男はある場所に佇んでいた。

ここは木連軍のトップが在籍する部屋の前。

この男、つい先日友人からの重大な頼みごとを表面上では菩薩の笑みで、内面では般若の形相で承諾し、この場にいた。

深呼吸を1度だけ行い、意を決して扉をノックする。

 

「入れ」

「ハッ、失礼します。シンジョウ中佐、実は折り入ってご相談…」

「うおおおおおおおおお!」

「見えたーっ!」

 

ガシャァァァン!

 

イキナリの突撃に、手元にあった花瓶でカウンターをかます元一朗。

シンジョウの飛びっぷりは、それは見事だった。

 

 

 

「すまんな。中佐などと呼ばれたのが、あまりにも久しぶりなのもので、つい」

「いえ、別に構いませんけど…」

 

数メートル離れた位置で敬礼をする元一朗。

逃げ出すことの出来るギリギリのラインを維持だ。

無論、シンジョウは輸血パックを常備している。

 

「月臣少佐、君は確か月面攻略の真っ最中の筈だが、なぜ突然戻ってきた?」

「はい、実は…そういえば、閣下のお姿が見えませんが?」

「…閣下なら慰安旅行中で留守だ。用件ならば私に話せ」

「い、慰安旅行ですか…」

「いや、たった今帰ったのだがな」

「「うぉわ!?」」

 

天井裏から顔を覗かせる、お茶目な男。

何を隠そう、木連軍で一番エライ人である。

 

「か、閣下、変な所からお帰りなさいませ」

「うむ、留守番ご苦労。ほれ、みやげのゲキガン饅頭とナナコキーホルダー」

「はぁ、どうも…」

「定番の土産ですね」

「む? ツっきんではないか。どうした?」

「ツ、ツっきん? あ、その、実は閣下にお知らせしたいことがありまして…」

「ほぉ…まあ、土産の饅頭でも食いながら聞こうか。シゾイド人間君、お茶を煎れてくれるか?」

「わたしゃ被害妄想者ですか!」

「シンジョウ中佐、落ち着いてください! 血が! 血ぃ吹き出てますよ!?」

「だから、私はシンジョウだと何度言ったら…ふぅっ…

 

パタリっ

 

「シンジョウ中佐ーっ!!」

 

返り血を浴びながら、シンジョウを揺すりつづける。

だが、シンジョウの顔は、もう真っ青だ。

 

 

 

 

「みやげを追加するか。ほら、輸血パック

「…………閣下…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伝説の3号機

その48

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん?なんか妙に静かだな」

 

起き上がり、周りを見渡せば、そこには真っ白になったクルーで埋め尽くされていた。

中には呪詛を唱える者までいる。

 

「何事だ?…お? なんじゃこりゃ?」

 

ふと舞台上を見ると、何故かある金ダライ。

しかも数えきれない程の金ダライがうず高く詰まれており、全部イイ感じにへこんでいる。

 

「………」

 

暫くの間、物思いにふけるアキト。

数分後、何かを思いついたのか、倉庫から台車を持ち出し、無数の金タライを運び出す

そして、行き着く先はゴミ集積場

問答無用で投棄を始め、山となった金タライの中に人が紛れ込んでいたことに全く気付くことなく、全てを追憶の彼方へ。

 

「ふぅ〜、終わった、終わった」

「全部、片付いたの?」

「おう、バッチリだ。オレはこう見えても、かなりキレイ好きな方に属する存在だ」

「なるほど。じゃあ、一番の汚物を排除しないとね」

「む、そんなモノが存在しているのか? どこだ?」

「お前だーっ!」

 

ズシャァァァァッ!

 

素晴らしい滑り込みでアキトを宙に浮かせる。

更に息つく暇もなく、拳を乱舞させ、今までの怒りやら恨みやらを全て吐き出す。

 

「死ぬーっ!!」

 

ドグォッ!!

 

最後に床がめり込む程の衝撃を与え、そこに存在していた生物に人生のピリオドを打たせた。

辺りに静寂が訪れる。

 

「ダメだな。トガリかたが足りん」

「何がーっ!? つーか、なんで生きてんのよーっ!?」

「よっ、ベン子。生きてたか」

「うっさい! それよりベン子言うなって、何度言わせれば気が済むのよ!!」

「むぅ、久しぶりに聞いたなそのセリフ」

「言わすな! だいたい、アレだけボコられて、どうしてピンピンしてるのよ!?

 もお、もお、こんな、こんなぁぁぁぁぅるぁぁぁぁあぁぁぁーっ!!

「わかった、落ち着け! よし、オレを見ろ! 多分それで万事解決だから! だからオレを貧血で倒れるほど見てたもれーっ!」

 

セクシーポーズは当然のオプションと言わんばかりに自らを晒しだす。

だが、見せる相手によっては挑発以外の何物でもない。

 

キシャーっ! こうなったら、この姿を見て脳髄が染み出すほど頭を床にこすり付けなさい!! へんしぃーん!

「なにぃ!? 変身だと!? オレでさえ、まだ習得してないのに!」

 

驚きの表情を劇画バージョンで作り出し、ご丁寧に変身が終わるのを待つ。

アキトはお約束を理解している、出来たヤツだ。

 

「さあ、どう!?」

「…はい。どの辺が変化したのか、アンケートを取ってみました。

 一番多かったのは『太った』、次に『髪を切った』、『職業が変わった』、『若返った』、『値切りの特技を身につけた』と続きます」

「そんなもんいつ取ったーっ!? というか、見てわからないの!?」

「…くっ…あなどれん…! 誰か、オレに教えを請うてくれぇ!」

「自分で理解しなさいよ! ほら、変わったでしょうが!」

 

ズイッと身を乗り出す。

アキトはレンナを凝視し、待つこと10分、ようやく変化に気付いた。

 

「まさか、メガネをかけてメガネっ娘とか、ほざく気か?」

「他に何があるのよ!」

「開き直りやがった! 貴様、まさかこんなベッタベタなオチで締めるつもりじゃねぇだろうな!?」

「人の事を言えた義理!? それにこれはただのメガネじゃないんだからね! 喰らいなさい! メガネビィーム!

「あにー!? できるんかっ!」

 

しかし、辺りには静寂しか訪れない。

ただ、今は沈黙が痛かった。

 

「…おい」

「ち、ちきしょう騙された! これも罠なの!? 恐るべしマッドの執念!」

 

誰かに中指をおっ立てながら地団駄を踏む。

虚空に浮かぶ誰かのイメージは、ただヘラヘラと笑うのみ。

しかも、ブイサインをかます程の余裕を見せ付ける始末。

 

「ふざけんにゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「もしもーし、自分の世界に突入していないで、この空気を何とかしてくださーい」

「…ふっ、運が良かったわねアキト。今回だけは見逃してあげるわ。

 そうそう、手紙の件も次回に持ち越してあげる。ありがたく思いなさい」

「おおい! 違うだろ!? オレの言葉はお前のハートに響かなかったのか!? だぁー! 聞き取れて無いよこの俗物!!」

「バカー! 覚えてなさいよーっ! つーか、忘れたらぶち殺す! という訳で…跳躍!

 

ボソンの光を残し、その姿を彼方へかき消す。

そこに佇むのはアキトただ1人。

 

「暴れるだけ暴れといて、どうしようもないオチをくらったオレはどうすればいいんでしょうか? はい、アンケートをもう1度取りたいと思います」

 

用紙片手に辺りをうろつき始める。

勿論、誰もそんなモノに答えるはずがない。

 

「…アキト、何やってんの?」

「あきとおにーちゃん、バイトでも始めた?」

「喫茶店にでも連れ込まれそうなバイトですね」

 

ひょっこり現れたのは、ご存知ナデシコちびっ娘トリオ。

警戒していたのか、銃を持つその姿は勇ましい限りだ。

 

「おおっ、お嬢さん方! ちょっとお話しをさせてもらっていいかな? なぁに時間は取らせないよ」

 

パン!パン!パン!

 

銃撃で返される無言の拒否。

アンケート用紙に風穴が空き、いずこかへと飛んでゆく姿はなんともわびしい。

 

 

 

 

 

「ええ!? レンが居たの!?」

「それで暴れるだけ暴れて」

「帰ったと」

「イエス」

「イエスじゃないよ! どうして止めなかったの!」

「あきとおにーちゃん、まさか見てただけ?」

「テンカワさんにあの人を止められるとは思えませんが…」

「アキト、もうちょっとしっかりしてよね!」

「うんうん」

「…お前ら、自分の姿をわきまえてから、そういうことを言え」

「「え?」」

 

2人は改めて自分を見る。

それは『ナントカと天才は紙一重』と言われるうちの、限りなくナントカよりなのは間違いない格好。

どこから調達したのか、かなり変な服を着込んでいる。

 

「え? 今の流行りだってイズミさんが言ってたよ?」

「着てればスカウト間違いナシだって。この前貰ったから今日の為に着込んでた」

「聞く相手に問題は無いが、スカウトされるのは間違いなくソッチ系だぞ」

 

「3人共、ピントがズレてますよ」

 

少し離れた位置からツッコミを入れる。

関係者と思われたくないのであろう。

 

「まあいいか。でもさ、レンが居たってことは…まさか、この状況ってレンがやったの?」

 

アキト、ユキナ、ラピス、ルリの4人が佇むのはビックショー会場。

だが、4人が目にしたものは輝かしいショーとはかけ離れたもの。

 

そこには、泣き出す者。

体育座りをする者。

膝を落とす者。

目が虚ろな者。

壁に話し掛ける者。

辞世の句を書き始める者。

母親に方言丸出しで電話をする者。

うつぶせのまま起き上がることすら出来ない者と、今夜辺り夢に出そうな光景。

 

早い話、全員混乱している。

無論、この引き金を引いた張本人などわかるわけもなく、4人はただ途方にくれるばかり。

 

「知らん。オレはあの時、魂が抜けかけていたからな」

「あ〜…ドンマイ、アキト!」

「サッパリした性格ですなアンタは」

 

少し感心してしまうアキトだった。

 

「でもあの時、ルリが咄嗟に私とラピスを避難させてなきゃ、みんなと同じ運命を辿っていたかもね」

「ルリも何か受信できるの?」

「ヒカルさんの域に達するにはまだまだ修行不足です」

 

『どんな修行…?』と思わず考えてしまうユキナとラピス。

アキトは何故か頷いていたが。

 

「しかし、いったい何があったんでしょうね。ちょっとコレは異常です」

「普通だったことってあったっけ?」

「あんまり記憶にない」

「いや、ナデシコじゃあコレが普通だろ」

「「…なるほど」」

「納得しないでください。とにかく調べてみましょう、それで犯人がわかるはずです。オモイカネ、映像ファイルの閲覧要請」

 

ルリは虚空に向かい、オモイカネに呼びかける。

だが、返ってくるのは沈黙のみ。

訝しげな表情を作るも何度か呼びかけるが、オモイカネからの反応はない。

 

「…寝てるんですかね?」

「AIって寝るの? というか、睡眠って必要な存在? むしろ、寝てどうすんの?」

「でも、オモイカネが起きないと何も出来ないよ?」

「ふむ…よし、オレに妙案がある」

「「「え〜」」」

「『え〜』とか言うな!」

 

信用は既に地の底だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お〜い、オモイカネ〜オモイカネ〜」

 

ルリはコンソールから、どこぞのお母さんのような呼びかけをかます。

アキト達はブリッジに移動し、再度オモイカネを呼んでみるが返ってくるのは沈黙のみ。成果はないようだ。

 

「アキト〜ダメみたいだよ?」

「あきとおにーちゃんの妙案ってコレ?」

「ふっ、これはただの前座だ」

「…私は前座ですか」

「よ〜く見ていろ。これが本命のやる技というものだ!」

 

アキトは構えを取り、普段からルリが使用しているコンソールに狙いを定める。

 

「くらえ、おばあちゃんの知恵袋! 右斜め45度から振り下ろす黄金の右足ぃーっ!!」

 

ガンっ!

 

【何!? 何!? …って、何してんのアキト?】

 

そこには、床を転げまわるアキトの姿。

自分の右足を掴み、呻きながら訳のわからない言動を繰り返す。

 

「ぐぉぉ…世界が認めた右足が敗れ去るとは…」

【何を訳のわからないこと言ってんの?】

 

「ルリ、しっかり」

「世の中は不思議がいっぱいだから」

「…あれで復帰するAIって……昔の家電並ってこと…?」

 

ルリは体育座りで影を背負った。

どうにも納得がいかないらしい。

 

【なんだかよくわからないけど…それで、何か用?】

「うん。ルリがあんなだから私が言うけど、実はみんなが…」

 

ドォォォォン!

 

「うぉわ!?」

「きゃっ」

「おっとっと〜」

「…ラピス、やたらとバランスいいですね」

「慣れた。でもルリはなんで壁に抱きついてるの?」

「ほっておいて下さい」

 

生きていく術を色々と学んでいるラピスだった。

そしてルリは顔面強打で動けない。

無論、美少女は怪我をしないという大宇宙の法則があるので痛いだけだ。

流血は野郎のみの特権である。

 

「そんな事よりいったい何事なの!?」

「…ハテナよ、この状態の方が何事かと問いたい気分なんだが?」

「えへへへ…」

 

只今ユキナはアキトの懐に収まっている。

そしてクッション代わりにさせられたアキトは、色んな意味での衝撃でアッチに逝きかけていた。

 

「まあいいです。オモイカネ、状況報告」

【格納庫内部に被弾確認。クルーが全員ビックショーの会場に居た為、死傷者はゼロ】

「ええ!?まさか敵襲!?」

「不幸中の幸いだね」

「う〜む、これだけの衝撃があったのにも関わらずエアバックが作動しないとは…不良品でも付けられたな?」

「恐らくそうでしょう」「ええ、なによりです」「そんなものありません。だいたい、どこにエアバックを付けろと?」

【ルリ、器用に答えるね…】

 

聖徳太子みたいな特技である。

 

ドォォォン!

 

「わわわ!? また!? えいっ、ぎゅぅ!」

「もう、いい加減にしなさい! そんなふしだらな子に育てた覚えはありませんよ!!」

「育てられた覚えもないよ」

「ついでに、私もしがみ付いてみた」

「おのれ等……ふふふ、だがいずれにしろパンチ力不足は否めない。残念だったな!

【何言ってんだか…Yユニット第3ブロックに被弾。同じく死傷者ナシ。でも不思議なのは衝撃の割に、意外と被害が少ないこと…】

 

「ふっふっふ…こんなこともあろうかと、俺が秘密裏に開発した『ディストーションブロック』が役立ったなぁ〜……げふっ」

 

「「「【あえて何も問うまい。あなた改造屋の鑑です】」」」

 

思わずハモリで褒め称えてしまう一同だった。

 

 

 

「…痛い」

 

残念なことにルリは、再びの顔面強打で突っ込むことが出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦長! 跳躍砲の実用は大成功ですね!」

「ああ、閣下が立案した兵器だからな。

 超長距離から弾を直接相手の懐に跳ばし、時空歪曲場を無意味なものにしてしまう上に威力も申し分ない。

 奇襲にはもってこいか…あの方も恐ろしいものを考える。だが油断はするなよ? 相手はあのナデシコだ」

「無論です! よし、次弾装填急げ!」

「しかし、解せねえな…何故こんな宙域で、しかも的にしてくれと言わんばかりに止まっているんだ?」

「何を言ってるんですか! 絶好の機会ですよこれは!」

「…そうだな。『据え膳食っときゃ皆安泰』! よし三郎太、一気に行くぞ!」

「了解! でも脱ぐ必要はありませんからね!」

「…折角、プロテインを毎日…」

 

妙な事を呟く源八郎だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【周囲数キロ圏内には敵反応ナシ】

 

オモイカネのメッセージがブリッジに中央に浮かぶ。

それを中心にして、途方に暮れる4人。

 

「周囲に敵の反応はなし」

「でも、攻撃はきっとまた来る」

「次はココかも」

「くっ…そ、それ以上攻撃を仕掛けてみろ! 大声だすぞ!? どっせぇぇーーーーい!」

「というかもう出してるし! しかもソレ変だよ!」

「あきとおにーちゃん、そもそも誰に言ってるの?」

 

「…オモイカネ、とにかく前進。ここにいたらイイ的です」

【了解】

 

オモイカネのメッセージが現れたと同時に、前進を始めるナデシコ。

だが、状況は少しも変わっていない。

 

「このままではまずいですね…テンカワさん、艦長達をブリッジに連れてきてください」

「連れてきたぞ」

「「「早っ!」」」

 

台車に山積みにして運んできたようだ。

一番下にいるジュンが、なんとも苦しそうである。

 

「でも、未だに全員崩壊寸前だぞ?」

『お前はとっくに崩壊してるがな』

「なんだと!?」

 

ギリギリの状態でも、アキトに対するツッコミだけは出来るようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦長! ナデシコが動き出しました!」

「どこに向かっている?」

「どうやらアステロイド群に逃げ込むようです」

「無駄なことを…跳躍砲には障害物など無意味だというのに。

 だが、あまり距離を取られては射程外に出てしまうか…三郎太、ナデシコとの距離は?」

「約90キロというところです。どうしますか? ギリギリの射程ですが…」

「このままでは照準も定まらんか…仕方ない、こちらも動くぞ」

「ハッ! ナデシコを追尾するぞ、かんなづき前進!」

『了解!』

「そして、艦長はどこかに座って待機! おい、エチケット袋はまだあるな!?」

「十分に!」

「よし!」

「…そういえば昼はカレーだったな」

『余計な事を言わないでください!』

 

何かを想像してしまう、かんなづき乗組員だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【緊急警報! 緊急警報! 敵機接近!】

「ええ!?」

「出てきましたか…! ユキナさん、ラピス、私は何とか敵をふり切ってみますから、その間に皆さんを正気に戻してください!」

「よし、任された!」

 

ドンッと胸を叩き、お約束でむせるユキナ。

ちなみに呼ばれもしないアキトはブリッジの片隅でイジケていた。

 

「で、どうするの?」

「………根性でなんとか!」

「行き当たりばったり…」

 

何も考えていないユキナと、突っ込むことしか出来ないラピス。

そして、2人の周りでは精神に異常をきたしている輩が多数。

混沌は確実に広まっていた。

 

【敵艦接近! 後1分程で目視出来る距離まで到達予定!】

「うわわわわっ、ユ、ユリカさん! あんた艦長でしょ! 敵が迫ってるよ! どうするの!?」

 

「私は心に深い傷を負ってしまい、復旧の見通しが全く立っていません。あしからず」

 

「なにそれーっ!? ミナトさん! メグミさん! 2人は大丈夫だよね!?」

 

「ごきげんよう、ユキナちゃん。今日も元気ね」

「ミナトさんは良いとおっしゃるけど、もう少しおしとやかにね」

 

「ごきげんよう…じゃなぁーい! なに!? お姉さまとでも呼べと!? プロスさん2人を止めて! 2人が別世界に走りだしたよーっ!!」

 

「ユキナさん、夢は――いつか覚めるものですよ」

 

「訳わかんないよ! しかも何で凄くわかりきってるの!? アオイさんも、お願いだから2人をなんとかしてーっ!」

 

「強く生きようと思うんだ」

 

「なにを今更! ゴートさん! 戦闘の指示出さなくていいの!?」

 

「思考回路が完全にぶっ飛んでいるので戦闘どころではないわ!」

 

「何で逆ギレなの!? ウリバタケさんはさっき頼もしかったから、今度もいけるよね!?」

 

「へへ…自同率が保てなくなっていやがる…ぐぼばっ、し、心臓止まりそうだ…」

 

「誰か救護班ーっ! リョーコさん! リョーコさんは強い人だよね!?」

 

「わりぃ、頭がゆだってる。ああ…いい湯加減だぁ」

 

「私は熱めが好き…とかじゃなくてーっ! ヒカルさーん! イズミさーん!!」

 

「こ、これは神の領域に足を踏み入れているんじゃあ…」

ポロロ〜ン♪

「私達は今覇道を歩いているわ。ほら、見て。人生の何かを捨てて、何かを得た顔を!」

 

「むしろ帰ってくるなーっ! イツキさんは普段から真面目だからこんな時も冷静に…」

 

「いらっしゃいませ。ご指名はありますか?」

 

「どこの店よここは! 思わず「一番イケる人で」とか頼みそうになったじゃないの!」

「そうね。そんなことをしたら、私が宇宙にきらめくトップスターになっちゃうものね」

「なれるのもならなってみなさいよ!」

「なにぃ!一番星は俺のもんだ!」

「リョーコさんも訳のわからない合いの手を入れないで!」

「電波の合掌を感知できないお前になにがわかるかぁ!」

「わかりたくない!」

ポロロン♪

「くっ!!このオーラ……間違いない!コイツがエースよ!!」

「誰かーっ!」

 

ユキナは混乱している。

 

「ユキナ、ツッコミ上手」

 

ラピスは変なところで感心していた。

 

「うっきゃーっ! もう、どうしたらいいのーっ!?」

「ふっふっふ、ついにオレの出番か」

「あ、アキトは会場の後片付けをお願い」

「先生、扱いが違いすぎます!」

 

男泣きしながらどこかに向かって挙手をするアキト。

流石にかわいそうに思ったのか、よしよしするラピス。

だが、余計にみじめだった。

 

「うっ…!」

「む? どうした、ノリ3世?」

「うふ…」

「は?」

「あは、あははは、あはははーっははは! うきゃきゃきゃきゃきゃ! もけっ」

「…えー、放送席、放送席、本日の最上壊れの登場です」

 

どこかに居るであろう実況者に語りかける。

勿論、ルリは笑いっぱなしだ。

 

「あああ、ルリも完膚なきまでに壊れた」

「凄い狂笑」

「未だかつて見たことのない笑いだな。これが世紀末か…」

 

アキトは何かを悟った。

末期なのは確かだろう。

 

「ラピス、どうしよう。無事なのは私とラピスだけだよ」

「うん、困った」

「待てやコラ」

 

2人の中でアキトは、既に正気の沙汰ではない人物と認定されているらしい。

 

「こうなったら仕方ない。ラピス、何事も始まりが肝心だよ」

「うん、始まった瞬間に終わりそうだけど頑張る」

「よし…ルリ、笑いたい時は、おもいっきり笑うのが一番だよね。だから私も付き合うよ」

「私も付き合う。ルリは1人じゃないよ」

 

そして始まる、笑いの三重奏。

無論、周りでは混乱中の方々も居る。

アキトが最後の良心と成り果てていた。

 

「そこっ、順応してんじゃねぇ! くそっ…やばいな…こいつ等、今まさに人の道を踏み外さんとしている…!」

「ほら、アキトも笑って笑って。わはははははっ」

「あきとおにーちゃん、はい一緒に。あははははははっ」

「しかも、ソッチ側に引き込む気満々ときたか…! 2人共、目を覚ませ! それは人として激しく間違っているぞ!」

「え〜でも〜」

「あきとおにーちゃんのわがまま。ほら、ルリはとっても楽しそう」

 

ラピスが指差す先には、大笑いをするルリの姿。

おまけに、自らの席のコンソールをぶっ叩きはじめる。

 

「キャハハハハッ!!!」

 

ピピッ

 

【ミサイル全弾発射】

 

シュパパパパパパパッ!

 

無数のミサイルがあさっての方向に消えていく。

そして、彼方で起こる爆発の数々。

 

「隊長! 事態が凄い方向に悪化してます!!」

「あ〜あ、ミサイル無くなっちゃった」

 

満足そうに笑い続ける。

アキトは、またも誰かに向かって挙手をし、ユキナはただ呆然としていた。

 

「ルリ、満足?」

「あはははははっ!」

 

とても満足そうに笑い続けるルリだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦長! ナデシコがミサイルをばら撒いています!」

「…どういうつもりだ。まさか、何かの作戦か? ますます油断できんな…!」

「ナデシコを見失うなよ!」

『了解!』

 

あれでも効き目はあったようだ。

三郎太は冷汗を、源八郎は男汁を拭い、ナデシコの動向に注目する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とまあ、こんな所で今日の分の『名作劇場・フルーツ牛乳に集う熟年たち』は終わりね。はい、もう遅いから帰るんだよ〜」

「はい!? なに、その視聴者層が全然予測出来ないタイトル!? というか、なんで紙芝居が突然始まってんの!?」

「ユキナ、落ち着いて。はい、水あめ…ペロペロ…」

 

だが、当の注目を集める艦のクルーは、現実逃避に走りまくっていた。

 

【あの〜】

「「「はい?」」」

【敵が迫ってるんだけど】

「「「…あ〜」」」

【あ〜じゃないでしょ! どうするの!? ルリもあんなだし!】

 

AIにツッコミを喰らう3人。

更に笑いを乱舞するルリ。

それほどに状況は切迫していた。

 

「アキト〜本当にどうしよう〜みんな逝っちゃってるし、このままじゃあ宇宙のチリ、決定だよ?」

【そもそもさ、どうしてクルーの大半が混乱状態なの? みんなが正気なら、なんとかなるのに】

「それだよ。いやな、なんだか知らんが、気が付いたら全員こんな状態だったんだ。

 何か心当たりないか?というか、お前なら見てただろ?」

【え…?え〜と、確かビックショーの途中で…

 飛び入り参加者が現れて…

 幕が上がった瞬間、何かツッコミを入れたような…】

「あの大量にあった金タライはお前の仕業か。で、何を見た?」

 

【ピ━━━━━━━━━━━━】

 

「また止まってんじゃねぇ!」

 

理解の範疇を超える何かを思い出したのか、再びフリーズしてしまうオモイカネ。

『大変ご迷惑をお掛けしております』表示を出し、そこにはちっさいルリがお辞儀をしていた。

ちなみにフリーズのお陰で全機能が停止し、生命維持装置まで止まる始末。

状況は更に悪化の方向へと走りまくっている。

 

 

「あひゃひゃひゃひゃひゃ!」

「ルリ、その笑いはちょっと怖い」

「キャラ違う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦長! ナデシコの反応がセンサーから消えました!」

「なに? 逃げたのか?」

「いえ、完全に消失です。まさか先程の攻撃がたまたま機関部に被弾してそのまま…」

「…いや、希望的観測は危険だ。かんなづき停止! 警戒態勢と取れ!」

「了解! かんなづき停止! 全艦警戒態勢! いつでも攻撃出来る準備をしておけ!」

「さて、あちらさんは何を考えている…?

 もし、艦の動力をわざと止めたのだとしたら、相手の艦長は余程の臆病者か、それとも相当の策士か…」

「…艦長、感心するのは結構ですが、何故ポージングをかます必要があるんです?」

「見よ! この二の腕! 触るか?」

『おー』

 

何故か大盛況。

野郎に群がり、二の腕を触る男共。

傍から見たら、やたらと危険な光景だ。

 

「よし、全員注目!」

「だからポージングはいいですってば」

「ノリの悪い奴だな…まあいい。さて、ナデシコは全て機能を停止し、音なしの構えに出た。これではこちらの方が不利だ」

「しかし、ナデシコは時空歪曲場を外し丸裸の状態。それほど恐れる必要はないのでは…」

「バカモノ!」

 

ギュッ!

 

『おおおおおお』

 

乗組員が注目する中、源八郎の熱い抱擁を喰らう三郎太。

あまり長い時間やると薔薇の花が咲くので要注意だ。

 

「むしろ危ねぇのはこっちだ! 機関全開のかんなづきは、相手から丸見えだからな。

 だが、ナデシコは全ての機能を停止している。ならば攻撃も不可能の筈」

「そ、それはそうですが、センサーに引っ掛からないとなると、こちらの攻撃も当たりません…」

「このとんちきが! 頭を使え!」

 

ムギュゥ!

 

『うおおおおお』

 

更に熱い抱擁をかます。

三郎太の不思議メーターは振り切れ寸前だ。

 

「確かにセンサーに引っ掛からないのであれば、こちらの砲撃もバッタも使えねぇ。ならば、自分の目で確かめればいいこと」

「じ、自分の目で? ですが不用意に近づくのは危険では…?」

「方法ならある。跳躍砲のもう1つの使い方をやればいい」

「アレですか!? しかし…」

「なぁに、多少の危険は双方同じ。なら、手数をより多く出した方が勝率も上がるってもんだ」

「そうですかぁ?」

「俺を信じろ!」

 

ギュウゥゥゥッ!

 

『ヒューヒュー!』

 

「………艦長。あなた、既に薔薇色です…がふっ」

 

三郎太は信じるモノを見失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アキト〜どうしようか〜? ナデシコ止まっちゃったよ〜?」

「ぷかぷか〜」

 

ふよふよ漂いながら緊張感の無い質問をするユキナとラピス。

ちなみに混乱している他クルーは邪魔なので、ユキナがロープでグルグル巻きにして1つにまとめてある。

 

「うし、やってみるか!」

「何か手があるの?」

「おうよ! 伊達にいつも思い切り過ぎて転落してるわけじゃないぞ!」

「自慢することじゃないって…」

 

クルクル回転しながら呆れるユキナ。

ちなみにアキトは、ムーンサルト10連コンポ発動中だ。

 

「あれ?」

「どうしたラピII。時の狭間でも垣間見たか?」

「それはアキトでしょうが。で、ラピス。何か見えたの?」

「うん、ミサイル」

「「へ〜………なにぉーっ!?

「息ピッタリ」

 

妙なところで息の合う2人だった。

 

「ア、アアアキト! どどどどどうしよよよ…! きききっと敵の攻撃だよ!?」

「わかった、今からオレがソウルフルなナンバーを歌ってやるから落ち着け」

「いらない。もう落ち着いた」

「なにぃ!? 聴かない気か!? おいおい、死活問題になるぞっ!?」

「あきとおにーちゃん、自分に聴かせて落ち着いて」

 

ラピスの忠告通り、マイハートに厳選された曲を聴かせ落ち着くことに成功。

アキトの表情は、悟りを開いた人並になった。

 

「さて、他の奴等はあんな調子だしな…よし、2人共、耳貸せ」

「「へ?」」

 

疑問顔の2人に耳打ちをする。

だが、話が終わってもユキナは呆気に取られた顔のままだ。

 

「アキト、それマジで言ってる?」

「マジだ」

「…私は覚悟決めた」

「よし、ラピIIは既に覚悟完了だ。どうする、ハテナ?」

「う〜…どうなっても知らないよ!」

「大丈夫! その時は、オレだけでも逃げ切って人類全てに、この悲劇を伝えてやるわ!」

「じゃあ逃げられないように、先に撃沈させておこうか?」

「ぐぅ!? オレの名馬並の脚が反応しない! 何故だ!?」

 

この時、遠い昔に狩られる側であった遠い先祖の遺伝子が、アキトの中で最大級の警告を鳴らしていた。

無論、脚はカクカクしている。

 

「あきとおにーちゃん、一蓮托生。だから一緒に、ね?」

「はい、おっしゃる通りではないかと愚考します」

「わかれば宜しい。じゃあ、さっさと始めようか」

「うむ! 者共、配置に付けい!」

 

やたら偉そうに手を振りかざし、指示を出す。

それに従い、ユキナとラピス、そしてアキトが指定位置へと移る。

 

「ラピIIどうだ?」

「なんとかなりそう。オモイカネは止まってるけど、僅かに生き残ってる機能があるから…」

「よし。ハテナ、フォローを頼んだぞ」

「自信なし! でも根性で乗り切る!」

「よし、その意気だ! さあ、2人共、オレに従えぃ!」

「意気込むのはいいけど、アキトの方は大丈夫なのー?」

「当たり前だ! よしハテナ、ラピII、3人ですげえミラクルを起こすぞ!!」

「ねえ、アキト。アキトがまともなこと言うと力抜けるから、いつもの調子でお願いできる?」

「なにぃ!? その力とオレに何か因果関係が!?」

「ない」

「うん。あったら大変」

 

結局、いつもの調子で何かを始めようとする3人。

だが、その内の1人はテンションがやたら急下降中だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナデシコを補足しました。ミサイル照準、固定します!」

「照準よし!」

「こちらも完了です!」

 

「よし、全員後退しろ!」

 

『ハッ!』

 

跳躍砲を使い、ミサイルを抱えて跳んできた木連兵が引き上げてゆく。

無数のミサイルをその場に放置して。

 

「ふふふ、跳躍砲にはこういう使い方もある。まあ、こんな状況下でなければ使えんがな」

「確かに。兵が引き上げ完了しなければ、味方を巻き込みますからね」

「まあ、何とかと兵器は使いようってな。三郎太、状況は?」

「…兵の収容終わりました! 行けます!」

「よし、ミサイル一斉点火!」

「点火!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アキト、頼んだよーっ!」

「あきとおにーちゃん、ファイト!」

「先に言っとくが、玉子やトマトなどは投げないようにお願いします!」

「「誰に言ってんの?」」

「注意事項は始めに言うのが基本だ!」

 

凄まじく不安になりそうな会話をしつつ、Yユニット先端部に砲戦フレームを固定しての一斉射撃。

無論、狙いは無数に迫るミサイルだ。

 

チュドドドォォォォォン!!!

 

「おーキレイキレイ」

「た〜まや〜」

「ブレーキは踏まない方向で行くぞぉ!!」

 

暗黒の宇宙に咲き乱れる赤い炎の花に、喜びの声を上げるユキナとラピス。

そして、アキトもノリノリだ。

 

「よーし! ナイスな動きだハテナ、それにナイスナビだラピII!」

「ふっふっふ〜、ユキナちゃんだってやる時はやるよ? っと、アキト、次が来るよ!」

「おうよ!」

「あきとおにーちゃん、ユキナ、前方やや下に数17!」

「よーし…ここ! アキト、いいよ!」

「ふははははは! なーんだか久しぶりに活躍しているような気がするわ!」

「あ〜確かにね」

「そんな気がする」

「ほっとけ!」

 

アキトの砲撃、ユキナの操舵、ラピスのオペレーター。

3人の連携プレイで次々とミサイルを撃ち落す。

 

「しかしお前ら、オレから頼んでおいてなんだが、大したもんだな。いつからそんな事が出来るようになったんだ?」

「「うん、見よう見まね」」

「総統閣下! 摩訶不思議な異次元空間が出現しています!」

 

アキトは色んな意味で恐怖した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦長! ミサイル全て撃ち落されました!」

「やってくれる。人型戦闘機を砲台代わりにするとは…だが、位置は特定できた! 重力波砲、用意!」

「待ってください艦長!」

「どうした、臆したか三郎太?」

「違います! 格好よく決めるのはいいんですけど、どうしてパンツ一丁になってるんですか!?」

「馬鹿野郎!」

 

グシャッ!

 

源八郎プレス炸裂。

三郎太は源八郎の筋肉質な下半身にうずまった。

 

「気合の入れ方は人それぞれ! わかるだろう!?」

「………」

 

しかし三郎太は返事が出来ない。

鼻から出ている透明なモノが光輝く世界に旅立とうとしている。

 

「か、艦長!」

「なんだ? お前も…」

「違います! 南雲中佐からの通信です!」

「子煩悩野郎か!?」

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ〜これで全部か?」

「そうみたい。う〜疲れた〜…空気圧だけで動かすなんて、アキトも無茶なこと考えるよね」

「こっちも。生き残ってる機能をかき集めてセンサーにするなんて…あきとおにーちゃん、よく思いついたね」

「なぁぁぁぁに、普段から最狂の猛者どもを相手に奮闘しているオレだ。この程度、いつでも思いつくわ。あっはっはっは!」

「「ふ〜ん…」」

 

高笑いするアキトに呆れと関心の眼差しを向ける。

そんな3人の横で、聞きなれた声が上がった。

 

「あれ〜その案、確か以前どこかで…」

「ユリカ、あれって以前、僕らで考えた、エンジンが止まった時の対処法じゃないか」

「そうですよ。漁船の上で話あったの忘れたんですか?」

「あ〜そうだった、そうだった。あの時は漁船のエンジンも止まっちゃって大変だったね」

「「ええ、死ぬほど…」」

 

後ろ頭をポリポリ掻きつつ、乾いた笑いを浮かべるユリカ。

それに比べて、凄まじく疲れた表情を作るジュンとイツキ。

対照的な、この表情の裏では、様々な思い出が巡っていることだろう。

 

「アキト…」

「あきとおにーちゃん…」

「全然、まったく、さっぱり覚えがありません」

 

しらを切るアキトだが、2人のジト目は限りなく後頭部へ突き刺さっている

その横では頭を振りつつ、呆然とする残りのクルー。

 

「何があったの…? なんだか頭が痛い…」

「う〜気持ち悪いです…」

「まるで二日酔いみたいな感覚ですな…」

「むぅ…おい、お前ら。いい加減にどけ」

「わりぃな。もう少し乗らせてくれ」

「私も〜、いや〜いいクッションだ〜」

ポロン♪

「ふ…これぞ肉布団ならぬ、肉座布団…表現がどうにも…」

「ぐぉぉ…なんだか、今なら良い発明案が浮かびそうな予感が…」

「おかしいです。何故か顔の筋肉が引きつってる上に、喉が痛い…」

「なんだお前ら。おかしいと思ったら、宇宙規模に神秘的で、戦車の砲撃すら凌駕しそうなオレの脚線美に酔ってたんだな?

 やれやれ、頭のネジがふっ飛んだ方々は仕方ないな」

『お前にだけは言われたくない』

「どういう意味だ!?」

 

何事もなく、あっさりと何時もの光景に戻る。

だが、オモイカネからの警告で場の雰囲気はガラリと変化した。

 

【警告! 前方に無数の機影を確認! 木連の大艦隊だーっ!!】

 

『なんですとーっ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ナデシコ某所―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

散乱する破片。

少し前まで動いていたのであろう、所々から火花が散っている。

 

「ったく、使用用途不明の生物だけかと思ったら、こんなもんまで持ち込みやがって」

 

そう一言だけ呟き、緑色の髪をかき上げ、懐に銃をしまう。

 

「しかし、あのお嬢ちゃん、何があったっていうんだ…?」

「グリー…ではなく、カズマさん。美しく完了しましたか?」

「おう、バッチリだぜイエ…じゃなくて、アララギさんよ。しっかし、精神状態を錯乱させる機械とは、面倒なモノを送りつけてくれたもんだよな」

「山崎博士の考えることですからね。ですが、効果がある人物は特定されるらしいですよ?」

「は〜器用なもんを。まあ、ぶっ壊しっちまったからな、もう大丈夫だろ」

「そうですね。では引き続き、監視をお願いしますよ」

「へいへい。それで、俺はいつまで…って、オイ」

 

思わずツッコミを入れた通信機は、既に真っ暗。

返ってくるのは沈黙のみである

 

「…どうしろと? まさか放置で楽しむ人かお前は?」

「あ、あの、すみませんが…」

「は?」

 

振り向けば、そこに佇むのは白鳥九十九。

余程急いでいたのか、着衣に乱れが見える。

 

「少々お聞きしたいのですが、クルーの方々はいったいどこに行ったのでしょうか? 気が付いたら誰も居ない状態で…」

「あ〜…たぶんブリッジじゃないかな」

「そうですか…はっ、ま、まずい! まだ、ユキナの晴れ姿をビデオに収めていない!

 これは一刻も早く駆けつけねば!

 知っているぞ。お前がとっておきを用意していたことを…。 

 ユキナ、早まるなよ。お前のスクール水着姿を見れば、

 兄はあと十年は戦える筈なんだ!

 くっ、い、いかん。想像しただけで萌え死にそうだ…。 

 今、行くぞユキナ! さらけ出すのは、もうちょっとだけ待っててくれ!! 

 ハッチ開放、カタパルトデッキ発進準備完了!

 ブースト、オン! エンジン臨界点までカウントダウン……ゴー!

 いざ、参らん。聖地へ!!!

 

錯乱気味の頭で猛ダッシュをかます。

後に残されるのは、静寂とカズマのみ。

 

「…濃いな。アイツだけ、まだ影響受けてんじゃねえのか?」

「すまんが」

「またか…って、うぉっ!?

「何を驚いている」

「い、いや、別に…」

 

眼前に現れた人物を見て少し立ち眩みをするが、なんとか踏みとどまる。

他の人間なら気を失っているところだ。

 

「まったく…先程も、何故か大量のタライと一緒にゴミ捨て場で睡眠を取っていたが…まったく珍妙な。そうそう、少し尋ねたいことがあるのだが」

ずっと寝てりゃいいのに…で、聞きたいこととは?」

「うむ、我は何故このような格好をしているのだ?」

「そんなもん、こっちが聞きたいわ」

 

声を大にしてツッコミを入れるカズマ。

突っ込まれた使用用途不明の生物こと北辰は、ひたすら疑問顔で、ただただ佇んでいた。

勿論、女装のままで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキト…と北辰の運命はどっちだ!? 続くような続かないような思わなくも無きにしも非ず。

 

あとがきです。

こんにちは。

ナイツさん、EMPERORさん、風流さん、H・WIZさん、エアリアルさん、ふじいさんらの策略で、精神が異常をきたしている彼の狽ナす。

何があったのかは後日語ろうと思いますが…今は勘弁してください(泣)

 

さて、今回ですが、何時もの如くというか何というか、ごっちゃごちゃです(爆)

ナデシコ本編19話、20話、21話が入り乱れてしまいました。

何故かこうなるんですよね…何故か(汗)

投稿を始めて1年経つのにな…。

 

では、気を取り直して、次回ですが…

・『その49』

・『外伝その4』

・『アフレンジャー』

のどれを書くか悩み中。

別にどれでもいいんですが…まあ、そういうことです(笑)

それではっ

 

 

 

 

代理人の感想

作品を読もうとしたら「宇宙大帝ゴッドシグマ」のOPを急に聞きたくなりました。(実話)

我ながらベタすぎだ。

 

まぁそれはさておき。

 

 

>男泣きしながらどこかに向かって挙手をするアキト。

>流石にかわいそうに思ったのか、よしよしするラピス。

>だが、余計にみじめだった。

 

「だが、余計にみじめだった」

 

「だが、余計にみじめだった」

 

「だが、余計にみじめだった」!

 

 

「だが、余計にみじめだった」!!

 

 

 

「だが、余計にみじめだった」ッ!!!

 

 

ここんとこ、理由はわかりませんが、大受け。

おそらく間違ってるでしょうが、妙に含蓄深い一言であるような気がしてなりません。

恐ろしく深遠な哲学を含んでるようにも思えるのです。

ンなことあるわきゃありませんが(爆)。

 

 

 

 

・・・・ひょっとして私も脳に異常をきたしてたりするのかな。

だとしたらスパロボの発売日を2ヶ月延期しやがったバンプレストのせいに違いない(爆)。

 

 

 

オチのつかないまま終わる。(感想でオチやツカミを考えること自体おかしいという突っ込みは北辰と一緒にゴミ捨て場に置いといてください)