眼前に迫りくる木連の大艦隊。それを迎え撃つは、ナデシコただ一隻。

艦長ミスマル・ユリカは、ブリッジ上段で迫り来る脅威を見据えていた。

 

「ええ〜!? どうして!? 和平は!? 話し合いは!? 何より、数多すぎ!!」

 

錯乱しながら。

 

ガコッ!

 

「ユリカ、少し落ち着こうよ」

「うん、落ち着いた。ありがとう、ジュン君! さっすがユリカの親友だね!」

「…ユリカさん、お礼を言う前に、その噴出中の血をなんとかした方がいいですよ」

 

ジュンの警棒の一撃により、落ち着きを取り戻すユリカだが、血が飛び出て血圧が下がった為、興奮度が下がったとも取れる。

その吹き出る血を、イツキはどこからか見つけてきた金ダライで受け止めていた。

 

「で、どうする気だスカ? オレとしては『戦艦違いです』と、間違いを指摘してあげて、さらりと笑って流したいんだが」

「ばっか野郎! あんな、ろくに話を聞かねぇで、人んちに土足で上がりこんでくる奴等なんざ…即殺だろ!

「リョーコぉ〜刀 振り回しながら興奮しない。もう、仕方ないな〜えいっ」

 

ズバッ!

 

「ぐばーっ!?」

 

リョーコの脳天に何かが飛来した。それは目には見えないが、特殊な人物にのみ感じ取れるものだ。

無論、ヒカルは特殊な部類に族する。

 

ポロロン♪

「リョーコが何かに目覚める〜それが天国か地獄かは、神のみぞ知るってなもんよ〜」

「タマゴ、これ以上犠牲者を増やすのはどうかと思うぞ」

「手遅れ〜ヒカルの電波を浴びた者は三日三晩の間、命を絶つ覚悟アレアレしっとりねっとりと…」

「なにぃ!? 畜生、なんて羨ましい特技を持ってやがるんだアヒルのヤツめ!!」

「おうともよ! 羨ましいがれ愚民ども! 私は神じゃー!」

「ぎゃひゃぁぁぁぁぁぁぁっ! 高ポイント獲得ーっ!!」

 

リョーコのイイ夢は始まったばかり。まだまだ、これからが本番だ。

勿論、共演者は素敵な夢の住民達である。

 

 

「あの〜そろそろ話を戻したいんですけど…聞いてないね。でもどうしようかな…まあいいか。それっ、ポチっ♪」

 

 

シュバァッ!

 

 

ユリカが緊張感皆無の表情で発動させたモノ。

それは、七色に光り輝きながら艦隊を包み込み、後に残るのは暗黒の宇宙空間だけ。

 

【…敵反応なし】

 

 

『あっけねーっ!!』

 

 

「勝利ーっ! ブイ!」

 

 

余裕のブイサインをかますユリカの声が、ブリッジ内に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伝説の3号機

その49

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれ位 時間が経ったのか、ブリッジに1人の男が入ってきた。

辺りを見回し、たまたま近くに居たアキトに声を掛ける。

 

「なんだ、もう決着がついたのか?」

『……………あ?』

 

声の主を見て、たっぷり10秒ほど固まるアキトを始めとするクルー。

勿論、勝利の余韻に浸っていたユリカも例外ではない。

 

「久しぶりだな」

『出たぁぁぁぁぁぁっ!』

 

騒然となるブリッジ。各々はマイウェポンを取り出し、臨戦態勢を取る。

クルー全員に一目で敵と目なされてしまった人物、北辰は呆れ果てるのみ。

 

「落ち着け。我は…」

「慈善活動家?」

「誰がだ! 我とは最もかけ離れた存在ではないか! そんなことより人の話を最後まで聞け! 貴様は全然変わっておらんな!!」

「もち、あたぼーよ!」

 

アキトのアホな物言いにツッコミを入れる北辰だが、アキトは全く反省の色無し。

そんなやりとり最中でも、北辰の周りは未だに武装集団と化したナデシコクルーが包囲し、何時でも殺れる体制を作っている。

 

「安心しろ、今日は争うつもりはない。というより、何故かここに居たのだが…まあ良い機会だからな、貴様らに少々聞かせておきたい事がある」

「嘘だ! そんなこと言って、油断したところを何時でも斬れます、殺やれます、堕とせます、という感じにするつもりだろ!」

「貴様がどんな目で我を見ていたのか、よぉ〜くわかったぞ」

「今頃か! はっ、震えあがるほど怖い顔で、戯言を言ってんじゃねえ!」

 

腰をおもいっきり引きながら、北辰に指を突きつけ意気込む。

そんなアキトを北辰は睨みつけつつも、溜息を漏らした。

 

「先ほども言ったが、我は争いをしたいわけではない。それに、だいたいの事情は、このモトギとやらから聞いておる」

「おう、俺が話した。それと、このオッサンがあまりにも奇妙な格好してたから、俺独自の判断で色々やっておいたぞ」

『素晴らしい』

 

あの瞬間が、未だに頭の隅から離れない為、心に深い闇が落ちてしまったナデシコクルーは、涙目で一斉にカズマを絶賛した。

しかも、ウリバタケ特性の巨大クラッカーまで鳴らし始める始末。

 

「確かに事情を話してくれた上に、あの短時間で我の身体を元に戻してもらった事には感謝しよう。

 だが…誰が所々を緑色にしろと言った?」

「それも良かったけどな…やっぱ、つまらねぇな。本当なら別の生物にするべきだったか」

「とんでもないことを言うな」

 

ザクッ

 

「痛━━━━━━っ!!!」

 

北辰の小刀がカズマにクリティカルヒット。緑の頭に赤い血がプラスされて、割れたスイカのようだ。

 

「やべえ…このままじゃあ間違いなくあの世行き…

 『やっほーっ、おじいちゃん、遊びに来たよー…え? 帰らなくてもいい? ははは、冗談きついぜ!

 な、展開が待っているに違いない! ど、どうする…!」

『うるせえ。逝ってろ』

 

ゴスッ!

 

ナデシコクルー総出のツッコミが炸裂し、カズマは血溜りの中で動かなくなってしまった。

先ほどまでの絶賛は、手の平を見事に返し、何処かへ消え去ってしまったようだ。

原因は、北辰をまたも妙な生き物に変貌させてしまった為だろう。

 

「貴様は暫くの間、そこで寝ておれ」

『同意』

「…やたらと意思の疎通が取れているな…これがナデシコの強さの秘密か」

 

盛大な勘違いをしながら、北辰はナデシコとの戦いを思い出し、義眼がやたらと寂しげに輝く。

その見詰める先には、久しぶりに止め役にいそしむ、ラピスの姿。

 

「止めさしとくね」

 

すこっ

 

最近、某妹萌えの誰かに教えてもらった、木連式柔の練習台になるカズマだった。

 

「さて、本題に入るか」

「グッバイ」

「コラぁ!」

 

即座に逃げ出そうとするアキトをすんでのところで捕まえ、目の前に正座させる北辰。

勿論、座布団を敷き、ちゃぶ台を常備だ。

 

「やれやれ、仕方ねぇな聞いてやるか…おいハテナ、茶でも出してやれ」

「はいはい。粗茶ですが…」

「あ、お構いなく…ずず……ほぉ、これはなかなか。流石は木連の女子、花嫁修業は万全か」

「やだ〜! もうアキト聞いた? 素敵な奥さんだって! ばしばし!!」

「妄想が飛躍しまくっとるな」

「はい、お茶菓子もどうぞ」

「む、すまぬなラピス・ラズリ。我は甘い物に目がなくてな」

「それは良かった。これは以前お渡しした、黒飴を作っている菓子屋の特注品ですぜ旦那」

「ほぉ…ではいただこう…むぅ! この人工的ではない自然の甘み! それにこの香り! やはりこの菓子は別格だ!!」

 

『いーかげん、話を進めてください』

 

お茶の間コントもそこそこに、北辰は茶を飲みつつ、ポツリポツリと話を始めた。

 

「あの頃の我は悪でなぁ…」

「いや、今でも十分悪だと思うぞ。特にそのツラが

 

ガスッ!

 

「黙って聞け」

「ふ……見事な投げ技だ」

 

アキトの額にかた焼きせんべいの一撃がヒット。だが、アキトの石頭が勝利した。

散らばった、せんべえの破片を、いそいそとユキナが片付けている辺り、息が合っているのかもしれない。

 

「閣下の理想は高くてな。だからこそ、我も道を見定め、新たな歩みを始めるに至ったのだが…最近の閣下はどこかおかしい」

「満身創痍になりながら、人生の命題について、数時間話すほどだからな」

「そうだ………おい、何故貴様がそれを知っている?」

「言わないでーっ!」

「どうした!?」

 

突然、脅えだすアキトに戸惑う北辰。

それを見たナデシコクルーは、揃って目を逸らし口笛を吹き始めた。

 

「むぅ…この話題はいささか都合が悪いようなので省略しよう」

「助かるよブラザー」

「誰がブラザーだ。とにかく本題に入るぞ。実は、今の木連は食糧難でな…」

「泣き落としに入ったか。まったく、これだから年がイってる奴は…」

「速攻で涙してる奴が何を言ってんの」

「だってよぅ! こんないーい話、滅多に聞けないぞハテナ!」

「はいはい」

 

こうして始まった北辰の語りは、延々3時間にも及んだらしい。

勿論、アキトは3時間泣きっぱなし。

 

「うるうるうる…」

「ラピス、あんたもか…」

 

どっと脱力してしまうユキナだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、和平か」

「はい。閣下、どう致しましょう?」

「当初、こちらが送リ出した和平の書状を握りつぶしておいて何を今更! 閣下、このような申し出 受ける必要はありません!」

「うむ、その通りだ。木連は悪に屈しない! そう、我々は長い時を待ち続けたのだ!

 悪魔の如き所業を繰り返す、無礼極まりない極悪集団の地球人などに、我らは負けん!

 燃えるゲキガン魂を持つ私達は正に無敵だ! 今こそゲキガン道を極めよ!

 例え地球人が、悪名高い新型戦艦や殺戮兵器を出してこようが、指先1つで弾いてみせろ!

 メロメロドギューン! という感じに、息の根止める覚悟でイってこい!

 私もラスト10秒にかけるスポーツマンシップにのっとり、戦い続ける事を誓おう!!」

「おお…なんという…」

「閣下…私は…私は…うぅ…感動です! 途中から、物凄く無茶な事を言っていたような気がしますが、見直しました!」

 

尊敬の眼差しを草壁に向けるシンジョウと元一朗。今の草壁には、後光さえ差しているように見えることだろう。

そんな中、突然鳴り響く、見た目だけ豪華絢爛な黒電話のクラシックなベル。だが、涙さえしているシンジョウと元一朗の耳には届かないようだ。

仕方なく、草壁が応答する。

 

「なんだ……本当か!? そうか、報告ご苦労…」

「閣下、どうかなさいましたか?」

「神経性胃炎君、一大事だ」

「当たってますけど間違ってます。だいたいコレは誰のせいだと…!」

「シンジョウ中佐、落ち着いて。輸血パック新しいの入れますから」

 

シンジョウの顔色は真っ赤から真っ青へ急下降。

元一朗はやたらと手馴れた手つきで、輸血パックを取り替える。おそらく、過去にも誰かの血の補給を行っていたのだろう。

 

「ふぅ〜…って、落ち着いてる場合ですか!」

「まったくだ」

「…やりきれない…それより、いったい何事ですか? それに一大事とは…?」

「うむ。月攻略の為に送りこんだ艦隊が、全滅したとの報が入った」

「なっ…全滅…!」

「そ、そんな…! 数のみで言えば、我が木連では最多の南雲中佐の艦隊がですか!?」

 

驚愕の表情を作るシンジョウと元一朗。草壁も沈痛な面持ちで、顔を上げる。

 

「………シナゴーグ君」

「いつから私はユダヤ教の礼拝堂になったんですか。で、なんです?」

「すぐに和平会談の準備をしてくれたまえ」

「「えーっ!?」」

「何を驚いている。しかも、おもいっきり顔を崩して」

「そりゃあ顔も崩れますよ!」

「さっきの立派な前フリは、いったいどこに行ったんですか!? ちょっと感動してたのに!」

「言ってみただけだが?」

 

「「前言撤回だぁーっ!」」

 

号泣するシンジョウと元一朗だった。

ちなみにシンジョウの涙は、血涙と化している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、とある宙域にて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『でけぇぇぇぇぇっ!!』

 

驚愕の表情と声を作り出すナデシコクルー。

眼前に現れた木連の艦は、想像を遥かに超えた代物のようだ。

 

「無闇やたらにデカイね、あきとおにーちゃん」

「当然だ! アレはオレが設計したんだからな!!」

 

がすっ

 

とりあえず、順番に殴っておくクルー。止めはやっぱりラピスが受け持つ。

 

あれから、輸血パックが誰よりも似合う草壁の側近と名乗る男から通信があり、和平会談の席を設ける運びとなった。

ナデシコ内では、ユリカの問答無用の攻撃によって、木連が和平の申し出を拒否するのではないかという疑念が沸いていたが、これで一安心。

 

「結果オーライ!」

『アンタって人は…』

 

申し出があった直後のユリカの第一声がコレだったのは言うまでもない。

呆れて、脱力しまくるしかないクルー。

 

「正直言って疲れたぞ…」

『だろうな』

 

北辰の色んな意味を含んだ呟きに激しく同意し、クルーは北辰を入れて何故か円陣を組んだとか。

そして、そんなナデシコの眼前に現れたのは、草壁の乗るバカデカイ船『かぐらづき』である。

 

 

 

 

 

 

「あれ? ねえジュン君、トカゲさんは?」

 

一緒にかぐらづきへ来たはずのトカゲこと北辰がいないことに気付き、辺りをキョロキョロと見回すユリカ。

だが、どこを見ても北辰の影も形もない。

 

「ああ、あの人なら一足先に和平会談の場所へ行ってるって。なんでも色々と聞きたいことがあるってさ」

「ふ〜ん、中間管理職は大変だね」

「ユリカ、プロスさんに何か吹き込まれたのかい? やたらと同情のオーラを漂わせてるけど」

「いや副長、実際問題 今はそんなことどうでもいい」

「それもそうでしたね」

「どうした2人共? 景気の悪いものでも見たような顔をして」

「「何故お前がいる?」」

 

ジュンとゴートは、アキトを指差し、凄い疑問と侮蔑が入り混じった白い目で睨み付けた。

ユリカはラヴ光線を目から発しているが。

 

「いやなぁ、本当は自室でぬくぬくしていると、オレの内なる桃源郷がおいでおいでしてるから、是非ともお呼ばれしようと下調べを…」

「つまりは行きたくないんだね」

「わかってるじゃないか」

 

ユリカの的を得たツッコミに親指を立てる。誉められたユリカは、エビス顔にチェンジだ。

 

「「だから、何故お前はここに居る?」」

「いや、タイヤ班長にな『自分の尻は自分で拭け』と当然極まりないことを言われてトイレに駆け込もうとしたら、

 ウメ調理長に『自己責任はきっちりとしな』と言われ、保険の手続きをしようとプさんに事情を話したら、問答無用でぶっ飛ばされて今に至る。

 まったく、全っ然、さっぱり訳がわからんね。いったいオレに何をさせたいんだか…困ったもんだね」

「その言葉、まとめてそっくりお前に返すぞ、テンカワ」

「ホント、困った、困った」

「まだ、言いやがるか貴様」

「とにかく、ここに居るという事は信頼されている証拠! まぁ〜た、オレの株が上がっちゃったか?」

「あさっての方向だろ」

「そうか! あのビックショーの優勝者は何時の間にかオレに決定していたんだな! ならば納得。ま、オレは自慢なんてしませんけどね。

 『おほほほほ! そうそう、聞いた奥様、テンカワさんとこのお坊ちゃん、優勝したそうよ〜』

 『まぁ、やっぱりテンカワさんの家はレベルが違うわねぇ』

 『羨ましいわ〜』

 『本当に、ウチの子にも見習わせたいわね』……なぁ〜んて囁かれても気にしません。やっぱりオレって、お・と・なですから」

「お前が大人なら、他の人間は神か?」

「よし、オレの100万ドルの笑みとジェントルマントークに任せてくれ。なんなら、熱いベーゼも付けるぜ? 期待は裏切らないつもりさ!」

「「お前自身を修理してから出直してこい」」

 

キッチリと不安を肥大させる言葉を吐き続けるアキトに、ジュンとゴートはツッコミを入れまくるが全くの無意味。

アキトは自分の中に素敵ワールドを形成し始めた。

 

「アキト、熱いベーゼは是非ともこの私に…キャー恥ずかしい!」

「なるほど。お前はよっぽど叫びたいようだな」

 

数秒後、ユリカは別物の声を発した。

この時、アキトの素敵ワールドは、脆くも崩れ去ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

「う〜む、全てにおいて甲乙付けがたし。どうしよう、どうしますか、ねえ?」

「どうもしないでください」

 

1人で写真やらビデオやらを鑑賞し、興奮する妹馬鹿こと九十九にツッコミを入れるルリ。

下手に関わると、自分にも九十九の魔の手が及びかねないので、付かず離れずを維持している。

 

「それはそうと、白鳥さんは和平会談の席に出席しないんですか?」

「いや〜私では全然役不足ですよ。それにユキナを残していくなど、とてもとても…」

「四の五の言わずに行ってこい、事の当事者」

「OK! すぐに行くぜ!」

「なんという変わり身の早さ。妹の一言は絶大ですね」

「扱い易い」

「バカ兄…どこで道を間違えたの…」

 

ルリは、『ユキナのお願い♪』発動により、彼方へ走り去って行く白鳥九十九の後姿を眺めながら塩を撒く。

そしてユキナは、遠い目をしつつも、九十九の置いていった妹グッズ(ユキナ&ラピス限定)を焚き火にくべる。

更にラピスはお約束の如く、その火で芋を焼きはじめた。

 

【………あの、ブリッジで焼き芋作らないでほしいんだけど】

「気にしない、気にしない」

「オモイカネ、ここは耐えて」

「……じー……おイモ……じー……」

 

オモイカネの配慮で、警報ベルは鳴らずに済んだらしい。

何時の間にか、ブリッジに換気扇が常備されているのは、ウリバタケの改造の賜物だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始めまして、私はこういうものです」

 

達筆な字で自分の名前が書かれている用紙をデカデカと背後に掲げ、草壁は自慢気にのけぞった。

 

「ハエが止まるわーっ!!」

 

 

ズシャァァァァァァァッ!

 

 

盛大な音と共に障子を突き抜け、草壁は沈黙した。

双方唖然とする中、草壁をぶっ飛ばした当人はイイ汗を拭い、爽やかさんをアピールしている。

 

「正義は勝つ」

 

『誰が正義だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

双方入り混じってのツッコミがアキトに炸裂する。

勿論、アキトは何故ツッコミは入ったのかをさっぱり理解していない。

 

「こ、この野郎、テンカワ! お前、いったいどういうつもりだ!?

 バカだバカだとは思っていたが、ここまでバカだったとは呆れて物も言えないぞ! このタコ!

 あー腹立たしい! どうしてほしい? あ? どうしてほしいんだ!? 言ってみろよコラ!

 終いにゃ天井まで飛ばすぞ!?

「副長、落ち着け。テンカワなら、もう天井に突き刺さってる」

 

ゴートに羽交い絞めにされ、警棒をブンブン振り回すジュン。

当のアキトは、ものの見事に天井に突き刺さり、プラプラ揺れていた。

 

「あ、あ〜…とにかくだ! 折角の和平会談の席でこのような狼藉を…許せん! 皆のもの、であえい!!」

「ほえ〜時代劇を思い出すね、ジュン君」

「ユリカ、僕等に印籠や桜吹雪は無いんだよ」

「副長の言うとおりだ。それに、なんとか3人だけで逃れる術を考えるべきだろう」

 

シンジョウの一言により、四方から現れる木連の兵士達。

アキト達は完全に包囲され、絶体絶命の大ピンチ。ひたすら関心するユリカを背中に隠し、男を見せるジュンとゴート。

既に一触即発の雰囲気だ。

 

「さて、冗談はこの辺にして、和平会談の続きといこうかベッキー」

「そうだな」

 

 

『え━━━━━━っ!?』

 

 

何時の間にか復活した草壁とアキトは、和平案の書類に目を通し、和平会談の続きを始めていた。

しかも草壁は、ご丁寧に座布団を敷き、お茶を煎れはじめている。

アキトと草壁以外の者は、どうしていいのかわからず、ただ呆然とするのみ。

 

「ん〜…ベッキー。この和平案なんだが…」

「どうした? 誤字でもあったか? 昨晩、徹夜で見直しを側近の誰かにさせたのだがな…」

「いや、そういう事じゃない。オレが聞きたいのは、内容があまりにも直球ストレートなんで驚きを隠しきれない感じだ」

「そうか? むしろ、剛速球ストレートのつもりだが?」

「そんな事とは露知らず、のうのうと生きてるオレはまだまだという事か…。むぅ、思えば遠くに来たもんだな」

「安心しろ。決着の後に遺恨は残らぬ。ただお互いの健闘を称えるのみ」

「なるほど! わかったよベッキー!」

「そうか! これで和平は成り立つな!」

「もしもし? 2人だけで話をまとめないでくれますか?」

「…? あの、どちら様でしょう?」

「おい、警備兵、部外者が居るぞ。さっさと連れ出せ」

 

ゴンッ!

 

「おおっ! ベッキー!?」

 

巨大タンコブを頭上に作り、草壁は再びアッチの世界に旅立つ。

そして、そのタンコブを作った草壁の言う側近の誰かは、輸血パックを新しいものに取替え、メガホンを取り出した。

 

「閣下が敵の手によって倒れられたぞ! 閣下の仇を今こそ討つの時っ!」

 

『………』


しかし、反応は沈黙のみ。木連の兵士達は一部始終を見ているので、即座に動く事が出来ないようだ。

 

「いいから殺れって言ってんだろグルゥァァァァァァァァッ!!!」

 

イエッサー!』

 

これ以上沈黙を続けたら、確実に消されると瞬間的に答えを導き出した木連兵は一致団結。

今、木連の心は1つになった。

 

「………これは、罠にはめられたと考えるべきなんですかね」

「副長、そう捕らえた方が、幾分か気が楽だぞ」

「どうでもいいけど、これからどうします? 本気で逃げ道無いですよ?」

 

すっかり周りを囲まれ、何時でも殺っちゃえるフォーメーションを組む木連兵。

その団結が、何を持って持続されているのかは各個人の心情によるところだ。

 

「逃げ場は無いぞ! 抵抗は無意味、言葉が通じるならわかるな?」

「「わかった。こいつの命をやるから見逃してくれ」」

 

ズイッと差し出される、事の発端を作り出したバカ1名。

頭に出来た草壁よりも大きめのタンコブのお陰で、借りてきた猫のようにおとなしく首根っこを掴まれている。

 

「素直で結構。だが、もはや一連托生。貴様等も同じく、命が無いものと思え!」

「「やはりダメか…」」

「2人共…凄い事考えるね」

 

そんなやりとりを無視というよりは、全く気にも止めないアキトは、ひたすら何かを考え中。

やはり、それなりの責任を感じているようだ。

 

「ここは逃げるが勝ちか? だが、いっぱしの人間として、ここで何もせずに逃げ出すのはご法度行為。

 む? しかし、ここは敵の巧妙な罠が、延々と張り巡らされていたと考えればOKか…すなわち、数の暴力と同義語!

 そして、ひたすら続くエンドレスな罠の数々! この絶望的な状況を打破するにはやはり逃げしかないのか…!

 わかったよゴッド! 全てを理解したオレに、今こそ奇跡たる恵みを与えたまえっ!」

「呼びました?」

「メグミ違いだよこんちくしょう! メナード、貴様いったいどっから出てきやがりましたか!?」

「畳の下」

「OK! じゃあ、こっから逃げるぞ!」

「「「…グレート」」」

 

床下を這いずり、アキト達はメグミの先導で、さっさと逃げ出した。そして、辺りに訪れる一瞬静寂。

 

「……はっ! お、追えーっ! 奴等を逃がすな! 外に待機している無人兵器にも砲撃を始めさせろ!」

「シンジョウ殿、お主もなかなかボケで外道だな」

「北辰殿、貴方が言いますか。それに、私以上のヤツがいるでしょう。アイツと同系列になるのは御免ですね」

「ごもっとも。しかし、テンカワ・アキト…我があれ程の時間を掛けて言ったことが全然わかっていなかったようだな…

 くくく…罪深い地球人に少しでも心を許したのが失敗だったか…もはやこれまで。生きては帰さん!」

「では先生、後を宜しくお願いします」

「…いつから、我は貴様の用心棒になったのだ?」

 

周りの兵士達が慌しくしているのを全く気にせずに、ボケとツッコミを繰り返すシンジョウと北辰。

その足元でヒクヒクしている草壁は、ちょっぴり夢見心地。だが、介抱するものは誰もいない。

ちなみに2人が噂するその誰かは、名実ともに何かのランク1位を取得したとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…た、助かりましたね」

「ああ。だが、南雲中佐は恐らく駄目だろうな…。ナデシコめ、あのような兵器を備えていたとは…やはり、油断出来ん相手だ」

「しかし、本当に助かりましたレンナさん」

「別にいいわよ。アレの起動テストも出来たし」

 

三郎太に声だけで返事をし、ほんの数分前にクリムゾンから受け取った機体を、ただ見上げるレンナ。

源八郎と三郎太も同じように、その機体を見上げた。

 

「あの一瞬で、かんなづきごと跳躍させるなんて…いったいなんなんですコレは?」

「言うならば、ミラクルの結晶ですね」

 

三郎太の問いに答えたのは、レンナでも源八郎でもない人物。

白衣を身に纏い、陽気な顔で手を振りながら近づいてくる。

 

「やあレンナさん、無事にテストは完了しましたか。ついでに彼等を助けるなんて、お優しいですね〜」

「歯ぁ喰いしばれ」

「え゛?」

 

ゴスッ!

 

無言で山崎をぶん殴り、怒りのオーラを身に纏いながら睨みつける。

床に沈む山崎のうつ伏せの格好は、死ぬ直前のカエルのようにヒクついていた。

ヤキ入れはとりあえず中断し、山崎に正座させつつ尋問に乗り出す。

 

「な、何をするんですか〜僕は普通に挨拶を交わしただけなのに…」

「何じゃないわよ、このマッド。なんなの、アンタが渡したあのメガネは? 

 それに私は、安心がモットーの宅配業者じゃないのに、使いに出れば、あーんな届け物だし。結局、物の役にもたたなかったけど。

 いったい、この落とし前をどうつけてくれるつもり? え?」

「ま、まさか指を詰めろと…? そんなぁ…いくら僕の背広の裏地が龍さん虎さんだからって、それはないですよ〜」

「…どこの組のモンよアンタは」

 

謎は更に深まるばかりだ。

 

「まあ確かに、北辰さんを目眩ましにして、特殊な機械を使い、混乱させたところで新兵器で一気にドッカ〜ンって事だったんですけどね〜」

「なんだかんだで結局失敗じゃない。最初っから、私にナデシコを任せればいいのに」

「それはダメですよ」

「なんでよ?」

「そんなことしたら、北辰さんが改造損じゃないですか」

「………初めて聞いた単語だわ」

 

それでも納得してしまうレンナだった。

 

「なんだか、暫く会わない内にレンナさんって性格変わりましたね」

「そうか? 見ていて楽しいから、結構だと思うが」

「どこをどう見て、そんな結果が導き出されるんですか…」

 

関心する源八郎に、呆れる三郎太。

命からがら逃げ出したにも関わらず、のん気そのものだった。

 

「まあ、この際ですから過去のいざこざは水に流しましょう」

「原因はアンタだ」

「それでレンナさん、コレの乗り心地はどうでした?」

 

レンナのツッコミを無視し、話題をさっさと切替える。

その辺を察したのか、レンナは自分が乗っていた機体を見上げながら、近くのコンテナに身を隠す。

そして、謎のボタンを勢いよくポチッと押した。

 

 

チュドォォォォォォォォォン!!!

 

 

格納庫内部に盛大な爆発が起こり、一瞬にして周りが炎に包まれる。

直ぐ後にスプリンクラーが作動し、暫くの間 辺りは火と水の競演を果たし、数分後にはコゲた跡と水溜りだけが残された。

 

「これが私の答えよ。ハッキリ言ってね、あーいうの趣味じゃないの。満足した?」

「「「………」」」

 

だが、山崎、源八郎、三郎太の3人は返事が出来ない。

どうやらプスプスとイイ感じにコゲて、ミディアム状態になっているようだ。

ちなみにこの時、地球のどこかでクリムゾンの令嬢が異様にムカついたらしい。

 

「あ、そうだ。山崎、ちとこいこい」

「なんです?」

「やーっぱり、無事か。それでね、聞きたい事があるのよ」

「お見通しってわけですね。まあ、この際ですから聞きましょ。で、聞きたい事とは?」

「ん…いやね、ナデシコに潜入した時、少し思い出したことがあって。アンタさ、私の体に変な機械が使われてるって言ったけど、アレって…」

「あーアレですか。ええ、見事な出来なんで摘出は完了してますよ?」

「出た、伝家の宝刀」

「安心してください。代わりに、僕が自然培養した天然ミネラルたっぷり何かを埋め込んであげましたから♪

 マッドの称号は過言ではないのですよ! あっはっはっは」

「貴様は私の身体をいじくりまわしておいて、笑いとばしやがるか。ちょっと裏に来い。いっぺんシメる

「え…そ、そんな…ああ〜っ!

 

何故か、歓喜の声が木霊する秘密の小部屋。勿論のこと、何があったのかは謎である。

 

 

 

 

 

「あ〜スッキリした。でもなぁ…ナデシコの撃墜に失敗するし、この手紙を書いた人物もわからないし…上手くいかないものね…」

「それを書いたんウチや」

「そうそうウチよ …って、誰がウチよ!?」

「ウチやって」

「…は?」

 

見つめる先には小さな天使が約2名ほど佇んでいた。思わず目が点になるレンナ。

 

「…なんか今、一瞬だけ金と銀のようなモノが見えたような…いや、見間違いかもしれないし、もう1度見てみようかな」

「誰が金と銀や! どこぞの妖怪かっちゅーねん。こっちはなんか、背中んとこに羽っぽいのがついとるっちゅーねん!」

「…見間違いであって欲しかった…で、ソレってぶっちゃけコスプレかなにか?

 確か、あんた達ってアクアさんと一緒にいた、緑の人の子供よね? 何? 遊びの途中?

 いや、それよりさっき何て言った?」

「うっ…! バレバレや! つーか、コスプレちゃうゆうねん! めっちゃ天使そのものや! 文句は言わせへんで!」

「…羽、取れてるわよ」

たんま、直すから待っとき」

「…もういいでしょ。で、こっちの質問には答える気あんの?」

 

いそいそと羽を付け直す、金のエンゼルと無言で手伝う銀のエンゼル。

レンナの言葉に我に返り、何かを思いつく。

 

「せやから、それ書いたんウチや言うてるやん! なんや、はむかう気か?」

「…コク」

「はいはい、後10年くらいしたら相手してあげるから、今日はもうお家に帰って造花作りのバイトでもしてなさい」

「アホか! ちゃうやろ、極々一般市民なお子様やん! そんな、得体の知れない何かと一緒にすな! ほんま、ビックリするわ」

「…?」

 

どうも、ノリが噛み合っていないようだ。子供にはわかりづらいネタなのだろう。

年代の差をちょっとだけ感じたレンナだった。

 

「とにかくや、それを書いたんはウチやって事は事実やで。誓ってもええ」

「ふ〜ん…じゃあ聞くけど、アンタはどうして私がイネスさんに保護された時より以前の記憶が全然無い事を知ってる訳?

 それに、私自身も知らない過去さえも」

「当たり前や! ウチらは昔、一緒に暮らしとったんやで? 覚えとらんの?」

「…コクコク」

 

その言葉を聞き、唖然とした表情を作るレンナ。だが、直ぐに顔は笑い顔へと変化していた。

 

「冗談を言わないで。何? もしかして、あんた達は私の娘と息子ですよ、な〜んて言う気じゃないでしょうね?」

「おしーなぁ。でも、真実は自分で見つけなあかんで? なあミコト?」

「コク」

「…笑えないわね。いい加減にしないと怒るわよ? …でも、待って。昔…え……?」

「ふ〜ん…どうやら、かすかにやけど、思い出しかけとるみたいやな。あのマッドの精神撹乱装置のお陰かいな?

 まあええわ。しゃあない、今回はウチらが手助けしたる。ミコト、アレ出しい〜」

「…コク」

 

ミコトは懐から、絶対に質量保存の法則を無視している物体を取り出し、メイに手渡した。

おそらく少年の懐は、異次元に通じているのだろう。

 

「な、ちょっ、それで何を…」

「なんや、知らんのん? 姉ちゃん、勉強不足やで? これは、こう使うんや。せーのぉ…」

 

ブンッ…ズガンッ!!

 

「がげっ!?」

 

「おりゃおりゃおりゃ! 思い出せ、思い出せ、思い出せ!」

ドゴッズギャッボグッ!

「あうあうあうあうあうあうあうあう」

 

「うりゃうりゃうりゃ! 思い出せ、思い出せ、思い出せ! 思い出さんと、止めへんで!」

ベギャッグギッゴギャッ!

「へぐへぐへぐへぐへぐへぐへぐ」

 

「まだまだやでぇ!!」

グシャッ!

「…くいくい」

「ん? なんやミコト? 今、忙しいんや、後にしぃ」

「…ちょいちょい」

「あ? なんかはみ出てる?

「…コク」

「あらま……………そんなら仕方ないわ。とりあえず戻しとこか」

「……………」

 

いそいそと何かを元に戻すメイ。さすがにちょっと引くミコトだった。

 

「こんなもんやろ。さて姉ちゃん、真実を知りたかったら火星の遺跡まで来いや〜」

「……」

「ん? こんな状態にしといて、そんな対処の仕方でええのかって? ………何事にも犠牲はつきものということや!」

「…………」

「細いことは、この際抜きや! んじゃ、戻るで! ほな、さいなら〜…せーの、ジャ〜ンプ!」

「…!」

 

ボソンの光を残し、メイとミコトは姿を消す。

それは、レンナの跳躍と全く同じモノだと、気絶じているレンナ自身は気付きもしなかった。

 

 

 

 

 

 

「う〜ん、やっぱりレンナさん、少し会わない間に過激になったな…まあ、それはそれで…」

「青春真っ只中だな、三郎太。まあ、若いうちは苦労は買ってでもしろと言うしな。ちなみに私はもうすぐ大台だぞ」

「見りゃわかりますよ」

「しかし、レンナ殿は何故あのような事を…?」

「突然、真面目になるの止めてくれませんか。非情に疲れます」

 

ブツブツ言いながらもレンナを探す三郎太。そして、その三郎太を慈愛の目で見つめる源八郎。

2人は暫くの間コゲていたが、普段の色んな鍛え方が生かされ無事復活。

そんな2人がレンナの探しながら、とある通路の曲がり角を曲がったその時、2人は足元に違和感を感じた。

 

ピチャ…

 

「ん? ピチャ? ………うぉぉっ!?

「どうした三郎太……ぬぉぁ!?

 

足元に視線を落とすと、そこには凄い量の血溜り。その中心には、うつ伏せで痙攣をする人物が伺える。

それは、2人が探していた人物、フクベ・レンナに他ならない。

 

「おおお!? おい、何があった! ひったくりにでも会ったか!?」

「艦長、ひったくりというレベルを遥かに凌駕しているレベルですよ! 落ち着いて物を見てください!

 それより、いったい何があったんですかレンナさん!? しっかりしてください、傷は浅いですよ!!」

 

ぶんぶか身体を揺すりつつ、励ましの言葉を投げかける三郎太。

だが、出血多量のレンナは返事どころか目を開けることも出来ない。明らかに重症だった。

 

「あ、亜光速でツッコミが出来さえすれば…」

「た、たた大変です艦長! レンナさんが…レンナさんが見た目以外にもエライことになってます!」

「しっかりするんだレンナ君! そこまで追い詰められていたとは…ほら、筋肉だぞ!」

「「アンタの方がキマっちゃってどうする」」

 

源八郎の筋肉ボケのお陰で、意識を現世にとどめることに成功したレンナだったが、流石に即入院の運びとなった。

勿論、主治医が山崎に決定したことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何故に居るんだお前は?」

「助けられておいて、文句を言う人は死亡決定…いえ、確定にしますよ?」

「よーく、考えよう! 命あってこその人生だぞ!」

 

必死になり、メグミの殺意が込められた言葉を避けまくるアキト。

どこかの通気孔を這いずりながら、メグミを先導としてユリカ、ゴート、ジュン、アキトの順で、5人は只今逃亡中だ。

 

「それで、何がどうなってこんな事態になったんですか?」

「つい、今し方の事だけど、口に出すことさえ嫌悪されるが…簡単に説明するよ」

 

ジュンのトゲが刺さりまくりの出だしで、今までの経緯を掻い摘んで聞かされるメグミ。

話を聞き終えたメグミの顔は、なんともいえない表情という表現がピッタリ当てはまっている。

 

「ついにそこまで…。まあ、アキトさんならやりかねないとは思ってましたけど」

「根はいいヤツではあるんだが、所詮は根っこだけで、表面はバカという粘土で塗りかためられているから救いがないな」

「テンカワ! 貴様、生きていることを恥じろ!」

「ジュン君、容赦ないね」

「お前ら言いたい放題だな! 特にアジ副長! なんか涙出てきたぞ!?」

「誰のせいでこうなったと思っている?」

「はい、ボクのせいです。ゴメンナサイ」

 

キレ気味のジュンの警棒がアキトの鼻先で踊っていた。下手をすると、本気で死亡確定である。

 

「でも、メグちゃん。どうしてここに居るの? ナデシコは?」

「それなんですけどね。最初、私達は予定通りナデシコで待機しているつもりだったんですが、

 約1名が『どうせなら、かぐらづき内の探検をしましょう』という魅力的な発言によって、私達はここに居ます」

「「「「私達?」」」」

「はい。だから、他の皆さんもあちこちで探検している筈ですよ」

 

その頃、噂の皆さんはあちこちで色んな物を取ったり、壊したり、盗んだりとやりたい放題。

事前に妹萌えの君が、『おみやげに何か持ち帰ってもいいですよ』と無責任な一言を発していた事が原因だ。

 

 

「炎のマジカルアッパーっ!」

 

ドギュゥゥゥゥゥッ!

 

「げふぅっ!」

 

 

勿論のこと、その当人は、事の事態に気付いた親友に熱い蹴りを喰らった。

 

 

「ねえねえ、アキト。そういえばさ、さっき見てた和平案ってどんな事が書いてあったの?」

「そうだったな。何か驚いていたようだが」

「テンカワ、まだ持ってるなら見せてみろ」

「構わんが気をつけろよ」

「…? どうしてですか?」

「超薄型10トン爆弾だから」

 

『どぉぅわぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

ネーミングに盛大な矛盾が生じているにも関わらず、何故か反応してしまう一同。

少し離れた位置で、ユリカがアキトに問いただす。

 

「ア、アキトそれ本当!? だったら、どうするのそれぇ!?」

「どうもこうもあるか! 即座にコレクション入りだ!」

「持ち帰るんですか!?」

「いや、それ以前に普通の食べられる紙なんだが」

「食べられるのか!? 原材料が何なのか、激しく気になるぞ!」

「だが、賞味期限は何時までかわからんのが口惜しい! 事と次第によっては保健所の出動もありうるというのに!」

「どこの国の保健所だそれは。そもそも、それは本当に和平案の文章なのか?」

「何か不満でもあるのか? これくらいの事をしないと、世間に認めてもらえないぞ、アジ副長よ」

「そうか、それほど深いのか…」

「いや、それほど深刻でもないんだが」

「さっきの思わせぶりなセリフは、どこへかき消えたんだ?」

「そんなことは知らん」

 

キッカリ2秒後、アキトの顔面に警棒の一撃が炸裂することになる。

ちなみに、和平案の文面にはこう記されていた。

 

 

 

 

 

『今日の晩御飯は銀杏釜飯   草壁春樹』

 

 

 

 

 

どうやら晩御飯のリクエスト用紙のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキト…とナデシコクルー、そしてレンナの運命はどっちだ!? 続くような続かないような思わなくも無きにしも非ず。

 

あとがきです。

こんにちは、彼の狽ナす。

色んな方向へ飛び出してみた結果、結局この有様です(爆)

まあ、なんとか思惑通りに進んでいるので、このまま行ければいいかなと思います。

 

今から考えれば初期の頃はこんな事、思いつきもしなかったんですが…でも、どうにかラストが見えてきました。

後、だいたい3〜4話程度でしょうか? ネタを搾り出して書きます。

 

ふと見てみれば、とある文庫本が本棚に陳列している事に今更気付き困惑中。

ほとほと周りに影響され易い性格だと再認識した今日この頃でした。

勿論、その影響を多大に与えているのは誰かとは言いませんが!(笑)

 

 

 

 

代理人の感想

アキトといいヤマサキといい、ひょっとしてレンナってああ言う連中とものすごく相性がいいのでは(爆)。

仲良さそうだし。(ト〜ム、とジェ〜リ〜♪)

ヤマサキなんか嬉しそうだし。

 

>それは、レンナの跳躍と全く同じモノだと、気絶しているレンナ自身は気付きもしなかった。

 

いや、気絶してたら以下略。