【読む前に】

 このお話は『時の流れに福音を伝えし者』、略して『時福』の合間に書いた作品です。

 息抜きとして書いた作品でもありますので練度も低く、主に『時福』の方を書いているためあまり進み具合もよくありません。

 この作品の読者の感想次第で『時福』の方と連動して書いていこうと思っています。

 もしこの作品に良い評価をしていただき、続きを期待していただくならお知らせ下さい。

 『時福』と共に少しづつ頑張っていこうと思っています。

 

 

 

 

 




∞黒のお姫様∞

第零話:現世との別れ

 

 

 

 俺は今、ユーチャリスの艦長席に座って漆黒の宇宙を悠々と漂っていた。

 

 復讐を果たした俺はネルガル隠しドッグに戻って物資の補給を済ませ、

 数日後火星の後継者の残党狩りに出た。

 

 火星の後継者達の残党狩りも三ヶ月ほどでほとんど終わり、

 あとは物資が途絶えるか自然消滅か、宇宙軍辺りが勝手に片付けてくれるだろう。

 

 やることの無くなった俺は復讐を手伝ってくれたアカツキ達に礼と別れを言い、ラピスをエリナに預けて三日前に出港した。

 

 預ける時にラピスが『置いて行かないで!!』と言って泣き付いてきたが、

 俺は冷たく突き放した。

 

 俺はコロニーを五つも落としたテロリストだ。 

 もし捕まったりでもしたらラピスは共犯者にされるのは目に見えている。

 これ以上俺に付き合わせる必要も無い。

 

 それにラピスは俺に依存しすぎている。

 置いていったことで相当ショックを受けているだろうが、このまま一緒にいてももっとショックを受けるだけだ。 

 

 俺は火星の後継者の実験台として体を蝕まれたことが原因で寿命もあとせいぜい一ヶ月程度。

 俺の死に際なんか見たらどれほどショックを受けるか想像も出来ない。 

 

 何の恩返しも出来ないがせめてこれからは普通の女の子として生きてほしい、それが俺の願いだ。

 

《マスター、これからどちらへ向かいますか?》

 

 この声の主はユーチャリスに搭載されているオモイカネシリーズAI:フレイア。

 ラピスとはリンクを切ったため、今はフレイアが代わりにリンクして五感を補っている。

 ラピスの時ほど五感を補えないが、とくにやることもないので問題無い。

 

「そうだな・・・・・・火星に向かってくれ、ユーチャリスの速度なら普通に進んでも一ヶ月以内に付くだろう。」

 

《了解しました。・・・・・・マスターの故郷、ユートピアコロニーですね。》

 

「・・・・・・・・・・・・ああ」

 

 フレイアが俺を気遣うように聞いてくる。

 初めの時はこんな事もなくただ機械的に受け答えするだけだったが、何時の間にかこんな風に成長していた。

 

 イネスが言うにはもしかしたら俺が原因なのかもしれないと。

 

 俺の体の中にはヤマサキ達の実験によって打ち込まれた遺跡から採取された本人達にもわからない幾つものナノマシンが入っている。 それが原因でIFSが変化してしまった。

 そのため情報処理能力も格段に上がりパイロットだけでなくオペレーターまで出来るようになった。

 しかし処理速度だけならルリちゃん以上になっているが、

 経験不足なうえ一定以上の処理速度を出そうとすると体の方が耐えられず、すぐに限界に来てしまう。

 これで五感があったらショック死してもおかしくないとイネスは言っている。

 

 と言ってもせっかく出来るようになったのだから、多少はオペレーターの訓練をしたりもした。

 復讐の役に立つかもしれない、俺はその為になら出来ることは何でもした。

 

 

 話が逸れてしまったが、俺は訓練の為に戦闘以外の時に、

 たまにラピスに代わってもらいユーチャリスのオペレートをしたことがあった。

 もちろんその時にフレイアと話をすることになるのだが、

 俺のIFS処理能力の高さと謎のナノマシンによってリンクに近い状態になってしまい、

 俺の精神にフレイアの擬似人格が感化されてしまったのではないかというのがイネスの推測だ。

(ちなみにこれを聞く為に【説明】を一時間くらった。(笑))

 

 という事は、フレイアは俺が育てた娘のようなもので家族とも言い切れる。(なぜ女性人格なのかはわからない)

 フレイアがユートピアコロニーの事を言ったという事は、

 俺がそこで死のうと思っていることに気がついているという事だ。

 俺は家族まで墓場に連れ込む気はない。

 

「なあ、フレイア。 火星に着いたら俺はお前をアカツキの所に送る。

 メッセージを残しておくから、お前はいつかまた新しく建造されるだろうネルガル製の船のメインコンピュータにでもなってくれ。」

 

《マスター、マスターの命令は私達、AIにとって絶対です。

 ・・・・・・・・・・・・しかし、私はその命令を拒否します。》

 

「・・・・・・なぜだ?」

 

《私はたとえマスターが死ぬ運命だとしても、付いていくのが私の使命です。

 ・・・・・・ですが》

 

「ですが・・・・・・何だ?」

 

《・・・・・・それは単なる言い訳です。

 私はマスター以外の船のメインコンピュータにはなりたくありません。

 AIである私が言うのは間違っているのですが、これは私の意志です。》

 

 俺はそれを聞いて確信した。

 やっぱりフレイアはただのAIではない、一人の【人】であり俺の家族なんだと。

 

「・・・・・・間違ってなんかいない。 フレイアが自分は意志を持っていると言うなら、俺はそれを認めるよ。」

 

《マスター、よろしいのですか?》

 

「ああ、最初の頃のお前ならともかく、今のお前は一人の人のように思えるんだ。

 だから俺はお前を俺の家族として見ていたい。」

 

《・・・・・・・・・・・・ありがとうございます。》

 

 フレイアの反応は文字が映像に表示されるだけ。 

 だが俺にはフレイアが今微笑んだように思えた。

 

 

 

 

 しかし、家族か。

 たった二年程度だったけど楽しかったな。

 ルリちゃんとユリカと三人で・・・・・・。

 

 ラピス、まだ泣いてるのか? 

 俺は一緒にいてやれないけど、お前にも他に大切な人が出来たら俺の分も幸せになってくれよ。

 

 ルリちゃん、あの時別れを告げちゃったけど、まだ言いたいことがあったんだよな。

 言いたくても言えないことが・・・・・・

 

 ユリカ、お前は何で俺のことが好きになったんだ。

 そもそもお前は俺のことが好きなのか、俺が王子様だから好きなのか? 

 俺は確かにお前のことが好きになった。

 けれどもう俺は・・・・・・

 

 

 

《マスター!! 三十km前方にボソンジャンプ反応!! それも戦艦クラスです。》

 

「何!! まさか!!」

 

 漆黒の宇宙にボース粒子の光が増大し、そこに白と赤色の一隻の戦艦が現れた。

 

「ナデシコC・・・・・・ルリちゃんか。」

 

《マスター、ナデシコCから通信が入ってます、繋げますか?》

 

「ああ、繋いでくれ。」

 

 そして表示される画面にはやはり金色の瞳の少女、ルリちゃんが映っていた。

 

『お久しぶりです、アキトさん。』

 

「そうだな、しかしどうしてここがわかったんだ?」

 

『ネルガルのトップシークレットを他企業に売ると言って脅かしました。』

 

「ずいぶんと強引な手だな。

 俺が変わったようにルリちゃんも変わったのか。」

 

『そうかもしれませんね。 

 単刀直入に言います、アキトさん、私達のところに帰ってきてください。』

 

「それはできない、俺は五つもコロニーを落としたテロリストだ。

 そんな俺が君達のところに帰れるはずが無い。」

 

『そのことなら心配いりません。

 コロニーの爆発は火星の後継者達が機密保持の為に行ったという事になりました。

 襲撃自体も連合宇宙軍が遺跡奪還のためにネルガルに極秘に依頼したことになってます。』

 

「連合宇宙軍・・・・・・ミスマルおじさんか。」

 

『はい、だから何の問題もありません。』

 

「・・・・・・・・・・・・アカツキは何か俺の事を言ってなかったか?」

 

『いえ、ただ発進する前に一言[会っても絶対に帰って来ないよ]と言ってましたが、

 そんな事は関係ありません!! 

 私は絶対にあなたを連れて帰ります。 

 それにユリカさんももうすぐ退院でアキトさんの事を待ってます。』

 

「・・・・・・・・・・・・待っているだけなんだろ。」

 

『え?』

 

「それに本当にユリカは俺を待っているのか?」

 

『アキト・・・さん?』

 

 ルリちゃんは俺の予想外の言葉にきつねにつままれたような顔をする。

 

「どちらにせよ、俺はもうユリカのところにも戻るつもりはない。 

 フレイア、ジャンプの準備だ。」

 

『待って下さい!! 今のはどういう意(ピッ!!)

 

 

 俺はナデシコCとの通信を切った。

 

《よろしいのですか? マスター》

 

「かまわない。 それに長居し過ぎるとラピスがいない今、ユーチャリスがハッキングされ掌握されかねない。」

 

《了解しました。

 ・・・・・・マスター、さっそく来ましたよ。 ハッキングです。》

 

 対応が早いな、ルリちゃん。

 さすが天才美少女艦長と呼ばれるだけあるな。

 

《それとナデシコCからスーパーエステバリスが二機、発進しました。》

 

「気にするな。 これだけの距離ならこちらに付くまでにジャンプが完了する。

 それよりハッキングの状況は?」

 

《はい、やはりマシンチャイルドだけあって、ジャンプするまでは持ちそうにありません。》

 

 やっぱり、フレイアだけでは持ちこたえられんか。

 

「わかった、俺がフルリンクして対応する。」

 

《それではマスターの体に負担が・・・》

 

「ジャンプするまでに短時間だ。 それくらいならもつ。」

 

《・・・・・・・・・・・・わかりました。 それではお願いします。》

 

 俺はウィンドウボールを形成して、むこうのハッキングに対応する。

 

 だが、やはり俺の方が処理速度が高くても経験の差で、

 ハッキングの進行を抑えるので精いっぱいだ。

 

 

 

 

 

 

 おかしいですね、アカツキさんの話ではラピスさんはアキトさんが置いていったらしいですから、

 オペレータのいない今のユーチャリスなら簡単に掌握できると思ったんですが、

 持ちこたえられちゃってます。

 

 本当ならすぐに終わるはずだったのですが、

 念の為にリョーコさんとサブロウタさんに出てもらって正解でしたね。

 

「ハーリー君、作戦通りグラビティブラスト発射後、ユーチャリスの掌握を手伝って下さい。」

 

「え、艦長だけじゃできなかったですか?」

 

「はい。 最初のうちは順調だったのですが、

 急にあちらの防御が固くなって今はほとんど硬直状態です。」

 

「ええぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 ハーリー君、驚いています。 

 当然ですね、私だって結構驚いているんですから。

 

 火星の後継者達が極冠遺跡を占拠したときは、火星全土の戦艦全てを私一人で掌握したんです。 

 それをたった一艦が耐えているのですから。

 

「とにかく早くして下さいね。」

 

「あ、はい。 じゃあグラビティブラスト、発射します。」

 

 それより、さっきアキトさんが言っていたことが気になります。 

 

 一体どういう事なんでしょう?

 

 

 

 

 

 

《マスター!! ナデシコCに重力波反応!!》

 

 なに! しまった、ハッキングにばかり気を取られ過ぎた。

 

「フレイア!! ディストーションフィールドを全開にしろ!!」

 

 

  ドガァァァァァァンンンン!!!!

 

 

《ディストーションフィールド現在四十%まで低下しましたが、何とか持ちこたえました。》 

 

「そうか、ジャンプフィールドの方は?」

 

《グラビティブラストの影響で多少不安定になりましたが、すぐに安定します。》

 

   ドガァァァアァァァ!!!

 

 ユーチャリスに再び衝撃が走る。

 

「今度は何だ!?」

 

《さっきの機動兵器がフィールド内に入ってユーチャリスに攻撃を仕掛けています。!!》

 

「一体どうやってフィールド内に入ったんだ!!」

 

《どうやらグラビティブラストでフィールドが最も弱ったところを突き抜けて入ってきたみたいです。》

 

 ルリちゃんの作戦か。 まずいな、アンカーを断てる余裕が無い。

 

《たいへんです、マスター!! 

 機動兵器の攻撃でジャンプフィールドの制御回路が断たれてしまいました!! 

 しかもジャンプフィールドが未だ不安定な状態で何時ジャンプするかわかりません!! 

 それもランダムです!!》

 

「なに!! 解除は出来ないのか!!」

 

《駄目です!! 解除も行う事が出来ません!!》

 

 まずい!! このままじゃエステバリスが巻き込まれる!!

 

「フレイア!! すぐにナデシコCに回線を開け!!」

 

 ユートピアコロニーには行けそうもないな。

 

 

 

 

 

 リョーコさん達が攻撃を仕掛けた直後に通信が来ました。 

 諦めてくれたんでしょうか。

 

『ユーチャリスのジャンプシステムが制御できなくなった。 

 何時ランダムジャンプするかわからない。 

 ルリちゃん、すぐにユーチャリスから離れるようエステに言ってくれ。』

 

 たいへんです!! 

 ランダムジャンプは本当に何処に飛ぶか分かりません!!

 

「リョーコさん!! サブロウタさん!! 

 すぐユーチャリスから離れて戻って下さい!!」

 

 リョーコさん達がユーチャリスから離れてこちらへ戻ってきます。

 

「アキトさん!! 早くあなたも脱出して下さい!!」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

「アキトさん!!」

 

『・・・・・・さっきの言葉の意味に答えるよ。』

 

「そんなの後でいいです!! 

 だから早く脱『もう時間がいないんだよ。』・・・・・・え?」

 

 私はアキトさんの言葉の意味に押し黙りました。

 

『俺はもうあと一ヶ月程度しか生きられないんだ。 

 それがアカツキが俺が帰って来ないと言った理由だよ。』

 

「そんな・・・・・・」

 

 それは私が一番聞きたくなかった言葉でした。

 

『それにわかったんだ。 ユリカは俺のことが好きな訳じゃないって。』

 

「なに言ってるんですか!! 

 ユリカさんはよくアキトさんのことを好きって言ってたじゃないですか!!」

 

『ああ、だが好きなのは王子様だったんだ。 

 ユリカはその理想を俺に押し付けていただけだったんだ。』

 

「どうして・・・・・・」

 

『俺達が誘拐された後、ユリカは遺跡と融合させるために丁重に扱われたのに対し、

 俺は多くの実験で何度も死に掛けたんだ。 

 そのことを研究員がユリカに伝えた時に弱りきった聴覚でもはっきり聞いたんだ。

 

 【アキトは絶対死なないよ。 アキトはユリカの王子様だもの。】

 

 ってな。 その時俺は分かったよ。 

 ユリカは決して俺を見てるんじゃないってな。 

 もうユリカのことなんてどうでもいいんだ。』

 

「アキトさん・・・・・・」

 

 ユーチャリスのまわりに光が集まり始めました。 

 もうすぐランダムジャンプしてしまいます!!

 

『お別れみたいだね。 さよなら、ルリちゃん。』

 

 次の瞬間、ユーチャリスは消え、そこにあったのは消えていく光の粒子でした。

 

「アキトさ〜ん!!!」

 

 私はもう回りのことが全然見えません。

 

 アキトさん、せっかく生きていたのに・・・・・・

 せっかく会えたのに・・・・・・今度こそもうほんとに会えないんですか・・・・・・

 

《ルリ、ユーチャリスからメッセージが来てるよ。》

 

 え!! アキトさんから!? 

 

『オモイカネ!! 見せて下さい!!』

 

 ウィンドウにアキトさんからのメッセージが映し出されます。

 

 

 

 

【ルリちゃん、こんな死にかたになっちゃったけど

最後に君に会えてうれしかったよ。

木星との戦争の最後に俺はユリカの事を好きだと言った。

けど明確にはその時俺は別にユリカの事は好きじゃなかったんだ。

俺が好きになったのはナデシコを降りて、三人で一緒に暮らしてた時だよ。

俺の傍にいてくれたユリカが、一緒に暮らしてくうちに好きになったんだ。

だからルリちゃん、俺は君のこともユリカと同じくらい好きになった。

世間の目とかそういうのもあって、ルリちゃんにこの事を伝えることが出来なかった。

だからもし・・・・・・もし生まれ変わって君に会うことが出来たらたら、君にこう言うよ。

『愛してるよ。ルリ』って】

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・アキトさん、ひどいです。 

 こんなもの見せられたら、あなたの事を諦めきれないじゃないですか。

 

 私、追いかけますから、何処までだって。 

 例え、アキトさんの生存確率が一%以下だとしても、私は捜し続けますから。

 

 だってあなたは私の好きな人なんですから・・・・・・

 

 

 

 

 

第一話:黒のお姫様誕生に続く




 

∞あとがき∞

 

 こんにちは、SIMUです。

 『時福』の合間に書いてみた作品です。

 時には別の作品でも書いて息抜きしてみたいと思いまして。

 前々から書いてあったんですが出そうかどうか結構迷ってまして。

 それで今回、投稿してみる事にしました。

 この作品の続編は読者の感想次第のつもりです。

 主に『時福』の方を書いていますから。

 それではもう三話残ってますのでどうぞ。

 

 

 

 

代理人の感想

・・・・・まー、よくあるプロローグかなと。