第四話       アキトさんとの航海日誌

 

 

「ねえ、ルリちゃん…アキトと何処で知り合ったの?」

 ユリカさん、気になるんですか?
 アキトさんは…今はトレーニング中ですね。


 ……!!周りで、ミナトさんやメグミさんも艦長と私の会話を気にしているようで
す。
 ここは、先制攻撃といきましょう。

「昔、一緒に住んでました。」




 ズデ〜〜〜ン!!!





 ブリッジにいる、私以外の人が全員床に倒れました。
 プロスさんまで…
 ……オーバーアクションですね。

「ちょ、ちょっとルリルリ!!それ本当?」

「ア、アキトさんって変態だったの!!」

「むう・・・そんな事実があったとは。」

 ミナトさん、メグミさん、プロスさんからコメントを頂きました。
 ……でも今アキトさん18で私が11、昔のことなのに何を想像すると変態になるのでしょう?
 私、少女ですから良く解りません。

 そう言えば、一番大きなリアクションを返すだろう、と予想していたユリカさんはどうしたのでしょうか?

「あれ?
 艦長は…居ませんね?」

 ユリカさんの定位置でもある、ブリッジの上部にその姿はありません。
 先程、私に質問をしたはずですよね?

「ル、ルリルリ…じょ、冗談よね?
 でも、あの艦長にそんな事を言ったら駄目よ。
 一目散にアキト君を探しに、ブリッジを出て行ったわ。」

 ……アキトさん御免なさい。
 これからアキトさんに訪れるだろう騒動を予想して、ちょっと反省しました。

「はい、今後は気を付けますミナトさん。」

「うんうん、子供は素直が一番よ。」

「…ミナトさん、私、少女です。」

 自己主張は、忘れたら駄目ですよね。
 ナデシコで、今の私の姿では形勢不利ですから。
 …せめて、後五年は引っ張らないと。

「な〜んだ、ルリちゃんの冗談だったんだ…
 そうだよね、アキトさんがロリコンの訳ないわよね。」

 安心した表情でそう呟くメグミさん…
 やっぱり…そうなんですねメグミさん。

「…メグミさんを敵と確認。」  

「アキト君には私みたいな大人の女が…」

 ミナトさん聞こえてますよ。
 しかし、過去のこともありミナトさんには強く出れません。
 でも、ミナトさんには白鳥九十九さんがいるじゃないですか。
 私のアキトさんに手を出さないでくださいね。

 それもこれも皆アキトさんの所為です。
 やっぱり、あれぐらいの仕打ちは許されるでしょう。


 こうして順調に火星への航海は続いて行きます。

 

 

 

……ルリちゃん…」

 怒る気力もないのか、疲れた顔でアキトさんが私を見ます。
 …ちょっと意地悪が過ぎてしまったようです。

「済みませんアキトさん。
 ちょこっとだけ、ユリカさんをからかうつもりだったのですが……」

 アキトさんが自室に居るのを確認してから、通信を繋げて謝罪をします。

「でも、アキトさんもいけないんですよ。
 こっちに来てから、誰彼かまわず落としまくって、しかもミナトさんまで。
 

 この際上目遣いで話すのがポイントです。

「ま、もう良いけどね。(自覚がある分何もいえないしな)
 それで他に連絡でもあるのかな?」

「…別に今はありませんが……
 何か連絡が無いと、アキトさんとお話をしては駄目ですか?」

「そんな事は無いよ…
 そうか、あの時の事をおもいだしてるんだね。」

 アキトさんの表情が暗くなり、
 私の表情も暗くなったと思います。

「…あの時、墓地で再会してから後のアキトさんは、私を避けていました。」

「…あの時が…本当の意味で、ルリちゃん達との決別を決めたときだからね。
 俺の手は余りに血で汚れ過ぎていた…
 それなのに、最後には結局巻き込みたくなかったルリちゃんまで巻き込んで。」

 あの時の事を思い出したのか、アキトさんの表情が険しいモノに変わります。

「…あの時から、幾度と無く連絡を取りましたよね?
 でも、アキトさんは一度もまともに答えてくれなかった。
 ユリカさんの救出が終わった後でさえも……」

「消え去るつもりだったからね…完全に皆の前から。」

「今回も、ですか?」

 今回も同じ様な事が起こるのでしょうか?
 今回もアキトさんとユリカさんに災厄が訪れるのでしょうか?
 ……そして、今回もアキトさんは私達を置いて、去って行くのですか?

 私の真剣な眼差しと、
 アキトさんの漆黒の瞳が正面から絡み合います。
 少しの嘘も許さない、そんな決意を漲らせた瞳を今の私はしているでしょう。

「…ふ〜、大丈夫だよ、俺はもう何処にも行かない。
 ちゃんとユリカを、ルリちゃんを…そして全員を救ってみせるさ!!」

 その「全員」の中に、アキトさんは含まれているのですか?
 過去に戻ってからのアキトさんは、確かに明るくなりました…軽くもなりましたが。

 でも、その本質は?
 自分が全ての不幸の元凶である、という考えは直ったのでしょうか?
 私はそれだけが不安なんです、アキトさん…

「それを聞いて、安心しました。
 私は業務に戻りますね。」

「ああ、頑張ってね。」

「はい、それじゃあ…」

 この時、もう少し注意を払って回線を繋いでいれば…
 最後のアキトさんの呟きを、聞き逃さなければ…

 

 

「……大丈夫幸せになれるさ……みんなでまとめてね…」 

 

 

 

 

 

 今回はサツキミドリの人達が助かった為、お葬式がありません。
 お陰で逆にユリカさんは暇を持て余しています。

 やっぱりユリカさんって良くて参謀長、普通なら幕僚でいるべき人なのでは?
 日々の雑務を全てジュン副艦長にやって貰っているのを見るとそう思ってしまいます。

「う〜〜ん、暇だよ〜、ルリちゃ〜ん。」

 だからって私に絡まないで下さい。
 業務の邪魔です。

「…ヤマダさんのお見舞いにでも行かれたら、良いんじゃないですか?」

 ヤマダさんは順調に回復をし、
 一週間後には、退院できるそうです。
 艦長として、怪我したクルーのお見舞い位はやってくれないと士気に関わります。

 ……もっとも、このナデシコのクルーのテンションは、何時でも異様に高いですが。

「うん、それがね。
 ユリカがお見舞いに、ユリカの手作りクッキーを持っていったらね、
 …ヤマダさんの入院期間が延長されたの?
 どうしてかな?」

「…前言撤回します。
 そのまま艦長席で、ゲームでもしていて下さい。」

「は〜〜〜い。」

 …ヤマダさん、御愁傷さまです。
 それにしても、相変わらずの殺人料理なんですね、ユリカさん。
 昔通りだから当たり前ですけど…
 …でも、どうしてユリカさんは急にクッキーなんてお見舞いに作ったのでしょう?


 ……まさか?

「もしかして、そのクッキーはアキトさんの所に、始めは持って行ったのでは?」

「そうだよ?良く解ったねルリちゃん。」

 対戦ゲームをしながらも、私の質問に答えるユリカさん。
 こういう事では、実に器用なんですが…
 一体何が、殺人料理の決め手となっているのでしょうか?

 しかし…アキトさん、入院中のヤマダさんを犠牲にしてまで逃げられるとは。
 でも確かに、今アキトさんに入院されるのは困りますし、
 ヤマダさんなら、「気合」でどうにかしてくれると思いますしね。

「でもね、アキトったらひどいんだよ!!
 『私が食べさせてあげる!!』って言っているのに、
 今からトレーニングだから食べれない、って言ってね。
 ヤマダさんのお見舞いでもしてくれば、なんて言うの。」

 …また、確信犯ですか、アキトさん。
 都合の悪い事は全て逃げ切るつもりですか?
 でもこのままだと、ヤマダさん再起不能になっちゃいますよ?

 しかし、人外の超回復能力を持っているヤマダさんは、十日後には退院されました。
 ある意味、大物かも知れませんね。

「俺はここでは終わらない!!俺が死ぬのはコクピットの中でだ!!」

 そう叫んで、生死の境から甦ってきたそうです。
 本当に「気合」で何とかなるとは思いませんでした。



 ……熱血って凄いんですね。

 

 

 

 

 お腹が空いたので食堂に行ってみると、
 アキトさんが、ホウメイさんに指示を仰ぎながら料理をされていました。

「で、テンカワそこで素早くダシを取る!」

「はい、ホウメイさん。」

 ホウメイさんの「本物の味を」というこだわりで、ナデシコ食堂はクルーにも評判が良い。
 もちろん、従業員の七分の五を占める、若い十代の娘達の人気もあるのだろうけど。

「しかし、エースパイロットがコックとはね〜
 あんたも物好きな奴と言うか、不思議な奴と言うか…」

「…まあ、異色のパイロットっていうのは認めますけど。」

 アキトさんが照れながら、ホウメイさんに返事をしています。
 でも、料理をされているその顔は本当に楽しそうです。
 やっぱりアキトさんには、笑顔が一番似合いますね。

 そう、私まで幸せになりながら眺めていました、その時までは。

「でも、アキトさんは料理もお上手ですよね!!」

「そうそう、強いし料理も出来るし頼れる人よね!」

「そうよね、アキトさんだったら私…」

「わぉ、大胆発言!!」

「抜け駆けは許されませんよ。」

「ははは、光栄だなそんな風に言って貰えると。(計画は順調だ、三パーセントの遅れも無い)」



 ……盲点でした、ここにも敵が…
 ふふふふふふ、アキトさん凄く嬉しそうですね?




 ぞくっ!! 


「な、なんだ?急に背中に悪寒が……」

 

 

 

 

 

「我々は〜、断固ネルガルに抗議する〜!!!」 


 ウリバタケさんの抗議の声の大きさに驚くユリカさん。

「ちょっと、急に何を言い出すんですか?」

「これを見てみろ、艦長!!」

 そう言いつつ『ナデシコ乗艦に際しての契約及び規約』という紙、つまり契約書を突きつけた。
 …かなりヒートアップしていますね。

「え〜〜と?『社員間の男女交際は風紀維持の観点から手を繋ぐ以上の行為は禁止』

 って、これはなんですか?」

「呼んで字の如く。
 お〜て〜てぇ、つ〜ないで〜♪ってここはナデシコ保育園か?」

 そう歌いつつ両隣のリョーコさんとヒカルさんの手を振るウリバタケさん。
 でもウリバタケさんには、オリエさんとお子さんのキョウカさんがいらしたような気がします。

 さて、ここで千両役者の登場です。
 プロスさんとゴートさんがライトアップされながら舞台もといブリッジ中央へ。

「男女関係は、どうあってもエスカレートするものですが。
 エスカレートの行き着く先は結婚そして出産。どちらにしましてもお金が掛かりますよねぇ?
 それに!!契約書にサインされた方が悪いのです!!
 嫌でしたら契約される際に変えればよかったのですから!!」

 しかしあんなに細かい字で書かれた文を誰が読むのでしょう。
 しかも交渉の相手がプロスさんじゃ、するだけ無駄なのでは?

 しかし、今回は他人事ではありません。
 私の場合はいきなりナデシコに座っていたので、契約ははるか昔のことですから、

 ここはウリバタケさんに頑張ってもらわなくては。

「何だと!!こんな細かい項目まで、誰が目を通すかってんだ!!」

「テンカワさんは変えられましたよ。」

 

 

 

 シーーン

 

 

 

 今、聞きなれた言葉が出てきたような?
 
「な、なんだと!!テンカワの奴はどう変えたんだ!!」

 そう、アキトさんがいきなりでて来たような。
 まさか、ですよねアキトさん。

「困りますな、契約は各当事者間のこと。
 第三者たるウリバタケさんには、お教えできません。」

「く〜!!テンカワの奴はどこだ〜〜!!」

「はい?呼びましたか、ウリバタケさん?」

「おう!!お前、男女交際に関する契約を変えたって本当か?」

「ええ、さらっと見ていたら、たまたま目に留まったので。」

 嘘をついていますね、嘘をついていますね。
 一体どのように変えたのでしょう、気になります。

「一体どう変えたんだ??」

 ウリバタケさんナイスです!!
 お礼に隠れて何か造っていることは、プロスさんに内緒にしといてあげましょう。


「いえ、ただ俺と男女交際する人はこの契約外にして欲しいと。
 だって一人じゃ、交際できませんものね。
 あれ、ウリバタケさんは変更しなかったんですか?」


 アキトさん、それは誰と交際するためですか?
 ………もしかして、私と?


 いえ、私以外に、一体誰がアキトさんに似合うでしょうか、嫌似合わない。

 

 

 ハッ!!

 周りを慌てて見渡しても女性は固まって、ポーッと上気した顔で佇んでいます。
 ウリバタケさん達男性は歯軋りなどをして、悔しがっています。
 みなさん、どうしたのでしょうね?
 私とアキトさんの未来について以外何かありましたっけ?


 その時、ブリッジに大きな衝撃音が鳴り響きました。


 ドゴォォォォォンンン!!!

 やっと火星に到着ですね。

「これは…木星蜥蜴の攻撃です。
 これには迎撃が必要です、艦長!!」




 こうしてナデシコの火星侵攻が始まりました…

 

 

 

 

 アキトさん…
 この戦争の後に……ポーー。
 ナデシコにいるうちからでも構いませんが、まだ少女ですから。


 小さな幸せ…二人で掴みましょうね。






後書き
 劇場版を見ていないもので、ルリの気持ちがいまいち解りませんでした。
 その所為もあり、簡単に書き上げてしまいました。(考えても良く解らないもので…)

 

 

 

代理人の「ちょっと待ていアキト!」のコーナー

 

「本来くっつかない物を無理矢理くっつけようとすると壊れるとはtakaさんの名言ですが

まさにここのルリも壊れに壊れまくってます。

まあ、ルリだけでもないようですが(笑)。

 

 

 

そして今回の「ちょっと待てアキト!」もやはりココしかないでしょう。

 

 

大丈夫幸せになれるさ……みんなでまとめてね…

 

 

軽薄化外道化がますますどんどんと進んでゆくなぁ(笑)。

 

(計画は順調だ、三パーセントの遅れも無い)

 

 

ひょっとしたら道化かもしれないけど(爆)