「終わったな……全て」

 

 アキトさんが、そう呟きます。
 その顔には、心からの安堵、そして遙かな過去への追憶が表われていました。

 

 『火星の後継者』との、最終決戦。

 

 苦難に満ちたその戦いを終え、いま、アキトさんは本当の意味で開放されたのです。
 過去の呪縛……自分自身を締め付ける罪悪感、後悔……それらを乗り越え、手に入れた勝利。

 

 でも………全て終わったわけじゃありません。
 もっと大事な……そして一番重要なことが、これから待っています。
 そのことは、アキトさんも充分承知しているのでしょう。
 どこか、辛そうな、苦しそうな表情も、浮かべています。

 

 でも、それが杞憂に過ぎなくなるのを、わたしは知っていました。

 

 

 

 

 

全てのひとに花束を

 

 

 

 

 ナデシコのブリッジには、全員が集まっていました。
 この問題の当事者たち……すなわち、アキトさんを愛する女性陣。

 

 幼馴染にして、過去―――正確には未来、ですが―――の妻―――ユリカさん。

 

 通信士で、元声優―――メグミさん。

 

 エステバリスパイロット、アキトさんの戦友―――リョ―コさん。

 

 医療室を預かり、アイちゃんでもある―――イネスさん。

 

 ネルガル会長秘書兼ナデシコ操舵士―――エリナさん。

 

 食堂でのアキトさんの同僚、ホウメイガールズの五人―――サユリさん、ミカコさん、
 ジュンコさん、エリさん、ハルミさん。

 

 もう一人の電子の妖精、アキトさんとリンクしている―――ラピス。

 

 西欧方面軍司令長官の孫娘、通信士の―――サラさん。

 

 サラさんの双子の妹にして、『白銀の戦乙女』と呼ばれるエステバリスライダー―――アリサさん。

 

 エリナさんの妹、整備班所属の―――レイナさん。

 

 北辰の娘、アキトさんと唯一互角に闘える人―――北斗。

 

 そして、わたし―――ルリ。

 

 集まった理由は、言うまでもありません。

 

 誰を、選ぶか。

 

 

 

 

 

 

 『火星の後継者』との戦いが始まる少し前。
 アキトさんが全てを話しても……みんな、その想いは揺らぎませんでした。
 いえ、本当はそんな事はありえなかったのでしょうが、それでも“想い”を消し去ることなど、
 出来ない相談です。

 

 過去など、関係ありません。
 わたしたちは、それをも含めた『アキトさん』を好きになったのだから。
 そして、そのことをアキトさんに告げると………
 この戦い………『火星の後継者』との決着がつくまで答えを待って欲しいと、アキトさんはわたし達
 に言いました。

 

 頭を、下げて。

 

『今すぐ、答えないといけないと思う。引き伸ばすのは、悪いと思う。
 みんなの想いを弄んでいるとも……思う。
 ―――でも……この決着がつくまで、待って欲しい。
 大切なことが……足掻いて足掻いてさがしていたことが、わかるような気がするんだ。
 だから、その時まで……待ってくれ』

 

 そう、言ったのです。 

 

 そして、いま。
 全ての戦いが終わったいま、その答えを、アキトさんは口にしようとしていました。

 

 

 

 

 

 

 ブリッジを、沈黙が包み込んでいます。
 十六人の女性と、一人の男性の想いが、交錯して。

 

 そして……

 

「俺は………」

 

「ストップ!!」

 

 アキトさんが口を開いた瞬間。

 

 ユリカさんが、いきなり大声を出しました。

 

 目を丸くするアキトさん。

 

 そのアキトさんを、ユリカさんは優しげな目で見つめています。

 

「アキト……アキトは、優しいよね」

 

「な、何言ってるんだ、ユリカ?」

 

 わけのわからない言葉に、困惑するアキトさん。
 そんなアキトさんを無視して、ユリカさんは続けます。

 

「アキトが言おうとすること…わたし、ううん、わたしたちにはわかってる」

 

「誰も、選ぶことなんて出来ませんよね、アキトさんには」

 

 今度は、メグミさん。

 

「貴方は、優しい人……優しすぎる人」

 

 イネスさん。優しく、哀しい声音……。

 

「オメーが誰かを選べば、選ばれなかったヤツがどう思うか……
 そんなことをまず考えちまうよな。おめぇは」

 

 リョーコさん。ぶっきらぼうに、それでも正直に……。

 

「いつも、まず先に人の気持ちを考えてしまう………貴方の悪いクセだわ」

 

 エリナさん。瞳には、慈しむような光が見えます。

 

「そうやって、抱え込んじゃうんですよね」
「それがアキトさんのいいところでもありますけど」
「それじゃあ、ちょっと哀しいですよ」
「もっと自分のことを考えてもいいですから」
「そうしてくれたほうが、わたしたちも嬉しいです」

 

 ホウメイガールズの皆さん。見事なユニゾンですね。

 

「アキトの性分なのはわかるけど、ね」

 

 サラさん。少しからかうような口調です。

 

「もっと、わたしたちに頼ってもいい、…ううん、頼られたいです。
 他人を優先させるのも思い遣りですけど、他人(ひと)を信用しているからこそ、自分の事も
 考えられるんじゃないですか?」

 

 アリサさん。精神的にも、もっと頼って欲しい……それはみんなの願いです。

 

「『ブローディア』を、完全に整備班(わたしたち)に任せてくれてるみたいに、
 寄りかかっても、ね?」

 

 レイナさん。そして、お茶目にひとつウインク。

 

「アキト……アキトは、まだ心の底で、他人(ひと)との最後の領域を越えようとしてない。
 でも、わかって。みんな、そのことを望んでるよ」

 

 ラピス。アキトさんと常にリンクしている彼女の言葉は、とてつもない重みがあります。

 

「アキト……オレはおまえと闘うことで、ひとりではなくなった。
 オレのことを考えてくれる人間が、たくさんいることを知った。
 オマエにも、それはわかっているはずだ。
 おまえを支え、考え、想ってくれる女性(ひと)がたくさんいることを……。
 オ、オレも含めて、だけど………」

 

 最後の科白に赤くなりながら、北斗。
 恐らく、アキトさんを一番理解しているのは、ある意味で彼女でしょう。
 拳を交える……それは戦い人にとって最大の感情表現であり、相手の全てを知ることなのだから。

 

 そしてわたしは、微笑んで言いました。

 

「歩いて、いきましょう。わたしたちと一緒に。
 光に満ちた時の降る朝(あした)、真秀(まほ)ろばへ……」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 

 アキトさんが、困惑した表情で言います。

 

「みんな、何言ってるんだ?みんなで一緒にって……」

 

「言葉通りの意味ですよ、アキトさん」

 

「みんなで一緒に、幸せになるの!」

 

 ラピスの言葉に、さらに混乱するアキトさん。

 

「え、え? それって、つまり…………」

 

「みーんな、アキトのお嫁さんになるの!」

 

 とどめに、ユリカさんの科白です。

 

「なにいいいぃぃぃぃぃぃぃッッッッ!!!!?」

 

 あ、アキトさん絶叫しましたね。
 まぁ、信じられないのも無理はありませんが。

 

 女性陣は、みんなにこにこした表情です。
 中には、顔を赤らめてそっぽむいてる人もいましたが(誰かは、わかりますね?)。

 

「で、でも、それって『重婚』ってやつじゃぁ………」

 

 搾り出すように、アキトさんが言います。

 

「いまは、ね。アキトくん」

 

 エリナさんが、嬉しそうに面白そうに、アキトさんに言いました。

 

「もうじき、日本で新しい法律が可決されるんですよ〜!」

 

多夫多妻制を認めた、ね」

 

 メグミさんに、サラさん。

 

 にこにこ顔ですね。

 

「な、な、何で…………???」

 

「説明しましょう!」

 

 あ、イネスさん。

 

「今のアキトくんの『何で』には、二重の意味がこめられてるわね。
 まずその一つめ、『どうしてそんなことを知ってるのか』は……言うまでも無いわね。
 このナデシコには、人類最高のオペレーターが二人もいるのよ?
 わからない機密情報なんて、ありえないわ」

 

 頷く、わたしとラピス。

 

 誰か忘れてるような気もしますが……多分気のせいでしょう。

 

「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!
 ひどいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」

 

 どこかで、ハーリーくんの泣き声が聞こえたような気がしますが、
 ……そんなものは記憶の彼方に放り出してしまいましょう。

 

「もう一つの、『なんでそんな法律が提出されてあまつさえ可決されるのか』
 ……これも、さっきの答えに、ちょっと似てるわね」

 

「ど、どういうことですか………?」

 

 大きな汗を垂らしながら、アキトさん。
 まぁ、半ば予想できているのでしょうが……

 

「わたしたちに覗けない情報は無いんだよ、アキト。
 政治家とか軍人のゴシップなんて、探さなくたっていくらでも見つかるもん」

 

 胸を張って言ったラピスに、アキトさんの顔が引きつった笑いのまま硬直しました。

 

 『善意の要請』というやつです。

 

 情報を公表しないであげるのだから、感謝してもらいたいくらいですね。

 

 ………ま、有体に言えば、脅迫ですが。

 

 面白いくらい簡単に事が運んだので、少々あっけない気もしましたけど。
 もうちょっと抵抗してくれても…………(くすくす)。

 

 あ、アキトさんは、何とか再起動したみたいですね。
 深呼吸をして、気持ちを整えているみたいです。

 

 そして真面目な顔になると、わたしたちを見回し、口を開きました。

 

「事情は……わかった。確かに、オレに誰か一人を選ぶなんて出来ないだろう。でも………」

 

 一旦、アキトさんは口を閉じます。
 女性陣の顔も、その真剣な口調に、表情を引き締めました。
 そしてアキトさんは、ゆっくりと続きを口に出しました。

 

「でも、みんなそれでいいのか?
 自分と同じに、他に十五人もオレに妻がいて………それでも、………いいのか?」

 

 ……アキトさんらしい、心遣いです。
 目の前に、美味しくて全てを解決してくれる万能の木の実があるのに……
 人を気遣って、取るのを躊躇ってしまう。
 そんなアキトさんだからこそ、わたしは好きになったんだと、好きになってよかったんだと、
 心から思えました。

 

 そして、みなさんは…………

 

「そりゃ、アキトを独占したい気持ちだってあるけど……」

 

「みんな、アキトさんのことを本当に愛してるんだもの」

 

「初めて、『仲間』という存在に触れた。人の暖かさを思い出した。
 そいつらと一緒に、……生きていきたいと、思った」

 

 躊躇いも無く、そう言いました。

 

 その顔は、アキトさんを愛しているという自信と、幸せになろう、なってみせるという気迫で、
 輝いています。

 

「ある意味、とてつもない偽善だということは、みんなわかっています。
 でも……それでも、『みんなで』幸せにならないと、意味が無いような気がするんです。
 ナデシコの中で、誰が欠けても『ナデシコ』たりえないように………
 みんなでいることが、幸せのかたちなんだと……そう思います」

 

 わたしは、そう言いました。

 

 そして、アキトさんは……

 

「……………わかった」

 

 一言、言いました。

 

 みんなの顔が、瞬間的に、そしてさらにパッと明るくなります。

 

 もちろん、わたしもその一人ですけど。
 アキトさんは、晴れやかな笑顔で皆を見回しました。

 

「そんな表情(かお)をされちゃ、断れないさ。
 ……幸せなんて、オレと最も縁が遠い言葉だと思ってたけどね」

 

 呟くアキトさん。

 

 そこへ。

 

「わたし(オレ)達が、
        幸せにしてあげます(やる)!!!」×16
 女性陣の、大合唱。

 

 それに囲まれたアキトさんは……
 にっこりと笑って、言いました。

 

「ああ。幸せに、なろう。みんなで………!!」

 

 ……はい!!

 

 

 

 

 

 

 

あとがきという名の言い訳

 

 ごめんなさい!!
 ………と、まずは謝っておいて。
 初めまして。昴と申します。
 Benさんのキャラクターがあまりに魅力的なので、ついこんなものを書いてしまいました。
 しかし……究極の解決法を使っちゃったなぁ。
 それに、いきなりラストだし。本篇も完結してないのに、いいのか?
 『火星の後継者』とどういう風に決着がついたのか、などは、考えないように(笑)。
 でも、これは絶対に書きたかったネタですね。
 『みんな幸せに』っていうのを突き詰めると、こういう結末しか思いつけないから、オレは。
 ちなみに、北斗はいつのまにか仲間になってるって事で(爆)。
 好きなキャラですし、アキト争奪戦最大の伏兵だと思ってるので。
 まぁ、仲間になった経緯とかは気にしないように(爆)。
 Benさんの描いている完成図からは程遠いとは思いますが、アナザーストーリーの一つとして
 考えてもらえれば、嬉しいです。
 比べ物にならないほど、未熟ではありますけど(中途半端だしね)。
 それでは。
 少しでも楽しんでいただけたのなら、幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

昴さんから初投稿です!!

いや〜、出ましたね究極のラストシーン(笑)

しかも、北斗も混じってるし(爆)

う〜ん、時代はこのラストを望んでいるのか!!

・・・まあ、ハッピーエンドを選ぶとこうなりますよね。

でも、サブロウタとハーリーの幸せは?

まあ、別にいいか(爆笑)

 

それでは、昴さん投稿有難うございました!!

 

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