< 時の流れに福音を伝えし者 >

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃のブリッジ・・・

 

「・・・やりますね、メグミさん。」

 

 ちょっと目を離した隙を突かれましたね・・・

 敵ながら天晴れです。

 

「・・・どうしたの、ルリルリ?」

 

「いえ・・・メグミさんは何処に行ったんでしょうか?」

 

「あら〜、ルリルリ気になるの?」

 

 ええ、それはもう。

 一応監視はしてますけど。

 

「はい。」

 

「「やっぱり〜」」

 

 ・・・何処から湧いて出たんですか? イズミさん、ヒカルさん。

 さっきまでトレーニングルームにいませんでした?

 

「メグちゃんは、アキト君とヴァーチャル・ルームへ!!」

 

「二人はめくるめく、甘い世界へ旅立ってる・・・」

 

 大丈夫です、その手の話はブロックしましたから。

 ・・・でも、相手はメグミさんですし油断は禁物でしょう。

 

「ラブラブよね〜♪」

 

「そうそう。」

 

 楽しそうに私を煽るお二人・・・

 でも・・・

 

「あ、それは大丈夫です。

 アキトさんの方に、そんな意識はありませんから。」

 

「「「へ?」」」 (ヒカルさん、ミナトさん、イズミさん)

 

「ル、ルリルリ・・・その意識が無いって?」

 

 そのままの意味です、ミナトさん。

 

「け、結構恋愛関係に強いとか、ルリちゃん?」

 

 まあ、アキトさんに関しては結構・・・5年間の付き合いですから。 

 

「・・・11才にあしらわれた、私達って。」

 

 私、精神年齢は16才ですイズミさん。

 

「ア、アキト・・・やっぱりメグちゃんの方が好きなの?」

 

 あ、ユリカさんが倒れかけていますね。

 ・・・ま、大丈夫でしょう。

 結構タフですから、ユリカさん。

 

「艦長!! しっかりしなさい!!

 そんな風にいい加減だから、彼に逃げられちゃうのよ!!」

 

 

 ガ〜〜〜〜ン!!!!

 

 

 あ、追い討ち。

 ユリカさんは完全に固まってしまいましたね。

 

「逃げられる・・・アキト〜〜〜〜〜!!!

 お願い、私を捨てないで!!」

 

 ・・・捨てる以前に、まだ正式に付き合ってないですよユリカさん。

 

「エリナさんて・・・どうして副操舵手なのに、あんなに偉そうなんです?」

 

「はあ・・・実は彼女、ネルガル会長の会長秘書でして・・・」

 

 そのユリカさんとエリナさんのやり取りを、後ろから観戦しているジュンさんとプロスさん。

 

「皆さんもそれぞれの部署に戻って!!」

 

「「は〜い!!」」

 

 エリナさんの一喝に慌てて部署に戻るお二人。

 

 ・・・近頃、ジュンさんも軽いですね。

 これがナデシコ効果、ですか?

 多分私は・・・手遅れ、かな。

 ま、それはそれで別にいいんですけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 トレーニングルームを出た後、僕はコックの仕事で食堂に来ていた。

 今はお昼時でたくさんの人が食堂に来ている。

 ブリッチクルーもルリちゃんと艦長以外が来ています。

 

 おかげで、調理場は大忙しだ。

 

「まったくテンカワは何をやってるのかね。 この忙しい時に・・・」

 

「多分部屋にいるはずなんですけど、寝てるんじゃないですか?」

 

「まあ、パイロットは待機中だって言うしね。 今の内は休んでおいた方がいいのかもしれないね。

 シンジはいいのかい?」

 

「ええ、今僕まで外れたらホウメイさんたいへんでしょう。」

 

「確かにありがたいけど、子供に気を使われるのはどうもね。」

 

「僕を子供扱いしないでくださいよ。」

 

「はっはっはっ、ついね。」

 

 まったく、僕は子供扱いされるのはあまり好きじゃないんですよ。

 何度も言いたいと思うんですけど、これでも千歳近くなんだから。

 でも体が成長しないからずっとこの姿だし。

 ATフィールドの応用で姿を変えられるけど、急に変えるわけにはいかないからどうしようもないんだよな。

 

 そんなことを考えていた時・・・

 

 

 チュドォォォォォォォォォォンンンン!!!

 

 

 轟音と共にナデシコ艦内が揺れた。

 テーブルに置かれていた食事も幾つか落ちているものがある。

 

「敵襲かな?」

 

「何、ぼさっとしてるんだいシンジ!!

 お前も一応はパイロットなんだろ。

 どうせ今ので客はいなくなっちまうよ。

 あんたもさっさともう一つの仕事にいきな!!」

 

「は、はい!!」

 

 僕はホウメイさんにどやされてエプロンを取りながら格納庫に向かった。

 でも、今の音ってグラビティブラストだったような・・・

 

 

 

 

 

「フィールドを張りつつ後退!!」

 

「後、十分後に敵の攻撃範囲を抜けます。」

 

「何処まで逃げるの〜!!」

 

 無人兵器の攻撃を防ぎつつ後退・・・

 エヴァとエステバリス隊も出撃する始末。

 で、結局ナデシコは氷山の下に隠れることになった。

 

 

 

 

「ほんと!! 信じられません!!

 どうしていちいち敵を呼び寄せるわけ!!」

 

「ま〜ま〜、済んじゃった事は仕方ないんじゃないの?」

 

「貴方ね!!」

 

「人生前向き前向き。」

 

 エリナさんの追及を、アカツキさんがノラリ、クラリとかわします。

 ・・・意外と仲がいいんじゃないんですか? この二人?

 一応、会長と秘書の関係ですしね。

 

「プログラム管理は私の責任です。

 今回の失敗は、私が持ち場を離れていたのが原因です。

 ごめんさい。」

 

 ・・・過去を知ってる私には防げた筈の事故です。

 二重の意味でごめんなさい、ですね。

 

「うっひょ〜、ルリルリひょっとして艦長を庇ってたりして!!」

 

「馬鹿ばっかも卒業か?」

 

 ・・・ヒカルさん、ウリバタケさんうるさいです。

 それに馬鹿ばっかは、もう卒業してます。

 

「ほんとに? よく使っていると思うんだけど。」

 

「・・・」

 

 そ、そう言われてみると・・・

 やっぱりナデシコの雰囲気のせいでしょうか。

 

「それでは、作戦は警戒態勢を引かれた西側を諦めて。

 東側の氷山を低空飛行で向かう事にする。」

 

 ゴートさんが今後の作戦を指示します。

 ・・・ユリカさんは何処かにいかれて、この場にいません。

 

「ま、座礁する確率は72%・・・シビアと言えばシビアな数字よね。」

 

 ・・・その数字はシビア過ぎますよ、イネスさん。

 そしてクルーの皆さんは、それぞれの持ち場に向かいました。 

 

 

 

 

「ところで艦長はどうしたんだろう?」

 

 僕はルリちゃんに聞いた。

 

「さあ? 多分落ち込んでるんだと思いますよ。

 前回も戦闘開始まで戻って来ませんでしたから。

 ちょっと探して見ましょう。」

 

 あの艦長が落ち込むか・・・

 確かに今回は、どう見ても自身の失態だしね。

 

「オモイカネ、ユリカさんの居場所を検索。」

 

『了解!!

 検索中・・・・・発見!!

 現在、ヴァーチャル・ルームにて、アキトさんとご一緒です。』

 

 あちゃー・・・

 まずいもの見ちゃったな。

 

 僕はルリちゃんの顔を恐る恐る覗く。

 だが、ルリちゃんは引き攣った顔をしていたが、

 深く息を吐いて気を落ち着かせるような行動を取っていた。

 

「ル、ルリちゃん・・・いいの?」

 

「・・・まあ、今回は許します。

 それにアキトさんはユリカさんを避けていましたからね。

 自分からユリカさんに会いに行っただけで、いい傾向です。」

 

「そっか・・・」

 

 でも、自分の心を偽って、心を壊さなければいいけど。

 昔の僕のように・・・

 

 

 

 

 

 ・・・って、ちょっと待って。

 

「ルリちゃん、さすがに映像を出すのはまずいよ。」

 

「いえ、私はただ艦内の風紀維持の為にアキトさん達を監視するだけです。

 契約書にも男女交際は手を繋ぐまでと書かれてますし、問題ありません。 フフフ・・・」

 

 ま、まずい、アキトさんより先にルリちゃんの方が

 心が壊れ・・・もといキレちゃいそうだ。

 

 その時、ルリちゃんが突然目を見開いて画面を凝視した。

 僕も画面に目を向けると、

 アキトさんと艦長のキスシーンに入って・・・

 って、さらにまずい!!

 

 もう一度ルリちゃんの方を見ると、

 ルリちゃんは顔を俯かせ、口元が段々歪んできていた。

 

 なんかムチャクチャ不味い傾向が出てるよ!!

 ああ!! そうしている間にもアキトさん達の唇が近づいて・・・

 あと30cm・・・20・・・15・・・10・・・5・・・

 

 

 

 あ、艦長の方からやめた。・・・艦長、せっかくのチャンスなのに?

 音声は流石にカットいるから、何を話されているのかは解らない。

 だけど、一応艦長は元気になったみたいだけど・・・

 ついでにルリちゃんの機嫌も・・・

 

 だけど、それもつかの間の安堵だったみたいだ。

 アキトさんの目が闇に染まっていた。

 あの感じ・・・知ってる。

 何処よりも深い憎しみ・・・誰よりも憎んだ者を思う目

 僕が自分の不甲斐なさに自分を憎んだ時の感じに・・・

 

『敵襲!! 敵襲!!』

 

「ルリちゃん、僕は出撃するから。」

 

「はい、アキトさんも格納庫に向かったみたいですから。」

 

 そっか。 でも、アキトさん、今のあなたは落ち着いて戦えるんですか?

 

 そして僕もブリッチを出て行く。

 それと同時にユリカさんも入れ違いにブリッジに入った。

 

 

 

 

 

「あら、帰ってきたわね。」

 

「皆さん、遅れてゴメンナサイ!!」

 

 ユリカさんがブリッチに戻ってきました。

 ムネタケ提督の嫌味も気にしないで、元気にブリッジの全員に挨拶をします。

 どうやら本当に復活されたみたいですね。

 

『ユリカ・・・アカツキに親善大使のいる位置を教えてやってくれ。』

 

「え、別にいいけど。

 アキトはナデシコの防御についてね。」

 

『いや・・・俺は敵を殲滅する。』

 

「ア、アキト?」

 

 その通信を最後にアキトさんの通信は途切れ・・・

 アキトさんのもう一つの顔が・・・ナデシコクルー全員の目の前に現れました。

 あの、復讐人のアキトさんが・・・

 

 

 

 

 

『おおおおおおおおお!!!』

 

 

 ザン!! 

         ギッ!! 

                 ズガッン!!

 

 

 回線からアキトさんの咆哮が聞こえる。

 アキトさんの手に持つ光の剣で、次々に撃墜されるバッタ・・・

 バッタ達をフィールドごと紙の様に切り裂いていく。

 まるで鬼神の・・・暴走したエヴァの様な狂った戦い方をしている。

 

 敵も反撃をしてくるが・・・アキトさんの機体に、掠る事すらない。

 しかもあの機動力・・・リミッターを外したみたいですね。

 実戦で外すなんて無茶なことを・・・やっぱり落ち着いてないんですね。

 

 僕はATフィールドをラインにしてアキトさんに繋いだ。

 その瞬間にアキトさんの感情が伝わってきた。

 黒い・・・一言で例えるならそれだった。

 憎しみ・・・悔しさ・・・不甲斐なさ・・・

 今のアキトさんの心は負の感情で埋め尽くされていた。

 

(アキトさん、聞こえますか?)

 

(・・・シンジくんか、これも君の能力なのか?)

 

(ええ、それより気を静めて下さい。

 とてもまともな戦い方じゃありません。)

 

(・・・放っておいてくれ。 俺は大丈夫だ。)

 

(アキトさんが大丈夫でも機体の方が持ちませんよ。

 リミッターを切ってるんでしょ。)

 

(・・・わかっている。 だが頼む、俺の邪魔をしないでくれ。

 今の俺には耐えることが出来ないんだ。)

 

(・・・わかりました。 ただし援護くらいはさせてもらいますからね。

 機体が何時まで持つか解りませんから。)

 

(・・・すまん。)

 

(いえ、僕もそんな事が昔ありましたからね。)

 

 そして僕はATフィールドのラインを切った。

 その頃、さすがに他の皆もアキトさんの機体の異常な機動力の正体と重要性に気が付いてきていた。

 

 

 

 

『艦長!! アキトの奴何を考えてるんだ!!』

 

 ウリバタケさんからブリッジに通信が入りました。

 

「何がです? ウリバタケさん。」

 

『アキトの奴、自分のエステバリスのリミッターを解除しやがった!!

 普通の人間ならあそこまで加速すれば、強烈なGで気絶してるぞ!!』

 

「そんな!! アキト!!」

 

 ウリバタケさんの言葉を聞いて動揺する、ユリカさん。

 

「確かに信じられない機動戦だな・・・しかし、テンカワは完全に制御している。

 このままでも大丈夫だろうが?」

 

「そうそう、強いんだからいいんじゃないの?」

 

 ゴートさんの台詞にミナトさんが同意します。

 しかし、その言葉を否定する人物が・・・

 

「いいでしょう・・・ウリバタケさんの心配事を私が説明しましょう。」

 

 イネスさんが突然ブリッジに現れました。

 一体何時の間に?

 

「・・・何処でも出てくるわね、この人。」

 

 メグミさんの台詞に頷くブリッジ全員。

 

「今はそれどころじゃ無いのよ・・・

 アキト君が使ってる剣、異常に切れると思わない?」

 

『そう言えば・・・バッタさんのフィールドは、結構強くなってたよね?』

 

 ヒカルさんが実際に戦った時の感想をもらします。

 

「そう、そこでアキト君発案。

 私、イネス フレサンジュ設計。

 ウリバタケ セイヤ制作の秘密兵器・・・それがディストーション・フィールド収束装置よ。」

 

 

「ディストーション・フィールド収束装置?」(ブリッジ全員、パイロット全員+シンジ)

 

 

 何ですか? それは?

 

「つまり・・・エステバリスの纏うディストーション・フィールドを、剣の形に収束する装置なのよ。」

 

「ふ〜ん、結果的には強くなったんでしょ?」

 

 イネスさんの説明にミナトさんが質問をします。

 ですが、それを答えることになったのはシンジさんでした。

 

『ちょっとまってください、

 ディストーション・フィールドを拳に収束するくらいなら出来ました。

 ですがその時に別の部分の防御が弱まります。

 収束装置と言うくらいなんですから収束率が上がっているんですよね。

 という事は、その分防御が・・・』

 

「ええ、言いにくいからあの装置の事をD・F・S(ディストーション・フィールド・ソード)、と言うわね。

 察しの通り、あの剣にフィールドを収束すればする程、エステバリス本体の防御がゼロに近づくわ。」

 

『うそ!!』(パイロット三人娘)

 

 その台詞を直ぐに理解出来たのは、パイロットの人達だけでした。

 

『じゃあ、ミサイルが一発でも命中すればテンカワのエステバリスは!!』

 

「下手をすれば粉々、ね。

 原型が残れば、恩の字かしら。」

 

 リョーコさんの想像を肯定するイネスさん・・・

 そんな危険な武器をどうして作ったんですか?

 

「どうしてそんな物を・・・って顔ね皆。」

 

「当たり前です!!」

 

 ユリカさんがイネスさんを追求します。

 

「・・・本来はチームを組んで、一瞬だけ剣を発生させて敵を撃墜。

 これが理想なのよ。

 この戦法なら、戦艦相手でも十分にエステバリスで戦えるわ。

 あの剣のディストーション・フィールドは、収束させているぶん強力だからね。

 戦艦クラス・・・ナデシコのディストーション・フィールドさえ切り裂けるわ。

 でも、彼・・・アキト君の戦い方の選択は違った。」

 

 イネスさんがアキトさんのエステバリスを見詰めます・・・

 その視線の先・・・私達の目の前で、イネスさんの言葉を証明する事が起こりました。

 

 

 

 

 D・F・Sを持ったまま敵艦に突入するアキトさん・・・

 敵から放たれるミサイルを避け・・・あるいは手に持つD・F・Sで切り裂き・・・

 敵艦のフィールドに辿り付く寸前!!

 D・F・Sの刀身が200M程、急激に伸びました!!

 

 

 ブゥゥゥゥゥンンン・・・・

 

 

 そして、D・F・Sを上段から振り下ろすアキトさん・・・

 

 

『消えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』

 

 

 ザンッ!!

 

 

 アキトさんの一撃で、真っ二つにされる敵艦・・・

 私達の見詰めるモニターの前で・・・崩れ・・・爆発する敵艦。

 その戦闘能力にブリッジの全員はただ・・・無言。

 

 そして、アキトさんは次ぎの獲物に向かって、残像が残る様なスピードで空を駆けて行きます・・・

 

 

『何やってるんですか!! 見てばっかりいないでアキトさんの援護をしないんですか!!』

 

「・・・・・・」(ブリッチ・パイロット全員)

 

 シンジさんが皆さんに呼びかけますが反応がありません。

 私ですらアキトさんの戦いに見入って、シンジさんに呼びかけるまで気が付きませんでした。

 

『・・・・・・いいです、僕だけでもやります。』

 

 痺れを切らしてシンジさんは通信を切り、敵陣の中に鞭を使って切り込んでいきました。

 私も少しでもアキトさんの負担を減らそうと、

 ミサイルなどで援護しますが結果としてあまり役に立ったといえませんでした。

 その間も、皆さんはただアキトさんの戦いを観戦するだけでした。

 

 

 その後のアキトさんの戦果は・・・

 

 戦艦 8隻

 無人兵器 600匹

 

 アキトさんの機体自身に損傷は皆無・・・

 しかも、ブラック・サレナではなく通常のエステバリスでの戦闘。

 

 正に・・・鬼神の戦いを物語る数値でした。

 

 

 

「い、異常よ彼は!! 絶対!!」

 

 突然、エリナさんが叫び出します。

 しかし、それはブリッジ全員の心情でもあったのでしょう・・・

 

「アキト君・・・彼って本当に味方だよ、ね。」

 

 ミナトさんの声も震えています。

 ・・・自分の乗る戦艦すら、一撃で沈める事の出来るアキトさん。

 確かに敵にまわれば・・・恐怖でしょう。

 

「違う・・・あんなのアキトさんじゃ無い。」

 

 メグミさんも身体を震わせています。

 それじゃあ、メグミさんにはどれだけアキトさんが解ってるんですか?

 

「そもそも、どうしてあんな特攻攻撃が出来るんだ!!

 死ぬのが恐く無いのか? あいつは!!」

 

 ジュンさんは・・・自分の恐怖を振り払う様に叫んでいます。

 

「確かに凄いわね・・・彼の実力。

 でも、テンカワ君の実力はまだまだ底がありそうよ。」

 

 冷静にイネスさんが呟きますが・・・

 その言葉にリョーコさん達が反応します。

 

『嘘・・・だろ?

 あれ以上の実力って・・・何があるんだよ!!』

 

『そうだよ・・・異常だよ・・・アキト君。』

 

『アキト君が敵になれば・・・私達、いえナデシコは絶対に勝てない。』

 

「テンカワ君、ね。

 モニターしてたけど、心拍数も体温も血圧からして全然変化が無いのよ・・・

 つまりあの凄まじい加速と、一撃で落されるというプレッシャーの中で平常心だったのよ、彼。」

 

 イネスさんのその台詞が止めだった・・・

 

「・・・アキト。

 どうして・・・そんな戦い方をするの?

 そんなに・・・死にたいの?」

 

 ユリカさんが呆然とした顔で呟いてます・・・

 だから・・・私は我慢出来ませんでした。

 

 

「艦長!!

 艦長はアキトさんを信じられないんですか!!

 今はまだ・・・アキトさんは迷ってます!!

 でも、アキトさんならきっと艦長や私達の期待に応えてくれます!!

 それなのに艦長が・・・ユリカさんが諦めてどうするんですか!!

 何故、アキトさんが苦しんでるか・・・

 あの力をアキトさんが一番憎んでるのに!!

 それなのに・・・皆して!!」

 

 

 ・・・言えない事が多過ぎました。

 今はまだ、私もアキトさんも未来でやるべき事があります。

 ここで私達の正体を明かす訳には・・・いきません。

 でも、アキトさんを忌避するクルーの視線には耐えられません・・・

 アキトさんが今苦しんでる理由・・・

 ユリカさんの言葉だけは許せません!! 

 

 

『その通りです!!』

 

 突然、シンジさんが画面に現れ、私の意見に同意しました。

 

『さっきから聞いてて腹が立ってきましたよ!!

 アキトさんはナデシコを・・・大切な人を守るために戦ってるんですよ!!

 守るためならおそらくアキトさんは自分の命だって賭けます!!

 アキトさんは優しい人だから・・・大切な人が傷つくことが嫌なんです。

 無くしてしまうことが耐えられないから・・・』

 

 シンジさん・・・あなたはまるで自分のことのように・・・

 私も・・・多分わかります。

 アキトさんのお葬式のとき・・・大切な人を失った時に実感したから・・・

 

『普段のアキトさんを見ていればわかるはずですよ!!

 アキトさんにとってナデシコがどれだけ大切な場所だという事を・・・

 なんでコックであることを望んでいるのに、力を望んだのかという事を・・・

 命を賭けて戦ってくれているのに、どうしてそれを侮辱するようなこと言うんですか!!

 僕はそれが許せません!!』

 

 そうです・・・

 アキトさんは自分を傷つけたって守ってくれています。

 今だって・・・

 

「そうですよ!! どうして信じてあげられないんですか!?

 アキトさんが戦う理由は・・・ナデシコを・・・大切な人達を守る為、だって。」

 

 痛い程の静寂が・・・ブリッジを包み込みます・・・

 その静寂を破ったのは・・・

 

「御免、ルリちゃん・・・ルリちゃんが泣くなんてね・・・

 私、駄目な女の子だね。

 そうよね、二人の言う通りだよ。

 普段はアキト、アキトって言ってるのに

 肝心な所で逃げちゃって・・・」

 

 私・・・泣いてますか?

 そうですか・・・

 ちょっと、恥ずかしいですね。

 

「ルリちゃんだってそこまで信じてるんだもん!!

 ユリカも負けないよ!!

 アキトはアキトだもん!!」

 

 ・・・それでこそユリカさんです。

 でも、私も負けませんよ。

 

「・・・私も負けません!!

 負けないからね、ルリちゃん、艦長!!」

 

 邪魔です、メグミさん。

 

『お、俺だってテンカワを信じてるからな!!』

 

『ほうほう・・・この場でその発言。』

 

『これは・・・リョーコのテンカワ争奪戦参戦表意とみた。』

 

『テ、テメーら!!』

 

 ナデシコ上空ではパイロット三人娘が姦しい・・・

 早く格納庫に帰って下さい。

 

『・・・やっぱりテンカワ アキトは敵だ。

 皆!! 俺達の結束は固いぞ!!』

 

 

『お〜〜〜〜〜〜!!!』 × 整備班全員

 

 

 ・・・まだ懲りないのですか、ウリバタケさん?

 あれ程、妨害工作をオモイカネとしたのに・・・

 

「あらあら・・・テンカワ君も大変ね。

 ま、競争相手は多いほど楽しいけどね。」

 

 ・・・意味深な言葉で退場しないで下さい、イネスさん。

 今後はイネスさんも要チェック、ですね。

 

「ルリルリもシンちゃんもごめんね。

 アキトくんの目を見てればよくわかるものね。」

 

「はい。」

 

『あの、でもシンちゃんって・・・』

 

「嫌だった?」

 

「いえ、かまいませんよ(でも懐かしい呼び方だなー)」

 

「そう、でもルリルリも大変ね?」

 

 ミナトさんはユリカさん達の方を見ていいました。

 

「ええ、本当に・・・」

 

 ミナトさんの言葉に私は頷いて応えました・・・

 

 そして、アキトさんのエステバリスがナデシコへと帰艦してきます。

 アキトさん・・・ナデシコはやっぱりナデシコです。

 皆さん揃って馬鹿ばっかです・・・

 ですからアキトさん・・・早く昔のアキトさんに戻って下さい。

 私の・・・それだけが今の私の願いです。

 

 

 

 

 10時間後・・・全員に忘れられていた親善大使の白熊と、アカツキさんの救助に成功しました。

 ちなみに、ムネタケ提督もその事を忘れていました。

 

「それは無いんじゃない? 皆?」

 

「それどころじゃなかったのよ!!」

 

「おやおや、エリナ君までアキト君の魅力に降参かい?」

 

「ば、馬鹿な事言ってるんじゃないわよ!!」

 

「はいはい・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何処かわからな暗闇の中・・・

 複数の人間が集まっていた・・・

 

「皆のもの、今回集まったのは他でもない。

 件は消滅し最初の人、アダムの発見だ。」

 

 

 ザワッ!!

 

 

 そこにいた皆が騒ぎ立てる。

 

「それは誠ですか!!」

 

「昨年の突然の消滅、我等の三百年を超える計画が完全に挫折するところだった。」

 

「探したかいがありましたな。」

 

「ですが議長、槍は?」

 

「まだだ。 アダムが持っている可能性が高いが確認出来ていない。」

 

「鍵としての役割はオリジナルでなければなりませんからな。」

 

「問題はそれだけではないぞ。

 未だアダムの知識の実を植え付けることに成功しないのだぞ。」

 

「その問題は解決している。」

 

「どういう事ですか議長?」

 

「アダムは既に知識の実を持ち、人の型をなしている。」

 

「なんですと!!」

 

「では、あとは槍の発見を待つのみですな!!」

 

「ああ、だがアダムには幾つか不可解な部分がある。」

 

「と言いますと?」

 

「・・・これだ。」

 

「これは!!」

 

「これがアダムの鎧だ。」

 

「ですがこれはまるで最初の鬼神・・・」

 

「そうだ、しかもアダムはイカリシンジと名乗っている。」

 

 ザワッ!!

 

「確かに不可解すぎますな。 まさか本人ではあるまい。」

 

「さよう、既に三百年前の人。 生きているはずがあるまい。」

 

「いずれにせよアダムを調べればわかることではないか?」

 

「して、議長。 アダムは今何処に?」

 

「アダムは・・・いやファーストは今、ナデシコにいる。」

 

「あのナデシコにですか。」

 

「どういたします? ネルガルの下では我等の手は及びません。」

 

「あれ以来三百年、日本からは手を引いてましたからな。」

 

「アダムの捕獲にはやはりエンジェルを行かせようと思う。」

 

「よろしいのですか? 奴等を動かして。」

 

「相手はアダムなのだ。 連合や木連では三百年たとうとも相手にならんだろう。」

 

「では誰に行かせますか?」

 

「サードが適任では? 

 実力はエンジェルの中ではそこそこですが最も忠実です。」

 

「二度目の鬼神とエンジェルの戦いか。 まあ、よかろう。」

 

「ではさっそく向かわせます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

第十話に続く

 

 


 あとがき

 

 SIMUです、どうも・・・

 やっとこの話専用の敵が出せました。

 エヴァを知っている人なら最後に出て来た人達が、どんな奴等か予想が付きますよね。

 戦闘キャラの布石も作りましたし、次話には登場する予定です。

 前回、教えて欲しい言うオリキャラもそいつの仲間などにする予定です。

 もちろんシンジくん用のヒロインにするものもあるかもしれません。

 ちなみに次回登場のキャラは僕が考えたものなので言いませんが

 考えてもらったキャラを出したときはここで名前くらいは出すつもりです。

 それ以上の見返りはあきらめてください。

 それではまた次回。

 

 

 

 

管理人の感想

SIMUさんからの投稿です。

存在していたんですか、ゼーレの皆さん(苦笑)

日本支部が無いという事は、チルドレンは何処の人間なんでしょうね?

・・・現在のサードって誰なんだろう。