第五話       懐かしき地へ 

 

「さて、と…」

 現在俺達は敵と戦っている。
 一体何人のクルーが気づいているのだろう、これがナデシコの初めての本格的な戦闘だという事に。
 俺がクールにそんな事を考えている所に雰囲気ぶち壊しの一団がやって来た。

「うりゃぁ!!ゲキガン・フレアーーー!!ゲキガン・スーパーナッパァーーー!!」

「おらおらおらおらおら!!!次ぎ行くぞ、次ぎ!!」

「とりゃぁーーーー!!」

「………ふん…」

 上から誰の台詞か言うまでも無い。
 しかし強いが、喧しい。

 流石にプロスさんがスカウトしただけの事はあるのだが、
 『腕が一流なら性格は問わない』をここまで守らなくても良かったのにと思わず思ってしまう。

 まあ、元気なのは良い事だ。
 これだけの腕があれば、今は何の心配も要らないだろう。
 俺には、好感度アップのイベントがあるからな。



 ナデシコ艦内は騒がしかった。
「右舷後方遠距離に機影を確認!巡洋艦二隻ミサイルきます!!」
 
「フィールド出力を最大に!!
 ミナトさん、右舷回頭十一から二十までのミサイル発射!!」



 ブリッジが右往左往しているのを見ながら俺はルリちゃんにのほほんと尋ねた。

「ルリちゃん、敵の戦艦は幾つ?」

『戦艦タイプは三隻を確認しています。
 後は、巡洋艦タイプが三十隻ですね。駆逐艦まで入れると三百隻を超えています。』

 ルリちゃんから、素早い返答が返って来る。
 相変わらず、レスポンスがいいね。

『ナデシコのディストーション・フィールドがこの敵戦艦の集中攻撃に耐えられるのは
 後、十分ってところですか?
 フィールドを張るのに全力をかけていますから、援護射撃は出来ませんけど大丈夫ですよね?
 では、お任せしますアキトさん。』

 艦内の喧騒を他所に、冷静に報告をしてくれるルリちゃん。
 最後には、俺に微笑んでさえくれた。

 ……信頼されているんからには、それに応えるのが俺の仕事だ。

「了解!!五分で敵全戦艦を殲滅する!!」

「リョーコちゃん!ヒカルちゃん!イズミさん!ガイ!
 此処はまかせたぞ!!」

「おう!雑魚は任せてとけ!!」

「派手にやっちゃってねぇ!!」

「……宇宙に華を咲かせてね。」

「くぅ〜〜!!親友を進ませるために壁となる!!漢のロマンだねぇ〜〜〜!!」

 ………若干一名ほど怪しいのがいるが大丈夫だろう、多分…

「では!!行って来る!!」



「うおおおおぉぉぉぉぉーーーーー!!!!」


 俺はエステバリスのスラスターを全開にし、最大速で敵陣に突進していく。
 手にはイミディエット・ナイフを持ち、当たるを幸いとバッタどもを薙ぎ倒す。

 急速に大きくなってくる敵戦艦。
 上下左右から、放たれる弾幕。
 紙一重で避けるミサイルの一斉攻撃。



 戦闘時、俺の意識はあの時の俺に戻る。

 血に飢え…

 血に酔っていた…

 あいつ等への復讐だけに、我が身を焦がした時間。



 急速に俺の感覚がシャープになっていくのが解る。
 全ての敵の攻撃がスローモーションのように見え、次の攻撃さえも見えてしまう。

 もはや、無人兵器では俺を止める事は出来ん!!


「消えろぉぉぉーーー!!!」


 俺にエネルギー供給部分を一撃され、周りの護衛艦を道連れに沈む戦艦。
 あと、二隻。

「まさか、本当に五分で終わらせるつもりですかテンカワさんは!!」

「プロスさん…アキトさんの実力はまだまだ、こんなものじゃありませんよ。」

「いやはやしかし、信じられませんな…
 テンカワさんが敵ではなくて、本当に良かったですな。」

「しかしミスター、もし彼が敵に回るとしたら?」

「それは有り得ません、ゴートさん。」

「何故、そんな事が言い切れるんだね、ルリ君?」

「「「「ナデシコには私がいますからね。」」」」

「…………」

 戦闘の真っ最中だというのに、ブリッジはすでにだらけきっていた。


 俺はそんな会話がされていた間に残り二隻の戦艦を落としていた。
 結局三隻落とすのに掛かった時間は四分三十秒。
 俺は、約束を守る人間だ、そう躾けられたしな。

 

 

 

 

 そしてナデシコは火星に無事突入した…
 懐かしい風景が、俺の目の前に広がる…
 俺が幼い頃から見続けてきた、ナノマシンの光。
 俺が俺らしくあった頃の象徴。
 二度と戻れない、日々…


 俺が残党の掃討も終わって格納庫に戻ると

「いよぉ!さすがだなぁ!」

「信じられない強さだなぁ!!」

 整備員に揉みくちゃにされてしまった。
 戦闘直後でこっちはさすがに疲れているというのに。

 それも一段落着いてから俺はウリバタケさんにちょっとした事を頼んだ。

「おう!!それっくらいならすぐにできるぜ!!
 楽しみに待っていろ!!」

 こうして俺は計画を一歩一歩着実に進めていた。


 一息入れようと俺は自販機へカードを入れようとしたが、別のカードが脇から入れられた。

「奢るよ。」

 そこには三人のパイロットがいた。

「ビックリしちゃった、こ〜んな感じに。」

「……見直したってこと。」

 ヒカルちゃんは大きな目がついた眼鏡をしていて、
 イズミさんは何故か艶めいた笑みを浮かべていた。

 リョーコちゃんに奢ってもらったジュースを飲みながら少し話す事にした。



「グラビティ・ブラスト、発射準備。」

「グラビティ・ブラスト、発射準備完了。」

「目標、火星で待ち構えている敵第二陣!
 グラビティ・ブラスト、発射!!」

 ナデシコによる上空からの攻撃に、敵チューリップは殲滅した。



 俺がリョーコちゃん達と話し込んでいると、いきなり床が傾いた。

「うわぁ!」

「きゃあああ!アキト君!」

「くっ!」

 とっさに身近にある物に掴まって、三人を腕で押さえる。
 全員女性だったのと、前もって予想していたため何とか支えることが出来た。
 暫くして、重力が元に戻りヒカルちゃんとイズミさんがようやく離れたが、

「リョーコォ〜♪」

 ヒカルちゃんの目が遊び道具を見つけた猫のようにキラリと光る。

「何時まで抱きついてるのぉ〜、
 腕までアキト君の腰に回してぇさぁ〜〜」

 そう言われて、やっと現状が理解できたのかリョーコちゃんが顔を赤くして慌てて離れた。
 もう少し、抱き着いていても良かったのに…

「リョーコったら、大胆〜♪」

「あのリョーコがねぇ〜〜」

 二人がニヤニヤしながらからかうだけからかって逃げ出すと、
 リョ−コちゃんは、顔色を真っ赤に変えて追いかけていってしまった。




 そのころウリバタケはアキトに頼まれたエステバリスの改造のため、まだ格納庫にいた……

 

 

 

 

「…というわけで、ただいよりオリュンポス山のネルガル研究所へと向かうことになります。
 我が社の研究施設は、一種のシェルターでして、一番生存確率が高いのですよ。」


「では、今から研究所への突入メンバーを発表する…」

「ちょっと待ってください。
 済みませんが、俺にエステを貸して頂けませんか?
 故郷を…ユートピア・コロニーを見に行きたいんです。」

「何を言い出すんだテンカワ!!
 今、お前とエステを手放せる筈が無いだろう!!」

 ゴートさんの予想通りの言葉。
 ま、普通に考えればそう言うよな。

「……かまわん、行ってきたまえ。」

「!!提督、何を言うんですか!!」

 期待通りのお言葉、有り難うございます提督。
 貴方は、どんな心中で生きてこられたのでしょうか…
 どんな想いを抱き、この地へやってきたのでしょうか…

 

 

 そして俺は、エステで故郷の地を踏みしめた。
 ……今回もメグミちゃんを連れて。

 今回は絶対ルリちゃんが邪魔をして一人で行く事になると思っていたのだが…やりすぎたかな?

 

 

「うわ〜〜〜!!気持ちぃ〜〜!!」

「…あんまり身体を乗り出すと、エステから落ちちゃうよメグミちゃん。」

「…ここから、アキトさんの故郷って遠いんですか?」

「まあね…でもこの空戦タイプなら直ぐだよ。」

 メグミちゃん…今回まだ俺との接点は殆ど無い筈なのに、何故?

「アキトさん…どうして何時もそんな悲しそうな目で、皆を見ているんですか?」

「そ、そんな事無いよ。」

 俺の心臓は、一瞬跳ね上がった。
 俺はいつもそんな目をしていたのか??

「嘘です。
 私には、アキトさんが何を悲しんでいるのかは解りません。
 でも、気になるんです。
 今迄の人生でそんな悲しく澄んだ目をした人と、出会った事が無かったから。」

「………」

「別に無理に話す事は無いんです…
 ただ、私は何時でもアキトさんの相談に乗りますからね!!」

 俺は何も言えず、ただ黙ってメグミちゃんを抱きしめた。
 そして……


(…アキト!!今何しようとしているの?(怒))

 しまった、メグミちゃんの話に感動してリンクを遮断しておくのを忘れていた。

(ア・キ・ト、ねえ!教えてよ!!)

(…ラ、ラピス、ナデシコに乗っている人はいい人達だろう?(汗))

(うん、それは解ったけど、
 私は、今何しているかを、聞・い・て・る・の!!(怒))

(あ、ああ、もうコロニーに着くからまた後でな、ラピス。)

(アキト、言い訳楽しみにしてるよ。)

 ラピスももはや、一人前の女の子になったんだな。
 ……もう少し、おしとやかな娘の方が良かったのに……
 全て、ハーリー君が悪い!!そうに決まっている!!


 目を閉じていても、何時までも俺がこないから心配になったのだろう。
 メグミちゃんがオズオズと、声をかけてきた。

「あ、あの、アキトさん?」

 折角完璧に落とすチャンスだったのに仕方が無い。
 誤魔化す事にした。

「ああ、ごめんねメグミちゃん。
 もうコロニーに着いてしまってね。」

「あれが、アキトさんと艦長の故郷。」

 チャンスはまだあるはず。あせらずゆっくりと…

 

 

 その頃ナデシコブリッジでは…

「問題、有りますよね!!」

「そうね、抜け駆けは許されないわよね!」

「………ポーー」

「ミナトさん!!アキトを追いましょう!!!」

「ええ!!ルリルリ!!ナデシコのエンジンを……って、あのルリルリ?」

「………ポーー」

「あの〜、ルリちゃ〜ん。
 アキト追いかけたいんだけどな〜〜」

「ルリルリ?大丈夫?」

「…ポー…アキトさん……」  

「艦長、ルリルリが壊れちゃいましたけど(汗)」

 

 

ルリの回想
 「ルリちゃん、明日俺はイネスさんを迎えに行って来るよ。」

 「私も一緒に行きます。」

 「駄目だよ、ルリちゃん。
  過去ではユリカが追いかけてきた所為で、火星の人達を殺してしまった。
  今回もユリカは追いかけようとする筈だ。
  それを止められるのは、ルリちゃん君しかいない。」

 「なら、私がアキトさんと一緒に行けば、ナデシコは動きません。」

 「…ルリちゃん、あの時チューリップから大量に敵が出てきた。
  もちろん今回もそうなるだろう。
  その時ルリちゃんがいなかったら、ナデシコは簡単に落ちてしまうよ?」

 「でも……」

 「ルリちゃん、君だけが頼みだ。
  俺が、安心してナデシコを任せられるのは、君だけなんだ。」

 「アキトさ、ん…」


  そして、アキトさんが近付いてきて、私の腰に手を回して…

 

 

「ルーリーちゃ〜〜ん!!!」 

 ハッ!


「えっ!?
 ど、どうしました、艦長?」

「むうぅ〜〜、ルリちゃんがいくら呼んでも気付いてくれなかったんだよ。」

 ミナトさんも首を縦に何度も振っている所を見るとその通りなのでしょう。
 あまりに嬉しかったため、舞い上がってしまっていました。

「大丈夫、ルリルリ。
 どこか悪いなら、医務室に行ってみる?」

「いえ、大丈夫です、ミナトさん。
 …それで、一体なんですか、艦長?」

「そうそう!
 メグちゃんがアキトと一緒にコロニーに行っちゃったんだよ〜〜
 問題があると思わない、これはアキト達を追いかけるしかないでしょ、ルリちゃん。」

 むっ、失敗しました。
 アキトさんとの事を思い出しているうちにメグミさんの事を忘れてしまうなんて…

 私らしくない失態です、前回と同じなのですから予想できていたのに。

「と言うわけで、ルリちゃん。
 アキトを追いかけて、ユートピア・コロニーへいくわよ。」

 確かにメグミさんと二人というのは嫌ですが、向こうにはイネスさんがいらっしゃいますし、
 何より、アキトさんとの約束です、艦長を行かせる訳には行きません、
 それにナデシコで行くと火星の人達が死んでしまいます、そうするとアキトさんが悲しみます。

「艦長、それは出来ません。
 大人しく待っていましょう。」

 

 

 

 

「え〜〜と、たしか……」

「…どうしたんですか、アキトさん?」

「いや、ちょっとね……地盤がゆるくなっている!」

 そんな台詞を言いながら、俺は地面のある一点を蹴ってみる。


 ボコッ!!


 予想通り、ドンピシャだ!
 俺達の足元が崩れ、俺とメグミちゃんは地下に落下していく。

「きゃああぁぁぁぁ!!」

「くっ!!」

 俺はとっさにメグミちゃんを抱きかかえ、両足のバネをフルに使い衝撃を逃がし、着地する。

 ドン!

「メグミちゃん、もう大丈夫だよ。」

「あ、有り難う御座います、アキトさん。
 …あのぉ、もしかして私って重いですか?」

「えっ、いや、空気みたいなもんだよ。」

 顔を赤くしているメグミちゃんを地面に下ろし、俺は周囲を確認した。
 確かここで、イネスさんと…

「あら、珍しいお客様ね。
 歓迎してあげても良いんだけど、取り合えずどちらからいらしたのかしら?」

「俺達は……」

 俺の説明とメグミちゃんの説得に、イネスさん達は予想通りナデシコへの乗船を拒否した。

「では、それを住民代表の方がプロスさんにその意思をご自分の口で伝えて下さい。」

「……そうね、貴方達もそれなりに苦労してここまで来たのだし…
 いいわ、私がプロスさんに説明するわ。」

 全てが、予定通りに進んでいくな。
 これで、俺達がいなくなれば、此処の人達は無事(?)に火星で過ごせるだろう。



「では、この上にエステバリスが置いてありますので。」

 こうして俺とメグミちゃん、そしてイネスさんはナデシコに向かった。



「艦長、駄目なものは駄目です。
 アキトさんからくれぐれもと、お願いされていますから。」

「ぶ〜〜〜、でもでも、アキトとメグちゃんが〜」


 ズズゥゥゥンンン!!!

「敵、前方のチューリップから次々に現れます。」

「ルリちゃん!!グラビティ・ブラスト発射準備!!」

「…敵、小型機は殲滅するものの、戦艦タイプは依然として健在。
 その数…更に増大中です。」

「な、何でグラビティ・ブラストが効かないの?」

「…艦長、敵もディストーション・フィールドを張ってるみたいです。」

「そんな…ここからフィールドを張りつつ撤退!!
 あ、でもアキトがまだ合流してないし!!」

「!テンカワ機より、通信入ります。」

「えっ!!ほんと、ルリちゃん!!」

「本当です、通信出します。」

 

 ピッ!!


「ユリカ!!今から敵陣を強行突破してナデシコに合流する!」

「アキト、なんで映像を出さないの?」

 ギクッ

「いや、ちょっと調子が悪くて。」

「ふ〜〜ん、ルリちゃん。
 繋いじゃって、艦長命令です。」

「はい……駄目です。
 物理的に切れているみたいですね。」

 アキトさん、どうしてそこまで映像を見せたくないのでしょうね。
 後でじっくりとお話しましょう。

「…聞こえたか?
 俺とメグミちゃん、あともう一人イネスさんって人が合流するからな!
 それまで、弾幕を張って防御を最優先にしてろ!!」

 

 

後書き
 実は、最初に考えていたSSでは主人公最強主義のつもりでした。
 しかし、代理人様の感想を読んでいるうちに……
 …もはや、戻れない所まできてしまった様な…
 こちらの方面で頑張ろうかなと思う今日この頃。

 

 

 

代理人の「ちょっと待ていアキト!」のコーナー(笑)

 

え! ええっ!? そうだったんですかっ(笑)!?

いや、確かにプロローグの出だしは主人公最強主義っぽかったけど・・・・・

・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

ま、まあ、面白ければどんな作風だっていいよね(核爆)!

 

それはさておき(さておくな)、今回の「ちょっと待てアキト!」ですが・・・・・

 

 

ツッコミどころが多すぎて一つに絞れん(爆)。

 

 

それでもあえて言うならこのアキト君の内心の呟き・・・・・

 

 期待通りのお言葉、有り難うございます提督。
 貴方は、どんな心中で生きてこられたのでしょうか…
 どんな想いを抱き、この地へやってきたのでしょうか…

 

 

あれだけ軽薄短小な性格を見せつけておいて今更・・・

死ぬほど似合わないぞアキト(爆)。