< 時の流れに福音を伝えし者 >

 

 

 

 

 

第二話. その一 『「緑の地球」はまかせとけ・・・全ての業は俺が背負う!!』

一人で背負わないで下さい
僕も手伝いますから

 

 

 

 

 

 俺達がデッキに帰還すると・・・ユリカとプロスさんが待っていた。

 

「アキト!!

 良かった無事だったのね!!」

 

 顔中に微笑みを浮かべて、俺の無事を喜んでくれている。

 やはり変わらないよな・・・その微笑んだ顔は。

 

「ああ、何とか生き延びたよ。」

 

 俺も軽く答えを返す・・・

 正直言って、余りユリカの笑顔を見たく無かった。

 

 自分の中の箍が外れて、抱き締めてしまいそうになるから・・・

 

「どうしたのアキト?

 顔色がちょっと悪いよ。」

 

 そんな俺を、ユリカが覗き込む様にして見る。

 その大きな瞳は、あの親愛の情を・・・俺に告げていた。

 

「生まれて初めての戦闘だったんだぞ。

 安心したら気が抜けて、気分が悪くなったんだよ。」

 

「大丈夫ですかな、テンカワさん。

 お疲れのところ申し訳ないのですが、エステバリスを無断で使用したことなのですが・・・」

 

「すみません。 ですが、あのままだったらナデシコが潰されてたかもしれなかったので。」

 

「まあ、それもそうですな。 

 われわれは軍人ではありませんので、特に処罰はありません。

 それと、今は動けるパイロットがいないので臨時ということでお願いしてもよろしいでしょうか?

 特別手当も出しますので・・・」

 

 俺は最初からそのつもりですよ。

 

「かまいませんよ。 俺も何もせず死にたくありませんから。」

 

「そうですか、ありがとうございます。

 

 ・・・ところでイカリさん、こちらのロボットですが

 これはいったいどうしたのですかな?」

 

 プロスさんは、やはりシンジくんのエヴァについて聞いてきた。

 

 エステバリスより二回り大きいエヴァ

 そんなものを子供が持っているのは変だからな。

 

「このロボットはエヴァンゲリオンといいます。 正確にはロボットではないのですが・・・」

 

「ロボットではない・・・と言うと?」

 

「ええ、それは「おい! ちょっとあんた!!」

 

 シンジくんが呼ばれた方を向く。

 どうやらウリバタケさんが呼んだらしい。

 

「なんですか・・・、って何やってるんですか!!」

 

 シンジくんはウリバタケさんを怒っている。

 

 ウリバタケさんの方を見てみると

 シンジくんのエヴァが途中まで分解されていた。

 

「勝手にエヴァを分解しないで下さいよ!」

 

 さすがウリバタケさん、と言ったところか・・・

 もう、エヴァを分解して調べている。

 

「ああ、つい手がでちまってな。 整備士魂が放っておけなかったんよ。

 それよりこいつはどうなってるんだ。

 装甲やスラスター、コクピットはいいんだが、中身は生体で出来てるぞ!!」

 

 そういえばエヴァは人造人間って言ってたな。

 つまりは生きているってことだよな。

 

「ええ、それがロボットとは違うところなんです。

 元は生体に装甲を付けたものだったのですが、

 火力の問題があったので僕が機械を植え込んで

 強化した半機械半生命体なんですよ。」

 

 プロスさんもなるほどと頷いている。

 

「それでエヴァンゲリオンでしたかな?

 イカリさんは何処でこれを手に入れたのですかな?

 それと強化したとおっしゃりましたが、そちらの知識が御有りなのでしょうか?」

 

 プロスさんが再びシンジくんに質問する。

 

「エヴァのほうは前にいた組織で乗っていたんです。

 知識のほうは独学で身につけました。」

 

「なるほど、パイロットとしての腕前のほうは?」

 

「訓練なら一年ほど、実戦は十数回程度です。」

 

「そうですか。 イカリさん、もしよろしかったらナデシコの戦闘時にこれに乗って闘ってもらえませんか?

 このまま置いておいても邪魔になりますので。

 お給料はコックに上乗せさせていただきますので。」

 

 やはりプロスさん、シンジくんをスカウトしてきたか。

 しかも遠回しにこのままならエヴァ置いておかないと言っているような・・・

 

「いいですよ。 ただ整備道具を貸してもらえませんか?

 エヴァの整備は自分でやりたいですから。」

 

「おや、どうしてですかな? 

 ナデシコには一流の整備士がいるのですが・・・」

 

「おい、あんた! 聞き捨てならねえな!

 俺達の腕を信用できねえのか!!」

 

 ウリバタケさんは気に触ったのか、指差して怒鳴っている。

 

「機械部分はかまわないんですよ。 ですが、生体部分はどうするんですか?

 そういう知識はないでしょう?

 それにエヴァは僕にとって相棒なんです。

 生きてるんですから、あまり他人に弄られたくないのは当然でしょう。」

 

 そういって、ちらっとウリバタケさんの方を見る。

 もう勝手に弄っちゃったからなあ。

 

 ウリバタケさん、さすがにマズそうな顔をしている。

 

「そういうことでしたら、かまいませんよ。 エヴァについてはイカリさんが一番お分かりでしょうし。」

 

「ありがとうございます。 それといくつか改良したいところがあるんですが・・・」

 

「それでしたらウリバタケさんにおっしゃって下さい。

 そういうことには彼に任せてありますから。」

 

 プロスさんがそう言うと、ウリバタケさんが腕を伸ばしてシンジくんに握手を求めた。

 

「さっきは悪かったな。 あれがそんなに大事なもんだって知らなくてよ。

 自己紹介がまだだったが俺がウリバタケセイヤだ。

 あの・・・エヴァだっけか、そいつにはもう触らねえよ。

 だが機械部品なら俺が専門だから相談してくれ。」

 

「ええ、よろしくお願いします。」

 

 シンジくんも腕を出して、笑みを浮かべながら握手に応える。

 

「あ・・・ああ、よろしくな。」

 

 ウリバタケさんはなんだか照れくさそうにそっぽを向く。

 

「お話がまとまったところで、よろしいでしょうか?

 私はブリッチへ向かいますがお二人はどうなさいますか?」

 

 そういえばこの後、ムネタケ副提督の叛乱があったな。

 前は食堂にいたし、歴史を出来るだけ変えないようにする為にもそこにいるか。

 

「俺は食堂に行きますよ。 職場の挨拶をしておきたいですし。

 シンジくんはどうする?」

 

「僕はもう少しウリバタケさんと話してから行きますよ。

 改良について相談したいですから。」

 

「お、さっそくか。 遠慮せずなんでも聞いてくれい。」

 

「それじゃアキトさん、また後で・・・」

 

 そういって、ウリバタケさんとシンジくんは何やら相談を始めた。

 

「それでは私はこれで・・・」

 

「アキト! また後でお話しようね!!」

 

 そう言えば話に夢中になってて、ユリカがいること忘れてた。

 プロスさんも今、気がついたのか一瞬驚いた顔をしたが、すぐにずれた眼鏡を上げてユリカと共にブリッチに向かった。

 

 そして、俺も挨拶の為に食堂に向かった。

 

 

 

 

 

 ピッ!!

 

 

「アキトさん・・・」

 

「ルリちゃん、かい?」

 

 突然コミュニケの画面が現れルリちゃんが現れる。

 

「はい、そうです・・・お疲れ様でした。」

 

「止してくれよ・・・あんな戦いは、今の俺にとって戦闘の内に入らないさ。」

 

 そして寂しげに笑う俺を見て・・・ルリちゃんも顔を少し顰めた。

 

「ユリカさんにも・・・事情を話されないのですね。」

 

「・・・色々考えたんだ、これでもね。」

 

 俺は視線をルリちゃんの正面に合わせて、自分の考えを言い切る。

 

「ユリカには、このままの関係で接するつもりだ。

 そうすれば過去への干渉を、少しは防げる・・・

 余りに大きな干渉をしてしまって、予測の出来ない未来を招きたく無い。」

 

 下手に干渉をして、肝心な所で失敗をしたくは無い。

 それこそ愚かな事だ。

 

「・・・アキトさんがそう言われるのなら、私は何も言いません。

 ですが・・・アキトさんが死ぬ事が解ってる人を前にして、助けずにいられますか?」

 

 嘘は許さない・・・そういった目で俺を見つめるルリちゃん。

 

 成長したね・・・本当に。

 

「・・・ゴメン、正直言ってその事には自信が無い。

 ガイ、白鳥九十九、サツキミドリの人達、火星の生き残りの人達・・・

 俺は・・・理解はしていても、実行する事は出来ないかもしれない。」

 

 彼等を見捨てる事は出来ない。

 全てが、未来の悲劇へと続くものだから。

 

「それでいいんですよ、アキトさんは。

 私はそんなアキトさんだからこそ、支えてあげたいと思うんですから。」

 

「有難うルリちゃん・・・心強いよ、本当に。」

 

 お互いに本心からの笑顔を交わす・・・

 

「ところでアキトさん。 シンジさんは何者なんですか?

 あの得体の知れないロボットとかも・・・」

 

「そう言えば、まだ話してなかったね。 シンジくんは・・・」

 

 俺はルリちゃんに、シンジくんの事を教えれるだけ教えた。

 

 

 シンジくんのエヴァのこと

 戦った使徒のこと

 シンジくんを騙していた組織とその上の組織のこと

 サードインパクトのこと

 

 そしてシンジくんの力のこと

 

 

 何も知らずに戦かわされ、権力者によって人形のように扱われた。

 

 こんなくだらないところだけ俺とシンジくんは少し似ているような気もした。

 

「・・・そうですか。 それで私達に協力してくれるんですか。」

 

 ルリちゃんは、シンジくんの話を聞いて顔が蒼くなっていた。

 

 シンジくんは直接見たわけではないらしいが、ネルフとゼーレと言うところは

 【火星の後継者】の研究所並みに非人道的な場所らしいからな。

 

 何処の世界にもこういう奴等はいるのかと、俺は改めて思った。

 

「ああ、シンジくんも放っておけないと言ってくれたよ。」

 

「私もアキトさんだけでは放っておけませんし。」

 

「言ってくれるね・・・」

 

 ふふっ、と笑うルリちゃん。

 この頃のルリちゃんはこんな風に笑ったりしなかったから新鮮に感じる。

 

「そうだ!! 早速だけど相談があるんだ。」

 

「何でしょう?」

 

「実は・・・」

 

 俺はラピスも過去に戻っている事を、ルリちゃんに説明し・・・

 ラピスとルリちゃんの二人で、ある計画を実行する事を頼んだ。

 

「・・・と、言う事なんだけど。」

 

「・・・結構悪知恵が働くんですね・・・アキトさんって。」

 

 例の冷めた目で俺を一瞬だけ睨み・・・

 

「勿論、その作戦には参加させて貰います。

 ・・・それにラピスには、一人補佐を付けましょう。」

 

 手の込んだ悪戯を見せる時の表情で、俺に話かけるルリちゃん。

 

「補佐? しかし、俺達の話を信じてくれて、しかも信用の置ける人物など・・・」

 

「いますよ・・・ハーリー君が。」

 

 何!!

 

 この時の俺の表情は正に、驚愕!! を表していただろう。

 

「まさか、マキビ ハリ君も・・・」

 

「ええ、覚醒してからすぐに私に連絡をしてきました。」

 

 悪戯が成功して嬉しいのか・・・その時の事を微笑ながらルリちゃんが俺に話す。

 

 ・・・過去のこの時点では、お互い全然面識が無いはずだろうに。

 羨ましい程に真っ直ぐだな・・・彼は。

 

「・・・出来れば直ぐに連絡を取って、ハーリー君にラピスの補佐を頼んでくれないか?」

 

「解りました・・・それではまたブリッジで。」

 

「ああ、ブリッジで会おう。」

 

 

 ピッ!!

 

 

 その言葉を最後に、ルリちゃんとの通信は途絶えた。

 そして俺は、ブリッジに向けて歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

その二に続く