「暴力反対! 平和的話し合いこそが解決に繋がる方法だと、各国首脳会談でも議題に上げられるほど重要なことなんだぞ!?」

『うるせえ!』

 

突然だが、アキトは生命の危険に晒されている。

隅に追いやられ、周りを囲むのは人鬼と化したクルーの面々。

 

「何故だ!? オレはただ、自分に正直に生きただけなのにっ!」

『やかましい!』

 

もはや問答無用。

誰かが『処刑』を宣告すれば、満場一致で可決されることだろう。

 

「アキト…流石の私も呆れたよ」

「あきとおにーちゃん、いい迷惑」

「テンカワさん、事の元凶はアナタの方じゃないですか」

 

ナデシコちびっ娘トリオ(ユキナ・ラピス・ルリ)は遠くで、呆れながら見守るのみ。

勿論、手助けなどナシだ。

 

「………『妹の不思議 〜妹は万物の源〜』………ふ、ふふふふふふ」 

 

その3人を流し目で見守る輩も遠くに1人。

鮭にパクつかれたせいで、ちょっとネジが吹っ飛んだようだ。

 

「リョーコ! 危ない人の電波受信しちゃったよ! 退治頼みます」

「俺は何時から用心棒になったんだ?」

ポロン…♪

『兄貴 第二幕 〜兄者と呼べい!〜』…うふふふふふ〜」

「危ない電波、もう1つじゅしーん! せ、先生、動物たちが暴れだしました! 早く、あいつ等に人としての終焉を!」

「ヒカル、おめぇは……でも、意外と気が合うんじゃねえか、あの2人?」

 

そうなれば、ある意味最強タッグだろう。

 

「イ、イズミさん、予約してもいいですか?」

「イツキ君、そっちに行っちゃダメだーっ!」

 

もはや、戻れない人もいるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伝説の3号機

その47

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事の原因は今から数十分前に起こった。

 

「それで? 何だって今更、こんな奇人共を集めたんだ?」

 

どげしっ!

 

『一番の奇人変人が言うな!』

「まあ、否定はしません」

『否定しろよ!』

 

ルリは何かを悟ったように、あさっての方向を向きながら呟く。

背後ではユキナがケラケラ笑っていたりするが、その本人も含まれていることに気付いていないようだ。

 

「では艦長、後は宜しく」

「うん。さて、私達はネルガルのせいでうやむやの内にナデシコを降ろされちゃいました。

 それまでの間は、ネルガルと軍のせいで良いようにコキ使われてましたね」

「…プさん、言われてんぞ」

「はて、記憶にございませんな〜」

 

プロスはエライ人がよく使う名言を使用した。

使用上の注意を怠ると、しっぺ返しが来るので要注意である。

 

「でも、今の私達は自由です。ネルガルの社員でもなければ、軍属でもありません! ただのか弱い一般市民です!」

「戦艦に乗ってる時点で、か弱いってのは当てはまらないんじゃない? ねぇ、メグちゃん?」

「ですよね」

「そこ、突っ込まない」

 

当たっているだけに、反論の余地は無いようだ。

 

「もういいからよ、いったい俺達はこれからどうすんだ? ただ全員集合をする為に呼びかけたんじゃねぇんだろ?」

「そうです! 重要なのはそこ! さすがはリョーコさん、わかってるぅ!

 今も言ったように、私達はただの一般市民。身を守る術はこの身1つです!」

 

ユリカがこれ程熱く語るのは、アキトがらみ以外では初めてのこと。

思わずクルーは固唾を飲み、ユリカの次のセリフを待つ。

 

「そんな訳で皆さん! 頑張って木連の魔の手から、自分の身を守りましょう!」

『は?』

 

しかし、ユリカの口から発せられた言葉は、そこに居たクルー全員の思考を停止させるのに十分な威力を誇っていた。

そんな中、普段からユリカの行動に付き合っている人物が、辛うじて挙手をする。

 

「はーい」

「はい、メグちゃん」

「話が全然見えませーん」

 

その通りだと言わんばかりに、背後でクルーが頷く。

一致団結の構えだ。

 

「そこの所については、ラピスちゃんどうぞー!」

「…ふぇ?」

 

突然、話を振られて間抜けな声を出してしまうラピス。

この時、何故か九十九はガッツポーズを小さく決めていたとか。

 

「ラピス、何か知ってんの?」

「…よくわからない」

「例の事ですよ。ほら、王宮のお茶会の時に…」

「……ああ、アレ?」

「アレです。ズバッと言っちゃってください」

「なんだかよくわからんが、頑張れよ〜」

 

ポンッとアキトに背中を叩かれ、クルーの前に押し出される。

息を吸い、ラピスは木連でアキトがしでかした事の顛末をズラズラと喋りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレはフツーに木連暮らしを満喫しただけなのに…」

『それが原因で大変なんだ!』

「うそ!?」

 

ラピスが事の顛末を話し始めてから僅か5秒で、クルーはアキトを包囲。

結果、この有様だが、当人に自覚はまるっきり無しだ。

 

「よくわかりましたね皆さん。これから私達は、自分の身を守る為にナデシコに乗ります。

 あ、言っておきますけど、基本的には迎撃のみですよ? こっちから積極的に戦おうなんて全然考えてません。

 私達は戦争をやりたいわけじゃないですから。とにかく、降りかかる火の粉は自分で避ける! いいですか?」

「なるほど」

『なるほどじゃねぇ!』

 

どげごっ!!

 

まとめると、アキトが木連に滞在していた際、自分の偽名に男性クルーの名を使用しただけでは飽き足らず、

ご丁寧にナデシコクルーの名を全て、木連の最重要攻撃目標に定めてしまったのだ。

どうやら、シャレでやったらしい。

この辺りの事はラピスが独自のルートで調べた結果、明らかになったもので、どうやったかは一切不明である。

 

そんな訳で、すっかり木連から絶好の標的となってしまったナデシコクルー。

生身のままでは、無人兵器に敵うはずもない。

この事態を打開するべくユリカとルリが立ち上がり、幾人かの協力者の力を得て、再びナデシコへ乗り込む事になったのである。

 

「がんばろうな、皆の衆」

『お前のせいだろうが!』

 

アキトは全然懲りていない。

前途多難もいいところだ。

 

「でも艦長。いったいこれから何処へ行く気だ? そこらじゅう敵だらけだぜ?」

「確かにリョーコちゃんの言う通りだよね…ジュン君、どうしようか?」

「ん〜…一旦、月で体制を整えたら? プロスさん、ドックの手配出来ますか?」

「ふむ、それが一番妥当かもしれませんね。ネルガル所有のドッグを手配致しましょう」

「そういえばプロスさんってネルガルの社員だろ? ここに居ていいのか?」

「今の私はナデシコへ出向している身でして。勿論、お給料もネルガルからではなく、別ルートで頂いております。

 ですが役割は以前と変わりありませんので、お気遣いなく」

「俺も同じだ」

 

未だ着ぐるみを装備しているゴートも、仁王立ちの体制で頷く。

2人の雇い主は無論のこと、ルリであり、そのバックにピースランドがいる。

 

「それでは、疑問も晴れたことですし、先を急ぎましょうか。ねえ、艦長?」

「プロスさん、それって私のセリフ…別に良いけど」

「ユリカ、折角だからさ、木連の内情におそらく詳しい白鳥さんにも、話を聞くべきじゃないかな?」

「至極まっとうな意見ですが、不安の方が大きいですな

「じゃあ、聞くだけ聞こうかな。白鳥さん、無駄かもしれないけど聞いておきますが、何か考えとかありますか?

 良い案でもあれば聞かせて欲しいんですけど。あ、萌えとか以外で」

 

さっぱり信用が無い九十九。

それでも少しは期待感があるのか、視線が集まる。

 

「う〜む、ちょっと待ってください。そうそう、良い考えなど…浮かんだ」

『早えーな!』

 

一瞬の出来事だった。

 

「バカ兄、大丈夫なの〜?」

「ユキナ、何を言うか! 兄をもっと信じろ! 思い出せ、2人でバトルロワイヤルを制したあの日の事を!」

「知らない。そして忘却の彼方に帰れ」

「ユキナぁ〜…」

「白鳥さん、ジャレてないで話を戻してください」

「…わかりました。ユキナとの愛の日々でしたね?」

「違います」

 

話すべきじゃなかったと、後悔する面々。

後の祭りである。

 

「そうそうアキト、部屋割りどうしようか? やっぱり同部屋? もう、仕方ないな〜♪」

「ユキナ、後ろでイジケてる人が居るけどいいの?」

「いい、いい。ほっとけ、ほっとけ」

「………しくしく」

「スターオムツ、いい加減にしないとご機嫌ナナメになっちゃうぞ?」

「誰がですか」

 

既に九十九は、気力が最低値を記録している。

無論、慰めるような人物は1人もいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とまあ、この際 私情は置いておきましょう」

「うぉ!? 立ち直ったぞコイツ!」

「意外と神経ズ太いのかもね〜」

ポロン♪

「まあ、アレの兄だしねぇ〜」

 

アレことユキナは、只今部屋割りでユリカと決戦の火ぶたを切っていた。

譲れないところなのだろう。

 

「それで、良い考えとは何なのですかな?」

「ええ。ここはいっそ、平和的解決をしてみたらどうでしょうか?」

『平和的解決?』

「はい、つまり木連と和平を結ぶのです」

『………』

 

突拍子も無い発言にクルーは全員唖然としてしまう。

バトルっていた、ユキナとユリカさえもだ。

 

「う、嘘! バカ兄が真面目な事言ってるーっ! 明日は隕石ラッシュかも」

「マジかよ!? ラピII、オレはもうダメだ。白昼夢を見てしまったよ…いや、まてよ…試練…? そうか、これは試練だ!

 『いい加減に所帯を持って、まっとうな人生を送りなさい』という神の試練か…!!

 そ…そうか……ははは………ははははは……あはははははははは!!!

 出来るわけねえだろうが! 万死に値するわ!!

「ルリ、あきとおにーちゃんが壊れた」

「元からじゃないですか?」

「そうだった」

 

そして、九十九はやっぱりスミっこでイジケ中。

無論、ユキナとアキトは揃って混乱だ。

 

「へへ〜♪」

 

で、ユリカはさり気に部屋割りを完成させていた。

 

 

 

 

 

「それで白鳥さん。和平とは、いったいどういうことなのでしょうか?」

「仲良くしようということです」

 

スッ…

 

「真面目にお願いします」

「わ、わかりました…」

 

プロスの持つ、オーラをまとったソロバンに恐怖する九十九。

この時、アキトはブリッジから脱出を図ろうとするが、オモイカネに阻止され撃沈された。

 

「要は、立ち向かうより話し合う方が安全かつ効率的だからです。

 地球圏 最強の戦艦ナデシコのクルーから和平を申し出れば、木連上層部も一考するでしょう。

 今は木連の経済状態も逼迫していますから、話し合う場を持つことは双方に取って利益になるはずです。

 それに、以前ユリカ艦長が言ってたましたよ。『和平が出来たらいいな〜』って」

「へ? 私、そんなこと言ったかな?」

「言いましたよ、ほら」

 

ルリがコンソールを操作すると、画面にユリカの顔が映し出された。

しかし、その顔は明らかに手書きなお面で、しかも付けているのはスパナ片手にツナギ服を着た人だ。

 

「俺…じゃなくて、私、和平を望んでるんです〜♪」

 

二度と聞きたくないような声で語られる和平意思。

 

「ほら、言ってます」

「言ってますね」

 

ルリと九十九は何故か得意気だ。

後ろに居るクルーはその辺りの事情を知っているのか黙認している。

そして当のユリカはといえば。

 

「そういえば、そんな事言ったかも」

 

何故か納得した。

 

「でもさ〜勝手にそんなことしちゃっていいの〜? 私達って軍とも無関係でしょ?」

「大丈夫ですよ。政財界はウチの父が金にものを言わせて丸め込んでますし、軍事関係は艦長のお父さんが頑張ってくれてますから」

「あらま、ルリルリったら手回しのいいことで」

「ルリちゃんと艦長が居れば、地球って1つにまとまるんじゃないんですか?」

「ま、まさか〜メグちゃんったら冗談キツイわね〜あははは」

 

乾いた笑いを浮かべるミナト。

彼女の脳内では、ソレがリアルにシミュレートされていた。

 

「でも白鳥さん。どうやって相手に和平の意思を伝えるの?」

「そうですよ。特に無人兵器なんかは、問答無用で襲ってきますよ?」

「大丈夫、任せてください」

 

一歩踏み出し、胸を張るのは白鳥九十九。

『本日のベスト妹写真集』を片手にするその姿は誇らしげだ。

 

「一見マトモに見えるけど、中身は致命的に堕ちてるわね、白鳥さんって」

「そこまで言われてしまうと、なんだか照れますね」

「白鳥さん、いい加減に話を進めてください。それで、いったいどうする気ですか?」

「そうですね。では…ユキナ、アレ持ってるか?」

「アレ? …あー、持ってるけど使えるの?」

「任せろ。伊達に毎日妹をストーキングしている訳じゃない」

 

ビシッと九十九は妹ユキナを指差した。

しかも、ちょっと顔を赤らめ照れる始末。

 

「アキト、ちょっと」

「なんじゃい……おおっ、オレの精気が吸い取られていく…」

 

アキトはユキナの顔を見た瞬間、自分が自分でないような錯覚に陥った。

それはコロス笑み。しかも額にはしっかり青い筋が浮き出ている。

 

「1度死ねやバカ兄〜!!」

「妹の手で死ねるのなら本望ーっ!」

 

ゴシャァッ!!!

 

この日、木連の戦士が1人、栄光の宇宙へ旅立った。

 

「誰か滅ぼして。この犯罪のフリーマーケットみたいなとこ…」

「変態の無法痴態でもいいですね」

 

ナデシコの操舵士と通信士は、戻ってきたことを少し後悔したとか。

 

 

 

 

 

 

「さて…と、確か通信コードは…『げんいちろう』っと」

「何だ、今の適当なコード入力は?」

「誰だこんな夜分遅くに…」

『繋がった!?』

 

驚きの表情を浮かべるクルー。

ユキナがどこからともなく取り出した『ボソン通信器』で、適当なコードを打ち込んで繋がったのだから無理も無い。

それを繋げたのは死に損ないの九十九。

だが無事ではないらしく、ブリッジに布団を敷きながら通信を行っている状態だ。

 

「よお、我が友よ」

「…すまんが、妹にうつつを抜かす野郎なぞ、俺の友人にはいない。人違いだ、他を当たれ」

「あ〜そういえば、お前の枕の中にある秘蔵ビデオだが…」

「よお、九十九じゃないか! 久しぶりだな、元気か?」

 

途端、数年来の友人に出くわした表情を作る元一朗。

しかし、その手に作る握り拳は血を滴らせるほどに力が入っていた。

 

「元一朗…凄い変わり身…」

「秘蔵ビデオって何?」

「そこは聞くな。男にはそういう事もあるんだ」

『うんうん』

 

遠い目をするウリバタケとその他の男性クルー。

そして何故か頬を赤める一部の女性クルー。

わからないのは、お子様のみである。

 

「…選りすぐり、ベストツッコミ大賞のビデオでも持ってるのか?」

 

馬鹿野郎もわかっちゃいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「潜入工作ですか?」

「そうだ。今、閣下の案で、ある作戦を準備中なのだが、ナデシコが再び動きだしたとの連絡があってな。

 そこで、こちらの動向を気取られる前に、先手を打っておこうという訳だ」

「いよ〜…」

 

パンッ

 

「…………すまん、どんな顔をして対処したらいいのか全くわからん」

 

思わず頭を抱える。

両手を叩いた男は、勝ち誇った顔でモニターを見つめていた。

 

「あれ? そういえば草壁さんは? いつもなら自分から命令出すのに」

「閣下なら、慰安旅行中で留守だ。まったく…未決済の書類がまだあるというのに…おみやげ忘れたら仕事量倍増だな

 

戦士には、時に休息も必要だ。

ちなみに、南雲も子連れで同行しているらしい。

 

「へ〜いいなぁ〜僕も温泉に浸かりながらゆっくりしたいな〜。この仕事が終わったら僕も行こうっと。

 それでシンジョウさん、話の続きは?」

「あ、ああ…たいがい、あのような戦艦は外側が重厚でも、内側なら脆いものだろう? そこで潜入工作というわけだ」

「どうでしょうかね? ナデシコはなかなか曲者揃いっぽいですよ?」

「やってみればわかることだ。山崎博士、このことを北辰殿に伝えておいてくれ。あの方ならこの程度のこと、容易いモノだろう」

「確かに、北辰さんなら上手くこなしてくれるでしょうね。

 でも、良いタイミングですよ。ついさっき、北辰さんの改造が終わったところなんです」

「…………なに?」

「だから、北辰さんの改造が…」

「もういい。喋るな。私に語りかけるな。何も聞きたくない」

 

両耳を塞ぎ、完全に外界とのコンタクトをシャットアウトするシンジョウ。

それでも山崎はメガホンを取り出し、聞かせる気満々だ。

 

「なんでもいいから頼むぞ!」

「…ちっ、切りましたか…まあいいや。さてと、じゃあ北辰さん3号に頑張ってもらいますか♪」

 

無論、北辰の了承など得ずに作戦開始である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「前祝いだぁ?」

「言い換えれば前夜祭だね」

「なんで?」

「騒ぐのが好きだから」

 

自分に正直なユリカだった。

そして、そんなユリカの相手をするのはアキトである。

 

「とまあ、それは本音で」

「本音から言ってどうする」

 

建前が後回しでは、もう何を言っても効果は無い。

 

「白鳥さんのお陰で、和平を実現出来そうでしょ? だからそれの前祝い!」

「なるほどね。で、何をやるんだ?」

「うん、名付けて『ナデシコビックショー!』 これの為に月で補給もするんだから」

「よし、そういう事なら意地と根性とその他諸々総動員でやらねばなるまい! オレのアレを見れば吐血は間違いなしだ! 」

「キャー! アキト素敵ーっ!」

 

ユリカはアイドルグループの追っかけでもやるような勢いで、アキトに声援と言う名の破壊音波を送る。

無論、アキトはさわやかな風とともにスポットライトを浴び、耳栓常備だ。

 

「な、何を見せる気なのよアキト…」

「あきとおにーちゃんのことだから、たぶんとってもくだらないもの。それでユリカ、具体的には何するの?」

「何でもアリ! とにかく盛り上がろーっ! という訳。ラピスちゃん、わかった?」

「わからないけどわかった」

「凶器持ち込みもOKだそうだぞ」

 

アキトは何か勘違いをしている。

ちなみに、ここはアキトの部屋なのだが、右隣が艦長室で左隣がユキナとラピスのお部屋。

しかも壁をぶち抜き、何時でも進入可能となっている為、アキトの部屋は何時も賑やかだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この手紙、どういうことなのか説明してもらいたいんだけど?」

「説明したいのは山々だけど、全然身に覚えの無い手紙を出されても困るわね」

 

妙齢の女性に迫る、もう1人の女性。

双方とも知り合いのようだが、2人の間に流れる空気はイイ感じに張り詰めている。

 

「嘘を言わないで! アナタが知らなくて、他の誰が知っているって言うのよ!」

「じゃあ納得がいくように説明してあげる。まず、この手紙はさっきも言った通り、私が書いたものではない。

 何故かというと、私はこの事を他人に明かしていないし、手紙を書くより私自身が直接出向くか、通信で説明する方が効率的だと思っている。

 以上だけど、何か質問は?」

「……………ん? ああ、終わった? じゃあ、これで帰るわ」

「ちょっと待ちなさい。あなた、今ままで寝てたわね?」

「全然」

「目を見て言いなさい」

「いっけない! 終電に遅れちゃう! じゃあね、イネスさん!」

「あ! ちょっと待ちなさい! …まったく、慌しいわね……あら? でも確かあの娘って行方不明だったんじゃあ…?」

 

首を傾げ、考え込むイネス。

閉まりきっていないドアを見つめ、怪訝な表情をする。

 

「まあ、アキト君の知り合いだし、これでいいんでしょうね」

 

自己完結に至ったようだ。

どうやらイネスは、自分がアキトの昔からの知り合いだという事実を彼方へ追いやっているらしい。

 

「でも、レンナちゃん、何処に行く気なのかしら…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イネスさん以外に、この事を知る人物…まさか、アキト? いや、アイツは手紙を書くようなヤツじゃない。

 となると……仕方無いわね。数打ちゃ当たるでしょ」

 

ガション

 

「行くわよ主バッタ」

 

主バッタの背に乗り、一瞬にしてその姿を消す。

後に残るのはボソンの光のみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、いよいよ始まりました。第一回 ナデシコビックショー! 司会はワタクシ、プロスペクターが務めさせていただきます。

 そして審査をして下さるのはこの方々!」

 

よそ行きのスーツに身を包み、プロスは意気揚々と司会を務める。

そして、プロスが手をかざす先には審査員の面々が居座っていた。

 

「整備班長、ウリバタケ・セイヤだ。機械と燃え(萌え)なら任せとけ! くぅー! 俺も出場したかった!」

「料理長、リュウ・ホウメイだよ。ま、適当に流すさ」

「警備班長、ゴート・ホーリー。過激な事は控えるように。だが、着ぐるみの評価は高いぞ」

「副長、アオイ・ジュンです。…こんな時だけ副長扱いですか…」

 

「最後に控えるは村長、テンカワ・アキト! オラの村の特産品はこの白菜…」

 

げすっ

 

「いい加減にしたまえテンカワ君。私は悲しいぞ…とまあ、それはさて置き。

 改めまして、全世界妹連盟木蓮支部長、白鳥九十九です。妹について夜明けまで語り合える方募集中!」

 

どげっ


「あははは、失礼しました〜」

「あきとおにーちゃんっていったい何処の人?」

「そして白鳥さんは、どこまで落ちる気なんでしょうね」

 

もはや火星人かどうかも怪しいアキトと、底がしれない九十九。

2人はユキナのヤクザキックにより撃沈し、引きずられながら舞台袖へ引っ込む。

調教師と野獣の絵図だ。

 

「少し脱線してしまいましたが、続いて行ってみましょう! 今回のビックショーに優勝すると、な、なんと!」

「パートナーと結婚しちゃうとか?」

「テンカワさん、したいなら何時でもどうぞ。ほら、後ろでそわそわしてる女の子が居ますよ」

「いや、全然。後ろ? 眼中になし

 

ガゴッ! ドギャッ!

 

「もう、アキトの照れ屋さん♪」

「そうだよね。まだ結婚なんて早いよね…まずは同棲あたりから…」

「ユキナ…同棲でも十分過ぎるほど飛ばしすぎ」

 

そして、アキトはまたも床に沈む。

 

「コホン。では気を取り直して…優勝者には和平会談を行っていただく為の親善大使となって頂きます!

 これは凄いですよ! 歴史に名を刻んでしまうかもしれません!」

『ふ〜ん』

 

しかしクルーの反応は薄かった。

やる気もダウンである。

 

「あ〜それと艦長からの提案で、優勝者には『なんでもお願い叶います券』をプレゼント…」

『おおおおおおおおお!』

 

一気にテンションは最高値へ。

もはや、この勢いは誰にも止められない。

 

「わかりやすい反応をありがとうございます。また副賞として、ルリさんとアクアさんからのご提供、モトギ・カズマさんを差し上げま〜す」

『いらねー』

「てめえら! なんだその態度は! 俺を貰えるなんて一生に一度あるか無いかだぞ!」

 

むしろ、あったら困るだろうと心の中でツッコミと入れるクルーの面々。

冷めた目で見られるカズマは、ご丁寧に頭のてっぺんに緑色のリボンを装着し、緑色の包装紙でキレイに包まれている。

贈り物としては上々の出来だ。

 

「おや? そういえば、いつも一緒のお子さんが居ませんね」

「あいつ等は留守番だ。つーか、俺だけ宅急便で送られてきたんだがな…」

 

もはや、人としての扱いを受けていないカズマだった。

額に張ってある『差し押さえ』の張り紙が痛々しい。

どうやら、本気で担保になっているようだ。

 

「ねえねえ、アキトは優勝したら何をお願いするの?」

「ナデシコをオレ風味にする」

 

 

『阻止せねば…!』

 

 

今、ナデシコクルーの心は1つになった。

 

 

 

「あきとおにーちゃん、先のこと全然考えてない」

 

アキトだけではなく、クルーの殆どが考えていないと言ったほうが正しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういう訳で、この手紙を書いた奴、知らない?」

「う〜ん、力になりたいけど、ごめんなさい。私にはわからないわ」

「そう…」

「でも、無事で良かったわ。レンナが行方不明と聞いた時は、思わず杏仁豆腐を喉に引っ掛けちゃったわよ」

「…引っ掛かるの、それ?」

 

どうやら、相手は特殊な喉をしているらしい。

 

「とにかく、私は力になれそうにないわ」

「わかった、邪魔したわね」

「あら、もう帰るの? お茶くらい出すわよ?」

「いい。この喧騒の中でお茶を飲むくらい肝が座ってるアンタと違って、私は繊細だから」

「何気に刺があるような…」

「気のせいよ。じゃあね」

「ええ、また来てね〜」

 

手を振りつつ、別れる2人。

どうやら、いい友人関係のようだ。

 

「エマ〜! 客が帰ったんならこっち手伝ってよー!」

「カ、カグヤ様! 重火器を買い集めるのをもう止めてください! もう都市1つくらい灰にする量ですよ!?」

 

「……………いい、私はもう疲れた。あんた達で頑張って」

 

「エマさ〜ん! 見捨てないで下さい〜!!」

「…なあハーリー、移転届ってこれでいいんだよな?」

「カイオウ提督も暗い影を背負ってないで、止めるなり、倒すなりしてくださいよー!」

「あら、ハーリー君。いったい誰を倒すのかしら? 是非とも教えて欲しいわね」

「!」

 

ハーリーは声の主に、目を合わせることが出来なかった。

目が合った瞬間、絶対にチビる自信があったからだ。

 

「ハぁ〜リぃ〜くぅ〜ん?」

「う……うわぁぁぁぁぁぁぁぁん! 怖いよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「な…! 誰が怖いですってぇぇっ!? 綺麗過ぎて、直視出来ないくらい言いなさい!」

「「「「よく言うわ…」」」」

「あ゛〜ん?」

 

次の瞬間、その場は戦場と化した。

一方的な殺戮の始まりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは行ってみましょう! エントリーナンバー1番の方、どうぞー!」

「オレがナンバーワンだ! 全員跪けい!」

 

ガゴッ!

 

「では、改めてどうぞー!」

 

プロスの足元には痙攣をするバカが倒れているが、当然無視である。

そして、舞台袖より現れる1人目の挑戦者。

 

「はーい! いっちばーん、アマノ・ヒカルでーす。ヨロシクお願いしま〜す!」

 

『おおおおおお! ヒっカルちゃーん!!』

 

「さあ、元気いっぱいアマノ・ヒカルさん。いったい、何を披露してくれるのでしょうか?」

「リミッター解除!」

「はっ!?」

「そんな訳で、歌いまーす!」

「いや、ヒカルさん、待っ…ぶごべっ!?

 

この後、電波ソングの嵐で観客の半数が洗脳されたらしい。

プロスは辛うじて無事だが、顔は真っ青になったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんたなら知ってるでしょ?」

「さあ?」

「嘘を言いなさい。あんたくらい狡猾な人間なら、これ位の情報掴んでるでしょ?」

「誉め言葉と取っておくわ」

 

しれっと答えつつ、紅茶を飲む。

上品さを漂わせ、相手に負けない位の目線を放つ。

 

「本当に知らないの?」

「ええ」

「…わかったわ」

「それで、アナタはナデシコに戻らないのかしら?」

「アソコは私にとって、憎むべきモノであって帰る場所ではないわ」

「そう」

「アンタこそ、アキトの近くに居たいんじゃないの?」

「私はいいの」

 

かなり意味深な笑みを浮かべ、レンナを見詰める。

そして、その目は相手の内心を探ろうとしているように見えなくもない。

 

「まあいいわ。でもアキトに会っておくのなら今の内よ?」

「あら、何故かしら?」

「アイツはもう直ぐ地獄に落ちるから」

 

本当に楽しそうに話をするレンナ。

だが、アクアは少しも動じず、笑みを浮かべるのみ。

 

「ふふ、それなら大丈夫。私は地獄の果てまでだって追いかけますから」

「はぁ…やっぱ、凄いわアンタ。伊達にクリムゾンの令嬢やってないわね。

 でも、意外だわ。アンタなら見てるだけじゃなくて、一緒に添い寝でもしながらアキトの側に居そうな感じだけどね〜」

「まあ、レンナさん!」

「なっ、なによ…」

「どうしてそれを早く言わないんですか! 迂闊でした…添い寝をするという行為を忘れていたとは…!」

「やる気かい!」

「いいアドバイスをありがとう。では、ごきげんよう」

「もう帰るわ…」

「レンナさん」

「…何よ」

「大丈夫、アナタはまだまだ伸びる子よ」

「アンタは私の担任か」

 

ツッコミを入れつつ、レンナはその場を後にする。

 

 

 

 

「彼女の行動が、アキトさんの運命を左右するのね…ふふっ」

 

金持ちファイターは伊達ではないのか、余裕の笑みを絶やさないアクア。

 

「ああっ! そして私はその惨劇に巻き込まれるヒロイン! 最後には息絶える寸前の私をアキトさんがギュッと抱きしめ…!」

 

彼女の妄想は延々6時間にも及んだらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだか疲れたわ…」

 

ピッ

 

「やっほーレンナさーん」

「なによ、取り込み中なの、後にして。もし、本体が今 眼前に出現しようもんなら、問答無用で叩き出すわよ?」

 

通信越しにガンを飛ばす。

相当、頭にきているようだ。

 

「まあまあ抑えて抑えて。実は頼みたいことがあるんですよ」

「頼み?」

「ええ。実は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあてどんどんいきましょう! 続いてはこの方だー!」

 

幾多もの激戦を潜り抜けたのか、司会、審査員共にボロボロだ。

無論、何があったかは本人達にしかわからない。

 

ポロロ〜ン♪

 

「マキ・イズミ、漫談ショー…『ギャグ100連発』いきます…くくく」

 

『……………』

 

カーン

 

「はい、ありがとうございましたー!」

 

即座に鐘を鳴らしたのはホウメイ。

他の審査員は、『ギャグ100連発』という言葉を耳に入れた瞬間、アッチに逝ってしまった。

 

ポロン♪

「延長戦突入だって。まあ、ええんちゃう?…ぷくくく」

「あ、ありがとうございまいしたー!」

「英会話を言ってええか? いいわ!…くくくっ」

「あ、あの…」

「ロシアのスパイが踊ってやがる! コサック員か!…ぶっ」

「…」

「あらら、コロッケが、まっ黒っけ…へへっ」

「……」

「マクラが燃えちゃった。お先真っ暗だな…はぶぅっ」

「………」

「お父さん、私ルワンダ人と結婚します。ぬわんだとー!?…ぶふーっ!」

 

もう誰にも止められない。

既に会場は混沌のるつぼと化してしまった為、第二会場へ移動となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ア、アキト…無事?」

「当たり目よ! 耐久年数1000年は伊達ではないわ!」

「テンカワさんは何時まで生きる気ですか」

「ラ、ラピスーっ! 目を開けてーっ! 寝ちゃダメーっ!! びしびし!!」

「…さむいよー…さむいよー…」

 

被害は甚大だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの娘、容姿のせいで審査通らなかったんだって。そりゃようしゃねぇなぁ…ぷぷぷっ」

 

イズミのショーはまだまだ終わらない。

 

「………やべぇ、凄え楽しい」

 

ただ1人残された副賞の商品は、置いてけぼりをくらったのにも関わらず普通に満足していた。

恐らく、免疫があるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休憩室。

普段は憩いの場となり、賑わう場所も今日は閑散としている。

そんなところで蠢く影が2つ。

 

「う〜ん…」

「お、気が付いたか?」

「…リョーコ?」

「おう、大変だったな」

「何が? 全然、記憶にない」

「そ、そうか」

 

イズミのアレは、記憶をも彼方へ飛ばせるようである。

後遺症が心配されるところだ。

 

「ところでリョーコはここで何してるの?」

「俺か? 俺はまあ、お前の付き添い兼看護だな。暇だったし」

「ビックショー出ないの?」

「ん〜俺が出なくても十分濃い奴が出てるからいいだろ」

「そうだね」

 

その濃い人達は、ナデシコに混沌を呼び寄せている真っ最中だ。

 

「ラピスこそ、テンカワの応援に行かなくていいのか?」

「いい。歯止め役ならユキナだけで間に合うから」

「ははは、すっかり尻に敷かれてるなアイツは」

 

ひとしきり笑った後、リョーコは缶ジュース片手に近くのイスに腰を下ろす。

ラピスもその横にちょこんと座り、リョーコから貰ったジュースをコクコクと飲み始めた。

 

「なあ、本当に和平なんて出来ると思うか?」

「わからない」

「だよなぁ…」

「でも…なるようになると思う」

 

リョーコはその言葉に思わずラピスを見つめてしまう。

だが、ラピスは自分の発したセリフに自覚が無いのか、オレンジジュースのつぶつぶをどうにか取ろうと悪戦苦闘している。

 

「へっ…そうか、そうだな。よっし、気分転換でもするか! ラピス、ちょっと付き合え」

「ごめん。女の人とそういう関係になるなってパパに言われてる」

「そういう意味じゃねぇ…ったく、ホントにそっくりだよ、お前ら兄妹は」

「?」

 

ラピスにはさっぱり理解出来ていないようだ。

そんなラピスをリョーコは呆れると共に、ついつい笑顔を作ってしまう。

ちなみに、アキト父がラピスにその教えを説いた際、アキト母は恐怖の女王と化したらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ、結構気持ちいいもんだろ?」

「前、これに乗った時はスペシャルに気持ち悪かった」

 

アキトを救出に行った時の事を思い出し、ちょっと青くなるラピス。

エステバリスはラピスの中で、あまりイイ位置にいないようだ。

 

「綺麗だよな…」

「そんなに誉められても何も出ない」

「おめぇじゃなくて星だ星」

「そう…」

 

ラピスは何故か残念そうだ。

リョーコはただ苦笑するのみ。

 

「いつか俺もあんな星みたいに輝けるのかな…」

「リョーコ?」

「俺な、親父に『一番星を目指せって』言われたことがあるんだ。

 その時はさっぱり理解出来なかったけどよ、今ならなんとなくわかる気がするんだ」

「ふ〜ん、それってなんなの?」

「おめぇも何時か見つかるさ。そうだな…ユキナのヤツはもう見つけてるのかもな」

「ユキナ? あきとおにーちゃんに容赦無いツッコミ入れて、同棲希望するのが一番星なの?」

「………俺が間違ってた」

 

ユキナの兄の方が一番星に近い位置に居るとは気付かない2人だった。

無論、裏口の一番星だが。

 

「…ん?」

「どうしたの? トイレ?」

「んな訳あるか。いやな、何か光ったような気がしたんだが…」

「そう?」

「ああ…気のせいか?」

「あ…」

「…ラピスにも見えたか?」

「うん」

「まさか…ブリッジ! ブリッジ! ちっ、ダメだ、繋がらねぇ」

「…来た」

 

突如として現れた、巨大な物体。

それはもう何度もナデシコを襲ったものであり、つい先日コスモスを撃沈させたもの。

 

「な、な、な〜!?」

「また出た…」

「なんで主バッタがこんなとこに居るんだよ〜!!」

「ん〜ちょっと違うかも。こう、腰のくびれ辺りが」

「そこか!? しかもアレに腰ってあるのか!?」

「さあ? でも、またトカゲ…?」

 

「残念。違うわよラピスちゃん」

 

「え…」

 

その声を聞いた瞬間、ラピスの表情が一瞬にして変わった。

隣でわめいていたリョーコも同様である。

 

「ちょっと待て! 今の声って確か…」

「まさか、レン…?」

「当たり〜♪ じゃあ…さようなら」

 

次の瞬間、主バッタの背より発せられる無数のミサイル。

その群れは容赦なく、リョーコのエステに襲い掛かる。

 

「おわぁぁぁっ! な、なんなんだよ!」

「う゛…気持ち悪い…」

「吐くなよ!」

「自信ない…」

「それは俺に対する挑戦と受け取っていいか!?」

「なんの?」

 

「ふふふ、すぐに楽にしてあげるから心配しないでね。後は…」

 

レンナは目線をナデシコへ向ける。

ナデシコを睨みつけるその目は、常軌を逸していなかった。

 

「ナデシコ…そしてアキト…いいわ、予定変更」

 

次の瞬間、主バッタは自らを弾丸のように変え、ナデシコへ突撃を開始した。

もはや、リョーコのエステなど眼中に無いと言わんばかりに。

 

「ちょっ、ま、待て!」

「リョーコ、駆け足!」

「陸戦じゃねぇから無理だ!」

「ツッコミどころが違うと思う」

「わかってる! つーか、どのみち意味ねえ! それにアイツをよく見ろ! 獣だっ! アイツ、獣の目をしてやがる!」

「誰が獣よ!」

 

性なのか、思わずツッコミを入れてしまうレンナ。

それが命取りとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

バシュゥゥゥゥッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「「へ?」」

 

突然の事に目が点になるリョーコとラピス。

主バッタは黒い閃光にその身を散らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、全く返事が無かったブリッジ。

この場は無残にも控え室と化し、その一角ではいつも通りに、騒がしいやつ等が文字通り騒がしく喚いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「何してんのアキトーっ!」

「もうっ、アキト! 今度からは気をつけないとダメだからね! 艦長さんはご立腹だよ! ぷんぷん!」

「いや、お前に言われる筋合いは無い」

 

グラビティー・ブラストを誤作動させてしまったアキトが、ユキナとユリカに責められていた。

 

「仕方ないだろうが! 折角用意したのに、無理矢理引っぺがすからこういう事になるんだ!」

「当たり前でしょうが! 体中に変なモノ巻き付けてれば誰だって脱がせるに決まってるでしょ!」

「アキト、それで何をする気だったの?」

「おう、失敗した時の事を考え、全てを無に帰す為に用意したタイヤ班長特性自爆装置ダイちゃん1号だ!」

 

どこぞで、それの製作者が『自爆は男の浪漫だ!』と叫んだとか。

それに同意する輩も多数存在するのだから手に負えない。

 

「…失敗する気満々なんだね」

「わかってるじゃないかスカ! 失敗したら、思いきってマジの自爆! ウケるぞ〜」

「思いきり過ぎっ! それに…失敗するのがわかってんなら最初っからするなーっ!

 

どごすっ

 

良い正拳突きがアキトのどてっ腹に決まった。

悶絶は必至だろう。

 

「じ、自爆が売りなのに…師匠、ボクはこんなに元気です…げふっ」

 

アキトは意味不明の言葉を発し、やっぱり床にダイブする。

余程お気に入りのようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい! 何だか色々とトラブルがあったようですが、続きと行きましょう!」

 

テンションを上げまくるプロス。

ここまで来たら最後までやらないと気が済まないようだ。

 

「色々で片付けるなよ…」

「あきとおにーちゃん、これからどうするの?」

「………」

「あ〜アキトは今、おねむだから。でもレン…いったいどうしちゃったんだろう…って、言っても消しとんじゃったけど」

「テンカワさんのせいでね」

「………」

 

レンナの安否を気にするユキナ達を余所に、起き上がるに起き上がれないアキトだった。

そこへ、タイミングを見計らったかのように、オモイカネからのコールが入る。

 

「オモイカネ.、どうしました?」

【艦内にボソン反応検知】

「え?」

 

その時、ルリの中に嫌な予感がよぎったらしい。

勘の良い人に対抗出来るほどに。

 

「ん? おおっと、ここで飛び入り参加者の登場ー! さあ、行ってみましょー!!」

 

プロスの声と共に、緞帳がゆっくりと上がって行く。

舞台上に現れる1つの影。

そして、影にスポットライトが当てられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は〜い、我はぴちぴちの女子高生。北ぴんって呼んでね♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

がしゃぁぁぁぁん…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、彼らの中で何かが壊れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついでに6人衆は昇天したらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキト…とナデシコクルーの運命はどっちだ!? 続くような続かないような思わなくも無きにしも非ず。

 

あとがきです。

こんにちは、彼の狽ナす。

 

 

 

 

 

察してください。

 

 

 

 

 

そんな訳で続きます。

 

 

 

 

代理人の感想

察しました。

 

 

それはさておき。

そーかぁ、アキトってナデシコを一つにまとめることのできる貴重な人材だったんですねぇ。(嘘は言っていない)

あのクセの強いナデシコクルーが、(の行動)を中心に結束するんだから大した物です。(くどいようだが嘘は言っていない)

 

 

>カズマ

「あれ」を理解できるのかっ!(爆)