< 時の流れに福音を伝えし者 >

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつらがファーストとフィフスね。

 のんきにショッピングなんかしちゃって。

 で、どうすんのさ、町中で殺る気かい?」

 

「まさか、誘き出すに決まってるじゃん。」

 

「町中で殺り合ったら騒ぎになるに決まってるじゃないか。

 馬鹿じゃないの?」

 

 

 ガンッ!! ガンッ!!

 

 

「「い、痛いじゃないか〜!!」」

 

「一言多いんだよ。

 それでどうやって誘き出すのさ?」

 

「サードの時はATフィールドの波動を送って誘い出したらしいよ。」

 

「だから人気のない場所から波動を発すれば自分から来てくれるよ。」

 

「だったらさっさとその人気の無い場所を探すよ。」

 

「はいはい、わかったよ。」

 

「まったく年を取ると気が短くなるんだね。」

 

 

 ガンッ!! ガンッ!!

 

 

「「また殴た〜!!」」

 

「あたし等に年なんて関係ないだろ、相手にしてらんないね。

 いい場所見つけ次第、勝手にやらしてもらうよ。」

 

 

「「だから、先行くな〜!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼食を済ませた後、僕らは買い物を再開した。

 と言っても、イアナちゃんの生活用品はほとんど買い終わったので

 今は主にミナトさんが店を見回っている。

 アキトさんは後ろについて荷物持ち続行。

 ルリちゃん達が見たらミナトさんの買い物に付き合ってると思われて大変な事になるだろうな。

 

「あの・・・シンジさん。」

 

「どうかした、イアナちゃん?」

 

「さっきの話なんですけど・・・」

 

 さっき?・・・・・・ああ

 

「食事の時、ミナトさんが言っていた事?」

 

「コクン(//////)」

 

 イアナちゃんは顔を赤くして頷くとそのまま俯いてしまう。

 

「それでどうかしたの?」

 

「その・・・・・・やっぱり迷惑でしたか?」

 

「迷惑も何もイアナちゃんはまだ何も言っていないでしょ。」

 

「え?」

 

 イアナちゃんは呆気に取られたような顔をする。

 

「あれはミナトさんが言ったのであって、イアナちゃんが言ったわけじゃないだろ。」

 

「あの・・・じゃあ私シンジさんの事「待って!!」

 

 僕はイアナちゃんの言葉を切る。

 

「それ以上はまだ言わない方がいいよ。」

 

「それじゃあ・・・」

 

 イアナちゃんの表情に悲しみ表われる。

 

「別に拒否している訳じゃないよ。

 ただ早すぎると思うんだ。」

 

「早すぎるですか?」

 

「ほら、僕らはまだ会ってそんなに間が無いだろ。

 だから僕はイアナちゃんの事をあまり知らないし、

 イアナちゃんだって記憶を見たとはいえ、今の僕の事をあまり知らないだろ。

 それにイアナちゃんはどうして僕の事をそう思うようになったの?」

 

「それは・・・その・・・・・・(//////)」

 

 そう吃(ども)ったままイアナちゃんは口を噤んでしまう。

 それを言うには経験という意味でも早すぎるみたいだ。

 

「やっぱり僕がイアナちゃんを助けてあげたから?」

 

「・・・・・・はい。」

 

「そっか、なら尚更待った方がいいよ。」

 

「ど、どうしてですか!?」

 

 そんなに慌てないでよイアナちゃん。

 

「その思いは僕に対する憧れと言う名の幻想にすぎない。

 その幻想と現実の僕は別物だ。

 だからその思いのままなら、君はきっと後悔をする事になる。」

 

「そんなことありません。

 シンジさんは「君は僕の何を知っているっていうの。

 

 僕は重苦しい声でイアナちゃんに言う。

 

「君が僕の事をどう思おうとそれは君の勝手だ。

 だけど君の思いだけで僕が何なのかを勝手に決め付けないで。

 それは僕の存在を否定されているようなものだ。」

 

 僕の心の中は何時の間にか激情にかられていた。

 イアナちゃんには強い威圧感が感じられた筈。

 誰かに期待されるのは悪いことじゃない。

 でも過ぎた期待は期待される者にとって非常に辛い。

 

 僕は過去、エヴァに乗るまで何の取り柄もない人間だった。

 期待どころか信頼すら存在しなかった。

 だがエヴァに乗ってから変わった。

 誰かに期待されている、僕にしか出来ない、そう思えて僕は初めて満足感が生まれたのかもしれない。

 だけど結果としてその時の僕にはやっぱり荷が重過ぎたのだと思った。

 最後の戦い、ミサトさんに命を張ってまで助けてもらい、

 エヴァで出撃した途端に心を壊しサードインパクトを起こしてしまった。

 命を懸けてまでの期待を裏切った、そんな罪悪感が赤い海での僕に圧し掛かった。

 

 今の僕は確かに力を付け出来る事も増えたが、やっぱり出来ない事がある。

 出来ない事を期待されたくない、その思いを裏切りたくないから。

 だから否定する、過ぎた期待を、幻想の思いを。

 そうすれば裏切らなくて済む、イアナちゃんに深い傷を作らなくて済む。

 否定する事で小さな傷を作ってしまうかもしれないが。

 

「・・・ご、ごめんなさい!!

 私、そんな風に思ってたつもり無いのにシンジさんを怒らせてしまって。」

 

 今度は別の意味で顔を赤くし、涙目でイアナちゃんは僕に訴える。

 

「うん、僕もちょっと言い過ぎたよ。

 でもわかったでしょ、イアナちゃんが見てたのは僕の全てじゃないって。

 今怒った僕だって僕なんだから。

 だからもう少し考えてほしいんだ、

 最も今ので僕の事が嫌いになってなければだけど。」

 

「そんなことありません、悪かったのは私なんですから。

 シンジさんの言う通り、私もう少し待ってみます。

 それでシンジさんのことをもっと知っていきます。

 それから私、シンジさんに思いを伝えます。」

 

「そうだね、その時を楽しみにしているよ。」

 

 僕は微笑みながらそう言った。

 

「は、はい(//////)」

 

 再びイアナちゃんは顔を赤くしてしまう。

 微笑んだくらいでそんなに恥ずかしがらないでよ。

 はあ、アキトさんの癖でも移ったかな?

 

 

 噂をすればなんとやら。

 話が終わった直後、アキトさんがこちらにやってきた。

 

「どうしたんだ、シンジくん。

 さっき強い威圧感を発していたが?

 敵か?」

 

 まあアキトさんならあれだけの威圧感を発していたら気づかれるよね。

 

「いえそういう意味じゃ・・・

 

 

 キュイイィイィィィィィイィン!!!

 

 

 ・・・・・・なかったんですが、どうもそうらしいです。」

 

 見事なタイミングだな〜。

 まあ標的が町中をうろついてるんだから絶好のチャンスなんだから来るとは思ってたけど。

 

「何だこの妙な感じは?

 殺気でも怒気でもないようだが。」

 

「え、テンカワさんはわかるんですか!?」

 

 イアナちゃんが驚きながらアキトさんに言う。

 僕も驚いたけどまあ、アキトさんほどの人間なら

 この気配に気づけた可能性はあったけどね。

 

「アキトさん、これはATフィールドの波動ですよ。

 どうやらエンジェルの誰かが誘ってるみたいです。」

 

「シンジくんどうするんだ?」

 

「アキトさん、イアナちゃんとミナトさんをお願いします。

 無視して町中で襲撃されたらたいへんですので。」

 

「シンジくん一人で行くのか?」

 

「ええ、彼等の狙いは僕ですから。」

 

 尤もイアナちゃんを連れ戻す事も含まれているかもしれないけど。

 そこへイアナちゃんが・・・

 

「待って下さい、私も一緒に行きます!!」

 

「駄目だよ、イアナちゃんは白兵戦は無理だろ。

 それに君の使徒の能力からして近・中距離戦はまったく駄目だ。」

 

「でも・・・」

 

 

 ポンッ!!

 

 

 僕は不意にイアナちゃんの頭に手を乗せて撫でてしまう。

 

「大丈夫、イアナちゃんの思いを聞くまでは何処にも行かないから。

 約束したからね。」

 

 そう言いつつ僕は再び微笑みながら説得する。

 ああ、何やってんだ僕は、これじゃアキトさんと大差ないじゃないか。

 

「シンジくん、イアナちゃんと仲良くしている暇はないと思うんだが。」

 

「わかってますよ、でも原因はアキトさんなのかもしれないんですからね。

 その時は責任とって貰いますよ。」

 

 僕はそう言い残して誘われている方向へ走り出した。

 

 残された二人は・・・

 

「テンカワさん、シンジさんに何かしたんですか?」

 

「いや、心当たりはないが。」

 

 この時のイアナちゃんはアキトさんがどういう人かまだあまり知らなかった。

 だがナデシコで生活を過ごしていくうちに、すぐにそれはわかる事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は二人と別れて五分ほど走った所の廃棄工場の前に来ていた。

 これだけ人気の無い場所なら暴れても迷惑は掛からないな。

 そう思いつつ工場の中に入ると三人ほどの人影が見えた。

 3対1か、結構不利かな?

 

「呼び出したのはあなた達ですか?」

 

「そうだよ、用件は分かってる筈だから自己紹介だけにしておくよ。

 あたしの名はシェーラ、昼を司る天使シャムシェルの化身。

 フォースエンジェルと呼ばれてる。」

 

 シェーラと言った女性は年は二十五前後の金髪でバサバサしたロングヘアー。

 身長は結構高めで180以上ある。

 言うまでもないが瞳の色は紅い。

 

「僕らも自己紹介をしておくよ。

 僕の名前はソウゴ。」

 

「僕の名前がコウゴ。

 音楽を司る天使イスラフェルの化身。

 僕らは二人でセブンズエンジェルと呼ばれてる。」

 

 二人で一人のエンジェルと言った彼等の容姿は酷似している。

 年は十二歳ほどで一人は赤髪、もう一人は青髪の男の子だ。

 イスラフェルの化身なのだから二人であっても不思議じゃない。

 だけど・・・

 

「ソウゴにコウゴ・・・

 なかなか洒落た名前だね。」

 

「あたしも最初にそう思ったよ。」

 

 シェーラが僕の言った事に賛同する。

 これから戦う相手なのに何故か好感が持てた。

 

 

「「うるさい!! 好きでこんな名前になったんじゃない!!」」

 

 

 二人が同じに文句を言う。

 双子なのかな? それとも能力で二人に別れてるのかな?

 

「お遊びはこのくらいにしておくよ。

 用件は分かってるんだ、イエスかノーか答えな。」

 

「ノーだよ。 そう答えたって強制的に僕を連れて行く気でしょ。」

 

「まあね、多少痛いだろうが我慢してもらうよ。」

 

 シェーラはその場で両腕から鞭を伸ばし、

 ソウゴとコウゴは右後方、左後方にまわりこみナイフを構え僕を取り囲んだ。

 

「その前に一つだけあなた達に質問があるんですが?」

 

「なんだ?」

 

「あなた達はどうしてゼーレに従っているんです。」

 

 僕は問いた、答え次第では戦わなくて済むかもしれない。

 

「そんなことかい、あたし達のコアには爆弾が仕掛けられているんだよ。

 もし逆らったらボンッとやられちゃうからさ。」

 

「それは既に知ってます、僕が聞きたいのはあなた達が自分の意志で従っているのかです。」

 

「なに?・・・・・・どうだろうね。

 まあ、あたしはそれなりに従っているおかげで待遇がいいから

 不満はないから、自分の意志かね。」

 

「僕らも同じさ、上に従ってれば悪いようにはされないし退屈しない。」

 

「この体になって力を手に入れ不老不死になったし、

 暗殺なんて仕事も出来るからスリルがあってもう最高だよ。」

 

 彼等・・・とくにソウゴとコウゴは楽しそうにそう言っている。

 ゼーレに自分の意志で従ってるのか。

 

「で、どうしてそんなこと聞くんだい?

 待遇次第でこっちに来るのかい?」

 

「内容次第では戦わずに済んだには違いないよ。

 結果として抵抗させてもらうよ。」

 

「それは残念だね、さあ行くよ!!」

 

 シェーラの合図と同時にソウゴとコウゴが飛び掛かり

 本人は鞭を振るってきた。

 

 僕は瞬時にこの状況を打破するため・・・

 

「アビリティ『サハクィエル』」

 

 僕はサハクィエルの能力で威力最小のATフィールドで爆弾:ATボムを作り出し

 前方の地面に打ち付けた。

 

 

 ドゴォォォンン!!!

 

 

 爆発により舞い上がった煙に紛れ後方へ跳んだ。

 僕は空中で一転し煙の外で着地した。

 

 さてどうしよう。

 戦力差は見た目からすれば三対一、でも実際はそれ以上。

 三人の内、二人はおそらく補完しあってる。

 つまりは同時に同じ箇所を攻撃しなきゃダメージをあたえることはできない。

 

 そこへ煙の中からソウゴとコウゴ・・・面倒だからセブンズが、

 ナイフを突き出しながら同時に飛び出してきた。

 

「クッ!!」

 

 僕は両手に再びATボムを生み出しセブンズ二人にぶつける。

 

「「ガハッ!!」」

 

「少しは効いたか?」

 

 だが後方に吹き飛ばされた二人の合間を縫って・・・

 

「甘いよ。」

 

 ・・・シェーラが飛び出してきた。

 僕はバックステップで後方へ飛ぶが間に合わない。

 

 

 ヒュン!!

 

「痛っ!!」

 

 左肩の三割ほどを切り裂かれ、血が吹き出した。

 傷口を右手で抑えつつバックステップを続けるが・・・

 

「逃がさないよ!!」

 

 

 ヒュン!! ヒュン!! ヒュン!! ヒュン!!

 

 

 連続で鞭を振るわれるが僕は紙一重で避ける。

 シャムシェルの鞭は音速に達するスピードだ。

 例え僕の視覚能力で鞭の動きが見えても、体がついていかない。

 だけどそれは最高速時の話で振り出しの軌道がわかっていれば、

 その一瞬の間の最低限の動きで避けられる。

 だが・・・

 

 

 ドンッ!!

 

 

 しまった!!

 

「あとがもうないよ、どうすんだい?」

 

 攻撃を避け続けていく内に壁に追い込まれてしまった。

 右手からATフィールドで傷を治していたからそこまで気を回す事が出来なかったのだ。

 

「・・・・・・」

 

「もう終わりかい? 呆気ないねっ!!」

 

 そう言ってシェーラは二本の鞭を振り下ろした。

 だが、既に傷は完治させ左腕は使える。

 

「!! アビリティ『サキエル』」

 

「何っ!! もう左腕が使えるのか!!」

 

 僕はサキエルの力の光の小手を生み出し二つの鞭の先を掴んだ。

 光の小手のおかげで光の鞭を掴んでも熱くはない。

 この前のミストが僕に使った防御方法に似ているが、僕の場合は鞭の先を掴んでいる。

 そうする事で鞭の動きを完全に止めることが出来た。

 

 だがこれでは文字通りこちらも手が出せない。

 過去のシャムシェル戦ではエヴァの腹に鞭を突き刺して手を自由にするなんてことしたけど、

 今は生身でとてもやる気にはなれないし、相手には意志もあるんだからこんな作戦いくらでも打開策が考えられる。

 それなら当たっていくのみ。

 

「ハアァァ!!」

 

 

 ドンッ!!

 

 

 僕はATフィールドを展開しながらシェーラに体当たりした。

 ぶつかると同時に鞭をはなすとフィールドの衝撃も加わって十五mほどシェーラは吹き飛んだ。

 僕は追撃をしようと光のパイルを構え走り出す。

 

 

 ガシッ!!

 

 

「捕まえたよ。」

 

「さっきの爆弾は結構効いたよ。」

 

「なっ!!」

 

 追撃に走り出したはいいが、左右からセブンズに両腕を捕まれてしまった。

 セブンズはATボムのせいで服がボロボロになり、

 直撃した腹を怪我していたが戦闘には支障が無い物に過ぎなかった。

 

「クッ!!」

 

 僕はセブンズ達を振り切ろうとするが離れない。

 さすがに二人がかりで両腕を捕まれたらそう簡単には逃げられなかった。

 

「まったくやるじゃないか、坊や。

 一対一なら確実に負けてたよ。

 フィフスを連れてこなかったのは間違いだったね。」

 

「坊やってのは僕の事ですか?

 見た目はこれでも僕はあなたより年上の自信があるんですけど。」

 

 状況はあまりに著しい程よくないが、僕は前から結構詰ってた思いをシェーラにぶつける。

 それにイアナちゃんを連れてきたとしても白兵戦ではとても役に立てそうも無い。

 

「そうかい、まああたしらには年なんて関係ないからねえ。

 坊やの場合、ただ傷つけるだけじゃ簡単に治っちまいそうだ。

 抵抗出来ないように腕を切り落とさせてもらうよ。」

 

 シェーラは左腕を振り上げて鞭を構える。

 僕は両腕を掴んだセブンズを振り切ることが出来ず目を瞑る。

 その時・・・

 

 

 ジュゴォォォオォォォォ!!!!

 

 

 ・・・大きな音と共に強い熱風を感じた。

 不意に目を開けて見るとシェーラは床に崩れ落ち、

 振り上げた方の左腕が肘の辺りから無くなり血を流していた。

 一体何が・・・

 

「シンジさん!!! 大丈夫ですか!!!」

 

 その声がした方を見ると廃工場の入り口にイアナちゃんがいた。

 そうか、イアナちゃんが加粒子砲でシェーラの左腕を消し飛ばしてくれたのか。

 さっきの熱風は加粒子砲が近くを通り過ぎた時に起こったものか。

 

 シェーラは左腕を抑えて膝をつき、セブンズの二人はイアナちゃんの方に気が向いている。

 チャンス!!

 

「アビリティ『サンダルフォン』!!」

 

「「熱っ!!」」

 

 サンダルフォンの力で僕のまわりを高温にする事でセブンズを両腕から一瞬放した。

 さらに僕は二人の胸部に掌底を放ち、二人を左右反対に突き飛ばし距離を作った。

 

「一気に決める!! アビリティ『イスラフェル』『ゼルエル』」

 

 そう言うと僕の中からATフィールドで作り出した分身=ゲンガーが生まれ、

 それと同時に僕は左側のソウゴの方へ、ゲンガーは右側のコウゴの方へ跳びかかった。

 さらにゼルエルの力で僕の右手にATフィールドを纏わせた。

 だがただ纏わせるだけでなく指の先は鋭利な刃物と変わり無いものになっている。

 

 そしてゲンガーも僕に合わせて左右対称に左手が変化する。(もともとATフィールドで出来た体だから。)

 僕とゲンガーはそれを構えて・・・

 

 

「我流拳技!!! 第一烈!!!

     魔狼の砕牙(さいが)!!!!」

 

 

 ドバジュッ!!!! ×2

 

 

「「ガハッ!!」」

 

 セブンズの二人が吐血をする。

 

 僕の右手はソウゴの胸を突き破り、ゲンガーも左手でコウゴの胸を突き破っていた。

 突き抜けた僕とゲンガーの腕は血に染まり、手には二人のコアが握られていた。

 セブンズの胸を突き抜ける時に握り取ったのだ。

 

「これで終わりだ。」

 

 僕はセブンズのコアを中の魂ごと握り潰した。

 もちろんゲンガーも僕と同じ行動を取りセブンズの魂は消滅した。

 腕を引き抜くとセブンズの体は魂の無くなった抜け殻として崩れ落ちた。

 

 右手のATフィールドとゲンガーが消える。

 そしてしゃがみ込んでいるシェーラの方を向いて言う。

 

「後はあなただけですよ。」

 

「チッ!!」

 

 シェーラは立ち上がると同時に入り口の方にかけ出した。

 しまった、そっちには!!

 

「ま、待て!!」

 

 入り口の所にいるイアナちゃんが向かってくるシェーラに叫ぶ。

 僕はすぐにイアナちゃんの元へ向かうが出遅れた上、距離もシェーラの方がイアナちゃんに近い。

 イアナちゃんは右腕をシェーラに向けて構える。

 加粒子砲を撃つ気なのだろうが、その前にシェーラに懐に入り込まれてしまった。

 

「お返しだよ!!」

 

「キャァァアァァァァ!!!」

 

「イアナちゃん!!」

 

 シェーラは残った右腕の鞭で構えていたイアナちゃんの右腕を肩から切り落とした。

 イアナちゃんはその場に肩を抑えて蹲り、シェーラはそのまま入り口から逃げて行った。

 僕はイアナちゃんに駆け寄って切り落とされた右腕を拾って切断部をあわせる。

 

「大丈夫、イアナちゃん!?

 すぐに治してあげるから!!」

 

 僕はATフィールドの力で切断面を繋いでいく。

 イアナちゃんは使徒としての力があるから再生能力も加わってすぐに腕を繋げることが出来た。

 

「もう痛くはない、イアナちゃん?」

 

「はい・・・・・・すみません、勝手に付いてきたのに

 私のせいで敵を逃がしてしまって。」

 

「何言ってるのさ、さっきイアナちゃんは僕を助けてくれたじゃないか。

 それにイアナちゃんを放って追いかける事なんて出来ないよ。」

 

「シンジさん・・・」

 

 

      ザワザワザワザワ

 

 

                         ガヤガヤガヤガヤ

 

 

「なんだか外が騒がしくなってきましたよ。」

 

「ちょっとうるさく暴れ過ぎて人が集まってきたみたいだ。

 早くここから離れよう・・・・・・とその前に。」

 

 僕はアンチ・ATフィールドでセブンズの体と戦いで飛び散った血をL・C・Lに溶かしておいた。

 セブンズの体なんか残しておいたら事件になりかねないし、

 L・C・Lにしておけばよくわからない液体の水溜まりって事にされるだろうから。

 

 そして再び逃げ出そうと思ったとき、ふと壁の大きな穴が目についた。

 

(あれ、あんな穴最初見た時あったっけ。)

 

「どうしたんですか、シンジさん。」

 

 そう聞かれイアナちゃんの方を見た時ふと気がついた。

 もしかして・・・

 

「?・・・・・・シンジさん?」

 

「な、何でもないよ!! さっさと行こう!!」

 

 僕はイアナちゃんの手を引いてまだ人気の集まっていない場所から逃げ出した。

 

 ・・・この廃工場に人目が集まったのってイアナちゃんのせいかもしれない。

 何も無い廃工場の中から加粒子砲が飛び出したら人目が集まるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、僕達はアキトさん達の所に戻り買い物を済ませた。

 そしてイアナちゃんの生活用品を置きにナデシコへもどった。

 

 

「アキトさん、今度こそ逃がしませんよ。」

 

「そうだよアキト、イアナちゃんとミナトさんだけずるいよ。」

 

「イアナちゃんのお買い物に付き合ったんだから。」

 

「俺達にも付き合ってくれるんだよな。」

 

 ナデシコではこの四人がアキトさんを待ち伏せしていた。

 まあ、あれしきのことで簡単に諦めたりはしないよな、この四人は。

 

「あ、あはははは。 

 シ、シンジくん、俺に何か出来る事ないか?

 ほら、例えばイアナちゃんの買ってきた荷物の整理とか?」

 

「さすがに女性の荷物の整理は不味いですよ。

 あ、そう言えばアキトさんって一番よく働いて疲れが溜まってますよね。

 せっかくのお休みなんですから街の何処かでゆっくりして来たらどうです?

 ホテルなどでの外泊もありってプロスさん言ってましたし。」

 

「それだ!!

 と言う訳で、俺はゆっくり休んで疲れを取りたい。

 だから皆に付き合うことは出来ない、それじゃ!!」

 

 

「あ!!! 待て〜〜〜〜〜!!!!」 ×4

 

 

 アキトさんはあっという間に駆け出して行き、

 それに続いてルリちゃん達もアキトさんを追いかけて行った。

 アキトさん残りの6日を逃げ続ける気なのかな?

 

 

 

 結局アキトさんは逃げ切ることが出来ず、

 残りの休日を四人と支社から戻って来たエリナさんとイネスさんを

 それぞれ一日一人ずつ相手をするはめになり、

 ナデシコの一週間の休暇は終わった。

 つまるところ、アキトさんが一人でゆっくり出来た日は一日足りともなかったという事になる。

 

 

 

 

「誰か俺に気の休まる時をくれ〜!!」

 

「それは難しい願いですよ、アキトさん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

第十二話に続く

 

 


 あとがき

 

 ・・・・・・どうも、お久しぶりです

 最近SSのほうがあまりはかどらなくって・・・

 もう春休みに入りますしそしたらまたじゃんじゃんかき出せるかもしれません。

 あ、そうだ、今設定集を書いているんで次回辺りに出せると思います。

 じゃそろそろ気合入れて書き始めるとしますか。

 ファイトー!!(自分に)

 

 

 

 

代理人の感想

うーむ・・・・・なんだかなぁ。

新しく「エヴァ小説」のコーナーでも作ろうかしらんと思う今日この頃。

 

それはさておき、たとえ恋愛が絡まなくても人間関係に幻想というのは必要なのかもしれませんねぇ。

相手の全てを理解してしまったら共通点より差異の方がどうしても際立つわけで。

幻想というのはそこらへんをカバー、ないし無視するための心の働きの一種なのかも。