「ん〜…しかしアレだなアキト」

「何だ親父」

「さっきレッドキングが好みと言ったがな」

「ああ」

「直訳で赤い王様だろ?」

「まあな」

「俺はな…実はより真っ赤っかの方がもっと好みなんだ!

「…ほお…そうなのか」

「うむ!どうすれば良いと思うアキト?」

「ぬ〜…それは難題だな」

「だろう?」

「む〜………よし!じゃあ!」

「をを!?良い案を思いついたか!?」

「赤=レッドでダメならば!」

「ああ…ゴクリ…」

真っ赤っかレッドッドでどうだ!」

「ナイスだアキト!」

「はっはっはっ、そうだろう!では宜しくレッドッドキング」

「おう!これで優勝だ!」

何の?

 

ブォン!

 

そんなバカ会話を繰り広げる2人に爆音を響かせた塊が猛スピードで迫る!

 

ぎゅるああああああぁぁっ!!!!!

 

どがぁ!!!

 

「「げぶごぉ!?」」

テンカワ親子、ぶっ飛ぶ。

「いい加減にしなさいね2人共

「「…」」

だが2人は返事が出来ない。

どうやら天井に突き刺さっているようだ。

 

「「「「おー」」」」

ぱちぱちぱち…

そしてその光景を見たレンナ、ユキナ、ラピス、山崎は思わず拍手喝采だ。

 

「…」

で、九十九は呆然とし、

 

「…」

元一朗はまだ昇天中である。

 

 

 

 

 

 

 

伝説の3号機

その21

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…え〜と、テンカワさん、ちょっと宜しいですか?」

「あらあらゴメンなさいね、みっともない所お見せしちゃって。あ、それと私の事はアンリって呼んでね

「あ、はい。私はフクベ・レンナです。で、その…」

「ん?何かしらレンナちゃん

「れ、レンナちゃん?…ま、まあいいか。それで、その…アナタとあのおじさんは…」

「ああ、オレの1コ上の先輩」

「先輩!?しかも1コ上!?どう見ても親と子くらい離れてるわよ!?って何時の間に復活したのよアンタ!?」

まあいつもの事だ。

「ああ、実際親と子だし」

「なら最初から素直にそう言えって…でも良かったわね再会できて」

「おう!もう、嬉しいなっばとぅ!」

「何?その『っばとぅ』って?」

「いや〜つい嬉しくて方言が…」

「方言!?何処の!?」

「家の」

「家限定!?」

「ああ。いいだろ?」

「別に…それでアンタの両親って何やってる人なの?」

「…軽く流しおって…ん?何をやっている?そんなもん見て分からんか?」

「分かるわけないでしょ…」

「洞察力が足りんぞベン子。見ての通りの…なんだろう?

「何で聞いてんのよ!私がアンタに質問してるんでしょうが!」

「それもそうか!気付かなかった…」

「気付けっ!」

「ほらほらアキト、レンナちゃんで遊ばないの」

ぐりっ

「…お母様。そう言いながら何気にサイドカーで踏むのは止めて頂けますか?結構、痛いんですけど?」

「それでねレンナちゃん、私達は研究者なのよ」

アキトの呟きはものの見事に無視された。

「へえ〜凄いんですね〜」

「おう、凄いんだ!ほんの3日前から始めたんだがな!」

今度はアキト父が復活!

「いえ、それ凄くないです」

ぐりぐり…

「ほらアナタもレンナちゃんで遊ばない

「お、おお。分かったから前輪でぐりぐりしないでくれ。かなり痛い」

「でね?本当はもうかれこれ木連に来てからそうねぇ…10年くらいかしら」

アキト父の呟きも無視だ。

「…はぁ、そ、そうですか」

かなり気の抜けた返事をしたレンナである。

無理も無いが。

 

 

ずずず…

その光景を見ながら何気にティーブレイクをしているのは山崎だ。

 

 

「おー…これがバイク…かっこいいー…ぺたぺた」

「…ぺたぺた」

ユキナとラピス、アキト母の乗っているサイドカーに興味津々のようだ。

「は〜い、しつも〜ん」

「…質問」

だが飽きたのか突如質問タイムに突入となった。

そして何気にプレスされて伸びた元一朗に座っているがそれはどうでもいい事である。

「はい、何かしら?え〜と?」

「あ、私は白鳥ユキナで〜す!それで聞きたいんですけど…」

「うんうん何かしらユキナちゃん?」

「木連にバイクなんて乗り物無かったと思うんだけど、一体何処から持ってきたんですかー?」

「ふふふ…秘密

「え〜ケチ〜」

「…ケチ」

「ん〜でも敢えて言うならば血が騒いだのね

「「は?」」

聞き様によってはかなり物騒な発言である。

「ぬう…流石は初代

「初代!?何のだ親父!?」

「それは知らない方が懸命だぞアキト。もし知りたいのなら弟子の2代目を倒すことだ」

「に、2代目?一体誰?」

「イネス君だ」

「なぬうううううぅぅ!?インフレ姉さんが!?」

アキト、驚愕である。

「そうね。私には及ばずともなかなかの腕だったわ」

「ああ。だがやはりお前とナナさんのツートップには敵わんな」

「そうね〜あの頃は火星の守護者・フォボス&ダイモスなんて呼ばれてたわねぇ〜」

「しかし思い出せば思い出すほど悔やまれるな」

「そうね…残念だわ。あの事故が無ければ今でもナナさんと…」

ナナ(ミスマル母)、どうやら最後は壮絶に散ったようだ。

一体過去に何があったのか…。

「そ、そんな過去があったんですゲスか、お母上様!?かなりの初耳なんでございますけど!?」

衝撃の事実にアキトはめちゃくちゃな丁寧語になった!

「知らない方が幸せな事もあるのよ…はぁ…あの頃は若かったわねぇ…」

「何を言うか。今でも十分若いぞ?」

「あら、ありがとうアナタ

「はっはっはっ!任せておけ!」

「はいはい、ラヴラヴ光線発するな2人共」

確かに近寄りがたい雰囲気が爆発している。

 

 

こぽこぽ…

山崎、未だティーブレイク中である。

 

 

「は〜い質問2つ目〜」

「…2つ目」

「はい、何かしらユキナちゃん?」

ユキナ、何気にラヴラヴ阻止する。

「え〜と、ここに来る途中に変な集団に追いかけられたんだけど…」

「そういえば気になるとこよね。アレってなんだったのかな?」

ユキナの疑問にレンナも便乗する。

「ああ、アレ。あれはね?」

「私達の弟子だ」

「「弟子!?」」

「…でし?」

「もしくは下僕だ」

「「下僕!?」

「…げぼく?」

「更に言うならセロテープだ」

「「何でーっ!?」」

「…せろてーぷ?」

「なるほど。よく分かったぞ親父」

「ふっ…流石は我が息子。理解力はHB鉛筆並だな」

基準が分からん。

「まあとにかくね、あの可愛らしい軍団は私達の教え子なの。分かった?」

「…何処が可愛いのかしら」

「…あの集団が教え子」

「…すごい」

とことん嫌な集団である。

「でも何で追いかけられたんだろう?」

「そうだよね。別に何も悪い事してないし」

「…でも楽しかった」

しかしそのお陰でアキトと元一朗はエライ目にあった。

「ああ、それはね?」

「「「うんうん」」」

「分かった!実は手つなぎ鬼やってたんだな!?」

「バカを言うなアキト、アレは缶蹴りやってただけだぞ?」

 

ごげぼぐっ!!!

 

…ぺこっ

 

「「黙ってろ」」

「…しー」

「「………あい」」

レンナ、ユキナ、アキト母のきっついツッコミを喰らい沈黙するテンカワ親子。

勿論トドメはラピスだ。

「もう、違うわよ2人共。アレはちょっと集会を…」

「「集会!?」」

「…しゅうかい?」

「あ…こほん、え〜と…いえね?ちょっと親睦会を開いていただけなの。ホントよ?ほほほ…」

「「…怪しい」」

「…しんぼくかい…仲良しさん?」

アキト母、苦しいぞ。

「だから、ちょっとその集まっていた所に縄張り…じゃなくて遊び場に入ってきたあなた達を
敵対勢力…じゃなくて遊び仲間かと思って追いかけちゃったのよ。ホントよ?ホント!」

「「「…」」」

3人、疑惑の目である。

「ほほほほほほほ…」

「「「じー」」」

アキト母の乾いた笑いが木霊する。

「まあまあ、お前らその辺にしてやれ」

「そうだぞ。幾らうちのチームのヘッドだからって…」

 

ごぎゅっ!

 

「ぐぶっ!?」

アキト父、哀れ心半ばに散る。

「ほほほほほ…何を血迷っているのかしらアナタったら

アキト母、恐るべし。

「…親父、首が向いてはいけない方向を向いているぞ?」

「ぬ…新しい世界の始まりだな」

それだけ言えりゃ大丈夫だろう。

「じゃあ、お話戻そうかしら?いい?」

「「「はい!何時でもどうぞ!」」」

「…はーい」

全員、アキト母に萎縮した!

「え〜と、それで何の話だったかしら?」

「あ〜う〜…そうそう、そういえばその教え子って結構沢山居ましたけど一体どれ位の数が…」

「ん〜…アナタ、今構成員はどれ位だったかしら?」

「そうだな…大体木連人口の10分の1位じゃなかったか?」

「「うそーーーーーーーーっ!?」」

「…凄い」

凄まじい人数である。

「ぬう…流石はマグカップ

「ふっ…そんなに褒めるなアキト。落ち込むじゃないか」

褒めてんのか!?しかも落ち込むんか!?

「ん〜…よぅし!気分が沈んだ時はアレが1番!アキト!折角だアレをやるぞ!」

「アレ?…ああ、アレか!」

「テンカワ家の家訓、忘れていないようだな!では復唱行くぞ!」

「おうよ!」

「家訓その1!実質不死身の寄生虫!

「勿論忘れてないさ!家訓その2存在自体が迷惑行為!だろ?」

「よし!どんどん行くぞ!」

「よっしゃ!」

どんな家訓だ。

 

めぢっ!

「ぎぶ!」

 

めぎっ!

「うぶ!」

 

「「いい加減にしなさい」」

だがアキト母とレンナによって阻止された。

続きが気になる所である。

 

 

かちゃかちゃ…

山崎、今度はコーヒータイムだ。

 

 

「と言う訳で質問3〜」

「…3〜」

何がと言う訳なのだろう?

「…まだ質問するのユキナちゃん?」

「まあ無理もないだろうベン子。好きにやらせてやれ。あの年頃の子は何かと飛びたくなるものだ」

「…何で飛ぶのよ」

アキト、またも素早く復活である。

「まあ浮き輪か」

「訳分かんないし!しかもさり気にベン子言うな!」

 

どげしゃっ!

 

「ぐげ!?…何だか久しぶり…げぶっ

再び落ちたアキトであった。

「おお!いいツッコミだぞ!将来の有望株だな!」

アキト父、何のだ。

「はい、それで質問は何かなユキナちゃん」

アキトとレンナのどつき漫才とアキト父を無視して母が話を進める。

「2人はなんで木連に居るの〜?」

「おお、ダメな質問だな。おいアキト、座布団1枚撃て

撃つのか!?

「おうさ!」

びぃん!

「…あうっ」

アキト、どっから持ってきたその輪ゴム銃。

で、その輪ゴム銃に撃たれてるのは座布団になった元一朗だ。

「ダメな質問で座布団1枚で尚且つ撃つ…意味が分からないんだけど…」

「え〜とね、多分『よく言った』ってことだと思うわよ?」

「…よく分かるねレン」

「まあなんとなくね」

便利なアビリティを取得しているレンナだった。

「それで?質問の答えは?」

「ああ、実は地球に向かうシャトルに乗っていたのだが突然エンジンがイカレてしまってな、
散々漂流してたら何時の間にか木連の物資の中に搬入されててな」

「…ありえねぇよ親父」

「うん、私もそう思う」

「「うんうん」」

一同、アキトに同意である。

「だが本当の事なのだよ!ちゃんと事実を真正面から打ち返したまえ!」

打ち返すのか?

「いえね?たまたま偵察に出ていた無人兵器が漂流するシャトルを見つけて回収したのがホントよ?」

「ぬあ!?イキナリばらすなよ!」

「やっぱりオチはそんなとこか」

「でも凄い偶然」

「悪運は強いのよねこの人」

「はっはっはっ!任せてくれたまえ!」

いや誉めてない。

 

 

すー…

山崎、コーヒーの香りを楽しむ。

 

 

「それじゃ最後のしつも〜ん」

「…おわり?」

「はいはい、何かしら?」

「2人は一体どうやって出会ったんですか〜?全然接点が見えないんだけですけど〜?」

「…ユキナちゃん、何気に凄いこと聞くわね」

「へへへ〜」

「…へへへ?」

「別に褒めてないんだけど…」

「いや、気持ちは分かる」

「分かるの!?…まあアンタなら分かるかもね…」

アキトだからな。

「さて、中々いい質問ねユキナちゃん」

「そうなの!?」

「この疑問には私が答えよう」

アキト母を遮り、アキト父が乗り出してきた!

「母さんとの出会い、それは…」

「「「「うんうん」」」」

ユキナに加えてレンナ、アキト、ラピスも混じって出会い話に集中だ。

「ある日、道を歩いていたら突然後ろからバイクで激突されてな?」

「おい…」

「そこからが芽生えたわけだ」

「「何故ーーーーーーーー!?」」

「…なぜ?」

「なるほど。王道だな」

「「いや、ないない」」

「…ないない」

確かにそんな王道は嫌だ。

「うむ。これぞ正に愛の奇跡!」

「そうね!愛は永遠に不滅ねアナタ!」

周りを無視して2人の世界に浸る父と母。

「頼むから滅んでくれそんなもん。いやマジで

流石のアキトもあのラヴラヴな世界は勘弁のようだ。

 

 

 

「はっ!そ、そうだ。あの、ヤマサキ博士」

九十九、やっと復活。

「ん〜?なんだい白鳥君」

「その…私達をここへ呼び寄せた理由は…?」

「あ〜そうだったね…でも何だかそんな事どうでもよくなっちゃったね〜」

「…まあそうですね」

確かにあんな光景ずっと見てたら多少の事はどうでもよくなる。

「いや〜すみません山崎博士。お馬鹿さんばっかりで…」

「何言ってんだ親父。10年前にシャトルの事故で勝手に行方不明になったお馬鹿さんは一体誰だ?」

「何!?なんて言い草だアキト!そんな風に育てた覚えはないぞ!」

「やかましい!10年もほったらかしにしておいて痛そうだぞ!」

痛いのか?

「何を言うか!俺は放任主義なだけだ!」

「ならば良し!」

いいのか!?

「だがなぁ親父。お陰で散々苦労したんだぞ?」

「まあその事については謝んない

「謝んねーのか!?…まあいいか。それで、あの後色々あってな〜…あ、そうそう、そういやスカに会ったぞ?」

「スカ?誰だそれは?」

「ほらミスマル家の…」

「む?ミスマル家?…なんだか懐かしいような腹立たしいような…何だったか…?」

「親父忘れたのか?ほら、よくじゃれあってた近所の…」

「ああ、覚えてる覚えてる。アレだろ?何かやたら騒音撒き散らす生き物

言い得て妙である。

「あら、懐かしいわね〜コウイチロウさんお元気?」

「さあ?別に会わなかったし。オレが会ったのは娘の方だけだからな」

「そう、でもユリカちゃんが元気ならきっとお父様もお元気ね」

「いや甘いぞ母さん。アイツの事だ、きっと騒音公害という重罪を犯して今頃塀の中だろう。軽く6時間は出て来れないだろうな」

いや、重罪にしては軽すぎる。

「はいはい、お話はそこまでにして頂いて、奥さん」

「はい、何ですか山崎博士?」

「ええ、ちょっとそのサイドカー表に出してくれません?お掃除したいんですけど」

「あらあらごめんなさい。それじゃ…よっと」

 

ドゥルン!

 

エンジン音が室内に響く。

「ん〜何時聞いてもいい音ね〜」

「そうだな〜自分達で作ったから余計にだな」

「そうね〜」

「ほお、親父達が作ったのか?」

「ああ、骨組みからエンジンから全てだ。だがぁ、悔やむ点も有るんだよ」

大した技術力である。

「へえ、珍しいな。親父と母さんが作るものに欠点が有るなんて」

「違うのよアキト。欠点が有るわけじゃないの」

「何?じゃあ何だ?悔やむ事って?」

「ああ、実はな…」

「「「「「「うんうん」」」」」」

何時の間にかアキトに加えてレンナ、ユキナ、ラピス、九十九、山崎も聞きいっている。

しかし山崎、お前話止めたんじゃなかったのか?

「エンジンの事なんだがな?今は普通のニトロなエンジン積んでるが…」

「ニトロって普通か?」

「「「「「さあ?」」」」」

どの程度が普通か分からん。

「本当は相転移エンジンのせたかったんだよ!」

「「「のせるなーーーーーっ!!!!!」」」

「なるほど」

何故か納得しているのはアキトだ。

「…それって凄いの?」

「うん、凄いね」

で、ラピスの疑問にきっちり答えてるのは山崎だ。

「そうよね〜よね〜」

「そうだな、だよな」

ですか〜いいですね〜」

その凄まじい夢に関心しているのも山崎だ。

こういうのが好きなのだろうか?

「それで見事完成した暁には…はい、という訳で今日ご紹介するのはこの『相転移エンジン搭載バイク』!

その名も『火下蘇裏』!

モデルは約200年近く前にあったモンスターバイクですが中身は別物!

スピードは軽く音速を超え、最高速は…な、なんとマッハ7.5!

燃料は勿論不要!半永久的に動きつづけます!

そしてディストーション・フィールドを装備している為事故も平気!

何気に体当たりかましたら立派な武器です!

果てはグラビティーブラストまで撃てちゃうかもしれないこのバイク!

これにレールガンもつけてなんといちきゅっぱ!

今ならカタパルトで射出もサービスします!

どうですかお客さん!?」

「んまぁー!お聞きになりましたザマスか奥様!?なんてお安い!」

乗るなよアキト。

ちなみに『火下蘇裏』は『ひげそり』と読む。

「…ってな事やりたかったんだよなぁ」

「いえ、テンカワさん。それはもうバイクじゃないです」

レンナ、思わずツッコミをいれる。

「しかし親父、何で作れなかったんだ?2人の技術力なら出来ない事もないだろうに」

「ああ、実は研究資金が底をついてしまってなぁ」

「そうね、後ちょっとだったのに」

後ちょっとで出来たのか!?

「うむ、もう少し金が…あ、思い出した!」

「ん?どうした父さん?」

「アキト、今までにお前に貸した金、全部返せ」

アキト父、突然取立屋である。

「は?貸した?いつ?」

「あほ。お前が生まれてから今まで小遣いと名のついたローンを組んでやっただろう?折角会えたんだ、耳揃えて今返せ」

「ちょっと待てや!なんだそりゃ!?普通自分の息子に金貸すか!?しかも悪徳っぽいぞ!」

いや、十分悪徳である。

「黙れ!俺は例え自分の息子だろうが絶対に金はタダではやらん!タダよりタダなモノは無いというだろうが!」

「ぬう…痒いところを…」

痒いのか?

「よし、納得したな?じゃあ返せ」

「お、お見逃しくだせえ親分さん!家には腹を空かせた妻と子供がいるんでさぁ!」

「…おまえは独身だろうが。大体だれが親分だ」

「ぬ!?何故分かった親父!」

「お前が結婚してたら世界が終わるわ」

「「「確かに」」」

アキト母、レンナ、ユキナもアキト父に同意した。

 

「…そりゃ酷いっす」

で、落ち込むアキト。

 

「…そうなの?ユキナ」

「大人の世界は難しいのよ」

むしろ難解だ。

 

 

「だがやっぱり無理かなぁ」

まだ言うかアキト父。

「そうねぇ…残念ねぇ…成功してたら大儲けだったのにね〜」

「…それで?成功したらどうなるの?パパ、ママ」

「ん?そうだなぁ…軽く国でも買ってみるか?」

「アナタ、幾らなんでも国は大きいわよ。せめて星くらいにしなきゃ」

「はっはっはっ!もっと大きくなってるぞ母さ…ん?」

「どうしたアキト?扇風機みたいな顔して?」

どんな顔だ。

「いや、何か今父さんと母さんの事を『パパ』、『ママ』って呼んだヤツが居たような…お?何だラピU?」

アキトが振り向けば袖をくいくい引っ張っているラピスの姿。

「…アキト、それ私」

「何だ、ラピUが犯人か。驚かせやがって…え?」

「…私、犯人?」

「いや、ちょっと待て。何でラピUが親父と母さんを『パパ』、『ママ』って呼ぶんだ?」

「あら?言ってなかったかしら?」

「…何がだ母さん。すんごく劇的な予感が…」

劇的なのか。

「ラピスはね、私とお父さんの子供よ?」

「は?」

「つまり私と母さんの愛の結晶というわけだな」

「ひ?」

「そうね。愛の奇跡ね」

「ふ?」

「ああ、そんな愛の奇跡を2つも…幸せだな母さん」

「へ?」

「ええ、本当に。ア・ナ・タ

「ほ?」

アキト、劇的だったのか喋れなくなっている。

「母さん…」

「アナタ…」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

良い雰囲気を漂わせている所を復活したアキトが止めに入る。

「何だアキト?良い所で…」

「そうよアキト。一体何?」

「今、ラピUが親父と母さんの子供って言ったよな?」

「そうだな」

「そうね」

「じゃ、じゃあラピUってオレの…?」

「うむ、だな」

「ええ、アキトのね」

「ぬわにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

「「「うそーーーーーっ!!!!?」」」

「おやおや、それはまた」

衝撃の事実である。

アキト、そして他の面々も驚愕の表情だ。

山崎はのほほんとしていたが。

「が、ぐ、ぼ、べ、い、こ、ど?」

「人間語喋れアキト」

アキト混乱中である。

「…ママ、私アキトの妹?」

「そうよ。だからアキトはラピスのお兄さん」

「…お兄さん」

「そうよ

ラピス、ちょっぴり嬉しそうである。

「ラピスちゃん」

「…レン、何?」

「苦労するだろうけど頑張って。それにいつでも相談に乗るからね」

「…がんばる?」

「うん。私も応援するよラピス」

「…ユキナ、応援するの?」

「よし、テンカワ君へのお兄さんの心得は私が伝授しよう。伊達に妹を持っているわけではない!任せてくれたまえラピス君!」

「…心得?」

「はっはっはっ、まあ陰ながら見守らせてもらうよ〜」

「…見守る?」

何だか一気に同情ムードだ。

無理もないが。

 

「…?」

ラピスは突然応援されて困り顔である。

 

 

「うっ…うっ…酷い…酷いや…オレをほっぽといて3人で神経衰弱やってるなんて…」

新事実を知ったアキト、たそがれ中である。

だが神経衰弱やってたなんて誰が言ったのだろうか?

「あ〜もう!うっとぉしい!んなことで泣くな!」

父、逆ギレである。

「フゥー!」

「フゥー!」

「…猫かあんた等は」

さり気にツッコミを入れてみるレンナ。

「ん?そうか。じゃあ…ヌッホァー!!

「ぬ?そう来たか、ならば!…ンジュヴォー!!

「一体何よそれーっ!?」

「あ、あれも家の方言よ」

「あれも!?」

テンカワ家、つくづく謎である。

「ちなみに訳すと、『今日は他人的にいい天気だなぁ』『そうだな、海老天丼だな』よ」

「意味分かんないーっ!」

レンナ苦悩する。

「大丈夫よ。ちゃんと教えてあげるから♪」

「別に知りたくないです!」

「あらあら、じゃあレッスン1!

「人の話聞いてない上にもう教えようとしてるーっ!?」

流石はアキトの母である。

「はい、『ホッジュグベヴェゥギョジェアゥー』さあ、復唱!」

「それ人間の言葉ですかーっ!?」

力の限りツッコミを入れるレンナ。

だが、

「「ホッジュグベヴェゥギョジェアゥー」」

「そうそう、上手いわよ2人とも」

「そう?さっすが私!」

「…誉められた」

「何で言えるのーっ!?」

何気にマスターしそうなユキナとラピスだった。

「ちなみに訳は『足』よ」

「普通に言った方が早いし!」

あれだけ言う意味はあるのだろうか?

「おーなるほどー」

「…メモメモ」

「何で納得してんの2人共!?」

マスターの道、近し。

「ぬう、奥が深いなテンカワ語」

「そうだねぇ、もしかしたら世界の共通語になっちゃうかもね〜」

「なってたまるかーっ!!!」

何時の間にかテンカワ家の方言は1つの言葉に昇格した。

しかしレンナ、ツッコミに大忙しである。

 

 

「ズンボグウェルバー!」(ああ平和だ!ちなみにピンフではないぞ?…スキあり!三角定規地獄突き!)

「グッツルルンヴォ!!」(むむ、やるな!…ならばクリップ乱れ撃ち!お次は画鋲ブーメラン!!)

…だがこれを理解できたらある意味終わりだろう。

 

 


「分かった。俺も子供じゃないんだ、そこは理解しよう」

「突然立ち直ったな」

どうやら方言タイム終了のようだ。

「まあ、これからのワールドを支える俺としてはこれ位なんでもない」

「ほざけ。それにさっき泣いてたじゃないかお前」

「うむ未来系ですな」

「分かるのか!?しかも未来系ってなんですか山崎博士!?」

「はっはっはっ、それはテンカワ博士が1番ご存知でしょう?」

「それもそうか」

納得するのか!?

「そういえば…」

「ん?なんです山崎博士?」

「いえ、ラピスさんですが、テンカワ博士の娘さんなのに何故名前が『ラピス・ラズリ』なのかと…」

「あ、それ私も思ってた〜」

「そういえばそうね」

「ふむ、確かにそうですな」

山崎の疑問に便乗して他の面々もアキト父に質問攻めだ。

「ああ、その事か『ラピス・ラズリ』って名はな?」

「「「「「…ゴクリ」」」」」

緊張の一瞬だ。

「ペンネームだ」

「「「「「ペンネーム!?」」」」」

「いい感じだろ?幸運宝石ラピス・ラズリ、ん〜我ながらナイスネーミング」

自分に浸るアキト父。

「…で、本名は何だ親父?」

「それは言えない」

「何故!?」

「時間が止まってもいいのか?」

「どんな名前なんだよ…」

謎は深まるばかりである

 

「…ぺんねーむ?」

だが当のラピスは周りの出来事をさっぱり理解していなかった。

 

 

「ま、まあ今はその事は置いておきましょう。それでラピスさん?」

「…何?」

いち早く立ち直った山崎がラピスに問いかける。

「何故ここを出て行ったのですか?」

「…え〜と」

「それにここの警備はかなり厳重です。そうやすやすと出られる訳が無いのですが?」

厳重な割にはかくれんぼで忍び込まれていたような…。

「その疑問にはこのユキナちゃんが答えましょう!」

ユキナ、割り込む。

「ほお、それではユキナさん、あなたはラピスがどうやってここを抜け出したのかご存知で?」

「もっちろん!だって連れ出したの私だもん!」

「…なんですと?」

「私がラピスを連れ出したの!」

「あ、アナタがですか?」

「そう!」

山崎、びっくりである。

「し、しかしどうやって?」

「かーんたん!ちょっと変装したらもうバッチリ!」

「変装?」

「そう!ツナギ着て、帽子かぶって、マスクすればもう完璧!一発で清掃業者さんの出来上がり!」

ユキナ、何気に変装のアビリティを取得しているようだ。

「…はっ!もしかしてラピスが居なくなった日に来てたヤケに小さな清掃員…それが君か!」

今度はアキト父、びっくり。

「イエス!」

「な、なるほど、これは盲点。そういえば、最初は1人だったのに帰りは2人になっていたような…」

「怪しめやアンタは」

またもさり気にツッコミを入れてみるレンナだった。

「しかしどういうつもりです?ラピスの重要性は知ってるでしょう?」

「そうだぞユキナちゃん。可愛い娘が居なくなってもうおじさん眠くて眠くて」

「寝ないの

 

ごりごりごり…

 

「…か、母さん。サイドカーで踏まないで、頼むから、つ、潰れる…」

「それでユキナちゃん?どうしてラピスを連れ出したの?」

「え〜だってラピスが外で遊んでるとこ見た事なかったから、もしかしたら閉じ込められてるんじゃないかと思って連れ出してあげたの」

「あらあら、そうだったの」

「いや、奥さん、そうだったので片付けられては困るのですが…」

「まあまあ山崎博士。確かに過剰に溺愛するあまり一歩も外に出さなかったのは拙いですよね」

「いえ、出さなかったのはそういう理由じゃなくて…」

「そうよね〜情操教育には外で遊ぶのも必要よね〜、よし、分かったわ!ラピス?これからは外で思いっきり遊んでもいいわよ?」

「いやそんな勝手に…」

「ホント?ママ」

「勿論!」

「…うれしい」

「…聞いてくださいよ」

「良かったねーラピス!」

「…うん」

ラピス、満足そうである。

山崎はすっかり無視されていたが。

「あの、アンリさん、いいですか?」

「はい、何かしらレンナちゃん?」

「ちょっとした疑問なんですけど…ラピスちゃんって特別な子って聞いたんですが、どの辺が特別なんですか?」

「ん〜そうね〜それほど特別ってわけじゃないけど、ちょっと遺伝子操作しているのよ」

「遺伝子操作?何でまた?」

「木連はね、見た目より結構過酷な環境なのよ。それでその環境を生き抜く為に、ね?」

「そうだったんですか。すみません余計な事を聞いてしまって…」

「全くだベン子!少しは遠慮をせんか!…ばりばり

突然割り込んだアキト。

だがその本人は寝っこ転がって、座布団を枕にして、せんべいをかじっていたりする。

「「「「「お前が1番遠慮せんかーっ!!!!」」」」」

 

 

ごげどべぎょ!!!!!

 

 

ぷちっ

 

…ぺこっ

 

 

「…ぐぇ」

アキト、総ツッコミに倒れる。

トドメは勿論、アキト母のバイクプレスとラピスのデコピンだ。

「こいつは全く…」

「信じられないね」

「礼儀がなってないぞテンカワ君!」

「すみません山崎博士、家の子が…」

「いえいえ、いいですよ。ははは…さて、それではみなさん。今日はもう遅いですからここにお泊りください。話は翌日にしましょうか」

「あら、そうですか?すみません山崎博士」

「やったー!また一緒に寝ようねレン、ラピス!」

「そうね♪」

「…うん」

「またそんな…ユキナぁ〜正常に戻ってくれぇ〜」

平和である。

 

 

 

「「「…」」」

で、バイクに潰された面々(アキト、アキト父、元一朗)はそのまま放置されたとか。

合掌。

 

 

 

 

 

 

そして、真夜中。

 

 

 

ぷるるる…かちゃっ

「あ、草壁さんですか?ええ山崎です。え?違いますよ〜ヤマザキじゃなくてヤマサキです。

それじゃどっかのパン作ってるとこみたいじゃないですか〜ははは

そうそう、なまらないでヤ・マ・サ・キです。いい加減覚えてくださいよ〜

え?忙しくてそんな暇ない?名前覚えるだけじゃないですか〜もう仕方ないな〜

じゃあ苗字じゃなくて名前で呼ぶ?ええ、それでも構いませんよ。

は?ヨシオだからヨッシーと呼んでいいかって?

それはダメです。それじゃどっかのゲームに出てくるキャラみたいじゃないですか〜絶対に却下ですよ〜?

ケチ?ケチで結構です。

それで?『それで?』じゃないですよ〜捕虜の件でお話があるんですが…

そう、あの件ですよ。予定通り捕虜2名をこちらで預かっていますよ。

ラピスも無事帰ってきましたし…まあオマケも沢山付いてきちゃいましたが…あ、こっちの話です。

は?何処のこっち?探しに行く?そういういらんボケは必要ないですってば〜ははは

え?イランの首都はテヘラン?なんでそんな事知ってるんですか草壁さん?

うんうん、分かってますよ〜勿論彼らは客ではなく捕虜ですからね〜扱いも考えてますよ〜

へ?自分は冷やの方が好き?何言ってんですか、熱燗じゃなくて扱いです。

分かってる?…もう話進まないなぁ〜ははは…

ん?ええ、そうですね。そちらで保護した老軍人さんはお任せしますよ。

流石に軍事面の事は管轄外ですからね〜だからこっちの事は…

え?心配?そんなに心配しなくても大丈夫ですよ〜

信用出来ない?ま、まあラピスを連れ出されたのには流石に参りましたがちゃんと戻ってきましたし…

普通、本来居もしない清掃員を見落とすかって?…あ〜まあそれはアレですよ

ほら良く言うじゃないですか、モアイが転がっても可笑しい年頃って。

え?違うような気がする?…まあそこは流しましょうよ。

はいはい、大丈夫ですよ。それに彼らにはここを出る術は無いんですから心配いりませんよ。

余計心配?…もう心配性ですねぇ、ストレス溜まりますよ?それじゃ今度、特別な健康診断を…え?要らない?遠慮しなくてもいいのに…

あ、そうそう。それとですね面白い事が分かりましたよ。

え?何かって?ふふふ…それはですね〜なんと捕虜のうちの1人がテンカワ夫妻の息子だったんですよ。

ええ本当ですよ。当人達に面識ありましたしDNA結果もバッチリです。

は?じゃあ、あの親父と似た奴が増えたのかって?…まあご想像にお任せします。

え?ん〜そうですねぇ、ラピスだけでも大丈夫かとは思いますが…ええ分かりました。

それじゃ詳細はその内報告に行きますよ。ええ、ええ、ではそんな感じで…」

 

ちんっ

 

「ん〜明日が楽しみですね〜…でも何だか疲れちゃったな〜…よし、じゃあ軽く…」

「軽く…なんだ?器械体操か?俺の得意なやつはマラカスだがイカサマ衣装は何が得意だ?」

突然アキトが現れた!

「おや?アキト君じゃないですか、一体何処から沸いてきたんですか?」

だが山崎は動じなかった!

「ああ、ちょっとそこの水槽から…」

「ボウフラですか君は?」

「ん〜惜しい!実はホモ・サピエンスな生態だ」

「何処が惜しいんですか〜?」

「何となく似てないか?」

「全然」

「そうか…残念だ」

「ん?ちょっと待ってください?アナタさっき私の事をなんて呼びました?」

「あ?イカサマ衣装だがそれが何か?」

「何ですかそりゃ〜ははははははは」

その晩、山崎の笑いが木霊したとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキト…いや山崎の運命はどっちだ!?続くような続かないような思わなくも無きにしも非ず。

 

あとがきです。

こんにちは、彼の狽ナす。

いささか先生いささかやり過ぎ…じゃなくて(爆)

いささか過剰放送(?)な今回、如何だったでしょうか?

色々設定紹介を加えて書いたら、もうなんだか暴走しっぱなし(汗)

バイク集団の謎は深まるわ、

テンカワ夫妻の衝撃の出会いは明かされるわ、

元一朗は不幸だわ、

レンナはツッコミに大忙しだわ、

謎の言葉は飛び交うわ、

ユキナは変装名人(?)だわ、

山崎はマイペースでのほほんで中間管理職だわ、

アキトは…いつも道理か(笑)

………………

……………

…………

………

……

…で、ラピス。

 

 

すみません!

 

 

うちのラピス、将来が1番心配な娘さんになってしまいました!

ファンの方申し訳ないです!!(滝汗)

 

しかし、もう後戻りは出来ない!

 

そんな訳で次回から木連編いよいよ佳境です!

…え?あの人がまだ出てないのにもう佳境なのかって?

………………………………

………………え〜と、まあなんとかします!

 

それではここまで読んで下さった方、そして感想を下さった方々に感謝をしつつ次回へ!

では〜

 

 

 

…あ、そういえばラピスにアキトの事どう呼ばせよう?

『お兄ちゃん』が妥当なんだろうけど、それだとユキナとかぶるし…う〜ん(汗)

 

 

 

代理人の突っ込み

・・・・あれの妹であれらの娘?

いいのか?

それでいいのかっ!?

 

将来、

「ハーリー・・・・よし、今日からお前はハマキだ!」

とか、

「お兄さん、内助の功を現金換算して締めて56億7千万クレジット、今すぐ耳揃えて返して貰おうか」

とか、

「私はアキトの目、アキトの耳、アキトの手、アキトの電信柱、アキトの青い空、アキトのポスト、アキトの瞬殺湯沸かし式ポールポジションッ!」

とかゆー娘になってしまってもそれでいいとっ!?

 

 

>「…よく分かるねレン」

>「まあなんとなくね」

 

・・・・人間の適応能力って、素晴らしいなぁ。