< 時の流れに福音を伝えし者 >

 

 

 

 

 

 

アフリカ編・第一話 紅翼の守護者

 

 

 

 

 

 私の名前はクラウリア=コンバット。

 アフリカ方面軍前線基地で戦闘隊長を務め、このアフリカを守っているわ。

 

 階級は准佐であり以前は・・・と言っても結構前の事なんだけどが、

 女性が隊長を務めるというのは珍しく部下達にはあまり良い印象を受けていなかった。

 自分でいうのもなんだけど今では不満を漏らす者どころか、

 一部が私に憧れてここの部隊に志願してくる女性までいるわ。

 ・・・ほんの一部だけどね。

 

 この大陸は200年位前までは緑と砂漠がほとんどだったが、

 今では科学と自然が完全に共存した豊かな大陸へと変貌した。

 そのせいか木星蜥蜴からの進撃も西欧に続き、極東と並んで戦闘が激しい地域になっている。

 ここの前線基地も西欧の前線ほどではないけど、

 無人兵器の攻撃から戦線をまったく押し返せない状況にある。

 

 その中ではもちろん戦死者も出て、更にその中には私の顔見知りの兵士もいた。

 チューリップから出てくる無人兵器は無尽蔵とも思える量が吐き出される。

 だけどこちらの兵士は無尽蔵というわけにはいかず、

 不足すれば何処かから送ってもらう、または徴兵しなければならない。

 そしてまた戦死者が出て兵士が不足し新たな兵士が送られてくる。

 この戦場ではこの繰り返しだった。

 

 戦力としてはいくらあっても足りないくらいだけど、

 明らかに兵士が不足していると言う訳でもないのに、

 今回新たな兵士が送られてくる。

 私は今格納庫でその新人の到着を待っている。

 

 その新人はパイロットらしく自分の専用機と一緒に輸送機でこちらへ来るみたい。

 専用機を持ってるなんて何処かのお坊ちゃんかしら?

 

「お母さん。」

 

 そして誰かが私のことを呼んだ。

 私のことを母と呼ぶのはこの基地で一人しかいない。

 

「クリス少尉、この場では私のことはクラウリア准佐または隊長と呼びなさい。」

 

「は〜い。」

 

 ・・・まったく。

 私のことを呼んだこの子の名前はクリス=コンバット。

 ファミリーネームの通りこの子は私の娘にして16歳でエステバリスを駆り、

 このアフリカ方面軍のエースチームの片割れ。

 チームと言っても二人組のチームで、もう一人は今は遊撃部隊として出撃していていない。

 

「何でこの子がここのエースの一人になれるのかしら。」

 

「だってお父さんとお母さんの娘だもん!!」

 

 胸を張ってそう言うクリス。

 言った通りこのこの父親、つまり私の夫も軍人で、

 更に言うなら私の義父、夫の父も軍人と見事な軍属家系なのよね。

 

「それでお母さん、今度どんな人が来るの?」

 

「はあ・・・ミズキ、新人の資料持ってたわよね。」

 

「はい、どうぞ。」

 

 私は資料をクリスに渡してあげる。

 資料を持っていた女性、彼女はカエデ ミズキ。

 私に憧れて軍に入った極一部の女性。

 僅か二十二歳にして私の副官に上り詰めるほどの実力の持ち主。

 望めばもっと上に行ける筈なのに私の補佐でいたいと言う物好き。

 私にはとても過ぎた補佐だと思う。

 それとカエデがファミリーネームでミズキがファーストネームらしいわ。

 

「・・・お母さん、資料ほんとにこれだけなの?」

 

 クリスが再び私に聞く。

 そう思うのも無理はないわ。

 私のところに送られてきた資料には・・・

 

 

氏名 イカリ シンジ

性別 男

職業 機動兵器パイロット

所属 ナデシコ遊撃部隊

備考 機動兵器所持

 

 

 ・・・たったこれだけの事しか書いておらず顔写真すらない。

 だれでも不思議に思うのが当然だと思うわ。

 

「ええ、それだけなのよ。

 まあもうすぐここ着くからどんな人かわかるでしょ。」

 

「うん、でも機動兵器所持ってやっぱりエステかな?」

 

「そうじゃないかしら、今一番戦力になる機動兵器はエステバリスだからね。」

 

「ふ〜ん、じゃあこの人私のパイロット仲間になるんだ。」

 

 

 ジュゴォォォォォ!!!

 

 

 そこへ大きなジェット音が聞こえてきた。

 

「どうやら、到着したみたいね。」

 

 輸送機がこの基地に到着し大型コンテナが格納庫に収容される。

 そして収容されたコンテナには機動兵器が入っておりその扉が開かれる。

 

 

 ガシャ  ガシャ  ガシャ

 

 

 金属の音が聞こえ中から機動兵器が姿を現した。

 だけどそれはエステバリスではなく、それよりも二回り大きい紫の機体だった。

 そしてその顔は東洋の島国に伝わる鬼のような顔をしていた。

 新しいタイプの機体かしら?

 

『すみません、僕の機体何処に置いたらいいですか?』

 

 その時紫の機体の外部スピーカーからパイロットの声が聞こえてきた。

 ずいぶん若々しい声ね。

 

「そこの灰色のエステバリスの横の空いているスペースに設置して下さい!!」

 

『わかりました。』

 

 ミズキがパイロットに指示を出してあげる。

 パイロットはそこへ機体を移動させて固定するとコクピットを開いて荷物を持って降りてくる。

 その容姿は東南アジア系の顔立ちをしているけど髪が白銀で瞳が真紅と変わった色をしている。

 けど容姿にも驚いたけど見た目の年齢にも驚いた。

 クリスも軍に入る者としてはかなりは若いけど、

 この少年は15歳前後とクリスよりも若い。

 こんな子供に戦えるのかしら?

 

 そして彼がこちらの方まで歩いてくる。

 

「あなたがここの隊長さんですね。

 僕がここに配属されてきたイカリ シンジです。」

 

 そう敬礼もせずシンジくんが挨拶をした。

 やっぱりこの子が新人のパイロットらしい。

 

「私はここの隊長を務めるクラウリア=コンバット准佐です。

 ようこそ我が部隊へ。

 ですがこれから私はあなたの上司になります。

 今回は目を瞑りますが挨拶時に敬礼を忘れるとそれなりの処罰がありますよ。」

 

「済みませんがコンバット准佐、僕は軍属ではなく一般企業からの出向社員と言う事になっています。

 ですので敬礼の必要はなく正式な命令も人事部を通してもらわなければ受けとる事は出来ませんので、あしからず。」

 

 それはつまり自分は勝手に行動することが出来るということ。

 そんなことしていたらパイロットである以上簡単に死んでしまうわ。

 今の話が事実なら私には何もする事は出来ない、まだ子供だと言うのに・・・

 

「・・・わかりました、なら階級も必要ないからシンジくんと呼ばしてもらうわね。

 あなたも私のことはクラウリアと呼んで下さい。

 ファミリーネームだと重なる人がいますから。」

 

「ご家族がいらっしゃるんですか?」

 

「ええ、ついでだから紹介しておくわ。

 この子は娘のクリスよ、エステバリスのパイロットをしているわ。」

 

「よろしくね、シンジくん。」

 

 そう言ってクリスは手を差し出しシンジくんと握手をしようとする。

 

「はい、よろしく(ニコッ)」

 

 シンジくんは微笑みながらクリスの手を握る。

 可愛い笑顔ね、一瞬くらっときたわ。

 

「う、うん(//////)」

 

 クリスは顔を真っ赤にして答える。

 この子には今の微笑みはきつすぎたみたいね。

 

「でも娘さんだったんですか。

 クラウリアさんってすごく若く見えましたから姉妹かと思いましたよ。」

 

「あら、ありがとう。」

 

 クリスは私似で髪の色も水色とお揃いだし顔つきも良く似ている。

 唯一瞳の色は父親譲りの茶色で私は蒼色と違っている。

 身長にも差があるがあと数年もすれば非常に似通った体格になる筈。

 中身もちゃんと成長してくれているといいんだけど。

 

「それから私の後ろにいるのが私の副官のミヅキよ。」

 

「・・・・・・」

 

 ・・・あら、おかしいわね。

 ここでミズキなら自分から自己紹介をする筈なんだけど・・・

 

「ミズキどうしたの・・・って。」

 

「・・・・・・(//////)」

 

 ミズキはシンジくんを見たまま顔を赤くして固まっている。

 そう言えばあなたも十分若かったわね。

 ・・・別に皮肉じゃないわよ。

 

「ミズキ、はやく自己紹介しなさい。」

 

「あ、はい!! えっとカエデ ミズキです!!

 階級は大尉でクラウリア准佐の副官を務めています!!」

 

「よろしく、ミズキさん。」

 

「(真っ赤)」

 

 今度はシンジくんとミズキと握手をする。

 ミズキは更に赤くして黙り込んでしまう。

 男性が苦手で常に付き合いを断ってきたと思っていたけど、

 年下の男の子が好みだったのねミズキ。

 

「それで僕は何処で生活をすればいいんですか?」

 

「部屋を用意してあるからそこを使って。

 ミヅキ、案内してあげて。」

 

「わ、わかりました!! こっちよ、シンジくん。」

 

 そしてミヅキはシンジくんを案内して格納庫から出て行く。

 それにしても・・・

 

「一体何なのかしら、この機体は?」

 

 私は紫の機体を見あげ呟く。

 エステバリスより装甲が厚く人の型をより再現している。

 その眼光はまるで生きているかのようにも見える。

 

「ねえお母さん、やっぱりシンジくんが戦うんだよね。」

 

「そうね、彼もそのために来た筈だもの。

 でも私には強制も拒否もする権限が無いわ。

 もちろん私だって彼のような子が戦う事にいい気はしないわ。

 だから私達は彼が戦場で生き残れるほどの実力があることを望むしかないわ。」

 

「・・・うん。」

 

 クリスは覇気なくそう答える。

 でもシンジくんは私達の望み以上の結果を見せてくれる事になる。

 

 

 

 

 

 

 そして数日後・・・

 戦線に新たなチューリップが二個進撃をしてきていると情報が入った。

 すぐに基地では戦闘の準備が進められたけどチューリップの進行速度と進行方向から、

 このままでは行われる戦闘区域に街が入ってしまう。

 すでに準備が完了した部隊だけで先行して出撃し時間稼ぎをしようと提案したが、

 その案はある上官によって却下されてしまった。

 私は今その上官の元に来ている。

 

「オラン少佐、なぜ出撃を許可していただけないのですか!!」

 

「まずチューリップ二個に対し準備が出来た部隊だけでは戦力が低すぎる。」

 

 確かに今出せる戦力ではチューリップと戦うのは難しい。

 

「ですがチューリップはまだほとんど無人兵器を吐き出していません。

 それなら今の戦力でも被害はほとんど出ません。」

 

「それがもっとも気になるんだ。

 何故チューリップは無人兵器を出さず二個とも単独で進撃している。

 何かあるとは思わないか。」

 

 それは私も気になった。

 でも・・・

 

「このまま見過ごして町中で戦闘を行なうと言うんですか!!」

 

「落ち着いてくれ、クラウリア。」

 

「今は仕事中ですよ!!

 ちゃんと准佐を付けて下さい!!」

 

 私のことをそう呼んだオラン少佐。

 彼のフルネームはオラン=コンバット、私の上官にして夫でもある。

 私達は軍で知り合い軍で結婚した。

 クリスが私達のいる軍に入る事は自然な事なのかもしれない。

 

「・・・わかった、先行部隊の出撃を許可しよう。

 だが敵の行動には十分注意してくれよ。」

 

「わかっているわ、残りの部隊の事お願いね。」

 

 私はそう言い残し部屋を出て準備が済んだ部隊と共に出撃した。

 その中にはクリスのエステバリスとシンジくんの紫の機体も含まれていた。

 

 

 

 

 

 

 私達はいち早くチューリップと接触し足止めをする為に山沿いを進んでいた。

 戦力は戦艦3艦、戦闘機100機、戦車130台、機動兵器15体(シンジくんの機体を入れれば16体)、

 エネルギーフィールド発生装置付きトラック5台、そして指令を出す私達が乗っている小型艇1機。

 セオリー通りなら私は戦艦に乗って指揮をするのだけれど、

 無人兵器相手では戦艦でもまったく安全とは言えない。

 だから今では戦艦の人員を減らし目立たない小型艇または車両に乗って

 指揮官が指示を出す方法が多く取られている。

 

 確かにチューリップ二個を相手にするならとても足りない戦力だけど、

 チューリップを守る無人兵器がほとんど無いのならこれだけでも十分足止めくらいは出来る。

 オラン少佐の言う通りなにか有りそうな気がするのだけど、

 私は今一番気になるのは私達の乗る装甲車の横を走っているシンジくんの機体だ。

 シンジくんの機体は文字通り自分の足で走っている。

 エステバリスのようにキャタピラが回るのではなく足を動かして走っていた。

 エステバリスでも足で走る事くらいはできるけど、ここまでの速度は出ない。

 一体何なの? あの機体は・・・

 

 あの機体の整備もシンジくんが一人で整備しているのでどういった機体なのか解らない。

 だからあの機体がどれほどの性能を持っているのかシンジくんの戦闘技術も解らない。

 私は不意に通信を入れてシンジくんに今の心境を聞いてみる事にした。

 以前はあのナデシコにいたのだから戦闘は始めてではないと思うけど、

 ここに来てからは初めての戦闘の筈。

 緊張しているようなら話をして解して上げられればいいけど。

 

 ピッ!!

 

「シンジくん、いいかしら?」

 

『何ですか?』

 

「ちょっとね、あなたこの部隊にきて始めての戦闘でしょう。

 だから命令出来無くても激励くらいしておこうと思って。」

 

『ありがとうございます。

 でも命令出来ないのは正規の命令だけですよ。

 理不尽な命令でなければ従いますよ。

 何か僕に出来る事があったら言って下さい。』

 

「わかったわ、じゃあ自分の身を守ることを第一に考えて。

 それ以外は自分に可能な事をすればいいから。」

 

『わかりました、僕は僕に出来る事をしますよ。』

 

 ニッコリ

 

 プチッ!!

 

 シンジくんはそう言った後何故か微笑んで通信を切った。

 緊張の心配はなかったみたいだけど何だったのかしら?

 今の意味ありげな微笑みは・・・

 

「・・・・・・」(じぃ〜〜〜)

 

「何よミズキ、そんな羨ましそうな顔しちゃって。」

 

「ベ、別に私は羨ましそうになどしておりません!!」

 

「わかったわ、今度からシンジくんへの通信は任せて上げるから。」

 

「(//////)」

 

 若いっていいわね〜・・・

 私じゃこんな風に反応出来ないもの。

 

 

 

 

 

 

 そして部隊は戦闘配置につき私達の乗る小型艇は戦線より2kmほど後方に着陸している。

 隊列は三角形をしており第一部隊が頂点に第二が右翼、第三が左翼に配置されている。

 ここで私達はチューリップを足止めしようと考えていた。

 

「全部隊照準を前方にして砲撃準備。

 チューリップを確認出来しだい攻撃します。」

 

 私はそう命令を出して攻撃態勢を整える。

 

『第一部隊準備完了しました。』

 

『第二部隊いつでもOKです。』

 

『第三部隊問題ありません。』

 

 後はチューリップが現れるのを待つだけね。

 何もなければいいのだけれど。

 そして十数分後・・・

 

『こちら第一部隊チューリップ二個射程内に入りました。』

 

「わかりました、攻撃かい・・・」

 

 その時・・・

 

『こちら第二部隊!! 隊長!!

 三時の方向に大型戦艦5、護衛艦15、小型兵器約1000を確認!!

 岩陰に隠れ潜んでいたもよう!!』

 

 そんな!! チューリップは囮だったというの!!

 これまで数だけで押してきた無人兵器が戦術を使うだなんて。

 

「第一、第二部隊!! 迎撃して!!」

 

『敵の重力波反応を感知!! 駄目です!! 旋回が間に合いません!!』

 

 こんなことなら周辺の偵察くらい出しておけばよかった。

 私は怪しいと思いながらも詰めを甘くしてしまった過ちに後悔する。

 

『敵グラビティブラスト来ます!!』

 

『うわぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

 ギュワワァァァァァァンンン!!!!

 

 

                  ズガガガァァァァァァンンン!!!!

 

 

          ドゴオォォォォォンンン!!!!

 

 

 ものすごい攻撃音に私は一瞬目を瞑ってしまう。

 今の攻撃でもしかしたらクリスもあのシンジくんもやられてしまったかもしれない。

 でも恐る恐る私は通信機を取り被害状況の確認をとる。

 

「全部隊、被害を報告しなさい・・・」

 

 あれだけの攻撃音、全部隊の大半は失ってもおかしくない。

 でも私の予想とはまったく違うものだった。

 

『・・・第一部隊、損害ありません。』

 

 ・・・え?

 

『第二部隊同じく損害なし・・・』

 

『第三部隊もまったくの無傷です。』

 

 そんな馬鹿なこと・・・

 音だけでもあれだけすごいのに損害が全くないだなんて。

 

「一体何があったというの!?」

 

『光が・・・紅い光が我々を守ってくれています。』

 

 紅い光?

 

「オペレーター、すぐ映像に出して!!」

 

「わ、わかりました!!」

 

 私はオペレーターに指示を出して戦線の状況を直接確認をとることにする。

 一体なにが起こっているっていうの!?

 

「隊長、映像が出ます!!」

 

「・・・これは?」

 

 映し出された映像、たしかにそこには部隊の右側を紅い光が覆っていた。

 そして再び敵戦艦の攻撃が開始されるが・・・

 

 

 ドガガガァァァァァァァァンンンン!!!!!

 

 

 ・・・紅い光、いや壁を貫く事はなく完全に攻撃に耐え続けている。

 そこへクリスから通信が入った。

 

『お母さん!!』

 

「クリス、だからここでは准佐と『いいからこの映像を見て!!』

 

 注意しようとしたクリスの気迫に言い包められ、

 私は送られてきた映像を見た。

 

「これって!!」

 

 そこに映し出されていたのは二対四枚の紅い翼を生やし両腕を左右に広げた紫の機体の後ろ姿。

 翼はなかったけどこの後ろ姿・・・

 

「これはシンジくん?」

 

『うん!! それにこの紅い光はこの機体が出しているみたいなの!!』

 

「えぇ!!!」 ×2

 

 私とミヅキは声を上げて驚いた。

 私はすぐにシンジくんに通信を入れる。

 

「シンジくん、聞こえる!!」

 

『あ、クラウリアさん丁度よかった。

 僕が敵の攻撃を受け止めている内に部隊の態勢を立て直して下さい。』

 

「え・・・わ、わかったわ!!」

 

 やはりシンジくんの機体があの紅い壁を発生させているみたい。

 でも、これはチャンス。

 シンジくんの言う通り今の内に態勢を立て直さないと。

 

『隊長、前方のチューリップが開き多数の無人兵器が出現してきています。』

 

「クッ、第三部隊はそのままチューリップ側の無人兵器に攻撃開始!!

 第一・第二部隊は三時方向の艦隊に迎撃態勢をとって!!」

 

『了解!!』

 

 そして第一・第二部隊の迎撃態勢が整う。

 

「シンジくん、部隊の態勢が整ったわ!!」

 

『わかりました、それじゃ・・・』

 

 敵の攻撃はまだ続いており今紅い壁を消したら攻撃をまともに受けてしまう。

 シンジくんの紫の機体の右腕が左腕のほうに向けられ、再び右側へ薙いだ。

 

 ヒュン!!

 

 すると腕の射線上に一瞬紅い光が走った。

 そして・・・

 

 

 ドガガガガガガガァァァァァァァァァァンンンンン!!!!!

 

 

 紅い光を受けた大型戦艦、護衛艦、小型兵器の全てが爆発を起こした。

 その攻撃に驚いて敵の攻撃が止まり、紅い壁も消えた。

 

『クラウリアさん、今のうちに攻撃して下さい。』

 

「・・・・・・え、ええ、わかったわ!!

 第一・第二部隊攻撃を開始して!!」

 

『はっ・・・りょ、了解!!』

 

 私もだけどシンジくんあまりの攻撃の凄まじさに、

 木星蜥蜴だけでなく私達まで固まってしまっていた。

 

 シンジくんの攻撃で三時方向の敵の戦力は4割近く減っていた上、

 固まっていて無防備の状態だったおかげでそちら側の敵はすぐに殲滅出来そうね。

 

『クラウリアさん、こちらの無人兵器のほうはお願いしますね。』

 

 再びシンジくんから通信が入ってきた。

 

「どうする気なのシンジくん!?」

 

『僕はチューリップを落としてきます。』

 

 そんな無茶な!! 機動兵器でチューリップを落とすなんてこと!!

 でもあのシンジくんの機体なら・・・

 

 

 ピッ!!

 

 

『無理だよシンジくん!!

 一人でチューリップを落とすなんて!!』

 

 そこへ聞いていたクリスが話しに割り込んできた。

 

『大丈夫ですよクリスさん。』

 

 ニッコリ

 

 またあの微笑み・・・

 でもこの時のシンジくんの瞳は先ほどと違っていた。

 綺麗な微笑みの上に吸い込まれるかのような深い真紅の瞳。

 真紅の瞳と白銀の髪が神秘的なものを感じさせる。

 これに見惚れない人は感性の異常者くらいとしか思えないような笑顔。

 

『僕はクラウリアさんに言われた通り可能な事をする。

 だから僕は出来る事をするだけです。』

 

 

 ピッ!!

 

 

 そしてシンジくんとの通信が切れた。

 言った通りチューリップに向かったのね。

 

「隊長!! すぐにシンジくんを止めるよう部隊に命令して下さい。

 このままではシンジくんが!!」

 

 ミヅキが叫ぶように私に言う。

 私は・・・

 

「オペレーター、シンジくんの状況を常に私に伝えて。」

 

「あの・・・通信のほうは?」

 

「必要ないわ。」

 

「隊長!!」

 

 気持ちは分からなくも無いわミズキ。

 でも私は知りたいし期待をしているのよ。

 シンジくんのあの深く吸い込まれそうな瞳とその笑みの意味を・・・

 そしてその微笑みが私達に何をもたらしてくれるのか・・・

 

「イ、イカリ機、前方のチューリップから出た無人兵器と交戦します。」

 

 シンジくんの機体の手には武器らしいものはない。

 どうやって小型兵器と戦うのかと思った時、機体の両腕から光が伸びしなやかな鞭のようなものになった。

 機体がその鞭を振るうと光の一閃しか残らず、その一閃にいた無人兵器が真っ二つに切り裂かれた。

 その攻撃はまるで舞うような動きに美しくすら感じた。

 

「・・・綺麗」

 

 ミヅキは不意に思っていたことを口にもらす。

 私と同じ事を感じていたようね。

 

 シンジくんは無人兵器を鞭で攻撃しつつチューリップの方へ向かう。

 まわりには鞭を振るった無数の一閃の跡が残り、

 切られた無人兵器は一拍を置いて思い出しかのように爆発する。

 

「まさかあの機体、いえシンジくんがこれほどの力を見せてくれるなんて・・・」

 

 あの機体の性能はエステバリスを遥かに超えているけど、それを操るシンジくんの技術も計り知れない。

 おそらくクリスとマイちゃんの二人が揃っていてもこれほどの芸当は出来ないわ。

 

 シンジくんの機体はついにチューリップの前まで来て立ち止まった。

 両腕の光の鞭が消え機体のまわりにあの紅い光が発生する。

 その紅い光を纏ったままチューリップに向けて突進し、

 さらに光は機体の広げられた右手に収束していき、その指先が刃のように鋭くなる。

 そして右腕をチューリップに叩き付けるように振り下ろした!!

 

 

 ドジャシュ!!!!

 

 

 右腕がチューリップを叩き付け振り下ろした時、五本の筋がチューリップを通り過ぎた。

 そして次の瞬間・・・

 

 

 ザゴォォォォォォンンンン!!!!!

 

 

 チューリップは墜落しその衝撃で筋がずれ、六枚にスライスされて形になった。

 

「チューリップが・・・」

 

「・・・輪切りに切られるなんて。」

 

 そしてシンジくんはまだ健在なもう一個のチューリップへ向かう。

 再び鞭を出して無人兵器を光の一閃で切り裂いていく。

 この場にシンジくんを止められるものはいない・・・

 

 その凄まじさに無防備にも全部隊は動きを止め彼の戦いに魅入ってしまうが、

 全ての無人兵器の攻撃はシンジくんへと向かっているおかげで被害は出ていない。

 だが無人兵器の攻撃をすべてシンジくんは避けている。

 今まさにこの戦場は彼の一人舞台。

 シンジくんが主演。

 敵にもならない木星蜥蜴は彼の駆り立て役。

 私達は脇役にもなれない舞台の上の観客ってところかしら。

 

 再びシンジくんはチューリップの元に辿り着き今度は右手に紅い光が集まるが、

 今度は拳を握っており紅い光はその拳に丸く集まる。

 そしてその真紅の拳をチューリップに打ち付けた。

 

 

 ドゴムッ!!

 

 

 拳が中に付き刺ささるとすぐに引き抜きチューリップから離れた。

 引き抜いた時には既に真紅の拳はなくなっていた。

 そして・・・

 

 

 チュドォォォォォォォンンンンン!!!!!

 

 

 ・・・・・・ガタガタガタ!!

 

 

 少し遅れてチューリップは巨大な爆発を起こした。

 更に遅れてここまで衝撃が届いてきた。

 

「オペレーター!! シンジくんの状況は!?」

 

「は、はい!! 爆発の影響でセンサーが乱れて信号を確認出来ません!!

 映像も砂煙が舞い上がって確認出来ません!!」

 

 ミズキがオペレータに確認させる。

 あの爆発を間近で受ければ普通は助からないわ。

 でもあれだけの力を見せ付けられた私に彼の生存を疑うという言葉はなかった。

 私は舞い上がった砂煙の映像をじっと見続けた。

 

 そして砂煙の中からうっすらと紅い光が見え、その光が少し動いた。

 すると風が巻き起こって砂煙を吹き飛ばし、中から紫の機体が姿を見せた。

 紅い翼を羽ばたかせ悠然と飛ぶ姿はまるで私達に何かを伝えているかのよう。

 

「・・・シンジくんは私達に何かを伝えに来たのかもしれないわね。」

 

「私も・・・そう感じます。」

 

 ミズキは私の考えに同意した。

 後でシンジくんに聞いた事だけど、あの紫の機体の名前はエヴァンゲリオンって言うみたい。

 エヴァンゲリオン、意味は福音伝達者。

 彼は私達にその名の通り福音を伝えに来てくれたのかもしれない。

 

 

 

 そしてこの戦いを見た者達からシンジくんはこう呼ばれるようになる。

 真紅の翼を羽ばたかせ紅い光によって敵の攻撃から私達を守り、

 私達に福音と言う名の希望を持ってきてくれた象徴。

 真紅の翼の守り神・・・・・・紅翼の守護者と。

 

 

 

 

 

 

 

 

アフリカ編 第二話へ続く

 

 


 あとがき

 

 ・・・・・・またまたどうも、SIMUです。

 ラグナロクにハマり過ぎて夏休みだと言うのに全然執筆が進みませんTwT

 この通り、顔文字ばっか覚えてしまって更新がだいぶ遅くなってしまいました。

 

 ・・・えっとまあ気を取り直して、

 今回登場したクラウリア=コンバットですが、アフリカ方面司令の息子のオランの奥さんです。

 今はまだオランは少佐ですが近々中佐になるのです。

 オラン中佐は時ナデではほとんど登場しませんでしたので、

 せめてネタにでもと思って出してみました。(結局時福でも出番殆どなし)

 

 新ヒロイン?っぽい人達も何人か出てきますので、

 アフリカでのシンジの体験は一部西欧のアキトと同じになりそうです。

 

 残りの夏休み中に一本書けるようにがんばりますんで

 次回話もよろしくおねがいします。

 それでは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

代理人の感想

・・・・・うーむ。彼の息子だとすると「ガトル」ってのがファミリーネームじゃないのかな?

もっともアフリカの人はファミリーネームの変わりに父親と祖父の名前を続けて名乗ったと思うので

その場合は「オラン=ガトル=○○」という名前になるんでしょうか。

クラウリアの家がどう言う家かは知らないけど、アフリカ方面軍司令官の息子が婿養子には行かないと思いますし。