ここはナデシコ総務室。主は勿論、ナデシコを影で支える男、プロスペクター。

今この一室で、当のプロスペクターが人生における教訓を語っていた。

 

「いいですかユキナさん。淑女たるもの、何事もおしとやかにですね…」

「ラピス、このお饅頭おいしいよ」

「モナカも結構イケる…」

「聞いてますか?」

「勿論さ」

 

グッと親指を突き出し、満面の笑みを浮かべながら饅頭を頬張るのは、自称アキトの許婚の白鳥ユキナ。

 

「プ、お菓子おかわり」

「ラピスさん。いったいどれだけ食べる気ですか?」

 

プロスにお菓子のおねだりをするのは、ピンクの髪の少女。アキトの実の妹のラピス・ラズリ。

2人のほんわかムードに毒気を抜かれてしまったのか、プロスは溜息1つでお茶をすすった。

 

「やれやれ…テンカワさんとの事で色々と言っておきたかったのですが…これでは只のお茶会ですねぇ」

「そうだよ。プロスさん、話って結局なんだったの?」

「…さっきから散々話してたではありませんか」

「ゴメン。さっぱり聞いてなかった」

「ユキナは1つ事に集中すると他が見えなくなる」

 

つまりは、お菓子を食べるのに夢中で全然話を聞いていなかったということだ。

 

「それで? アキトの事で何かあるの? まさかアキトの浮気現場目撃証言?」

「いや、テンカワさんの場合は『荒唐無稽黙示録』とでも言ったほうが的確かと思いますが?」

「意義あり!」

「おわぁーっ!?」

 

海老の逃走のように後ずさりながら、壁際まで瞬時に移動するプロス。

コタツの中から、突如として現れたアキトは真剣な顔で、プロスにその眼差しを向ける。

 

「さっきから聞いていれば、オレの圧倒的な様があまりに恐れ多くて『旗艦ブリッジ直撃事件簿発生』とはどういう…」

 

だが、アキトのセリフは最後まで語られることはなかった。

 

 

 

ガッゴォォォン!!!

 

 

 

「…私がこの世の闇を差す一条の光となりましょう」

 

 

宇宙対応正義のソロバンを肩に掲げ、メガネを上げつつ、世の儚さを詠う。

 

「滅茶苦茶な方向に話を持っていかないでください」

「………」

 

しかしアキトは返事が出来ない。どうやら、顔が床にめり込んで返事が出来ない上、幽体が離脱したようだ。

 

「やれやれ…ん? なんだか、今の光景…私がまだ若くてピチピチの好青年だった頃にもあったような…?」

 

天井を見上げ、ソロバンをビュンビュン回しながら昔を思い出すプロス。

振り回すソロバンも、どことなくだが、いつもより輝いて見える。

 

「ねえ奥さん。今の言動に、おかしなところがあったと思わない? そこの所を是非とも追求したいものだわね〜ほほほほ」

 

 

ドガァァァァッ!!

 

 

「はて…?」

 

衝撃により、アキトは身体が床下に沈み込み、掘りコタツを形成してしまった。

今日もプロスのコンディションは良好のようだ。

 

「アキト〜生きてる〜?」

「死んでる。ち〜ん」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伝説の3号機 外伝

思い出は光り輝きながら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが火星…か」

 

ナノマシンが光る空を見上げ、目を細める。

そう、この男は何を隠そう、10数年前のプロスペクターその人。まだ、本名を名乗っていた頃だ。

ついさっき、シャトルの発着場から出てきた為か、これから始まる新生活に胸を躍らせ、多少なりとも興奮の面持ちだ。

 

ほんの数分前までは。

 

「…出だし早々、辻斬りとは…火星とは刺激的ですねぇ…ふふふ」

 

ピーポーピーポー

 

血飛沫が飛び散る凄惨な現場となってしまった宇宙港前。

プロスは救急車のサイレンの音を聞きながら、『北海道の人が、モノを交換して欲しい時の言葉が「ばくって〜」って本当か?』と考えていた。

前途は限りなく多難だが、何故か余裕はある辺りさすがと言えよう。

 

これがプロスにとって、火星での波乱に満ちた生活の序章にしかすぎない事を、今の段階では知る由もない。

 

また辻斬りと言われた誰かは、刀をぶん回しながら火星の某所でバイクを乗りまわしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「波乱の幕開け…と」

 

ある日の昼下がり、開口一番に出た言葉がこれだった。

先の事故から数ヶ月、プロスは無事退院を果たし、ネルガルの火星支社に勤めだした。そして、その初日。

ある書類をネルガルの研究者に届ける筈が、目的の場所近くで遭遇した光景に圧倒され、思わず口走ってしまったという訳だ。

 

「どうして、普通の住宅街のど真ん中に要塞がそびえ建っているんでしょうね? 非情に興味深い。うんうん」

 

重々しく鎮座する建物を見上げ、関心しながら頷くプロス。

どこからどう見ても要塞にしか見えないソレは、異様な雰囲気を辺りの住宅街に放っていた。

 

「どうして誰も気に止めないのか…いや、近寄ろうとしないだけか…? はてさて…」

 

ドゴォォォォォン!

 

突然起こった爆発に、プロスの言葉は途中で遮られた。

よくよく見れば、要塞に向かってバズーカをぶっ放す人物。そして、その人物に向かってメガホンで対抗する人物がそこにいた。

 

「ふはははは! 見たか、最新式のバズーカ砲だ! その身で、この威力をとくと味わえい!!」

「はっ、馬鹿が! その程度の砲撃で俺の牙城が沈むか! その髭を切り落として、顔をさっぱりさせてから出直してきやがれ!!」

 

言い合う2人の人物。1人はバズーカ砲片手に声を張り上げ威嚇射撃を繰り返す。

そして、もう1人は謎の要塞の頂上で片足を縁に上げながら、バズーカ男に指を突きつけ唾を飛ばしながら意気揚々と叫んでいる。

 

「………あれは……?」

「あまり気にしない方がいいですよ」

「そうそう。ほっとけほっとけ」

 

プロスに声を掛けたのは、1組の親子。目の前の光景に全く動じず、むしろ堂々と静観している。

 

「…あなた達は?」

「あそこでメガホン片手に叫んでる人の家族です」

「凄いだろ」

 

胸を張る親子に、少しだけ後ずさる男。しかし、負けずに疑問をぶつけた。

 

「………あの、いつからここは、戦場になったんですか?」

「いつものことだ」

「その証拠に、誰も気にしないでしょ?」

「いえ、近づきたくないだけだと思いますよ?」

「あら、そうなの?」

「気付かなかった…どうりで最近オレら家族に向ける視線が冷たいと思ったら、そういう真相が隠されていたとは」

「気付きましょうよ」

 

もう、喋る気力が無くなってしまったのか、がっくりと肩を落とす。

その間にも、要塞では未だに砲撃が続いている。

 

「しつこいヤツだな、効かねえって言ってんだろうが! それにお前、また家の周りに地雷仕掛けただろ!

 お陰で出れねえじゃないか、この陰険野郎が!」

「なんだと!? そもそも、こんな所に要塞をおっ建てること事態、貴様がイカレ野郎だと証明しているだろうが!」

「口で言ってもわからんか! ええい、この砲台の一斉射撃で、この世から駆逐してやる!!」

「負けるか! こっちは最新式のロケット砲だ! 存在自体抹消してやるわ!!」

 

 

 

「「散れぇぇぇぇぇぇぇっ!!」」

 

 

 

 

チュドゴォォォォォォン!!

 

 

 

 

辺りに響く、盛大な爆音。それと共に降り注ぐガレキの数々。

充満する煙が晴れると、そこにある風景は数秒前とかけ離れたものになっていた。

 

「アナタ、満足した?」

「オヤジ、気が済んだか?」

「………バッチリだぜ………」

 

親指をおっ立て、そのまま意識を見知らぬ世界へ旅だたせる。

 

「そろそろ夕食ですから帰りますよ」

「お父様、今日はお鍋だよ!」

「そ、そうか……だが、出来れば先に病院へ……」

 

クレーターの中心部で和気あいあいな、もう1組の親子。双方の親子は、言い争っていた男共を引きずりながら何処かへと去っていく。

そして取り残されるプロスの手元には、何時の間に握らされた1つのメモがあった。

 

『あなた、ネルガルの人よね? じゃあ、いつものように後処理お願いね。それと書類のお届けご苦労様♪』

 

とばっちりでコゲたプロスは、そのメモを見ながら『クリーニング代、ネルガルから出るかな…』と心の中で呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして異動に…? 先日のクリーニング代口論傷害事件が原因とも考えにくいですが…」

 

あの騒動から数ヶ月、プロスは新たな部署で新たな仕事に就いていた。

同僚達は揃って安心の表情と涙でプロスを送り出したらしいが、本人はその事にまったく気付いていなかったとか。

 

「しかし……なんで、またあの人達がここに? まさか新手の嫌がらせか何かか?」

 

プロスが見る先には、再び合間見える例のオヤジ2人。

だが、今回は少々事情が異なるのか、双方とも肩を並べ、一方向に向かい何かを叫んでいた。

 

「い、いいな! 子供の命が惜しかったら、そこを動くなよ!」

 

その2人の向かい合う先には、いかにも『悪人でござい』といった風の男に捕らえられた子供が2人、首根っこを掴まれてプラプラ揺れていた。

 

「アキト! もう少しの辛抱だ! 男なら耐えてみせろ!! こんな風に!」

 

ガスッ!

 

「ユリカ! くぅ…ワシがついていながらなんたることだ! この拳があの時 出ていれば!」

 

ガンッ!

 

親父達は慌てふためき、何故か殴り合いを始めた。

子供を捕らえている男は、どうしたらよいのかわからず、途方に暮れている。

 

「どうなると思います?」

「そうねぇ〜破壊かしら?」

「まさか。きっと消滅よ」

「じゃあ、間を取って壊滅ね」

 

そして奥様達は、近くの茶屋でお茶を飲みつつ、物騒な会話に花を咲かせていた。

一見、傍観者に徹しているが、もしもの時の為に愛車は暖めてある。

 

「おい、根暗オヤジ!」

「なんだ、変ヒゲオヤジ!」

「今日のところは休戦ということにしておいてやる!」

「はっ、それはこっちのセリフだ! まあいい…殺るぞ?

「ああ。ワシの娘に手を出すとは笑止千万! 肉片も残らぬと思えい!

「くっくっく…子供を人質にか…浅はかだったな! 俺の子供は丈夫にできている!

 

2人は同時にどこからともなくマイウェポンを取り出し、ターゲットに狙いを定める。

勿論、周囲の静止など聞く耳持たずだ。

 

「…いや、普通は死ぬから。なんでそんなに自信満々なんだ、オヤジは?」

「お父様ったら、興奮しちゃって」

 

当の人質になっている子供等は、冷静に場面を分析。次の起こる事態に備え、神に無事を祈り始める。

 

 

「「死ねぇぇぇぇぇぇっ!!」」

 

 

「ま、待て! これは、ただの…!」

 

 

ズドガァァァァァァァァン!!

 

 

 

盛大な爆発が起こり、人質ごと吹っ飛ばす。だが、出来上った見事なクレーターの中心部には、コゲている子供が2人のみ。

 

「ちっ、逃げたか!」

「居たぞ! 逃げられると思ったか! くらえ、ヒゲブーメラン!!

 

勢いよく投げたブーメランが、逃走中の男の脚を直撃。男はあえなくバランスを崩し、その場に倒れこんだ。

 

「よし、止めは俺がやろう。ん? 弾切れか…よし、そこの人、体を借りるぞ!」

「イヤです。むしろアナタが自分自身でどうにかしてください」

 

拒否の言葉を口にし、プロスは自分の脚を掴み取ろうとしたオヤジの脚を逆に掴み取る。

 

「おおおお!? ちょっ…いや、やってくれ!」

「お任せを」

 

コクリと頷き、プロスはジャイアントスイングの要領で男の身体を回転させた。

そして気合一発、その身体を天高く放り投げる。

 

「くらえ! 秘儀、人間大回転落とし(自分バージョン)ーっ!!」

 

投げ飛ばされた自分自信で技名を叫びながら一直線に、這いずりながらも逃げ出そうとしている男に向かい急降下を開始する。

きりもみが掛かったその一撃は、男の背中を捕らえた。

 

「成敗!」

 

グシャァッ!

 

押しつぶされ、微動だにしなくなる男。

だが、フライングボディーアタックをかましたオヤジ当人もピクリとも動かなくなってしまった。

 

「「正義は我にあり!!」」

 

もう1人のオヤジと共に胸を張り勝利宣言するプロス。

しかしこの数秒後、何故か青い制服を着たガタイの良い男達に、囲まれることになる。

それを見もせずに奥様達は、子供達を連れ一目散に消え去っていた。

 

そして翌日の朝刊のトップには『劇に観客が乱入!? 重火器の脅威!』という文字がデカデカと躍ることなった。

 

事の始まりは、オヤジ達がトイレから戻ってきて、真っ先に目に飛び込んできたのが、たまたま人質役とってしまった子供達。

勿論、オヤジ達は『ユートピアレンジャーショー』の看板なんぞ全く目に入らず、

舞台上に居た5色の人達を蹴り飛ばし、敵役の男と相対したと、事細かに、まるで見てきたかのように新聞には記されていた。

 

また、たまたま近くに居たネルガルの社員が巻き込まれ、一緒になってハチャメチャ騒動に加わったとも書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ…ですか?」

「ええ、間違いないわ」

「私の掴んだ情報に間違いは無いから安心して」

 

物陰に潜み、人目も気にせずに探偵ルックで目的の人物を探す。

その内の1人はサングラスが似合うダンディプロス。そして残りの2人はテンカワ、ミスマル両家の奥様だ。

 

 

事は数時間前に遡る―――。

 

 

「浮気?」

「「はい」」

 

『ネルガル生活相談所』。ここがプロスにとって何度目かの異動先であり、市との連携で住民のお悩み相談所となっている所だ。

そして、プロスが初めて対応した客が、何気に見に覚えのある人物。

この人達と関わると、必ず大怪我を負うというジンクスがプロスの中で出来上がっているだけに、対応は慎重そのもの。

 

「最近、主人の帰りが遅いんです」

「ウチもです。今まではこんな事は無かったのに…」

「はぁ、言いたいことはわかりますが…ようは、浮気調査をしろと?」

「「その通り」」

「…どこかで探偵でも雇ってくれませんか?」

「事は一刻を争うんです!」

「そうです! そんな悠長な事を言ってられません!」

「…わかりました。しばし、お待ちを」

 

暫く何かを考えていたプロスだが、決意の表情をしたかと思うと奥様ズに待つように言い、そのまま事務所奥へと消えた。

そして数分後、ひたすら顔が青くなっている直属の上司を連れ、満面の笑みで戻ってくるプロス。

 

「何事も経験ですしね」

「「いい男だわ貴方」」

 

奥様ズにお褒めの言葉を頂き、ご満悦の表情で頷くプロス。

 

「もう、お好きにどーぞ…」

 

上司は、もうどうとでもなれといった表情でうな垂れていた。かすかに涙の跡が見えるのは、きっと気のせいではない。

 

 

 

 

 

「でも、どうして貴女達がここに居るんです?」

「何を言ってるの! 我が家の一大事なのよ!」

「そうです! 家庭崩壊の危機ですよ! 黙っていられますか!!」

「…自分でやるなら、なんで相談するんです」

「「勢いあまって」」

「納得しました」

 

気力が急下降中のプロスだが、気を取り直し目的の人物『テンカワ・ワタリ』と『ミスマル・コウイチロウ』の姿を探す。

しかし、格好が格好なのか、指差す子供や目を合わせないようにする人達が先ほどから見てとれる。

それでもめげずに、任務を遂行する仕事熱心なプロス。しかし心の中では、特別手当を出させてやろうと数秒毎に考えていたりする。

 

「そういえば、子供達はどうしたんですか?」

「ああ、あの子達なら信頼できる知り合いに預けました」

「それにとっても優秀なんですよ」

「へぇ、そんなに褒めるなんて、余程良いベビーシッターなんですね」

「「いえ、研究者です」」

「………何故か納得しました」

 

 

 

 

 

その頃、某所にて。

 

 

 

 

 

「ねえ、アキト君。新薬にチャレンジする根性が沸いてこない?」

「沸かないし、沸く予定もない」

「イネスさん、真っ赤だね、その薬」

 

それなりに子守をこなす若き日のイネスだった。

 

 

 

 

 

 

 

「従業員の話によると、ここに居るようですね。ですが、騒ぎになるといろいろと面倒ですので穏便に…」

「「出てこいやオラァ!!」」

「言ってるそばからですか」

 

扉を蹴破り、機動隊並の行動力で中を制圧しようとする2人。1人残されたプロスは、2人の行動にちょっと感心してしまった。

 

「まあ、とりあえずですね。ここは話しあいで…」

「「なんだ、そうだったの」」

「「そうなんだ」」

「もう、和解してますか」

 

プロスの心配は徒労に終わった。

そんなことはつゆ知らず、テンカワ、ミスマル両家は久しぶりの穏やかな会話に花を咲かせる。

だが、さすがにこれではイマイチ納得出来ないプロスは、4人に事情説明を求めた。

 

「それで? 結局、事の原因はなんだったんですか?」

「おお、君は先日の」

「どうも」

 

コウイチロウに会釈1つ。缶コーヒーを受け取りつつイスに座り、真剣な目線を向ける。

後で報告書に詳細を記さなければならないので、メモ帳片手に真相を暴く記者並のオーラを発し始めるプロスだった。

 

「うむ、君ならば話は早いな。実は、先日テンカワのボケが不用意に撲殺してしまった主役の役の人達が入院してしまってな」

「それでミスマルのヘタレ1人じゃあ、かなり頼りないという事で代役を買ってでたのだ」

「なるほど、そういう訳ですか。しかし奥様方、これなら心配することはなかったですね」

「何を言ってるの。私は最初から信じてたわよ」

「私も、主人を信じてました。もう、言いがかりも、はなはだしいですね」

「なんですか。揃ってイジメですか。子供電話相談室に電話しちゃいますよ?」

 

プロスは電話片手に脅しに入る。それを見た4人は必死になり、プロスの腕にすがり付き止めに入った。

余程、子供電話相談室が嫌らしい。

 

「まあ、なにはともあれ、これで5人揃ったわけだ」

「その汚い手を退かさないと、明日の朝日が拝めなくなりますよ?」


ポンッとプロスの肩を叩くワタリを、狂気に満ちた目で見つめ返すプロス。

しかし、もはや逃げられない立場に居ることにプロスは気付いていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、幕が上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そこまでだ、そこのゲス野郎!』

 

「む! 誰だ!?」

 

「ふふふ、本来ならば悪に名乗る名前など無いのだがな…今回だけは特別に教えてやる! とおっ!」

 

遥か上空から5人揃いながらキリモミを入れて跳ぶ。見事着地し、敵役に指を突きつける5色の人物。

敵が怯んだのを見計らい、名乗りを上げる。

 

「いいか! こいつはオレの獲物だ! 手を出すなよ雑種ども! 私の名はユートピアブルー!

 

「実力と娘の可愛さならば偽善者の貴様よりこっちの方が遥かに上だ! ワシの名はユートピアグリーン!

 

「建前なんていらないわ! 私に必要なのはアレ方面だけよ! 私がユートピアイエロー!

 

「ちなみにアレ方面とはスピリッツ辺りがきます! その名をユートピアピンク!

 

「そして、最後に控えるのは、今の事態をどうしもんかと考え中の一市民。

 この人達と一緒に居たら絶対にIQが下がるような気がするユートピアブラック

 

 

 

 

 

「「「「「この名を貴様のハートに刻みこめ!」」」」」

 

 

 

 

 

「「「「我等、コロニー戦隊・ユートピアレンジャー!」」」」」

 

 

 

 

 

「「「「「ここに参上!」」」」」

 

 

 

 

 

決めポーズを取り、敵役に向かって拳を突き出す。顔にかかるバイザーが太陽光に反射し、光り輝いていた。

 

「…って、いつのまに私はここに?」

 

ユートピアブラックことプロスのツッコミがユートピアブルーことアキト父ことワタリに入る。

断ったはずにも関わらず、何故か舞台に立つ自分に戸惑いを隠せないようだ。

 

「何事も経験。そうだろ?」

「人のセリフを取らないでください。滅しますよ?」

「まあまあ。確かにコイツはバカだが、言っていることは筋が通っている」

「ユートピアグリーン、どの辺がですか。是非、教えてください」

「自分で言ったことじゃない。もう忘れたの? まさか痴呆?」

「まだ若いのに…」

 

言いたい放題の4人。プロスは頭を抑えながら、舞台袖に控えるネルガル広報に問いかけた。

 

「アナタ達は……ちょっと、そこの広報の人、これでいいんですか?」

 

ネルガル広報は、用意でもしていたのか、素早く文字が記された紙切れをスッと取り出した。『OK』と記されたカンペを。

 

「あなた、さては神への反逆者ですね?」

「馬鹿野郎!」

 

ガスッ!

 

ユートピアブルーの右ストレートがユートピアブラックの頬にヒット。

その右拳は、叫んだ声に比例するかのように真っ赤に燃えていた。それは腫れているとも言う。

 

「ぐっ…な、なにを…」

「ダダっ子みたいゴネるな! みんなの和を乱して何を騒いでやがる! いい加減にヒーロー魂に目覚めやがれ!!」

「そうだ! あんなヘボ野郎でもマトモな事を言ったぞ! ワシらの目的はなんだ! 敵を倒し、未来ある子供達に希望を託すんじゃないのか!?」

「いや、そもそもどうしてここに私が居るのかが疑問なわけでして、真面目なこと言わてもね…」

「「くっ…我等の叫びは届かなかったのか…!」」

「何故ガックリ?」

 

膝を付き、悲しみにくれるユートピアブルーとユートピアグリーン。涙が頬をつたうその顔は酷く歪んでいる。

 

「ブルーとグリーンはね、いがみ合いながらも必死になってこのプランを考えていたのよ。わかってあげて」

「今日結成して、いつ練ったんですか、そのプランとやらは」

「私はブルーについてはイエローほどはかわらないけど、少なくともグリーンの情熱は伝わったわ。彼等は必死なのよ」

「その情熱は方向性が間違ってませんか?」

「「どうしてわかってくれないの…!」」

「だから、何故ガックリ?」

 

同様に膝を付き悲しみに沈む2人。声は振るえ、涙が床に落ちる。

そんな4人を見つめるプロスは、徐々にイライラ感が募ってきていた。

献血をしようとしたら『何リッターで?』と、まずありえない爆弾発言をかましてくれる、ダイナミックにガソリンスタンドと間違えるような、天然に満ち溢れた看護婦さんに対するストレスと同等位のモノを。

 

「あのね、あなた方いい加減に…」

 

「大体、貴様があの時暴れなければこんな事にはならなかったのだ!」

 

「その通りですけど、まずは私の話を…」

 

「自分の行為を棚に上げまくっておいてよく言う! やはり貴様と肩を並べることは無理のようだな!」

 

「もしもし…だから…」

 

「ほほほ、いっその事一刀両断でケジメつける?」

 

「聞けと…」

 

「じゃあ介錯は私がやろうかしら」

 

「聞け!」

 

「「「「!?」」」」

 

突然の叫びに言い争いを中断する4人。

振り返る先に居たのは、うつむきながらも全身を震わせ、ある種のオーラを全身にまとう1人の男、プロス。

訝しげな表情をしながら、アキト父が気楽に声を掛けた。

 

「どうしたブラック?」

「……………」

「まさかブルーの変態がうつったか?」

「なんだと! 貴様自身が救いようのないアホのくせして何を言う!」

「はっ、弱い犬ほどよく吠える。実力ではワシの方が上だと、まだわからんか!」

 

またも言い争いを始める2人に向かい、プロスは無言でちょいちょいと指を曲げた。

 

「ん? ブラッ…」

 

グシャッ!

 

「うお!? ブルーが! ブ、ブラックなに…」

 

突然、ブルーを沈めたブラックに戸惑うグリーン。しかし、彼も同じ道を辿ることになる。

 

ゴシャッ!

 

「「グリーン!!」」

 

勿論、イエロー&ピンクも例外ではない。

 

ガドッ!

バギャッ!

 

打撃音の後、ユートピアレンジャーは1人を残して沈黙。魂も抜けかけているのか、なんだか白いもやのようなものが口から噴出している。

そんなピクピクと痙攣をしながら倒れ付す4人を冷たい目で見つめるユートピアブラックの右手には、1つの獲物が握られていた。

それはユートピアブラック唯一にして最凶の武器『ローリング・インフェルノ・バット』

またの名を『回転式 地獄の打撃棒』

 

「次…は誰です?」

 

獲物をビュンビュン回し、辺りの埃を舞い上がらせるプロス。もはや、彼は止まらない。

しかもプロスは、4人の返り血を浴び、その全身が真っ赤に彩られていた。くしくもそれはリーダーの証であるレッドの色。

そんな、一種異様な光景をギリギリで意識を回復させた4人は見つめていた。

 

「ぐぉぉ…よくわからんが、なんという素敵なオーラ…! み、見事だ!」

「い、言ってる場合か…! それより、テンカワ毒オヤジ! お前、あのスーツに本物の武器を備え付けたのか!?」

「当たり前だ! リアリティの追求こそが科学者に課せられた義務! 俺の考えに国境などないわ! わかったかボケ髭オヤジ!!」

「なるほど、そういう訳か。貴様のような穀潰しでも、生かしておいて正解だったようだ」

 

「ね? 胸キュンでしょ?」

「なるほど、アンリはその辺に胸キュンなんですね」

 

言い争うオヤジ2人と、意味不明な会話をする奥様2人に、ブラックことプロスはそんな4人に死線の狙いを定める。

 

「……………」

 

無表情の顔と真っ黒なオーラを轟かせ、4人の人生におけるカウントダウンを開始。

だが、タダでやられるほど、彼はお人好しではない。

 

「くっ…こうなったら最後の手段を使う!」

「「「な…待…!」」」

「自爆!」

 

3人の制止を無視し、ワタリは床を叩き、現れた1つのボタンを押す。そして次の瞬間、会場は光に包まれた。

 

 

 

ズガァァァァァァァァァァン!!!

 

 

 

勿論、舞台は自爆というあってはならない結末を迎え、見事に倒壊。

しかも観客を巻き込んでの大騒動に発展し、本来ならば大失敗のはずが、これはこれで面白いということで大盛況のうちにこの日は幕となる。

そして、爆発で出来上がったクレーターの中心には頭がこんもりアフロと化したヒーローの姿があった。

その姿を見た人達はこう言ったという。『アフロ戦隊アフレンジャーだ』と。

しかし、そこに居たのはブルー、グリーン、イエロー、ピンクの4人の姿のみ。

ブラック、いやレッドとなったプロスは、どこにも見当たらなかったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

きっかけとはわからないもので、この時を境に、プロスは自分の居場所を変え、名前を変え、そしてエモノを変えた。

それはナデシコに乗った後でも変わらない。だが、唯一変わったものがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ〜ん、じゃあ今のプロスさんがあるのは、あのオジサン達のお陰なんだ」

「お陰かどうかはわかりませんが、まあそうなんでしょうね。やれやれ、今まですっかり忘れていましたよ。はっはっは」

 

あれから、ようやく復活を果たしたアキトはユキナとラピスも交えて、コタツでぬくぬくしていた。

プロスの部屋に和やかな雰囲気が漂う。

 

「あきとおにーちゃん、プに言う事ある?」

「いや、オレの今の経験値ではプさんに意見など、到底できん」

「ほ〜それはどういう意味ですか、テンカワさん?」

「普通の男の子に戻るので勘弁してください」

 

即座にコタツに頭をこすり付け、謝りまくるアキト。プロスの静かなオーラが、アキトの肌にビシビシ突き刺さる。

それを誤魔化す為に、アキトはユキナとラピスに話を振った。

 

「そ、そういえば、お前ら。例のビックショー用の衣装は出来上がったのか?」

「おっ、アキトにしてはホットな話題だね。よーし、今着替えるから見て見て!」

「結構力作。タマゴにデザインを、タイヤとゴッホ? に製作を手伝ってもらった」

 

2人はいそいそとあるモノを取り出し、隣の部屋で着替え始めた。

そして現れたその姿の内、1つはかつてオモイカネの中で遭遇したもの。もう1つは、飾る際にソレをオプションとして使用するもの。

それを目の当たりにしたアキトとプロスは沈黙せざるを得ない。

だが、ユキナとラピスはそんな事をまったく気にせず、ニコニコ顔で仁王立ちだ。

 

「じゃじゃーん!」

「…おいしそう?」

「今のお前らは、限りなく謎のベールに包まれているな」

「よーし、ラピス。アレやるよ!」

「わかった」

 

アキトのセリフをスルーし、2人は舞台の為に練習した技を繰り出した。

 

「「直列合体!」」

 

空中でユキナとラピスが合体。そのままアキト目掛けて急降下開始だ。

 

 

「「必殺! お供え餅プレスーっ!!」」

 

 

ぎゅむっ

 

 

見事に潰されるアキト。ラピスのミカンとユキナの鏡餅が合体し、お供え餅のなった2人に敵はいない。そう、あのプロスでさえも。

 

「はっはっは、可愛らしいですなぁ〜」

「でしょー。前にオモイカネの中で見た時から作りたいと思ってたんだ〜♪」

「冬のミカンは甘いから好き」

 

ヒョコヒョコ手足を動かしながら、楽しそうに笑い合うユキナとラピス。

コタツに入りながら、プロスは今のこの幸せな時を噛み締めていた。

今でも持ち歩いている、あの日々の思い出が詰まった、以前の獲物を見つめながら。

 

「ぬがぁぁぁぁっ! いつまで乗っとるかぁぁっ!」

 

ユキナ&ラピスのお供え餅をどかし、勢いよく立ち上がる。だが、それがアキトの運命を左右してしまった。

 

「お前ら、いったい当日何をやらかす気だ? おかしな道へ逸れていってるようにしか見えんぞ!」

「アキト、私はアキトを見捨てないよ」

「あきとおにーちゃんは我慢の子だって信じてる」

「あ? なにを………はっ!

 

アキトが見詰める先には、お茶をかぶり、頭にコタツを乗せているプロスの姿。

プロスの体からにじみ出る、オーラは昔と寸分たがわず、相手を威圧する。

 

「ふふふ、テンカワさん、どうやらあなたの父上が喰らったものを、自分自身でも味わいたいようですね…」

「ええ!? 違っ…いや、オレが悪かった。だからプさん、もう止まってくれ…って、何故に活動再開しておりますか! 聞いてます? ねえ!」

「久しぶりですねぇ、コレを使うのは。そうだ、どうせなら二刀流で行きますか」

「ええっ!? なんてこった! 思わぬ伏兵が現れやがった!」

 

泣きっ面でプロスが構えるエモノを見つめるアキト。既に神様へのお祈りは完了しているので、何時でも逝ける。

『宇宙対応正義のソロバン』。そして、『ローリング・インフェルノ・バット』

プロスの新しい相棒と昔の相棒が、今共闘を始めようと、かつての思い出のように光り輝く。

 

 

 

 

 

 

 

ズドガァァァァァァァァァン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「親子2代で我が刃の錆となりなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

終わりなんです。

 

あとがきです。

こんにちは、彼の狽ナす。

今回の外伝は過去にリクエストを頂いた、ナイツさん、T.Kさん、代理人さんのネタを元に作成しています。

勿論、出来る限りの再現ですので、ご希望に沿ったモノかどうかはわかりませんが、今はこれが精一杯です(汗)

また、かなーり遅れてしまったことをお詫び申し上げます。なにせ、年末からこっち、波乱に満ちておりましたので(泣)

 

さて、内容ですが、これは『外伝 その1』の続きを想定して書いたんですが…不思議なことにアフレンジャーの誕生秘話になってました(爆)

アフレンジャーの事を考えながら書こうとしたのがいけなかったのか…。まあ、結局はバカネタなんですが(笑)

 

それでは、次回本編でお会いしましょう〜

 

私信

先日のアレについて。ありがとう、さようなら(爆)

アレはきっと作品に生かされ、殺されるでしょう。

ですが、ネタの宝庫だった、あの2日間は絶対に忘れません。ああ…お空が青いデス(遠い目)

新たな扉を開けつつある彼の狽ゥらでした(狂)

 

2004/6/24 ちょっと改定

 

 

 

 

代理人の感想

バットとソロバンなのに刃なのか(爆)。

 

それはともかく。

 

今、万艱(ばんかん=山のような苦労)の思いを篭めてソロバンが鳴る

今 万艱の思いを込めてバットが唸る

ひとつの人生は終わりまた新しい旅立ちがはじまる

さらば本名

さらばアフレンジャー

さらば青年の日よ

そしてプさんはナイスミドルになる

 

 

 

・・・・え、何か違う?(爆)