第二話     未来は変わるよ、どこまでも






 さて…この戦闘でガイの運命が決まる。

 既に過去と大きく違い始めてしまっている気がするが、人の命を助けることによる
改変を起こしてよいものか。

 …俺もルリちゃんもその事で悩んでいた。


「結局、カオス理論は正しいという訳か…」


 俺はポツリと呟いていた。


「あのアキトさん、カオス理論って何ですか?」


 ルリちゃんが俺の呟きに反応して尋ねてきた。


「んっ?

 ああ、簡単に説明してしまうと……という理論だよ。

 この場合には、過去と少しでも違う行動をとった時点で、もはや俺達の知っている未来になることはない、

 という意味で使ったんだ。

 そういう意味では、俺達はもう過去と違う行動をたくさんして来ている。

 即ち、俺達は既にあの未来の時間軸にはいないということから考えると、

 ガイを助けても良いかと思うんだけど、ルリちゃん。」


「…最初に言われていた事とずいぶん変ってきてしまっていますが…

 アキトさんがそう言われるなら、賛成致します。」


「そうだね、最初は過去をなるべく変えまい、と考えていたんだけどね。

 結局、もう、どう足掻いてもあの未来とまったく同じには出来ないし、したいとも思わない。

 それに、あの未来への帰り方も解らないし、帰りたいとも思っていない。

 そうするとこの世界で生きていくしかないけど、なるべくならより良い世界の方が良いからね。

 もちろん、こんなことは究極の自己中心的思考で許されないんだけどね。

 …特にあんなことをした俺には…」


「アキトさん!!」


「大丈夫だよ。

 死に急いだり、自分勝手な贖罪なんてしないから。

 俺に出来ることは、『大量殺戮者であること』を、いつまでも忘れずにいる事だけだからね。

 ………暗くなっちゃったね、ガイのお見舞いにでも行ってみようか?」


 ガイは前回の反撃時に転倒、そしてクルーの皆に踏まれたことにより、全治二ヶ月の怪我をしていた。

 俺とルリちゃんは医務室に向かった。

 ガイの奴は、俺達の見舞いに泣いて喜んでくれた。

 やはりガイを見殺しには出来ないと改めて思った俺だった。



 そしてナデシコは、連合宇宙軍の地球防衛ラインの突破を開始した…




 ドオオオォォォォォォ



 ナデシコのディストンション・フィールドに、ミサイルの着弾する音が聞こえる。



「第四防衛ラインを突破…」


 残りは、第三、第二、第一だな。

 確か、第三防衛ラインには…


「絶対きますよアキトさん。」


「ああ、まあ来るだろうな……出来れば穏便に、ナデシコに同乗してほしいんだが。」


「無理でしょうね。

 アキトさんがどのように説得されるのか、楽しみに見ていますから。」


「…苦手なんだけどな〜、説得するのって。」



『敵機確認』


「そうこうしている内にきてしまいましたね。」



「有り難うオモイカネ…艦長、第三防衛ラインに入りました。

 同時に敵機デルフィニウムを9機確認。

 後、十分後には交戦領域に入ります。」


「う〜ん、ディストーション・フィールドがあるから大丈夫だと思いたいけど。」


「今のフィールドの出力では、完全に敵の攻撃を防ぎ切れません。」


「じゃあ、またアキトに頑張ってもらっ『あれ?』」


 ユリカの言葉をメグミちゃんの呟きが遮った。


「ヤマダさんがどうしてエステバリスに乗っているんでしょう?」


 おいおい…そういえば、そういう奴だったよな確か。


 ルリちゃんが慌てて表示した通信ウィンドウには…

 ミイラ男、もとい全身包帯男がエステバリスに乗って飛び立とうとしている姿が映っていた。


 一応確認してみる。


「…ガイ、何をしてるんだ?」


「決まってるだろうが!!

 俺のこの熱い魂で!!俺達の行く手の邪魔をする奴達を叩きのめ〜す!!」


「…お前は、全治二ヶ月じゃなかったのか?」


「そんなもの、気合で直る!!」



(お前以外治らん!!)


 ブリッジにいた全員の気持ちが、シンクロ率400%を達成した記念すべき瞬間だった。


「…ヤマダ機、ナデシコから発進。
 …どうします?」


 どうしますも、見殺しには出来ないしな。


「ユリカ、俺が連れ戻してくるよ。」


「…うん、許可します!!
 ついでに、デルフィニウムもやっつけてくれると、ユリカ嬉しいな〜」


「はいはい、善処します。」


 あれだけの実力を見せてしまったからか、ユリカは遠慮なくそんなことをのたもうた。


 ガイに遅れること十分、俺もナデシコを発進する。

 頼むから、自分自身の首を絞めるような事をしないでくれよ、ガイ…



 一応ガイは回避行動に専念していたみたいだ。

 無事な姿だったので、暫く放置しておくか?等と考えていたら、



「何してるんだアキト!!

 親友のピンチだぞ!!早く助けろ!!

 身体中が痛くて、気が遠くなる〜〜〜!!」 



 と、俺に言い放った。

 確か、気合で何とかなるんじゃなかったか?と思いつつ、助けることにする。


「はいはい、俺が牽制するから早くナデシコに帰還しろよ。」


「おう!!俺の囮としての役目は全うした!!

 後はお前に任せるぞアキト!!イテテテテ…」


 囮も何も、邪魔しかしてないぞガイ。(汗)

 

 そのころユリカとジュンは通信していた。


「ユリカ!!今ならまだ間に合う!!

 ナデシコを地球に戻すんだ!!」


「…駄目なのジュン君。

 ここが、ナデシコが私の居場所なの。

 ミスマル家の長女でも、お父様の娘でもない、

 私が、私らしくいられる場所はこのナデシコしか無いの。」


「…解った、ユリカの決心が変わらないのなら。」


「解ってくれたの、ジュン君!!」

 

「あの機体をまず破壊する!!」


 ジュンはそういうやいなやガイの機体に向けて複数のミサイルを発射させた。


 だが俺の目の前でそんなことが許されるはずも無く、

 俺は全てのミサイルを、ライフルのピンポイント射撃で叩き落した。

 撃ちもらしなど、俺には有り得ない。


「こっちはまかせて、さっさとナデシコへ向かえ、ガイ。」


「わ、解った!!」


 そう言い残して、ガイはフラフラとナデシコへ向かう。

 敵は俺の技量に恐れを抱いたのか、迂闊に動けないようだ。

 残りの問題は、ジュンについてだが…口下手なんだけどな、俺。


 睨み合いに飽きる前に、ジュンから通信が入った。



 ピッ!!


『…テンカワ アキト!!

 正直に言おう、僕はお前が憎い!!』


「これは…随分ストレートにきたな。

 だが、俺はお前に恨まれる覚えはないが(もちろんユリカのことに決まっているが)」


『五月蝿い!!テンカワ アキト、僕と決闘だ!!』


『隊長、そんな勝手な行動は…』


『黙れ!!お前たちは宇宙ステーション《サクラ》に戻っていろ!!

 もう直ぐ第二防衛ラインだ…ミサイルの雨が降ってくるぞ!!』


『!!了解しました!!』


 ジュンの部下は全員逃げて行ってしまった。


「なぜそこまでして?」


『ナデシコを……ユリカを止めるためだ!!』


 言外に<ユリカをかけて>という固い決意を見せるジュンに、俺はそれを受けることにした。


「いいだろう、手加減はしないぞ。来い。」


『いくぞぉぉ!!』


 その掛け声とともにジュンが仕掛けてくるが、所詮急造のパイロット、俺に敵うはずもなく、


「…終わりだ。」


 あっさりと、ジュンの後ろを取り、警告を発する。


『ああ、解ってる。

 ……僕は子供の時から正義の味方になりたかった……

 連合宇宙軍こそ、その夢が叶えられる場所だと信じていた…

 だけど、その正義の象徴だと思っていた連合宇宙軍も、決して正義だけの存在じゃなかった。』


 だいぶ迷っているな、ジュン。

 まあ、今まで自分が立っていた場所そのものに不信感を持ったのだから仕方ないか。

 しかしそれも一人の人間として成長するには避けられないことだしな、良い機会だとでも思え。


「正義なんてものは、どこにもないさ。

 人それぞれに、自分勝手な正義というものがあるんだ…

 そして自分の正義に反しているものを、人は悪と呼ぶんだ。

 そうして人間は、正義の戦いどうしを繰り広げてきたんだよ。」


『……随分冷めてるんだな……』


「まあな、俺だって色々考えたことはあるさ。

 ………という暗い話はともかくだ、帰って来いよナデシコに。」


『…本当に君には敵わないかもな。

 だが、、もう全てが遅いんだ。』


 悟りきった様なジュンの通信に訳が解らないでいると、突然オモイカネより警告が表示される。


『第二防衛ライン侵入、ミサイル発射を確認』


 何時の間にそんなところまで来てしまっていたのか?

 ガイはナデシコに帰還するところだな。

 しょうがないこれも乗りかかった船(しかも戦艦)だからなと、俺は決意を固める。


「ジュン!!すまんな!!」


 そう言って俺は、ジュンをナデシコへ向かって蹴り落とす。

 その反動で俺はナデシコから更に距離を広げた。


『な、何をする!?』


「黙ってナデシコへ向かえ!!

 …ルリちゃん、ミサイルの位置をこっちのモニターへ回してくれ。全部打ち落とす!!」


『解りました、でも無理だけはしないで下さい。』


「了解、頑張るよ。」





 そして俺の舞が始まった。

 

 

 

 雨のように降り注ぐミサイルをときには拳で、ときには蹴りでさえ打ち落とす。

 極め付けは、左右の手に持ったライフルを殆ど狙いをつけていないような速さでありながら、

 ピンポイントでミサイルの弾頭を撃ち抜いていく。

 自分の後ろに逸らしてしまったものさえも、振り返って撃ち抜いた。




「すっごーーい!まるで花火みたい」


 ブリッジで見ていたミナトさんが呆然と呟き、

 プロスさんの眼鏡がキラリと光、ガイが自信を失いかけ、メグミちゃんの目が点になっていて、

 ユリカが五月蝿く騒ぎ、ルリちゃんが痛々しく俺を見ていたことを、俺は知らない。



「これが、最後の一弾だ。」


 結局一発たりともナデシコへ近づけることなく第二防衛ラインを突破した。


 ナデシコに戻るとセイヤさんたちが群がってきたが、

 適当にあしらって、ガイのところに行ってゲキガンガーを見たいとねだった。

 ガイが大喜びしたのはよいが、やはり素面では辛かったかもしれないと後悔した。



 へとへとになってガイの部屋から出ると、キノコが脱走したことをルリちゃんから聞いた。

 やはり、未来は簡単に変わっていくものなんだ、とつくづく思った俺である。









注:カオス理論ーー複雑なシステム内における予測不可能性を考察する数学理論 
         天気予報を行う数式をローレンツが立てたことに始まると言われている。

         私も良く理解できていないので、知りたい方は御自分で御調べください(汗)

 

 

後書き
 鋼の城さんにマヌケと言われたアキトでも少しはものを考えていたようです。

 ただ、絶対にシリアス系にはなりませんが。


 しかし、前回ハーリーについて少し毒を吐きましたが、ジュンの方がまだ救いがありそうです。

 ジュンが上手く成長すればですが。

 決定なのは、ハーリーが幸せになることはないということ!!これだけだったりします。


追伸 「皇」の読み方ですが、「すめらぎ」と無理やりにでも読んでいけたらと思います。

   「すめら」でも同じですが、音の終わり方が尻切れトンボのようで…

 

 

代理人の「ちょっと待ていアキト!」のコーナー(笑)

 

今回は・・・・・・なし!

 

ちっ、つまらん(爆)。

敢えて言えばわざわざガイをゲキガンガーに誘ったあたりですが・・・・

いまいちインパクトが弱いしなぁ(笑)