「よおノリ3世」

「テンカワさんですか。何の用です?」

 

シュタッと手を上げてブリッジにやってきたのは何故かパジャマ姿のアキト。

そしてそれに答えるのは只今お仕事中のルリである。

 

「む? 顔も見ずにオレとわかるとは…さてはお前エスパーだな? いやチャネラーか? ぬぅ…何を受信した?」

「私の事を『ノリ3世』なんて呼ぶのは何処を探しても1人しか存在しません」

「なぬ!?…それもそうか。うん、そうだ」

 

アキトのボケをなんなくかわすルリ。

最近手馴れてきているようだ。

 

「まあ何はともあれ夜勤ご苦労さん」

「はぁ、どうも。で、何か用ですか?」

 

怪訝な表情で振り向く。

現在の時刻は真夜中0時過ぎ。

夜勤のクルー以外は大体眠っている時間帯だ。

 

「ああ、実は少々気になる事があってな。気にし出したら眠れなくなってナデシコ内をさまよっていた所だ」

「そうですか。幽霊と間違えられて昇天させられない様にしてくださいね」

「そうそう、オレはいつも昇天しかかってるしな…って、おい!」

「冗談です」

「…………ま、まあいいか。ん、そうだ。ノリ3世、折角だからオモイカネを使ってちょっと検索かけてくれないか?」

「別に構いませんけど…何を調べるんですか?」

「うむ。次は何処に行くんだ?

「笑えません。減点2です。部屋に帰ってとっとと寝てください」

「減点!?」

 

何時の間にかボケ評論家に変貌を遂げたルリだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伝説の3号機

その34

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、いや、冗談なんかじゃなくてだな、この艦の次の目的地を普通に知りたいんだが…」

 

必死になってルリに説明するアキト。

素と冗談の区別がつかないのは普段の行いのせいだろう。

 

「それは本気と書いてマジで聞いてます?」

「うん、マジ」

 

大いに頷くアキト。

何故か誇らしげだ。

 

「今日…いえ昨日ですね。提督がまたイヤミったらしく話してたじゃないですか」

「知らん。あの時オレはゴルフボールだったからな」

「よくわかりませんが…まあいいです。次の目的地はココになります」

 

ルリがコンソールを操作するとウィンドウに1つの地図が表示された。

 

「ほお…『テニシアン島』ね…で、ここに何の用なんだ? 原住民と話し合って族長にでものし上がるのか?」

「…でしたらテンカワさんが1人でなっていてください」

「そうか。止めるのなら仕方ない。別の機会にしよう」

 

どうやら嫌らしい。

 

「別に止めてませんが…で、今回の任務ですが、なんでもココに、とある企業の令嬢が取り残されているらしいんです。

 例によって木星蜥蜴…いえ木連と言った方が良いでしょうか。その無人兵器が闊歩していてる為、私達が救出に向かうという訳です。

 ま、先日の大使救出作戦とほぼ一緒ですね」

「ほー令嬢の救出ねー」

「テンカワさん…今度は食べないでくださいよ?

「食うか!」

 

食べたらそれはそれで大変だ。

 

「ならいいです。それでその『テニシアン島』という所は一種のリゾート地のような所らしく、任務が終わったら海で一泳ぎするらしいですよ」

「のん気だな」

「テンカワさんに言われたらお終いですね」

「ツッコミきついな……む? なあノリ3世、少し気になったんだがアレはなんだ?」

 

ルリのツッコミを軽く批評しつつアキトが指差す先には丸まった紙がブリッジ中央に散乱してた。

紙だけでなく様々な機具も置いてある。

何かを作ろうとしていたようだ。

 

「アレですか。さっきまでエリナさんが『海のしおり』を作っていました」

「『海のしおり』? それはまた律儀なことだな。で、その本人は?」

「しおりに入れる4コマ漫画を描いて貰う為にヒカルさんの部屋に行っています」

「こだわりだな」

 

エリナ・キンジョウ・ウォン。

ネルガル会長秘書。

例え簡単な海のしおりでも妥協は許さない。

そんな女。

 

「しかしそうなると当分戻ってこないな」

「そういえばもう3時間程経ちますが戻ってきていませんね」

 

どうやら気付いていなかったらしい。

 

「拙いな…下手すると数日は行方不明だぞ」

「そうなんですか? じゃあ今日の夜勤は静かに出来ますね」

「何時もうるさいからな『南京錠』は」

「…エリナさん、南京錠になったんですね」

「う〜む、だが1人で夜勤も退屈だろう。よし、ならばオレが1つテンカワ家応援歌、全145曲残らず歌ってやろうか? 何気にヒットチャートだぞ?」

「ダメですね。嘘が見え見えです。減点5。さ、もういいですから寝てください」

「…」

 

更に厳しい評価を下す。

アキトはいじけてしまった。

 

「浮気現場はっけーん!!」

「あきとおにーちゃん…ユキナを…む〜…捨てちゃ…ふぁ〜……ダメ……う〜……眠い…」

 

そんなやりとりが行われているブリッジにいつものお子様2人組、ユキナ&ラピス乱入である。

だが時間が時間なのか、流石にラピスはおねむのようだ。

 

「また、騒がしいのが…」

「ルリ! 何か言った!?」

「いえ何も」

 

目線を逸らすルリ。

あまり係わり合いになりたくないらしい。

 

「まあいいか。それよりアキト! 突然居なくなったと思ったらこんな所でルリと逢引してるなんていい度胸じゃない!!」

「逢引とは、また古い物言いですね」

「さあアキト! どういうつもり!?」

「あきとおにーちゃん…言い訳…ふぅぁ〜…考えた?…むみゅ」

 

さり気にルリがツッコミを入れるがユキナは全く聞かず、『ズンズン』と擬音を口に出しながらいじけ中のアキトに迫る。

その横でラピスが援護射撃をするが、眠さのため大して活躍できていない。

 

「いじいじ…っと。まあ待てハテナ、それは誤解だぞ? オレはただラピUの寝相から逃げ出してここに来ただけでやましい事なんぞ何も…はっ!?」

「うるうるうるうるうる…」

 

いじけから即座に立ち直ったアキト。

だがアキトのセリフを聞いたラピスが案の定『うるうる』し出した。

 

「ア〜キ〜トぉ〜?」

「ああああ!? ごめんなさい! もうしません! 今の物言いは誤りでした! 

許して! 後で反省文を原稿用紙10枚分書くから! このとーり!!」

 

頭をぐりぐり床に押し付けて土下座をするバカ兄。

あまりにも卑屈だ。

 

「だってさ。ほらラピス泣かない」

「く〜…むにゃむにゃ」

「…って、寝てるし!」

「ふ〜あぶねぇ…危機一髪だったな」

「うんうん分かるよ。こんな時間じゃ眠いよね〜…ふぁ〜あ」

 

ラピスは眠気の限界に達したのか、立ちながら睡眠タイムに突入。

そこに突如、眠気満々な声が降ってきた。

 

「何だスカじゃないか。居たのか」

「最初から居たよ! もう、アキトったら照れるのはわかるけどずっとそっぽ向いてることないじゃない。ぷんぷん!」

「…いや、本気で気付かなかっただけなんだが」

「そういえばやけに静かでしたよね…さては艦長、さっきまで寝てましたね?」

ぎくっ…ま、まっさかぁ〜あはははは」

 

随分とわかりやすい動揺をしつつ乾いた笑いを上げるユリカ。

しかしよだれを垂らした跡が残っているため、居眠りしていたのはバレバレだ。

 

「プロスさんに報告しておきます」

「そんなぁールリちゃーん…」

 

泣きそうな声を上げながらルリにしがみつきイヤイヤする。

どうやらプロスのお小言&お仕置きが相当嫌らしい。

しかし態度がまるっきり子供だ。

これではどちらが年上なのかわからない。

 

「さて、もういいですよね。いい加減、部屋に戻ってください。」

「ルリちゃーん、無視しないでぇーああー! そ、そのメールは…あああああ、お、送ちゃった…ふぇーん! ルリちゃんのいじわるー!!」

「それに仕事の邪魔です。後、そんな所にラピスさんを置いておいたら風邪ひいちゃいますよ? 早く戻って寝ることをお勧めします」

 

ユリカの制止なんてなんのその。

プロスに報告をしながら帰るように促す。

流石にもう騒がしいのはゴメンのようだ。

 

「あいよ。ほれ戻るぞ」

「それで? 一緒に寝るの?」

「あきとおにーちゃ〜ん…く〜…」

「ぐっ…」

 

ダブルで『じー』っと見つめられ一瞬躊躇する。

ラピスは寝ている為 目は閉じているが。

 

「ちぃっ…わかったよ。寝ればいいんだろ寝れば!」

 

しぶしぶ了承するアキト。

この2人にはどうあっても敵わないようだ。

 

さて、実はこの3人、プロスの計らいで同じ部屋に住んでいる。

『許婚』と『妹』という事でそういうことにしたようだ。

これを聞いた某艦長と某通信士は当然抗議したが速攻で却下。

この時の2人の顔がまさに泣きっ面を絵に描いたようだったらしい。

ちなみにレンナはプロスの隣の部屋で寝泊りしている。

 

「よっし、じゃあ…帰って寝よ…う…あ…あれ…れ?」

 

ぱたっ

 

元気にブリッジを後にしようとしたユキナだが、突然ふらついたかと思うとそのまま倒れてしまった。

 

「ユキナちゃん!?」

「おいどうした? まさか貧血か? だったら倒れる前に先生に断って座らせてもらわないとダメだろう? 恥ずかしがることはないんだぞ?」

「激しく違うと思いますけど…しかしこんな時でもボケるんですね。感心します」

 

イネスを緊急呼び出ししながらツッコミを入れるルリだった。

ちなみにこの時 評価が2点プラスされたらしい。

 

「ん〜…カプカプ」

 

そしてラピスは倒れたユキナの腕を噛み噛みしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ほらほらアキト君、ボケボケしてないでユキナちゃんを運ぶの手伝って」

 

そんな面々に声を掛けるのはブリッジに入ってきた白衣の金髪お姉さまイネス・フレサンジュ。

流石は医療に関しても精通しているだけあって指示を出すのも手馴れている。

 

「イネスさん、随分早いですね…近くに居たんですか?」

「ほほほ、まあ色々とね。さ、アキト君、ラピスちゃんは私が運ぶからユキナちゃんは頼んだわよ」

「へいへい…よっと」

「あ〜!」

 

気のない返事をしながらユキナを抱きかかえるアキト。

いわゆるお姫様抱っこである。

勿論それに過敏に反応するものが約1名いたが、事が事なので声を出すだけのようだ。

 

「うふふ…ルリルリ、OK?」

 

突如ルリの目の前にネグリジェ姿のミナトが映し出された。

しかも含み笑いをしながら。

 

「ミナトさん起きてたんですか…まあ、OKですけど」

「よしよし、偉いわよルリルリ。これでアキト君とユキナちゃんをからかう材料が増えたわね♪ うふふふふ」

 

どうやら先程の光景を後々ユキナとアキトで遊ぶ為に写してもらうよう頼んでいたようだ。

実はこれまでも結構な数の画像が撮られているらしく、

その画像を見せるたびユキナは顔を真っ赤にして照れつつも怒り、アキトは卒倒していたりする。

結構イタズラ好きなミナトだった。

 

「ミナトさん…いじわるですね」

「そう?」

「はい」

 

流石に呆れるルリ。

しかし本人も協力しているので人の事は言えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「風邪ね」

 

医務室に運び込まれたユキナを診断したイネスの第一声がコレだった。

 

「かぜ?」

「なんだ、ただの風邪か。つまらん」

 

ザクッ

ごんっ

 

アキトの一言にイネスは普段から使用しているメスでツッコミを敢行。

そしてイネスが何かしたのか目を覚ましていたラピスもトドメツッコミを炸裂させた。

だが今回のツッコミはいつもと違うエモノを使っている。

 

 

 

 

それは前日の事―――

 

 

 

 

ゴガンッ!

 

「全く。テンカワさん、いい加減にしてくださいよ?」

 

毎度の如くプロスに制裁を加えられるのは当然アキトだ。

今回もソロバンがいい感じに唸っている。

 

「そうよ。だいたいエステにワイヤー持たせてあやとりするなんて何考えてんのよ」

「い、いや…そうすれば少しは細かい動作の上達に繋がるかなぁと…」

『なるか』

 

それを呆れた目で見るのはレンナを初めとする整備班の面々。

そして勿論のことそのエステは指がボロボロになっていた。

怒られるのはむりもない。

 

「ほら、ラピス。ついでだからトドメ刺しちゃえ。私が許すから」

 

ユキナがラピスを促す。

許婚でもやる時はやるらしい。

本当はプロスの後押しがあったからこそなのだろうが。

 

「うん…えっと」

 

しかし困った表情をするラピス。

促されたのはいいが今回はどうやってトドメを刺すか迷っているようだ。

 

「おう、確かラピスちゃんだったか?」

「え? うん」

 

そんなラピスに声を掛けるのは異様な笑顔の整備班長ウリバタケ。

何気にメガネが光っている。

 

「これを使いな。なぁに遠慮はいらねぇぜ? 思う存分殺りな。俺が許す」

「これ?…うん、わかった」

 

とことことこ…

 

「えいっ」

 

がんっ

 

ぴゅーん…ぼすっ

 

おー…ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち…

 

アキト、ゴミ箱にホールインワン。

何気に辺りから拍手が生まれた。

 

「…すごい」

「当たり前よ!これぞウリバタケ特製『変幻自在・不思議ステッキ』だ!威力は押して知るべし!」

「ウリバタケさん…また使い込みをしましたね?」

「うっ…」

 

この後、ウリバタケも制裁を加えられたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

「アキト君、あなたユキナちゃんの許婚ならもう少し気を使いなさい」

「あきとおにーちゃん、ユキナを大事にしなきゃダメ」

「…はいな」

 

そんな訳でメスとステッキのツッコミにおとなしく従うアキトだった。

ちなみにアキトをホールインワンした時はゴルフクラブ。

先程のツッコミはカナヅチに変わっていた。

いったいどういう仕組なのだろう。

 

 

 

 

 

「う〜ん…」

「ユキナ気が付いた?」

「おう、オレがわかるか? ほら思い出せ、オレの名は『ゴンゾー・ギョゥド・オッツンジャ』だ。言ってみ?」

「ラピス、アキト…私、どうなっちゃったの? まさか…し、死んじゃうの?」

 

アキトのボケはスルーされた。

 

「安心しなさい。ただの風邪よ。たぶん先日あんな所で鍋なんかやったせいと普段から滅茶苦茶な生活をしていたせいね。お気の毒さま」

「そ、そんな〜。で、でもなんでアキトとラピスは平気なの〜私と一緒に外でクマ鍋食べてたのに〜。それに夜更かしなんて何時もの事じゃな〜い」

はっ、甘く見るなよハテナ!オレは産まれてから一度も風邪なんぞひいたことないわ!」

「私もない」

 

むんっと胸を張った2人は自慢気だ。

 

「…兄妹だね」

「何を今更」

「うんうん」

「はいはい、その辺にしなさい。今は安静にしているのが1番よ。おとなしく寝かせておきなさい。

 …さてと、幾ら生まれが木星といっても身体の構造なんかは同じだったわよね。

 だったらこっちで扱ってるもOKと。やっぱり風邪をひいたら注射を打たきゃダメよねぇ。ふふふ…」

 

突如 異様な笑いを浮かべながら注射器を取り出すイネス。

かなり不気味だ。

 

「ア、アキトー! 助けてー!!」

 

おもいっきり逃げ腰になるユキナ。

だが身体をイネスに抑えられているためベッドでジタバタするのみだ。

 

「ハテナ…迷わず成仏しろよ」

「ユキナ、運が良ければ助かる」

 

胸の前で十字を切りながら見届け体勢に入る兄と妹。

 

「ふふふふふ、言いたい放題ねアナタ達。ついでだからこの特製ビタミン剤打ってあげようか? サービスするわよ?」

 

ブンブンブン!

 

猛烈な勢いで首振るボケ兄妹。

息ピッタリだ。

しかしサービスとは何をされるのだろうか。

気になる所である。

 

「そう、まあいいわ。ほぉ〜ら、腕を出して〜チクッとするわよ〜。大丈夫、一回打てば後は気持ちよ〜くなるから。うふふふふふふふふ」

 

「ひ―――――――――――――――――――――ん!」

 

ユキナの悲鳴が響き渡る真夜中の医務室だった。

 

 

 

 

 

「い、生きてる…人生ってスバラシイ」

「おい、ハテナのやつ、注射で人生の素晴らしさを噛み締めてるぞ」

「よっぽど怖かったんだね」

 

こういう恐怖の対象はいつもイネスだった。

 

「さて、注射は打ったけど風邪が治ったわけじゃないわよ。暫くは絶対安静。当然今度の任務で立ち寄る海もお預け。ご愁傷さま」

「え〜!…げほげほ」

「ユキナ、無理しない」

「そうだぞ。寝とけ寝とけ。大丈夫、ラピUはベン子のやつが面倒を見てくれるだろうからお前はそこでふて寝してろ。

 オレ達は心行くまで海を堪能してきてやるから。そうだな、みやげは貝殻とヤシガニとラフレシア取ってきてやるか」

 

心配しているのかいないのか判断に悩むセリフだった。

しかもレンナのあだ名をおもいっきり小さく言ったのは強力無比のツッコミを警戒しての事だろう。

 

「う〜…私も遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい 日焼けしたい 遊びたい

 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい

 遊びたい アキトを悩殺したい 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい

 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい

 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい 泳ぎたい 遊びたい

 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい

 遊びたい 遊びたい 浜辺でカキ氷食べたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい

 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい 遊びたい

 遊びたい 遊びたい 遊びたい 夕日を眺めてラヴラヴしたいー!…げほげほ」

 

「う、うるせぇ…」

「あきとおにーちゃん…どうするの?」

「医務室では静かにしてくれないかしら」

 

ジタバタ暴れるユキナを傍目にアキトとラピス、イネスが相談に入る。

しかし普段もそうだが、こういう所はまだまだ子供だ。

 

「で、どうするのアキト君」

「ぬぅ…だが、風邪っぴきの状態で海なんぞ入ったら間違いなく悪化するぞ?」

「そうよねぇ」

「でも置いていってらユキナずっとうるさいよ?」

 

背後ではユキナがまだ唸っている。

 

「う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜

 う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜

 う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜

 う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜

 う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜う〜新婚旅行が〜!…ごほごほ」

 

「…そうだな」

 

サイレンみたいな声をあげるユキナを見て流石に折れたようだ。

 

「ハテナ」

「なに〜」

「外に出たいんだな?」

「うん」

「出るだけだぞ?」

「………うん」

「間が無かったか?」

「気のせい」

 

ぷいっと横を向き否定する。

 

「目を見て話せ」

「じー」

「…数ミリ単位で近づかないように」

 

少しでも動くと唇が触れてしまいそうな距離だ。

 

「…よし、わかった。なんとかしよう」

「ホント?」

「ああ」

「わ〜い、アキト大好き!」

「…そ、そうか…」

 

アキトの胸にダイブするユキナ。

またこの時アキトは強烈ダイブと熱い抱擁のダブルパンチで半分以上意識を飛ばしかけていた。

 

「それであきとおにーちゃん、どうするの?」

「ま、まあなんとかなるだろ。考えとく…ハ、ハテナ、離れろ…」

「や〜

「がんばって、あきとおにーちゃん」

「やれやれ、ごちそうさま」

 

上機嫌のユキナだが、もし考えつかなかったらどんな目に合うのか想像し難い。

もはや逃れられないアキトだった。

 

 

「あ、そうそう。あなた達には予防注射 打っときましょうか。風邪が移ったら大変だしね♪」

 

「「え゛」」

 

この数秒後、再び医務室より悲鳴が上がったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アキトぉーユキナちゃん風邪だって? 大丈夫?」

 

あれから数時間。

ユキナの看病をしながらアキトはラピスに協力してもらい、どうやってユキナに海を堪能させるか考え中。

そんな3人の下へあの後の事が気になったのか勤務交代をしたユリカが顔を出しにきた。

 

「む? スカか。ああ、ただの風邪だからな。寝てりゃ治る…おとなしく寝ていられればな

「…なんだか引っ掛かる言い方だけど…まあいいや。でね? お仕事終わって手が空いてたからお粥作ってきてあげたよ?

「な、何!? お前が作ったのか!?」

「うん!」

 

満面の笑みを浮かべながら手元にあった土鍋を差し出しつつ元気いっぱい頷くユリカちゃんハタチだった。

 

「…おいスカ」

「何、アキト?」

「………『お粥』を作ったんだよな?」

「そうだよ?」

「じゃあなんでお粥から真っ黒い湯気が立ち上ってるんだ?」

「ちょ、ちょっと失敗しちゃった。でも大丈夫! 見た目は悪いかもしれないけど味は保証するよ!」

 

恐る恐るといった感じで確認するアキトにエッヘンと胸を張りながらブイサインをかますユリカ。

得意気だ。

 

「ほ〜………どれ、ちょっと見せてみろ」

「うんいいよ。それじゃあ、ちゅうもーく! それっ」

 

半目で全く信用していない表情をするアキトに見せつけるよう勢いよく土鍋の蓋を開ける。

途端に医務室中に異臭が充満した。

 

「ぐぉ!?」

「…くさい」

「げほげほげほげほげほげほげほ!」

「みんなどうしたの?」

 

ユリカ以外の3人は鼻を摘み一時的にその匂いから退避した。

ユキナは風邪で咳き込んでいるため、余計苦しそうだったが。

そしてそんな面々の前に現れたユリカが言うお粥は――――

 

「お、おいスカ」

「何?」

「これは本当にお粥か?」

「そうだよ」

「ほほぉ…この灰色でドロドロな絶望的物体がお粥ねぇ…」

「アキト、これはお粥って言ったじゃない。絶望的物体じゃないよ」

 

アキトの言う通りソレをお粥と言ったら世間一般の常識を覆すことになりかねない代物だった。

そしてアキトはユリカの声に耳を貸さず、何かを考え始めた。

 

「……!……そ、そうか。これは毒かっ!」

「…え?」

「なるほどな…いつも繰り広げられるハテナの独占を見るに見かねて悩んだ末、決定したのがハテナの毒殺か…落ちたなスカよ」

「な、何を言ってるのアキト!? 幾らなんでもそれはないよ!」

 

アキトの物言いを否定するユリカ。

本当にお粥を作ったのだから当然の反応だろう。

 

「そうか。まあそうだろうな。確かにこいつの天然ぶりからいったら毒殺なんていう高度な事は出来んか…よし、スカちょっと貸せ」

「え? どうするの?」

 

ユリカの疑問を無視し自称お粥をひったくる。

 

「ラピU」

「あきとおにーちゃん、何?」

「確かインフレ姉さんがゴホ?さんから預かっている金魚があるって言ってたな?」

「うん、あそこ置いてある」

「よし…」

 

金魚鉢の前に来るとアキトは意を決して土鍋の中に鎮座している物体にレンゲを伸ばす。

途端、刺激臭がより強くなり流石のアキトも一瞬ふらつくがそこはなんとか踏みとどまった。

そして金魚がふよふよ泳ぐ金魚鉢に自称お粥を一塊落としてみる。

 

ジュワァッ!

 

「…な、なんと…き、金魚が…」

「アキト、金魚はお粥 嫌いだと思うよ?」

「違う」

「それに水槽に酸なんて入れない方がいいよ? ほら金魚が溶けちゃった

「だから違う!…それより、スカ」

「何?」

「やっぱ毒じゃねーかこれ!」

「ひ、酷いよアキト! 幾らなんでも毒なんて作らないよ!」

「バカ言うな! ならば何故これを入れた瞬間、金魚が消えるんだ!? どう考えても猛毒だろうが! いったい材料は何だ!?」

「で、でも普通の食材を使ったんだよ? えっと確か、イナゴと…」

「その時点で間違ってるぞ!?」

「え? どこが?」

「わからんのか…しかしお前、何を血迷ったら普通の食材からこんな猛毒が作れるんだ?」

「あ、あはははは…」

 

笑って誤魔化す天然爆発ユリカ。

どう答えたらいいかわからないようだ。

 

「あきとおにーちゃん…コレどうするの?」

 

ラピスが自分と寝込んでいるユキナの鼻をつまみながらアキトに困った視線を向ける。

勿論コレとはユリカが作ったお粥だ。

 

「即廃棄。以上」

「ええー!? 折角作ったのに…」

「毒をな」

「う〜」

「そんな目で見てもだめだ。これは食いもんじゃねえ」

「じゃあ代わりにコレはどうですか?」

 

突如背後より別の女性の声が掛けられた。

 

「ぬお!? メナード何時の間に!?」

「たった今です」

「気付かなかった…」

「私も…」

「ドアの開く音しなかったのに…」

 

一同、メグミが突然現れた事に唖然。

 

「ま、まあいい。それでメナード、何を持ってきた?」

「はい、風邪の時はこれが一番! 特製玉子酒メグミエディションです!

 

『バーン!』といった風に差し出された湯飲みには異様に泡立つ液体が並々と注がれていた。

 

『玉子酒?』

「はい♪」

 

誇らしげに胸を張るメグミ。

何だか嬉しそうだ。

だがその玉子酒はユリカのお粥といい勝負が出来るくらいに凄い色をしていた。

 

「ちょっと貸せ」

「あ…」

 

今度は自称玉子酒をひったくり先程の金魚鉢に1滴垂らしてみる。

 

ガキンッ!

 

途端固い音が響いた。

 

『…』

 

痛い沈黙が医務室に流れる。

 

「…おい、メナード」

「はい」

「『玉子酒』だよな?」

「…はい」

「ならば何故水が一瞬にして凍るんだ?

 

金魚鉢の中に入っていた水はものの見事に氷に変貌を遂げていた。

しかも冷気がモワモワ噴出している。

いったいどんな化学反応が起こったのだろうか。

 

「……北極の名残でしょうか?」

「んなわけあるか…という訳でこれも即廃棄決定」

「…はい」

 

流石に人の飲めるモノとはメグミ自身も思えないらしく素直に認める。

しかしこの2人はこんな物をどうやって作ったのだろう。

それに持ってくるまで気が付かなかったのだろうか。

謎ばかり残る物体と液体である。

 

「とにかく、気遣いは感謝するがハテナのやつは安静にしているのが一番だ。今は静かにしておいてやってくれ。

 ほら、お前らは出てけ出てけ。それに風邪が移ったら大変だろうが」

「うん、そうだね。じゃあユキナちゃん、お大事に」

「はい、わかりました。ユキナちゃん後で代わりにお花持ってくるからね」

 

意外と素直なユリカとメグミ。

ユキナに一言残し去っていった。

 

「…さて、オレもコレを処分してくるか。ラピU、ハテナを頼んだぞ?」

「う、うん」

「…」

 

 

数分後、仮眠から戻ってきたイネスが見たものは、

風邪に加えて自称料理の匂いにやられ、息も絶え絶えになり痙攣をしているユキナ。

限界だったのか、再び眠りに落ちたラピスのユキナを腕をパクついてる姿。

そして金魚が居なくなり、代わりに水が氷と化し冷気をモクモクと出す水槽。

更に部屋中に充満する異臭だった。

 

「…………………………………………………………………………ホワイ?」

 

 

【ミ〜ン、ミ〜ン】

 

そんなイネスを見てかオモイカネが何故か蝉の鳴き声をする夜明け前。

妙に哀愁が漂っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、この毒物いったいどこに捨てたもんだか…お?」

 

うろつくアキトの目線の先にはカップラーメンをすすりつつ黄昏る人物が1人。

 

「おうアジ副長」

「ん? なんだテンカワか。何か用かい?」

「いや、特に用という事はないんだが…夜食か?」

「ああ、食堂はまだ開いてないからね」

「ふ〜ん…」

 

そんなジュンを見つつ自分の手元に視線を送ってみる。

 

「…それは何だ?」

「これか? これはスカとメナードが作ったお粥と玉子酒(自称)なんだが今のハテナには少々(かなり)つらくてな。仕方ないから捨てに行くところだ」

「スカって…ユリカの料理!?

 

ユリカという言葉に即座に反応し大声を上げるジュン。

まだ夜明け前なのにうるさい限りである。

 

「おう。スカが作ったお粥(自称)とメナードが作った玉子酒(もどき)だ」

「す、捨てるのか?」

「ああ、ハテナは食えんし、オレも大して腹は空いていない…欲しいのか?」

 

ジュンの目線がお粥に集中している事に気付き試しに聞いてみる。

我が意を得たとばかりにコックリと頷く。

 

「…まあ別にいいが」

「ほ、本当か!?」

「元々捨てる気だったし…だがこれは…」

「いや何も言うな! 言いたいことはわかっている! とにかく遠慮なく貰うぞ! 後で返せと言われても返さないからな!」

「別に返せと言うつもりは無いが…」

「ありがとうテンカワ! 初めてお前がイイ奴に見えたよ!」

「初めてか」

「よし部屋でゆっくり堪能するか! じゃあなテンカワ! あ、この残りのラーメンやるよ!」

「あ、ああ貰っておく…そうそう助言はしておくぞ。胃薬は必ず用意しておけよ?」

「じゃあな!」

 

アキトの助言を聞いているのかいないのか土鍋を抱えスキップをかましながら顔を春爛漫状態にして去っていくジュン。

 

「…まあ、オレが死ぬわけじゃねーし…有害物質を1つ処分出来たから良しとしようか」

 

無責任もいいところだった。

 

 

 

そして数分後。

ユリカの自称お粥を持ち去ったジュンはというと――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぼぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

地獄の底から響いてくるような悲鳴を上げ昇天していた。

 

しかしその顔は満たされていたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? 今 何か聞こえなかった?」

「そうですか? 別に聞こえませんでしたけど」

「そうかな〜まあいいや。あ、ねえねえメグちゃん」

「なんですか?」

「さっきの奇妙な溶岩どうやって作ったの?」

「それは私のセリフです。艦長こそあんな黒いアメーバどうやって作ったんですか?」

 

もはや料理名ですらなかった。

 

「私は普通に作ったよ? ちゃんと食べられる材料も使ったし…」

「私もですよ?」

「じゃあ何で?」

「さあ?」

「「う〜ん………………………あ!」」

 

何か思いついたようだ。

 

「そういえば私アレ入れたんだった」

「私もアレを入れたんでした」

 

 

「「イネスさんから貰った白い粉」」

 

 

それが原因に他ならない。

 

「でもアレ元気になるって聞いたから入れたんだけどな〜」

「私も病気に効く薬だっていうから入れてみたんですけど…」

 

根本的に薬の使い方を間違っていた。

 

「まあイネスさんだし」

「そうですね。イネスさんだし」

 

自分のしでかした行為を棚に上げまくったセリフを吐く2人。

どうやら元々自分達が作ったモノに多大な問題があるとはカケラも思っていないらしい。

 

 

そんな会話を一言一句聞き漏らさずに見つめる者が居たとはこの時の2人は夢にも思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、後はこの玉子酒らしきものをどうにか処分するだけか…とりあえず食堂の生ゴミ置き場に置いとけばいいかな…ずずず」

 

ラーメンをすすりつつ食堂に向かうアキト。

だがその食堂からは明かりが漏れていた。

どうやら誰かが調理室を使用しているようだ。

 

「ん? 誰だ?」

「あ? なんだテンカワかよ」

「お、おうテンカワだ…だからその物騒なエモノをしまってくれると全世界が歓喜に包まれるぞ。一刻も早く退けてくれ」

「そうだな。わりいわりい」

 

刀を納めつつアキトに謝罪するリョーコ。

突然背後に近寄られたので反射的に刀を振り回してしまったようだ。

アキトの前髪がいい感じに斜めにカットされているのはご愛嬌だろう。

 

「それで、何してんだこんな所で? 辻斬りの練習なら鍛錬室だぞ?」

「何で俺が辻斬りの練習なんかしなくちゃなんねーんだよ…まあいいや。

 実はちょっと小腹が空いてな、軽く何か作ろうかと思って使わせてもらってるんだ」

「そ、そうなのか? 別に自販機のラーメンやハンバーガーでもいいような気がするが?」

 

目の前に突き付けられた切先に目線を集中させてリョーコに問うアキト。

脂汗ダラダラだった。

 

「ダメダメ。あんなんじゃ食った気しねーよ」

「そんなもんか」

「そんなもんだ。で、おめーは何しに来たんだ?」

「ああ、ちょっと毒物の処分に」

「は?」

 

フライパンと刀を持ちながら一瞬硬直するリョーコ。

 

「まあ気にするな」

「お、おう…さて、こんなもんか」

「ん? 何を作ったんだ?」

「ああ、冷や飯があったからな。チャーハンを作ってみたんだ」

「ほお、チャーハンね…どんなチャーハンなんだ?」

「どんなって普通のチャーハンだぞ? 見りゃわかるだろ?」

「普通? バカを言うな。だったら何で調理場が竜巻が通った後みたいになってるんだ?」

 

見渡してみれば昨日見た調理室とはかけ離れた景色だった。

冷蔵庫は開け放たれ、食材は散乱し、調理器具のほとんどは原型を留めておらず、食器は破片の山になっている。

ホウメイが見たら卒倒するのではないだろうか。

 

「あーこれは俺じゃねーよ。こりゃあ前に使ってた艦長とメグミの仕業だ」

「なるほど」

 

納得だった。

 

「…それと、この真っ二つになったまな板とか壁の切り傷は何なんだ? 随分と良い切れ具合だがこれもあいつ等の仕業か?」

「いやぁすまねえ、それは俺だ。包丁がなかなか上手く使えなくてな。

 使いなれたものならいけるだろうと思ってで野菜切ってたらそうなっちまった。わりい」

「………………………ほぉ」

 

流石のアキトも返す言葉が見つからないらしい。

 

「さてと…お、そうだテンカワ、ちょっと味見してみてくれねーか? 一応お前も料理人だろ?」

「ふっ…オレの舌は肥えてるぞ? そんじょそこらのチャーハンなんぞ食わせた日にゃフリスビー犬に調教することになりかねんがいいのか?」

「なんだかよくわかんねーが…とりあえず食えっ!」

「むぐ?」

 

無理矢理アキトの口にチャーハンをほおり込む。

 

「どうだ?」

「………………………………………ぐばっ…」

 

とてっ

 

「ありゃ?…おいテンカワ?…あー瞳孔開いてるわ。こりゃダメだな」

 

後頭部をポリポリ掻きつつアキトの惨状を眺めるリョーコ。

倒れ伏したアキトは軽めに痙攣し、口から泡を吹き、おまけに魂が抜けかかっていた。

 

「おっかしいなぁ普通の食材を使った筈なんだが…もしかしてさっきイネスさんが持ってきた白い粉

 入れたのが拙かったか? う〜ん、そういえば何に効くか聞いてなかったな。あ、使い方も聞いてねえや。あははは」

 

イネスの謎の粉はここでも活躍していた。

 

「あーあ、こりゃ食えねえな…仕方ねえや。自販機ですまそう」

 

使ったフライパンと食器を適当に処理し、アキトを医務室に運ぶという案は浮かばないのかそのまま食堂を後にするリョーコ。

このままではアキトに死神が降り立ってしまう。

 

「…ぐ…お…」

 

いや、かろうじて復活しそうだ。

 

「見つけたぁ! あんたベン子言ったでしょ!? オモイカネから聞いたわよ! このボケナス!!」

 

どがぁ!!

 

そんな所へどこから現れたのか、随分前に言ったアレに対して地獄耳レンナの強力ツッコミがアキトに炸裂しトドメを刺さしてしまった。

 

 

そしてアキトは朝一番で出勤したサユリに見付けられるまで毒殺撲殺死体のままだった。

勿論大騒ぎになったのは言うまでもなく、調理室の参上を目の当たりにしたホウメイガールズは悲鳴を上げ、ホウメイは卒倒し、

この日は食堂が臨時休業となってしまうという事態に陥ったが代わりにプロスがラーメンの屋台を出して事なきを得たとか。

 

また、アキトが持っていた玉子酒もどきは何時の間にか蒸発していたらしい。

本当に謎の液体である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まだまだ改良の余地アリと」

 

無数に開いたウィンドウをコーヒーを飲みながら傍観する白衣の女性。

 

「ふ〜…私の部屋があんな事になっていたから何事かと思えば…まさかあんな風にしちゃうとは流石は艦長。

 それにメグミちゃんとリョーコちゃんもやるわね。侮れないわ」

 

不敵な笑みを浮かべながら今回の惨状を記録し始める。

 

「ふふ…ルリちゃんに頼んでオモイカネを使って正解だったわ。こんなに楽にデータ取りが出来るなんて」

 

どうやらジュンの至福の時。

ユリカとメグミの会話。

そしてリョーコとアキトのやりとり。

他にも諸々、全てをオモイカネを通して見ていたようだ。

 

「さてと、じゃあ次はこの『サンプルNo.047』で行きましょうか…うふ…うふふふふふ…

 

【…イ、イネスさん…】

 

不気味な笑みを浮かべるイネスを見ていたオモイカネのウィンドウカラーは真っ青だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお翌日、ユリカとメグミが忽然と姿を消した。

だが何故か誰も気にしなかったらしい。

勿論、2人がどうなったかは誰にもわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バカばっか」

本当にそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなわけで海です!」

「海ですね!」

「そうね、海ね〜」

「はい、海です」

「海…」

 

上からユリカ、メグミ、ミナト、ルリ、ラピス。

その中でもユリカとメグミは異様なほど元気だ。

行方不明になった翌日、なにくわぬ顔で出勤していた2人だが昨日の記憶は何故かすっぽり抜け落ちていたらしい。

しかしどうしてかわからないが疲れが吹っ飛んでおり気分も爽快。

それでやけに元気という訳である。

 

 

 

あれから数日、木星蜥蜴の襲撃も特に無く、無事次の目的地『テニシアン島』に到着したナデシコ。

ここは赤道直下の南の楽園。

前回の北極圏とは全く逆の場所だった。

こんな所に来たらお騒ぎ好きのナデシコクルーは黙っちゃいない。

お嬢様の救出はエステ隊に全部押し付け他のクルー『後方待機』という名目で海に残り海水浴に突入した。

勿論エステ隊の面々は不満を漏らしたが『艦長命令』の一言で却下。

仕方なく代表2名が保護に向かう事になり、代表選びをジャンケンで行った。

 

そして選出されたのは――

 

「ちっくしょぉぉぉぉぉ! そんなのアリかよ!?」

 

熱く叫ぶ男、ガイと。

 

「…バカな、ジャンケンの使徒たるこのオレが…何故だ?」

 

呆然としながら膝をつくアキトだった。

 

 

「そりゃあおめえ、ルールを先に聞かない方が悪い」

「そうそう。悪い悪い〜」

ポロロ〜ン♪

「ふふふ…残念無念。一致団結の勝利〜」

「まさしくだね。多数決。民主主義バンザイかな」

「物凄く卑怯のような気がしますけど…」

 

2人が選ばれた訳。

それは2人が一番先に勝った瞬間 他の面々(イツキ除く)がこのセリフを言ったからだ。

 

 

『じゃあ真っ先に勝った2人が頑張って救出してきてね♪』

 

 

言ったもん勝ちだった。

 

 

 

「何故だぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「そうだ。これは夢だ。ったく、あの変なチャーハン食ってからどうも夢見が悪いんだよな。さて目を覚ますには…雨乞いをすればいいんだったな」

 

とにかく2人でGOである。

 

 

 

 

そんな2人は置いといて他のクルーは終始ご満悦。

 

女性クルーの水着姿を眺めながら海を堪能するもの。

 

肌を焼きながら男性を悩殺するもの。

 

騒ぎすぎて浜辺に埋められるもの。

 

屋台を開き伝統を残そうとするもの。

 

こんな所でも仕事をするもの。

 

それぞれの楽しみ方でナデシコ内とは違った息抜きを楽しむ面々だった。

 

 

 

そんな中――

 

「うう…どうしてこうなるの〜」

「ユキナ…変」

「仕方ないわよね。風邪の時はおとなしく寝てるのが1番」

 

未だ風邪が治らないユキナは何故か海岸で布団を広げ寝ていた。

どうやらアキトの考え付いた海を堪能しつつ安静にする方法はこういう事らしい。

違和感タップリだ。

 

「暑い〜」

「安心して、ちゃんとウリバタケさん特製の扇風機をかけるから。あ、ちなみに電力はタダよ? 

なんせナデシコのエンジンを使ってるからね。プロスさんの許可も取れたしOKOK」

 

ウキウキしながら準備をするレンナ。

しかし豪快な扇風機だ。

 

「これじゃぁナデシコの中と変わらないよ〜げほげほ」

「とにかく寝てなさいね。あ、それとその水枕には海水使ってるから。ほら堪能堪能♪」

「何か間違ってる〜」

「ユキナ、はい」

「あージュースだーありがとーラピス〜ちゅー」

「それにその飲んでるジュースに入ってる氷も海水よ?」

「あぅぅ…しょ、しょっぱい…」

「レン…これはちょっと…」

「…ま、まあ私もそう思ったけどアイツが『これならハテナのヤツも納得だ!』って自信タップリに言うから…とにかくユキナちゃん。お大事に♪」

「海〜」

 

布団の中で海を堪能するユキナだった。

 

 

 

 

 

 

そしてユリカの料理に殺られたジュンはというと――

 

「ゴートさん その程度ですか!? まだまだ甘いですよ!!」

「ぬぅ…」

 

ビーチバレーで大活躍していた。

 

「…アオイ君、元気だね」

「なんだか何気に黒光りしてねぇか?」

「それにちょっと筋肉質になっているような…」

ポロ〜ン♪

「元気元気〜アオイ君、今日の君はマッチョッチョ〜」

 

なんとジュンはイネスの薬とユリカの料理の作用で別の生物に生まれ変わっていた。

摩訶不思議である。

 

「ポッ…素敵」

「…イツキさん、ああいうのが好みなんですか?」

 

世の中は本当にわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? ねえねえラピスちゃん、アキトは?」

 

海遊びも一段落したのかアキトを探すのは水着姿のユリカ。

だが当の本人が見当たらない。

そこでアイスのナメナメしているラピスならわかるだろうと聞いてきたわけだ。

 

「あきとおにーちゃん? 知らない。さっきまでここにいたんだけど」

「そうなんですか? 折角一緒に散歩しようと思ったのに」

「メグちゃん、いつの間に…」

「ふふふ、抜け駆けは許しませんよ?」

「アキトは私の許婚だってば〜…」

 

ユキナがぶっ倒れている為、ここぞとばかりにしゃしゃり出てきたようだ。

 

「アキトー? どこに行ったのー? この前の賭けで勝ったお金で水着を新調したんだよー?」

「アキトさーん、ほーら美味しいバナナがありますよー出ておいでー」

「…あきとおにーちゃんって猿?」

「あ〜それっぽいかも」

 

酷い話である。

 

「あ、アキトなら例のお嬢様救出に向かったらしいですよ。さっきイツキさんがそう言ってました」

「え、レンナさん、本当ですか?」

「あれ? でも確かエステ隊の皆さんで行く筈じゃあ…」

「なんでもジャンケンで代表を選出したらしいですよ? 残りは無人兵器が出た際の守りということらしいです」

「そうかーアキトはジャングルの中か…じゃあ仕方ないね。お仕事だもん」

「そうですね仕方ないです」

「そうそう。頑張って稼がないとね」

「あきとおにーちゃん、頑張りやさん」

「アキト〜布団の中から応援してるよ〜」

 

 

 

 

 

 

そんな声援を受けているとは露知らず、探索に出かけているアキトとガイの2人はというと――――

 

 

 

 

 

「はっはっはっ、オレは王者だ!」

「よぉーし! 秘密基地は俺が見つけてやるぜ!」

 

ジャングルを徘徊していた。

やけに元気だがどうやらヤケクソでハイテンションになったようだ。

 

「帰り道なんぞ後回し! さぁ未だかつて誰も見たことのない秘境よ! その姿を現せ!!」

「囚われの美少女よ待ってろー! このヒーローたる俺、ダイゴウジ・ガイ様が助け出してやるぜ! 燃える展開だぁー!!」

 

迷ってもいるらしい。

だがそんな2人の目の前に突如 奇妙な光景が現れた。


「うぉわ!? な、なんだこりゃ!?」

「うむぅ…ここは古代か? 何気に恐竜が住まう時代気取りか?」

 

2人の目の前には何故かうようよ蠢く植物が盛りだくさん。

しかも全部巨大だった。

 

「おいアキトどうするんだ? これ以上は先に行けそうにないぜ?」

「ヤジン、今こそお前の力を発揮する時だぞ?」

「…なに?」

「ヒーローは弱き者を助け、常に矢面に立ち人々の盾となって護るんだろう?」

「お、おお、そうだが…」

「ならばヒーローのお前が今ここでそれを実行しなくてどうする!? 今こそお前が道を切り開く時だろう!!」

 

ガガ―――――――――ン!

 

「へ、へへへ…そうだったな…俺は何を戸惑っていたんだ? ヒーローにはどんな苦難にも立ち向かう勇気が必要不可欠。

 そしてヒーローたる俺はそれを持っている!」

「そうだ! 行け! 応援してるぞ!!」

「よっしゃぁぁぁぁぁっ!見てろよアキトぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

ズドドドドドドドドド……!!

 

雄叫びを上げつつ植物群に突っ込んでいくガイ。

勇ましい限りである。

 

「…さて、オレはこっちの道から行くか」

 

遠回りを選択するアキト。

どうやらガイは遊ばれたようだ。

 

 

 

 

 

「しかし随分と鬱蒼とした所だな。右も左も上も下もわからんぞ…ん? 下?」

 

アキトが下を向くとそこには――

 

「グッバイ、オレ」

 

地面が無かった。

 

「のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

雄叫びを上げ急行直下で落ちていく。

と、そんなアキトの眼前に1つの人影が目に入る。

 

「おーいそこの人ー」

「…え?」

「今オレを受け止めてくれるともれなく『ふるさと小包セット』が当たるぞー」

「あら、それは良いですわね」

「じゃあ宜しくー」

「…よっと♪」

 

サッ

 

ズボォォォッ!!!

 

アキトは派手な音を立てて地面に激突。

普通なら死ぬ所だがたまたまその辺りは枯葉が溜まっており多少なりのクッションとして役目を果たした。

お陰で無傷ではないが生きてはいる。

 

「…て、てめぇ…避けやがったな…」

「あら、だって私は受け止めるとは一言も言ってませんもの」

「…なるほど」

「それで、いったいアナタは誰なんですか? それにどうして空から降ってきたんですか?」

「その疑問に答えるにはまずオレを掘り起こすことが重要課題だ」

「そうですね。下半身だけではお話ししづらいですから。

 …え〜と、では掘り起こす道具として、ショベルカー、削岩機、ダイナマイト、スコップ。どれがお好みですか?」

「…………個人的にショベルカーには嫌な思い出があるし、削岩機とダイナマイトはオレが肉片と化すので却下。という訳でスコップを推薦する」

「良かった♪ スコップしか持っていませんでしたの」

「…とにかく頼む」

「はい♪」

 

しばらくサクサク掘り起こすこと数十分。

ようやく頭が見えてきた。

 

「そろそろどうですか?」

「ん〜…よっと!」

 

ボコッと音を立てアキトの頭が久方ぶりに地上に現れる。

アキトには太陽がやけに眩しく感じた。

 

「ふぃ〜どこの誰だか知らんが助かった。礼は何がいい? オレが勧めるのは…」

 

ドガァッ!!

 

げぶっ!? い、いきなりタックルをかますとは…なかなか大胆な馬鹿野郎様だな。いや、もしやプロレスごっこをするのが礼か?」

「ふふふ、そういう所は変わってませんね」

「なぬ?」

「お久しぶりです。アキトさん♪」

 

アキトの胸に飛び込んだ女性が顔を上げる。

その顔を見た瞬間アキトは絶叫した。

 

 

 

「ア、アクのお嬢――――――――!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキト…とアクのお嬢(?)の運命はどっちだ!?続くような続かないような思わなくも無きにしも非ず。

 

あとがきです。

こんにちは、彼の狽ナす。

え〜前回のあとがきで次回はあのお人の登場と書きましたが出たのは最後の方で少しのみ。

ほとんどはユリカとメグミとリョーコの料理&イネスの暗躍でした(爆)

ちなみに言えばユリカとメグミは別格としてリョーコは少し料理が出来ます。

今回のはイネスが原因です(汗)

 

さて、いよいよ登場アクのお嬢(笑)ことクリムゾン家の問題児、アクア・クリムゾン嬢!

元々ヒロインにする予定(現時点ではユキナがヒロイン)だったので結構細かい設定が有ったり無かったり(笑)

とにかく次回はこのお方中心でお話が動きます。

そして他にも構想を着々と練りだし中ながら描き出し執筆中です。

頑張って書きます!

ではっ

 

追記

前回の『絶えるんだ!』は絶えた方が楽だぞ〜という意味です(爆死)

 

 

代理人の感想

例によって例の如くのイベントな訳ですが・・・・メグミが作ったのは液体窒素かなんかでしょーか?(爆)

ユリカのお粥はお粥でジュンを人体改造してるし。

その内頭髪がなくなって脳天に穴があいたり真っ黒なバッタ男になったりしないかなぁ、楽しみ心配だなぁ(爆)。

 

 

>元々ヒロインにする予定だった

なに〜〜〜〜〜〜〜っ!?(爆)

あの性格のままヒロインになるアクアって史上初だったんでは!

つーか、初登場時のリアクションからしてアキトの同類という可能性も!

取りあえず次回に期待だ!(おい)

 

>絶えたほうが楽

・・・・・さいで。