_どうも、今日はよろしくお願いします



「えぇ、こちらこそ」



_しかし、お会いしておいて言うのもなんですが・・・・・・

 まさか、この取材をお受けいただけるとは思ってもいませんでしたよ。



「ふふっ。

 まぁ、確かにこういった関係の取材はお断りしてるんですけどね?」



_ええ。

 貴女のその若さと美貌、加えて地位を考えれば、ゴシップ記者が群がっても不思議じゃないです。

 それと・・・普段の貴女の喋り方も。

 出来れば、自然に出来るほうで話してもらいたいんですけど・・・・・・・・・



「ん、そうですか?」



_何と言うか・・・・・・テレビとかで見た印象と違うので、何か、違和感と言うか・・・・・・・・・



「うん、わかります。

 私自身、違和感感じてますしね?

 じゃあ、お言葉に甘えて。



 ・・・・・・まずは、有難う(くすり、と笑って)。

 さっきの、綺麗だって言ってくれた事に対してのお礼だよ、これは。

 実際、ネガティヴな考えからの取材も、結構あったからね。

 アレで通るなんてどういう事だ、なにかやったにちがいない、とか。

 くだらない、低俗な意図での取材も多かったようだし」



_そ、それは・・・・・・

 ご災難でしたね。



「うん。

 でも、貴社の取材に関しては、そういった考えは無い、と判断させてもらったから、こうやって受けてるんだよ」



_それは光栄です。



「貴社のシリーズ・・・『漆黒の戦神・その軌跡』も、読ませてもらってるし?」



_あ、そうだったんですか!?

 それこそ光栄です。



 ・・・・・・・・・と、前置きが長くなってしまいました。

 そろそろ、お話のほうを伺いたいのですが・・・・・・・・・・・・



「ああ、そうだね。

 いいよ」



_では、まず自己紹介からお願いします。



「セリア・F・フェリシング。

 職業は・・・・・・・・・政治家かな?」










「漆黒の戦神」アナザー

    セリア・F・フェリシングの場合














_では、『彼』との出逢いから、どうぞ。



「『彼』と出逢ったのは・・・・・・・・・そう、西欧に於いての戦局が大きな節目を迎えたころだったな。

 その頃は、木連と地球の、ヨーロッパ周辺での勢力図が、大幅に変わりつつあった時期だったから・・・・・・」



_Moon Nightの活躍で、ですね。



「そう。

 それで、この時期に強固な連帯関係を結んでおこうって話になって。

 そこで、私はまだ接点の少なかったある国に赴いたんだよ」



_成る程。

 被災時の支援体制なんかでは、横の繋がりが良ければ対応も迅速になりますからね。



「その通り。

 それで、あるホテルの一室で話し合いを始めたんだけど・・・・・・・・・

 間が悪いことって、あるものだよね?

 寄りにも寄って、そんな日に無人兵器の襲撃があるなんて」



_ええ!?



「冗談みたいだろ?

 でも本当だよ。

 向こう側の代表が、

 『それでは・・・・・・・・・』

 って言った直後に、轟音とともに警報が鳴ったんだからね。

 あの時ほど、『事実は小説より奇なり』って言葉の意味を思い知ったことはなかったよ」



_それは、まぁ・・・・・・・・・・・・。

 しかし、ご本人を目の前にして言うのもなんですが・・・・・・良く生きておられましたね。



「うん、それは私自身思う。

 部屋の窓から外が見えたけど・・・ああ、高層ビルの20階だったからね・・・、かなりの地域で火災が発生していたし・・・・・・・・・

 ビルそのものも、時々イヤな音を立ててたから」



_あ、いま資料が届きましたが・・・・・・確かに。(←新聞の記事を読みながら)

 その日に襲撃があったことが載ってますね。

 でも・・・・・・負傷者2541人、市街被害率23%・・・・・・こりゃ酷い。

 これを見ると、さっきの『事実は小説より奇なり』という言葉が、本当に真実味を帯びて感じられます。

 でも、この人的被害の中で、『死亡者:21人』というのは・・・・・・・・・亡くなられた方たちには失礼ですが、異常な数字に感じられるのですが。

 ――あっ、それは、ひょっとして『彼』が居たから、ですか・・・・・・・・・!?



「うん。

 ・・・尤も、結構遠くに居たみたいで、来るのに時間がかかっていたらしい。

 戦闘が終わった後で、悔やんでいたようだけどね。



 ・・・・・・それで、話を戻そうか?」

_あ、はい。



「下に下りようにも、更に運の悪いことに階段が潰れていてね。

 天井のコンクリートが崩れて、塞いでいたんだけど。

 どうしようもない状況だったよ。

 『こんなところで、こんな呆気ない死に方をするのか』

 ・・・・・・・・・なんて、冷静に思っちゃったね」



_は、はぁ・・・・・・・・・・・・



「人間、どうしようもない状況に陥ったら、むしろ冷静になっちゃうのかもしれないね。

 まぁ、私がそうだっただけかもしれないけど。

 周囲の人たちは、鳴いたり喚いたりする人も多かったしね」



_それは人それぞれだと思いますが。

 それで、どうなったんです?



「ああ、ごめんごめん。

 で、これ以上状況が悪くなりはしないだろう、と思ってたんだけど。

 その矢先に、いきなり壁が砕けたんだ」



_はい?



「その音に驚いて、そっちを見てみたら・・・・・・・・・そこには、一つの影があってね」



_わかりました!



「ん?」



_それが、『彼』だったわけですね?

 ピンチを救ってくれた英雄!

 いやぁ、心憎いまでのタイミングだし。

 セリアさん、やっぱり、政治家だけあって話し上手・・・・・・・・・・・・



「違うよ」



_へ?



「だから、その影は『彼』じゃなかったんだよ」



_ええっ!?

 じゃあ、一体・・・・・・・・・・・・



「確か、バッタ・・・とかいったかな?

 木連の無人兵器。

 それだよ」



_えええぇぇぇぇぇッッ!!?



「(苦笑して)無理も無い反応だと思うけどね。

 ぎょろりとしたあの無機質な目を見たときには、私もゾッとしたから」



_そ、それで、一体どうなったんですかッ!?

 いや、セリアさんはここに居られるわけだから、どうにかなったのはわかるんですが!



「運が悪い時って、重なるものだよねぇ・・・・・・。

 バッタのすぐ傍には女の子が居てね。

 八歳か、九歳くらいだったかな・・・・・・?

 足がすくんで、動けないみたいだった。

 私は、咄嗟にバッタに斬りかかったよ」



_・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?



「ほら、コレ」(言いつつ、持っていた杖を出して)



_うわっ!

 こ、これは、仕込杖・・・ですか!?



「まぁ、ね?」



_じゅ、銃刀法は・・・・・・・・・



「大丈夫。

 ちゃんと携帯許可は取ってあるから」



_そ、そう言う問題じゃない気もしますが・・・・・・・・・・・・(汗)。



「元々、私の家には代々伝わっている剣技があってね。

 確か・・・・・・・・・1500年代くらいだったかな?

 漂流していたサムライを助けてもてなしたときに、礼として教えてもらったそうなんだけど」



_は、はぁ。

 そりゃまた、えらく歴史のあるモンですな・・・・・・・・・



「それで、そのサムライが持っていた刀のうちの一口を譲り受けたらしい。

 これがその刀だって言われてるんだけど、ね。

 万が一の為に、携帯してたんだ」



_(「万が一」な状況って、いったいどんな状況のことだよ・・・・・・・・・)

 そ、それで、セリアさんは勇猛果敢にバッタへと正義の剣を振り下ろしたんですね!?(←もうヤケ)

 そして危機を脱したと!

 いやぁ、素晴らしい!!

 文武両道八面六臂天下無双ッッ!!!

 ・・・・・・・・・って、それじゃあ彼の出番が無いぞ・・・・・・・・・



「・・・・・・・・・トリップする癖でもあるのかい?」



_うおっ!

 し、失礼しました(滝汗)。



「私は普通の人間だよ?

 ミサイルでも簡単に落とせないバッタを、剣で倒せるわけ無いだろう?」



_ご、御尤も。



「精々、足を数本斬り落とすくらいだったよ」



_・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それでも、充分スゴいと思うんですが。



「細くて装甲がかなり薄いから、結構簡単に切断できるんだよ?」



_いえ、それは・・・・・・・・・・・・(言葉を探している)

 と、とにかく!

 それからどうなったんです!?

 倒せなかったのなら、接近した分だけ危険になってると思うんですガっ!



「うん。

 もう一撃喰らわそうと思った瞬間に、体当たりを逆に喰らっちゃってね。

 意識が飛びそうになっちゃったよ」



_笑いながら言う事じゃないでしょーがッ!

 はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・・・。



「そんなに息を切らすほど叫ぶこと無いのに」



_アンタの行動が原因なんですが・・・・・・・・・・・・。

 (完っ全に天然だ、このヒト・・・・・・。やっぱ、テンカワ・アキトに惚れる女に普通の女はいねぇのか!?)



「流石に、『もうダメだな』と思ったんだけどね。

 次の瞬間に、バッタが視界から消えたときは何があったかと思ったよ」



_え?



「直後、また壁が砕ける轟音がした。

 反射的にそっちを見た私は、今度こそ絶句したよ。

 さっき、バッタが侵入してきたのと同じくらいの大きさの穴が、壁に穿たれてたんだから」



_・・・ということは・・・・・・・・・

 バッタが吹き飛んで、その穴から外へ放り出された・・・ってこと、ですか・・・・・・・・・・・・!?



「俄には理解できなかったけど、ね。

 反対側を見たら、一人の男性が立ってたよ。

 拳を前方に突き出した格好で」



_と、いうことは・・・・・・・・・・・・



「そう。

 会った事も、顔写真も見たことは無かったけど、瞬間的に理解したよ。

 彼が、テンカワ・アキトだ・・・ってね」



_・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



「私は、『有難う』って言おうとしたんだけどね。

 流石にさっきのダメージのせいか、咳き込んじゃった。

 そしたら、彼、心配そうな顔をして近づいてきて、背中をさすってくれたんだ。

 華奢に見える体つきに反して、大きくて、温かい手だったことを憶えてる。

 ・・・・・・やっと一息つけた私は、漸く『有難う』っていったよ。

 そしたら、彼は訊いてきた。



『何故、あそこでバッタに挑んだ?

 無駄で無謀なことくらい、わかっていたハズだ』



 ってね。

 私は、



『あの状況で何にもしない人間は、男じゃないよ。

 尤も、私は女だけど、ね』



 って答えた」



_それは・・・・・・・・・。



「そしたら、次に彼が発した科白ときたら。



『貴女はとても優秀な人だと聞いている。

 こんな所で、助けられる見込みの無い行為をして、無駄に命を散らせるのか?』



 だったよ。

 ああ、誤解しないで欲しい。

 字面で聞いたりすると、非道い科白に聞こえるけど、このときの彼には、どこか試すような感じがしたんだ。

 私は素直に言ったよ。



『目の前の子供一人助けられないで、何が出来ると言うんだい?』



 ってね。



『「大を生かして小を殺す」なんて、私は嫌いだ。

 でも、「小を生かして大を殺す」のは愚の骨頂。

 ならば、私は両方手に入れるよ』



 そう言ったら、彼は笑って言った。

 欲張りなんだな、ってね。



『でも、決して不可能じゃないだろう?

 やらずに諦めるより、やって失敗するほうがいいさ。

 現実に背を向けて倒れるより、未来へ前のめりに倒れるほうがいい』



 彼に釣られて、私も笑ってたと思うよ。

 そして、彼は言った。



『貴女のような人がいてくれて、良かったと思ってる。

 政治家も、クズばかりじゃないって事がわかって。

 ・・・・・・・・・ずっと、その考えを持ち続けて欲しい』」



_彼は、軍だとか政治家だとかに、かなりの嫌悪感を持っていらっしゃるようですからね・・・・・・。

 そんな彼にしては、最高の誉め言葉でしょう。



「そうだね。

 そしてその認識は概ね間違ってないから問題なんだけど」



_こういう仕事をしてると、そういうところがモロに見えちゃうんですよね・・・・・・・・・。

 自己利益、自己保身・・・・・・どうしてそう言う事しか頭に無いんだっ! って人間ほど上にいるし。

 昔のアニメキャラの科白じゃないですけど、つい『俗物が!』って言いたくなっちゃいますよ・・・・・・・・・・・・。



「うん、わかる。

 実際政界にいると、そう思うことはいつもだからね」



_そんな中で、貴女は清廉潔白、有言実行。

 だから支持されるんですよ。



「有難う。

 ・・・・・・って、また脇に逸れてるよ?」



_あらら、なんででしょうね・・・・・・?(汗)

 じゃあ、それからどうなったのか教えてもらえますか?



「彼はそのまま去っていこうとしてたんだけどね。

 私は引きとめたんだ。

 ・・・・・・・・・言うのは少し恥ずかしいけど、さっきの科白を言った時の彼の笑顔に、やっぱり魅せられてたんだろうね。



『命の恩人に、お礼くらいさせてもらえないのかな?』



 って。



『礼が欲しくて助けたわけじゃない』



 って彼は言ったけど、多分、他の政治屋たちと一緒にいるのはゴメンだ、って思ってたんだろうね。



『個人的なお誘い、だよ?

 命の恩人をデートに誘って、何か不都合がある?』



 だから、私はそう言った」



_ず、随分とストレートなアプローチですね。



「うん、今考えたら、やっぱり・・・・・・・・・かなり、うん。そうだね。

 まぁ、そしたら彼は、少し驚いたような顔をして。

 苦笑して、OKしてくれたから、問題は無いよ」



_(多少意味不明な言動が目立ってるけど、照れ隠しかな・・・・・・?

  ・・・・・・カワイイじゃねえか!

  くそう、テンカワ・アキトめぇ!!)

 ・・・・・・・・・それから、どうなったんですか?

 デートの成果は?



「うーん、彼と一緒にいたい、っていうのが一番にあったけど。

 実は、最初から街の復興を少しでも手伝いたかったんだよ。

 翌日、彼にそのことを話したら、



『それじゃ、オレは炊き出しをやりますから、誘導だとか整理をお願いします』



 って言ってくれてね。

 私がそのことをやるのに、疑問も抱かず、むしろ嬉しがるみたいに手伝ってくれたんだ。

 ・・・・・・多分、それで完璧に、彼にノックアウトされたんだね」



_まぁ、戦場と報道での彼しか知らない人から考えれば、どっちもどっちだと思いますけどね(汗)。

 



 ・・・・・・・・・では、そろそろ紙面も尽きそうなので、最後に彼に一言。





「もうすぐ終わるよ。

 そしたら直ぐに直行するから。

 待って、迎えに着てくれたら嬉しいな」



_有難う御座いました。















<セリア・F・フェリシング>

 現アカシア共和国首相。

 この国は周辺国から時代錯誤だと非難され続けてきた封建国家だったが、彼女が若干16歳で王位を継いだとき(不幸なことに、前国王や王妃、皇太子は、親善訪問中にテロに遭い、還らぬ人となっている)、本人の意向により共和制へと移行した。

 元々国民からの信頼厚く、人格的にも政治的手腕に関しても高い評価を受けていた彼女は、その後の選挙にて、立候補もしていないのにトップ当選を果たす。

 その後いかにして国の発展に腐心し、改革を成功させてきたかは、言わずもがなである。

 現在、五年の任期うち残りが半年に迫っているが、再出馬の予定は全く無いとのこと。



 ――――「漆黒の戦神・その軌跡 第76巻より抜粋」









































 そこは、大きな部屋であった。

 このテンカワ邸では、広い部屋などそれこそ山のようにあるのだが、ここは別格である。

 中央に大きなテーブルが置いてあり、両極にドア。

 テンカワ邸と外界を繋ぐ唯一の接点―――「謁見の間」である。


 今、ここには、三人の人物が存在していた。

 一人は、このナデシコ王国を統べる国家元首(の割に権力は無いが)、テンカワ・アキト。

 もう一人は、『天河一族』に於いて、外交を主に担当する、テンカワ・カスミ。

 最後の一人は、アキトの第一妻であり、色々な意味で畏れられている最強(凶)の女性、天河舞歌である。


 彼らがここにいるのは、今日、この天河一族に新しい家族が増えるからだ。

 まだここには到着していないようではあるが、アキトたちの方が早めに来ているし、

 ここに着いてからまだ五分ほどしか経っていない為、待つのは大した苦ではない。

 それに、天河一族付きのSPは優秀ぞろいでもあるので、向こうが時間に遅れることは無いだろう。



   ピリリリリ・・・・・・



 電子音が響いた。

 『外』側の扉の傍に、人が近づいたことを示すものである。

 アキトは、コミュニケでウインドウモニターを呼び出し、外を確認した。


『お連れいたしました』


 と、モニターが拾ってきた音声を伝える。

 聞き覚えのある声だ。

 アキトが外に出る際、よく護衛の任に着く男である。

 視覚のほうでも彼を確認すると、アキトは


「どうぞ」


 と応えた。

 そして、


「オモイカネ、開けてくれ」


 と、言う。


<OK、アキト>


 ウインドウに出るオモイカネの返事。


 そして、



   ウィー・・・・・・・・・・・・・・・ン



 巨大な、対爆・耐震・耐火・・・・・・と、あらゆる災害処理の施された、分厚い扉が開いていく。


 扉が完全に開ききる。

 そこに立っていたのは、一人の女性と、彼女を取り囲むようにして護衛する三人のSPたちであった。

 生真面目に敬礼をする彼らに、アキトは


「有難う。
 ・・・・・・それと、何度も言うけど、敬礼はいいんだけど・・・・・・」


「いえ、これも任務ですので」


 譲らないSPたち。

 何度目になるか、本人たちも覚えていないのではあるが、何時もの光景である。


「では、我々はこれで」


 言うと、彼らは後ろを向いて立ち去っていった。


 後に残されたのは、一人の女性。


「―――久しぶりだね、アキト」


 元アカシア共和国首相、セリア・F・フェリシングである。

 にっこりと笑う彼女に、アキトはゆっくりと近づいていった。



 と。
 それよりも速く動いた人物がいる。


「こんにちは、セリアさん」


「ああ、どうも、舞歌さん」


 ・・・・・・・・・舞歌である。


「改めて・・・・・・ようこそ、ナデシコ王国へ。
 私たちはあなたを歓迎するわ」


 にっこりと笑って手を差し出す舞歌。

 セリアは、真っ先に話し掛けてきた舞歌に多少戸惑いながらも、「ありがとう」と言い、手を握り返した。


 アキトとカスミが、漸く近くまで来る。


「えっと、・・・・・・これからよろしくね!」


 とはカスミ。

 セリアは、天河一族に入ると、外交や執政関係に携わることが既に決まっている。

 カスミにとっては、仲間(しかも実力と実績のある)が増えることになるので大歓迎であった。

 初対面ではあるが、遠慮なく肩を叩き歓迎している。


「うん、よろしく」


 セリアの方でもその辺りのことは聞いているので、にこやかに握手。


 そして、最後に残ったアキト。

 何か言葉を探すようなそぶりをしている。


 セリアは、そんなアキトに微笑むと、


「――――!!」


 すっ、と近づき、キスをした。


「あらあら」


 舞歌がからかうような笑みを浮かべる中、セリアは唇を離すと、悪戯っぽく笑う。


 アキトは、はぁ、と一つため息をつくと、


「えーと・・・・・・今日から、家族として、・・・・・・よろしくっ」



 と、言った。

 セリアのキスで、どこか気持ちが切り替わったらしい。

 そんなアキトに、セリアは、


「うん。

 これから、末永くよろしく、ね」


 と、言った。






















 ・・・・・・その数日後の夜のことである。

 より正確に言うとすれば、それは既に早朝と言ってもいい時刻であった。

 コツコツと足音を立て、通路を歩く女性が居た。

 カスミである。

 少し喉の渇きを感じたカスミは、自室を出て近所の自動販売機まで飲料を買いに来ていたのだ(運悪く、良く飲むスポーツドリンクを切らしていたのである)。

 何故こんな時刻にか、と言うと、外交で早急に解決しなくてはならない問題があり、徹夜をしていて、さっき仮眠から目覚めたところなのである。

 まぁ、こんなことは特に珍しくは無いので、気にしてはいない。

 ただ、お肌への影響もあるので、今度イネスの所へ行って相談しようかしら、とも思っていた。


(あら?)


 と、彼女は、近くの部屋から出てくるマイヤを見た。

 マイヤのほうも、カスミに気付いたようで、近づいてくる。


「あら、カスミママ。

 どーしたの?」


「え?

 私はちょっと飲み物を買いに来てたんだけど・・・・・・

 マイヤちゃんこそどうしてここに?

 こんなところに居るなんて珍しいじゃない」


 マイヤ・・・というか、舞歌の部屋はこことは別の区画にある。

 特に用事が無ければ、よっぽどの偶然が無い限り、ここでマイヤとカスミがすれ違うことなど無い。


(あそこの部屋って、誰のだったかしら・・・・・・・・・?)


 ただでさえ広いこのテンカワ邸。

 近所(?)の奥様の部屋は把握しているとはいえ、ぱっと見で判断することは甚だ難しいのである。


「んー、ちょっと、セリアママのところに行ってたの」


「セリアさんのところに?

 でも、・・・・・・・・・こんな時間に?

 ってことは、ずっとセリアさんの所に居たの?」


 そう言えば、セリアの部屋はこの辺りの区画になったんだった。

 そんなことを考えるが、マイヤがそこに行く意味がよくわからない。


 新しい母親であるセリアの、子供たちへの顔見世は、彼女がやってきた日にすぐ行われた。

 だから、マイヤが彼女に会っていなくて今日(?)行った・・・などと言う事はありえない。



「ああ、ママは了解してるわよ。

 っていうか、『行って来なさい』って言ったの、ママの方だもの」


「え?」


 イヤな予感がした。


 舞歌は、ことマイヤに関してはいろいろと策謀する(尤も、マイヤ以外のことでも鬼のようにタクラむのだが)。

 「〜〜しなさい」といった場合、常識的なこと以外では意味が無いことの方が少ないのだ。

 一体、何を考えて・・・・・・・・・・・・



「おっもしろかったわよ〜。

 いろんな話が聞けたもの」


「何の話?」


 ほくほく顔のマイヤにカスミが訊くと、マイヤはニヤりと笑って、


「ん、パパをいかにワナにかけるかっていうお・は・な・し♪」


 とのたまった。


「・・・・・・・・・え?」


「セリアママって、ママとはまた違ったタイプの策士なのね〜。

 とっても実りのある時間を過ごせたわ。

 じゃ、わたしはパパのところに行ってくるから♪(はぁと)」



 言うと、マイヤは風のように走り去っていく。
 むしろ疾風(かぜ)と言った方が正確ではないか、というくらいのスピードである。
 擬音にすれば「どぴゅーーん」といった感じだろうか。



 そして、後には、呆然と立ち尽くすカスミだけが残されていた。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 無言。

 というか、言葉が出て来ないようである。

 通常の三倍のスピード。

 ・・・・・・そんな言葉が頭に浮かんだりしている。

 混乱しているようだ。


 頭を振ってそんな思考を追い払う。

 彼女は、頭が猛烈に痛くなるのを感じていた。


 頭をブンブン振ったせいで、いらん考えは吹き飛んだが、そのせいでない頭痛を余計に酷くしてしまったようだ。

 徹夜のせいではなく、クラクラとする。



 頭を抱えると、彼女は心の中で絶叫した。




(ま、舞歌さん・・・・・・っ!!

 アナタ、これ以上マイヤちゃんを強力にするつもりですカッ!!?

 これ以上は、もう私たちの手には負えないわよ〜〜〜〜〜!!!!)









 天河一族を背負う、美人外交官の悩みは、尽きないようである。





















おわる。






あとがき


 昴、です。

 お久しぶりですが、「漆黒の戦神」アナザーです。

 今回アキトが落としてたのは、大統領、です(笑)。

 ぢつは、ペテン師さんの「シキシマ・エイジの場合」を読んだときから、考えていたキャラだったりします。
 (デカい権力持ったヒト、ってことで)

 尚、これを書くにあたって、世界観やキャラクターの使用の許可、及び助言をくださった、別人28号さんとペテン師さんに、
 篤くお礼を述べさせていただきます。

 尽きぬ感謝を。

 有難う御座いました。



代理人の感想

う〜む(苦笑)。

個人的には封建国家というだけで否定はしたくないんですよね。

現実世界を見ても、どこぞの軍事独裁国家よりマトモな政治をやってる封建国家なんて沢山ありますし。