< 時の流れに福音を伝えし者 >

 

 

 

 

 

第七話.『いつかお前が「歌う詩」・・・俺にその資格が、あるのか?』

自分を許せる日がきっと来ますよ。
いつか・・・

 

 

 

 

 

 アキトさんは戻ってくる際、多少問題が起こったが無事ナデシコ合流を果たし・・・

 敵を殲滅しつつナデシコは、敵の包囲網から逃げ出した。

 が、まだ危機を脱した訳じゃあない。

 火星にいる以上は木星の勢力圏内なのだから・・・

 

 

 今、ブリッジでは今後の作戦を全員で考えている。

 アキトさんの話ではこれから、イネスさんの『説明』が始まるそうだ。

 イネスさんはなんだか凄く嬉しそうに見える。

 リツコさんと気が合うかもしれない・・・

 

 どうやら変な放送番組を行う予定だったらしいけど

 ルリちゃんがサボタージュして行われなかった。

 

「・・・イネスさん不貞腐れてたよ、ルリちゃん。」

 

「じゃあ、アキトさんがお兄さん役をしてあげればいいじゃないですか。

 その方がユリカさんも喜ばれますよ。」

 

「・・・それだけは、勘弁してくれ。」

 

 アキトさんはルリちゃんに頭を下げて謝った。

 どんな番組だったんだろう?

 

 

 

 

 

「つまり、このナデシコに搭載されている相転移エンジン・・・

 それとディストーション・フィールドの開発者の一人が、私よ。

 だからこそ解るの、今のこのナデシコ一隻の実力では火星を解放する事は・・・

 いえ、それどころかこの火星から逃げ出す事さえ無理ね。」

 

「そんな事はありません!!

 そんな事・・・」

 

 イネスさんの睨まれて、言葉を小さくするユリカさん

 だけど実際、ナデシコのグラビティブラストは敵のフィールドを突破できず

 敵の放った一斉攻撃で、逆にナデシコがかなりのダメージを受けていた。

 自力で大気圏外に出れない程に・・・

 

 

「先の戦闘で、木星蜥蜴もディストーション・フィールドを張れる事が解ったわよね?

 これでナデシコの最大の攻撃方法であるグラビティ・ブラストは、一撃必殺では無くなったわ。

 さらに今現在でも、敵はチューリップから増援を呼び続けている・・・

 さて、この現状のどこをどうしたら勝てるのかしらね?」

 

 きついですね、イネスさん。

 ユリカさんすっかり凹んじゃってます。

 

「では、この艦長の能力に今後を期待するとして・・・」

 

「すると、して・・・」 (ブリッジ全員)

 

「流石にお腹が空いたわ・・・そこの君。

 アキト君、って名前だったっけ?

 食堂にでも連れて行ってくれないかな?」

 

 またアキトさんですか・・・

 女性を引き付けるフェロモンでも出してるんでしょうか?

 他の人達もアキトさんに冷たい目線を送っています。

 

「あの、出来ればプロスさんとかジュンとか・・・ゴートさんもいますし、シンジくんだって・・・」

 

 僕を巻き込まないで下さいよ・・・

 

「私はアキト君がいいな・・・何だか彼とは、初めて会った気がしないのよね。」

 

「そこまで言われるのでしたら・・・俺でよければ。」

 

 そんな簡単に了解するもんだから、ルリちゃんに睨まれるんですよ。

 

「そんな他人行儀な事言わなくても

 私を抱かかえて敵陣突破をした仲じゃない。」

 

 

 ピキッ・・・

 

 

 アキトさんのまわりの空間が凍ったような音が聞こえた。

 

「じゃあ、私もアキトさんに抱き付いて一緒に敵陣突破をしましたから・・・

 もうアキトさんと、他人行儀な事をする必要は無いですね!!」

 

 

 パキィィィィィィィィン!!!!

 

 

 まわりの凍った空間が砕けた音が聞こえた。

 アキトさんの顔が鬼気迫るような表情になってる。

 ルリちゃんの視線も一層凄まじくなって・・・

 

「さ、さあイネスさん!! 食堂はこちらですよ!!」

 

「え、ええ、じゃあちょっと食事に行ってきます。」

 

 アキトさんとイネスさんは逃げる様にブリッジを退散した。

 後には・・・

 

「アキト・・・ふふふふ、逃げられると思ってるの?」

 

「アキトさん・・・そう言えば前回の釈明がまだでしたね。」

 

 

「「ふふふふふふふふふふ。」」

 

 

「ミスター・・・こんな事をしていていいのか、今のナデシコは?」

 

「ゴートさん、全てはテンカワさんの責任です。

 彼に責任を取って貰いましょう。」

 

 この後、アキトさんどうするつもりなんですか?

 ・・・結局、アキトさんは後日この時逃げ出した事を激しく後悔する。

 無様ですね・・・アキトさん

 

 

 

 

 

「不思議だな・・・アキト君を見てると何故か落ち着くのよ。」

 

「そうですか?」

 

 俺の顔を見ながらイネスさんがそう呟く・・・

 そこまで・・・アイちゃんの記憶の中での俺は、ヒーローだったのか?

 結局、俺はアイちゃんを助けてあげる事が出来なかったのに・・・

 

「それにしても、どっちが本業なのアキト君は?」

 

「・・・どちらかと言うと、俺はコックが好きなんですけど、ね!!」

 

 フライパンの中のオムレツを素早く返しながら、俺は返事をする。

 

 

 ジュワァァァァ!!

 

 

 フライパンの中で、オムレツが焼ける音が響く・・・

 後は、ちょっと焦げ目を付けて完成だな。

 

 しかし、先程のイネスさんの質問。

 俺の本職・・・

 聞かれればコックと答えるだろう。

 しかし、それはあくまで俺の希望・・・であって。

 現実は、決して俺の思い通りにはならないと、知っている・・・

 それでも無くした夢を語る位の事は・・・許されると、思いたい。

 

 トン!!

 

 イネスさんの目の前に、焼き上がったばかりのオムレツを出す。

 

「はい、お待ちどうさま。」

 

「へ〜、やっぱり良い腕してるね、テンカワ。」

 

「ホウメイさんに褒められる程の、腕じゃ無いですよ。」

 

 実は厨房は今しがた、昼食の時間が終ったばかりだった・・・

 その為、休憩しているホウメイさんの代わりに、俺がイネスさんの料理をしたのだ。

 

「テンカワ? もしかしてテンカワ夫妻のお子さん!!」

 

「・・・ええ、そうですよ。

 俺の両親を知ってるんですか?」

 

 何が言いたいのか・・・解ってはいるけどな。

 そして、イネスさんが冷たく目を輝かせながら俺に言い放つ。

 

「それでよくこの船に・・・ネルガルの船に乗る気になったわね?」

 

「・・・何が言いたいんですか?

 俺が・・・ナデシコに乗ってるのが、どうして可笑しいですか?」

 

 当り障りの無い会話で場を誤魔化す・・・

 俺はまだ真相を知らない事になっているからな。

 

「知りたい?」

 

 俺に近づいてくるイネスさん・・・その時。

 

 

 ピッ!!

 

 

『二人共、近づき過ぎ!! プンプン!!』

 

 やっぱり現れたなユリカ・・・だが、今回は待ちどうしかったぞ。

 

『・・・何を、されてたんですかアキトさん。』

 

 ・・・見てたんだね、ルリちゃん。

 

『そんなことだから変な組織がナデシコ内に設立されるんですよ。』

 

 そんなこと言われたって・・・俺が何したって言うんだ!

 

「そ、それより何かあったのかユリカ、ルリちゃん、シンジくん。」

 

 俺は話を強引に進める事にした。

 

『そうそう、アキトとイネスさんは直ぐにブリッジに来て下さい!!』

 

「はいはい・・・じゃあ行きましょうか、アキト君。」

 

 そう言って立ち上がる、イネスさん。

 しかし視線は名残惜しそうに、皿の上のオムレツを見ていた。

 

 ふむ、時間的に見てクロッカスを発見したな。

 俺もイネスさんの後を追って食堂を出る・・・その時、後ろからルリちゃんとシンジくんの声が・・・

 

『近頃、見境無し・・・ですねアキトさん。』

 

『僕、もうちょっとアキトさんは誠実な人だと思ってました。』

 

 俺の胸を貫いた。

 

 ・・・だから、違うってルリちゃん、シンジくん。

 信じてよ、頼むから・・・

 

『『信じられません。』』

 

 

 

 

 

「センサーに反応・・・間違いありません、護衛艦クロッカスです。」

 

「そんな、信じられない!!

 クロッカスは、地球でチューリップに吸い込まれた筈なのに・・・」

 

 ブリッジに入ったとたん・・・

 ユリカとルリちゃんの声が聞こえてきた。

 

「そう!! そこで私の仮説が成り立つ訳なのよ。

 木星蜥蜴が使うチューリップ・・・あれは一種のワームホールだと、私は考えているわ。」

 

 ・・・そんな突然に、会話に割り込むなんて。

 科学者って、自分の話を聞かせる時って周りを見ないよな・・・

 

「そんな・・・チューリップが一種のワープ装置だと、言うんですか?」

 

「そうよ・・・そう考えれば、木星蜥蜴が何故あれ程の軍隊を、瞬時に動かせるか説明がつくわ。」

 

 ユリカとイネスさんの討論が続いている・・・

 俺は全てを知っているから、今回は高見の見物だけどな。

 

「さて、アキト君・・・貴方はどうしてこの提督の下で戦っているの?」

 

 突然、イネスさんが俺に話かけてきた。

 ユリカとの討論はもういいのか?

 

「この提督が火星戦役で、ユートピア・コロニーにした事を・・・知っているの?」

 

「ええ、知ってますよ。」

 

 俺の感情を込もっていない返事を聞いて、ブリッジの全員が固まる。

 そうか、このもう一人の俺。

 裏の俺を知っているか・・・もしくは見た事があるのは・・・

 ルリちゃんとメグミちゃん・・・それとイネスさんだけだったな。

 

「ですが・・・それも過ぎた事です。

 時間は過去には戻りません・・・今は、それどころじゃないですし。

 何よりフクベ提督が、一番惨めだったと思いますから。」

 

 偽りの英雄を演じてきた提督・・・

 いや、軍隊に英雄に祭り上げられた提督・・・

 その心の内は、俺には計り知れ無い・・・

 だが、単純に割り切る事など出来ないだろう。

 自分の命令で罪の無い、本来なら守るべき者達を皆殺しにしたのだから。

 

 俺の冷めた声と顔を見詰めていたイネスさんは・・・

 

「そう・・・見かけより大人なのね、そんな考え方が出来るなんて。

 ・・・つくづく興味深いわね、アキト君は。」

 

 

 ビキッッッッ!!!

 

 

 再び俺はあの音を聞いた・・・

 頼むから、勘弁してくれ。

 

 しかし、今回はどちらかと言うと場を和ます為の冗談だったらしい・・・

 そのまま、イネスさんとプロスさんは今後の方針を話し出した。

 

 

 

 俺はその後の会議を横目に、ルリちゃんに近づく・・・

 

「ルリちゃん・・・やっぱりクロッカスに生存反応は無い?」

 

「ええ、猫の子一匹も反応は有りません。」

 

 ・・・まだ、ご機嫌斜めの様だ。

 後でラーメンかチキンライスでも作って、ご機嫌取りをしておくか。

 

「・・・今回の事は映像添付のメールで、ラピスに送信しましたから。」

 

 

 ピキッ!!

 

 

 今度は俺自身が凍り付いた・・・

 

「ル、ルリちゃん・・・」

 

「一応私はこれで許して上げます。

 後はラピスの機嫌がどうなっても、私は知りませんから。」

 

「最近本当に無様ですね。」

 

 シンジくんも最近そればっかだね・・・

 

 後ろではフクベ提督の提案により、エステバリスで先行偵察が行われる事が決定していた。

 どうやら過去と同じく、ネルガルの研究施設に向かうらしい。

 ・・・もっとも俺は、いかにしてラピスの機嫌を直すか?

 と、言う事に考えを集中していた為、その決定には何も意見を言わなかったが。

 

 先行偵察のパイロットはリョーコちゃん、ヒカルちゃん、それと俺。

 イズミさんとシンジくんは万が一の場合を考えて、ナデシコに残った。

 ん?・・・誰かの存在を忘れている様な気が?

 

「ところガイさん、近頃見かけませんね?」

 

「「あ!?」」

 

 俺とルリちゃんはシンジくんの言ったことを聞かなかったことにした。

 

 

 

 

 

 先行偵察中・・・俺は先頭をきって氷の大地を走っていた。

 リョーコちゃんと、ヒカルちゃんは、俺の後ろで会話を楽しんでいた。

 

「だから砲戦フレームなんて嫌いなんだ。

 重くって仕方がないぜ!!」

 

「ぼやかない、ぼやかない!!」

 

 緊張感の無い会話だな・・・

 まあ、索敵レーダーに反応が無いのだから・・・!!

 

「二人とも止まれ!!」

 

 俺は二人に急停止を指示する。

 

「ど、どうしたんだよテンカワ?」

 

「敵でも出たの? 索敵レーダーに反応は無いけど?」

 

 いや、確かに無機質な殺気を感じた。

 無人兵器特有の殺気だ。

 俺は五感を研ぎ澄まし・・・辺りを探る。

 

 ・・・いた!!

 

「リョーコちゃん、右の足元だ!!」

 

「何!!」

 

 

 ドゴォォォン!!

 

 

 氷の地面の下から、リョーコちゃんに奇襲を仕掛ける無人兵器!!

 

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

「リョーコ!!」

 

 砲戦フレームの為に動きが鈍いリョーコちゃんのエステバリスは、敵の攻撃を受け地面に倒れる!!

 そして倒れたエステバリスのコクピットに、敵が張り付き・・・

 

 

 キュイィィィィィィインン・・・

 

 

 ドリルを回転させて止めを刺そうとする!!

 

「テンカワ〜!! 助けて・・・」

 

「了解!!」

 

 俺はエステバリスで、豪快な回し蹴りを繰り出す!!

 

 

 ガゴッ!!

 

 

 吹き飛ばされ・・・地面を削って止まる無人兵器。

 

「ギ?」

 

「ここだ・・・」

 

 俺の姿を探していたらしいが・・・

 俺は既に敵のバックを取っていた。

 そして問答無用の踵落しを、無人兵器の頭部に叩き込む!!

 

 

 ドコッ!!

 

 

 鈍い音と共に、無人兵器は氷の大地にめり込み・・・

 その動きを止めた。

 

「・・・助かったぜテンカワ。」

 

「どういたしまして。」

 

「ふ〜ん、アキト君だったらリョーコの白馬の王子様も勤まるね。」

 

「ば、ばっきゃろ〜!! 急に何言い出すんだよヒカル!!」

 

「だって、リョーコは自分より強い男としか付き合わない、って言ってるじゃない。」

 

「だからって!! テンカワとは!!」

 

「照れない、照れない・・・」

 

 この会話を聞きつつ俺は・・・

 ルリちゃん、また会話のトレース・・・してないよな?

 と、信じてもいない神に祈った。

 

・・・甘いですアキトさん。

『・・・ほんと凝りない人ですね。』

 

 

 

 

 

「研究所の周りに、チューリップが五個、か。

 どうします艦長?」

 

「私は・・・これ以上クルーの皆を危険にさらすのは、嫌です。」

 

「でも、皆さんは我が社の社員でもありますから・・・」

 

「俺達にあそこを攻めろ、って言うのか?」

 

 僕達の目の前の地図には・・・研究所を囲む様に、5個のチューリップが落ちていた。

 ・・・そして、その研究所の攻略について今は会議中だ。

 ユリカさんとプロスさん、それとリョーコさんが激しい議論をしている。

 エヴァをフル活用すれば破壊できないことはないけど、切り札は出来るだけ残しておきたい。

 ここは黙って見ていたほうがいいかな。

 

「よし、アレを使おう。」

 

「アレ?」 (ブリッジ全員)

 

 フクベ提督が提案した作戦は護衛艦クロッカスを囮にする作戦だ。

 ・・・やはりアキトさんの過去の話とピッタリ一致した。

 

 

 

 

「アキトさん。」

 

「仕方が無いんだよ、ルリちゃん・・・

 今の俺達には、この火星から脱出する手段さえ残っていないんだから。」

 

 アキトさんの返事には力を感じなかった。

 なんでもフクベ提督はクロッカスを使ってナデシコを火星から逃がす盾になる気らしい。

 過去もフクベ提督が火星に残ることになったが、その後も何とか生きていたらしい。

 だけど生き残るとわかっていても、置き去りにするのはあまりいい気はしない

 

 そしてルリちゃんは手に持っていた物をアキトさんに渡した。

 

「これ・・・先程完成しました。」

 

「ジャンプ・フィールド発生装置、出来たのか・・・

 でも、ナデシコを飛ばす程のフィールドを張るのは無理だ。」

 

 確かにこのサイズではこの巨大なナデシコ全体を囲むほどのフィールドを張るのはとても無理だろう。

 個人用の発生装置だしアキトさんくらいしか使えないだろう。

 一応ユリカとイネスさんはジャンパーらしいけど今は教えられないらしい。

 

 あと可能性があるのは僕だけだ。

 遺跡に触れて体に入り込んだナノマシンのおかげでジャンパーになったはず・・・

 だけど、アキトさんが言うにはジャンパーにはA級とB級あるらしいのだが

 僕みたいな例は初めてらしくどちらのジャンパーなのか今はわからないのだ。

 

 ジャンプに耐えられる体質になっているのは確かなはずだから

 アキトさんがナビゲートすれば一緒にジャンプできるそうだ。

 

「今後の展開には・・・有利に働く、か。」

 

 アキトさんは仕方ないか・・・と、言った感じでいう。

 アキトさんはあまりボソンジャンプというものは好きじゃないはずだ。

 この戦争の実体はボソンジャンプの演算ユニット・・・

 遺跡の主導権争いなのだから・・・

 その上、アキトさんはそれらの為に非人道的な人体実験をされてきたのだから。

 

「済みません・・・ラピスからのデータ転送を受けてから、オモイカネと一緒に頑張ったのですが。」

 

「いや・・・ルリちゃんは、十分頑張ってくれてるよ。」

 

「それで、アキトさんはそれを使ってまず何をするつもりですか?」

 

「今のところ重要なことはないな。

 まあ・・・動作テストを兼ねて、ラピスに会いに行ってくるよ。」

 

「解りました、作戦は3時間後に決行ですからね、アキトさん。」

 

「ああ、解ってるよ・・・それじゃあ。」

 

「行ってらっしゃい、アキトさん。」

 

 そして、アキトさんはジャンプ・フィールドを展開し・・・

 

 

 ヴィィィィィンンンン・・・

 

 

「ジャンプ」

 

 光の粒子を残して消えた。

 

 

「オモイカネ、今の出来事の映像と記録を、全部消去して。」

 

『OK、ルリ!!』

 

「でも、アキトさん。 さっきルリちゃんが言ったこと忘れてるのかな?」

 

「きっと忘れてるんでしょうね。

 さて、アキトさんはラピスにどんな言い訳をするんでしょうか?

 その場で聞きたかったですね。」

 

「下手な言い訳が関の山だろうね。

 アキトさん、嘘が苦手だから。」

 

「それもアキトさんのいいところでもあり欠点でもあるんですけどね。」

 

「特に女性に対して・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

(ラピス・・・)

 

(アキト!! ・・・さっきルリからメールが届いたんだけど。)

 

(うっ!!)

 

(・・・アキト、ナデシコで一体何をしてるの?)

 

(・・・戦争だよ。

 人間のエゴとエゴのぶつかり合いさ。)

 

(シリアスで誤魔化さないで。)

 

「・・・御免なさい。」

 

(謝っても許して・・・・え!!)

 

 俺は研究所内にある、ラピスの個室に出現した。

 

「久しぶりだね、ラピス。」

 

「アキト・・・アキトだ!!」

 

 俺に体当たりする様な勢いで抱き付く、ラピス・・・

 ラピスもこの世界ではまだ6才だ。

 しかし、この年齢の時からたった一人で、研究所の一室に閉じ込めるとは!!

 俺は改めて、ネルガルの非情な一面を見せ付けられた。

 

「ねえアキト・・・アキトは火星にいるんじゃ無かったの?」

 

「ああ、ジャンプ・フィールド発生装置が完成したんだ。

 これからは、何時でもラピスに会えるよ。」

 

 俺は微笑みながらラピスに話しかける。

 

「本当!!」

 

「本当さ・・・でも今日はもう時間が無いから、ナデシコに帰るが。

 あ!! 」

 

 俺は一つの事実を思い付いた。

 

「どうしたのアキト?」

 

「実は・・・これから8ヶ月の間、ナデシコは音信不通になる。」

 

「・・・火星でのジャンプのせいだね。」

 

「そうだ・・・済まないが我慢してくれラピス。」

 

 ちょっと考える素振りをしたラピスだが・・・

 

「仕方ないよね・・・私はまだジャンパー体質になってないし。

 例の計画も今が大切な所だから。」

 

 残念そうな顔をしながらも・・・健気にそう答えるラピス。

 俺は結局、ラピスにもルリちゃんにも迷惑ばかりかけている・・・

 

「悪いな、ラピス・・・」

 

「アキトが悪いんじゃない・・・

 それはそれで納得するけど・・・

 この映像の釈明はして帰ってね。」

 

 ラピスの合図を受けて、ある映像が壁に設置してあるモニターに映る。

 

「・・・ルリちゃん、何時の間にこんな映像を。」

 

 そこには・・・例の格納庫の床が直角になった時、俺に抱き付いているパイロット三人娘の内二人。

 そしてメグミちゃんを抱っこしながら、イネスさんを右手で抱かかえている俺が映っていた。

 

「で? 釈明はアキト?」

 

「・・・ゴメンナサイ。」

 

 ・・・何故俺は謝っているんだろう?

 

 そして、それから一時間後に俺はラピスから許しを得て・・・

 ナデシコへと帰って行った。

 

「つ、疲れた・・・」

 

 

 

 

 

 今、俺とフクベ提督とイネスさんは、護衛艦クロッカスに乗り込んでいた。

 ・・・よく、作戦開始時間に間に合ったな俺。

 

 実は帰って来て直ぐに、ルリちゃんから怒られたのだった・・・

 自分の部屋にジャンプした瞬間、ルリちゃんから通信が入った。

 

 

 ピッ!!

 

 

『・・・30分の遅刻です、アキトさん。』

 

「・・・ゴメンナサイ。」

 

 何だか・・・謝ってばかりだな俺。

 

『適当に理由は付けておきましたから・・・

 直ぐに格納庫に向って下さい。』

 

「了解。」

 

 と、そんな事があったのだった。

 

 

 

 

 

 クロッカスの凍った通路を、ブリッジに向かって進む俺達・・・

 確か・・・ここら辺りで・・・いた!!

 

「危ない提督!!」

 

 

 ガンッガンッ!!

 

 

 俺の放った二発の銃弾に、頭部と中枢神経を打ち抜かれ沈黙するバッタ。

 

「・・・有難う、良い腕だな。」

 

「褒めても何も出ませんよ。」

 

 俺は軽口を返しながら先を急いだ。

 

「・・・君は、本当に私を恨んでいないのかね?」

 

「提督を恨んでユートピア・コロニーの人が生き返るなら、恨みますよ。

 でも、今はそんな非現実的な事を言ってる場合じゃないでしょう。」

 

「強いな・・・君は。

 私はそれ程強くなれんよ。」

 

 ・・・俺が強い訳じゃ無い。

 俺を支えてくれている皆の期待に応えるため・・・強さを装ってるだけだ。

 

 イネスさんは始終無言のままで、俺達の後ろを付いて来ていた。

 そして俺達はブリッジに辿り付いた。

 

「・・・君ならナデシコを託せる。

 ここで、引き返してくれないか?」

 

「やはり・・・囮になるつもりなのね。」

 

 イネスさんは気付いていたか・・・

 頭がいい人だからな。

 

「イネスさん・・・行きましょう。

 提督の決断を無駄には出来ない。」

 

「それでいいのアキト君!!

 この提督をそこまで信用出来るの?」

 

 俺は・・・暗い瞳でイネスさんを見詰めて答えた。

 

「信用・・・出来ますよ。

 俺も提督も同じ傷を、心に持つ身の上ですから。」

 

「・・・それって。」

 

 俺は無言で提督に敬礼をし・・・ブリッジを出る。

 その俺に続いて、イネスさんもブリッジを出る。

 

「君の過去に何があったのかは聞かん。

 だが、君はまだ若い!!

 未来をその手に掴む権利は・・・君にもあるんだぞアキト君!!」

 

 俺の背中にフクベ提督の最後の言葉がかけられた・・・

 俺の未来・・・か・・・

 

 

 

 

 

 ゴォォォォォォォ!!

 

 

「クロッカス、浮上します。

 ・・・クロッカスより通信。」

 

『艦長、前方のチューリップに入れ。』

 

「提督!! そんな、どうしてですか?」

 

『ナデシコのディストーション・フィールドがあれば、チューリップに進入しても耐えられる筈だ。』

 

 

ズガァァァァァンンン!!

 

 

「艦長、木星蜥蜴の攻撃です。」

 

「フィールドは持つの、ルリちゃん?」

 

「相転移エンジンが完璧ではありません。

 このままでは・・・フィールドを破られるのは時間の問題です。」

 

「・・・ミナトさん、チューリップへの進入角を大急ぎで。」

 

「艦長、それは認められませんな。

 あなたはネルガル重工の利益に反しないよう、最大限の努力をするという契約に違反・・・」

 

「御自分の選んだ提督が、信じられないんですか!!」

 

「・・・その通りだ、ユリカ。」

 

 俺がブリッジに帰ってみれば・・・修羅場とはな。

 

「アキト・・・」

 

「提督は自分が囮になる事を俺に話してくれた。

 ナデシコが助かる道は、最早一つだけだ。」

 

 俺はユリカの視線を真っ直ぐに見詰め・・・ユリカの意見に賛同を示した。

 

「しかし、チューリップに入るまでに攻撃を受ければ、ナデシコが持ちませんよ?」

 

 プロスさんが食い下がってくるが・・・

 俺は黙ってクロッカスを映しているモニターを、目で追った・・・

 

「クロッカス反転・・・敵に攻撃を仕掛けています。」

 

 ルリちゃんの報告する声も辛そうに聞こえる。

 

「提督・・・何が貴方をそこまで・・・」

 

「プロスさん、ここは提督の行動に敬意を示して・・・最後の希望に縋りましょう。」

 

「解りました、私もこうなっては何も言いませんよ。」

 

 そして、ナデシコはチューリップへと進入していく・・・

 

「・・・クロッカスより通信。」

 

 

 ピッ!!

 

 

『・・・アキト君。

 私は君の言葉に救われたよ。

 確かに私がいくら謝罪した所で、ユートピア・コロニーの人達は生き返らない。

 今、行ってる事も私のエゴかもしれん・・・

 だが、これから先に未来が必要なのは、君達若い者だ!!

 君達が何を悩み、何を考え、何を求めているかは解らん!!

 だが、その人生は・・・まだ・・始まった・・・ば・・・』

 

 最後まで提督の言葉を聞く事は出来なかった。

 静寂に包まれるブリッジ・・・俺は目をつぶって、提督の言葉を聞いていた。

 

 ・・・大丈夫、また会えるさ。

 

 そして、クロッカスを示すモニター上の青い点が消える・・・

 

 青い点が消えると同時に・・・ナデシコはチューリップに吸い込まれた。

 そして、俺達の意識は白い光に飲み込まれていった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第八話に続く