それは、ある日の深夜に起こった………。


   パアアァァ……!!

   ドサドサっっ!!


 俺は、いきなりのその光景に驚いていた。
 当然だろう。
 突如、空中に光が瞬いたかと思うと、一つの人影が落下してきたのだ。


「あいてっ!」

 落ちてきた男を見て、俺は動揺を隠せなかった。
 その男は、俺と同じナデシコの制服を着て、俺と同じようなぼさぼさの黒髪をしている。
 ―――俺の、良く知っている顔だったのだ。

「な、な、な……!!!?」

「……つつつ…一体、何が?」

 頭を抑え、左右に振る男。
 そいつは、きょろきょろと辺りを見回し………

 俺に顔を向けた瞬間、固まった。

 ま、当然だろうな。
 俺だって、そうなんだから。

「…………………………」
「…………………………」

 …痛いほどの沈黙。


『どえええぇぇえぇぇぇッッッ!!!?』

 そして、二人同時に絶叫を上げた。
 ……さすが、だ。完璧なタイミング。

 心のどこかで、俺は妙に冷静にそう思っていた。
 ………現実逃避か?

 その男の顔には、見覚えがあった。
 当然だ。
 毎日見ているんだから。


 俺の目の前に現れたのは、間違いなく、『俺』だった。





相似者との邂逅、そして内情の吐露
及びそれによる波紋の起こす悲(喜)劇







『アキトさん、どうしました!?』

 目の前にウインドウが開き、ルリちゃんの声が聞こえた。

「あ、な、なんでもない!」

 ヤバい!
 いま、この場面を見られたら何が起きるか………!

 幸い、画像は送られていないのでサウンドオンリーだ。
 監視カメラも、勿論沈黙している。
 これなら、何とか誤魔化せる!!

 ……彼女達に、
泣きながら頼み込んだ結晶だからな。
 プライバシーを守るためには必要だ。うん。
 要求も、シビアなものだったが………(涙)。


『でも、なにかすごい声が………』

「い、いや、ちょっと滑って転んだだけ!!
 何でもないよ!!!」

『・………そうですか。
 それじゃ、おやすみなさい』

「あ、ああ。お休み」


  ピッ……


「……………ふぅ〜〜〜」

「何とか、誤魔化せたな……」

 俺と、もう一人の俺は、同時に息を吐いた。
 緊張が解けるのを、実感する。

 多少、疑惑の声音はしていたが……誤魔化せたか?

「……で、一体どういった経緯でこうなったんだ?」

 単刀直入に、俺はもう一人の俺に話し掛けた。

 まぁ、なんで現れたのか、なんてことは、大体想像がついているが。

「う〜む……まぁ、大体お前が想像してるとおりだと思うんだけど」

「次元すら跳び越えるランダムジャンプなんて、そうそうないだろう。
 北斗との闘いの最中でもありえんと思うぞ」

 そう。
 目の前にいる、もう一人の俺は、別の次元からやってきたのだ。

 恐らく…と思っていたが、その通りだったようだ。
 ランダムジャンプで、俺のいる次元まで跳んで来てしまったのだろう。

 まったく違う次元から来たという可能性も無いことはないが、とっさのイメージでそこまで遠くには
ジャンプできないだろう。
 だから、いまの俺と似通った世界から来たと推測は立つのだ。
 まあ、それはともかく。


 ランダムジャンプが起こるのは、ジャンプ先をイメージできないほどの切羽詰った状況でない限り起こるはずがない。
 つまり、いま目の前にいる俺はそれほどの状況からやって来たということなのだが………。

「……………」

 何か、
汗をかいているように見えるのは気のせいだろうか?
 何処となく、視線も
中に泳いでいるように見えるぞ?

「………帰ったら殺されるかも」

「???」

 解らん。
 いったい、本当に何があった?

「おい、説明くらいしろよ」

「…あ、ああ。わかった。
 実は、な………囲まれたんだ」

「はぁ?」

「………
婚姻届を持った、17人の女性陣に」

「…………………………………………………………………………」

 ……………………………………………………………………。

 そ、それはまた………

「壁際まで追い詰められてな。
 ふっ…逃げ場は何処にもなかったよ」

「そ、そりゃシビアだな……」

 逃走経路は
女性陣に塞がれ、何処へ逃げても、ルリちゃんとラピスの電子包囲網から逃れることは出来ない。
 ………考え得る限り、サイアクの状況だよな。

「思ったよ。
 どこかへ逃げたい、ってね。
 それはもぉ
心の底から

「……………………………」

 こういう時、なんと言えばいいのだろう?
 
四面楚歌。
 
前門の虎、後門の狼。
 そんな諺が、頭に浮かんだ。

 いや……それは、俺にとっても、そう遠くない未来かもしれない。

 ………考えるのはよそう。
 
精神衛生に良くなさそうだ。

「そして、気が付いたら……ここにいたってわけだ」

 
悟りきったような顔で、そいつは語り終えた。
 
自棄になったような笑顔が、痛々しい。
 帰ってからの『お仕置き』は、想像を絶するかもしれんな……。
 いまは、
無我の境地に達しているようだが。

 こんな時、出来ることなど限られている。
 俺は、初めて出逢った俺と同じ気持ちを共有する仲間に、

 頭を左右に振り、肩をぽんと叩くと、

「…………
呑もうか

 と、一言言った。

「…………ああ」

 短く答える、もう一人の俺。


 そして、どちらからともなく、がしっと抱き合う。

 ………
戦友(とも)よ!!!





「だから、なぁ!!
 いい加減にして欲しいよな!?」

「そう、そう。
 ……大体、もうちょっと冷静に話し合えないのか?」

「話し合ったところで、血の海……どころか
血の大海が出来るだけな気もするんだが」

「………言えてるな。
 
某組織と戦ってるときならともかく、彼女らが一致団結するときは限られてるよ」

「……結局。
 俺たちの責任なのか?」

「……そうかもしれん。
 ………………………まぁ、いい。呑もう」

「そうだな。
 いまは、
全てを忘れよう

「それがいい。
 明日になれば、また辛い戦いが始まるんだからな」

「………
お互い、苦労してるな」

「………ふっ。
 ま、もう一杯」

「ああ。
 大吟醸『K戰~』、か。
 …………いい酒だな」

「………………………………………」





 その夜のことは、他人
(特に女性陣)には話せないな。
 ただ、久々に腹を割って話せたことは確かだ(まぁ、相手も自分だったんだから当然だが)。
 そして、朝がやってきた。





「じゃあ、な」

「ああ」

 名残惜しそうに、あいつが言う。
 実際、俺も名残惜しいからな。
 だが、元いたところに戻らないといけないのは当然のことだ。

「健闘、祈るぞ」

「あ、ああ……」

 途端に、顔が引きつる。
 まぁ、俺には祈ってやることくらいしかできないからな。
 ………『お仕置き』が、少しでも軽ければいいな。

「お前も、だぞ。
 
他人事じゃないからな」

「…………祈っててくれ」

 ………俺も、いつそうなってもおかしくないってことだな。

「ま、まあ、
湿っぽい話はこれくらいにしよう」

 『湿っぽい話』……
いろんな意味で、な。

「それじゃ、な」

「……ああ」

 あいつの身体が虹色の光に包まれていく。

   俺たちが、しっかりと手を握り合った直後………

 その光ははじけ、後には俺だけが残されていた。


 ―――頑張れよ。

 和平にしろ、
女性関係(汗)にしろ、あっちの俺もまだまだ決着はついていない。
 だが、同じような自分がいると判ったことでも、少し気分が楽になる。
 お互い、頑張ろう、と。

 俺の顔には、いつの間にか、微笑みが浮かんでいた。













追記


 ナデシコ内・某お仕置きルーム………


   俺は、何故か
拘束されていた。

「ううっ……」

 周囲には、女性陣が立ちはだかっている………
 ……どうして、こうなったんだ?
 思い出してみよう。

 まず、もう一人の俺が帰った後、ルリちゃんが来たよな?
 そしたら、俺の部屋の中を見た後で血相変えて………
オモイカネに何か指示してたな。
 そしたら、急に部屋の中に
白いガスが充満したと思ったら、猛烈な眠気が襲ってきて………
 目覚めたら、こうなってるわけだ。

 ……何も俺に非はないぞ!!

「ち、ちょっと!
 どうしてこうなってるのか、説明してくれ!!」

 思わず、俺は叫んだ。
 だが…………

「……それは、こっちの科白です、アキトさん」

 ……帰ってきたのは、冷たいルリちゃんの声だった。

 いったい俺が、なにをした?

「昨夜、私が通信したときから、怪しいと思ってたんです」


 ぎくっ!


「何で、アキトの部屋に
グラスが二人分あったのかな?」

「明らかに、
一人で消費したとは思えない程のお酒の壜が転がってましたよね」

 そういえば、掃除はまだしてなかったけど………

 ユリカに、メグミちゃん……頼むから、そんなに冷めた眼で見ないでくれ。
 ……
鬼気すら感じるよ。

 だらだらと汗を流す俺を尻目に、今度はラピスが言った。

「オモイカネとダッシュを使って、あの夜の全クルーの居場所は確認済みだよ。
 しかし、アキトの部屋に行ったような形跡は、誰ひとりなかった。
 …これが何を意味するのか―――わかるよね?」

「……アキトくんが、誰かクルー以外の人間を
部屋に連れ込んでたってわけね」

 どうやら、俺が
女の子を連れ込んだと思っているようだが……(汗)。
 イネスさん……その手に持った
注射器は、なんですか?

「そんなことが出来るのは、物理的にもボソンジャンプが出来るアキト以外にいないよね」

「姉さんの言う通りです」

「だな。
 ここは、宇宙空間なんだから」

 アリサちゃん、サラちゃん………その、二人で持ってる
消火器(増量1.5倍サイズ)、コワいんだけど。
 リョーコちゃん……その手に持った
…ひょっとして、居合用かい?

「「「「「不謹慎です!!」」」」」

「明らかに、規則に違反してるわよね」

 ホウメイガールズのみんな……手に持ってる、
お玉とか擂粉木とかフライパン……立派な凶器になると思うよ。
 エリナさんも……ブックファイルでも、
カドでやられると悶絶しそうなんですけど………。

 ヤバイ……
 
追い詰められてた!!!


「さぁ、アキトさん。
 事情を説明してもらいましょうか?」

 ルリちゃんの声と共に、女性陣が詰め寄ってくる………。
 しかし!

 真実を告げるわけにはいかん!!!
   根本的に誤解してるようだけど………
 それ以上に、昨日の会話がバレたら……本気で
命がないぞ!!!

「あ、あうあうあう」

 どもるしかない、俺。
 ……それ以外何ができる?

「そうですか、話さないつもりなんですね……。
 それならば、こちらにも考えがありますよ」

 あ、あれ?
 ルリちゃんのその言葉を合図にしたかのように、全員が持っていた武器(汗)を床に置く。

 そして、彼女らの瞳には―――
 いままでにない色が浮かんでいた。

 うっ!!
 なんか、さっきより状況が悪化したような気が………

「さぁ、みなさん。
 
口撃開始です!!」

「へ?
 口撃??
 って、ち、ちょっと!!
 
どああぁぁぁぁぁああぁぁっっ!!!」



 …………その後、何があったのかは……語りたくない。
 ただ、その長い長い口(攻)撃が終わった後には、真っ白に燃え尽きた俺だけが残されていた…………。




<おわり>







あとがき


 構想十秒、執筆三時間。
 これも一種のパラレル物かなぁ?

 本篇のアキトと同じように過去に戻ったアキトたちが、確率的にいるのか?という疑問もありそうですが、「本篇から分岐した」世界と考えれば在り得ると思います。
 パラレルワールドは、いまこの瞬間にも出来ているかもしれないんですから。

 それにしても、異世界でもアキトは不幸なんだろうか(笑)。
 例えば、ファンタジー世界とか。
 ……書いてみたいなぁ(爆)。
 「闇光<ヤミノヒカリ>」を書き終えたら、書くかもしれません。
 まぁ、時間がかかることは間違いないでしょうが(汗)。

 でわでわ。


 

 

管理人の感想

 

 

昴さんから投稿第五弾です!!

とうとう次元の壁さえ超えて逃げ出したのか、アキトよ(苦笑)

まあ、逃げ道があるだけいいじゃないか。

・・・帰ったら、現状が悪化してるだけみたいだけど(笑)

でも17人の婚姻届って・・・ナデシコメンバーは15人。

なら後の二人は誰なんでしょう?(ドキドキ)

 

それでは、昴さん投稿有難うございました!!

 

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