「それは真か山崎」

「ええ。真も真、本当のマジもんです」

「そうか…」

「そうそう北辰さん、いい加減に本来の任務果たしてくださいね。

 私怨も結構ですけど僕としては早いとこ研究の続きしたいんですから」

「わかっておる。そう急かすな」

「本当に頼みますよ?

 成功したら北辰さんの身体を元に戻してもいいかな〜なんて思ってるんですから」

「…貴様、やはりわざとか?」

「は? なんのことやら? 北辰さんってもしかして妄想癖あります?

 とにかく頑張ってくださいね。じゃあ僕はまだ仕事がありますのでこの辺で。健闘を祈ってますよ〜」

 

満面の笑みを浮かべながら通信を切る山崎。

もはや何も映さない画面を見つめながら北辰はほくそ笑む。

 

「全くあやつは…くくくっ…だがアレが完成したのならば奴等に…」

「そういえば北辰さん」

「…山崎、人のセリフを途中で遮るな」

「あーすみませんね。ちょっと言い忘れたことがありまして」

「何だ?」

「アレなんですけどこっちで勝手に送っちゃっていいですか?

 いつもの主バッタバージョンアップパーツと違って今回のは大きめですからシャロンさんの所には送れないんですよ」

「好きにしろ。

 あの小娘の顔を見ないで済むのならむしろありがたいくらいだ」

「おやおや…じゃあ後で適当な所から送りますね」

「…いや、待て山崎」

「は? 何かご不満でも?」

「そうではない。送り先は後程こちらで指定する」

「そうですか? じゃあ待ってますよ…あ、それとですね、

 アレの操縦者は彼にやってもらうことになりましたから」

「…使えるのか?」

「ええ、本人鼻血を噴出しながらやる気満々でしたよ?」

「……………それは色々な意味で大丈夫なのか?」

 

思いっきり不安気な表情をする北辰だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伝説の3号機

その39

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポンポロペンペン…♪

ペペペペペペペ…♪

 

ここは格納庫。

どこからともなく軽快な音が聞こえる。

 

「…何やってんだお前ら?」

 

その音を聞きつけてきたのはリョーコだ。

音の発生源はアキトとイズミ。

何故か2人でウクレレを弾きまくっている。

 

ポロン♪

「ふっふっふっ…再利用」

「は?」

ポロロン♪

「つまり、リサイクル」

「はぁ?」

パペン♪

「タマゴ、それを言うならリサイタルのリハーサルだ」

「…」

「「失礼しましたー♪」」

 

ウクレレを弾きながら退場する2人。

どうやら絶好調のようだ。

空気の凍りつき具合がそれを物語っている。

 

 

「あれ? リョーコこんなとこで何してんの? クリスマスパーティーの出し物決まったの?」

「…」

「うわ、目開けたまま気失ってるよ…もしかしてピピッと何かきた?」

 

リョーコは数十分ほどあっちの世界を垣間見たらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、突然なんだけど」

「本当に突然ですね」

「おいおい早くしてくれよ? クリスマスパーティーの準備がまだ途中なんだからな」

「ねえねえレンナちゃん。プレゼント交換用のやつ、決まった?」

「いえ、まだなんですけど…やっぱりあっと驚くような物がいいですよね」

「ははは、レンナ君の感覚であっと驚く物だと普通の人は気を失う所の騒ぎじゃないかもしれないね」

「そんなものオレは絶対にいらんがどうしてもというなら貰ってやる。

 オラァ! さっさとよこしやがれぇ!!」

「アンタのはないわよ」

「バカなぁ!?」

「アキトにはちゃーんと私がプレゼントあげるから安心して。ほらほらブリッジしながら驚愕の表情しない」

「あきとおにーちゃん…私もあげる」

「おお…神は私を見捨てなかった…!」

「「それは大げさ」」

 

「…い・い・か・し・ら・?」

 

『いつでもどーぞ』

「…」

 

ムネタケちょっと陰を背負う。

前回といいこのやりとりでよくわかるものだ。

 

「皆さん、これはちょっと重要な話なので真剣に聞いてください。

 特にテンカワさんは人一倍よーく聞いてくださいね?」

「くっ! 弱酸性だな!?」

「…なんの話だテンカワ」

「もういいから黙ってください。ではお話の続きをどうぞ」

「うむ、用件は単純だ。

 いつまでも戦艦に民間人を乗せておくわけにはいかない…という訳で君達を正式に徴兵することになった」

『え〜〜〜〜〜〜っ』

 

1人の軍人から語られた一言に不満の声が上がる。

クリスマス気分で終始浮かれ気味のナデシコがヨコスカに入港したのはつい先程。

それと同時に全クルーが軍施設に集められた。

その理由は先程述べた通りクルーの徴兵だ。

 

「ほほほ、本来ならあなた達を全員解雇するところだけどこの私が軍に掛け合って頼んであげたのよ。 感謝しなさい」

「無駄提督? もしもし無駄提督? ここは人間界だぞ無駄提督?

 早くお家に帰ってお熱計っておねんねした方がよいと思うぞ?

 幻想は寝てから言え」

「誰が無駄提督よ! 全く相変わらずのバカっぷりねテンカワ。

 あ、そうそう。あんたクビだから」

「はぅ!? なんで!? 一週間前の夕食の盛り付けに火の付いた爆竹を入れた事が原因か!?」

「………そんなこともあったわね」

 

ムネタケはコメカミをひくつかせながらアキトを睨みつけた。

無論アキトは全然気にしちゃいない。

 

「君の行動はあまりにも一貫性に欠ける。

 今までの行動を見る限り百害あって一利なし。

 ナデシコを降りてもらうのが1番妥当だろう」

「嘘!? オレってそんなにダメ!?」

『そうだな』

 

さらりと言いのけるクルー一同。

 

「うぁ! フォローの1つも無しかよ!」

「そうだよ皆! それじゃあアキトが可哀想だよ!」

「おお! 流石はオレの許婚! いいぞ!」

「いいところもあるんだよ? ねえラピス?」

「うん。あきとおにーちゃん優しい」

「おお、もっと言えもっと言え」

「そりゃあ普段からブレイクダンスしながら掃除したり、料理をするのに材料を一旦風呂に入れてみたり、

 エステで個人メドレーしてみたり、ナデシコの一室を丸々水槽にしてみたり…とにかく……え〜と…楽しいの!」

「深いんだか薄っぺらなんだか微妙ですね」

「ルリ、きつい…」

 

結局フォローにならなかった。

 

「今更弁解の余地無しよ。

 代わりのパイロットやコックなんて幾らでもこっちで用意するわ。

 だからさっさと出ていきなさい。

 ま、世間様の迷惑にならない程度に生きていくのね」

「そんな! 提督それじゃあアキトがあまりにもかわいそうです!」

「そうそう! オレがかわいそう! ほらこのつぶらな瞳を見て」

 

流石にアキトの事に対しては黙っていられないのかユリカが反論した。

その後ろではなんだかんだ言いつつもユリカと同様に他のクルーも口々に叫んでいる。

 

「黙りなさい! これは決定事項なの!

 いい? あなた達も別に無理に乗っていなくてもいいのよ?

 不満があるなら降りてもいいんだからね。

 勿論監視付きでだけど」

「む〜なら私も降りる! アキトとはずっと一緒なんだから!」

「私もあきとおにーちゃんと一緒」

「お、お前ら…ちきしょう。

 あなどれんな全く!

「「なんで?」」

 

哀れ、アキトはナデシコをクビになりユキナ達と共に退艦することになってしまった。

 

「じゃあ私も!」

「艦長はダメです」

 

哀れ、ユリカは降りられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アキトさん、ちょっといいですか?」

 

ここはアキトの私室。

あれからアキト達は退艦の準備をするため部屋で荷造りをしていた。

 

「そっちへ行ったぞ!!!」

「了解っ!!」

「まかせてっ」

「ちぃっ!? これくらいの物などぉ!!」

「!! アキト危なーい! 避けてー!!」

「あきとおにーちゃん…!」

「ぐぉぉぉぉぉぉ! …………へっ、やっちまったぜ…ハテナ、ラピU…もし親父達会えたら言っておいてくれ。

 お前の息子は最後の最後に…勇者になった…と…」

「アキト…そんな…いや━━━━━━っ!!!

「うわぁぁぁぁぁん!」

「………あのー」

「ん? なんだメナードか。

 悪いが今ちょっと手が離せんのだ。

 と言うより身体が動かんのだがな。あっはっはっは」

「もーアキトったらもう少し気をつけて荷物積んでよね。

 ただでさえ量が多くて大変なんだから」

「ごちゃごちゃ」

 

一応荷造りはしていたようだが、その掛け声はあまりにも世間一般とはかけ離れていた。

 

「とにかくだ、さっさとこのカリフラワー畑に肥料を撒いて交通安全祈願しなければな」

「アキト、家族の幸せも祈ってよね」

「ついでに合格祈願も」

「………あの、アキトさん。

 少し外せませんか? ちょっとお話したいんですけど」

「六法全書を読みながらで構わんのならいいぞ?」

「……………器用ですね」

 

肥料袋とお札と六法全書を持ちながら右往左往するアキトを呆れた目で見つめるメグミ。

だがもう慣れっこなのかツッコミも軽めだ。

 

「ん〜? メグミさんアキトに話って何?」

「え? えっと…まあ色々と」

「な〜んか怪しいなぁ〜…じとー」

「じとー」

「な、何でもないって。ホントホント」

「まあまあ2人共。これからお別れなんだから積もる話もあるんでしょ。

 変に勘ぐらないの」

「レン…うん、わかった。でもメグミさん、ちょっとだけだよ?」

「じゃあ、あきとおにーちゃん貸してあげる」

 

何時の間に現れたのか、レンナが2人をなだめる。

しかしアキトはすっかりユキナとラピスの所有物に成り下がったようだ。

哀れ以外のなにものでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アキトさん、本当に出ていっちゃうんですか?」

「ああ、オレがスパイ容疑で監視されているとわかった以上ここにはいられないさ」

「違います」

「…そうだな。

 確かにオレは少々やりすぎた。

 プさんに荷造りの手伝いを頼んだら何故か渡されたのがボストンバック…

 つまり、お前の方がお荷物だと言いたいんだな? あっはっは! 面白れえなオイ!」

「人の話聞く気あります?」

「あるぞ。さあ、さっさと用件を言え。

 事と次第によっては逮捕も考えうるぞ?」

「アキトさん、本当に行っちゃうんですか?」

「…無視しやがったな?」

「確かにアキトさんの行為はかなり飛びぬけてますけど、それはナデシコを守ろうとした結果がたまたまあんな事になっただけじゃないですか。

 どうして素直に聞き入れて出て行こうとするんですか?」

「メナード、オレが言えることは1つだけだ」

「え…?」

「永遠の眠りに誘われるのは御免だ」

は? あのさり気に線香を取り出して火を灯されても…いったい何事ですか?」

「頼むから安らかに眠ってくれ…化けて出ようなんて鬼畜な考えおこしたら想像を絶する恐怖がお前を襲うからな」

「…つまり何が言いたいんですか?」

「旅に出ます。探さないでください」

「……………えっと……話は変わりますが」

「な!? そこで変えられたらオレの今までのセリフが台無し!」

「じゃあちょっと残して話を変えます」

「…結局変わるんじゃねーか」

 

アキトの戯言を無視してメグミの話はまだ続く。

やはり結構図太い性格をしているのかもしれない。

 

「アキトさん、ナデシコを降りるのは確かに決まったことですし今更どうしようもないのかもしれません。

 でもこれだけは聞かせてください。

 …アキトさん、もし私も一緒に降りると言ったらどうしますか?」

「…愚問だな」

「………そうですか。

 すみません変なこと聞いて。

 そうですよね。もうアキトさんには心に決めた人がいますし…」

「ほら、オレってこう見えても意外とシャイだからさ、いきなり…って、おい。

 聞いてんのか?

 しかも今、なんだか不穏当な発言がなかったか?」

「もう何も言わないでください、全部わかりましたから。

 あーあ…私はもて遊ばれただけなんですね…」

「ちと待てい」

「いえ、いいんです。

 別に慰謝料を請求しようとか、

 私の時間を返してとか、

 アキトさんの恋愛対象は結構低年齢?

 とかそんなやさぐれた事言いませんから」

「おもいっきり言ってるぞ

 更に聞き逃せんセリフもあったような気が…」

「アキトさん…ユキナちゃんを幸せにしてあげてくださいね。

 まあ他に数名アキトさんを狙うハゲタカのような人達が居ますけど挫けずに!」

「いや、その数名と接触した場合オレの生存確率は大幅に激減する」

「私は新しい出会いを探します。

 でもアキトさん忘れないでくださいね?

 メグミ・レイナードという素晴らしくも儚い女性が居たことを!」

「誰がなんだって?」

「色々ありましたけど…これで全部許してあげます♪

 せーの…」

 

バチィィィィン!

 

「……………………かはっ」

「ふふ…じゃあアキトさんサヨウナラ〜っ

 お元気で〜……あースッとした

 

笑顔を向けながら陰で涙を拭いつつアキトの元を去るメグミ。

手に握られているお約束な限りの目薬は今のアキトには全く見えていない。

 

「…首が動かん」

 

アキトの顔は真横を向いたまま固まっていた。

余程のスナップを効かせた平手だったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえレンはナデシコに残るの?」

 

休憩室の片隅でジュースを飲みながら話をするのはユキナ、ラピス、レンナの3人。

どうやら今後の事を話しているようだ。

 

「うん。本来ならユキナちゃん達と一緒に居るのがいいんだろうけど、

 アキトとユキナちゃん、そしてラピスちゃんの3人の中に私はお邪魔みたいだし」

「レン、そんなことない」

「…ありがとうラピスちゃん。

 でもね本当は違うの」

「違う?」

「私ね木連の真実や地球での戦いを間近で見ていて思ったの。

 目を背けないで最後まで見届けたいって」

「それって…」

「わかってる。私に何が出来るってわけじゃないし何もわからないかもしれない。

 でもね、ナデシコに乗っていれば少しでも本当の真実やそれ以外の何かが見えるような気がするの」

「レン…」

「だからかな…でも安心して?

 ナデシコは今地球で1番強い艦だっていうし、何より頼りがいのある人達もいるしね。

 だからそう簡単には死なないわよ。

 それにユキナちゃんとラピスちゃんには毎日メールを書くから。

 あ、そうそう。先生がアキトに次の働き先を見つけておいてくれるって。

 住む所もネルガルが用意してくれるらしいよ?

 だから今後のことは心配しないで。

 別にね、アキトの側に居ると毒されて自分が自分でなくなるような気がするとかそういうんじゃないから!

 ホントよ!? ホント! あ、今さり気に疑いの目で見なかった!?」

 

どうやら本命は最後のセリフのようだ。

余程追い込まれているのかもしれない。

 

「うん、わかったよ。

 だから涙目にならないでレン、信じるから。

 でも…本当に連絡頂戴ね? 忘れちゃダメだよ?」

「わかってるって。

 ユキナちゃんもあのとーへんぼくを宜しくね?」

「まーかせて! 最近じゃあアキトの扱いにも慣れてきたんだから!

 私生活の面もバッチリ面倒見てあげるよ!」

「私も見る」

「ふふ、頑張ってね」

「何を頑張るんだ? ベン子の部屋に何気に置いてあるダイエット完遂表の見直しか?」

 

ガゴッ!!

 

「あーら居たのアキト。

 ゴメンネ〜? 空き缶をごみ箱に入れようとしたら手元が狂っちゃった♪」

「て、てめえ。今の絶対わざとだろう…ん? おお、首が治った」

「さあて何の事やら。

 そんなことよりアキト、ユキナちゃんとラピスちゃんを頼んだわよ?

 いいわね、命の灯火が尽きるまでしっかりとね!」

「はっ、言われるまでもないわ! 任せろい!」

「おお、アキト頼もしい〜」

「あきとおにーちゃん、かっこいい」

「はっはっは。オレは元から逞しくも頼りになる強い男だ!」

 

「「いまいち信用できないけどね」」

「あきとおにーちゃん嘘つきだし」

 

「…」

 

アキトは陰を背負った。

 

「ま、とにかく頑張りなさい。

 もしユキナちゃんとラピスちゃんに何かあったら私のツッコミと、先生のソロバンと、

 アンリさんのバイクと、ワタリさんのボケとその他諸々が黙っちゃいないわよ?」

「肝に銘じる! どれもこれも脅威だからな!」

 

アキトにとっては父のボケも十分ダメージを受けるらしい。

 

「和やかな雰囲気のところ悪いけどちょっといいかしら?」

「あれ、エリナさん? どうしたんですか?

 確か今日はネルガルの子会社に顔を出す筈じゃあ?」

「ええその予定よ。

 でもそこにはテンカワ君達にも来て欲しいのよ」

「何? オレも?

 ……改造手術とかをするんじゃないだろうな?」

「大丈夫大丈夫。

 滅茶苦茶にしたり、ぐちゃぐちゃにしたり、ぐりゅぐりゅかき回したりしないから安心して♪」

「はい先生。

 今聞いてはいけない発言があったと思います」

「私も聞こえた」

「こわい…」

「エ、エリナさん?」

「大丈夫だったら!

 とにかく…四の五の言わず付いて来なさい! いい!?」

「イエス、マム!」

 

敬礼をし直立不動で固まる。

エリナの眼光はそれほど鋭かった。

 

「あ、ついでに白鳥ユキナ、ラピス・ラズリ。それにフクベ・レンナの3人にも来て欲しいんだけど」

「私達も?」

「大丈夫、それほど時間は取らせないわ」

「はぁ」

 

首を傾げつつもエリナの後に続く。

そのままアキト達はネルガル傘下の会社、アトモ社へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プ、プロスさ〜ん…まだあるんですか〜?」

「まだまだです。

 クルーの徴兵に当たって艦長が目を通さなければならない書類は山ほどあるんですよ。

 これが終わるまではクリスマスパーティーには出れませんから頑張ってください」

「そんなぁ〜…」

 

いつもならアキトの元へ真っ先に顔を出す筈のユリカは書類の山に囲まれ身動きが取れないでいた。

プロスの監視の目が光っている限り脱出は不可能である。

 

「ぱーてぃ〜」

「はい、口を動かす前に手を動かしてください!

 ついでにこの決済書にも目を通してもらいますか。

 そういえば先月の被害報告書もありましたね。

 あ、そうそう。今度の会議の議題案も出して頂かなければ…それに…」

「ふぇ〜ん、アキトー助けて〜」

 

ユリカのクリスマスはまだ遠い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたわよ」

「あきとおにーちゃん…生きてる?」

「おーい、アキトー返事しろー」

「これ位でくたばるなんてだらしないわね」

「…」

 

だがアキトに反論する程の余力は残されていなかった。

実はエリナの車は4人乗り。

当然5人も乗れる筈がなく、非常手段としてアキトにロープを巻きつけ『車で引きずって行こう』という案が可決されてしまった。

勿論、アキトはアトモ社に着くまでの間ずっと引きずられHPは一桁になっている。

 

「…」

 

復活にはもう少しかかりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポロン…♪

「ふっ…」

 

「う〜ん、なんだかイズミちゃん黄昏てるね〜」

「ほっとけほっとけ。何考えてんだかわかりゃしねえよ」

 

ポロロン…♪

「折角のネタが…」

 

イズミの手に握られている『極選! ギャグ100連発』と書かれた紙切れが風になびいていた。

おそらく2人組用のネタを考え出しておいたのだろう。

 

ペロン…♪

「テンカワ君…これどうするの…?

 2人でナデシコを笑いのるつぼに落とすんじゃなかったの?」

 

「…ねえリョーコ。あの紙切れさ、闇の彼方へ滅した方が良いって言われたんだけど」

「誰に聞いたんだよおめぇは…。

 でもその意見には賛成だ。全力で奪取するぞ」

「ナデシコの危機は事前に回避しなきゃね!」

 

ポロン…♪

「竹馬の友…ではありません」

 

イズミのウクレレが寂しげに響く。

背後に迫る魔の手に気付きウクレレアタックを敢行したのは2秒後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変な形の会社ですね」

「ホントだ。三角になってる」

「ピラミッド…?」

「ほほほ、この社のデザインは私が手掛けたのよ? いいでしょ〜」

「で、スフィンクスはいらないのか?」

「それも必須ね」

「本当にいるのか!?」

 

どうやらこの辺り一帯は数年後にエジプトと化すらしい。

 

「無駄話してないでいい加減中に入りなさいよ」

「あれ、イネスさん? どうしてイネスさんがここに?」

「あーきっと同類の匂いを嗅ぎ付けてきたんだろう。

 やれやれ、インフレ姉さんも落ちたものだな」

 

キュッ

 

「ほらこうやって親指で喉笛を押さえつけて他の指で頚動脈を押さえればどんなやんちゃな子でも一発で静かになるのよ♪」

 

イネスの説明講座・実演編でものの見事に落とされる。

復活には今しばらくの時間が必要なのだが時間があまり無いとの事なので、またも引きずられていく白目を剥いたアキトの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは!?」

「次元跳躍門!?」

「…盗んだ?」

「お巡りさん事件です! 今すぐ来てこいつ等をゲットしてください!

 あ、返さなくても結構ですので」

「少しは落ち着きなさいよあんた等は」

 

アキトが再び復活したと同時に別室にてエリナは1つのモニターを映し出した。

そこに映るのは紛れもなくチューリップ。

広々とした部屋の中央にそれは置かれており、無理矢理拘束しているように見える。

 

「アレはネルガルである研究をする為に捕獲したのよ」

「ほー誰があんなばかでかい物を?」

「私♪」

『嘘ーっ!?』

「方法は秘密♪」

 

流石はあの会長の秘書だ。

本気で謎だらけである。

 

「で、そのある研究ってなんですか?」

「それは『ボソンジャンプ』と呼ばれる技術よ」

「『ボソンジャンプ』?」

「実際にあなた達はその光景を目撃している筈よ?

 木連の兵器が送られてきている様子。

 クロッカスの火星での発見。

 ナデシコの火星から月への移動。

 どれもこれも『ボソンジャンプ』が使われているのよ」

「それって…跳躍技術…」

「そうね。木連では既にその技術を使い世界各地に無人兵器を送り込んでいる。

 その事であなた達を呼んだの」

「え?」

「あなた達は木連へ行き、その技術を目の当たりにしてきた筈よ。

 流石に深いところまでは知らないでしょうけどわかるところだけでも教えて欲しいのよ」

「そんなこと言われても…私達はあっちでは捕虜の扱いでしたし、軍部へは逃げ出す時に行っただけで情報なんて何も…」

「どんな些細な事でもいいのよ。

 教えてくれたらプロスペクターから話があったようにテンカワ君には職と住まいを、

 他の2人にも教育機関への入学手続きやその後の生活の保障も全部こっちが面倒を見るわ」

「交換条件ってこと?」

「そうよ。それに今のご時世、後ろ立てがなきゃろくに生活する事もままならないわよ?

 それにあなた達には常に監視が付くことになっている。

 それを軽減することも可能よ? 勿論協力次第だけど」

「…脅迫ですか?」

「あら、それは誤解よ。

 私はビジネスをしているだけに過ぎないわ。

 とにかく手を貸してくれるだけであなた達の未来は明るいものになるのよ?

 ねえ、いいと思わない?」

「…なるほどな。オレ等から聞き出した情報を元にその技術を完成させネルガルは一儲けしようって魂胆か。

 ナイス度胸とだけ言っておこう。

 でも何かを投げつけたいな。桃缶でいいか?」

「コンビーフの缶程度にしておいて。でもね、一儲けなんてレベルじゃないわよ?

 この技術をモノにし、更に現在の無人兵器を送るという術だけでなく人も送れるようになればこの戦争にも勝利できる。

 そうなれば人類は飛躍的に進歩をすることが出来るわ!

 そして私はその立役者として永遠に語り継がれるの!

 見えるわ! 私の輝かしいロードが!」

「えー、南京錠が妙な呪文を呟いているのでほおっておこうと思う」

「その方がいいわね」

「賛成」

「さんせー」

「右に同じ」

 

エリナは一先ず部屋の隅で妄想にふける事になった。

 

「で、インフレ姉さん。オレらがここに呼ばれた本当の理由はなんだ?

 話をするだけならここに呼ぶ必要は無いだろう?

 もしかしてここに風流を持ち込む為にわざわざオレを…?」

「違うわよ。…アキト君、あなたナデシコを降ろされたでしょ」

「ああ、オレの価値がわからないアホゥどもが勝手に決めたことだがな。

 全く、聞かされた時はみんなビックリ仰天だったぞ。まあ俺もビックリドッキリだったが」

「いや、どちらかというと殆どアキトのせいのような気も…」

「あきとおにーちゃん迷惑かけっぱなし」

「先生が被害計算をしている時の背中が目に浮かぶわ」

 

ちなみにプロスが胃薬とソロバンを握らなかった日はない。

 

「そこでアキト君の新しい職場がここというわけ」

「なぬ?」

「え、ここ?」

「あきとおにーちゃんここで働くの?」

「イネスさん、言っときますけどアキトに研究なんてやらせたら間違いなく死活問題に発展しますよ?」

「大丈夫よ。アキト君に協力は仰ぐけど何かを作らせるわけじゃないから。

 さっきエリナが話したように色々と協力してもらいたいのよ。

 大丈夫、私もここに残るから」

「え…それじゃあ…まさか…?」

「そう、察しがいいわね」

「そ、そんな…もはやバッドエンド決定ということか!?

 心の奥で激しく警報が鳴ってるぞ!!

 ち、ちきしょう…こんなことになるならもう一度ウズラの卵が名刺になるところを見ておくべきだった…」

「それはいったいどういう意味かしらアキト君?

 できるならじっくりと説明してほしいわねぇ」

「で、何をすればいい?」

 

瞬間的に話題を摩り替える。

背後で避難しかかっていたレンナ達は思わず拍手をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『かんぱーい!』

 

その頃のナデシコはクリスマスパーティーに突入。

各自コスプレをしたり、ゲームをしたりなどやりたい放題。

徴兵されても全然変わらないのは流石はナデシコクルーといえよう。

 

「んじゃ改めて…」

 

『いっぱいいっぱーい!』

 

「乾杯じゃないのか!?」

「みなさん結構追い込まれてるんですねぇ」

「プ、プロスさん…終わりました」

「では艦長、次はこの艦内アンケートに目を通してください。

 不満を聞くのも艦長の勤めですよ?」

「ふにゃぁ〜〜〜〜…」

 

「艦長…不憫ですね」

「ユリカの場合自業自得ですよ…」

 

ジュンとイツキは何気にイイ雰囲気をかもし出している。

そんな空気に当てられたのか周りのテンションは更にヒートアップだ。

 

『ざんぱーい!』

 

「…みなさん…それは私に対する当てつけですかぁ〜?」

 

『しっぱーい!』

 

ユリカのクリスマスはもう無理なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビーッ! ビーッ! ビーッ!

 

「何事!?」

「まさか敵襲!? こんな小会社に攻めてくるなんて…!

 あなた達! ボケっとしてないですぐに戦闘態勢を整えなさい!

 バトルの開始よ! 銃を持て!!」

「エリナさん、落ち着いて!

 うわわ! なんですかその妙にグロテスクな銃は!?」

「先生! 南京錠の目が尋常じゃないです!」

 

警報が鳴ったと同時に臨戦態勢に入るエリナ。

目は既にイっていた。

顔も般若と化している。

 

「た、大変です! 地下のチューリップが…!」

「くっ! 背後からの伏兵ですって!?

 もう、援軍はまだなのっ! ここはもう奴等のテリトリーの一部なのよ!?

 でもこういう状況だからこそ女は燃えるのよねっ!

 標的は地下チューリップに絞り込むわ!

 さあ…戦闘開始よ!

 そこの衛生兵は後方に待機して! グズグズしない!!」

 

プスッ

 

「誰が衛生兵よ。誰が。

 さて…と、静かになったところで状況を教えて頂戴」

「は、はぁ…実はチューリップからボソン反応が…」

 

研究員の言葉が最後まで発せられる前に突如激しい揺れがアキト達を襲った。

 

「伏せて!!」

 

イネスの声が響いたと同時に凄まじい爆発が辺りを包み込む。

次の瞬間、そこは瓦礫の山と化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビーッ! ビーッ! ビーッ!

 

「何事ですか!?」

「決戦です」

「意味がわかりません!」

「じゃあショウタイムです」

「もっとわかりません!

 いったい誰ですか!? ルリちゃんにお酒飲ませたの!?」

 

突然の警報にてんやわんやになるナデシコクルー。

先程のまで狂乱パーティーが一転してただの混乱になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パーティーでかなり出来上がってしまったナデシコクルーだが、どうにか出撃準備を整えエステバリス隊が先行することに。

だがそこで見たものに誰もが驚きの色を隠せないでいた。

 

「へっへっへ〜俺の刀の錆になりたい奇特野郎はどこだぁ〜?

 ああ〜腕が鳴るぜぇーっ! を見せろーっ!!」

ギュピーン!

「うそ!? まだコンタクトしてないのにもう来ちゃったの!? 早いよアンドロメダからの使者さん!!」

ポロ〜ン♪

「ふふふ…今の私はちょっと機嫌悪いわよ…?

 私の熱いプラトニックを注入して欲しいなら別だけどね…うふふふ…ひゃーひゃっひゃっひゃ!

「リョ、リョーコさんとヒカルさんとイズミさんがもうダメですーっ!!」

「いや、何時のも事じゃないのかい?

 でもこの3人、酒が入ると相当たち悪いね…」

んなこたぁどうでもいいんだよ!

 1番の問題は目の前のアレだろうがっ!!」

 

唯一状況を的確に判断していたガイが前方から迫る巨大な人影を指差す。

それは今まで散々見てきたあるアニメに出てくるロボットにそっくりな物体だった。

 

「な、なんですかアレ!?」

「驚きましたなぁ〜まるっきりゲキガンガーではないですか」

「もしや木星蜥蜴の新兵器か?」

「あらまぁ、蜥蜴ちゃんも随分とお茶目な兵器を作ったもんね〜」

「あそこの人達ってあのアニメが聖典ですからね。

 アレくらい作ってもいいんじゃないですか?」

「な〜にをのんびりとお喋りしてんのよ!

 さっさと迎撃に出なさい!!」

「しかし提督、ここは街の真っ只中です。

 流石にグラビティー・ブラストは使えません。

 だからエステバリスで迎撃に…」

「そんなのん気な事言ってる場合じゃないでしょ!?

 だったらミサイルでもなんでも撃ちこみなさ…い?

 

カパッ

 

「あーれぇーっ!!

 

ムネタケ、ナデシコに消ゆ。

 

『………』

 

突然の出来事に沈黙するクルー一同。

 

「うるさいので排除しました」

【害虫駆除対策は万全!】

 

連携の勝利だ。

 

「いや、ルリちゃん? いくらなんでも落っことすことはないんじゃないかと思うんだけどな〜」

「何を寝ぼけたこと言っているんですか艦長。

 『邪魔なモノは排除せよ』と誰でも子供の頃に先生から習うじゃないですか」

『習いません』

 

酔っ払いルリもやっぱり強かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だぁーもう! なんなんだよこいつはっ!」

「確かにこれはちょっと面倒だね!」

「どうするんですか!? このままじゃあ街が全壊してしまいますよ!」

「うるぁーっ! 逃げるなーっ!! 斬らせろーっ!!!」

ピキーン!

「ダメ! ダメだよ!! そんなにα波を出したら君の身体が…!!!」

ポロロ〜ン♪

「へーっへっへっへ…もしかしてアナタは自然発生したの?

 ならいいわ…天然素材が好きでんねん…ひゃーっはっはっは!」

 

半分混乱しながらも新たな敵に対し攻撃を仕掛ける面々。

だがその攻撃は未だ一発も当たっていない。

 

「そこだ! …くそっ! また消えやがった!」

「瞬間移動する兵器なんて本当にとんでもない物を作ってくれたもんだね彼らは!」

「でも1体だけなのが幸いです!

 いくら凄い兵器でもこれなら私達だけで足止め出来ます!」

「なまっちょろいこと言ってんじゃねぇよ!

 武士なら一刀両断!

 情け容赦無用だぁーっ!!」

ギュピーン!

「はっ! みんな! アレ、なんだかおかしいよ!? いつものと感じと違う!!」

ポロン♪

「私もそんな気がするわ…なんて言えばいいのかしら…そう『ハヤシライス』と『ビーフストロガノフ』くらい違う」

 

『いや、それ微妙』

 

「いえ、それなら『から揚げ』と『竜田揚げ』くらいの違いを表現してもらいたいですね」

 

『そっちも微妙』

 

思わずダブルで突っ込む。

 

ポロ〜ン♪

「あなた達、誰に突っ込んでるの?」

「え? あれ? そういえば今の声って…?」

「うん? この周波数は普段使っていないものだね」

「なんだなんだ? 援軍か? それとも敵の増援か? どっちにしろ斬るけどな…!」

キピーン!

「ま、まさか邪教集団の長が出向いてきた!?

 わわわ! まずいよ! まだ儀式の準備終わってないよ!!」

「ヒカルよ…一回殴っていいか?」

 

突然の声に戸惑いを隠しきれない一同。

それに対し、謎の声は変わらず話しかけてくる。

 

「先程から気になっていたのですが…もしやそのロボットは彼が乗っていたものと同じ物では?

 すみませんがそちらに白鳥ユキナという超絶美少女とラピス・ラズリという結構可愛い幼女

 フクベ・レンナという限りない程の恐女とテンカワ・アキトというウルトラ弩級バカいませんか?」

 

『な…!』

 

アキト達の名を出され驚きの表情を浮かべる。

 

『なんて的確な表現!』

「でしょう?」

「そこじゃないでしょ!? しかもかなり過剰な表現がありましたよ!?」

 

イツキのみ冷静に突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲホッ…みんな無事?」

「は〜い、なんとか〜」

「こっちも無事です…」

「全然無事じゃねぇ」

 

揃ってそれぞれの無事を確かめる中、アキトのみ何故かボロボロだった。

 

「いい? 一瞬の判断力が戦場で生き残る秘訣よ?」

「は〜い」

「余計な事を覚えるなハテナ。そして教えるな南京錠。

 というより…オレを盾にして瓦礫の落下を防ぐな!

 さすがに死ぬかと思ったぞ!!

「まあまあアキト。

 アキトのお陰でみんな無事だったんだから文句言わない」

「そうよ。珍しく役に立ったんだからもっと誇らしげにしてもいいのよ?」

「そうか? なら…って、騙されるか!」

「はいはい、お喋りはその辺で」

「そうよ、なにはともあれ皆無事なんだし…あら?

 ラピス・ラズリはどうしたの?」

「あら、そういえば見当たらないわね」

「え? ま、まさかこの瓦礫の下敷きに…?」

「そんなっ! ラピスー! どこー! 返事してー!!」

「ラピUどこだー? ほらー出てこーい。

 魂の抱擁してやるからー」

 

それぞれ散り散りにラピスの探索を行う。

だが何処を見てもあるのは瓦礫のみ。

幾ら探せども見つからず絶望感が漂い始めた時、その声は響いた。

 

「ラピス・ラズリはここだ」

 

突然聞こえた声に辺りを見回す面々。

その声はそこに居る全員に聞き覚えのある声だった。

 

「え? どこ?」

「上よ!」

「あ! あいつ!」

「懲りない奴ね〜」

 

上空を見上げるとそこには主バッタにまたがる北辰の姿。

かなり威風堂々としている。

 

「くくく…また会えたな…と言いたい所だが今回はこれで終いだ」

「あーいいよもう、テメェはいい加減郷里に帰ってくれ」

「……言われんでも帰るわ。土産を持ってな」

「土産? それよりラピスは!? ラピスはどこ!?」

「ここに居るではないか」

 

北辰が後ろを指差すとそこにはロープでグルグル巻きになったラピスの姿があった。

猿轡も噛ませているので喋れずにジタバタしている。

 

「む〜む〜!」

『ラピス!?』

「貴様! 誘拐なんてそんな事お父さんは許しませんよ!

 今なら怒らないから降りてきなさい!!」

「…戯言に付き合う気など無い。

 我の本来の任務はラピス・ラズリの奪還。

 貴様も同時に抹殺出来ればと思っていたが…致し方あるまい。

 奴がナデシコを引き付けている間に引かせてもらおう」

「む〜!」

「ラピスー!」

「北辰! ラピスを離しなさい!」

「今離せば情緒酌量の余地は有るわよ!

 あなたには黙秘権と弁護士を呼ぶ権利があるわ。

 まず正当な流れにのっとり…」

「ふ…」

 

騒ぐ面々の言葉を無視し北辰が微かに笑った瞬間、主バッタが淡い光に包まれる。

七色に輝くそれはエステバリスの相手をしていたロボットと同様の光だ。

 

「え!? なにあれ!?」

「まさか…ボソンジャンプ!? 跳んで逃げる気!?」

「そんな…生体ボソンジャンプを既に完成させたというの!?  これでは我が軍の勝利が…」

「エリナさん…もうその辺で。さて、アキト出番よ」

「おお! 何か手があるのかベン子!」

 

ゴガン!

 

「ベン子言うな!」

「こんな時もツッコミを忘れない君に乾杯…って、おいおい何をする気だ?」

 

気が付けばアキトの身体は何故か変な筒の中にあった。

 

「ふっふっふっ、これこそ以前の失敗を考慮し新たに開発された究極ツッコミ兵器!

 『常識不要・ハイパーツッコミランチャーVer2・特盛エディション』よ!!」

「帰る」

「という訳でミサイル役はあんた」

「嫌じゃぁぁぁ! またこんな役嫌じゃああああぁぁ!!」

「やかましい! ラピスの命運がかかってんのよ!?」

「アキト、頑張って! ラピスの亡骸なんて見たくない!」

「アキト君、あなたならやれるわ!」

「テンカワ三等兵、もし殉職しても二階級特進してあげるから安心して」

「…いや、連れ帰るだけなんだが…聞いてるか?」

 

北辰の呟きは無視された。

 

「いーやーじゃ━━━━っ!!!」

「うるさいわね…ユキナちゃん」

「うん! ええい!」

「ハテナぁ! 貴様裏切ったなぁ!!」

 

暴れるアキトをユキナがお得意の縄術で縛り付ける。

ラピスとお揃いのグルグル巻きにされたアキトが抗議の声を上げているが完全に聞かない方向だ。

 

「とにかくラピスを連れ戻す! いい!?」

「アキト! 信じてるからね!!」

「よーし、準備はいい? いくわよー?」

「OK。発射10秒…も待ってたら逃げられちゃうんですぐ発射!」

 

ズガン!!

 

「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

勢い良く飛び出す弾丸アキト。

主バッタ目掛けて一直線だ。

 

「よーし!」

「成功ね!」

「キリキリ飛びなさい!」

「アキトーしっかりー!」

「ぬぅぅ! このまま死んでなるものかぁ! お前も道連れじゃああああ!」

 

散々暴れたのが功を奏したのか上手い具合にほどけたロープをアキトはぶん投げた。

 

がしっ

 

「へ?」

 

びゅーん…!

 

「きゃあああああああああ!?」

「レ、レンー!?」

「アキト君ったら、レンナちゃんを巻き添えにするなんて…後でプロスさんが怖いわよ?」

「こうなったら2人で特攻よ! 見事勲章を勝ち取りなさい!!」

 

猛スピードで主バッタを目指しながらもみくちゃになる2人。

レンナは本意ではないのでさすがに泣きっ面だ。

 

「アキト━━っ!! やっぱりアンタはいつか殺━━━すっ!!!」

「ふはははははは! 1人で死んでなるものかぁ!」

「…悪役のセリフだぞそれは……もう行くぞ主バッタ」

 

流石に呆れる北辰。

その声と共に主バッタの体がより輝きだし辺りの空間が歪みだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「跳躍」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキト…とレンナ、そしてラピスの運命はどっちだ!? 続くような続かないような思わなくも無きにしも非ず。

 

あとがきです。

こんにちは、彼の狽ナす。

とにかく続くであります大佐!(爆)

 

 

さて、全壊…もとい前回の代理人さんの感想にて…

 

>何故『超合金親分ロボ』なのか、製作者には色々問い詰めたいところ

 

はい、これですが何故親分なのかという誰もが疑問に思うところ。

実は私の中でプロス=親分の図式が成り立ったのは今から半年以上前のこと、

『伝説の3号機 その1』の感想をノバさんから頂いたのが始まりでした…

 

>プロスが親分みたいでイカス

 

瞬間的に決定です(爆)

 

 

そしてもう1つ。

 

>ラピスがミカンならユキナは鏡餅で、直列合体してお供え餅になるというネタは駄目ですか?

 

もう全然OKです。

ついでに誰かに門松とおせちと獅子舞とお年玉と巫女さんとおみくじにもなってもらいましょう。

ただ…正月限定ネタなので3ヶ月先の話ですが(爆)

…でも出すかどうか結構きわどい(爆死)

 

 

最後に。

 

>まさかこの作品のアキトに付き合っていると、読者の方までアキト化していくのでは!?

 

…これを書いている私は既に後戻り出来ませんが?(泣)

 

 

 

 

代理人の感想

ナニッ!

ペースを乱されずにシリアスキャラをやってるデストー!?

 

北辰の癖に・・・・・

北辰の癖に・・・・・

北辰の癖に生意気だーっ!(核爆)

 

 

 

 

>ベ・・・もといレンナ

おまえはもう、死んでいる。(キャラとして)

ってのはダメですか?

 

 

>いっぱいいっぱーい!

いっぱいいっぱーい!いっぱいいっぱーい!いっぱいいっぱーい!(壊)