「静かね〜」

「静かだね〜」

「…静か」

「…」

 

まったり、のんびりと遊覧気分なレンナ、ユキナ、ラピス…そしてお約束で何時もどうり屍中のアキト。

 

あの後からくも木連を逃げ出し地球に向かっている最中なのだが、悲壮感はまるで無しのようだ。

 

「でもさレン」

「ん?何ユキナちゃん」

「この船さ」

「うん」

「スピード出し過ぎじゃない?」

「……………私もひたすらそう思ってたとこ」

「だよね」

「早い」

そう、木連を出てからまだ3ヶ月経らずなのにもう火星圏まで到着しそうなのだ。

勿論チューリップは使っていない。

木星から火星の距離は地球、火星間の約10倍もある。

ナデシコでさえ地球から火星まで行くのに1ヶ月強掛かったのにも関わらずだ。

恐ろしい限りである。

「…一体どんな改造施してんだか」

「それは知らない方がいいと思うよ?たぶん後悔するから」

「…そうね」

「……………あ」

ふと、ラピスが何かに気付いたのか声を上げた。

「どうしたのラピス、何か見えた?」

「うん、あれ…」

ラピスが外を指差した瞬間。

 

がづんっ!!!

 

「「「うきゃぁ!!?」」」

「…ぐが?」

突然の衝突音。

どうやら何かにぶつかったようだ。

だが船は止まらずそのまま爆進である。

 

「い、今の揺れ何?」

「なんかぶつかったみたいだったけど隕石か何かかな?」

「アレって…」

どうやらラピス、ぶつかった物体に見覚えがあるようだ。

 

「…ん〜…すぃ〜…」

アキト、屍中かと思いきやただ寝ているだけのようである。

 

 

 

 

で、そのぶつかった物体内部では…

 

「ぬわあああああぁぁぁぁっ!!!!?な、何事だあああああああぁぁぁっ!!!?」

「わ、分かりませーんっ!!何か物凄く早い物体が衝突したようですーっ!!」

「ぬがぁぁぁぁっ!!め、目が回るううううぅぅぅっ!!!」

「…うう…おええええぇぇぇぇっ…」

「おわああああああぁぁぁぁっ!?か、艦長が吐いたぞーっ!!

だ、誰か洗面器持ってこーいっ!!!」

乗組員が大混乱の地獄絵図を繰り広げていた。

 

 

 

 

当て逃げされた『かんなづき』であった。


 

 

 

 

 

 

 

 

伝説の3号機

その26

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばユキナちゃん」

「ん?何、レン?」

「今更だけどさ、着いてきて良かったの?」

本当に今更である。

「…まあ、ね」

「ユキナ?」

「ん、大丈夫だよラピス。どうせあのまま木連に残っても捕まっちゃうだろうし、その後どうなるか分からないし…

でもなによりラピスの事が気がかりだったからね。なでなで…」

ユキナ、そう言いながら笑顔でラピスの頭を撫でる。

「ユキナちゃん…」

「ユキナ…私、ユキナが一緒でうれしい」

「うん、私もだよ」

「仲良き事は満点のシラス干し」

アキト、起床。

「素直に良い事だって言いなさいよあんたは…って寝言かい!」

「ぐ〜…」

してなかった。

「はぁ…でもユキナちゃん、すっかりラピスちゃんのお姉さんだね」

「へへへ〜…ぽりぽり」

ユキナ、頬をかきながら照れまくる。

 

ぼーんぼーん…

突如クラシックな時計の音が鳴り響いた。

趣味だろうか?

ぼーんぼーん…

「ん?もうすぐ昼の時間ね」

ぼーんぼーん…

「あ、そういえば。え〜と今日の当番は…アキトだね」

どうやら毎日の食事は当番制になっているようだ。

可愛らしい丸文字で壁に当番表と書かれた紙が張ってあり、ユキナ&ラピス→アキト→レンナと書かれている。

ぼーんぼーん…

「あきとおにーちゃん、お昼の準備。起きて」

ゆさゆさとラピスに揺らされるアキト。

ぼーんぼーん…

「…ふぁ〜…おう、おはようラピU!何時もすまんな!」

で、ようやく起床。

何時もどうりのっけからハイテンションである。

ぼーんぼーん…

「うん、大したことない」

「さて、食事の支度だな?任せておけ!今日は亡き親父と母さんを弔って御法度風味の海鮮料理にしよう!」

どうやらアキトの中でテンカワ夫妻は既にあの世の人になっているようだ。

 

どどごぉ!!

 

…こつんっ

 

「「縁起でもない事言うな!!」」

ぼーんぼーん…

「…パパとママ、死んでない」

きっついツッコミ炸裂である。

今回のラピスのトドメはトーキックだ。

ぼーんぼーん…

「…ぶび…」

アキト、再び散る。

 

 

ぼーんぼーん…

「「つーかうるさい!!!」」

 

ごしゃっ!!

 

ぼ……

 

時計も散る。

 

「…これで62台目」

そんなに壊してたのか。

というよりそんなに時計を何処から持ってくるのだろうか?

謎の多い船である。

 

 

 

 

 

 

 

 

ざっぱあああぁぁぁん!

「う〜ん、気持ちいいねー」

「地球の海ってキレイなんだね〜」

「…真っ青」

何故か突然、漁船に乗って釣りに出ている女性陣。

というよりここ宇宙じゃなかったのか?

「ご飯が出来るまでたっぷり遊んでお腹空かせないとね」

「うんうん。でもおじさんとおばさんも良いもの作ってくれたよね〜」

「…ごそごそ…餌付け難しい」

実はこの船、娯楽用にバーチャルルームが設置されていたのだ。

そして現在、地球の海に設定し釣りを楽しんでいる、という訳である。

まあ何ヶ月もの間の航海に備えての事なのだろうが。

至れり尽くせりだ。

くいくい…

「あ、ラピスちゃん引いてるよ!」

「ラピスがんばれーっ!」

「がんばる…う〜……えいっ」

 

ばっしゃああぁぁぁぁっん!!

 

ぴちぴち…!

「「…」」

釣り上げた魚を見て沈黙するレンナとユキナ。

「…あきとおにーちゃん?」

なんとラピスはアキトを釣り上げた!

「じゃあ早速さばこうか!」

「おー!」

「お刺身?」

「ぴちぴち…って待たんかー!!

「何よ魚なアキト」

「何?ぴちぴちアキト」

「何?お刺身(予定)あきとおにーちゃん」

何故か魚の着ぐるみを着たアキト、必死に抵抗である。

「何じゃない!折角メシが出来たから持ってきたのに突然釣り上げられて、さばかれるなんて聞いてないぞ!?」

まあ着ぐるみを着ている時点で何を言っても無駄であろう。

「何言ってんの、釣ったら即さばく。常識じゃない」

「そうそう、新鮮な内にさばかないとね」

「…お醤油準備OK」

食べる気満々だ。

「それじゃあ行きまーす♪」

「おーっ」

「…わさび苦手」

いやあああああぁぁぁっ!…あ、せめて活け作りで。出来たら船盛りがいいな」

アキトよ、それでいいのか?

 

 

 

 

…と、言う訳で。

 

 

 

 

「レンナ!」

「ユキナ!」

「ラピスの」

「「「3分クッキング〜♪」」」

 

何故か調理番組が始まった。

 

 

「はい、そんな訳で今回のお料理は新鮮なお魚を使ったお刺身とフライに挑戦でーす」

「「おーっ…ぱちぱちぱち」」

ぴちぴち…!

「むがむが…」

アキトは只今まな板の上である。

「それではまず、三枚におろしてみましょう!今回のチャレンジャーは…ユキナちゃんです!」

「はい!がんばります!!」

「ユキナ、ガンバ」

ぴちぴち…!

「むぐむぐ…!!」

で、アキトは口をふさがれながら必死の抵抗中。

ギラリッ

「ふっふっふっ、今宵の刃は特に飢えておるわ…ぺろり」

ユキナ、イった目をしながら包丁を舌で舐めつつお魚アキトに歩み寄る。

「…ユキナちゃん、それ違う」

「包丁、凄い光ってる」

どんな包丁だ。

「え?ダメ?」

「…まあいいか」

「…いいか」

いいのか?

 

ぴちぴちぴち…!

「むがぁーっ!むぐむぐ…!」

アキト、ピンチ!

 

「………おおっと、申し訳ありません。そろそろ時間が差し迫って参りました」

「大変良い所でしたがそろそろシメに入りたいと思います」

「…ここに既に調理済の物があります」

あんのかい。

 

「では、早速いただきましょう」

「「いただきま〜す」」

で、食うのか。

 

 

ぴちぴちぴちぴち…!

「むがむぐむぎぃーっ」(それはオレが作ったもんだろうがーっ)

 

お魚アキト、間一髪助かったがそのまま放置される。

このままでは干物だ。

 

 

 

「あ、でもさ」

「ん?何、ユキナちゃん」

「うん、折角バーチャルルームに居るんだし気分転換に場所変えてみない?」

「…賛成」

ここのバーチャルルーム、ナデシコの物とは違い特製のメットをかぶらなくても周りの景色のみを変化させる事も可能なのである。

まあバーチャルルームと展望室が合体したようなものだ。

「そうだね、よし設定変えてみようか」

ピッピッピッ…

レンナが操作を行い次に現れた景色は…

 

 

 

 

ずざあああああぁぁぁぁっ!!!!

 

 

 

 

雨だった。

 

 

 

「いい天気だな」

「…ホント、清々しいくらいの土砂降りね

「前見えない」

「…滝?」

一体何処に設定したのだろうか?

「ねえアキト」

「なんじゃい」

アキトは何時の間にお魚から人間にチェンジしたのだろう?

「私、確か草原に設定した筈なんだけど…」

「ああ」

「何で雨降ってんの?」

「俺が聞きたい。出来れば親切丁寧がモットーな感じで」

「あ、ねえねえここに何か出てるよ?」

「…『この設定を選んだ場合、運が良ければ雨が降ります』?」

ラピスが表示されているウィンドウを読み上げる。

ちなみにそのウィンドウの裏側には『著 テンカワ・ワタリ』と出ていたりする。

「おお、なるほど。運が良かったんだなオレ達」

これは良いと判断出来るのだろうか?

「…何だか力の限り間違っているような」

「レン、私もひたすらそう思うよ…」

「…ご飯どうするの?」

 

当然、中止…

 

「食うか」

「そうね、本当に雨降ってる訳でもないし」

「うん、これはこれで情緒あるような気がするし」

「…でも景色見えない」

 

なんてする訳ない。

図太い神経を所有している面々だった。

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだ。ちょっといいかな?」

「ん〜アキト腕上げたね〜」

「むぐむぐ…」

「むぅ…今日の出来は枝毛並だな」

レンナの呼びかけ無視される。

「い・い・か・な?」

「「「なんでしょう?」」」

この時、レンナの手にはイイ感じに光っているナイフが握られていたとか。

「え〜とね?ずっと先送りになってたけど今後の事についてちゃんと話しておこうかと思うの」

「うん、そうだね。一応自動走行で地球に向かってるみたいだけど、あっちに知り合いなんていないし」

「私も…」

「うむ。困ったな」

「…アキト、あんたは少なくともあっちに知り合いの1人や2頭3匹は居るでしょうが」

アキトの知り合いは人間より動物の方が多いのだろうか?

「あ、そうか。アキト、地球から来たんだっけ」

「あきとおにーちゃん、知り合い居る?」

「おお、そういえばそうだった!知り合いか…そうだな…あれは忘れもしない…え〜と…誰だったかな?」

「もう忘れてんじゃない」

「アキト、忘れっぽい」

「あきとおにーちゃん、物覚え悪い」

「…いやさ、そこはね、ほら、軽くフォロー入れるとかしてくれないとオレとしても今後の対策とか心構えとかが取れない訳よ。

だからね?もうちょっと協力的になってくれないかな?ね?お兄さんのお願いだ!」

アキト、レンナ達の冷めた返しに慌てる。

「「はぁ…なんて言うか――無様ね」」

「…無様」

「いや、あの、もうホント、勘弁してくださいその目。今すぐ思い出しますから。この通り!」

皆の視線が物凄くつらい、アキトであった。

 

 

「そうそう。ユキナちゃん、ラピスちゃん」

「ん、何?」

「…何?」

「う〜ん、う〜ん」

アキト、必死に記憶の閲覧中。

「これは相談…いや、お願いかな?地球に着いたら木連の事は黙っておいてほしいの」

「え?何で?」

「…何で?」

「ほら、ユキナちゃんも知ってるでしょ?地球や火星の人たちは木連の存在を知らないって」

「うん、それは知ってるけど…」

「…知ってる」

「それを『私達は木星から来た人間だ』なんて言ったらどんな目で見られるか分からないし、

それにもし事情を知っている人間に目を付けられたりしたらやっかいだしね」

「あ〜そうか〜」

「…なるほど」

「分かってくれた?」

「うん、分かったよ。…あ、じゃあ私達って何処の人間って言ったらいいのかな?」

「…自己紹介の時、困る」

「あ〜そうね〜…じゃあ私と一緒で火星の難民って事にしておけばどうかな?」

「う〜ん、それもいいかもしれないど…レンは身元が一応ハッキリしてるから怪しまれないとは思うし、

それにラピスもアキトの妹って事で通じるだろうし…」

「…ユキナ、私も怪しまれるような気がする」

「ま、まあ確かに。ワタリさんとアンリさんって本来死んでた人だからね」

あの夫婦はそう簡単に死にはしまい。

「む〜…やっぱり難民って事で大丈夫かなぁ〜?でも何だかありきたりかな〜

何かこうインパクトがある紹介の方が意外と信じやすいかも…」

「…衝撃?」

「へ〜じゃあ一体どうするの?」

「ん〜……………ん?なんだか今、物凄く大事な事が頭の中を過ぎったような…」

「ユキナ、どうしたの?」

突然何かを考え出すユキナ。

「う〜ん、なんだかとっても重要な事を忘れているような…そしてそれは私の将来に直結していたような…」

「ユキナちゃん?」

「あ!」

思い出したのか『ぽむっ』と手を叩き、目が爛々とするユキナ。

「思い出したの?」

「ユキナ?」

だがユキナはレンナとラピスを無視してアキトに詰め寄った。

「アキト!」

「なんでぃ、お嬢ちゃん。おらぁ今、自分の記憶捜査で忙しいんだがぁ」

アキト、何時からおっさんになった。

「あんた、お兄ちゃんに私の事任されてたよね!」

「…月臣も任せるって言ってた」

「任せるって…確か滅茶苦茶くだらない理由だったような気がするけど…」

アレだしな。

「そういえばそうだったような、そうであったような、やっぱりそうか」

「…とにかく任されたでしょ!」

「おう」

「よし…ジロジロ」

「な、なんだ?そんなに見つめたら穴開いちゃうじゃないか。もっと見ろ!

穴開けたいのか?

「ん〜顔はまあ普通。性格、多々問題アリだけど別に悪人じゃない。地球人、いや火星人で少し抵抗あるけど別に敵じゃない。

更に一応家事全般こなせるから家事分担できてとっても楽。なにより料理が出来るのが良し。それにラピスの事も…」

ユキナ、何故か品定め中。

「あの、ユキナちゃん?どうしたの?」

「ユキナ?」

「…よし!アキト!」

「何だ兄色リス!おやつは食後だぞ!」

だがユキナはアキトの発言など無視し、とんでもないことをのたまった!

 

「ふつつか者ですが、これから末永くよろしく。ぺこりっ」

 

「は?」

「ゆ、ユキナちゃん?」

「ユキナ?」

突然の発言に固まる一同。

「どしたのみんな?」

「…あの、ユキナちゃん?その末永くよろしくって…なんで?」

 

 

「え?だって、アキトと私って結婚するんでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「……………………何?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続けて出た結婚発言に、全員思考が麻痺したようだ。

「だから結婚して夫婦になるの!…ん?若夫婦かな?」

「…な、何故?」

「ユキナ、あきとおにーちゃんと結婚するの?」

それっていいのか?

「ほら、さっきも言ったけどアキトってお兄ちゃんに私の事、任されたでしょ?」

「いやまあ、確かにそうだけど…」

「うん、間違いない」

アレね。

「じゃあいいじゃない」

「待って待って!どうして突然結婚まで行き着くの?アキトが一時的に面倒を見るだけでしょう?」

「うん。私も面倒みてもらう」

アキトに任せて大丈夫か?

「それじゃあ面白くない!」

「それが理由!?」

「面白い方がいいの?」

なんだかアキトっぽい発言だな。

「なによりあんなお兄ちゃんの所になんか帰りたくない!」

「そこは同意できる」

「うん」

アレだからな。

「それにアキト、木連脱出する最中に私の事押し倒したし!

「いや、アレは…」

「レン、どうするの?」

レンナ、冷や汗タラタラである。

「まあ私もアキトの事、変な奴だとは思うけどそんなに嫌いじゃないし!」

「そ、そうなの?」

「ユキナ、あきとおにーちゃんのこと好き?」

それは意外だ。

「後、結婚すればラピスは正式に私の妹!」

「もしかしてそれが1番の本命?」

「そうなったら嬉しい」

ラピス、本当に嬉しそうである。

「更に自己紹介の時に夫婦って言えばインパクト大!!

「確かにメチャクチャ驚かれるだろうけど…」

「うん、驚く」

変な目で見られるのは間違いないであろう。

「それにさ、何だかんだで私、木連に戻れそうにもないし。だから今の私って完璧に天涯孤独の身でしょ?地球に身内なんて居るわけないし。

こうなったら唯一の知り会いの男で、しかもお兄ちゃんに認められたヤツの所に嫁ぐしかないじゃない!」

「う、う〜ん、まぁそう言われると確かにそうだけど…。それにアイツもそんなユキナちゃんを見捨てるような真似はしないだろうし…」

「私もあきとおにーちゃんと一緒に住むの?」

それはそれで賑やかな家庭になりそうだな。

「で、でもさユキナちゃん。ユキナちゃんまだ12でしょ?結婚は早いと思うけどなぁ〜?」

「うん、まだ早い…と言うより無理」

レンナとラピス、流石に止めに入る。

「ユキナちゃん、あんまり自虐的にならないで。別に自己紹介なんて普通でいいじゃない。

それにほら、白鳥さんもアレが本意だとは限らないわけだし…」

「でも、アレは結構本気っぽかった。しかも即決」

「ら、ラピスちゃん…それを言っちゃあ…」

「もう煩い!じゃあ結婚がダメなら許婚!!とにかくこれは決定!分かった!?…じろり

「「…怖」」

ユキナよ、アキト母の睨みを何時の間に身に付けた?

「何だかもう、どうにも止まらないわね」

「…ユキナ、本気?」

アキト、人生の墓場決定か?

「よし、それじゃあ本人に了承を取って…って、あれ?アキトは?」

「あ、そういえばさっきから一言も喋ってないわね。どうしたのかしら?」

「珍しい」

確かに。

「まさかアイツ逃げたんじゃあ…?」

「敵前逃亡?」

「ラピス、私は敵?まあそれよりアキトは…きょろきょろ…あ、居た!」

ユキナが指差す先にヤツは居た!

「ぬぁぁっ、も、もうダメだ!あぁ、ま、待ってくれっ、今すぐ脱出するから!

メ、メーデーッ!!メーデーッ!!! うがあああああぁぁぁっ!!

待ってくれえええぇぇぇ!!お願いだあああぁぁぁぁぁぁっ!!!

緊急事態ぃぃぃっ!…ミッション開始!!ブースターオン!!!

離脱するぅぅぅぅぅっ!!!行くぞーーーーーーーっ!!!

おおっ!?まだか!!まだなのか!!?まだなのかぁぁぁーっ!!!

精神を強固にぃ!忍耐ぃ!!限界ぃぃっ!まだまだぁぁぁぁっ!!!!

うおおおおおぉぉぉぉっ!?船が!船がヤバイぃぃぃぃぃっ!!

オレはここで朽ちるのかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!? 

通信んんんんんっ!!!!終了ぉぉぉぉっ!!! !!」

アキト、大混乱中。

「すー…」

 

ごげすっ!

 

「ぴっ!?」

ユキナ、イイの決める。

 

「え〜こちらユキナ、どーぞ」

「はいはい、聞こえてます、どーぞ。で、どうしたの?」

アキト大破、どうする?」

「とりあえず、ふん縛っておきなさい」

「任せて!縛るのは得意!!」

得意なのか!?

 

 

「…で、一体どうしろというのだ?」

只今アキト、ロープでぐるぐるに巻かれて蓑虫中。

「だから私とアキトが一緒になるの。分かった?」

「いや、あんまり分かりたくも無いのだがな。兄色リスよ」

「あ、それにその兄色リスっての止めて!私はもうお兄ちゃんは捨てたの!これからは1人の女として生きるんだから!分かった!?…じろっ

「…………いやね?そこは…」

「わかった!?……ギラッ

「…あい」

ユキナ強し。

「良し!それとアンタは男なんだからシャキッっとする!いい!?」

「お、おう」

この辺は木連ならではか?

「よしよし…う〜ん、それじゃあ折角だから愛称で呼び合う方がいいかな?」

「あ、愛称っすか…」

「ん〜…おっ!これなんかどう!?『ダーリン』『ハニー、または『あーちゃん』『ゆーちゃん。どう?いいでしょ!」

「勘弁してください」

アキト、泣き入る。

「あのアキトが圧倒されてる…」

「ユキナ凄い…」

恋?する乙女は強しといった所か?

 

 

 

 

 

 

 

「む!?」

「どうした九十九?」

「いや、何だか今とてつもなく悪い予感が…」

何かを感じ取ったのだろうか?

『きゃぁぁぁぁぁっ!!』

「おお!?な、ナナコさんが!」

「何!?どうした元一朗!」

ナナコさんの言葉を聞くや否や再び座り直す九十九。

2人が見ているのは勿論ゲキガンガーである。

「おおお、やはりこのシーンは外せんな」

「ああ、だが他にも見所が満載でどこから手をつけたらいいものか…」

この2人、先の事件で失態を演じ、只今処分をかせられている最中である。

その処分とは…

「くぅ…やはり全39話を原稿用紙5枚にまとめるのはつらいな」

「だがナナコさんだけは外せん!」

「無論だ!!」

そういう事らしい。

いかにも木連ぽい処分だ。

処分かどうかは疑問だが。

 

 

また山崎、北辰、六人衆も同様の処分らしい。

どうなるか見てみたい物である。

 

 

ちなみに名前を書く時はフルネーム以外は却下、更に振り仮名付けなきゃ受け付けん。と言われているらしい。

 

この処罰を出した人物がもろわかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ユキナの暴走はまだ続く。

 

「あ、『ダーリン』『ハニーの前に『マイ』付けなきゃね。じゃあ『マイダーリン』『マイハニー。うん、いい感じ!」

「あがががががががが!!!!!」

「ああ!?アキトが大変な事に!」

「あきとおにーちゃん、しっかり」

アキトの弱点発覚。

甘々な言葉と雰囲気に弱い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぬはぁ!?………むぅ…?こ、ここはオレの部屋?…そ、そうか夢だったか。全く、なんつー恐ろしい夢だ。見たやつの顔が見てみたい」

ならば鏡を用意する事をお勧めする。

「さて、寝なおす…ん?なんだこりゃ?」

ふと枕元に無造作に置いてあったメモ用紙を発見し目を通すアキト。

そこにはこう書いてあった。

 

『アキト、結局ユキナちゃんの許婚宣言は撤回無理みたい。

仕方ないから飽きるまで付き合ってあげれば?

そんじゃ後は任せた。幸運を祈…らなくてもいいか。

 

                           レンナ(決してベン子と読むな)』

 

「…………………へ?」

今、アキトの時が止まった。

 

ごそごそ……

 

と、そんな時が止まっているアキトの布団に誰かがもぐりこんできた。

「…な、なんだ!?………まさか!……って、ラピU?……に……………………………………のぉぉぉ!?

「む〜…もう何よぉ、夜中に変な声出して」

「ねむねむ…」

ごそごそと布団から這い出てくるユキナとラピス。

ちなみに布団はちゃんと人数分あるのだが、何故かアキトの布団に2人共入っていたりする。

「ちょっと待てや。お前の行動に関して疑念を抱かずにはいられない今日のオレだぞ?」

「何言ってんの。もう知らない間柄じゃないんだから一緒に寝るくらい当然でしょ?」

だから待て!オレはまだ了承していないだろうが!」

「…じゃあなに?このまま地球に着いたら私をほおっておいて自分だけのうのうと暮していく気?

私が地球人に酷い目にあってもいいの?何されるかわかんないんだよ?もしかしたらビシビシ叩かれたり、ゲシゲシ蹴られたり、

ゴミ投げつけられたりして都会の隅っこで暮らしていくに違いないんだよ!?」

「…あーちょっと?」

「そして散々酷い目にあって、今度は変なヤツラに目を付けられて何処かに連れていかれるんだ!」

「おーい、帰ってこーい」

「それで着いた先はお約束で何処かの研究所だったりするんだよきっと!

で、身体のスミからスミまで調べつくされて実験にも使われたりするんだよ!

最後には解剖されてホルマリン漬けになって一生を終えるのよ!…ああ、不幸なユキナちゃん…うぅぅぅ」

被害妄想爆発である。

「う、う、う…うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

「……あー…え〜と…くぁーっ!もうわかったわかった!認める!認めるからもう泣くな!!」

「よし!今の言葉しかと聞いたよ?ちゃんと録音済だから今更知らん振りしてもダメだからね?」

「泣き真似かい…」

アキト、ものの見事に落とされる。

「まあ言ってしまったものは仕方ないか。だが、これだけは言っておく!」

「何?」

「今すぐ結婚は絶対に無理だ!それに婚前交渉をする気も全く無い!!更にこの事を口外するのも禁止だ!!!」

「どうして?」

「んな事ベラベラと喋ったらいらん誤解受けるだろうが!」

「そうかな?」

「そうだ!しかもへたすりゃ犯罪者扱いじゃないか!オレは犯罪者になんぞなりたくない!」

「あ〜法律でそうなってるんだっけ」

アキトよ。今更そのセリフを言うか?

「まあいいか。だけど約束忘れないでよ?」

「………………………………………………………………………………………ああ」

凄い間だな。

「忘れないでよ?ギランッ!!」

「はい」

やはり弱いアキトであった。

「だぁーっ!もう寝るぞ!寝て明日になったら全てが無に帰すのだ!」

「それは無いよ?」

「…ぐ〜」

「ふっふっふっ…寝たふりしてもダメだよ?さーて、明日から楽しみだねぇ〜まいだーりん?

「ぶっ!」

その呼び名はもう決定なのか?

「うううううう…」

「うるさいよ、まいだーりん」

「うう…オレの自由は何処に…?」

もはやそんな物は無い。

と、そんな黄昏てるアキトに迫る1つの影。

「む?今度はラピUか?オレはもうヤツの所有物になってしまったらしいから他を当たってくれないか?」

悲しいなアキトよ。

「ん〜…いただきます…あ〜ん」

「…お?おお?おおおおおおお!?な!?ちょ、ちょっと待てラピU!!オレなんか食べたらメルトダウン間違いなしだぞ!!?」

何時から原子炉になったんだお前は?

「…ぱくっ」

「ひょええええええええええええええええええぇぇぇぇ!!!?」

「…逃げちゃダメ」

「な、何事なんだ一体!?…って、寝ぼけてるな!?おい、ラピU起きろ!!」

「ん〜…じっとして」

だがアキトの呼びかけは届かず、寝ぼけラピスが迫ってきた!

「ま、待て!落ち着けラピU!!そ、そうだ取引しよう!ここに秘蔵の…」

「…かぷっ」

「のぢゅああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

アキト、食いしん坊ラピスに食べられる。

「…固い…けど美味しい…」

お、美味しいのか?

「…もっと食べる…逃げない…」

うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?くっ…戦略的撤退!!!……ってドアが開かない!?何故!!?」

ぴんぽーん♪

『夜10時から朝7時までは各部屋は自動的にロックされま〜す♪アキト、女の子の部屋に忍び込もうなんて…エッチ

突如アキト母のほんわかした声が室内に木霊した。

「何だそりゃああああああぁぁぁっ!!!?」

「…待って…ごはん…」

「あわわわわわわわ…」

アキト、ピンチ!

「そ、そうだ!こんな時こそ仲を誓い合ったアイツを呼ぶ時!」

都合の良いことで。

「お〜い!ま……まい……まいは……………………呼べねぇぇぇぇぇっ!!

無理も無い。

 

「…く〜…むにゃ…まいだーりん〜…ふぁいとー…」

何時の間にか爆睡中ユキナの声援がアキトの耳にやけに遠く聞こえた。

 

「…いただきます」

「ひわあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!?」

 

 

その夜、アキトは何かを失ったとか、失わなかったとか。

それは本人のみぞ知る。

 

 

 

「…あぐあぐ」

「どひいいいぃぃぃぃぃっ!!いやぢゃああああぁぁぁぁぁっ!!!

もーいやぢゃああああぁぁっ!!!助けてくれええええぇぇぇっ!!!」

哀れなり。

 

 

 

ちなみにレンナはラピスと寝るときは必ずバリケードを築いておくとか。

ユキナに至ってはラピスが寝付いた瞬間、ロープで蓑虫のように縛ってから寝るらしい。

きっとこの2人も食べられそうになったのだろう。

 

またユキナの縛り能力はここで養われた。

人間なんでもやれば出来るのもである。

 

 

しかしラピス、何時もこんな感じなのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

せいっせいっせいっせいっ…!

新弟子の朝稽古みたいな目覚まし音が室内に響く。

 

「む…ふぁ〜…う〜…ごしごし…あ〜ラピス起きて〜朝だよ〜?」

「むみゅ?…ん〜…ユキナ…おはよう」

「うん、おはようラピス………あれ?まいだーりんのアキトは?」

「あきとおにーちゃん?…いない…何処行ったの?」

ガタッ

「ん?洗面所から音したね。まいだーりん、もう起きて顔でも洗ってるのかな?」

「私も顔洗う」

「そうだね。じゃ行こうか」

「うん」

そして2人が洗面所のドアを開けた瞬間。

 

「ガタガタガタ…ブルブルブル…南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏…

神よ仏よイエス・キリストよ…この哀れな子羊を助けたもう〜…」

熊に追い詰められた野ウサギのように洗面所の隅っこでひたすら何かを唱えながらぷるぷる震えるアキトが居た。

 

「まいだーりん、何してんの?」

「あきとおにーちゃん?」

「!!」

がたたっ!

「まいだーりん?何?そのひたすら脅える目は?」

「あきとおにーちゃん、大丈夫?」

「おおおおおおおおおおおうっ!!だだだだだだだだいじょーぶだ!全然へーきだ!

だだだだからそれ以上近づいたらいけないでゴンス!!!」

「何言ってんのまいだーりん?」

「あきとおにーちゃん、私嫌い?」

ラピスはウルウルした!

「コラ!まいだーりん!ラピス泣かせたらダメじゃない!!」

「いいいいいいいいやややあああああ!!泣きたいのはこっちどぅわああああぁぁぁぁ!!!!!」

「うるうるうる…」

テンカワ兄妹、混乱中。

「…あ、もしかして」

ユキナ、何かを思いつく。

「食べないでえええええぇぇ!!食べないでようぅぅぅぅぅ!!!!」

「うるうるうるるる…」

「…やっぱり」

その予想は大当たりだユキナ。

 

「やっほーアキトー、ユキナちゃーん、ラピスちゃーん、朝ごはんにするよー?…ってどうしたの?」

「あ、あ、あああああ!!腕は…脚は…首はあああああぁぁぁっ!!!

いやあああああああああああぁぁぁっ!!!!」

「うるるるるるるるるるるる〜」

「あははははは…」

「…一体何事?」

レンナ、この10分後ユキナから事情を聞き出し、とりあえずアキトをぶっ飛ばして事を沈静化させたとか。

 

 

 

 

 

 

余談だがユキナの呼び名は『兄色リス』から『ハテナ』に変わった。

『マイハニー テンカワ・ユキナ』、略して『ハテナ』だそうだ。

流石に『まいはにー』だけは勘弁してくれとアキトが泣き付いた為である。

承諾を得られた時のアキトはまるで天にも昇る気持ちが最高潮といった顔をしていたのが印象的だったそうな。

 

 

もうどうとでもしてくれといった感じである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしていくばかの日数が経ったある日。

 

それは突然やってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ガァイ!スゥゥゥゥプゥァァァァァァ!!

ヌゥァップゥアアアアアアアァァァァァァッ!!!』

 

 

ズゴォォォォォォォンッ!!!!!

 

 

「「「「ぬびゃああああああぁぁぁぁっ!!!?」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキト…とレンナ、ユキナ、ラピスの運命はどっちだ!?続くような続かないような思わなくも無きにしも非ず。

 

あとがきです。

こんにちは、彼の煤iかのしぐま)です。

え〜、という訳で幼な妻ユキナの誕生です(核爆)

………すみません(泣)

 

 

事実、これは結構前に考えていた設定でした。

所々でその伏線を置いてきたのですが…前回の代理人さんの感想を見てかなり冷汗掻いていました。

まさか当てられるとは…(汗)

って、流石にわかりますか(滝汗)

 

とまあ、それはこの際置いといて。

やっとこ新章突入と相成りました。

ここまで読んで下さった方、また感想を下さった方々に感謝ですね。

そしていよいよ次回の話では今まで散々死んだ事にされていたヤツが活躍する事になります。…多分(爆)

 

ではこの辺で!

 

 

代理人の感想

今まで死んでたことにされてたやつ・・・・・・・・・・ガイだと真っ当すぎてつまらないので

キャラとして死んだレンナあたりでしょうか?(爆)