「プラス…戦況報告」
《活動中のチュウリップ、クロッカスとバンジ―を飲み込み現在はナデシコに向かっています、後エステバリスが一機ナデシコから発進しました》
「分かった。いくぞ『プラス』!!」
《イエス、マスター》
漆黒の閃光がチューリップに向かう。

 

 

「ナデシコを追わないのですか提督?」
「現戦力ではナデシコの拿捕は不可能と判断する、ひとまずサセボに帰投する」
そう言って部下を下がらせる。
チューリップは既に破壊された。
直接破壊したのはナデシコだが…
ナデシコが来るまで囮をつとめた二機のエステバリス特にアキト君の活躍は異常なものだった。
彼はチューリップの繰り出す全ての攻撃を見切り、そして全く無駄の無い動作で的確に反撃した…
ギリギリの所でかわし、そして反撃。
その様はまるでその身に破滅を願うかのようであった…
ナデシコを待たずにチューリップを破壊できたのでは無いのか…そう思っているのは私だけでは有るまい。

 

「アキト君……君の身に一体何が有ったのだね?…なぜそんな悲しい目をする……?」
その答えは一向に出る気配は無い。

                  機動戦艦ナデシコ
                             時の帰還者

「これは明らかに我々宇宙軍に対する反乱である!!!」
議長席にいる総司令官が激を飛ばす。
議題はネルガル所有戦艦ナデシコの処遇についてだ、もっとも議長みずからこんな事を言っているのでは既にナデシコの処遇は決まったも同然だが…
軍としては、ネルガルが私的に軍艦を持つ事に対して否定的であった。
理由としては単純に一般企業が戦闘力を持つ事は危険であるという考えが一つ。
次に軍をコケにした(ムネタケの一件)事によって起きた軍人特有の視野の狭さによる感情的な判断が一つ。
最後に――今回の事で付け加えられた考えだが――今まで軍の戦艦が手も足も出なかったチューリップを破壊出来る性能を持った船が、民間で運用されたら軍の存在理由(アイディンティー)が失われる事に成りかねないからと言う理由が一つ。

「何としても我々はこの暴挙を食い止め、そしてナデシコには地球防衛に協力して貰わねばならない!!!」

以上の理由によって、この様に議長自ら暑く語ってくれているのである。
そんな総司令の演説を通信技師が邪魔する。
「総司令、通信です」
「誰からだ!?」
「それが…ND−001『ナデシコ』からです」
「ナデシコ…よしメインモニターにまわせ」
通信技師が操作を開始する。

「明けましておめでと〜〜〜ございます」

ドアップでユリカの振袖姿が映る。
会場にいる全員がぼーぜんとなる。
「……振袖姿に色気があり過ぎる」
訂正…どうやら一人ほど例外がいたらしい。
誰かはいわずとも――である。彼の精神構造はどうなっているのだろうか?

「艦長これはやり過ぎではないのかね?」
「え〜〜〜外人さんは日本語が分からないから愛想よくした方が良いんですよ」

「ゴホン…一体なんのつもりかね?」
なにやら不毛な会話をしているのを議長が止めさせる。
「えっと、私たちナデシコが火星に行きたがっているのは知っていると思います」
ユリカの立つモニターに現在地球に存在する防御線及び今後のナデシコの航路が表示される。
「ですから、防御ラインとビックバリアを一時解除してほしいんです、そしたら誰にも迷惑をかけずに出られるのです、ユリカお願〜〜〜い」
両手を合わせ瞳をうるうるさせお願いをする、サリーちゃんパパ…もといコウイチロウ中将なら一撃で轟沈する破壊力を持つ。
「ビックバリアを解除しろ?寝言は寝てから言え!」
しかしそれはあくまでコウイチロウに対してだ…それ以外の人物には効果は薄い。
よってあっさりと断られてしまう。
「あらそうですか、ではお手柔らかにお願いしますよ…それとナデシコにはとっても強い王子様が乗っている事もお忘れなく」
そう言っておじぎをして不敵に微笑むユリカ、彼女の本当の姿が垣間見られた。
普段の行動と口調で分かりづらいが、彼女とて軍の名門ミスマル家の一人、ただの小娘ではないというわけだ。

 

通信の切れたモニターを見つめ続ける総司令。
先程の微笑を思い出す。
(あの微笑…あれは断じて小娘のする笑みではない、流石はミスマルの一人と言うわけだ…そしてその娘が認める者とは一体…?)
しかし此処までコケにされた以上引き下がれない。
「なんとしてもナデシコの火星行きを阻止せよ!!撃沈もやむなしだ!!動かせる戦艦を総動員せよ!!!」

 

―――ナデシコ格納庫―――
断続的な揺れがナデシコに起こる。
しかし揺れるといってもナデシコ内部に被害が出るほどの激しい揺れではないが、だからと言って無視できる程の微震でもない。
ナデシコにとってはちょっとした地震訓練を行っている様なものだ。
無論この事を軍が知ったら激怒するか歯ぎしりして悔しがるかのどちらかであろう、少なくとも連中は真剣にナデシコを止めようとしているし、この攻撃は軍の威信をかけて行っているのだから。

「すまんがウリバタケは何処にいる?」
アキトはこの揺れの中ウリバタケを探しに格納庫に来ていた。
「えぇ――と班長っすか?奥に居ませんでしたか?」
アキトに尋ねられた二十歳すぎの整備員が器用に片手でボルトを絞めつつ、反対の手で奥の方を指差しながら答える。
「そうか、邪魔して悪かったな」
アキトはそう言って奥に向かって歩き出す。
「…この揺れの中でよくあんな歩き方が出来るもんだね」
その歩きを見て声をかけられた整備員が誰にでもなく呟た。


「ウフフフ…さあ良い子だから大人しくしなさい、なに一寸フレームの点検をするだけだよ」
格納庫の奥では変質者が使うようなセリフを吐きながらウリバタケがプラスににじり寄っていた。
実はウリバタケはプラスをまだ自分の手で整備していない。
プラスがナデシコに持ち込まれたのは出航の直前であったのとバッタどもによる襲撃やトビウメの介入などがあった為ウリバタケはプラスを解体…もとい整備できていないのだ。
もちろんこんな事はあのウリバタケに許せるはずが無い。
ならば最早彼が取るべき行為は一つしか無い――整備の名を借りた解体――訳である。

《却下》
    《否決》
         《お断り》
              《ヘルプ!!!マスター》

一方こちらはウリバタケに何やら本能的な危険を感じたのか、自らの持てる通信手段の全てを持って否決を伝えようとする。
「おぉ…人工知能まで付いているのか、これはますます点検しなくては成らなくなったな」
無論そんな事をすれば余計にウリバタケを喜ばせるだけである。
「さあ我は知る禁断の技術を!!いざ求めん失われた英知を!!!!」。
プラスを整備もとい解体する事の方に気がいっている……気が行き過ぎて目が血走って
「…やめんか」
ガス。かなり危ない擬音を立てて金づちがウリバタケの後頭部にめり込む。もちろん殺ったのはアキトだ。
「…これは俺の私物だ、勝手に分解しないでくれ」
そう言いながら手にしていた金づちをその辺に放り投げる。
ウリバタケが頭を抱え特殊合金の床を転がりまわっているので返事はもちろん無い。
まあ3分もあれば復活するであろうが…

「アキト、あんたの方からもこいつに俺の整備を受けるように言ってくれないか?こういうのは日ごろの整備が大切だ、いざ実戦で不都合が起きたんじゃ遅いからな」
きっちり3分で復活しアキトに交渉をもちかける。
頭から血が滝の様に流れているのはきっと目の錯覚だ。
一応言っている事は正論である…正論であるのだが彼の目がその本音を雄弁に語っているいる。
もし此処でプラスの整備許可を出そうとものなら彼は小躍りをしながらプラスをボルトとネジ単位にまで解体するだろう。
マッドサイエンティストならぬマッドエンジニアここに極まりなり…である。

「悪いがもう暫くは待ってくれ、少なくとも補充パイロットがそろうまでは解体しないでくれ…」
少なくとも今プラスを解体させられる訳にはいかない。
しばらくすればジュンがデルフィニウム部隊を率いてくる以上プラスは必要である。
デルフィニウムが来た時プラスがボルトとネジに成っていた…では笑い話にもならない。
「そうか…まあそれもそうだな、それよりもなんか用でもあったんじゃ無いのか?こんな所まで来て」
しぶしぶ納得し話題を変える。彼とて一応大人、大人としての良識と常識は持ち合わせている――よく忘れるけど。
「これを作ってもらいたくてな」
一枚のメモ用紙をウリバタケに手渡す。
「…少し時間がかかるが構わんか?」
ざっと概要を見てそう判断する、そして近くにいる整備班に指示をだす。
「かまわん、取り立てて今回は必要ないからな」
「…?今回は?どういう意味だそれは?」
「なにこっちの事だ気にするな」
ウリバタケが首を傾げるがあまり深く考えない事にしたらしく話題を戻す。 
「まあ、何にせよ補充がきたら整備するからな!!!」
「…あぁ気の済むまで整備でも解体でもしろ」
口元に例の笑みを浮べながらアキトが答える。
《そんな!!マスター助けてくださいよ》
「……ナデシコに来た以上一度は通る道だあきらめろ」
そう言ってプラスの悲鳴にも似た声(?)を素敵に無視した。

 

―――ナデシコ艦橋―――
「…今ので235発目のミサイルです」
「いい加減諦めたらいいのにね」
ルリの淡々とした報告にミナトが相槌を打つ、現在自動操縦にしている為暇なのだ。
「うぅ…まだ行っちゃダメですか?」
「駄目です艦長、少なくてもビック・バリアを突破するまでは艦橋を離れる事は許しません!!」
プロスペクタ―に説教される艦長…先程からアキトに会いに行く為に抜け出そうと努力しているのだが、いまいち努力と結果が結びついていない。
「まったく、私に交渉を任せてくれたのでしたらもっと穏便に済ませれましたのに」
ブツブツと小言を言い続けるプロス。
交渉できなかった事がよほど悔しかったのであろう。
「えぇ――!?ユリカ悪くないですよ、ねえ皆もそう思うよね?」
助けを求める様に周りを見渡すユリカ、しかし全員があさっての方向を向いたのは言うまでも無い。

 

―――宇宙ステーション『サクラ』―――
「じゃあ詳しい説明書はここに、あとベクトルさえ間違えなければ大丈夫ですから」
デルフィニウムのコクピットそこにナデシコ副艦長アオイ・ジュンの姿があった。
彼はユリカにトウビメに置き去りにされた後コウイチロウのツテで此処まできていた。
「すまない、無理言ってしまって」
予備機とはいえ無理を言って乗せて貰いその上指揮権まで預かっているのだ、その事に少なからず引き目を感じているのだ。
「いいんです、それじゃあ幸運を!!」
整備員がコクピットから出て行きそしてハッチが閉じる。
ジュンも目を閉じゆっくりと深呼吸する。
今までの事が脳裏をよぎる。
初めてユリカと出会った日の事。
ユリカに振り回されながらも、その自由気ままな生き方に憧れていた頃の事。
いつしか憧れが恋に変わっている事に気が付いた頃の事。
共に軍人になるべく連合防衛大に進んだ事。
そして―――ユリカの前に突如として現れた黒尽くめの男――テンカワ・アキト。
(このままナデシコを…ユリカを火星に行かしてはいけない!!必ず僕が止めて見せる!!)
「目標機動戦艦ナデシコ!!」

――再びナデシコ格納庫―――
《敵機デルフィニウム9機確認
パイロットは至急エステバリスに搭乗してください》
アキトのコミュニケにそう表示される。
「来たか…ウリバタケ、プラスをまわしてくれ!!」
「応!任しておきな!!」
ウリバタケがプラスが早速出撃準備に取り掛かる。
にわかに忙しくなる格納庫、そんな中一機のエステが急に動き出す。
「ワハハハ――来たなキョウアック星人どもめ!!このダイゴウジ・ガイ様が相手してやる!!」
そう言って重力波カタパルトに向かうガイ、その後姿を見たアキトとウリバタケが顔を見合わせる。
「確かアイツ格納庫に居なかったよな…いつの間に乗ったんだ?」
「ひょっとしてずっと乗ったままだったとか…?」
ヤマダ・ジロウ、魂の名をダイゴウジ・ガイ…なかなかに謎な人物である。

 

それはさて置き。
「班長!!あのヤロー何にも持たずに行きましたよ!!」
「ナニィィ―――!!…アキト」
すがる様な目でアキトを見るウリバタケ。
「……了解」
(アイツはサツキミドリで降ろした方が良いかも知れんな)
コクピットでそんな事を考えながら発進した。

 

アキトがガイに遅れる事5分、そこでは既にユリカとジュンがいい合いをしていた。
ガイは既に二機のデルフィニウムに捕獲されている様だ。
「ユリカ、ナデシコを地球に戻すんだ!!今なら僕とミスマル提督で何とかできる」
「ごめんジュン君、私の居場所は此処だけなの…ミスマルの長女でもお父様の娘でも無く居られるのは」
「やはり、あいつの方がいいというのか…」
今まで絶対の正義と信じていた連合宇宙軍、しかし其れはムネタケの反乱に始まる一連の騒ぎで間違いである事に気づいた―――いや気づかされた。
築き上げた理想が高いと高いほど崩れた時人の心は深く傷つく。
ありきたりに言ってしまえばジュンはちょっとした人間不信に陥ってしまっている。
「だったら先にこの機体を破壊する!!」
「ウォォ―――やめろ―――!!!」
ガイが叫ぶが構わずにミサイルを発射する。

 

ガイに向かって3発のミサイルが発射される。
拘束していた二機のデルフィニ二ウムが慌てて離脱する、ガイも離脱しようとするが一瞬送れたためミサイルのホーミングに捕まり振り切れないでいる。
「まったく…こっちに真直ぐ向かって来いガイ!!」
ガイがミサイルを引き連れて向かってくる。
ミサイルと交差する時にピンポイントで信管を打ち抜く。
信管を破壊された事のよって見当違いの方向に飛んでいくミサイル。
「ひゅ――スゲ―腕前だなアキト」
「………」
ガイが褒め称えるがアキトにとっては嬉しく何とも無い――自ら望んで手にした力ではあるが……
「これを使え…反撃にでるぞ」
手にしたライフルをガイに渡す。
「OK!!仕切りなおしだ!!」
9機のデルフィニウムに突撃する黒とピンクのエステバリス。


「まず一機」
イミディエットナイフでデルフィニウムの両腕を切断する。
「おっしゃー!!二機目貰いだ!!」
ガイが脚部バー二アを打ち抜きながら宣言する。
「背後にも気を配れ…3機目だ」
ガイの後ろを取ろうとした敵機の首を切断する。
「うっ…と、とにかくゲキガ―――ンパンチ――!!」
腕に収束したディストーションフィールドを相手の頭部に叩きつけ破壊する。
「…これで5機」
背後を取ったデルフィニウムのミサイルポットにイミディエットナイフをつき立て武装解除する。

 

「おぉぉ――!!!」
アキトとガイのダック戦を見せ付けられ感嘆の声があがるブリッジ。
「へぇ―――ヤマダさんって真面目に戦えば強かったんですね」
「当然です、でなくばスカウトしてきません」
メグミの率直な感想に答えるプロス。
「あの悪癖が無ければヤマダさんは十分エースパイロットとしてやっていけます」
もっとも彼にはアキトが熱血に走ろうとするヤマダを的確に押さえている事を見抜いていたが。
「アキトすごいすご〜〜〜い!!さすがユリカの王子様だね!!」
一名ほどそんな事分からなくとも関係ない人物もいるが……

 

「た、隊長、このままでは全滅してしまいます」
「そんな事分かってる!!」
思わず叫んでしまう。
叫んだおかげで、自分があの二人に気圧されている事に気づく。
瞬く間に5機のデルフィニウムを倒す――しかも一人として殺さずにだ――二人に自分も入れて残り4機……勝ち目はまず無い。
手元の時計を見る、第3防衛ラインのミサイルが発射されるまで余り時間が残っていない。
もはや取るべき手段は残っていない様だ。
「お前たちは『さくら』に戻れ、後は僕が何とかする!!」
「し、しかしそれでは隊長が……」
「もうじき第3防衛ラインのミサイル群が来るぞ!!」
「――ッ!!了解しました、ご武運を!!」

 

「おっ、連中退却していくみたいだぞ」
ガイの言う通り無傷の機体が傷ついた機体を抱え戦闘空域を離脱していく。
「そのようだな……ガイ、お前も先にナデシコに帰っていろ」
「でも、まだ1機残ってるぞ?」
1機だけ不自然に残っているデルフィ二ウムをガイが指さす。
「…あれはきっとジュンだ、俺に決闘を申し込むつもりなのさ」
決闘という言葉を聞いてとたんに目を輝かせるガイ、しかし先にアキトが手を打っておく。
「…男の決闘に横槍いれるのは無粋と思わないか…ガイ?」
「くぅ―――赤い夕日を背に草原で精魂尽き果てるまで拳を振るう二人、確かに横槍入れるのは無粋!!アキト後は任せたぞ!!!」
滝の様な涙を流しながら決闘について熱く語るガイ。
その様をみて宇宙では太陽は赤くないとか第一草原なんて物は無い、などと思わず胸中で突っ込みを入れてしまうアキト。
「アキト――!!後でゲキガンガー一緒に見よ―ぜ!!」
「それは遠慮する」
すげなく断りを入れるアキト…さすがに今更ゲキガンガーは無いようだ。

 

邪魔者が全ていなくなり対峙するアキトのエステバリスとジュンのデルフィニウム。
「ジュン、お前は何故ナデシコを止めようとするんだ?」
「分かりきった事を!!このままナデシコを火星に行かしてみろ、そんな事をしたらナデシコは、ユリカは反逆者として裁かれてしまうじゃ無いか!!」
「…つまりナデシコを…ユリカを守るためにか?」
「そうだ!!」
その言葉を聞いて思わず失笑をもらすアキト。
「何が可笑しい!!」
「力も無く、他人の権力をあてにしないと女一人守れんくせに…それで守るだと?これが笑わずにいられるか
守るというのは貴様が思っている程甘くない!!」
「う、うるさいぃぃ――!!!」
ジュンが怒りに任せてミサイルを発射する。
アキトは回避せずプラスをミサイル陣の真っ只中に突撃させ――爆発が起きる。
「ナニィ―――!?」
これにはミサイルを発射したジュンの方が動揺した。
ミサイルの中に突撃する――これはまるで自爆では無いか…
しかし予想に反し爆風の中から無傷のエステが姿を表す。
「くっ、な、何故だ!?」
慌てて回避行動をしようとするジュン、しかし既に時遅く目の前にプラスが迫っていた。

目の前にミサイルが迫る。
既にミサイルに搭載しているセンサーはプラスをロックオンしているだろう。
この距離ではいかなるジャミングも回避行動も間に合わない――常識であれば。
爆発が起こる地点、そこでアキトは一気に加速をかける。
ミサイルと言う類には全て安全距離と言うものが設定されている――爆風で自機がやられぬ為にだ。
プラスとミサイルがすれ違い安全距離に達したミサイルが爆発を起こす。
爆風を背に受け通常の倍以上の加速を引き出す、プラスの性能とアキトの腕の二つがあって初めて成り立つ技である。
「くっ、な、何故だ!?」
ジュンが慌てて回避行動を起こそうとしているがもう遅い。
そのまま体当たりをするかの様にジュンのデルフィニウムの頭部に拳を叩きつける。



グシャ!!
鈍い音を立ててデルフィニウムの頭部が破壊される。
「くっ!!」
頭部が破壊された衝撃でコクピットが激しく揺れる。
「テンカワは、アイツは何処だ!?」
必死にバランスを失った機体を立て直す、血が右目に入り開けていられなくなる、先の揺れで頭をどこかに打ち付けたようだ。
生き残っているセンサーで探すが頭部を破壊された事によって目視による捜索が不可能になる。
頭部センサーは主に有視界の情報をパイロットに提供する、これが無いとパイロットは――特に新人は――敵機だけで無く自機の位置も掴めなくなる。
こうしている間にも断続的に衝撃が機体を襲う、それはあたかも『いつでも貴様を殺せる』と言わんかの様に。
「くそぉ――!!」
もはや認めざるを得なかった自分の敗北を、テンカワの異常なまでの強さを。

 

「…このくらいでいいか」
大破したデルフィニウムを見て攻撃の手を止める。
此処まですれば前回の様な真似はできないだろう、その為に此処まで破壊したのだ――勿論パイロットが死なない様に、機体が爆発しない様に注意してだが。
「アキト!!それ以上したらジュン君死んじゃう!!」
ナデシコから見かねたユリカが通信を入れてきた。
「分かっている、これから説得に当たる」
通信を切断し、コミュニケを起動させる。
普通の通信方法ではナデシコに――ユリカに会話を聞かれてしまうがこのコミュニケならその心配は無い。

「…ナデシコに戻って来いジュン」
単刀直入にそう切り出すアキト、色々と説得の言葉を考えていたのだが、結局いい言葉が見つから無かったのだ。
「な、何を言い出すんだ!!今更そんなみっとも無い真似できる訳無いだろう!!」
「だったら此処で死ぬか?」
「うっ…」
言葉に詰まるジュン。
此処まで破壊された機体では『サクラ』まで帰還できるはずも無い、ほって置かれたら燃料が切れて地球に落ちていくか、酸素が切れて窒息死のどちらかだ。
始めから答えのわかっている問いを尋ねられている様なものだ。
「でも…あんな事をして起きながら…いまさら受け入れてくれるはずが…」
「少なくともユリカは受け入れてくれるぞ」
――アキト!!それ以上したらジュン君死んじゃう!!――
プラスに命じ先程ユリカがアキトに向かって言った言葉を聞かせる。
「ユ、ユリカ♪」
とたんに顔が綻ぶジュン返事は聞かなくともいいだろう。



「テンカワさん、第3防衛ラインのミサイル群が接近しています、急いで帰還してください」
ルリが通信を無理矢理入れてくる。
「了解、ちょうどこちらも説得ができた所だ」
デルフィニウムを抱えナデシコに戻るアキト。
そして再度コミュニケを起動させる。
「ジュン、お前はユリカを守る…ユリカの騎士になりたいんだろ」
「そうだ!テンカワ、お前には絶対負けない!!」
いつに無く強気のジュン、先程の言葉がよほど嬉しかったのだろう。
「だったら力を手に入れる事だな、少なくとも俺以上の『武力』もしくはミスマル提督以上の『権力』を…でないとアイツは守れない」
「…!?どういう意味だそれは?」
アキトは何も答えない、そこで通信を切ってしまう。
「テンカワ…お前は何を知っているんだ?」
しかし直ぐにその事は頭の片隅に追いやられてしまう、ユリカの言ってくれた言葉が未だ頭の中で反芻されているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

……余談だが20分後、涙目で通路を爆走する某副長の姿があった事を此処に記しておこう。

 

                             つ、続けれました(涙目)
後書き
………なんか無茶苦茶あいだがあいてしまいました。
スミマセン、許して下さい……でも、もうしませんと言えない自分がイヤだ。(泣)
とある方に8月までには投稿できるとメールで言っていたのに……
も〜〜〜本当に申し訳ないッス(切腹)

 

人物・兵器紹介
〜エリナ・キンジョウ・ウォン〜
泣く子も黙るやり手のネルガルの会長秘書、3年以内にネルガルのトップに上り詰めると公言して止まなかったがアキトと出会ってしまった事によりその夢を『一時』中断してしまう。現在は5年以内にトップに上り詰めると公言している。2年間何するの…?とは聞いてはいけない。
なおアキトとは男と女の関係でもある。
未来においてはアキトの復讐の手助けをし、現在では未来で使っていたサレナの保管を担当したりと、アキトが絶対の信頼を寄せる人物である。
変更点といえばこの時点で既に髪を伸ばしている事である(情事の時アキトが愛しげになでる為)
本作の公式記録におけるアキトに堕とされた人第一号である……公式があるという事はもちろん非公式の方もちゃんとある。この記録内容を彼女が知ったときアキトが生きているかどうかは神のみぞ知るであろう。
本作における影のヒロイン、本ヒロインよりも先に紹介されている時点で筆者の属性が分かってしまう。
彼女がナデシコに乗り込んだ時、血みどろのアキト争奪戦が勃発するのは想像に難くない。

 

 

 

 

 

 

代理人の感想

 

自分は守れなかったくせに偉そうに説教かましやがって(笑)。

 

と、言ってはいけない本音はこっちへ置いといて。

 

しかしまあ、見事なまでに「かませ犬」ですな〜、ジュン君(苦笑)。

かませ犬と言うか、ロボットアニメの冒頭で敵ロボの強さを見せつける為にあっさりやられる雑魚と言うか。

まあ、脇役には脇役の幸せがあるさ(笑)。

・・・どこぞの本編ではそれすらも奪われた上にいい所で死に損なって生き恥さらしてるけどね(核爆)。