劇場版アフターストーリー

黒き仮面

 

 

第2話

 

 

 

 

 

 

すー、すー

『ん・・・何だ。』

そばで音がしている。静かな、それでいて規則的なその音を聞いているうちに

再び眠りにおちそうになるが睡魔にさからい薄く目を開く。

『ももいろ・・・ラピスか・・・

 ?

ラピス!?』

意識が一気にはっきりする。そしてあらためてラピスに目をうつした。

上半身をベッドに預けて寝息をたてている。

『情けない、この状態で今まで目をさまさなかったとはな。だがどうして俺はベッドに・・・

 いや、その前にここはどこだ?』

ラピスが目をさまさないようにゆっくりと体をおこし、周囲を見回す。

暖かな日差しが降りそそぐ窓。

部屋の中央に置かれた大きなベッド。

天井のシャンデリア。

床の赤いじゅうたん。

その他の調度品も一目で金と時間を費やしたものだとわかる。

居心地の悪さを感じ、窓に目をやると青い空が見えた。

『・・・地球じゃないな、火星でもない。月か・・・』

月の都市は太陽光を通す反球体でおおわれている。朝、昼、夜と色を変え

地球の空を再現しているがアキトの目には違いが明らかだった。

『!そうだ、俺はユーチャリスで月のドックへ飛んで・・・

ジャンプアウトしたことは覚えている。が・・・そこからは記憶がないな。

・・・倒れたか。となるとここはネルガルの施設。・・・病院か。しかし・・・』

この部屋の豪華さは腑におちない。

その事に思いをめぐらせていると

「ん・・・アキト?・・・アキト!?」

ラピスが目をさましたようだ。体を起こした俺に驚いたらしく目を丸くしている。

「ああ、おはよう、ラピス。そんなところで寝ると風邪をひくぞ?」

ラピスの表情はいつもと同じように変化がとぼしい。

だがその瞳が徐々にうるみ、涙がぽろぽろと零れおちる。

はじめて見るラピスの涙。

そう、ラピスが俺のサポートをするようになって1年余り。

にもかかわらず11歳の少女が涙一つ見せたことがなかった。

その事実は少女が生きてきた人生の過酷さを雄弁に物語る。

そんな少女が表情を浮かべずに、ただただ涙を流している。

その、不自然ではあるが美しい光景に俺の胸は熱くなる。

「心配かけたな、もう、大丈夫だから・・・」

ラピスの小さな手にそっとふれる。その手をラピスは抱きしめた。

全身で俺の生を確かめるかのように・・・

 

 

コン、コン

部屋を満たしていた静寂が破られ、金髪と黒髪、2人の女性が姿をあらわす。

もちろんイネスさんとエリナさんだ。ラピスは涙をぬぐい、ベッドの上、俺の隣にすわった。

「気分はどうかしら?この部屋は落ちつかないかもしれないけど」

二人はベッドの横に置かれた椅子に腰をおろす。

これも手の込んだ装飾が施された、いかにも高そうなものだ。

「ずいぶんタイミングがいいな、エリナさんは事後処理で忙しいと思ったが。」

「エリナが忙しいのは間違いないわ。

 タイミングがいいのはこの下のフロアを占領してオフィスにしているせい。

 もともとVIPが入院するための部屋だから設備は整っているけど、ほんと無茶よね。」

「うるさいわよ!私もここにいたほうが護衛が少なくてすむだけよ!」

ぴしゃりといって横を向いてしまった。もっとも顔がいくぶん赤くなっているのは隠しようがないが。

心の中で苦笑したものの、お行儀よく他の話題に移る。

「イネスさん、俺は何日寝ていた?」

体の感覚は2日以上経過していると主張している。3日か4日・・まさか

5日ということはないと思うが・・・

「3日。正確には3日と10時間43分。

 いいかげんに体の不調を隠すのはやめなさい、子供じゃないんだから。」

「今からならいくらでも養生してやるさ。大丈夫なんだろう、エリナさん?」

「ええ、不測の事態は起きていないわ。おおむね予想どおりというところ。

 火星でナデシコCが掌握した艦隊は統合軍が強引に引きとったわ。

 まだ地球には到着してないけど全員、軍の刑務所送りね。統合軍の面子丸つぶれだもの。

 その連中とは別行動をとっていた艦隊がまだ投降していないけど

 首脳部と切り札をおさえた以上問題にならないわ。

 うちの会長はミスマル総長と組んで連合議会の工作に躍起。

 今のところクリムゾンに仕掛ける気はないようだからアキト君は遊んでいていいわね。

 護衛だけなら月臣君たちだけで十分。」

「・・・ユリカは?」

俺は手を握りしめる。正直なところ、答えを聞くのが恐ろしかった。

俺のそんな様子にイネスさんはきづいたのだろう、彼女にしては珍しく簡潔に答えてくれた。

「完全に健康体といっていいわ。

 連中からせしめたデータによると、下手に手を加えた人間を"遺跡"と融合させると"翻訳機"として

 働かなくなるようね。それで助かったの。

 それどころか融合していた間は肉体の時間が停止するようだから年もとってないわ。」

二人とも難しいお年頃だ。"歳"のことに触れると、それまではにこやかだったイネスさんの声ににがみが

まじり、エリナさんは実に不満そうな表情をしている。

緊張から開放されたこともあり、俺の顔に笑みが浮かぶ。

「なに笑ってるの!そうそう肝心の遺跡だけど、まだ火星のラボから動かしてないわ。

 迂闊に扱うわけにはいかないから。」

それを聞いて俺の心はふたたび沈む。

遺跡・・・ボゾンジャンプの演算ユニット。

俺の人生に幾度となく関わってきた、この古代火星文明の遺産は、3年前に俺たちが宇宙の果てに

飛ばしたはずだった。座標を指定しないランダムジャンプであればそうなるはずだった。

それがクリムゾンの勢力圏に、それもネルガルでさえ探知できないような地点にボゾンアウトする。

何万分の1、何億分の1という確立だろうか。おかげでボゾンジャンプの軍事利用を阻止しようとした

俺がジャンプを最大限に軍事利用するはめになり・・・遺跡は結局、軍の手に収まる・・・

「道化だよな・・・」

おもわず自嘲の声が出る。

「えっ?」

エリナが怪訝そうな顔をする。

「いや、なんでもない。

 ところでなぜ仕事がなくなった俺を処分しなかった?俺は百名以上の死者を出した重犯罪者。

 それをかくまうようなリスクをおかすだけの価値はもうないだろう?」

「そうね、連中の身柄を宇宙軍が抑えていれば『テンカワ・アキトはいままで囚われの身だった』

 と強弁する事もできたけど。

 ・・・あなたが生きていると知れば統合軍は自分たちの失態から目をそらすために徹底的に利用する。

 間違いなく、宇宙で最も名の売れた犯罪者にしたてられるわ。軍人以外の死者は連中の仕業なのにね。」

「もう1度聞くぞ。なぜだ?」

何十回、何百回と悩みぬいた末に選んだ道だ。

いまさら後悔などしないが聞かされて気持ちのいいものでもない。おもわずきつい口調になった。

「あなたがテンカワ・アキトではなくなるから」

「・・・何の冗談だ?」

「かくまうのがテンカワ・アキトだから問題になるの。

 他の人間をかくまっても、いえかくまうという言葉は適切じゃないわね。

 他の人間をネルガルが治療したところで何の問題もないわ。」

「いいたいことはわかるが・・・無理だ。今度ばかりは統合軍も必死だ、

 そんな詭弁じゃどうにもならない。」

「ふふふ、アキト君、私が中途半端なことをするとおもう?

 指紋、網膜パターンは言うに及ばず遺伝子まで完全に別人にしてあげるわ。」

イネスさんの目の色が変わっている。本当にやるつもりだ!

「アキト君、冗談よ。逃げなくていいから。」

エリナさんが苦笑しながら俺のパジャマの裾をつかむ。

「冗談を言っている場合じゃないだろうが・・・」

まったく冷や汗ものだ。イネスさんじゃ冗談にならない。

・・・実際、イネスさんは本気だったのだろう。かなり残念そうだ。

「でもあなたに別人になってもらうというのは本気よ。」

エリナさんの表情が真剣なものになる。

「そもそもアキト君、あなたをテンカワ・アキトだと証明するものは何?」

「・・・指紋、網膜パターン、いくらでもある。」

「普通はね、だけどテンカワ・アキトは書類上、2年前に死んでいる。

 あなたの個人データは公共機関には残っていないわ。」

「おい、忘れているんじゃないのか、統合軍はれんちゅう火星の後継者をおさえているんだ。

 俺のデータぐらいいくらでも入手できる。」

連中にとっても俺のデータは貴重だったはずだ。保存していたと見てまず間違いない。

そして『電子の妖精』が操るナデシコCならば連中の非道を証明するための証拠、

人体実験のデータを隠滅させはしないだろう。

この二人にそれがわからないはずはないのに、顔を見合わせて笑っている!

「やっぱりまだ寝ぼけてるみたいね。」

「どういうことだ?」

「わからない?連中を捕らえたのはホシノ・ルリ、

 あなたに不利になるようなものを残しておくはずがないでしょう?

 人体実験の証拠としての価値がなくならないように、それでいてあなたのデータが欠けていても

 不自然と思われないように、所々データを破壊しているわ。

 あの時点でそこまで頭が回るなんてね、まったく末恐ろしい子!」

悔しがる統合軍とクリムゾンが目に浮かぶのか、口とは裏腹に目が笑っている。

「と、いうわけで、アキト君、別の人間になってもらうわ。・・体はいじらないから・・・いいわね?」

ラピスのこともある、もうしばらくはネルガルの庇護を受けられるほうが俺としても都合がいい。

エリナさんの有無を言わせない口調に俺は頷いた。

「・・・仕方ない。・・体をいじられずにすむなら我慢するよ。」

「よろしい。じゃあ、あとは顔を変えなきゃね。」

今妙なことを聞いた気がする。

「あら当然じゃない。いくらなんでもその顔のままじゃごまかせないわ。

 ・・・・顔だけは変えてもらわないと。」

呆然としている俺をみてエリナさんがさらりと言う。

「大丈夫、宇宙一の美男子にしてあげるわ。」

俺のほほを両手でなでながらイネスさんが優しく言う。

「アキト、かっこよくなるの?」

口をつぐんでいたラピスが俺の顔を見上げて問いかける。

ラピスの情操教育をかんがえれば無視など断じて許されないのだが・・・

このときの俺はラピスに答える事ができなかった。

 

第二話 了

 

 

<あとがき>

どうも、獅子丸です。アキト、整形することになりました。

書きだす前は予定になかったのですが・・・

そのため整形後の顔、および偽名をまだ考えていません。

何しろアキトの偽名ですからそれなりのものを考えないといけません。

でも名前も顔も、考えるの苦手なんです。

というわけでアキトの顔と名前、募集いたします。

いいネタをお持ちの方で「使ってもいいぞ」という方は

メールでお送りください。

獅子丸的にホームランであれば使わせていただきたいとおもいます。

アキトに使わなくてもオリキャラで使うかもしれませんし。

ひとつよろしくお願いします。

それでは第3話のあとがきで。

 

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

獅子丸さんからの投稿です!!

そうか別人になっちゃうんだ。

・・・しかも、イネスさん好みの美男子に(爆)

今後はどのような展開になるのでしょうかね?

それにアキト君の名前を募集されてますし(笑)

皆さん、どうか獅子丸さんに協力をお願いしますね!!

Benは名前で”タカト”を提案します(笑)

 

では獅子丸さん、投稿有り難う御座いました!!

次の投稿を楽しみに待ってますね!!

 

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