時の流れる天の河
   〜〜何時か出会う私達〜〜










第2話 「此方の未来」は任せとけ ・・・私に出来る唯一のこと






「いやーお二人とも見事な囮役でしたな。特にマキトさん、先ほどはご謙遜なさっておりましたがあれほどのことが出来るとは予想外でしたよ」


俺とマキトがエステバリスから降りるのを待ち構えていたプロスさんが俺たちに声を掛けてきた。


「ありがとうございます」


マキトはプロスさんの言葉に嬉しそうに笑って返している。だが、その顔色はあまり良くなく、足下もおぼつかない。
そういえば身体が弱いとか言ってたな、こいつ。


「大丈夫なのかマキト。なんか具合が悪そうだぞ」

「大丈夫です。実験のときに使っていた機体より慣性制御装置が弱かったせいでちょっと負担が重かっただけです。ただの疲労ですから休憩すればすぐに治まります。このくらいのことでへこたれては居られません」


ポンっと胸を叩いて自分は平常であることをアピールしている。
健気に微笑んでみせるその表情を見せられると、どうもこいつを警戒している自分が間違っているように感じてしまう。マキトに裏があるのは確かだろうが、こいつ自身が何かを企んでいるとはとても思えないのだ。

その時初めて、胸を叩くマキトの右手に指輪があるのに気が付いた。なんか知らんが意外な組み合わせだな。


「なるほど・・・・・・やはりマキトさんに頼むのは難しいようですな」


プロスさんはしばらくマキトの様子を観察した後そう呟いた。
その言葉にマキトも頷く。


「一度や二度の戦闘ならこなせない事はありません。でも、長期的に戦闘を繰り返すとなるとやはりこの身体では無理だと思います。元々研究所でも実機に乗ることは滅多に無くて巨大な模擬装置での仮想訓練がほとんどでしたから」


・・・・・・こいつ、ひょっとして何も隠してないのか?
なんかさっきから重要な単語がぼろぼろ出てきている気がするんだが。


「ふむ、ならば仕方ありませんな。アキトさん、実は現在正規のパイロットであるヤマダさんが不慮の事故で怪我をしております。彼の怪我が治るまで臨時のパイロットを勤めていただけませんか? ・・・先の戦闘での動きはとても素人とは思えませんでした。やはり火星の方はIFSに慣れていらっしゃるのですかな」


不慮の事故って・・・・・・嘘ではないがあれは単にガイが馬鹿をしただけでは・・・
まぁいいか。むしろ馬鹿じゃないガイなんてガイじゃないし。


「他に誰も居ないというなら仕方が無いですね。乗りかかった艦に沈まれては困りますし」


本当は狙い通りの展開だがこんなところで喜んでみせる訳にも行かない。ここは不承不承引き受けたという形にしておいたほうが自然だろう。


「いや、助かります。ではこちらの契約書にサインを。お給料も上がりますよ」


・・・・・・常備してるのか? 契約書それ
















    ピッ!!


プロスさんとの話を終え、食堂に向かって歩いていると突然ウインドウが開いた。


「アキトさん、今平気ですか?」

「ルリちゃん? 大丈夫だけどどうしたんだい?」


確かに戦闘の前に『後で話をする』とは言ったがこのタイミングは予想していなかった。無論、俺に嫌は無いんだが。
ちなみにマキトは現在医務室だ。あいつは身体が身体だから色々と相談しておくことがあるらしい。

・・・俺の後に予備のパイロットとして契約をした辺り、やはり油断は出来ないが。


「いえ・・・ただ、先ほどのユリカさんとのやり取りが少し気になったもので」


そのことか。
確かにかつての俺を、ユリカを求めて大量の人を虐殺した俺を知っているルリちゃんからしてみれば、さっきの俺は余りに平静すぎたのだろう。
・・・・・・だが、今の俺にはかつて愛したあのユリカと現在ナデシコに居るユリカを同じ存在として扱うつもりが無い。そして、扱うことも出来ないのだ。


「ルリちゃん、俺は・・・俺の中には闇があるんだ。自分が望むもののために、あれだけの犠牲を払っても何も感じないほどの闇がね。
 ・・・・・・いまさら『これ』から逃げることなんて出来ないんだよ。それは俺自身が犯した罪から逃げることになるから。だがそれでも俺は『これ』を二度と表に出すわけには行かないんだ」


だからユリカとは深く関わらない。関わってしまえば自分を抑える自信が無いから。それに・・・ルリちゃんに言うべきことではないが、俺にとってユリカを求めた心と火星の後継者たちへの復讐心は既に一体のものだった。双方が絡み合い、相乗効果をもたらしたからこそ、俺はあれ程までの執念を持って戦うことが出来たのだ。


「アキトさん・・・・・・それは、結局逃げたことになるんじゃないですか?」

「そうかもしれないね。でも、きっとこれが一番誰も傷付かずにすむ方法なんだ。俺が耐えればそれでいい。
 ・・・もういいだろう? 俺たちがしようとしている事と、ユリカの事とは別の話なんだ」


俺の言葉を聞いたルリちゃんは悲しそうな顔で何かを呟いた。
? 一体なんて言ったんだ?


「・・・・・・分かりました。確かにやるべきことは他にも多くあります。この話はまたにしましょう。・・・あの地獄のような未来を変えるために、アキトさんはどうするつもりですか?」


俺の言葉に納得はしていないようだが、それでも協力はしてくれると言うことだろう。その瞳には強い意思が表れている。
本当に強くなったんだな。・・・・・・結局、俺が彼女に強くなることを強いていたのかもしれない


「ああ、色々考えたんだけど取り敢えず聞いてくれ」


俺はルリちゃんにラピスがこちらに来ていることやラピスに頼んだ計画のこと、そしてさっきマキトが洩らした言葉のことを話した。


「なるほど。計画の件は分かりました。実は私のほうにもハーリー君からこの時代に戻ってきたと連絡がありました。ラピスの補佐をするよう頼んでみます」


ハーリー君? えーっと、確かナデシコCでサブオペレーターをしていた子だよな。
はて、彼だけ戻って来ないと言うのも変だし自然な流れではある。だが・・・


「この時点で知り合いだったのか?」

「いいえ。全くの他人でしたよ。まぁ彼が連絡をくれたおかげでアキトさんも戻ってきていると確信できた訳ですし私は助かりましたが・・・・・・」


なかなか無茶をする子だな。確かに他に方法が無かったのかもしれないが。


「それで、あのマキトさんのほうですが・・・」

「もう調べてくれたのか?」

「襲撃はともかく、半年ほど前に記録が途絶えているネルガルの非合法な研究所はいくつか見つかりました。ただ、これらは実験に使われていた人々の記録がかなり怪しいので個人を特定するにはもう少し時間が必要です。それと、これはクリムゾンの話なんですが・・・・・・」

「どうしたんだ? なにかヒントになるような話でもあったのか?」


ひょっとして本当にクリムゾンが襲撃していたのか? 正直、クリムゾンが関わっていると思ったのはただの当てずっぽうというか言いがかりだったんだが。


「ここ一年の間にクリムゾンの研究所は分かっているだけで7箇所も襲撃を受けて壊滅しています」


はい? クリムゾンの研究所が襲撃を受けた? しかも7回も?


「実際はもっと多いと思います。これらがマキトさんと関係あるかどうかは分かりませんが―――」

「関係なかったら詐欺だな」


誰を騙しているのかは知らないが。


「とにかくもう少し詳しいことを調べてみます。戦闘訓練をするような研究所ならもっと絞り込めると思いますし」

「頼むよ。正直、いい加減頭が混乱してきた」

「分かりました。任せてください」


最後に自信あり気に笑って見せてルリちゃんを写したウインドウは消えた。
頭脳面でルリちゃんに完敗しているのは我ながらどうかと思うが仕方が無いよな。俺の頭が悪い以上にルリちゃんの頭がいいんだろう、たぶん、きっと。
いや、そもそも俺は――






・・・・・・・・・・・・・・・・・・どこに向かってたんだっけ?














<RURI>

「重症ですね」


思わず通信中に口をついて出た言葉を溜息混じりに繰り返してしまいます。
かつての時間を大事に思っていてくれるのは嬉しいですが、まさかあそこまで引きずっていたとは。
再会した時の様子からして、もう少し割り切っているかと思ったのですが・・・アキトさんにとって、今の状況は『再開』ではなくあくまで『延長』でしかないということなんでしょう。

・・・・・・となると当初の予定から大幅に変更する必要がありそうですね。


「オモイカネ、例の計画は全部白紙にしてください」

『了解』


一週間かけて作った緻密な『計画』を失うのは痛手ですが今のアキトさんにアレをやっても逆効果ですね。
もとより長期戦は望むところですし。というか大歓迎です。
何しろ、私が望むものには障害が多くありますからね。


「さて、これから重大発表があるのですが・・・艦長はどちらにいらっしゃるのですかな?」


格納庫から戻ってきたプロスさんがユリカさんを探しています。どうやら火星行きの件を知らせるつもりのようです。


「ユリ・・・艦長ならおそらく食堂です」


最初の予定ではアキトさんにあまり近づけないよう手を回そうと思っていましたが、アキトさんがあの様子ではあまり意味が無いですね。
むしろ前回のことを吹っ切らせるにはユリカさんをぶつけて荒療治としたほうが良さそうです。

そう、大事なのは過程ではなく最後に私が勝っていることなのですから。

「やれやれ困った人ですな〜、メグミさん、艦長を呼び出していただけますか?」

「はい」


さて、艦長が来るまでの間にマキトさんの事を少しでも情報収集しておきましょう。まずはハーリー君に連絡を入れて・・・・・・














<AKITO>

当然のことだがムネタケが叛乱を起こした。

この時俺は食堂でホウメイさんに料理の腕を見てもらっていたので何もしなかった。別に久しぶりの料理に夢中になって忘れていたわけではない。ちょっと腕が鈍っていたことにショックを受けて必死にカンを取り戻そうとしていた訳でもない。あくまでこの状況で俺が動く必要は無いと考えた結果だ。


「さっきから誰と話してるんですか」

「・・・・・・声出てた?」


チキンライスを食べながら頷くルリちゃんの視線が少し痛い。いや、別に睨んできたりしている訳じゃないんだけどさ?


「私はまたアキトさんの料理が食べられるだけで十分嬉しいですが」

「そう言ってくれるのは俺も嬉しいんだけどね。どうしても納得がいかないんだよ」


本来なら自分が納得していないものを人に食べさせるなんてもっての外だが、ルリちゃんがどうしても俺の料理を食べたいというので仕方なく出したのだ。
どちらにしろ、今はまだナデシコを取り戻すにはタイミングが早い。いずれガイが騒ぎ出すだろうからその後になってからだ。


「ではアキトさんの料理に関しては今後に期待します。
 そうそう、ハーリー君、OKだそうです」

「そうか、それは良かった。ラピスにも伝えておかないとな」


マキビ君のことはよく知らないがルリちゃんが信用している子ならラピスのことを任せても大丈夫だろう。幸い二人は同い年らしいし、友達になれればいいんだが。


「・・・・・・リンク、切れていないんですね」

「あ、あぁ」


何故だろう、ルリちゃんの視線がかなり痛い。勿論睨んできたりしている訳ではないのに。


「まぁいいです。  それから・・・・・・あの後マキトさんの戦闘データを調べてみたんですが」

「ん? どうかしたのかい?」


傍から見た限りでは別段不自然なところは無かったと思うんだが。


「マキトさんは恐らく戦闘用に遺伝子操作を受けているようです。マシンチャイルドわたしたちに比べればかなり下ですが、IFSによる情報処理速度が普通の人の数倍に達していました」

「!! それじゃあマキトは自力でナデシコを動かすことが出来るのか!?」


もしそんなことが出来るなら本当に危険な存在だ。
警戒なんて段階をすっ飛ばして直に問い詰めなくてはならない。
その上で最悪の場合は―――


「出来ませんよ」

「え?」

「マキトさんにそんな権限はありませんから。仮にメインコンピュータにアクセスしてもオモイカネが受け付けません。
 そもそもマキトさんの能力ではナデシコの機能を維持することは出来ませんよ」


なるほど。
詳しいことは分からないが、ルリちゃんがここまではっきり言うのなら本当に出来ないんだろう。
だからこそルリちゃんも『戦闘用に』と言った訳か。
ナデシコを動かす程の力は無くとも、戦闘中により多くの情報を把握できるのは大きな強味になる。


「ただ、これでまた一つ疑問が出てしまいます。遺伝子操作は元々ネルガルが積極的に行っていた研究でクリムゾン側はほとんど手を出していなかったはずです。もし現時点で多少なり成功例があったなら、後々クリムゾンが開発する機動兵器はもっと電子戦対策を施してあったはずなんです」


言われてみれば確かにそうだ。
火星の後継者との戦いで、ルリちゃんは全ての兵器を掌握することで無力化して見せた。
無論ルリちゃんの能力がずば抜けていたからこそ出来たことなのだろう。だが、戦局を混乱させるだけならもっと低い能力でも十分だ。
仮に敵の兵器を常に10機裏切らせ続けるだけでも一気に有利になるだろう。

マシンチャイルドの力を知っている者がその程度のことに備えていないはずが無い。


「・・・とすると、マキトはクリムゾンと関係ない?」

「・・・『この』時間があの未来に直結している保障がない以上断言は出来ませんが・・・・・・」


・・・お手上げだな、これは。
こうなったらマキト本人に直接聞くか? なんか聞けば答えそうな気もするし。


「あのぅ」

「マキトか? すまん、今考え中なんだ。後にしてくれるか?」

「・・・はい、分かりました」


ただ、もしあいつが何も企んでいないのだとしたら、嫌な記憶を穿り回す結果になってしまう。
正直な話、そこまであいつを疑い切ることが出来ないのも事実だ。
それに俺自身、かつてヤマサキ達にされたことをあれこれ聞くやつがいたら―――やめておこう、これを描写するのはマジでやばい。


「アキトさん、わざとやってるんですか?」

「へ? 何を?」


というか、俺は今何かやったっけ? なんかルリちゃんの視線から痛みが消えて代わりにあきらめの色が見えてるんですけど。


「あのぅ、ひょっとして僕、忘れられてます?」

「ってマキト!? いつからそこに!?」


くっ! こいつ、初めて会ったときもそうだったが神出鬼没のスキルでも持ってるのか?
これでも俺は人の気配にはかなり敏感なんだぞ?


「遠目で見ていたら二人の話が終わったようだったので来たんですけど。
 お邪魔でしたらまた離れていますよ?」


ふぅ、どうやら俺達の話は聞いていなかったらしいな。
まぁ丁度いいといえば丁度良いし、少しだけでも話してみるか。


「いや、もう良いんだ。
 それで俺に何か用
「どうした!! 皆、暗いぞ!! 俺が元気の出る物を見せてやる!!」


・・・・・・・・・ガイ、あんまりはしゃいでると見殺しにするぞ?


「何か始まるみたいですね。一体なんでしょう」

「さあな。どうでも良いんじゃないか?  で、何か話すことがあるんだろ?」


正直もう疲れたんで余計なことを考えたくない。
腹の探り合いなんて必要ない、穏やかな話題を頼む。


「話というか・・・ただ兄さんのことを聞きたかっただけです。兄さんが火星でどんなことをしていたのか、地球に着いてからどうしていたのか、僕はほとんど聞かされていませんでしたから」


うーむ、そういうセリフを真正面から言われると本当にこいつが怪しくないように見えるんだよなぁ。
・・・もし狙ってやってるなら勝ち目がない気がするな。


「別に今すぐ聞く必要のあることではないですよ。どちらにしても同室ですから話をする時間はありますし」

「・・・同室だったのか? 俺達」

「知らなかったんですか・・・」


一応部屋には入ったはずだが・・・
と、その時ようやく接続が完了したのか、ゲキガンガーのオープニングが流れ始めた。


「こ、これは!!」


何故か驚愕の声を上げるマキト。


「なんだ知ってるのか? マキト」

「聞いたことがあります。百年の昔から伝わる伝説の傑作アニメがあると! 確か、その名もゲキガンガー!!」

「・・・・・・誰に聞いたんですか、そんな伝説」


異様に盛り上がっているマキトとは対照的に、ルリちゃんは完全に冷めている。
ついでに俺も冷め切っている。ゲキガンガーは卒業したし。


「時々研究所を見学しに来る人たちが話していたんです! 辛い時は皆このアニメを見て頑張ってきたんだって力説してました!」


どんな研究所だよ、それは・・・
マキトは目を輝かせてスクリーンを見つめている。


「あー、向こう行って見てきていいぞ?」

「あっすみません、僕の方から話を聞きたいといったのに――」

「いいから、好きなだけ見てこい。どうせまた後で話せるんだから」


単に俺が休みたいだけだが。


「はいっ! それじゃあお言葉に甘えます。見終わったらまた来ますね!!」


ぺこりとお辞儀をしてガイの隣(つまり最前列)へと走っていく。
・・・子供だ。正真正銘の子供だ。

なんとなくルリちゃんの方を見る。考えてみれば、あいつが本当に15歳なら精神年齢上はルリちゃんとほぼ同い年になるはずなんだよなぁ。


「まさか・・・」

「ん? どうしたんだい」


ルリちゃんは相変わらず見た目を裏切る真剣な表情をしている。
俺の声に反応してこちらを振り向いた。


「あ、いえ、なんでもないです。可能性はほぼゼロですし、これ以上アキトさんを混乱させるのも可哀想ですから」


・・・・・・さらりとそういうセリフを言われると余計惨めなんだけど。


「ふう、なんだか出来の悪い弟が出来たみたいです」


・・・・・・・・・・・・・・・身に覚えがありすぎますです、はい。















その後、ガイが皆を焚きつける形でナデシコクルー達は反乱を起こした。
事の顛末は、詳しく語るとムネタケが哀れに感じるほどにあっけないものだったのでいっそ綺麗に省く。
ちなみにマキトは骨折により退場したガイの代わりに先陣を務め、悪逆キノコ星人を成敗するという大金星をあげた。


「だから誰と話しているんですか」

「・・・・・・喋ってた?」


ルリちゃん、お願いだからその目はやめてください。心が痛いんです。
っていうかいつの間にこんな癖がついたんだ? 確かにラピスとの会話では考えることと喋ることが一体になっていたけどさ?


「ところでアキトさん、そのエステは空戦ですよ?」

「・・・・・・いいんだよ、これで」


ルリちゃんが何を期待しているのか分からないが俺は
あんなことをまたやる気は無い。


「あのぅ、ゴートさん! ここは僕も出撃ですよね!!」

「いや、この程度の時間稼ぎならテンカワアキト一人で問題はないだろう」


外ではマキトが俺に続こうとしてゴートさんに止められているようだ。
実際こんな場面でマキトが出る必要は無いし、俺の心情的に邪魔なんだが。


「そんなっ!! だって戦闘ですよ?」

「そもそもお前はあくまで予備のパイロットだ。基本的に出撃することは無い」

「で、でもあの次元跳や・・・じゃないチューリップ、なんだか鞭みたいなのをつけててやる気満々ですよ!? 敵巨大兵器を前にした以上、皆で力をあわせないと!!」


・・・チューリップを巨大兵器扱いするのは無理があると思うぞ。
大体、プロスさんと契約しなおす時はマキト自身あまり戦闘をしたくない風だったはずなんだが・・・


「なぁマキト、連続の戦闘が難しいといったのはお前だろう。どうして急に出撃したがるんだ?」

「それは・・・その、ガイさんが言うには、し、しちゅえーしょんはとても大事なものだと・・・」


・・・・・・・・・・・・ひょっとしてゲキガンガーに感染したのか?
あ、ゴートさんも危うくこけそうになっている。


「・・・テンカワ、取り敢えずお前はもう行け」

「・・・・・・了解、テンカワアキト、出撃します」


この後の流れは、ガイが出てこなかった以外、前回とほぼ同じだった。
俺が適当に囮をしている間にユリカがナデシコに帰還、チューリップを内側から破壊した。




・・・ちなみに、ナデシコに戻るとマキトはガイの部屋に移ることになっていた。
プロスさんが言うにはマキト自身が希望したとのこと。結局、新たな熱血の誕生は確定的らしい。


(アキト、ゲキガンガーって何?)

(・・・・・・・・・世の中知らない方がいい事もあるんだよ、ラピス)














<MUNETAKE>

何故か暗闇の中で目が醒めた。


「う・・・ん・・・・・・何処よ、此処」


ほとんど光が無いから良く分からないけど、どうやら小さな部屋に軟禁されているみたいね。おまけに後ろで手を縛られてるわ。


「何でこんな所で・・・・・・って、そういえば作戦に失敗したのよね」


連合軍から極秘で受け取った指令に従い、一度はナデシコを占拠したはずが、いきなり反旗を翻したクルー達の反撃であっさりナデシコを奪還された・・・


「まったく、何でアタシがこんな目に・・・」


軍からの指令を受けた時、アタシは喜んだわ。『手柄を立てるチャンスが来た』と。
今までのちまちまとした点数稼ぎとは訳が違う、軍にとって垂涎の的である木星蜥蜴を倒しうる兵器を獲得するという手柄。
それはアタシの出世に大きな弾みをつけるはずだった・・・


「そんな大事なときに何でただの民間人が抑えられないのよ部下たちあいつらは!」

「有能な手駒を揃える事は将に必須の能力だ」



 !!

何気なく口をついた愚痴に背後から返事が返ってきたわ。
慌てて振り返るとそこ立っているのは・・・・・・子供?


「あんたはあの時の!!」


そう、こいつはナデシコ占拠後、ミスマル提督からの指示を待っていたアタシを抑えたやつだわ。
『ごめんなさい』とか言いながらアタシの方に部下を吹っ飛ばしてきた。確かアタシはそれに巻き込まれて気絶したはず・・・


「何よあんた。ひょっとして一緒に閉じ込められてるわけ?」

「・・・・・・本気で言っているのか?」


んなわけ無いでしょうが。ちょっとした皮肉よ。実際、どうやって出るつもりか知らないけど。
はっきり言って、こいつはアタシの出世を妨げた仇敵、本当ならこんな皮肉じゃ済ませないくらいの恨みがあるわ。

「それじゃあさっさと出てってくれる? それともアタシに何か用でもある訳?」

「用と言えば用がある。俺自身のものではないが」


心底どうでもいいことであるかのように言ってのける。
・・・何か、あの時と雰囲気違うわね。妙に気怠げというかつまらなそうと言うか。


「お前は何を望んでいる?」

「はぁ?」


いきなり何を言ってんのよこのガキは。
前後の脈絡が一っ欠けらも無いじゃない。


「アタシがあんたにそんなこと教える理由が何処にあるのよ?」

「何処にも無い。答えないならそれで構わない」


意味が分からないわね。こいつ、ひょっとしてどこかおかしいんじゃない?


「それで終わり? くだらないこと言ってないでどっか行ってくれる?」

「・・・・・・まぁいい。己の野心すら誇れない男があいつの助けになるとも思えない。お前を利用することに価値は無いか」


とことん会話がかみ合わないわね。その上ムカつく言い方。アタシを利用する? 価値が無い?
そんな一言でアタシの何が分かったつもりよ。アタシにはこんなやつは眼中に無いような野心が・・・・・・

そう、野心はあるわ。出世をすること。上を、頂点を目指して昇り続けること。



でも・・・・・・アタシはそれを誇っていたのかしら?



「結局は当初の予定通りか・・・
 ・・・ムネタケサダアキ、お前の存在はテンカワアキトにとって有害となる可能性が高い。
 どうせ宇宙に出る前に脱出するつもりだろう。ならば二度とナデシコに近づくな」

「どういう意味よ?」

「この先ナデシコは戦果を挙げる。そのナデシコと軍を繋げる役割、お前如きに務まるものではない。手柄を焦って自滅するのは勝手だが、テンカワアキトの中に巣食う闇を余計に刺激されては困る。そのような事態に陥る可能性は・・・・・・強制的にでも排除する」


ナデシコが戦果を挙げる、ね。そんなことあるわけ無いでしょうに。
単独で火星に行こうとしている艦が無事ですむはずがないわ。どうせ地球軍の防衛ラインに阻まれるか、火星に辿り着く前に蜥蜴どもに撃墜されるに決まってる。
結局、こいつはそんなことも分からないガキだったってことね。


「頼まれたって二度とこんな艦に乗らないわよ」


このガキの言う通りになるのは癪だけど、それがアタシにとって最善なのも確かだわ。
アタシが・・・・・・出世するためには・・・・・・・・・


「そうか。ならば少し手を貸そう。一応外部の情報が分かるほうが脱出するのに便利だろう」


そういってこいつは小さな塊を投げてきた。
これは、通信機かしら?


「まぁ、ありがたくもらっておくわ」

「それと、これはこちらの都合だが―――」


何故かいきなり距離を詰めてくる。


「少し寝ろ」



    トンッ!!


馬鹿みたいな軽い音を合図に・・・・・・
・・・・・・急に瞼が重くなった・・・・・・・・・・・・・・・
















あとがき

どうも、第2話からしてこんな更新ペースで大丈夫なのかと思わずにはいられない、すげかえ4号です。
頭の中にあるものを文章にしてみると、それがどれだけ穴だらけだったか浮き彫りになってしまい、予想以上に時間がかかってしまいました。
文章を書くこと自体に慣れてくればもう少し時間を短縮できるのかもしれませが・・・・・・・・・それ以前に気が付くとコントローラを握っている自分が情けないです。

ある意味初めから『失うものは何も無い』状態なので、気が向いた方などいらっしゃいましたらどうぞ(言葉の)ナイフをぐさっと突き刺してやってください。すげかえ4号でした。


 

 

感想代理人プロフィール

戻る

 

 

 

 

代理人の感想

あー、とりあえず「荒治療」ではなく「荒療治」(あらりょうじ)ね(爆)。

 

それはさておき、ロコツに○○出身ぽかったり、体が弱かったりと妙なマキト。

っつーか体の弱いのが何でパイロットやってるんだよ(爆)。

 

後、話してる途中で行き先を忘れてしまうアキトにはちょっと涙が。

っつーか思わず共感しちゃったよっ!(爆死)