「ふぁ〜あ…ん〜今日もいい朝だな」

 

男が大きなアクビをしながら朝日を眩しく見つめる。

目覚めはバッチリのようだ。

 

「さーてと、今日の仕込みに入る…か?」

「にゃ〜お」

 

突如、そんな男の前に黒猫が現れた。

 

「にゃ〜お」「にゃ〜お」「にゃ〜お」「にゃ〜お」

「にゃ〜お」「にゃ〜お」「にゃ〜お」「にゃ〜お」「にゃ〜お」

「にゃ〜お」「にゃ〜お」「にゃ〜お」「にゃ〜お」「にゃ〜お」「にゃ〜お」

「にゃ〜お」「にゃ〜お」「にゃ〜お」「にゃ〜お」「にゃ〜お」「にゃ〜お」「にゃ〜お」

『にゃ〜お』

 

しかも団体様で。

 

「…へっ、こんなの気にしてる方がどうかしてるぜ。かわいいじゃねえ…か?」

 

ぶちっ

 

男の履いている草履から嫌な音が聞こえた。

 

ブチィッ!!

 

次の瞬間、草履の紐は両足とも木っ端微塵にぶっ飛んだ。

 

「…ははは、まあこういう事はたまに起こる…」

 

ブォォォン!…バシャ!

 

通りすがりの暴走車にドロ水を引っ掛けられる。

 

バォン!…ズバァ!

パラリラパラリラ!…ベシャ!

ビィィィン!…ザバァ!

ゥォォォォン!…ジュバァ!

ギュラァァァ!!…ズドベシャァァァッ!!

 

立て続けに。

 

「お、俺は心の広い人間だからな…このくらい…で?」

 

カァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァー

カァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァー

カァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァーカァー

 

何時の間にか、男の家の屋根にはカラスが集団で巣を作り始めていた。

 

「………ま、まあ賑やかでいいかな…」

「郵便でーす」

「あ? ああ、どうも…?」

 

男の手に置かれた手紙。

よくよく見れば、全て不幸の手紙のようだ。

しかも軽く20cmはあるかと思われるほどの束。

 

「……………今日は休んだほうがよさそうだな…」

 

今日は休業にするらしい。

きっと何か嫌な予感がしたのだろう。

アレだけの目に会えば当然かもしれないが。

 

勿論、この嫌な予感が的中することは言うまでも無い。

 

 

 

 


そして数時間後、男が居た場所に一組の男女が佇んでいた。

 

 

 


ガンガンガン!

「おーい、ゾっさーん。今、帰ったぞー!」

 

『定休日』の札が掛けられた戸を景気良くぶっ叩くのは、ご存知テンカワ・アキト。

その後ろにはユキナの姿も見える。

 

「返事無いよ? 留守なんじゃない?」

「おいおい、折角尋ねてきてやったのにそれはないんじゃないか?

 むぅ…まぁいいか。勝手にお邪魔しよう」

「いいの?」

「当たり前だ! オレはここの店主に頬をスリスリされるほど慕われていたんだぞ?」

「…一応聞くけど、ここの店主って男? 女?」

「バカモノ! オレが女の店主にスリスリされたら即場外ホームランだ!」

「威張って言うことじゃないね」

「全くだ。もう少し女性に対して耐性を持つべきだな。それでもユキナの許婚か! 情けないぞマイブラザー・テンカワ・アキト!」

「白鳥さんがそれを言う?」

 

何時の間に現れたのか、アキトとユキナの隣には九十九とミナトが立っていた。

どうやら九十九は何気にアキトを認めているようだ。

また買収でもされたのだろうか。

 

「勿論、野郎にスリスリされても全然嬉しくないがな!」

「だったら言わないでよ。やれやれ、アキトは今日も絶好調だね。

 でも、ラピスにレン、大丈夫かな?」

「あの2人のことならネルガルが調査してくれるって言ってたじゃない。

 ここは信じて待ちましょ」

「うん、そうだね。でも、留守じゃあ入れないよね。どうしよう…」

「ここは兄に任せろユキナ! 店主! 何も言わずに私達を入れてくれ!

 よし、では入ろうか」

「白鳥さん、それじゃあ結局不法侵入よ…」

 

ミナトの言葉を聞かずに九十九が戸に手を掛けた瞬間、ソレは現れた。

 

 

「舌出せやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

「ぎゃ━━っ! 閻魔様━━━━━っ!?」

 

 

久しぶりに訪れた雪谷食堂の出迎えは最強だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伝説の3号機

その43

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実は話せば長くなるんだが」

「短くしろ」

「OK、ボス!」

 

一先ず落ち着いたのか、包丁を突きつけられたアキトが事情説明に入った。

ちなみに九十九は壁に包丁で標本のように貼り付けられている。

そしてユキナとミナトはお茶を飲みつつ静観だ。

 

何故この4人が今頃になって雪谷食堂を訪れることになったのか。

それは数日前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲボーン!

 

 

「なんだ今の有り得ない効果音は!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とまあ、こんな悲劇的な事があったというわけだ」

「全然訳わかんねえよ」

 

しかもはしょり過ぎだ。

 

「じゃあ、私が事情を話すわね」

「ああ、頼むわ」

「アキト…楽しい?」

「…これはこれで意外と………察しろ」

「無理。私、標本になったことないもん」

 

アキト、九十九に続いて標本となる。

事情説明を上手く出来なかったがことが敗因だろう。

ユキナが割り箸でツンツンしているのは当然お約束。

ちなみに九十九は相手にさえされなかった。

 

「まあなんていうか…私達、クビになっちゃったのよね」

「クビ? なんのだ?」

「それは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな訳で悪いんだけど、さっき言ったメンバー以外はナデシコを降りてもらうから。そこの所、ヨロシクね」

「えー、今の意見に関して納得できないと思う人、手を上げて! ピシッと!」

『はい!』

 

満場一致で納得できないようだ。

 

「う〜ん、まあ気持ちはわかるけど、とりあえず僕の話聞いてもらえるかな?

 だからその竹槍は下ろそうね。頼むから」

「よーし、わかった。一刻の猶予をやろう。

 おい、皆の衆、とりあえず、百万石を晒し首にするのは後回しだ!」

『…ちっ』

「…結局、僕は後で首を刎ねられるのかい?」

「ああ、俺が介錯してやるよ」

「そ、そりゃどうも…」

 

アカツキの命は風前の灯火となった。

背後に佇むリョーコの持つ鋼の刃が異様な煌めきを見せている。

舌なめずりさえするその姿はハッキリ言って怖い。

 

「それが嫌ならミサイルに縛り付けて飛ばしますか?」

「それはもっと嫌だな〜あははは」

 

リョーコに負けない位、ユリカもどことなく過激だ。

そして乾いた笑いをするアカツキは冷汗ダラダラ。

威厳も何もあったものではない。

 

「あ〜皆、今の僕はナデシコパイロットのアカツキじゃなくて、

 ネルガル会長のアカツキだから、そこのところを踏まえて話を聞いてね?」

「で、ロン毛。事情は説明してもらえるんだろうな?」

「…まあ呼び方なんて今更どうでもいいか」

「とにかく話せ百万石。今すぐ話さないと、さっき以上の何かをするぞ」

「何か!? しかもさっき以上って何!? みんなでよってたかって何をどうするの!? いったい僕どうなるの!?」

 

激しく戸惑うアカツキ。

ネルガルのトップもこうなると哀れだ。

 

「はいはい、こんな時こそ私の出番ね!」

「おー、インフレ姉さんか。では話してもらおう」

「なんだか偉そうねぇ…まあいいけど。コホン、では今回の処置について説明しましょう。

 事の発端なんだけど…その前に確かめておくことがあるわ。

 艦長、地球を出る際に軍への出立許可はちゃんと貰ったのかしら?」

「へ?」

 

イネスの言葉にユリカは固まった。

無論、回りの目線は真っ白だ。

 

「え〜と…あれ? ねえジュン君、許可って貰ったかな?」

「僕は知らないよ。そもそも、それはユリカの仕事だろう?」

「そ、そうだね…。あ〜…許可貰ってません

「そうね。私達は軍に無許可で地球を飛び出して、月に来てしまったの」

『ほ〜…』

「あはははははは…」

 

クルー全員の視線がユリカの背中に突き刺さる。

地球を出た際の信頼は何処へやら。

ユリカはただ乾いた笑いを浮かべるのみだ。

 

「勿論、連合軍のお偉方はご立腹。

 『勝手な行動をする輩は軍に必要ない!』という訳で、連帯責任を伴い一部のクルーを除いてみ〜んなクビ

 

首に手を当て、スパッという動作をするイネス。

どことなく楽しそうだ。

 

『へぇ〜…』

「えっとぉ…あは、あははは…笑って許してくれたら嬉しいな〜」

『このスカポンタン!』

「すみませ〜ん」

『でもあの約束は守ってもらうから!』

「え゛」

『ここまで来たんだから当然だよね?』

「…勿論です」

 

涙を滝のように流しつつガックリのユリカ。

そんな姿を見ていられなかったのか、アキトがユリカに歩み寄った。

 

「スカよ」

「ア、アキト…ごめんね、私のせいで皆が…」

「いや、オレは元々クビだったから、その辺はどうでもいい」

「それもそうだね」

「サラッと言うな。サラッと。

 んな事よりだ、一応は礼を言っておこうと思ってな」

「え?」

「オレを探しに月までわざわざ来たんだろ?

 お陰でこんな事態…その責任の大部分は勿論お前に有るわけだが、オレにも少しは責任があるかもしれないとマンションが言っていた。

 何はともあれ、ありがとうよ! とだけ言っておく。

 おまけに親指も上げておくか。

 ま、済んでしまった事を悔やんでも仕方ないだろ。

 だから嫌なことなど記憶から抹殺してしまえ!

 そして何時もの如く、天然を活動再開だ!

 皆も許してやってくれ、こいつはこいつなりに必死でボケてるんだ。

 だからもうオレは何もいえない!

 もはやオレが何を言っても仕方ないのさ!

 とにかく指先で感じてボールを受け取れ!

 審判に伝わるほどにな!

 まだ文句言うヤツはプさんが相手になる!

 それでもまーだ、小さな事に文句言うヤツは勿論プさんが退場にしてくれる!

 あ? ダンクはまず無理だと?

 やかましいわ!

 足りない身長とジャンプくらいやっぱりプさんがコーチしてくれる筈だ!」

 

「途中から話が変わってるぞ」

「しかも、おもいっきり他力本願ではありませんか?」

『いつものことじゃない?』

 

「よし、オレが言えるのはここまでだ!

 じゃあ後は任せたぞ! はっはっはっはっは!! シーユー!」

「アキト〜? アキトは何で夕日をバックにスローで去っていくの?

 それ以前に何が言いたいの? ねえ、アキトー?」

 

「ま、アキトだしね」

『そうだな』

 

よくわからないが、ユキナの一言にとりあえず頷くクルー。

そしてユリカは呆然としつつも、顔はアキトに慰められたことでニヤケていた。

立ち直りが早いのも流石である。

 

 

 

 

その頃、マンションことエマ・ホウショウはというと。

 

 

 

 

「カグヤ様〜いい加減に出てきてくださ〜い」

「そうだよ。たかがパンチラでそこまで落ち込むなって」

「お気持ちお察しします…」

 

部屋に閉じこもってしまったカグヤを必死に慰めていた。

余程ショックが大きかったのだろう。

 

「カグヤ様〜カグヤ様〜?」

「ダメねこりゃ。当分出てこないわよ」

「どうしよう…今日で3日目よ? このままじゃカグヤ艦長、餓死しちゃうわ…」

「あはは、大丈夫だって。カグヤ艦長なら水飲むだけで1ヵ月は生きるよ」

「え? カグヤ艦長って意外と丈夫?」

「ん〜丈夫と言うよりは尋常じゃないと言った方がいいかしら?」

「それ人?」

「微妙」

「それはそれで不憫ね…」

 

「あなた達、人の部屋の前で随分と好き勝手言ってくれるじゃないの」

 

何時の間にか部屋の扉は開け放たれ、カグヤが仁王立ちの状態でエマらを見下ろしていた。

何気にオーラを背負ったその姿は豪傑そのものだ。

 

「カ、カグヤ様!」

「ありゃ、結構元気?」

「元気というか…結構怒ってる?」

 

カグヤガールズは完全に腰が引けている。

それほど今のカグヤは煮えたぎっていた。

 

「ふふふ、まあ今回の件に関しては大目に見てあげないこともないわ」

「カグヤ様、なんて心の広い…」

「エマ、元々アンタのせいだろうが」

「いい根性してるわね…」

 

エマにジト目を向けるカオルとリサコ。

だがエマはポエムを口づさみ、現世から逃げ出した。

そんなこと知らぬ存ぜぬといったところだろう。

 

「でも、許すのはある条件を飲んだらの話です」

「じょ、条件ですか?」

「…ね、ねえリサコ。今、気付いたんだけど…カグヤ艦長、凄いことになってない?」

「凄いというか…すんげぇ! って、感じね」

 

カグヤの服は何時もの艦長服ではなく、誰がどう見ても戦闘服になっていた。

 

「あの、カグヤ様? その格好はいったい…?」

「ホウショウ、言ったでしょ? 条件が有るって」

「え、ええ確かに。でもそれとこれとどのような関係が…」

「ふふふ…ワタクシの辱めを見た輩は誰であろうと許しません。

 生憎とワタクシはアキト様以外にお見せするモノは持ち合わせておりませんの。

 この意味、わかるわね?」

「えっと、つまり…」

「そう、あの場でアレを見た人物全てを殺ります!

 完全に殺る!

 果てしなく殺る!

 どうしようもないくらいに殺る!

 狂おしいほど殺る!

 ほとばしりながら殺る!

 言うならば皆殺し!

 無論、あなた達にも協力してもらうわ。

 拒否は絶対に許さないわよ?

 拒否=死!

 これが条件よ、いいわね?

 さあ、まずはナデシコから逝くわよ…ほほ…おほほほほほほほ!!!

「カグヤ様ー!? 落ち着いてくださいー!!

 落ち着かないとカグヤ様の恥ずかしい過去を盛り込んだポエム作りますよ!?」

「ダメ! それはダメ! 本当に洒落にならないから!!

 止まれって! 止まらないと斬るわよ! 本気で!!」

「ああ…もうすぐ私の手は真っ赤に染まるのね…ごめんなさい、お父さんお母さん。

 リサコは今、人の道を踏み外します…しくしく」

 

今、コスモスの一角で人類の存亡を賭けた、壮絶な戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあハーリー」

「なんでしょうカイオウ提督」

「俺、今すぐ荷物たたんで逃げていいか?」

「奇遇ですね。僕も同じこと考えてました」

「じゃあ逃げるか」

「ええ、お供します」

 

ガシャン!

 

「おお!? か、隔壁が下りたぞ!?」

「ど、どうして!?」

【艦長命令。ここに居ろってさ】

「「アメノホヒーっ!!」」

 

抜け目無いカグヤであった。

 

「…仕方ない、とりあえず遺書でも書くか」

「お供します…」

【手伝おうか?】

「「いらねえよ!!」」

 

その日、コスモスブリッジでは泣き声が止まなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳なの」

「ん〜よくわからんが苦労したんだな」

 

さり気に涙を拭うサイゾウ。

だがその手に持つ包丁が異様な程に輝いているので、とても同情しているようには見えない。

 

「そういや、そのボケ艦長を初めとしたクルーはどうしたんだ?」

「え〜っと、大体は地球に下りて仕事に就くみたいよ?

 元々、皆はそれぞれの分野で得意なことがあったし、昔のコネもあるんでしょ」

「なるほどな。で、アンタはなんでアキトらと一緒に居るんだ?」

「ああ、私は成り行き見守り人」

「はぁ?」

「つまり、あの2人の行く末を見守るの」

 

指差す先には標本になったアキトとそれをツンツンするユキナの姿。

ある意味、微笑ましい。

 

「…ご苦労だな」

「好きでやってることですから」

 

例の婚姻届をヒラヒラ振りつつ、とっても嬉しそうに微笑むミナト。

そんなミナトを見て、ちょっと汗を掻くサイゾウだった。

 

「今になって気になったんだが、あの白い服着た兄ちゃんはなんだ?」

「ああ、彼はユキナちゃんのお兄さんなんだけど、ユキナちゃんと離れたくないからって無理やり着いてきちゃったの」

「シスコンか」

「ええ、シスコンよ」

 

同時にもう1つの標本である九十九に目をやる2人。

その当人は、2人の会話など完全無視で自分のワールドに浸っていた。

 

 

 

「『妹の 厳しき中に 愛を知り』……ふっ、また心の歴史に名を刻んでしまったよブラザー」

「そのようだな。だがまだ甘いぞ!

 妹について一句詠むなら、これ位のレベルでマイ聖典に名を刻め!

 『気をつけて 油断をしたら 食べられる』

「アキトの場合、妹の句に聞こえないよ」

 

風流もなにもあったものではない。

 

 

 

「…そのシスコンがなんでまたアキトをブラザーなんて呼んでるんだ?」

「ああ、アキト君にも妹が居てね、もしユキナちゃんとアキト君が結婚したら、そのアキト君の妹も白鳥さんの妹になるわけじゃない?

 つまり義理の妹が出来るわけで、それを聞いた白鳥さんが…

 『最っ高だぁぁぁぁ━━━━━━っ!!!』って、海に向かって叫んだのよ」

「ある意味、究極体だな」

「バカのね」

 

九十九、常人には理解出来ない何かに辿り着く。

 

 

 

「そういうことだから、暫くやっかいになる。宜しくなゾっさん」

「なんだと?」

「やっかいになる」

「なんだって?」

「やっかいになりたいな」

「あ゛?」

「お邪魔します」

「…滅」

 

次の瞬間、アキトはなます斬りになっていた。

 

「アキト、生きてる?」

「…今、オレの目の前に死神が降臨しようとしているんだが、どうすればいいと思う?」

「とりあえず石でも投げておけばいいと思うぞ、ブラザーよ」

 

逞しい連中だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う〜ん、どうしたもんかね、こりゃ」

「アンタが言うな。アンタが」

 

目の前に鎮座するナデシコを見つめながらそんな会話をするのは、お気楽スケコマシ会長アカツキと。

 

「とりあえず月基地の外周を砂袋でも担いで走る?」

「是非、遠慮したいね」

 

軍隊大好き秘書エリナだ。

 

「でもアレはいったいどういうつもり? 軍からの命令なんて本当はどうとでもなったんでしょう?」

「いや〜確かにその通りなんだけどね。

 あんな事があったからさ、やっぱりこれ以上の損失は避けたいよね」

「シャクヤクの事ね?」

「そうそう。結局シャクヤクは修理不可能ということで廃艦処分だしね〜。

 ま、ナデシコのみんなには悪いとは思うけど、こっちも生活かかってるから。

 なんていったって、あのクルーは優秀だけど無茶ばかりするからね」

「まあね。で、そのクビにしたクルーはどうするのよ?」

「う〜ん、要望があればネルガルで雇おうかとは思うけど?」

「…あの連中を? 本気?」

「……………………まあ退屈はしないよね」

色んな意味でね」

 

遠い目をする2人だった。

ちなみにネルガルに就職を希望したものは1人もいなかったらしい。

 

「あら、こんな所でネルガルの会長さんが何をしているのかしら」

「ん? おや、これは久しぶりだねシャロン君」

 

気が付けば、アカツキとエリナの目の前に赤いスーツを来た女性が佇んでいる。

そのシャロンと呼ばれた女性は2人を見下すように見つめ、薄ら笑いを浮かべていた。

 

「ええ、そうですね。それと会長秘書さんもお久しぶり」

「本当にお久しぶりですね。

 最近、あまり見かけないものだから蒸発でもしたのかと思いましたよ」

「あら、会長秘書さんこそ忙し過ぎて少し老けたのでは?

 寝不足は美容の大敵ですわよ?」

「「おほほほほほほ…」」

 

一気に嫌な空気が流れ出す。

その場を逃げ出すかどうかを必死に悩むアカツキだったが、ここは勇気を振り絞りシャロンに問いかけた。

 

「え、え〜と…それでさシャロン君、ここには何の用があって来たんだい?

 もしかして僕に会いに来たのかな? あは、あはははは…冗談だよ。

 だから睨まないでください

「ああ、そういえば…。ねえ会長さん、なんでも木星蜥蜴の戦艦に新型戦艦が落とされたそうですわね」

「あ〜まあなんと言うか…」

「あの艦はまだ未完成でしたから。完成していればあんな敵艦の一隻や二隻、瞬殺ですよ」

「そ、そうそう。本来ならYユニットっていう…」

「へぇ、とてもそうは思えませんが…まあいいでしょう。

 あら? あれは確かナデシコとかいうボロ艦じゃないかしら?」

「あら、意外と知識がお有りなんですね。

 ええ、アレはどっかの企業が製造した弱っちいバリア発生装置をものともしない性能を持つナデシコです」

「ああ、ビックバリアの件ね。確かにあれは…」

「まあ、ネルガルが作る物ですからたかが知れているでしょうけどね。

 それに比べクリムゾン製のモノがいかに優れているか、今日はそれを軍にお見せる為に月まで来ましたの」

「そ、そうなんだ。大変だね」

「あら、性懲りもなくまだ軍に何かを売るつもりですか?

 ま、精々恥の上塗りにならないよう頑張ってくださいね」

「ええ、ありがとう会長秘書さん」

「どういたしましてシャロンさん」

「………帰りたい」

「「おほほほほほほほ」」

 

アカツキがこの地獄を抜け出したのは20分後のことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあシャロンさん、待っていましたよ」

「全くどういうつもりなのかしら山崎博士、わざわざ私を呼びつけるなんて。

 こう見えても結構忙しいのよ?

 それと何時もの変な顔をした、ちっちゃい奴は居ないのね」

「いや〜シャロンさんの美しい?顔を間近で見てみたくなって。

 世の男性ならこういう行動は当然のことでしょう?

 あ、それに北辰さんは色々と用事があって今回はお休みです」

 

用事というよりは、改造されて身動きがとれないと言った方が正しいだろう。

 

「なんで『美しい』の部分が疑問形なのはさておいて、嬉しい事言ってくれるじゃない。

 でも残念ね、私はアナタに全然興味は無いの。

 ま、あなたの頭脳に興味はあるけどね」

「う〜ん、ちょっぴりブレイブハート! ですね〜。

 まあそんな冗談はさて置いて、実はお願いしたいことがあるんですよ」

「その冗談がどこまでだったのか是非知りたいわね。…ん? お願い?」

「ええ、これを見て頂けますか?」

 

山崎が懐から出した携帯端末に目を向けるシャロン。

次の瞬間、その目は驚きに変わっていた。

 

「…これ、本気?」

「勿論! どうです? これをそちらで作っていただけませんか?」

「…いいけど、手間かかるわよ?」

「構いませんよ。どうしてもコレを作るにはそちらの技術力と資本力が必要だったので。

 いや〜助かりますよ。あ、必要機材と特別な装置は後で送りますね」

「任せなさい。こっちも色々と手伝ってもらってるからね。

 そういえば頼んでおいたリスト内の要人イジメ、どこまでいってる?」

「…あれですか。まあそこそこに」

「そう! ざまぁみろ…ケケケ…

「頼むからその笑い止めてくれません? かなり怖いんですけど」

「あら、ごめんなさい。嬉しくなるとついね。

 ん〜…それにしてもあなた、相変わらず凄い発想をする人よねぇ。

 けど、こんなのいったいどうするのよ?」

「ふふ〜ん、その点なら心配はありません!

 まあとにかく宜しくお願いしますよ」

「はいはいっと」

 

密談を交わす2人。

だがそこへ迫る1つの影があった。

 

「お待たせしました〜ご注文の『インド風ライジングスパーク餃子』です」

「うわっ、何この奇妙な物体…アンタ、マジでこれ食べるの? …しかも何この値段! 高っ!」

「ええ、なんでも中にイイ感じの珍味が入ってるとか」

「あっそ…。ねえ、いったいそれのどの辺がインドなの?」

「インドから直輸入って聞きましたよ」

「それは材料? それとも料理人? まさかインドから配達?」

「さあ?」

 

『餃子専門店・つるりん♪ 月支店』は今日も大盛況だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「突然でしたね」

「ホント。もうちょっと何とかしてくれてもいいような気がするけど」

「あんた達も残り組なんだねぇ」

 

そんな会話をするのはルリ、イネス、ホウメイの3人。

ホウメイの言う通り、この3人はナデシコ残留組。

ルリに関しては、彼女が居なければナデシコが動かないという理由で、

イネスは科学者というスキルを買われて、

そしてホウメイは料理人として残ることになったのだ。

 

「でも大丈夫なのかい?

 このまま軍に就いたりしたら、ナデシコは何をやらされるかわからないよ?」

「さあ? そこはあの会長さんに任せましょう」

「もしもの時は自爆でもしますか」

「「…」」

 

本気で凍りつく2人。

口はヒクつきっぱなしだ。

 

「冗談です」

「ル、ルリちゃんの冗談は冗談に聞こえないわよ」

「ああ、目がマジだったね」

「そうですか?

 それはそうと、艦長の姿が見えませんね。

 つい先日まで約束を守るための資金を稼ぐ為にバイトをしていたはずじゃあ…」

「ああ、ルリちゃんは昨日までネルガルに行ってたから知らないんだっけ。

 艦長なら3日くらい前に、突然来襲したミスマルパパに連れて行かれたわよ」

「そうそう、凄い争いだったよ。

 周りの備品が声だけでひび割れてたからねぇ」

「親子ですね」

「「だね」」

 

人間拡声器は伊達ではないようだ。

ちなみにその時、近くに居たジュンとイツキは目を回していたらしい。

 

「結局、地球に強制送還ですか。

 今頃、お家で和気藹々ですね」

「なんだか安易に想像出来ちゃうわね」

「そうだねぇ」

 

 

 

 

 

 

その頃、ミスマル家では3人の想像通りの事が起こっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「お父様、じゃあ私はアキトの所へ行くから。

 1人でもちゃーんと、ご飯食べてね」

いかんいかんいかんいか〜〜〜ん!!!!

 ユリカ! お前はここでゆっくりと静養し軍に復帰するのだ!

 あんなハイエナ野郎の所へなど行かせはせんぞ!」

「でもでも! アキトは軍にいられないから離ればなれなんだよ? なら、私も一緒に軍を辞めて…」

「いかーん! それだけはダメだ! 却下!! 絶対に認めん!!!」

「う〜…お父様のバカー!!」

「バ、バカだと!?

 う…うぉぉぉぉぉん! ナナぁ! お前とワシの娘が不良になってしまったぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

ちなみにナナとは今は亡きユリカの母である。

 

「…もうこの声にも慣れちゃいましたね」

「本当に…人間って凄いよね」

 

親子喧嘩を傍で見ているジュンとイツキはただただ呆れていた。

この2人もユリカと一緒に地球へ強制送還。

そのままコウイチロウの下に就くらしい。

 

「ユリカ、頼むからワシの言う事を聞いてくれ。

 悪いようにはせんから。な?」

「嫌です! 言う事を聞いてくれないお父様なんて嫌い!

 

コウイチロウの心に会心の一撃。

流石に膝を突くコウイチロウ。

だがまだ気力はあるようだ。

 

「ま、待て。聞くんだユリカ。

 ヤツはワシの居ぬ間にお前の心に悪い魔法をかけたんだ。

 正気に戻れユリカ!

 そしてあんな馬の骨とも知れぬ虫けらのことは今すぐ忘れるんだ!」

「ジュンくーん、すぐに頭のお薬持ってきてー! お父様がになったー」

「わかったよ」

「あ、アオイさん。手伝います」

「違うぞユゥリィカァァァ! それに彼女付きのアオイ君も本当に水と薬を持ってくるんじゃない!

 とにかく戻ってきておくれ、お前が居ないと私の日常はにっちもさっちもいかんのだよ!

 さあユリカ、昔のお前の笑顔をワシにプリィーズ!!」

「お父様、いい加減に頭の道路工事を終わらせてください。

 それに私はアキトの元に行かなきゃいけない理由があるの!」

「ユリカ、お前こそ頭の街頭演説を止めなさい!

 …まあとにかくだ、その理由とやらを聞こうか。

 ワシにもお前の言い分を聞かなければ公平とは言えんからな」

「アキトは私が好きなの!」

「直球すぎるぞ!!」

 

いつものことだった。

 

「とにかくそんなことは認めん! 断じて認めん! これは大宇宙の意思だ!」

「いや! アキトと私は一緒になるってもう歴史の教科書に載ってるの!」

「なに!? それはホントかね、何時の間にか甲斐甲斐しい彼女を作ってしまったアオイ君!」

「さっきから皮肉交じりで呼ばないでください!

 それに、そんな未来の出来事が載ってる教科書なんて知るわけないですよ!」

「ねえアオイさん。もしかしてミスマル提督って、何かにとり憑かれてるんじゃないですか?」

「あ、なるほど。だからお父様が変なんだ。

 ジュン君! イツキさん! 今すぐお父様のお払いしましょう!

 まずは塩! 塩! 塩撒き!!

「ぶべっ!? な、何をするんだユリカ! やめっ、止めなさい!」

「ほら、2人も一緒に!」

「じゃあ、聖水、聖水!」

「にんにく、にんにく!」

「お父様! 私達がきっと元に戻してあげますからね!

 えいっ! 豆! 豆! 豆マメまめーっ!!」

「冷たっ! 臭っ! 痛っ! ちょ、まっ、さ、3人共ストーップ!

「「「ファイヤーッ!!!」」」

 

3人の放った清めの炎はコウイチロウを真っ赤に燃えさせた。

あの頃の情熱の炎が蘇るがの如く。

そして、今まさに天に召されんばかりの笑顔で両手を空に掲げるコウイチロウ。

何気に天使が飛んでいるのは気のせいだろうか。

 

「大変! 2人共、お父様を止めて! なんだか気持ち悪い!!

「ユリカ、捕らえどころが少し違うんじゃないかい?

 でもミスマルおじさん…なんだか複雑な心境ですよ…」

「え? 何? アオイさん、もしかして私達、異世界に迷い込んじゃいました?」

 

数分後、コウイチロウはなんとか無事、現世へ帰還したらしい。

だが気が付いた時には3人の姿は無く、置手紙一通残されてた。

 

 

『お父様、ユリカは強く生きようと思います。

                 お父様の娘という立場が最近になって疑問に思うようになったユリカより』

 

 

「ユゥゥリィィィィカァァァァァァッ!!!!!!!」

 

 

この日、コウイチロウの部屋にあるユリカ人形は全て涙で濡れたとか。

 

 

 

 

 

 

そして、場面は再びナデシコに戻る。

 

 

 

 

「そうそう、2人共、なんか食べるかい?」

「じゃあラーメンでも」

「私は火星丼ね」

「はいはい。でも…みんなバラバラになっちまったねぇ」

「そうでもないですよ」

 

水を飲みつつ含みのある笑みを浮かべるルリ。

子供がしていい顔ではない。

 

「あら、それどういうことかしら?」

「今は秘密です」

「何か始まるのかい?」

「色々ありますがとにかく秘密です。

 私も結構やる時はやるんですよ?」

「あら、怖い怖い」

「そうだね…っと。ラーメンと火星丼お待ち!」

「「…」」

 

目の前に置かれたドンブリを見て、何故か2人は硬直してしまった。

 

「どうかしたかい?」

「ホウメイさん、これ大きい」

「限度ってもんがあるでしょ、限度ってもんが」

「食える時に食う! 何時、何があるかわからないからね!」

「「いや、だから限界以上に多いって」」

 

2人の前に鎮座する物体は、自分の身長を凌駕する程にそびえ立っていた。

無論、イネスは途中でギブアップしたが、なんとルリは完食したという。

 

「育ち盛りですから」

【ルリの胃袋は底なし? というか太るよ?】

 

次の瞬間、ナデシコから凄まじい絶叫が響きわたったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

そして、場面は再び月に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ僕はこの辺で」

「…本気で全部食べたわね。

 色んな意味で尊敬するわ」

「ははは、ありがとー! じゃあそういう事で、支払い宜しく〜♪」

 

大きく手を振りながら去ってゆく山崎。

つられて何となく手を振るシャロン。

 

「…はっ! だ、誰が奢るって言ったぁ!!」

「まあまあ。女性があまり大声を出すものではないぞ?

 ほら周りの目線が痛い痛い、さあもっと見ろ! というか見れ!」

「そうですよ。もっと厳かにね」

「んな!? な、なによあなた達は!?」

 

何処から現れたのか、今まで山崎とシャロンが座っていたテーブルに1組の男女が居座っていた。

だが奇妙なことにその2人は、サングラスをかけ、寒くもないのにコートをはおり、ダンディさを身体から滲み出している。

 

「ああ、混んでたんで合席させてもらったぞ。

 そう照れるな、おじさんのハートがギリギリになるから」

「ウェイトレスさーん、注文いいかしらー?」

「ちょっと、勝手に座り込んでなんなのよ!

 …もういいわ。私は勘定を支払ってもう出ますから、お二人でどうぞごゆっくり」

「まあ待ちな、お嬢さん。

 さっきのやつ、俺らが手伝ってやろうか?」

「…なんの話かしら?」

「御免なさいね。

 面白そうな話だったから、つい聞いちゃったの」

「あらそう。でも生憎と、私の所では技術者は事足りてますの。

 気持ちは嬉しいけど、お引取り下さいな」

「まあそう言うなって。

 なんならソレに付いていない生態跳躍、いやボソンジャンプと言った方がいいか?

 その機能を追加してやろうか? オマケに名も付けてやろう。

 『悶絶必至! 最終回1話前で打ち切り!?』…どうだ?」

「な!? あ、あなた達何者よ!? しかもその名はいろんな人に大ダメージを与えるから却下!」

「ちっ……ああ、俺らか? なぁに、ただの通りすがりのジャストミート仮面V1と」

「V2よ」

「は?」

 

その後、何故か意気投合した3人は夜遅くまで飲み明かしたらしい。

無論、シャロンの奢りで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

各所で繰り広げられる思惑。

 

勿論、そんな事を知るわけがないアキト達。

 

なんだかんだで雪谷食堂に住み着いてから数日が過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へい、らっしゃいっ!! 一名様ご来店だ! お前ら粗相のないようにしろよ!」

「はいはい、こちらのテーブルにどうぞぉ」

「お水どーぞ。で、注文は何?」

「今日のお勧めは親子丼ならぬ、兄妹丼だ! 是非食え! むしろ食え! とにかく食え!!」

「ちなみにここは前金制だ。

 財布の準備はいいか?

 もし食い逃げなんぞという考えを持っているのなら、命を捨てる覚悟でかかって来い!!

 オレも逃げてやる!」

『逃げんな!』

 

雪谷食堂は今日も賑やかだ。

当初はアキト達が居ついた事で、またとんでもないことになるかと思われたが、ミナトのお色気とユキナの元気っぷりで男性客をゲット。

看板娘は偉大ということだろう。

また、アキトのボケと九十九のシスコンぶりを見に来る奇特な客も居る有様で、雪谷食堂は何時に無いほど繁盛していた。

こちらは全くの予想外の事態だ。

 

「こちらも注文宜しいですか?」

「あいよ! おう、アキト。注文を世界標準でとって来い。いいな?」

「OKだボス!

 さて、注文だが200字以内に収めないと、とんでもないことが起きる可能性がある。

 十分気を付けるんだな! よし、述べよ!」

「あら、大変。

 こんな時はどうしたらよいのでしょう…?」

「さあ、もたもたしないでサクッと注文をその口から吐き出せアクのお嬢!

 ……………………………………ん?

 あー…へい、店員のみんな! お仕事ストップ!!」

 

アキトは何故かバックステップをしながら雪谷食堂の精鋭部隊を呼び寄せた。

何時の間にか背景が会議室に変貌している。

 

「何事だブラザー。

 もう少しでサイゾウ殿に頼まれた皿洗いが完了するところだったのに」

「おおそうか。じゃあ次はこの包丁磨いどけ」

 

シュッ

 

ザクザクザクザクザクッ!

 

「サ、サイゾウ殿…出来れば手渡しでお願いしたい…」

「面倒くせえから頑張って受け止めろ」

 

九十九は再び標本となった。

 

「アキト君、いったいどうしたのよ。まだ仕事中よ?」

「あ、ああ…実はたった今、この雪谷食堂に最大級の天災が訪れた」

「へ? アキト、熱でもあるの? それともまたボケ?」

「違うわ! 例えるなら丸腰でグラビティー・ブラストの発射口に吊られるくらいの危険が押し寄せているのだ!」

「なんだかよくわからないってば。

 とにかくお店混んでるんだからこの辺でお開きね。

 ミナトさん、戻ろ?」

「そういう訳だから、アキト君も遊んでないでお仕事しましょ」

「違うんだぁ! 信じてくれぇぇっ!!」

「あら、私はいつでもアキトさんを信じてますわよ?」

 

アキトに話しかけたのは、ユキナでもミナトでもない女性の声。

瞬間、アキトの時は止まった。

 

「あー! アクアさん!」

「あら、あの時のクリムゾンのお嬢様」

「うお!? お前はあの時の放火女!」

「はい、お三方ともお久しぶりですね。

 そしてアキトさん、アクアは…アクアは帰って参りました!」

「ついでに俺らも居るぞ?」

「忘れんなや〜!」

「…コク」

 

何時の間に現れたのか、モトギ親子も居座っていた。

 

「な、なんでお前らがここに居るぅぅぅぅぅぅぅっ!

 ドッキリカメラか!? それとも新手の嫌がらせか!?」

「決まってます。アキトさんのいる所には私アリですから」

「…どこかで聞いたことがあるようなセリフだな」

「なんの話ですか?」

「いや、なにも。で、何用だアクのお嬢とその他3名」

「俺らはその他か」

「理不尽やなぁ」

「…コク」

「私達の用事、それは…」

「それは?」

「あ、注文ですけど私のラーメンは油少なめで」

「オレは大盛りな」

「ウチは麺硬めで頼むわ!」

「…パタパタ」

「あ、ミコトはチャーハンな」

「…コク」

「客なの!?」

「ゾっさーん、ラーメン油少なめ、大盛り、麺硬め、それとチャーハン1丁」

「あいよー」

「アキトもサイゾウさんも納得してサラッと流さないの!」

「ユキナちゃん、大変ね〜」

 

なんだかんだ言いながらキッチリ仕事をこなすアキトだった。

ちなみに九十九は貼り付けのままだ。

 

 

 

 

 

「ふーふー…」

「ズゾゾゾゾ」

「チュルルル…」

「…ムグムグ」

 

トン…

 

「「「ごちそうさま」」」

「…コク」

「へい、お粗末さま」

「じゃあ、これで」

「ごちそーさん」

「うまかったで〜」

「…コク」

「「ありがとやんした〜」」

「また来てね〜」

「って、結局何しに来たのよ!! 本気で客!?」

「ユキナちゃん、忙しいわね〜」

 

ツッコミ役がユキナのみなので大忙しだ。

 

「そうそう、忘れるところでしたわ」

「忘れないでよ…」

「アキトさん、実は…」

 

キィィィィィィィッン

 

だが突如聞こえ始めた音に、話は中断された。

 

「ん? なんだこの音は?」

「またどっかで戦闘でもやってんのか〜?」

「…?」

「あ〜? この辺での戦闘なんて最近じゃ、あんまりねえんだけどな」

「やれやれ、ままならん事態にならなければいいが…ユキナ、どうした? 空なんぞ見上げて?

 お星様に願い事か? 乙女バンザイだな!」

「黙れバカ兄。いやね、何か落ちてきてるみたい」

「何か? ユキナちゃん、何かって何? 隕石?」

「さあ?」

「その隕石らしきものはどの辺りに落ちそうなんですか?」

「予測終わり! オレの予想だと落下地点はたぶんここだ」

『は?』

「だからここ」

『…』

 

アキトの言葉に広がる沈黙。

そして数秒が過ぎた時にはパニックだ。

 

「一先ず退避だな! お前ら逃げるぞ!

 それと緑色のブツがあったら絶対に保護しろ! 最優先事項だ!!」

「お任せや〜」

「…!」

「はい避難避難っと。

 枕を持って逃げるのはお約束よね〜」

「ユキナ、さあお兄ちゃんと追憶の彼方へ逃げようか!」

「1人で奈落へ落ちろ。ほらアキト行くよ!」

「って、またか!? またウチは瓦礫と化すのか!?」

「諦めろゾっさん。これは運命だ。

 さあ、笑って別れようじゃないか。

 その方が食堂も喜ぶぞ?」

 

サイゾウを満面の笑みで慰めるアキト。

だがそこへ倒れこむ1つの影があった。

 

「う…何故か持病の虫歯が…」

 

ぎゅっ…!

 

「ちょっと! アクアさん!?」

「アクのお嬢よ、もうちょっと雰囲気を読め。

 つーか、抱きつく必要性はどこに?

 それ以前に虫歯って持病に部類に入るのか?

 しかも言葉の繋がりが一切無いというのはどういうことだ?

 問いたい。激しく問い詰めたい。どういうことかと問い詰めたいぞ!」

「雰囲気を読んだ結果です」

「お前の頭の中じゃなくてこの場! わかるか!? ねえ!」

「いえ、怖いので。

 それに隕石に潰されるかもしれない愛し合う2人。

 これはこれで素敵だと思いませんか?」

「隕石に潰される前に病院に言ってこいお前は!」

「アクアさん、全然変わってないね…むしろ前よりレベルアップ?」

 

アキトは色んな意味でピンチに陥った。

 

「オゥ! なんてこったい!

 いったいこの事態をどう収拾したらいいのか全然ミーにはわからないヨ!

 しかも、さり気にハテナとアクのお嬢以外、全員逃げてるし!

 だがここで諦めてしまっては相手の思うツボ!

 つまり一旦寝て待てという事だな!?

 果報は寝て待ってればおへその辺りからニョロニョロと出てくるって言うしな!

 OK! わかった! どさくさに紛れて今、言ってやるよ!

 宣誓! 我々は絶対にボケてみせます!

 だから逃がしてちょーだいな!

「アキト…混乱の極みだね。

 とりあえずさ、私も逃げるから適度に死なないよう頑張ってね」

「おお!? 見捨てるのか!? オレを見捨てて逃げるのか!?」

「うん、私も死にたくないし。

 まあアキトは丈夫だから隕石の1つや2つ平気でしょ?」

「このアマ! いけしゃあしゃあと言い切りやがって!

 オレが丈夫だと!? 何を根拠にそんなこと!」

「ほら、昨日の夕食に私の漬物あげたじゃない」

「いや、関係あんのか!?」

「あ、そういえばサイゾウさんが屋根に登って『隕石受け止めたらぁぁぁっ!』って言いながらバカ兄を連れていったよ?

 もしかしたら、なんとかなるかもね。

 ん? そろそろ時間だ。

 じゃあアキト、戸締り宜しくね〜」

「うぉぉぉっ!? 待て! 待ってくれ!

 ゾっさんとスターオムツの2人で何が出来ると!?

 軽くジェントルマントークでもかますくらいだろうが!

 ハテナー! 戻ってこーい! 今、オレの元に戻ってくると、もれなく付いてくる全国のお店で使用可能な商品券!」

「では私が貰います」

「お前はいいんだよ!

 もういい加減に離さんか!」

「あら、こう見えても私、結構やるヤツなんですよ?」

「だからこの事態を招いているのはお前だって…。

 で、何が出来るって?」

「死亡率96%以上の罠仕掛けと妄想

「ヘイ! 誰かコイツを引き取っておくれ!」

「もう、アキトさんったら照れちゃって♪」

「ふざけるなーっ!」

 

アキトが叫んだ瞬間、謎の物体は雪谷食堂に直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

チュドォォォォォォォォォン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキト…とアクアの運命はどっちだ!? 続くような続かないような思わなくも無きにしも非ず。

 

あとがきです。

こんにちは、死人になっている彼の狽ナす(泣)

何気にTV版の話が飛びまくってる今日この頃ですが如何お過ごしですか?

 

はい、という訳でよくわからない事態に陥りました。

今後にご期待して頂ければ幸いです。

さて、次回ですが予定では再会をテーマにボケる筈です(滅)

 

最近思います。

私はオヤジキャラを描くのが好きだと(爆)

 

ではではまた次回。

 

今回のオヤジ

○ユキタニ・サイゾウ(包丁)

○カイオウ・シンイチロウ(遺書)

○山崎ヨシオ(餃子)

○ミスマル・コウイチロウ(憑依)

○テンカワ・ワタリ(仮面)

○モトギ・カズマ(付人)

 

 

 

代理人の感想

取りあえず………次回までに何人死んでるかねぇ。(ぷは〜)

 

(答え:もちろん0人)

 

つーか、ギャグキャラは死なないって

大原則を改めて認識した回でありました、まる。