< 時の流れに福音を伝えし者 >

 

 

 

 

 

第一話.その二 『「男らしく」でいこう!・・・ここは何処だ・・・そして俺は』

でもって君は?

 

 

 

 

 

ブオォォォォンンンン

 

 

 アキトさんが走らせる自転車の真横を、一台の車が走り抜ける・・・

 そしてその車のトランクから一個のスーツケースが、アキトさんに向かって落ちて来る。

 

 ちなみに僕はアキトさんの自転車の横を走っている。

 

「ここまで再現されるとはな・・・」

 

 過去をなぞっているそうだから、同じなのは当然だと思う。

 

 ガラン、ガラン!!

 

 凄い勢いで、スーツケースがテンカワさんに向かって落ちてくる。

 全開はどうなったんだろう? ぶつかったのかな?

 

 アキトさんは自転車をドリフトさせて急停止し、向って来るスーツケースを両手で受け止めた。

 

 

 キキキッッ!!

 

 バタン!!

 

 パタパタパタ!!

 

 スーツケースを落とした車が急停止し。

 一人の女性が車から降り、僕達に向かって走り寄ってくる。 

 

「済みません!! 済みません!! ・・・怪我とか、ありませんでしたか?」

 

 アキトさんはその女性を見据えていた。

 話では彼女がアキトさんの奥さんになる人なんだろう。

 

「ああ、大丈夫だ・・・これ、君のかな?」

 

 両手で受け取ったスーツケースをアキトさん目の前の女性に手渡した。

 

 アキトさんの目には強い意志が篭っている

 

「・・・あの、ぶしつけな質問ですが。

 何処かで、お会いした事ありませんか?」

 

 アキトさんの顔を覗き込みながら、女性が話しかけてくる。

 

「気のせいですよ。」

 

 その視線を避けるように目を背ける。

 アキトさんは横を向きながら女性に返事をする。

 

「そうですか?」

 

「ユリカ、急がないと遅刻するよ!!」

 

 同い年くらいの男性が女性を呼んでいる。

 

「解ったよ、ジュン君!!

 では、ご協力感謝します!!」

 

 そう言い残して二人は車に乗って行った。

 

 やがて車が見えなくなった頃に。

 アキトさんは低く・・・自嘲気味な笑い声を上げていた。

 両拳を、きつく握り締めながら。

 

「今のが、アキトさんの奥さんになる・・・」

 

「ははは・・・そうだよ、ユリカだ。

 やっぱり忘れる事なんて出来ない。

 身体が一番正直なんだよ、ユリカを求めてる・・・だからこそ、俺はユリカに相応しくない。

 もう、不幸な目には合わせたくないんだ・・・

 だから!! だからこそ!! 綺麗に決着を付けて見せる!!」

 

(アキトさん、それでいいんですよ。

 人は忘れていくことで生きていける。

 だが、忘れてはいけないこともある。

 第三新東京市に行って、唯一父さんが僕に教えてくれたことだ。

 

 けど、アキトさん。 それは逃げているだけだと思います。

 あなただって十分不孝な目にあったんですから、

 僕はあなたにも幸せになってほしいです。

 

 だから、そちらの方でも出来る限りお手伝いさせてもらいます。)

 

 僕達は決意を新たにし・・・アキトさんの思い出の場所、ナデシコに向かって走った。

 

 

 

 

「はてさて・・・

 貴方がたは何処でユリカさんと、知り合いになられたんですかな?」

 

 ちょび髭の眼鏡のおじさんが聞いてくる。

 僕達は軍の見張りに連行され、今はこのプロスペクターさんと言う人と話をしている。

 本名は何なんだろう? アキトさんも知らないみたいだし。

 

 『アラエル』でってのは、やりすぎだよな。

 無理矢理だと精神汚染になっちゃうし。

 

「実はユリカとは、幼馴染なんです・・・

 俺はユリカに聞きたい事があって、ここまで追い駆けて来ました。」

 

 そう言えば、アキトさんは未来の世界でユリカさんを追いかけて続けてたんだっけ。

 時間を越えてまで追い駆けることになるなんて、ちょっとすごいと思う。

 

「ふむ・・・おや? 全滅した火星から、どうやってこの地球に来られたんですか?」

 

 アキトさんのDNA判定をした結果を見て、驚くプロスさん。

 舌で測られそうになったが、アキトさんが忠告し腕でやってもらった。

 おそらく過去での経験を生かしたのだろう。

 

「・・・記憶に無いんですよ。

 気が付けば、俺は地球にいました。」

 

 プロスさんは交渉のプロだと言うから、アキトさんの話を信じたかどうかは解らない。

 ・・・だがプロスさんはアキトさんの料理道具を見てある提案をする。 

 

「あいにくとユリカさんは重要人物ですから、簡単に部外者とお会いできません。

 ・・・しかし、ネルガルの社員の一員としてならば、不都合はかなり軽減されます。

 実は我が社のあるプロジェクトで、コックが不足していまして。

 テンカワさん・・・貴方は今無職らしいですね、どうですこの際ネルガルに就職されませんか?」

 

 流石、交渉のプロだと言われるだけある。

 ナデシコは今はまだネルガルの秘密なのに

 一言もナデシコの名前を出さずに、スカウトするなんて・・・

 

 たぶん、アキトさんが火星の生き残りだというのも理由に、誘っているみたいだけど。

 

「こちらこそ、願っても無い事です。

 実はこの先どうしようかと、困ってたんですよ。」

 

「では、交渉成立ですね。 で、そちらの方は・・・」

 

 プロスさんは僕の腕にペンのようなものを当てて、DNA判定をする。

 

 僕のDNAは普通の人間と99.89%の差違があってばれるとまずいのだが、

 僕は自分の意志で、DNAを書き換えることが出来る。

 まあ、書き換えても・・・

 

「おや? データベースにない?

 このご時世にDNA登録されていない方など

 いないはずですが?」

 

 まあ、当然だよね。 何とか誤魔化さなきゃ。

 

「あの、僕、イカリシンジって言います。

 じつは、僕もアキトさんと同じで火星にいたんです。

 

 僕は幼い頃に親に捨てられてしまってある所に預けられたんです。

 その時から僕は何も知らず、ある組織の計画の道具にする為に育てられました。

 そして、僕が十四歳のときに計画が実行されました。

 ですが、計画は失敗し、それが原因で組織は壊滅してしまいました。

 僕も、昔は普通の容姿だったのですが、計画が原因でこのような容姿になってしまいました。

 それから生き残った僕は、一人で生きてきたのですが何時の間にか地球にいたんです。

 

 そこで、アキトさんに会ってここまで付いてきました。」

 

 僕は演技に苦労したと言った顔をする。

 一応嘘は言ってないよ、計画の道具にされたのは事実だし。

 

「なるほど。 データベースにないのはその組織にいたからですか。

 組織というのは気になりますが、貴方も苦労されたんですな。

 それでどうしましょう? 貴方はユリカさんと面識がある訳ではないそうですし・・・」

 

「僕はアキトさんについていきたいんで、出来たら僕も雇ってもらえませんか?

 お金も生きていくには必要ですから、何処かで働かないといけませんし。」

 

 プロスさんは、ふむ、といいながら眼鏡を中指で押し上げる。

 

「わかりました。 貴方をネルガルで雇わせてもらいましょう。

 ですが、何をおやりになるつもりですか?」

 

 うーん、人類全ての知識を持っているから僕の世界なら何でも出来るだろうけど、ここははっきり言って未来だからな。

 

「じゃあ、アキトさんと同じでコックでいいですか?

 趣味の範囲ですけどお手伝いくらいなら出来ますから。」

 

「ええ、テンカワさん一人増えても

 コックが不足しているのは変わりません。

 ぜひお願いします。

 では、早速ですがお二人のお給料の方は・・・」

 

 こうして僕達は無事ナデシコに乗船した。

 

 そして、アキトさんには運命の再会が待っていた・・・

 運命の神様はよっぽどアキトさんを驚かしたいのかな?

 

 

 

 

 

「こんにちわ、プロスさん。」

 

 あまりに聞き慣れた声が、俺達に艦橋を案内するプロスさんにかかった。

 

「おや、ルリさんどうしてデッキなどにおられるのですか?」

 

 ホシノ ルリ・・・

 俺とユリカが引き取った子供。

 俺の仲間であり、家族であった女の子。

 ・・・過去であの事故に巻き込まれたルリちゃんは、どうなったのだろうか?

 

「!?・・・こちらは何方ですか?」

 

 シンジくんを見て一瞬驚いた顔をしたが

 プロスさんの質問を無視して、ルリちゃんが俺に視線を向ける・・・

 何故そんな懐かしい人を見た、とでも言うみたいな顔をするんだ?

 

「ああ、このお二人は先程このナデシコに就職された・・・」

 

 プロスさんの説明を聞きながら、俺は疑問を感じていた。

 どうしてルリちゃんがここに現れる?

 過去ではブリッジに待機していて、ユリカの到着を待っていたはずではないのか?

 

「こんにちわ・・・アキトさん。」

 

 余りに衝撃的な一言が、ルリちゃんから発せられた。

 

「な!!」

 

「おやルリさん、アキトさんとお知り合いですか?」

 

「ええ、そうなんですよプロスさん。」

 

 馬鹿な!! アキトさん・・・俺と知り合い、だと!!

 ルリちゃんがその呼び方をするのは、家族として一緒に暮らしだしてからのはずだ!!

 ま、まさかラピスや俺と同じく!!

 

 その可能性を俺は忘れていた。

 

「ルリ・・・ちゃん、かい?」

 

 俺も確認の一言を出す。

 

「ええ、そうですよアキトさん。」

 

 微笑を浮かべながら、俺に返事を返すルリちゃん・・・

 これは・・・間違いはなさそうだ。

 

「どうやら本当にお知り合いの様で・・・私は邪魔者みたいですからここから去りますか。

 ルリさん、テンカワさんにナデシコの案内をお願いします?」

 

「はい、解りましたプロスさん。」

 

「イカリさんは、どうしますか? ほんとうならルリさんにお任せしたい所なのですが?」

 

「僕はちょっとアキトさんと話したら自分で見てまわりますので・・・」

 

「そうですか、それでは私はこれで・・・

 ・・・はて、あんなに明るい方でしたかね、ルリさんは?」

 

 そう呟き、頭を捻りつつプロスさんは去って行った・・・

 

「・・・案内、しますかアキトさん?」

 

 悪戯っぽく笑って・・・この頃のルリちゃんには、絶対に出来ない笑顔だ。

 ルリちゃんは俺に話し掛けてきた。

 

「必要無いのは・・・解っているんだろ?

 ・・・驚いたよルリちゃん。

 まさかルリちゃんまで、過去に戻ってるなんて。」

 

 お互いの視線が絡み合う・・・

 もう会う事なんて無いと思っていた、かつての守りたかった人。

 

「私も驚きました・・・気が付くとナデシコAのオペレーター席にいたのですから。」

 

 詳しく話を聞くと。

 過去でもオモイカネの調整の為に、皆より先にナデシコに乗り込んでいたらしい。

 そして一週間前・・・自分が、気が付けば昔のナデシコの、オペレータ席に居る事を知った。

 

 そして俺を待っていたそうだ。

 一縷の望みを抱いて。

 

「ところでそっちの人は誰ですか? 

 IFSがありませんしマシンチャイルドではないとおもいますが・・・」

 

 シンジくんのことをルリちゃんが聞いてくる。

 まあ、確かに気になるわな?

 

「彼は、イカリシンジくん。

 俺達とは違うが、この時代の人間じゃない。」

 

 シンジくんはルリちゃんと向き合って

 

「イカリシンジです、よろしく。」

 

 頭を下げて自己紹介をする。

 

「あ、ホシノルリです。」

 

 ルリちゃんも頭を下げながら自己紹介する。

 

「君もアキトさんと同じで、未来から逆行してきたみたいだからホシノさんって呼んだほうがいいかな?」

 

「ルリ、でかまいません。」

 

「ありがとう、僕もシンジでいいから。」

 

 二人とも大体自己紹介が済んだようだ。

 

「ルリちゃん、シンジくんについては時間がないから後で話すよ。

 それで、・・・きみはもう一度乗るのかいナデシコに?」

 

「ええ、私の大切な思い出の場所・・・

 そして、アキトさんとユリカさん達に出会った場所ですから。

 それにアキトさんも必ず、このナデシコに来ると信じてましたから・・・」

 

 信じる、か・・・

 俺は今度こそルリちゃんの期待に、応えられるのだろうか。

 いや!! 違う!! 応えなければいけないんだ!!

 

「ルリちゃん・・・戦闘が始まる。」

 

 俺はコミニュケの時間を見て、無人兵器の強襲が近い事を思い出した。

 

「そうですね。

 シンジさんはどうするんですか?」

 

「じゃあ、僕も途中までアキトさんについていきますよ。

 エステバリスってロボットも見てみたいですし。」

 

 シンジくんはついて来るのか。

 

「では私もブリッジに帰ります。

 気を付けて下さいね。」

 

「ああ、解ってるよ。」

 

 俺達はルリちゃんと分かれ・・・

 先程ガイが倒したエステバリスに向かって歩き出す。

 

「そういえば、ヤマダが人形を頼むって言ってたな・・・

 まあ、ハッチは簡単に開くから勝手に持ってきな。」

 

「解りました。」

 

 俺は整備員の人の了解を得て、ガイのエステバリスに乗り込む・・・

 シンジくんは傍でエステを観察している。

 

 さて、もうそろそろ時間だな。

 そう思った瞬間・・・艦橋内にエマージェンシーコールが鳴り響いた。

 

 

 ビィー!! ビィー!! ビィー!!

 

 

 来たか。

 

『・・・アキトさん』

 

 ルリちゃんからの通信がかかる

 

「そっちはまだかい、ルリちゃん?」

 

『今、ユリカさんが到着して、ナデシコのマスターキーを使用しました。』

 

「了解・・・俺は今から地上に出る。」

 

『今更、バッタやジョロ如きに、アキトさんが倒されるとは思いませんが・・・

 気を付けて下さいね。』

 

「頑張って下さいね、アキトサン。」

 

 シンジくんも応援してくれている。

 

「ああ、解ってるよ・・・先は長いからな。」

 

 そう言って俺はルリちゃんとの通信も切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

第一話その3に続く