「やあレンナさん、お待たせ〜♪」

「遅いわよ! お腹ペコペコなんだから早くしてよね! 店の評判落とされたいの!?」

「いや〜すみません、ガラの悪い客が僕のお尻を…って、そうじゃないでしょ!!」

「うん確かにね。私が悪かった。お陰で気色悪い想像しちゃったわよ…」

 

顔に縦線を入れながらグルグル巻きになっているのはレンナだ。

実は彼女、アキト達と一緒にジャンプに巻き込まれ、あろう事かラピスと一緒に『北辰さんの木連艦・観光ツアー』にご同行してしまったのだ。

 

「はぁ…あんまりあの野郎の事が腹立たしかったからって蹴り落とすんじゃなかった…」

「あはは、だからテンカワ君のみ居ないんですね。いや〜彼も色々と調べてみたかったな〜」

「で? そんな事を言うんだからもう私の豊満な肉体は調べたんでしょ?」

「豊満かどうかは…いえ、豊満ですね。ええ、もう絶品です」

 

この時、レンナを拘束している荒縄がいい感じにしなっていた。

あと少しでも力を入れれば千切れ飛ぶこと請け合いである。

 

「はぁ…もうお嫁にいけない…」

「大丈夫。そんな酔狂な人は…あーコホン。もしもの時は僕が貰ってあげますよ〜あはははは」

「アンタが後10年くらい若くて、今と性格が540度くらい違って、超絶美形にチェンジして、ウルトラ金持ちになって、

 朝の挨拶をする時には、朝日をバックにアコーディオンを鳴らしつつ俳句を口ずさむようになったら考えるわ」

「本気ですか?」

「途中まで嘘よ」

「…どこまでが嘘なんでしょうねぇ」

 

それは誰にもわからない。

 

「でさ、結局、何かわかったの?」

「そうです、そうですよ! いや〜本当にレンナさんは面白い身体してますね!

 もう興味深々! これは暫く興奮が収まりそうにありませんね!」

「いったい何なのよ? それに鼻息荒いわよ?」

「ええ、結論から言いますと…レンナさん。あなた、普通の人間じゃないんですよ

 

山崎の声が静かに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むむー! むむむむーっ!!」

 

背後でレンナと同じくグルグル巻きな北辰のくぐもった声をBGMにして。 

ちなみに荒縄には『実験材料』の名札が張られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伝説の3号機

その42

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな追加設定いらない」

 

これが山崎のセリフに対するレンナの感想だった。

 

「…………え〜っと…元々ですよ元々。じゃなきゃ、アナタが自分で自分を改造したんですか?」

「そんなわけないじゃない」

「とにかくそういうことです。アナタはただの人間じゃない、そこのところ理解してください」

「わかったわ…でも、私は安売りした覚えないわよ?」

「そういう意味じゃありません! 普通の人とは違うって言ってるんです!」

「知ってる」

「………本気でテンカワ君に似ましたね」

「殴っていい?」

 

荒縄は景気のイイ音と共に力尽きた。

今、レンナを止める術は無い。

山崎、イキナリのピンチだ。

 

「あ、あはははは〜まあまあ落ち着いて。まだ話は終わってませんよ〜」

「…そういえばそうね。じゃあ終わったら殴って蹴って放り出す

「微妙に増えてますね〜…まあいいか。

 じゃあ話を戻しますけど、レンナさんの身体の中に現在の文明では到底理解しがたいほどの技術が使われています。

 まあ、身体全体ではなく約4割程度ですけど」

「技術?」

「はい。今まで見たことも無いようなモノでした。それを見た瞬間、感動すら覚えましたね!

 アレから比べたらマシンチャイルドなんて、どうでもよくなりました!

 本当に凄い! もう、これは芸術と言っても過言ではありませんよ! ええ!!

 是非、北辰さんで試したいな〜

「むーむーむー!」

 

首をフリフリする北辰。

ちなみに涙目だ。

 

「じゃあラピスちゃんはどうするつもりよ」

「あーそれがさっきアフロに連れ去られまして」

「は?」

 

レンナ固まる。

そして山崎と北辰は遠い目をした。

きっと見つめる先にはアフロがフサフサと揺れているのだろう。

 

「とにかく無事なのね」

「ええ、ピンクのアフロになっていなければいいんですが…」

「ソレは無いって。ラピスには合わないもの」

「それもそうですね」

 

アフロは人を選ぶようだ。

 

「話を戻しますよ」

「どうぞ。むしろ早く話せ」

「厳しいですね…それでですね、その部分の構成を調べたんですが…」

「何かわかったの?」

「それが…ほとんどわかりませんでしたーっ! あははははは!!

「ふ〜ん」

「うわっ、反応薄っ」

 

背後で北辰が『バカめ…』と呟いていたのはここだけの話である。

何時の間にか猿轡も取れ、いい感じにニヒルな笑いをする北辰だった。

 

「あ、でも少しですけどわかったことがあるんですよ? 聞きますか?」

「いい。じゃあ殴るね

「勿論聞きたいですよね! 実は…」

「何が何でも聞かせる気なのね…」

 

むしろ危険を察知して防衛手段に打って出たと言った方がいいだろう。

 

「まだおそらくとしか言えないんですが、この技術が使われていても身体に特別な影響を与えるというような物ではないと思われます」

「へ〜そうなんだ」

「ええ、超人になったり変身したり消えたり伸びたり生えたり分裂したり…なんていう特殊能力は一切無いかと」

「むしろあったら困る」

「ではその構成部が何故存在するのか? それはまだわかりませんが、1つ気になることが…」

「ほらほら、もったいぶらずに教えなさい。顔が変形するほど殴るわよ?」

「……その構成されている物質ですが、なんと次元跳躍門と似た金属のようなんですよ」

「よし、わかった。じゃあとりあえず百殴りで勘弁してやるわ」

「えーっ!? リアクション無しですか!? そんなのあんまりですよー!!」

 

その時、背後で北辰は『ざまあみろ…』と呟いていたとか。

 

「じゃあ北辰さんが身代りです」

「ちょっと待てーっ!!!」

 

北辰はたった今から山崎の盾となった。

頑丈さはお墨付きである。

 

「じゃあ…いーち!」

 

バゴッ!

 

「げふぅ!」

「あら〜痛そ〜」

「…や〜ま〜さ〜き〜?」

「北辰さん、僕のために頑張って耐え抜いてくださいね?」

 

山崎は何故か活き活きしている。

ついでにレンナも活き活きだ。

でも北辰は逝き逝きだ。

 

「にーい!」

 

ドゴッ!

 

「ごはっ!」

 

その後、一時間に渡り、百殴りの攻防は続けられたらしい。

ちなみに相棒の主バッタはお昼寝という名の充電中である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長〜ガンバ〜タフなとこ見せてやってくださ〜い。ゲキガンガーが踏んでも大丈夫なんでしょー?」

「悲鳴が汚いな。こう『アンッ☆』とか『いやんっ♪』とか出来ぬものか…」

「ほら、レバーですよレバー! そこで脳天を揺るがすアッパー!!」

「怖いものだな…こう女性は慎ましく、穏やかに…心は常に雅だぞ雅!」

「女性の時代到来か…そういえばウチの家族はカカア天下だったなぁ…母ちゃんの浅漬けが懐かしい…」

「しまった…! 今夜の『特番! ゲキガンガーの凄いとこ51!』の予約忘れてた〜!」

「「「「「なにぃ!!!!!」」」」」

 

北辰の背後で、どこかで見たことがあるような半透明の方々が声援を送っていた。

無論、誰も気付いていないが。

 

「ぬぅ! 何故か異様に腹立たしい!」

 

いや、流石は隊長たる北辰。

何かを敏感に感じ取ったようだ。

 

「おや、まだまだ元気ですね。さあレンナさん! どんどん逝ってみましょう!」

「い、いや、ちょっ…」

「じゅーう!」

 

ガズッ!

 

「ぶごっ!」

 

「「「「「「さあ、今こそゲキガインの時!!!!!!」」」」」」

 

北辰もしぶといが、それ以上に六人衆は色々な意味でしぶとかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、月――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初弾命中確認!」

「うむ、いい感じだな」

「当然です! 地球人の相転移炉式戦艦など恐るるに足りません!」

 

無骨な感じの男と元気ハツラツをかましている男。

この2人は、火星でアキト達を拾い、何故か艦で宴会をする木連の兵士、秋山源八郎と高杉三郎太だ。

どうやらシャクヤクに攻撃を仕掛けてきたのはこの2人の乗る艦『かんなづき』らしい。

 

「意気込むな三郎太。あまり敵を侮ると足元をすくわれるぞ」

「ハッ! も、申し訳ありません!」

「よし…九十九と元一朗の仇を討つぞ!」

「ハッ! お二人の無念、我等が晴らします! お前ら合わせろ!!」

 

三郎太が艦橋に声を響かせる。

待ってましたと言わんばかりの勢いで大声を張り上げる木連兵。

 

「いかに敵が巨大とても!」

「優人部隊は最後の切り札!」

「鉄の拳が叩いて砕く!」

「レッツ!」

『ゲキガイン!』

 

暑苦しさは地球のブリッジと比べたら、軽く3倍は違うことだろう。

それを喜ぶヤツもいるかもしれないが。

しかし、九十九と元一朗は彼らの中でお星様になってしまったようだ。

哀れ以外の何物でもない。

 

「さあ戦だぞお前ら! 野太刀! 薙刀! 槍! 棍棒! 弓矢! 銃! 斧! 吹き矢!

 手裏剣! 投石! ブーメラン! 機動兵器!! なんでも持って来い!!!

「か、艦長! 熱血は構いませんが少し落ち着いてください! ああ!? そ、そんなコレクション持ってこなくていいですから!!」

「ではどうしろというのだ三郎太。武器が無くては戦え…むっ! そ、そうか三郎太、お前の考えがわかったぞ…」

「そ、そうですか。良かった…一時はどうなることかと…」

「つまり、己の拳で勝負しろというのだな?」

「違います!」

「何!? じゃあこういうことか!?」

 

源八郎は上着を脱ぎ捨て、自らの筋肉を見せつけた。

イイ感じにムキムキだ。

 

「艦長! なんで脱ぐんですか!? しかもポーズとらないでください!」

「バカモノ! 男の戦闘に暑苦しい程の筋肉は必要だろうが!」

「それはそうですが…そもそも戦艦に生身で襲い掛からないでください!!」

 

彼らの間では筋肉が戦いの常識らしい。

この時、源八郎の白い歯が眩しいほどに輝いていたとか。

そしてそんな筋肉艦長を必死でなだめる苦労人、三郎太。

『コスモス』と『シャクヤク』の副長の姿を思い出す。

 

「ほ、ほら艦長、折角実用段階に入った兵器の方を使いましょう! というかさっき使ったでしょ!!

 と、とにかくこっちの方が何かと良いと思います! お前らもそうだよな! な!!」

『はい! 我等もそう思います!』

「そうか…そこまでいうのなら仕方ない。次の機会にするか…」

「出来ればその『次の機会』とやらは永遠に来ないことを祈ります…」

 

三郎太、一気に気力を使い果たす。

でも艦長の源八郎はまだまだ元気だ。

今なら本当に生身でも襲いかかるかもしれない。

 

「ああー! もうヤケだ! 行くぞ! 無限砲、発射準備!」

「発射準備完了!」

「外すなよ…撃てぇっ!」

 

続け様に放たれる凶器。

その餌食になっているシャクヤクは連撃により所々から爆発を起こしているのが見て取れる。

撃沈は時間の問題だろう。

 

「…やっぱり槍とか刀とか……」

「聞こえない! 何も聞こえない!!」

 

三郎太はとにかく周りの雑音を無視。

そして源八郎はちょっぴりイジケ気味だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カ、カグヤ様! もうこれ以上はもちません!」

「何を弱気なこと言ってるの! なんとかなさい!!」

 

こちらはシャクヤクブリッジ。

カグヤとカグヤガールズが必死になり、敵の砲撃に抵抗を続けていた。

 

「でもね〜もう相転移エンジンは限界寸前だし、他のブロックもボロボロだし、何よりもう武器管制完全沈黙〜ああ、サヨウナラ〜」

「うう…やっぱりここで散るのね私たち…儚い人生だったわ…しくしく…」

「−後悔−

 どうしてあの時、私はここに来る事を選んでしまったんだろう

 今という未来がわかれば絶対に来なかったのに

 きっと私の中にもおバカで熱い部分があるのね

 でもそのお陰で今は風前の灯火

 思い残したことはまだいっぱいあるのに

 溜めた貯金で豪華クルージングしたかった

 家族ともっと一緒の時間を作りたかった

 今度の休みに近くのデパートの安売りに行きたかった

 レンナさんとの交換日記始めたばかりだったのに

 そういえば一緒に温泉に行く約束してたっけ

 ゴメンねレンナさん

 私、地獄の血の池でひとっ風呂浴びることになりそう

 先に行って待ってるわ」

 

「あーもーしっかりなさい!!!」

 

シャクヤクより先に沈むカグヤガールズ。

カグヤが声を荒げようとも、状況は変わらない。

そうこうしている内に最後の砲撃が始まろうとしていた。

 

「くっ…アキト様…申し訳ありません…!」

「あら? これは…カグヤ様! 後方から…!」

「え!?」

 

 

エマの声と同時に空間を切り裂き、木連の艦を襲う黒き帯。

 

 

「カグヤちゃん! 後はこっちに任せて! ブイ!」

「ユ、ユリカさん!?」

 

シャクヤクの後方より接近するのはもう1つの白き艦。

ナデシコ、ようやく到着だ。

 

「た、助かった…」

「これで安心かな」

「うう…九死に一生ね…」

 

地獄に仏とはこのことだろうか。

カグヤガールズは思わずナデシコに手を合わせて拝んでいた。

 

「やらせない…」

「カグヤ様?」

「やらせませんわユリカさん! 貴女にこの場を任せられますか!」

「「「ええー!?」」」

「ホウショウ! 攻撃準備!」

「ちょっ、待ってください! もうシャクヤクに戦闘能力は…」

 

「だったら特攻ーっ!!」

 

 

「「「いぃやぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」

 

 

カグヤガールズの悲痛な叫びが木霊する。

カグヤの暴れん坊将軍、再びだ。

 

「カグヤちゃーん、特攻なんてしたら死んじゃうよ〜?」

「ぐずぐずしない! ええい、ワタクシが操舵を行います! あなた達は後ろで見ていなさい!!」

「「「止めてーっ!!!」」」

 

必死でカグヤを止めようとするカグヤガールズ。

勿論、ユリカの声など届くわけもなく、カグヤの目はイイ感じに血走っていた。

 

「アキト様、見ていてください! カグヤ・オニキリマルの一世一代の晴れ舞台! とくとご覧あそばせー!!!」

「「「私たちは別に晴れ舞台になんか出たくない━━━━━━っ!!!」」」

 

 

 

 

 

その頃、話題のアキトはというと―――

 

 

 

 

 

「だから言っただろうが。

 オムレツを作る時は熱し過ぎず、冷めすぎず。

 こう包み込むようにだな…」

「なるほど、勉強になるな」

「よし、こうなったら今日の料理教室は当社比五割増でお送りしよう!」

「おーっ」

 

料理談議に花を咲かせていた。

もはや2人共、戦闘能力の無くなった機動兵器でどうこうしようという気はないらしい。

しかし、元一朗は何時から『ゆめみづき』の料理当番になったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カグヤ様ぁ! お願いですからナデシコに任せましょう!」

「そうそう! こんなトコで死んだってなんにもならないって!」

「はぅぅっ…カグヤ艦長〜お気をしっかり〜」

黙らっしゃい! ユリカさんに任せるですって?

 冗談じゃないわ! 折角アキト様との幸せな生活が始まるところでしたのに…

 くぅ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!! それもこれも皆、あの木連の熱血が悪いのよ!

 ワタクシの手で直接沈めない限り腹の虫が治まりませんわ!!」

「カグヤ様、話せばわかります! 話せば!」

「そうそう! 人類皆兄弟! 分かり合えるって!」

「ここはとにかく交渉の余地を〜」

 

カグヤガールズはとにかく必死。

カグヤにすがりつきながらの説得をするが全く効果なし。

人間、窮地に立たされると行動が人それぞれになるものである。

 

 

 

 

一方のナデシコブリッジ―――

 

 

 

 

「カグヤちゃ〜ん、おーい、聞いてるー?」

「ダメだわ、あれは…」

「完全にイっちゃってますね…こっちもですけど」

 

メグミがチラッと艦橋の上段を見ればイっちゃった笑い声と同時に凶器を振り回す副操舵士の姿。

 

「あ、あはははははは! シャ、シャクヤクがボロボローっ!!」

「エ、エリナ君! 落ち着いて!! 大丈夫! まだ沈んでないから!!」

「イネス女史! 至急、鎮静剤を一服お願いします!」

「じゃあ、最近出来たこの『No.243』でいこうかしら」

「ゴートさん! 僕が左抑えますから、右腕抑えて!」

「いや、何故俺にを持っている方を任せる?」

「しっかりなさい! あんた達がそんなんじゃ苦難の道は切り開けないわよ!」

「そうだそうだ! 燃える心さえあればどんな困難でも乗り越えられるんだぞ!!」

「そうですとも! お二人の言う通りです!

 よし、ならば私が書いた自伝『妹 第一幕 〜はじめての…〜』をお送りしましょう。

 あ、お代は口座振込みで」

「………なに書いてんだおめえはよ」

「なんだか凄い惹かれるのは何故?」

ポロン♪

「ちなみに『兄貴 第一幕 〜遭遇〜』は存在するのかしら?」

「イズミさん、それをどうしようというんですか…?」

 

こちらも大混乱だった。

 

「あのー」

「どうしたのルリちゃん。カグヤちゃんが般若から仏様にチェンジした?」

「いえ、月基地内にテンカワさんが居ます」

「それホントなのルリ!」

「ユキナさん、うるさい」

【これ以上の騒音勘弁!】

 

何時の間に現れたのか、包帯だらけのユキナは九十九を踏みつけ、ルリの襟をガックンガックンしながら詰め寄っていた。

こちらもある意味、鬼気迫っている。

 

「は、はい。だ、だから揺らすの…や、止めてくれませんか…?」

「あ、ゴメン。つい興奮しちゃって…それで? 通信繋げるの?」

「…どうぞ」

 

ちょっと恨みがましくユキナを睨みつつ、アキトに通信を繋げるルリ。

そしてブリッジ中央に映し出されるのは何故か料理教室を開いているアキトの姿。

 

「「アキトーっ!」」

「そしてここに取り出したるは『青竹』…あん?」

「どうしたテンカワ…ん? 誰だ?」

「…あーすまん。オレの知り合いに人間拡声器は存在するがミイラはいない。人違いだ妖怪の国へ帰れ

「人間拡声器? それ誰?」

「アキト! 見た目で判断しないの! 心の目で見て感じとるの!」

 

何気に熱血っぽい言葉を口走るユキナ。

やはり木連出身ということだろう。

また、先程の二重大声でナデシコブリッジは静けさを取り戻した。

気絶していると言ってもいいかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、何故か砲撃が止んだかんなづきでは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「三郎太、だから言っただろうが! こういう時は直接相手の艦に乗り込んで斬った張ったの白兵戦をだな!」

「わかりましたから少し待ってください! おい、被害状況はどの程度だ!」

「敵から放たれた重力波はこちらの次元歪曲場で大半が消し飛びました!」

「なら問題は無いな! すぐに最終砲撃の準備…」

「副長、申し訳ありません!

 先程、秋山艦長がお昼に持って来られたコンソメスープが衝撃のせいで艦橋に散布され、機器がおかしくなってます!」

「あんだとーっ!?」

「あっはっは、これは参った。敵は内に有りとはまさにこのことだな!」

「だぁーっ!! もうどうすればいいんだぁぁぁぁぁっ!!!!!」

「落ち着け三郎太。ほれ、これでも食って気を静めろ」

 

そう言って源八郎が三郎太に渡したものは、カレーパン

何気にホカホカ、揚げたてだ。

 

「………よし、休憩にするか」

『ご相伴に預かります』

「よし食え食え、あっはっはっは」

 

ここも色んな意味で混乱していた。

しかし、あれから源八郎の料理の腕はますます向上しているようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遂に現れたなテンカワ・アキト! 我が妹を毒牙に掛けるとは万死に値する! 表に出ろぉっ!!

 

ゴゲッ!

 

「アキト…今は無事だったことだけでも嬉しいよ…」

「みんな心配したんだよ! 無事なら無事って連絡くらいしてもう!」

「あー無事だ」

「「遅い!!」」

「む? 何が不満だ?」

 

全然わかっちゃいなかった。

感動の再会が台無しである。

ちなみにいち早く復活した九十九はユキナの足の下で昇天中だ。

 

「ふっ、か…いい…実にいいぞユキナ…無垢な乙女という感じが如実に現れて…ますます女らしく…兄は…兄は嬉しいぞ!

 よし、我が妹よ! その足で兄を踏め! 喜びを踏み付けで表すのだ!!

 

 

ゲスゲスゲスゲスゲスッ!!!!!!

 

 

九十九、ユキナに加えて無事復活したブリッジクルー全員の踏みつけを喰らう。

また、何が『白』なのかはご想像にお任せする。

 

「…違う。俺の親友の白鳥九十九は踏まれて喜ぶ変態じゃない。

 ふっ…お前は遠い世界に逝ってしまったんだな…もう俺の心の友はジョーだけか…虚しいな…」

「イモ売りよ、現実を見ろ。あれは誰がどう見てもスターオムツだぞ」

「もう帰る…」

「道草しないで真っ直ぐ帰れよ」

 

元一朗は漢泣きをしながら帰っていった。

余程、九十九の豹変ぶりにショックを受けたのだろう。

無理も無い。

 

「ねえアキト、そういえばレンとラピスは?」

「イモ売りは無視か……ん? あの2人か…すまん」

「え…ま、まさか…?」

「ああ、あいつ等はマッチョな兄貴達に拉致され、真っ赤な薔薇風呂・湯煙ツアーに…」

 

 

 

『いや━━━━━━━━っ!!!!!!』

 

 

 

嫌な想像が駆け巡ったのか、ナデシコクルー全員で絶叫だ。

 

 

 

「…ごくっ」

「イツキ君…今、生唾飲み込まなかったかい?」

「き、気のせいですよアオイさん!」

「…声、裏返ってるよ」

 

約1名は招待を受けたいらしい。

 

また数分後、アキトの語った話が嘘だと発覚し、とりあえず吊るしたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ目にモノ見せてくれますわよーっ!!!」

 

で、相変わらずシャクヤクブリッジではイイ感じにキマッちゃったカグヤが大暴走していた。

『エンジン臨界まで後十秒! 艦首、敵艦に固定完了! 特攻準備よし! 艦長、何時でも逝けます!』といった感じだ。

 

「カグヤ艦長〜せめて私達を降ろして〜」

「嫌〜こんなトコで死ぬのは嫌〜」

「くっ…この手段だけは使いたくなかたけど…こうなったら仕方ない…!

 カオル! ここの映像を外部に出来るだけバカでかく映す準備して!」

「へ? 別にいいけど…どうするつもり?」

「いいから! リサコ、脱出準備、何時でも出来るようにしておいて!」

「ん? いいけど…」

「いくわよ…………カグヤ様…申し訳ありません! てぇい!!

 

 

 

 

 

 

 

ピラッ

 

 

 

 

 

 

『へ?』

 

 

 

 

 

……………………………………………………

 

………………………………………

 

…………………………

 

……………

 

 

 

 

『ぐぼばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?』

 

 

 

木連からの絶叫。

 

 

 

『うぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぉぉぉぉぉっ!!!!?』

 

 

 

ナデシコからの驚愕の声。

 

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 

 

そして、カグヤの悲鳴。

 

 

各地で異常事態発生だ。

 

 

「よし! 今のうちに撤退! 後、ナデシコにも下がるように伝えて!」

「了〜解!」

「…黒」

 

無論、何が黒なのかはご想像にお任せする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ〜なんとかなりましたね」

 

イイ感じにかいた汗を拭うエマ。

ひと仕事終えたといった風だ。

 

「ホ〜ウ〜ショ〜ウ〜」

「あら、カグヤ様。変な声を出して、どうかしたんですか?」

「さっきのはいったいなんですか!? あ、あああんな人前でワ、ワタクシのパパパ…」

「いえ、木連の人達って女性に免疫が無いって報告がありましたので。

 それに先日のアキトさんの鼻血を見てこの作戦を思いつきました。

 カグヤ様も正気に戻りましたし。見事、成功ですね」

「それであんな…だったら自分のを晒しなさい!」

「そんな恥ずかしい真似できる筈ないじゃないですか。

 カグヤ様、痛み分けということで」

「生きてるわよね私達」

「うん、生きてる。しくしく…嬉しい…」

 

 

「本気でお嫁に行けませんわ━━━━っ!!」

 

 

カグヤは頭を抱え号泣。

カグヤガールズはその横で生きてる実感を噛み締めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、木連の野郎共は、

 

『あがががががが…』

 

精神崩壊中だ。

 

「情けない。あの程度で我を忘れるとは…お前らもう少し女に耐性つけた方がいいぞ?」

 

かんなづき艦長・秋山源八郎。

流石は艦長というところか、全く動じていない。

 

「ここまでだな…だが地球人よ、また同じ手が通じると思うなよ?

 次に会える日を楽しみにしているぞ!」

 

漢である。

その時『かんなづき』はどことなく煌めいて見えたと後にカイオウは語る。

 

 

 

 

 

 

 

「…」

【ハーリー…後でちゃんと掃除しておけよ】

 

同時刻、ハーリーは鼻血まみれになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エマ・ホウショウ。

カグヤ・オニキリマルの副官を務める女性。

 


パンチラで木連を撃退する。

 

 

ついでに他数名の野郎も撃沈させる。

後に『黒き奇跡』として語り継がれる、ある日の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、某所―――

 

 

 

 

 

「…………ぐぁぁ…」

 

床に這いつくばり、ゴロゴロ転がる男が1人。

無論、北辰である。

 

「いや〜やっと荒波を乗り越えましたね〜」

「………山崎、貴様は後で便所に来い」

「お断りします。トイレくらい1人で行けるようになってください」

「そうではないわ!! 全く…それで、この娘はどうするのだ?」

 

2人の目の前には何故かサカナの着ぐるみを身につけたレンナが、冷凍マグロよろしくと言わんばかりの格好で寝そべっていた。

しかもぐっすりお眠り中のようだ。

 

「流石に疲れたぞ…」

「でしょうねぇ。百殴りが終わったのを見計らって、なんとか取り押さえましたからね〜。

 催眠スプレーを使わなかったら今頃、北辰さんはミンチでしたね。怖い怖い」

「怖いではないわ! それ以前に終わるまで待つな! 本来なら貴様が受けるべき制裁だぞ」

「嫌だなぁ。僕、北辰さんと違ってマゾじゃないんで叩かれるのは嫌ですよ」

「待て」

「さぁてと、やっほーレンナさーん、元気ですか〜? そろそろ起きてくださーい」

「さっきの言葉に不可解な点があったと思うのは我だけか?」

「朝ですよ〜早く起きないと遅刻して、バケツ持ちながら廊下に立たされますよ〜」

 

北辰を無視してさっさとレンナを起こそうとする山崎。

背後で肩を震わせる北辰は今にも小刀を抜き放ちそうだ。

 

「ん〜何よ〜モーニングコールは朝8時って言ったでしょ〜? おやすみ…ぐー」

「いや〜すみませんが起きてくれますか? これから色々と試したいことがあるので」

「後、五年寝かせて〜…すやすや…」

「完璧に寝ぼけですね…ん〜まあ寝ぼけてるなら寝ぼけてるでやりようはありますか。

 北辰さん、ちょっと頼まれてくれませんか?」

「貴様を斬りすててからでは駄目か?」

「痛いから嫌です。それよりちょっとレンナさんを支えてもらえますか?」

「…何をする気だ?」

「ええ、これ以上暴れられるのも困りますから非常手段に出ます。

 まあとにかくお願いしますね。では始めますよ〜あ、レンナさんの目こじ開けてください」

「こうか?」

 

レンナを後ろから抱きかかえ、目をムニッと無理矢理開かせる。

一瞬白目になっていたのでかなり不気味だ。

 

「そうそう、じゃあ…ほ〜ら、あなたはだんだん眠くなる〜」

「もう寝てるぞ」

「いいんです。お約束ですから」

「…もう勝手にしろ」

「では…これを被せてっと」

「それはいったいなんだ?」

「これですか? これは最近、僕が開発した洗脳マシーン『催眠でみんな仲良く僕の虜♪』です」

「悪いが、それを今すぐ太陽に捨てていいか?」

「あっはっは、面白い冗談ですね。じゃあ続けますよ〜」

「…絶対に後で破壊せねば」

 

心に硬く誓う北辰だった。

しかし山崎のネーミングセンスは明らかにアキト父に毒されている。

いったい何処まで感染範囲が広がっているのか気になるところだ。

 

「だが、そんな催眠などと曖昧なもので洗脳など本当に出来るのか?」

「ん〜物は試しですよ。それにこういうのは単純な人ほどかかりやすいといいますし」

「…何故そこで我を見る?」

「あははは、じゃあ始めましょう…はい、レンナさん。僕の話をよ〜く聞いてださい。あなたはたった今から僕の助手兼部下です」

「そんなことが…」

「なんでもお申し付けください博士!」

「うおっ!? かかった! しかも即座に!」

「根は単純だったんですね、レンナさん」

 

単純王の座はアキトではないらしい。

 

「じゃあ続けますよ。レンナさん、あなたの一番憎むべき相手は…」

「アキト」

「早っ、最後まで言ってないのに」

「即答だったな」

 

余程アキトに対して恨みを抱いているようだ。

額に浮き出ている青筋がいい感じにひくついている。

 

「で、ではレンナさん。あなたの最大の敵はテンカワ君です」

「言われなくてもそうですが?」

「…山崎、洗脳の意味はあるのか?」

「いや〜僕もちょっと疑問に思っていたところです」

「ちょっとか」

「でも記憶の改変も同時にしましたから色々と彼女は使えますよ。

 それにこれで僕の計画も次の段階にいけますしね」

「次? 我は聞いておらぬぞ?」

「大丈夫、楽しいことですから♪」

「貴様の楽しいことは我にとって苦行でしかないのだが?」

 

ジト目を山崎に向けつつ後ずさりする北辰。

山崎は満面の笑みを浮かべたままだ。

 

「さてと、じゃあ北辰さんを改造しましょうか!」

「待て!? さっきのセリフとの繋がりが全くないぞ!?」

「博士、私は何をすれば?」

「うん、じゃあ北辰さんを取り押さえてください」

「こうですか?」

「ぐげっ!?」

 

北辰は一瞬でマウントポジションを取られた。

見事な早業である。

 

「じゃあ、準備はOKかな?」

「はい、トカゲさんは何時でも準備良しのようです」

「トカゲではない!」

「では北辰さん、始めますよ〜」

「…博士、ここは選択の余地を与えたら如何でしょうか?」

「選択? 別にいいけど、どうするの?」

「む…一応は女性か。

 我に改造をするか否かの選択をさせるのだな…感謝するぞ」

 

北辰、生まれて初めて人に感謝する。

 

「違いますよトカゲさん。私が言いたいのは分割一括のどちらがいいですか? という事です」

「分割!? 一括!? なんだそれは!?」

「ちなみに一括の方が特典も付いてお得だと博士は言っています」

 

笑顔で頷く山崎。

特典とはいったいなんなのだろうか。

 

「そんな怪しげなものはいらん! というか我に拒否権は無いのか!?」

「ありません。選ぶ気が無いんですね?

 じゃあ仕方ありません。博士、両方でお願いします」

「なるほど、一挙両得というやつですね。北辰さんは欲張りだな〜」

「待て! 我は何も言っていないぞ!?」

「大丈夫。僕は北辰さんの心の声を聞きましたから」

「嘘をつけ!」

「なら、仕方ないですね」

「そこ、納得するな!」

「ははは、では…オペ開始です

 

チュィィィィッン

 

2人の漫才のような問答を無視して山崎は改造の準備に入った。

背後に蠢く電動ノコギリとドリルがイイ感じギラついている。

 

「あ、ついでにレンナさんも改造してあげますね♪」

 

「え゛」

 

山崎の何気ない一言にレンナ、固まる。

何故か北辰を盾にしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ギャ━━━━━━━━━━ッ!!!!!」」

 

 

 

 

 

こうしてレンナと北辰は仲良く山崎に改造されましたとさ。

無論、山崎は終始笑顔だったとか。

2人にとって山崎の笑顔は一生忘れられないことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキト…とレンナ、北辰の運命はどっちだ!? 続くような続かないような思わなくも無きにしも非ず。

 

あとがきです。

こんにちは、彼の狽ナす。

すみません、死んでます。

いえ、ちょっと色々ありまして(遠い目)

 

さて、今回ですが、私にはもうどうすればいいのかサッパリわかりません(爆死)

それでもがんばって書きます。

 

とりあえず、今回で一通りまとまったと思います(どこが?)

で、次回ですが、ちょっと落ち着きながら暴れようかと。

 

ではこれにて。

 

…年内に終わらせるのは諦めました(泣)

 

今回の悶絶者。

○木連の奴ら(崩壊)

○ナデシコ男性クルー(狂喜乱舞)

○ハーリー(鼻血の海)

○九十九(昇天)

○アキト(山岳救助隊に助けを求める)

 

 

 

 

代理人の感想

あ、相変わらずツッコミどころが多すぎる・・・。

半透明とかおぱんつとかハーリー君とか!(爆)

 

>「途中まで嘘よ」

「途中から嘘」じゃなくて「途中まで嘘」なんですか?(爆)

・・・・・・一体どこまでだろう(どきどき)。

少なくとも「朝の挨拶をする時には、朝日をバックにアコーディオンを鳴らしつつ俳句を口ずさむ」は本気なんですよね(爆死)。