「え〜と、あれ?」

状況がイマイチ掴めていないのはお久しぶりのナデシコ艦長、ミスマル・ユリカである。

「あれ?じゃないですよ艦長」

「あ、ルリちゃん、えっと、どうなってるの?」

そんなユリカに話かけるのはナデシコのオペレーター、ホシノ・ルリ。

「状況がよくわからない状態でグラビティ・ブラストを撃ったんですか?」

「あ、あはははははは…」

「笑って誤魔化さないでください。現在の状況ですが、目の前に居た木星蜥蜴の群れは先程のグラビティ・ブラストで散開。

その後、コスモスよりの支援攻撃後、エステ隊によって壊滅。そして今は月圏内に留まっている状態です」

「なるほど…って、ええ!?月!?な、なんで!?あれ?しかもどうして私、展望室に居るの?」

オロオロするユリカ。

ちなみにその横では説明好きの方が爆睡しているのだが眼中にないようだ。

「そんな事はいいですからブリッジに戻ってきてください。先程からコスモスより通信が入ってますので」

「こすもす?」

「はい。ナデシコ級2番艦コスモスです」

「ふ〜ん。じゃあ通信繋いじゃって。急いでるんでしょ?」

「そこで話すんですか?」

「うん。大丈夫だよ」

まるっきり根拠の無い自信だった。

「…わかりました。繋ぎます」

ルリがコンソールを操作すると1つのウィンドウが浮び上がった。

そこに写ったのは…

 

「くぉらぁぁぁぁっ!!オレを殺す気かぁぁぁぁぁっ!!!」

 

半泣き状態のアキトだった。




 

 

 

 

 

 

 

 

伝説の3号機

その32

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アキト…?」

突然の事に戸惑うユリカ。

「オレの何処を見たら『ゴマせんべい』になるんだ!?」

だがアキトは『そんなこと知るか!』といった風だ。

「どうして大画面で叫んでるの?」

「大体さっきのアレはなんなんだ!?」

「あれ?そういえばアキトって火星に居残りしたんじゃなかったっけ?」

「もう少しで真っ黒コゲのお星様になる所だったんだぞ!?」

「それにフクベ提督はどうしたの?」

「コゲは身体に悪いんだぞ!?わかってんのか!?」

「あ、そうだお土産は?」

「そもそもコゲが体に悪いと決められたのは今から…」

「え?無いの?うん、そうだ!アキトが私とデートしてくれたらチャラでいいよ?」

「よし、わかったな?さあ詫びをいれるんだ!」

「じゃあね…最近出来たっていうレジャーランドがいいな!あ、大丈夫だよ?お金なら私が持つから」

「さあ跪け!オレを崇めよ!」

「そしていっぱい遊んだ後はホテルでお食事して、そして…そして…きゃー!アキトのエッチ!!

「オレは気になる木だ!!」

『いい加減にせんかぁ!』

止まらないズレた問答に終止符を打ったのは先程まで眠りこけていたナデシコクルーとコスモスクルー全員でのツッコミだった。

 

 

 

 

 

「バカばっか」

約1名は別のツッコミを入れたが。

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「と、いう訳で私達がチューリップの中に居る間、外では8ヶ月の時間が過ぎていたの。それを更に詳しく説明すると…」

意気揚々と説明を続けるのはご存知イネス・フレサンジュ。

 

あの後、ナデシコはドックとしても使えるコスモスにドッキング。

事の真相を確かめる為にブリッジに主要メンバーを集合させたのだが…

 

 

「ミスマル・ユリカ!よりによってワタクシのアキト様をグラビティ・ブラストでぶっ飛ばすとはどういうことですの!?」

「カグヤちゃん、久しぶりだねっ。元気だった?随分会っていなかったからお互い変わっちゃったよね。でも、なんで怒ってるの?」

 

 

「いやぁ、こんな美しい女性に会えるなんて光栄だね。是非とも親密な関係になりたいねぇ。今晩どお?」

「…ねぇ、なにこれ?」

「ああ、妖怪・スケコマシ」

 

 

「やったなメナード、世界初だぞ?一回寝るだけで8ヶ月過ぎてるなんて」

「いっそギネスに応募する?」

「あんまり嬉しくないんですけど…と言うよりアキトさん。8ヶ月経っても全然変わってませんね」

「アキト、その人との関係を私は今激しく知りたいんだけど?」

「私?私は勿論…ふふふ」

「…メナードよ。今のオレに近づくと…つーか近づくな、寄るな、くっつくな!ぐぁぁぁ!?」

「アキト!まだ先は長いんだからこんな所で力尽きないの!」

「あきとおにーちゃん…そろそろ免疫つけようよ」

 

 

「むぅ…どう収拾をつけたらよいのだ?」

「僕に聞かないでくださいよゴートさん…はぁぁ…これからどうなるんだろ…」

「ナデシコの副長だったな。まあ気を落とすな。その内良い事もある筈だ。たぶん…きっと…おそらく…できるなら…」

「段々弱気になってるわよカイオウ」

 

 

「一体全体どうなってやがんだぁ?気が付いたら月に居て8ヶ月経ってるだ?」

ピキーン!

「そうか!まさしくこれは浦島太郎状態!こ、こんな体験が出来るなんてっ…!ふふふ、次のネタが決まったぁ!」

ポロロ〜ン♪

「目覚めたら8ヶ月〜でも私達にとってはほんの数瞬〜そりゃ羨ましい〜うらやましい〜浦島〜…う〜ん…いまいち」

 

 

ナデシコクルーは最初、突然の事で戸惑っていたが今は『おめめぱっちり』。

コスモスクルーと大騒ぎである。

 

 

ペロロ〜ン♪

「では、1曲行かせて頂きます。題『暴風注意報だよプロスさん』」

 

「はっはっはっ、イズミさん、面白いタイトルですな〜。さて皆さん、お話があります。少々静かにしてもらえませんか?」

 

だがそんな穏やかなプロスの声は大騒ぎの一同には当然届かない。

 

 

「…………はっはっはっ。皆さん、静かにしないとコンクリ抱かせて沈めますよ?

 

 

し〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん…

 

 

静寂が訪れた。

 

「では、宜しいですか?」

『はい…』

 

勿論、反論の余地など存在しない。

 

「あ、その前にテンカワさん、ちょっといいですか?」

「ビクッ………な、なんじゃい、プさん」

「どうやって火星に残った貴方がここに居るか聞きたい所ですが…火星で別れた際にテンカワさんが乗っていたエステバリスはどうしました?

先程ウリバタケさんとコスモスの整備班にお尋ねした所、そのような物は無いと言っていましたが?アレ高いんですよ?」

「あ、あれは……ははは…いや〜無くしちゃった。テヘ☆」

アキトはかわいこぶった。

「…テンカワさん、ちょっとツラ貸してください」

「猛烈な勢いで断る」

「拒否権はありません。ほら行きますよ?」

ずるずるずる…

襟首を持ち、問答無用で引っ張っていくプロス。

「あ、ちょっと離して。いや、ほら、あのね、だから…誰かぁぁぁぁぁぁっ!!

 

当然、助けようなどという猛者はここにはいない。

この時オモイカネが『ドナドナ』を流していたのはお約束だろう。

そして聞こえてくるのは悲痛な声。

 

「あ、な、何?その変なソロバンは?え?そんな、振りかぶらなくても…ねえ?ちょ…きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

 

 

ゴッ!

 

 

鈍い音が響いた後、プロスがとてもイイ顔で戻ってきた。

「やれやれ…おや?みなさんどうしましたか?」

やけに爽やかなプロスだがその顔には何故か返り血がこびり付いていた。

『いえ別に』

答えられるわけない。

「そうですか?まあいいでしょう。さて、事情は大体飲み込めたと思いますがこれから私達は…」

「軍に協力してもらうわ」

プロスの言葉を遮ったのはご存知この方。

「誰?」

「あんた達…私は一応ナデシコにも乗ってたんだけど?」

「いたか?」

「さあ?」

「う〜む、なんだか無性に腹立たしいような気がしないでも…」

誰も覚えちゃいなかった。

「ナデシコの副提督として乗船してたでしょ!?」

『あー』

わかったのかわかっていないのか、そんな表情をして納得する一同。

「全く、じゃあ話を戻すわよ?ネルガルと軍は一時的に仲違いをしていたわ。けどネルガル会長と軍上層部の間を明日香インダストリーが

仲裁してくれたお陰でお互い協力するという事でまとまったの。つまりあなた達はこれから軍と共同で作戦に参加してもらうわ」

『え〜』

ムネタケの説明に露骨に嫌な表情をする。

「つまり軍人になれって事か?」

「私達、民間人なのに…」

「おいおい、本当に戦争をやらせる気か?」

勿論すぐに納得出来るわけはなく、戸惑いの表情を浮かべる面々。

「大丈夫だ。一時的に協力関係を築く程度にすぎない」

「あんたは?」

「コスモスの副提督をやっているカイオウだ。軍との協力に関してはネルガルと軍の双方で決定したことだ。すまないとは思うがそう理解してくれ。

勿論君たちには拒否権もある。嫌だというなら船を降りてもらっても構わない」

『う〜ん』

悩みだす一同。

「なんと!オレに軍人になれと!?いいのか!?本当にいいのか!?一夜にして大総統になっても知らんぞ!?」

そして叫びだすバカ1名。

「テンカワさん、ちょっとこっちへ…」

ずるずるずる…

またも裏へ引っ張られていくアキト。

「OK、冷静に話し合お…」

 

 

ガゴッ!

 

 

「テンカワさん、良い子ですからもう少し寝ていましょうね」

問答無用だった。

 

そんな事をやっている横では…

「あなた誰ですか?」

「…誰?」

「「じー」」

そんな話なんぞ全然聞いていないお子様2人がにらめっこをしていた。。

「私はホシノ・ルリです」

「私、ラピス・ラズリ」

「…似てますね」

「そう?」

「「じー」」

再び見詰め合う2人。

「…べー」

「…むに」

「「じー」」

「むみ…」

「ぐにっ」

「「じー…」」

「ぐいっ」

「ぺろ〜ん」

「「むっ…」」

「ひょっ」

「びーっ」

「「くっ」」

「みぎょっ」

「ぐにゃっ」

「「ぷっ…」」

「…何してんの2人共?」

そのやりとりを傍で見ていたユキナがツッコミを入れる。

「ぬぅっ!にらめっこバトルか!?ならば負けんぞ!オレはこう見えても昔はにらめっこ大将軍の裏と呼ばれていたのだ!」

そして復活したアキトはまたも訳のわからないことをのたまう。

「…」

ガシッ!

ずるずるずる…

無言でアキトを拉致るプロス。

「テンカワさん?」

「そうは言うがプさんよ!エルドラドがこんな間近にあるんだぞ!?これを見過ごす…」

 

 

ゴスッ!

 

 

「男の子なんですからもう少し我慢強く」

我慢の限界を遥かに超えていた。

 

そして当の2人は…

「ベロベロ…」

「むにむに…」

まだやっていた。

とにかく何故かバトルだった。

 

 

「…おい、随分と打ち解け合っているようだが…いったい誰なんだ?」

軍との共同戦線をするかどうかの相談もそこそこに疑問の声を上げるウリバタケ。

「そうねぇ。ルリルリと遊んでいる子、可愛いわね〜」

「コホン、そうでしたわ。コスモスクルーの自己紹介がまだでしたね」

触発されるように出てきたのは先程までユリカと熱い口喧嘩をしていたカグヤだ。

「まずワタクシはコスモス艦長にしてアキト様の愛の奴隷、カグヤ・オニキリマルですわ!」

「そして私はナデシコ艦長にしてアキトの幼馴染というベストポジションを維持する女ミスマル・ユリカで〜す!」

「…って、なんで貴女まで自己紹介するんですか!?」

「ふっふっふっ、カグヤちゃん。自己紹介にかこつけてアキトを独占しようなんてまだまだ甘いよ?」

「くっ…流石はワタクシのライバルですわ。ですが、アキト様は譲れませんわよ!?」

「こっちだって!」

再び口喧嘩再開。

「…まあ、あの2人はこの際置いておこう」

『うむ』

全員一致だった。

その後お互いの紹介もそこそこに済ませる。

 

「「ぐぎぎぎぎ…!」」

当然この2人は放置の方向だった。

 

 

「ねえアキト…つんつん…ねえったら」

アキトにつんつんしながら呼びかけるのはご存知ユキナ。

「………」

だがアキトは返事が出来ない。

どうやら撲殺死体のようだ。

「ア〜キ〜ト〜?………抱きつくよ?」

「なんだハテナ、奇妙きまわりない声を出して?」

「…テンカワさん、フリだったんですか」

またも復活を果たしたアキトを見て呆れるプロスだった。

「ねえ、アレがユリカって人?」

「おう、それがどうした?」

「…浮気はダメだよ?」

「待てやコラ」

「だってそうじゃない」

「…まあそうかもしれんが今は置いとけ。ややこしくなる」

「む〜でも〜」

「ユキナ、むくれてる」

理解はしているようだがそれでも大いに不満のようだ。

ちなみにラピスはルリとの勝負に水入りを適用した。

オペレーター席ではルリが次のバトルの準備に入っている。

何故バトルなのかは未だ不明だが。

 

「おい、アキト」

「ぬ?おお、タイヤ班長か。なんだ?」

「なんだ?じゃねえよ。その子らは一体なんなんだ?随分親しいようだが…しかも何でこんな戦艦に乗ってやがんだ?」

「…私はいいんですか?」

さり気にツッコミを入れるルリだが誰も聞いちゃいなかった。

「その事か。ポリスにゲットされる覚悟があるなら話してやらんでもないぞ?」

「…何してたんだおめぇは」

おそらく今のウリバタケの頭の中では様々なドラマが繰り広げられていることだろう。

「コラ、余計に混乱させないの」

「なんだ、ボケキャラに転属になったベン子」

ごげしっ!!

「誰がボケキャラよ!それにベン子言うなって言ってるでしょうが!!」

「いや、もう納得しているのかと…」

「どこがよ!?私は何時でも正常よ!」

「だってなぁ…」

「何よ、不満そうね」

「ほらアレ」

「アレ?」

アキトが指さす方向には…

 

「ああ…混乱。大混乱。

人が増えて少しは私の気苦労も薄れるかと思っていたのに。

逆に気苦労が増えちゃった。

恨みますよユリカさん。

貴女のせいで暴走に拍車がかかりました。

こうなれば先日読んだアレを実行しようかしら。

そうね。それがいい。

早速今日から始めよう。

まずはわら人形作りから」

 

マイポエムを口ずさみつつカグヤの暴走を食い止めようとするエマの姿。

 

「お前の友人は十分ボケキャラだぞ?だからお前もボケ」

がごんっ!!

「ボケ大王のあんたに言われたくない」

アキト、再び撲殺死体になる。

「さて、それじゃあ私が簡単にお話しますね?」

「お、おう頼むわ…え〜と?アンタは?」

「あ、私はフクベ・レンナです。宜しく」

「おう宜しく…ん?フクベ?はて?どこかで聞いたような…?」

「フクベといえばフクベ提督を思い出しますが、もしや貴女は?」

「はい、フクベ・ジンの孫です」

『ほぉ〜〜〜〜〜』

その言葉を聞いた瞬間クルーがレンナの元に集まりだした。

「へぇーあの爺さんにこんな孫が居たのか」

「むぅ…遺伝子構造がどうなっているか知りたいものだな」

「そういえば火星に息子さん夫婦が居ることは聞いていましたが、まさかその娘さんまでいらしゃったとは」

「へぇ〜あの提督にこんな孫が居たのか」

物珍しそうに寄ってきたウリバタケを筆頭に観察を始めるナデシコクルー。

レンナは珍獣扱いだった。

「あ、あの、と言っても義理の孫なんですけど…」

『なるほど納得』

失礼な話だ。

 

 

 

 

 

 

その頃話題のフクベは…

「…アララギ君。この赤い汁は何かね?」

「はっはっはっ、我が庭園にて育てたバラのお茶です。どうぞご賞味ください。美味ですよ?ふっ…『美』…ああ…何と良い響き…」

「………ズズ……………むっ」

どうやら気に入った模様。

「フクベ殿。この茶菓子もいけるぞ?なんせ私のワイフが作ったんだからな」

「あら、いやだわダディったら。褒めても何も出ないわよ?」

「…いや、テンカワご夫妻。いくら洋式のお茶会だからといって呼び名まで変えんでも」

「「気分です」」

「なるほどのぅ…ほぉ、これもなかなか美味いな」

徐々に毒されてゆくフクベだった。

 

ちなみにアフロのままなのは言うまでもない。

 

 

その光景はシュール以外のなにものでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

場面は戻り。

「…はい!」

『おー』

「へや!」

『おおー』

「たりゃ!」

『ひゅーひゅー』

何故か良い気分になり調子付いたレンナはポーズをとり自己アピールをしていた。

勿論周りも乗る。

 

「………………………あの、エリナ女史?」

「何かしら?」

「何故ここに子供が居るのでしょうか?」

痺れを切らしたプロスがエリナに事の真相を聞きだそうとする。

「そうねぇ。それはきっとお約束というやつね」

「なるほど、わかりました」

即答だった。

「いや、ミスター。瞬間的に納得されては困るのだが」

「まあまあゴート君。何事も経験ですよ」

「むぅ…しかし」

まだ納得しかねるといった風のゴート。

「じー」

「…む」

そんなゴートをユキナが見つめる。

「じー」

「……む」

ラピスも見つめる。

「「じー」」

そしてダブルで見つめる。

「「うるうる」」

しかもちょっと涙目だ

「…………………………………………まあいいか」

ゴート、流石に落ちる。

「やった♪」

「…いいの?」

「OKOK。偉業を達成した気分だな」

喜び合う2人に賞賛を送るアキト。

「さて、この際諸々の事は後々処理するとして…先程からテンカワさんと一緒になって騒いでいる貴女達のお名前は?」

「はい!私は白鳥ユキナでっす!」

「ラピス・ラズリ」

元気一杯の返事を返すユキナとラピス。

「はい、ありがとうございます。それでこの2人はどうするおつもりで?」

「そうねぇ…この2人にフクベ・レンナは漂流者って事で一時的に保護してただけだけど、どうしようかしら?」

「まあ普通だったら月基地で降ろすよねぇ」

「おや、会長もいらしてたんですか」

「ははは、まあそれよりエリナ君、彼女達に興味を持つのはいいけど所詮は子供だよ?時期を見計らって下ろした方がいいんじゃないか?」

「いや!降りない!」

「私も嫌」

アカツキのセリフに反発する2人。

「おやおや」

アカツキは苦笑を浮かべつつ後はプロスに任せたようだ。

「嫌と言われましても…流石に子供を戦艦に乗せて戦いを続ける訳には…」

「…そのセリフをあなたが言いますか?」

またもさり気にルリがツッコミを入れる。

「絶対に嫌!それに私はアキトの許婚なんだから離れ離れなんて絶対に認めない!」

『…は?』

「あ、言っちゃった」

 

 

 

その瞬間、時が止まった。

 

 

 

『なんだとぉーーーーー っ!!!!!!!?』

 

 

 

時が動き出したと同時に上がる大絶叫。

そしてそのまま芸能人に群がる記者のごとくアキトに質問がぶつけられる。

 

「そ、それはどういうことですかテンカワさん!?」

「コラ!そこのガキンチョ!アキト様の伴侶はワタクシだと何度言えば…!」

「アキトどういうこと!?一から説明してよね!言わないとユリカ怒っちゃうよ!?ぷんぷんって!」

「説明!?任せなさい!まず許婚というのは…」

「アキトさん!私と過ごしたあの日々は何だったんですか!?ユートピアコロニーまで行ってご両親のお墓の前で永遠の愛を誓ったのに!」

「あら〜アキト君ったらすみに置けないわね〜…でも、子供相手って…」

「テンカワ、牧師役は俺がやろうか?」

「アキト、オメーいよいよ犯罪に走ったか?」

ピキーン!

「アキト君!な、なんて事を!うわっ、鬼畜〜」

ペロローン♪

「幼女に欲情…ぷっ」

「テンカワさん。そんな人が居たということは、その他は遊びだったと………外道ですね」

もう大混乱である。

その中でもルリのツッコミが1番きつかった。

 

「ユキナちゃん、この事態どう収拾つける気?」

「てへっ」

「ユキナ、何も考えてない」

ユキナ、周りの事態など何処吹く風である。

 

「ええい!静まれい!」

群がるクルーに対して声を張り上げどうにか落ち着かせるアキト。

「いいか?よーく聞けよ?まず現在進行形でオレはハテナの所有物らしい」

いきなりなさけない切り出しだった。

「だがあんな子に手を出せば生死に関るのは必至!

飛躍しすぎだ。

「ここは重要ですから覚えておくように。試験に出ます」

結局訳がわからなかった。

 

「そんなぁ…アキトぉ…嘘だよね…?」

「アキト様、絶望なさらずに前を向いて歩んできてください…そう、ワタクシの元へ!」

「アキトさん…やっぱり遊びだったんですか?」

ユリカ、カグヤ、メグミは少々危な気な様相でアキトに詰め寄っていく。

「まあまあいいじゃねえか」

その3人を抑えたのはウリバタケだった。

「ウリバタケさん、退いてください!」

「そうです!これはワタクシとアキト様の問題なんです!」

「そうです。これ以上介入するというならウリバタケさんの秘密を2、3個暴露しますよ?」

「お、落ち着け!と、とにかくだなぁ、当人同士が認め合ってるんだ。そこを邪魔しようなんて野暮ってもんだぞ?」

「でもぉ」

「しかし!」

「う…」

ウリバタケの説得に引き気味の3人。

それなりに理解はしているようだ。

「そうそう、それにアキト君も今すぐその子をどうにかしようなんて考えてないでしょ?」

見かねたミナトもウリバタケの援護に入る。

「そりゃもう。ああそうさ。そうともよ!」

「だそうだ。だから少しくらい様子を見てやれよ。な?」

「「「…はい」」」

渋々納得する3人。

だが3人の心の中では少しが数秒だったのは言うまでもない。

 

「やったー!これで私とアキトは公認カップルだね!そして将来は…むふふふ…」

「…こ、これは笑う所だよな!?そうだよな!?ギャグだと言ってよ4丁目の南雲さん!」

アキトは混乱している。

 

「さて、この8ヶ月の間どんな事があったかはよくわからないけど、そういう事ならちゃーんと責任とらないとね。ア・キ・ト・君?」

「せ、責任とな?」

「はい、これ」

ミナトは懐から1枚の紙切れを取り出した。

「こ、婚姻届?」

ウルトラショッキングフェイスのアキトだった。

「…ミナトさん、何故そんなものを」

「まあいいじゃない。さあ2人とも書いて書いて」

「いや、書いてと言われても…そもそも、ハテナはまだ結婚できる年じゃないぞ?」

「書くだけよ。ユキナちゃんがその年齢になったら出せばいいんだから。それまでは保留ということで」

「…いいのか?」

「いいんじゃない?ほらアキト書く書く」

「だが判子とか無いし…」

「そんなもん拇印でいいだろ。なんなら血判にするか?」

「いいですね〜それ」

ウリバタケの言葉に何故かプロスが同意した。

「遠慮する」

「かきかきっと…はい!」

「うんうん。じゃあこれは私が預かっておくわね。変な所においておくと宇宙の塵になりそうだから」

チラッと背後をみて薄笑いを浮かべるミナト。

その背後で異様なオーラを漂わせている3人が婚姻届をハイエナの如く睨みつけていた。

「まあとりあえず、おめでとうと言っておくわね」

「うん、ありがとう!」

「…はぁ、本当にこうなとるとは」

「諦めるんだな。まあ結婚生活もそれなりに楽しいぞ?最初だけな

経験者は語るである。


「さてアキトよ」

「なんじゃいタイヤ班長?…今オレは大切な何かを失ってしまってわびしい気持ちなんだが…」

 

 

だがウリバタケの発した次のセリフで先程のまでの漢ウリバタケは霧散した。

 

 

「あんま幸せ絶頂こいてると問答無用で滅殺な?」

 

 

フフフな笑みを浮かべるウリバタケ。

どうやら幸せになりすぎるのもダメらしい。

無茶な注文だった。

 

「なんなの、あのおじさん」

「…変な人」

「遺憾の意を表明する」

「あんたはいっつもじゃない」

流石に呆れた一同だった。

 

 

 

「コホン。それでね、さっきから白鳥ユキナと一緒に居るこの子、ラピス・ラピスはテンカワ君のらしいわよ」

 

 

 

エリナの一言に更に沈黙が訪れる。

 

 

 

 

『なんじゃとくぉらぁーーーーーっ!!!!!?』

 

 

 

 

再び大絶叫。

もはや止まらない。

 

「このビチグソがぁー!!やっぱお前は一辺死ねぇー!!!」

「い、妹だと…?こんな可愛い子が…?テンカワー!お兄さんと呼ばせてくれー!!」

「何でお前ばっかり!!羨ましいぞこの野郎!!」

「ウリバタケ!フィギア製作にはどの位の日数がかかる!?」

「任せろ!寝ずにやって5日で仕上げてやらぁ!!」

「班長!俺予約します!」

「あ、俺も!!」

「お前ぇら落ち着け!ほら整理券配るぞ!」

『うぃーす!』

ナデシコブリッジは混沌としている。

 

「ラピスちゃん、何故か人気者ね」

「何で私の時と反応が違うのよー!」

「…怖い」

流石に脅えるラピス。

まあ無理もない。

「…そういえばウリバタケさん、私のフィギアも作ってましたね」

「ああ、アレか。ちなみにこれが現物だ」

「……………テンカワさん。なんで持ってるんですか?」

「うむ、ナデシコクルーの大半に売っていたからなタイヤ班長は。オレもなんだかんだで持つ事になった。宜しく頼むぞノリ3世」

「…宜しくされても困るんですけど」

少々困った顔をするルリ。

ああいうのは嫌らしい。

そんなやりとりをしているアキトだが、背後から袖を引かれた。

「ぬ?なんだラピU?」

「あきとおにーちゃんは私のお人形が出来たら欲しい?」

「何?」

「欲しい?」

何気に上目遣いだった。

効果は抜群である。

「…え〜と…お、おう!勿論欲しいぞ!手に入れたら神棚に飾って毎朝手を合わせたりするぞ!」

「ホント?」

「おうさ!!」

「…ラピスちゃんの目線には敵わないか」

「うんうん。やっぱりお兄さんだね」

「そうでしょうか?…それに神棚って…もしかして、私のフィギアも飾る気ですか?」

アキトならばそれ位やってのけるだろう。

「はい、という訳でこれからナデシコは地球に下ります。主な作戦指示は後ほどムネタケ提督より出していただけますので、

それまでは各自準備をお願いします」

突如、まとめに入るプロス。

『…いや、だから軍との協力の件は?』

「は?既に全員分サインしてしまいましたが?」

『おい!!』

「大丈夫、問題はありませんよ。以前取った、社内アンケート『あなたの心はいつも晴れ』で『軍人とお友達になれると思いますか?』に

ハイと答えた人のみ契約書のサインを代筆しましたから」

「…そんな、勝手な」

ジュンを筆頭にでっかい汗を浮かべる一同。

「ちなみにオレのサインもしてあるらしいぞ」

「ふーん、じゃあアキトは軍人と友達になりたいんだ」

「いや、実はそのアンケートがマークシート方式だったからな、面倒だから穴埋めをカエルの絵にしただけなんだが…」

「それがたまたまハイに付けていたと?」

「運が良いんだか悪いんだか」

「…あきとおにーちゃん、面倒臭がっちゃダメ」

なんという理由だ。

「はっはっはっ!それでは皆さん頑張りましょうねー」

ひょいひょーいってな感じでその場を後にするプロス。

 

「あ、ありなの!?皆これでOK!?」

レンナの叫びは全員の心の声の代弁だった。

 

 

 

 

 

「おっと、忘れるところでした。テンカワさん」

「ん?まだ何かあったか?」

「ええ…フクベ提督のお孫さんが一緒に居るのはわかりました。火星からどうやって戻ってきたかは後で聞くとしましょう。ですが…

肝心のフクベ提督はどうしたんですか?」

 

「…」

答えられるわけがなかった。

 

「どうしました?まさかフクベ提督は…」

「い、いや、え〜と…そ、その疑問に全力で肯定する意思を表明したいが…う〜ん…そ、そう!実は!」

「実は?」

「ベン師匠は突如、オレの目の前で豪快に…」

「豪快に?」

遺産相続をしてくれてなぁ!いや〜オレってばお金持ち♪…おかねもち…あの、プさん?だからその妙なソロバンは…」

 

 

バギッ!

 

 

「くだらない事を言わないように」

「…はい」

まだ息はあるようだ。

「おや、なんだか段々と丈夫になってきていますね。先程までは瀕死まで行った筈ですが…ではトドメと参りますか」

再びマイウェポンを構えるプロス。

 

「おいおい、プロスの旦那、ただ殴るだけじゃ能が無いぜ?それじゃあアキトも復活するってもんだ」

またも口を出したのはウリバタケ。

何故か得意気だ。

「ほう、ではどうしろと?」

「おう、実はこの『宇宙対応正義のそろばん』には色々と仕掛けがあってな、ほれ、ここを操作すると」

ジャキン!

「なんと、最大6メートルまで伸びるんだ!」

「ほお」

「更に!」

ギュラァァァァ!

「ここを押せば先が回転するんだ!しかもドリル付き!」

「ほほー」

「更に更に!」

ガコンッ!

「ココを操作すれば三節棍に!」

「なるほど」

「そしてぇ!」

ゴォォォォォ!

「最後は炎が噴出す!どうだイイ出来だろう!」

「ふむふむ…ウリバタケさん」

「おう、なんでい!」

「いったい幾ら使いました?」

「うっ」

「幾ら使いました?」

「え、えーと、そのーあれだ。ま、まあいいじゃねえか!これはプロスの旦那の専用なんだし!な?な?」

「…まあ、いいでしょう。良い出来ですし。何よりこのギミックの精巧性が気に入りました」

「…ほっ」

安堵の表情を浮かべるウリバタケ。

もしプロスの機嫌を損ねたら一気にあの世逝きだろう。

 

「では早速…」

「全員退避!」

ズザザザザザザザ!!

レンナの呼び声と共に非難し、壁際よりアキトの行く末を見守る一同。

 

「…お前ら…生きて帰ってきたら覚えてろよ?」

末代まで祟ってやる的眼力をクルー全員に向けるアキト。

 

「アキト…ガンバ!」

「アキト様ファイトですわ!」

「アキトさん、骨は拾ってあげますよ」

「アキト君、怪我したら私が新薬で治療してあげるわ」

ぽろ〜ん♪

「覚えてろと言われりゃ覚えるさぁ…生きてたらね」

「イズミ…洒落になってねぇよ」

ぴきーん!

「むっ…見えた!アキト君は……い、言えない。逃げてアキト君!勝ち目ないよ!!」

「アキト〜しっかりね〜応援してあげるよ〜」

「あきとおにーちゃん、死ぬ気でがんばって」

「…ごくっ」

無責任な応援を背景にアキトとプロスが対峙する。

いや、プロスがアキトを退治する。

 

「ふぉぉぉぉ!」

『ギュピーン!』とプロスの目が輝いた。

「…み、見えねぇ、というより見たくねぇよ!プさん!勘弁…」

 

 

シュバッ

 

 

ゴギッ!

 

 

 

グリリリィッ!

 

 

 

メギャッ! 

 

 

 

ボゴォォォォン!!

 

 

 

プロスの奥義が炸裂した瞬間だった。

 

「ふ…おとなしく土に環りなさい」

 

そう言いながら血のように赤いベストを直す。

何故かかっこよかった。

 

 

『…』

勿論、誰も口開くことなど出来ない。

 

 

だがその中で目を輝かせているものが1人。

「あのっ」

「はい?あなたは確かレンナさんでしたか」

「はいっ、あ、あの、先生と呼ばせてもらっていいですか!?」

『なぬ?』

思わず全員でハモリながら疑問の声である。

「はっはっはっ、先生ですか。なにやら照れますねぇ…しかしなぜ突然先生などと?私からは何も教える事なんてありませんよ?」

「いえ!先程の妙技見事でした!是非、私にも御教授ください!」

「これは参りましたねぇ…ふむ…わかりました。ではレンナさんには私の仕事を手伝ってもらいましょう。それが条件です」

「は、はい!ありがとうございます!」

目が凄い勢いで輝きだすレンナ。

何やら妙な事になってきたが、どうやらレンナはプロスの総務関係の仕事を手伝う事になったようだ。

先生と生徒の立場になって。

ある意味最強コンビかもしれない。

 

「レン、もしかして立ち直ろうとしてるのかな?」

「あきとおにーちゃんに毒されてから変わったもんね…」

いかにもな理由だった。

 

 

 

 

 

そしてアキトは流石にリカバリィが追い着かなかったのか、そのままハーリーと仲良く医務室送りとなった。

 

 

 

 

またフクベの事はすっかり忘れ去られていたことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう」

「来たね」

「なんだ、随分と反応が薄いな。もう少し驚くかと思ったんだが」

「あんたがコスモスに乗ってることは聞いてたからね。来ることはわかってたよ」

「そうか…」

「ふふ…安心したって顔だね」

「…まあな」

「やっぱり心配だったかい?」

「当たり前だ。火星で行方不明になった後はろくに食事が喉を通らなかったんだぞ?」

「そりゃあ悪かったね。でも、もう大丈夫だろ?」

「ああ…」

「…飲む?」

「そうだな。久しぶりにやるか」

「こんな時の為にいいのをとっておいたよ」

「準備万端だな…お、本当にいい酒じゃないか」

「さて、それじゃ…」

「ああ、再会を祝して…」

 

「「乾杯」」

チンッ

 

「…美味いな」

「とっておきだって言ったろ?」

「そうだったな」

「……まだ戦い続けるのかい?」

「…軍人だからな」

「…そう」

「お前は…どうするんだ?」

「アタシかい?アタシの戦場は何時でもここだよ」

「そうか。そうだな…覚えてるか、あの約束?」

「忘れるもんか。アレだろ?」

「『オレは何時だってお前の客だって』やつ」

「ああ、だから…」

「「ずっと一緒に居よう」」

「ふふふ」

「はは…」

「何か作ろうか?」

「そうだな…アレできるか?」

「任せな」

「久しぶりだなホウメイの料理は」

「カイオウの顔も久しぶりに見たよ」

「夫婦なのにな」

「そうだね」

 

 

「そうそう。ブリッジは例によって女ばっかりだっていうじゃないか。何かあったら三枚に下ろすよ?

「神に誓う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキト…とホウメイ、カイオウの運命はどっちだ!?続くような続かないような思わなくも無きにしも非ず。

 

あとがきです。

こんにちは、彼の狽ナす。

え〜という訳で『漢気親分プロスの再来』をお送りしました(違)

とまあ冗談は置いておいて、参りました。

本気でナデシコクルーの性格を忘れてました。

だから目立ったのプロスとユリカくらい(汗)

すみません(泣)

 

そうそう、最後に出てきた大人のラブロマンス(笑)

ホウメイとカイオウの2人なんですが、元ネタはTV版にあったホウメイの過去を参照にしています。

つまりカイオウはパエリヤの君なわけです。

あの時ホウメイのパエリヤのおかげで死ななかったら、なんてIFを思い立ち、こんな設定にしてみました。

少々無理があるかもしれませんがこういうのもアリかなと。

 

さて、物語はようやくTV版の話に軌道修正できました。

次回からはTV版の話をなぞっていく事になると思います。

 

まあ、滅茶苦茶になる可能性がですが(爆)

それではこの辺で。

 

 

代理人の感想

おー。

これは意外、しかも納得。

「パエリヤの君」・・・「妹背の君」とか「紫のバラの人」にくらべるとやや風流が足りないですが、

カイオウにはちょうどいいかもしれません(爆死)。

 

 

・・・・しかし、ミナトさんってひょっとしたら舞歌さん並に悪戯好きなのかも(笑)。