時の流れる天の河
   〜〜何時か出会う私達〜〜










第1話 「貴方らしく」で行こう! ・・・それが、初まりだから










・・・気がつけば、涙を流していた。



時が止まったように、遥か頭上で輝く満月を見つめる。



記憶の中で最後に見たものと寸分違わぬ優しい輝き。



余りにも変わらない姿だったから・・・



これが、夢だと解った・・・・・・















「あのぉ、そのままだと風邪を引きますよ?」

「うわぁ!」


声と共にいきなり視界に飛び込んできた顔で月が隠される。
意識が一気に覚醒してゆく。
目の前には何やら不思議なものを見つけたかのような顔がある。

・・・えっと、どうリアクションを取ればいいんだ?


「取り敢えずそろそろ立ち上がったほうがいいと思います」

「ああ、そうか」


いや、なかなか親切な少年だ。
そもそもなぜ俺がこんな道端で寝そべっているのか疑問もあるが何はともあれ体を起こして・・・


(アキト!!)

「うぐぉ!?」


不意に脳裏で聞こえた声にバランスを崩して倒れ込んだ。
ラピスがこんな大声(無声だが)で語りかけてくることはめったにない。
人間、慣れていない事には弱いものだ。


「あのー、何をやっているんですか?」


少年、そう聞きたくなるのも無理はないが少し時間をくれ。取り敢えず妙に騒がしいラピスのほうを落ち着かせなければ。


(で? 今何処に居るんだ、ラピス。ランダムジャンプの後だしとにかくネルガルで検査を・・・・・・)

(アキト、私の身体、6歳に戻ってるの)


なんだって!! まさかそんな影響が・・・・・・


(それに私が居る所、昔いた研究所なの)

(昔の研究所? そこならジャンプでいける筈だし後の話は・・・)

(・・・・・・アキトの身体は何ともないの?)


言われてもう一度自分の身体をチェックする。
・・・・・・何故か服装が変わっているがこの際度外視しよう。何しろランダムジャンプは何が起こるか分かったものじゃない。取り敢えず外見から分かる変化は・・・・・・はて、俺の身体はもう少し筋肉が付いていたはずだが? ひょっとして身体的に大きな変化が出ているのかもしれない。出来れば再びボソンジャンプをする前にもう少し詳しく調べておきたいのだが・・・・・・


「君、ちょっと悪いんだけど鏡か何か持ってないかな?」


さっきからずっとこちらを見ている少年に尋ねる。
・・・しかし、この子も何故ずっとここに居るんだろう。


「一応こんなのならありますけど」


そういって少年の差し出したのは何処にでもあるだろう小さな手鏡だ。うむ、準備がいいな。早速その鏡を覗き込んでみると―――そこには目の前の少年が写っている。


「・・・・・・・・・ガラスじゃあ鏡の代わりにはならないと思うぞ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・紛れもなく鏡です」


なに? それじゃあこの鏡の中の奴は俺なのか? 確かに最近鏡なんて見ていなかったが他人の顔と間違えるとは我ながらなかなかの・・・


「ってバイザーをしてない!?」

「いえ、気付いて欲しいのはそこではないんですけど」


どういうことだ? まさかさっきの月は最近マイブームの夢オチじゃなかったのか? ランダムジャンプの影響で身体が治るなどという奇跡が本当に起こるとは・・・・・・いや、すでに全てを捨てた人間がいまさら長生きしたところでなんになる。俺はもう・・・


(アキト、私たち過去に戻ってるみたい)


いや、ラピスが普通の生活を送れるようになるまで一緒に居ることが出来・・・・・・はい?


(たぶん精神だけが飛んでこっちの身体に移ったんだと思う。本来居るはずの『もう一人の私』が存在していない)


ちょ、ちょっと待て。落ち着いて考えさせてくれ。過去? それってつおい? じゃなくって、つまりタイムトラベル? デロリアンに乗った覚えは…でもない! 


「そろそろ動かないと時間がずれると思うんですけど」


精神だけが飛んだってことは向こうの身体はどうなったんだ。植物人間とかだったらちょっと嫌かなーなんて、っていい加減にしろよ俺! ああもう、つまりどうすればいいんだ? こういう時はもっとこう考える担当の人が考えるべきでつまり何を考えるかが問題であってそもそも今は何時なんだ?


(2196年、アキトがナデシコAに乗る当日)

(なんだって!! まさか、もう一度乗れるのか? あの船に・・・・・・)

(アキトはまた乗りたいの?)

(俺は・・・・・・やり直したい! あんな事にならずに、皆で幸せになれる道を探したい! その為にはもう一度ナデシコに乗らなくちゃ。ラピス…必ず北辰より先に助け出す。だからそれまでに幾つかのことをしてくれないか?)

(うん。でも取り敢えず今まで話してたタイムロスで矛盾が出ないよう急いで行ったほうが良いと思う)

「しまった!」


思わず叫んでしまった。目の前の少年は微妙に引いている。気持ちは分かる。確かに近くに居る人間がいきなり叫んだら不気味だろう。その気持ちはよーく分かる。だが、そもそもどうして何時までもここに居る? 引くぐらいならさっさと離れてしまえばいいはずだが。


「って鏡を返してなかったか。ありがとう、助かったよ」


なんかさっきからこんなポカミスばっかりだな。相当気が緩んでいるのかもしれない。とにかく少年に鏡を渡す。さて、これ以上は時間をロスできないな。とにかく飛び散った荷物を集めて自転車に乗る。


「あ、ちょっと待ってください!」


悪いな少年、待った無しだ。前回の時はやけくそに自転車を漕いでいたからかなりのペースだったはず。ショートカットしてもいい加減時間がないんだ。


「それじゃあ! 鏡ありがとうな」


何やら後方で叫ぶ声もあるがとにかく走り出す。う〜む、一体なんだったんだろう、あの子供は。まぁ今はそんなことを気にしている場合ではない。低下した体力ではスピードにも限度があるし、さっきラピスに言いかけたことも伝えなければならない。そして何よりも、この先に、ユリカが!!



ブオオオオオンンンン


ってちょっと待て!! 今の車がユリカか!? まだ俺と再会した所まで距離があるだろ! スーツケースも落ちてこないじゃないか。これはつまりタイムオーバー? 第一話にしてフラグ立たず?





「なんていってる場合かー!!」





全身の力を振り絞ってペダルを漕ぎまくる。もう一度アイツに逢うために。
何度も何度も夢に見た再会の瞬間を目指して、体力の限界なんて完全に無視した働きを繰り返す。
次第に頭の中は真っ白に包まれ、ただ前を行く車を追いかける事だけに全てが集中して―――









   
ぐわしゃぁぁぁぁんんん


           
がつんっ
                   
がつんっ
                              
がん






・・・・・・・・・顔面を痛打して吹っ飛んでゆくスーツケースを見ながら思う。
次に目が醒めたら冷静になろう。














車の走り出す音で目が醒めた。
あわてて身体を起こす。振り向くと、ユリカの車は去ってゆくところだった。さっきの少年が車に手を振っている。
これは・・・・・・大丈夫なのか?


「あのぉ、何処か痛いところとかないですか?」


心配そうにこちらを見てくる顔。結構な汗をかいている。ここまで追ってくるということは相当大事な用があるのだろう。流石に話を聞くべきかもしれない。


「大丈夫だよ。それより君は? まさか、さっきの所から走って追いかけてきたのか?」

「はい。疲れました」


そういって笑う少年は見たところ14,5歳といったところだろう。鏡の一件の時に気付くべきだったのだろうがとてつもなく俺に似ている。なんというか、またしてもリアクションに困る状況だ。


「それで俺に何か用があるのかい?」

「そうですけど・・・・・・兄さんの用事はいいんですか? 急ぎなんでしょう?」

「取り敢えずあそこまで急ぐ必要はなくなった。せっかくだしそっちの話を聞くよ」


まさかあのスーツケースにぶち当たる為に急いでたとも言えないしな・・・・・・今なんて言ったコイツ。


「と、言うことはまだ用事が済んだわけではないんですね。うーん。これ、どうしましょう」


そういって俺に見せたのはあの時と同じ、俺とユリカが写った写真を入れた写真立てだ。
今回も忘れていったのか。
まぁこの写真立てがあった方が色々理由はつけ易いしたいした問題じゃないだろう。


「それは俺が届けるよ。丁度あいつに会いに行くところだ。それよりもそっちの話を聞かせてくれ。今俺を兄と呼んでいたがひょっとして親戚か何かか?」

「はい、弟です」


・・・・・・・・・オーケー冷静に行こう。別に予想していなかったわけじゃない。
過去に戻ったといっても全く同じ時間軸上で戻ったとは限らない。この辺はイネスさんの説・・・もとい話を嫌と言うほど聞かされて多少は心得ている。
むしろ疑問なのはその弟と俺がどうも初対面らしいと言うことだ。しかもコイツの反応からして、俺が『弟の存在自体』を知らないのは当然のことであるようだ。と、なるとこっちで変に考えるよりストレートに聞いたほうが良いだろう。


「俺に弟が居るなんて話は聞いたことがないんだが。どういうことなんだ?」

「・・・少し長くなりますし歩きながらにしましょう」


そういって自称俺の弟という少年は歩き始めた。
取り敢えずユリカの車が去って行った方を目指すつもりのようだ。


「僕の名前はマキトと言います。歳は15、といってもこの数字はあまり正確ではありません。僕は受精卵の段階で試験管に移されたらしいので」

「受精卵で? どうしてだ?」

「詳しい話を聞いている訳ではないんですが僕は身体が弱いのでそれに関係があるんだと思います」

「身体が弱いってさっき自転車を走って追いかけたんだろう?」


たいした距離ではないとはいえ普通の人間は健康体でもそんなことは出来ないぞ。
何気なく観察したマキトの身体は、むしろそれなりに鍛えられている感じがする。


「身体を動かすこと自体にはほとんど影響はないんです。主に免疫系が極端に弱くなっているんですよ。他にも色々あるそうなんですけど一つ一つ説明されたわけではないので余り確かなことは分からないんです。今は強力なナノマシンを大量に投入することで補っているので心配は無いんですけど、それが無いと一週間も生きられないって研究所の人が言ってました」

「研究所? そういえばお前は今まで何処に居たんだ? それに俺のことをどうやって知った?」

「たしか人間の新たな可能性を模索する研究所、と言ってました。僕は普通の家庭ではとても成長できない身体でしたから父さんと母さんが僕の命の保障と交換で研究所に預けた、と。まぁ二人が死んでからは色々と実験もされましたけど」


新たな可能性、か。
おそらくその研究所はルリちゃんが居たものと同系統のものなんだろう。見た限りではルリちゃんやラピスのような外見的特徴はないようだが。


「一応貴重な実験体と言うことでそれほどの無茶はされなかったみたいです。そうして最近まで過ごしていたんですが半年ほど前に研究所が襲撃を受けて」

「襲撃?」

「はい。その後どこか大きな組織の研究室に入れられていたんですがしばらくすると突然普通の病院に送られたんです」


大きな組織? 俺の両親が預けたと言う所はおそらくネルガル系の研究所のはずだ。
わざわざネルガルの研究所を襲撃するとなるとどうしてもクリムゾンが浮かんでしまうんだが。
いや、以前アカツキから聞いた話ではネルガル内にも派閥があるらし実はその辺を移動しただけなのかもしれないな。

「たぶん調べるところは調べつくしたんでしょう。この身体では長期的な健康維持をしようとすると莫大なお金がかかってしまいますし。最近は多少の抵抗力が付いてきているのでいきなり倒れるようなことはまずないんですけど。・・・・・・とにかくその後退院して街を歩いていたら戦争孤児に間違えられたみたいなんです。孤児院に入れられた後、そこで見た雑誌に兄さんが勤めていた食堂の記事が載ってたんです。それで取るものとりあえず来てみたら兄さんは既にお店を首に・・・・・・」

「なんというか、すごい確率の上を生きてきたんだな」

「いえ、それ程でも」


何故照れる?
と言うか本当にそれは偶然なのか? 正直、とても信じる気になれないんだが。


「それで兄さん。これからどうするんですか?」


・・・・・・どうしよう。このまま放っておく訳にも行かないだろうし・・・
孤児院に追い返すか? しかしこのご時世、家族が居る人間を受け入れるほど孤児院に余裕はないだろう。サイゾウさんに預かってもらうってのも無理だろうし。
と、なるとナデシコに乗せる? イレギュラーはなるべく少なくしたいんだがこうなっては他に思い付く手が・・・。
ええい、こうなったら・・・


「取り敢えずコイツを届けに行くか」

「はい」


なるようになるだろ。














「はてさて・・・
 貴方は何処でユリカさんと、知り合いになられたんですかな?」


前回同様、門のところで暴れていたらプロスさんがやってきた。流石に暴れている人間が二人になったからと言っていきなり違う対応にはならなかったらしい。
・・・・・・マキトに『適当に騒いでいれば話の分かる人が出てくるだろう』と言ったら何の疑いも持たずに大騒ぎを始めたのにはびっくりしたが。
と言うかこいつ本当に15歳か? 体格的に丁度それ位なのは確かだが幾らなんでも純粋すぎるぞ。

「実はユリカとは、幼馴染なんです・・・
 俺はユリカに聞きたいことがあって、ここまで追いかけて来ました」

「ああ、それであんなに急いでいたんですか」


・・・考えてみればマキトには何の説明もしていなかったな。それでよくここまで付いてくる気になるものだ。兄というだけで俺を信用してるのか? それとも・・・


「ふむ・・・おや? 全滅した火星から、どうやってこの地球に来られたんですか?」


DNA判定の結果を見たプロスさんの反応も変わらない。やはりマキトという存在以外は前回と全く同じなのだろう。となるとこいつの存在も何か理由があるのかもしれないな。

最悪、言ってることが全部嘘という可能性も考えておくべきか。


「記憶にないんですよ。気が付けば俺は地球にいました」

「ほう・・・それはマキトさんも一緒なのですか?」

「いえ、僕は小さい頃から幾つかの施設を転々としていました。元々は火星にいたんですけど二年くらい前に地球に移ってきていました」


む、そうなのか。となるとマキトもA級ジャンパーと考えたほうが無難か。
なんというか、雲行きが不安だな。


「なるほど・・・・・・あいにくとユリカさんは重要人物ですから、簡単に部外者とお会いできません。・・・・・・しかし、ネルガルの社員の一員としてならば、不都合はかなり軽減されます。
 実は我が社のあるプロジェクトで、コックが不足していまして。テンカワさん、貴方は今無職らしいですね。どうですこの際ネルガルに就職されませんか?
 あぁ、せっかくですしマキトさんもアルバイトはいかがですか? ウェイターなどならできるかと思いますが」


流石プロと言ったところか。一言もナデシコの名前を出さずに火星の生き残りである俺をスカウトしようとしている。マキトのことはついでなんだろう。
しかし、ウェイター? まぁルリちゃんが乗ってる時点で子供を戦場に出すことをどうこうと言えるはずもないが。
・・・・・・そういえば後々ラピスを乗せる時の口実も考えなければな。


「こちらこそ願ってもないことです。正直な話、これからどうするか途方に暮れていたんです」

「では、早速ですがお給料の方は・・・」


こうして俺は無事ナデシコに乗船した。



妙なおまけが付いているのがちょっとアレだが。













「こんにちは、プロスさん」


プロスさんの案内で艦橋を歩いていて、背後から何気ない言葉が耳に入ってきた瞬間、俺は今まで考えてもいなかった一つの可能性に気が付いた。
俺が居て、ラピスが居るのだ。彼女が居ることに一体何の不思議がある。


「おや、ルリさんどうしてデッキにおられるのです?」


その言葉で弾かれたように後ろを振り返る。
そこには一瞬頭に浮かんだ姿(思えば5年も先の姿だ)より随分幼い、しかし変わらぬ何かを持った瞳を俺に向ける少女が居た。


「お出迎えです。
 まったく、ずっと待っていたんですよ?」


その少女はまっすぐこちらに歩いてくる。ゆっくりと、何かを確かめるように。
彼女が浮かべる微笑みで確信した。ルリちゃんはルリちゃんだ。
共にナデシコで戦った後、家族となって一緒に暮らした少女。
そして、呼び止める声も聞かず俺が置き去りにしてしまった少女。
その少女が俺の前まで来て立ち止まり、こちらを見つめてくる。

何よりもまず謝るべきなのに、なぜか別の言葉が零れ出た。


「ただいま、ルリちゃん」

「おかえりなさい、アキトさん」


飛び込んでくる少女を俺はしっかりと受け止めた。












ふと、プロスさんとマキトの姿がなくなっていることに気が付いた。
・・・・・・気を利かせたつもりなのだろうが、何か勘違いしていないだろうな。

一応弁解しておくがこれはあくまで家族としての対応である。


「どうしたんですか? 周りには誰も居ませんよ?」


いや、それを確認しているんだけどね。


「それにしても驚いたよ。正直ルリちゃんが居る可能性を考えていなかった」

「私も驚きましたよ。さっき隣に居た人は一体誰なんです?」


まぁ当然の疑問だよな。
ルリちゃんは『俺』が来ること自体は確信していたみたいだが。


「マキトは―――あいつは自分では俺の弟だと言っている。まだ詳しくは聞いていないんだが研究所に預けられていたらしい」

「研究所ですか。色々と調べてみた方がよさそうですね」

「なんとか頼むよ。  ・・・俺はあんな未来は二度とごめんだ。もう誰も悲しませない為にも、ルリちゃんの助けが必要なんだ」

「私は幾らでもお手伝いします。まずはどうするんですか?」

「詳しい話は後にしよう。取り敢えずは―――」


見える訳も無いが上方に視線を向ける。


「外の団体さんを何とかしないとね」














「俺は・・・テンカワアキト、コックです」


特に考えも無くかつてと同じ言葉を口にする。
こんなどうでもいいことで、自分が此処に帰ってきたことを実感する。


「もしもし、危ないから降りた方がいいですよ?」


あぁ、なんか懐かしいなぁ。


「君、操縦の経験はあるのかね?」


それはもう涙が出る程に。


「困りましたな・・・まぁ年齢的にはアキトさんの方がよいのですが」


ん? 俺の方がいいって誰との比較なんだ?
ひょっとして・・・


「あのぉ、実は―――


「アキト!! アキト、アキト!! アキトなんでしょう!!」


開いたウインドウに上乗せするようにユリカの顔が出現する。
懐かしさの余り気が緩んでいたのか、分かっていたはずの場面にも拘らず一瞬思考が停止した。


「・・・・・・ユリ・・・カ?」


俺が、あの暗闇の中でもがきながら求め続けた姿がそこに在る。
何よりも幸せだった頃の象徴。
無くしたはずのものを再び手にする機会を得たのだ。



それは・・・本当だろうか?




「本当にアキトなんだね!! あ、今はそんな事より大変なの。そのままだと戦闘に巻き込まれるよ、アキト!」


・・・・・・硬直はすぐに解けた。と言うか解かされた。
ユリカは、あの時のユリカだ。何も変わっていない、久しぶりに再会したときのままだ。



だから、違う。



「囮が必要なんだろ? この際だし俺が引き受けるよ」


一度気が付いてしまえばそれまでだ。二人が別人であることを俺は知っている。ルリちゃんをかつての通り家族だと感じたのと同じレベルで、このユリカは俺にとって他人、百歩譲っても知り合いでしかない。

・・・正直な話、ユリカを前にこれほど冷静で居られるとは自分でも思わなかったが。


「それより今喋ろうとしたのはマキトだな?」


一瞬見えたウインドウに写っていたのは確かにマキトの顔だった。ただ気のせいか、服がパイロットスーツだったり背景がコックピットだったりしたように見えたのだが。


「はい。実はたった今プロスさんに頼まれて臨時のパイロットになったんです」

「ちょっとプロスさん? あんな子供に囮をさせる気なの!?」


いきなりミナトさんがプロスさんに喰ってかかる。
確かにマキトは外見上は15歳、或いはそれ以下にしか見えないのだからそう思うのも当然だろう。
と、流れを綺麗に無視してユリカがまた何か言っている。


「私はアキトを信じる!! やっぱりアキトは私の王子様だね!!」


だが、プロスさんがこの状況でマキトを出すと言うことはマキトには何らかの秘密があると考えてしかるべきだ。
しかもプロスさんはそれを知っている、或いは辺りくらいはつけているということか?
・・・・・・ますますややこしくなってきたな。一度ゆっくり考えないと。


「アキト機、地上に出ます。マキト機は30秒遅れです」

「がんばってください」

「ゲキガンガー返せよな!」


あぁ、懐かしい筈なのに頭が痛い。なんか、戦う前から疲れてきたよ・・・
目の前に広がるバッタやジョロの群れが何故か心を安らげてくれる。
沈黙っていいよね、いやマジで。


「作戦は10分間、とにかく敵を引き付けろ。健闘を祈る」


っと、いかんいかん、現実逃避はこの辺までにしておこう。
で、この無人君たちだが・・・今の俺なら片っ端から倒していくほうが楽なんだが、一応実力は隠しておいたほうがいいだろうな。

取り敢えずマキト機が地上に出るまでは余り動かず、周囲の無人兵器だけを相手にする。実のところ無人兵器たちは味方を巻き込むような攻撃はあまりしないのだ。その分無人兵器同士の連携をするわけだが、敵に囲まれた状態でもちょこまかと動いていれば数分の時間稼ぎくらいにはなる。


「マキト機、出ます」


ルリちゃんの声と共に青のエステバリスが地上に姿を現した。
本来ならガイが乗るはずのエステだ。ナデシコが発進してからの出撃を想定していたのか、空戦フレームを装着している。如何にIFSが在るとはいえ、全くの素人には使い辛い筈だが・・・

別に心配しているわけではないが一応確認しておこう。


「マキト、お前大丈夫なのか?」

「大丈夫です。この機体自体の操縦経験はありませんけど特に問題はありません」


そう言ってマキトのエステバリスは空中へと飛び上がる。その動きに不安な要素は見当たらない。機動自体はゆったりとしていながらも素早く敵をロックオンし、撃破してゆく。


「この機体、ね」


どうやら本格的に裏がありそうだ。マキトの動きは明らかに訓練をつんだ者のそれだ。一流と言うほどではないが十分実戦で通用する。

うーん、俺としては自分がパイロットから外れるのは都合が悪いんだが・・・
どうやらもう少し活躍しておいたほうが良さそうだ。


「マキト、取り敢えず海の方に行くぞ。たぶんナデシコが出てくるなら海底のゲートからだろう」

「分かりました。それじゃあ援護しますね」


いや、あまりお前に援護される訳にも行かないんだが。

俄然やる気になったマキトに負けない程度に敵無人兵器を撃破していく。無理に撃破数でマキトを上回る必要は無い。ミナトさんの言にも在るように、基本的にマキトは子供だ。俺がそこそこ使えると分かればプロスさんも無理にマキトをエステに乗せることはしないだろう。いざとなれば俺が『兄』の立場を利用してごり押ししても良い。

ふと、時間を確認すると、まもなくナデシコが浮上してくる頃だ。
薄っすらと海に広がる影を確認し、一気に跳躍する。


「マキト! もう充分みたいだぞ!」


エステバリスが海面に接するかどうかというタイミングで浮上してきたナデシコに着地する。
それを見たマキトも敵を振り切ってこちらに飛んでくる。


「お待たせ!! アキト!」

「速かったな、ユリカ」

「貴方の為に急いで来たの」


かつての想いを考えれば笑ってしまうほど『軽い』やり取りを交わす。
ユリカは別人で、だからこそ、かつてと同じ態度を取りたくは無い。

それが俺なりのけじめなのだ。


「目標、敵まとめてぜーんぶ!!」


ユリカの言葉を合図に、ナデシコがグラビティブラストを放つ。

俺とマキトを追いかけてきた無人兵器は全てその一撃に飲み込まれて消えていった。


「すごい・・・・・・」


感嘆の声を零してナデシコに着地するマキトを尻目に、俺は改めて自分の決意をしっかりと刻み込む。








負けられない・・・・・・

俺は、あんな未来は繰り返さない!!















あとがき

はじめまして、すげかえ4号です。
基本的に軟弱者ではありますが、この度覚悟を決めて投稿させていただきました。
実はこの話自体は数年前から考えていたものなのですが、長期的な都合を付けることができずにずっと頭の中でああだこうだと捏ね回していました。
おかげでネタ的にいささか陳腐な代物となってしまった感もありますが、なにとぞご容赦の程を。
人に見せるものである以上、少しでも読む人を楽しませることができるものを書いてゆけるよう努力するつもりです。どうぞ今後ともよろしくお願いします。

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

数年前から! うーむ、妙に練れたようなところがあるのはそのせいか・・・。

しかしその練れ加減にもかかわらず、根本的にいくらなんでも怪しすぎるっつーか(笑)>マキト

そりゃもう酔っ払いが自分で酔っ払ってないってくらい信用できませんね!(爆)

アキトもなんかマインドコントロールされてるみたいな感じがあるし・・・なんだろ。