 
 笑みと共にやんわりと腕をほどいてやる。
 
 少しは抵抗されると思っていたが、やけにあっさりと腕を放してくれる。
 
 
 「あれ、どうしたの?顔、赤いよ。風邪でも引いたかな?イネスさん、どうです?」
 
 
 「別に、そんなんじゃないでしょ。多分すぐにでも治るわ。じゃ、次いきましょう」
 
 
 (カザマ・ヤヨイ、男女問わず落とすってのは少し言い過ぎかと思ったけど、
 
 はやくも 1人手中に入れたってことね)

 
 
 「あ、はい。わかりました。それじゃ、またねコハクちゃん」
 
 
 立ち尽くすコハクちゃんに一言声をかけ、俺はイネスさんについていった。


 
 
 
 
 

 イネスさんの案内で、俺はブリッジから格納庫に案内されていた。
 
 
 「ここが紫陽花の格納庫になるわね。ほら、あなたと蛍さんの機体がもう積み込まれたみたい」
 
 
 イネスさんの指す方には、壊れた俺の愛機ともう1つ忌まわしい機体がそこにあった。
 
 
 中葉 蛍の専用機『白刃』
 
 こいつのおかげで何度窮地に陥った事か・・・
 
 
 「それが今回は味方になる、か
 
 
 「え?何か言ったかしら、カザマ君」
 
 
 「いえ。なんでもありません。それじゃ、次の所に」
 
 
 「へえ、こいつも新型か。ちょっと見せてもらおうかなっと」
 
 
 立ち去りかけた俺の耳に、楽しそうなウリバタケさんの声が響く。
 
 この時、俺がもうちょっと利口だったなら、そのまま立ち去る事もできたかもしれない。
 
 
 「あ、ダメですよウリバタケさん。そいつには自己防衛プログラムがあって・・・」
 
 
 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
 
 
 あ、遅かった。
 
 白刃から射出された小さなボールのようなものがウリバタケさんに取りつき放電したのだ。
 
 一応、命に関わるくらいまで電圧を上げることができるのだが、まあ、パイロットの設定次第だ。
 
 
 「あちゃあ。やっぱダメだったか。おーい、生きてますかウリバタケさん」
 
 
 「ほっといても大丈夫よ、どうせすぐ生き返るわ」
 
 
 生き返るってイネスさん・・・ウリバタケさんも一応人間なんですケド・・・
 
 
 「あ〜、ホントに死ぬかと思ったぜ。一体なんなんだ、こいつはよ」
 
 
 嘘だ。
 
 いくらなんでも一瞬で戻って来れるわけがない。
 
 俺なんか前にやられた時は生死の狭間を3日間くらいさまよったぞ・・・
 
 
 「私が説明しましょう・・・って、私の中にもこの機体のデータはないわ、カザマ君、説明よろしく」
 
 
 イネスさんが説明しようって言った時にウリバタケさんが思いっきり嫌そうな顔をしたような気が・・・
 
 俺は、イネスさんの説明はむしろ嬉しいくらいだが。
 
 
 「こいつは俺の副長、中葉 蛍の専用機体、『白刃』です。製造元は、確か明日香インダストリー。俺の
 
  と同様、試作機で・・・」
 
 
 「んなことはどうでもいいって。んで?具体的な性能はどうなんだよ」
 
 
 ウリバタケさんが、鼻息を荒くして俺に詰め寄る。
 
 
 「そうですね。コイツは俺のデルフィニウムと同じ位の大きさにも関わらず小型の相転移エンジンを
 
  搭載しています。そのおかげで、コイツは小型のグラビティブラストや、他のエステバリスとかと
 
  比べると高出力のディストーションフィールドを展開させる事が出来ます」
 
 
 「このクラスの小型の相転移エンジンって、まだネルガルもそんなもん開発してねえぞ」
 
 
 「明日香インダストリー、ここ最近力を増している所ね。アカツキ君が知ったらどうするかしら」
 
 
 「コイツには自己防衛プログラムがありますから、メカニックの人は迂闊に近付かない方がいいですよ。
 
  確か、コイツを整備できるのはおそらく1人だけですから」
 
 
 そう言い置いて、イネスさんに目で次へ行こうと合図する。
 
 
 「ちょっと待った」
 
 
 立ち去ろうとした俺の服をウリバタケさんがつかむ。
 
 
 「基本的な事はわかった。だが、お前やけに詳しいな、この機体の事に」
 
 
 「それは・・・そうならざるを得ませんでしたから」
 
 
 ああっ、こいつで何度追い回された事か・・・
 
 1度、本気で蛍を落とした時、何故か俺が修理しなくちゃいけない羽目になったからな。
 
 それにしても、ホントよく死ななかったもんだ。俺も、蛍も。
 
 
 「だったら、この厄介なシステムの止め方、知ってるよなぁ」
 
 
 う・・・確かに知ってはいるが、それを言ったら最後、本格的に俺の命が危ない。
 
 
 「ダメです。まだ俺も死にたくないですし」
 
 
 真面目な顔でウリバタケさんを見る。
 
 しかし、そこには、にやついたウリバタケさんの顔があった。
 
 マズイ・・・この展開は、まさか。
 
 
 「お前のデルフィニウム、直すのやめよっかなぁ」
 
 
 あ、やっぱり?
 
 まあ、半壊した機体で戦闘になった場合、その先には死が待っている。
 
 そうくるなら、こっちは。
 
 
 「いいです、別に。他の人に頼みますから」
 
 
 ぷいと横を向き、そのまま格納庫を後にしようとする、が。
 
 
 「お前の、試作機だけあって、結構伝送系が難しいんだよなあ。俺以外に直せるやつがこのドックにいるといいが」
 
 
 ウリバタケさんの腕か。
 
 俺はまだよくわからないのだが、ここはイネスさんに・・・
 
 確認の為にイネスさんのほうを見るが、彼女も『そりゃそうだ』とばかりに頷いている。
 
 ふうん。そんな腕のいい人なのかなあ。
 
 俺にはただの機械オタクにしか見えないのだが。
 
 ハッ、そう言えばネルガルは『腕はいいけど、性格はちょっと・・・』って言う人材を集めるトコだって
 
 聞いた事があるぞ。
 
 しかし、『白刃』をいじったのがバレたら・・・本気で無差別テロになってしまうからなあ。
 
 
 「大丈夫だって、バレなきゃいいんだろ?俺の腕を信じろって」
 
 
 理屈はそうなんだが、うーん、ま、いいってことにしとくか。
 
 
 「わかりました。やりましょう、ですが・・・」
 
 
 「バレない程度にだろ?わかってるって」
 
 
 うー、本当にわかってるのかな、この人は。
 
 胸に一抹の不安を抱きながら、俺は『白刃』の前に出た。
 
 
 「時雨、出てきてくれないか、頼みがある・・ってどうせ、お前の事だ聞いてるんだろ?」
 
 
 俺が呼びかけると、一瞬のタイムラグの後、目の前に小さな女の子が現れる。
 
 
 「な、なんだ〜こいつは」
 
 
 「何?」
 
 
 まあ、2人とも驚くのも無理ないか。こいつも確か明日香インダストリーの試作型だからな。
 
 
 「一応紹介します。こいつは時雨。白刃のメインコンピューターで、まあ、ナデシコにつんであるオモイカネみたいな
 
  ものですね」
 
 
 「よろしく」
 
 
 俺の背中に隠れた形で時雨が言う。
 
 慣れない人達に、少し顔見知りしているようだ。
 
 ・・・って、ちょっと待て。お前、確か前に会ったときは俺と年が同じ位の外見じゃなかったか?
 
 それに、何故コンピューターのお前が顔見知りなどするんだ?
 
 
 「・・・でも、実体があるように見えるけど?」
 
 
 俺が考えに沈むのを引き戻したのは、ウリバタケさんよりも早く戻ってきたイネスさんだった。
 
 ウリバタケさんはと言うと、何故か時雨を見たまま固まってしまっている。
 
 
 「ああ、こいつは立体映像なんです。まあ、実体があるように見えるのはこいつのシステムが最新型だからでしょう」
 
 
 「それも、明日香インダストリー?」
 
 
 「ええ」
 
 
 「驚いた。ネルガルもそろそろ落ち目かしらね」
 
 
 心底驚いた様子のイネスさん。
 
 それよりも、気掛かりなのは・・・
 
 
 「ところで時雨、お前なんでその姿なんだ?」
 
 
 「だって、ヤヨイちゃんはこっちの姿の方が好きかなぁと思ったから」
 
 
 「お前、ブリッジでの事覗いてやがったな」
 
 
 「うん。ここのオモイカネって子、とっても優しいんだ〜、そのおかげで私でもこの艦の事なら大体わかるよ」
 
 
 「お前なぁ」
 
 
 うっ、なんだ?
 
 急に寒くなってきやがった・・・
 
 
 「イネスさん、ここ冷房壊れてるんじゃ・・・ないん・・・ですね
 
 
 ウリバタケさんとイネスさんがそれはもう絶対零度に近い眼差しでこちらを見ていた。
 
 しかし、いつの間に戻ってきたんだ?ウリバタケさん・・・
 
 
 「なんか、ナデシコには似合わないくらい真面目な人だなと思ったが・・・そうだったのか。
 
 ルリルリには気を付けるように言って置かないとな」
 
 
 「ブリッジでも同じ様な年の子を1人落としてたわよ」
 
 
 「ほ〜う、そうか」
 
 
 あの・・・俺は、別に・・・
 
 
 (時雨っ、お前のおかげで何か誤解されてるぞっ、頼むから元の姿に戻ってくれないか?)
 
 
 (い〜や、こっちの方が面白いもんっ)
 
 
 「あ!!お前っ!!」
 
 
 時雨は舌を出して笑うと、その場から消えてしまった。
 
 ったく、こんなところにだけ立体映像の力利用しやがって・・・
 
 ハア、取りあえず、2人の誤解は解いておかないとな。
 
 
 「あの、一応言っときますけど、誤解ですからね」
 
 
 「「犯罪者はみんなそういう(のよ)(んだ)」」
 
 
 母さん・・・どうやら今回の旅は、辛いものになりそうです(泣)


 
 
 
 
 
 
 
 
 後書き
 
 どうも、紫月です。
 
 他の作家さん達が2,3日でアップしていく中、今回少し時間がかかってしまいました(スイマセン)
 
 ここに第2話 集まったのは『馬鹿』ばっか。をお送りいたします。
 
 一言。
 
 『やっぱ、戦いの描写は難しい・・・』
 
 他の作家さん達に比べて思いっきり見劣りしてしまう・・・
 
 何とか頑張らねば、ファイト、俺!!
 
 まだプロローグみたいな感じですが、次は話が動いていく予定です。(多分)
 
 それでは、最後となりましたが、私の拙い文を読んで頂き、本当にありがとうございました。
 
 

 

 

代理人の感想

・・・・・・いや、さすがに二、三日でアップするような作家さんはごく少数ですが。

みんながみんな二、三日で上げてたら、いくらわたしでも過労死してしまふ。(爆)

 

>描写

文章力に関しては、これは沢山本を読んで沢山書け、としか言えませんねぇ。

それも読むならいわゆる「名作」と言われるもの。

電撃やスニーカーは玉石混淆ですので参考にするのは危険です。

私のお勧めとしては・・・・やっぱり隆慶一郎になるかなぁ。