第十話   お約束は守りましょう  

 

 

「クルスク工業地帯…私達が生まれる以前に、陸戦兵器の生産で盛り上がっていた所よ。」

 またもキノコが命令を伝達している。

「このクルスク工業地帯が、木星蜥蜴によって占領されたの。
 その上、奴等ときたら、今迄見た事もない新兵器を配置したのよ。」

 そこかしこから笑い声が漏れてくる。
 やはり、キノコの顔だけ日焼けしていて、首から下は真っ白というのは、インパクトあるしな。

「そこ!五月蝿いわよ!
 アタシの話をちゃんと聞きなさい!!」

「は〜〜い。」

 返事だけが良いのは、ナデシコではもはや当たり前だな…

「では、その新兵器の破壊が、今度の作戦任務という訳ですね、提督。」

「そうよ、その新兵器…司令部ではナナフシと呼んでいるわ。
 ナナフシの破壊に軍の特殊部隊が三度、向かったわ……三回とも全滅だけど。」

「なんと不経済な…」

 何やら計算をしているプロスさん……
 しかし、軍隊を動かすのは、もともと不経済だと思うが?


「プロスさんは、何の計算をされているんでしょうね、アキトさん?」

「ルリちゃん、俺には過去でも現在でもあの人の頭の中だけは理解できないんだ…」


 ボソボソとルリちゃんと結構失礼な会話をする。


「そこでナデシコの登場!!
 グラビィティ・ブラストで決まり!!」

 もはや、勝った気でいるな、ユリカ…
 しかし此処は大気圏内、ディストーション・フィールドが敵にあるかもとか心配はしないのか?

「そうか!遠距離射撃か!!」

「その通り!!」

 いや、それだったらコスモスの方が多連装だし…

「安全策…かな?」

 何が不満なんだ、エリナ。
 実はドンパチが好きだったとか。

「経済的側面からも賛同しますよ。」

 色々考えると、コスモスの方が良いと思うんですがプロスさん…

「エステバリスも危険に晒されずに済みますしね。」

「メグちゃん、それを言うならアキト君でしょ?」

「えへへ、そうですね。」

 メグミちゃんもミナトさんもその心遣いは嬉しいんだが、実は一番ギリギリになるんだよな…


「ただちに作戦開始します!!」

 ユリカの掛け声により、対ナナフシ戦にむけて動き出す。
 俺の心の中の叫びは、皆の心には届かなかったらしい。

 

 さて……そうだな、色々改造してくれた武器を使用したトレーニングをしてみるか。

 前回の戦いの後に、ルリちゃんとウリバタケさんが頑張ってくれたお陰で、
 三分間だけフィールド出力を通常の五倍だせる時間…バースト・モードが付け加えられた。

 バースト・モードを使えば、一時的にしろサレナ並の威力を期待できる。
 これは大きなプラスになるだろう。

「取り合えず、サレナで使っていた基礎的な技は使えそうかな?」

 そう言いながら、試しに動かしてみる。
 体術系はほぼ使えるようになったな、剣技もDFSがあるし…

「大分俺の力が発揮出来るようになったな。」

 コンコン!

 トレーニングルームのドアが静かにノックされ、ルリちゃんが入ってきた。

「ルリちゃん?
 どうしたの、トレーニングルームになんか来て?」

 俺としては、リョーコちゃん達かアカツキかと思っていたので、完全に意表を突かれた。

「いえ、アキトさんが此方でトレーニングをされているのを知って…
 ちょっと気になったもので。」

「そう、じゃあ、其処で見ててよ。」

 俺はルリちゃんにそう言ってから、もう一度動いてみせた。

「凄い…」

「感想は、ルリちゃん?」

「まだまだ底が知れないなって思いました。
 それに……それに、あの時のアキトさんを思い出してしまいました。」

 ルリちゃんが下を向きながら言った言葉は痛かった。

「私は、あの時を…アキトさんがあのシャトル事故で消えた時の事を、忘れた事はありません。」

 過去でも現在でも俺が逃げていた話題。

「きっと何処かで生きているに違いない、死んだなんて嘘だ。
 それだけを心の支えにいていました。
 ナデシコに乗ってからの三年間は、私の宝物です。
 アキトさん、ユリカさん、ミナトさん…そして皆がいました。」

 俺は過去ではこの話になりそうだとジャンプして逃げた。

「その幸せな時間はずっと…ずっと続くと信じてました、それこそ永遠に続くと。
 けれど…突然その幸せな時間が終わり……
 私は暗闇にたった一人で佇んでいました…
 もし、ミナトさん達がいなければ、立ち上がろうとする気力さえ生まれなかったでしょう。
 …そんな日々の生活の中で一つの想いが生じました。
 アキトさん達はきっと生きている、と.」

 現在に戻ってからは、その話題にしないよう、努めてきた。

「そして、アキトさんは生きていた。
 ……アキトさんには望まぬ再会でも、私には焦れるような想いの再会でした。
 私は、あの時、自分の想いをもはや止められないと確信しました。
 あの結婚式で封印したはずの想いを。
 もう一度、私に立ち上がる勇気をくれた想いを…」

「そこまでだ、ルリちゃん。」

 俺の制止の言葉に、怯えた眼で俺を見詰める。
 しかし、俺の次の言葉で咲き誇らんばかりの笑顔を見せてくれた。

「そこから先は、俺に言わせてよ、ルリちゃん。」

「アキト、さん?」

 俺としても、ルリちゃんの想いはとても嬉しい。
 この気持ちを断るという選択肢はない、と言ってもいいだろう。
 ただ、一つだけ問題があるのだが…

「ルリちゃん、俺もルリちゃんのことが好きだ。
 愛していると言っても良い。」

 その言葉に笑顔でありながら、涙を流すルリちゃん。

「でもね、俺は、ルリちゃんだけじゃなく、
 ユリカだって、ミナトさんだって、イネスさんやエリナ達のことも愛している。
 だから、ルリちゃんだけを愛するということは出来ないんだ。」

「……………でも、私のことも、愛してくれているんでしょう?
 なら!!なら…」

「過去でも皆に助けられ、優しく抱きしめられた。
 ナデシコに戻ってからも、ルリちゃん達に支えられてきた。
 もう、俺には一人だけを選ぶなんて事は、できないんだ。」

 なんて都合の良い人間なんだ。
 そう自分自身で思わなくもない。
 だが、計画はもはや後戻りはできない所まで来ている。
 今更計画の中止なぞできない……中止したいとも思わないが…

「だから、気持ちは嬉しいけど、ルリちゃんとだけ付き合う訳にはいかないんだ。」

 こう言えば、ルリちゃんがなんと言うのかは解っていた。

「じゃあ…じゃあ、私を皆と一緒に愛して下さい!!」

「ルリちゃん、今言った言葉の意味がわかっているの?」

「はい……解っています。
 私には、アキトさんのいない人生なんて考えられません!!」

 もはや言葉はいらないと、飛び込んでくるルリちゃんを俺は抱きしめた…

 

 

「作戦開始まで、後八分三十秒♪〜」

「……やけに機嫌がいいわね、ルリルリ?」

「グラビィティ・ブラスト準備完了。
 …怪しい、怪しいですね。」

「山陰から出ると共にグラビィティ・ブラスト発射!
 やっちゃって下さい!
 さて……ルリちゃん、正直に言いなさい!
 何があったの?」

「え…予定作戦ポイントまで、17,000。
 な、内緒です!!」

「ルリルリ、私には教えてくれるわよね?」

「全システム異常なし。
 最終セーフティ解除!!
 ルリちゃん、しょ〜じきに答えましょ。」

「…よ、予定ポイントまで1500。
 ひ、秘密です。」

「…ミスター、これが戦艦のブリッジでする会話か?」

「…では、ゴートさんが注意してくださいよ。
 私はもう、諦めていますから。」

「…ミスター、それは死ねということか?」

 あの会話に無理やり割り込んだりしたら…
 百戦錬磨のゴートでさえ、そんな想像しただけで震えてくるようだった。


「ル〜リ〜ちゃ〜ん。」

「ル〜リ〜ル〜リ〜」

「…予定作戦ポイントまで800。」

「ど〜して誤魔化すの?
 艦長命令です、正直に言いなさい。」

「敵弾発射。」

「そうそう、正直に、え?」


 ドゴオオォォォォン!

「ディストーション・フィールド消失!!」

「被害十五ブロックに及んでいます。」

「相転移エンジン停止!操舵不能!
 補助エンジン全開!!」

「へ?」

「本艦は墜落します!!」

 

 ミナトさんの神業的な操船でどうにか不時着に成功。
 現在は、ナデシコの被害確認と今後の善後策の協議中。

「ウリバタケさん、ナデシコの被害は?」

「ど〜しようもねえって程ごっそりやられてやがる。
 動くくらいなら、できるが、相転移エンジンが片方調子悪くてな、
 ディストーション・フィールドとグラビィティ・ブラストの両方は無理だ。」

「イネスさん、アレの説明を」

「ナナフシの正体は重力波レールガンね。
 ナナフシは内部で生成したマイクロ・ブラックホールを重力波レールガンで押し出したってところね。
 ディストーション・フィールドでは防御できない、というのは実践済みだったわね。
 その理由はケタが違うからとしか言えないわ。
 卑近な例だと、大雨の時に一枚の紙で雨を防ごうとするようなものね。」

「イネスさん、アレは連続して撃てるんですか?」

「唯一の救いはそこ。
 マイクロ・ブラックホールの生成に時間がかかるから、直ぐに第二波が来るという事はないわ。
 正確には断定できないけど、約十二時間後ね。」

「ウリバタケさん、修理に時間はどれくらいかかりますか?」

「十二時間以内?不可能だ!!
 大体一週間ぐらいはかかる!!」

「そうなると、やっぱりエステバリスに頑張ってもらうしかないかな?」

「ナナフシの対空システムは完璧だそうよ。
 軍の空挺師団がそれによって全滅させられたって聞いたわ。」

「という事は、空からエステバリスを向かわせても駄目ってことか〜。
 となると、陸からだよね。」

「そうなりますかね。」

 

「という訳で、エステバリスで地上から接近、ナナフシを破壊する。
 作戦指揮はアカツキに任せる。それにヤマダはナデシコの護衛を頼む。」

「はいは〜い、って僕よりテンカワ君の方がいいと思うけど?」

「そのテンカワの希望だ。
 どう考えても指揮者には向いていない、とな。」

「ふ〜〜ん、ま、いいけどね。」

「作戦開始時間は一時間後。
 それまでに各自準備を済ませて置くように、以上。」


 ゴートさんの説明は終わりパイロットは自分の準備を開始しようかという時に、ソレは現れた。

「敵、ナデシコの周囲に展開中。」

「ほ、本当ルリちゃん。
 種類と数は?」

「はい、これは……昔に使われていた戦車です、数は…数は約二万。」

「二万〜〜!!」

「現在も続々と増援が到着している模様。
 どうやら木星蜥蜴は、戦車製造プラントを以前から乗っ取っていたみたいですね。」

「エステバリス隊、全機出撃!!
 戦車をナデシコに近づけない事を第一に!!」


 過去と大きく違い始めたな。
 これからどれ程変っていくのか、もはや俺にも知らない未来の到来だな。
 そんなことを思いながら、取り合えず戦車を蹴散らし始めた。

 

「敵、まだ増援部隊が出現中。
 ナデシコの周囲は完全に囲まれました。」


 いつまでもこうしているのは、ジリ貧だな。
 それに加えて、後八時間以内にナナフシを倒さなくてはならない。
 なかなかハードな未来だな。

 

「見事に囲まれましたな。」

「どうする艦長?
 ナデシコは周囲を全て敵戦車部隊に囲まれたぞ。」

「…………ちょっと待ってください。」

「そうよ!こんな時こそテンカワ アキトを使うのよ!!
 テンカワなら一人でもナナフシを破壊できるわよ!!」

 キノコの作戦に反対できる合理的な理由は誰も持っていなかった。

「でも、それは…」

「なあに、艦長?
 それとも他にもっといい作戦があるのかしら?」

 そんなモノがあれば、直ぐに発言していただろう、ユリカなら。
 そしてそれはキノコにも解っていたに違いない。

 ユリカが何も言えず俯くと、今度はメグミが噛み付いた。

「そんな、いくらアキトさんでも一人であの巨大な砲台を破壊するなんて、
 出来るわけないじゃないですか!!」



「俺ならできるよ、メグミちゃん。」

「本当か、テンカワ?」

 俺の発言を確認してくるゴートさん。
 勿論こんなことに嘘を言ってもしょうがないし、また実際できるしな。

「ええ、俺一人でもナナフシの破壊は可能です。
 でも、ナナフシに着くまでに肝心のエネルギーが足らなくなります。」

「…そうか。」

 そう、空戦フレームではどうしてもエネルギー消耗が激しすぎる。
 したがって、次善の策になってしまう。

「そこで俺に考えがあります。
 陸戦フレームと砲戦フレームの二体でナナフシに向かいます。
 そして到着前に砲戦フレームの補助バッテリーを陸戦フレームに供給。
 そうすれば、俺がナナフシを撃破します。」

「悪くない策だが…
 今の状態から、陸戦フレームと砲戦フレームで脱出できるのか?」 

「グラビィティ・ブラストは使えないわよ、アキト君。」

 ミナトさんも心配そうにそう言ってくる。
 確かに今はディストーション・フィールドの維持で精一杯だろうな。

「大丈夫ですよ。
 ま、結果は見てからのお楽しみという事で。」

 ここで唯一俺が使う技を知っているルリちゃんには目配せをしておく。
 ま、口で言われても誰も信じないだろうけど。

 

 

 こうして、俺とリョーコちゃんは愛の逃避行、もといナナフシ殲滅戦に向かうことになった。
 もちろんリョーコちゃんを選んだのは俺の計画の為だ。
 計画はいつでも発動出来る様にしとかないとな。

 まず俺はDFSをエステの頭上に掲げ、神経を集中させる。
 そしてDFSから白い刃をだす。

「バースト・モード発動。」

 ウィィィィィンンンン……

 DFSの刃をもの凄く短くする。
 そして、ディストーション・フィールドをそこに圧縮していく。
 ディストーション・フィールドが圧縮しきった時、
 俺はその刃を振り下ろす。


 ドゴオオォォォォォンンン!!!


 刃の先から、一直線に黒いレーザーのように光が伸びる。
 その先にいた数千の戦車と地面を消し去り、
 何事もなかったかのように、また静かになる。

 そこを俺とリョーコちゃんは急いで通り抜ける。
 こうして俺達はナデシコ包囲網から抜け出た。

 

 

 

「なあ、テンカワ…
 お前さ、何処であんな技を身に付けたんだよ?」

 出し抜けにリョーコちゃんが聞いてくる。
 しかしそれだけは、誰にもいえないことなんだよね。

「あんな技?
 ああ、さっきのね、俺がナナフシのを見て俺にもできそうだってね。」

 こんな答えで納得するとは思えないが、リョーコちゃんは何も言ってこなかった。

 何かを感じたのかな?



「テンカワってさ、もてるよな。」

「そう?
 それほどでもあるけど。」

 いきなり核心を突くのは反則だと思うぞ。



「リョーコちゃん、止まって。」

「どうした?」

「地雷原だ。
 時間がないしな…しょうがない、やるか。」

 しかし、俺がDFSを発動させる事ができなかった。
 肝心のDFS自体が最初のアレに耐えられなかったらしい。

「くそっ!こんなときに。」

「…戻るかテンカワ?」

「そんな時間はない。
 それに、手がないわけではない。」

「っというわけで、砲戦フレームのリョーコちゃんに前を行ってもらえる?」



「一旦休憩にしよう、リョーコちゃん。」

「何言ってやがる!!
 こちとら時間との戦いなんだぞ、テンカワ!!」

「焦ってもいい結果はだせないよ。
 それに万全の状態を保つ方が、少しぐらい時間を短縮するよりいい結果をもたらすよ。」

「……そうだな、解った休憩にしようぜ。」


「リョーコちゃん、料理ができたよ。」

「おう、悪いな。」

「はい、リョーコちゃん。」

「もぐもぐ、さすがにコックだけあるな。
 美味いじゃね〜か。」

「正直まだまだの腕なんだけどね。
 でも、俺の料理を美味しいって言ってくれて嬉しいよ。」

 この時、俺は本心から笑顔がでていた。

「なあ、テンカワ…
 個人的なこと、聞いてもいいか?」

「?別にかまわないけど。」

「あ、あのなテンカワ…
 お前、好きな女の子とかいないのか?」

「俺に?
 皆大好きだよ、ルリちゃんやユリカ、ミナトさん達も、もちろんリョーコちゃんも。」

「違う!!
 その…と、特別な意味で、だよ…」

 リョーコちゃんは夜の暗闇越しにでもわかる位、赤い顔をしている。

「大丈夫、特別な意味で、みんな好きだから。」

「な、なんだと〜〜」

 う〜〜ん、失敗してしまったか。
 確かにリョーコちゃんはそういう人間のこと、嫌いだからな。

「う〜〜ん、なんか誤解させてしまったみたいだけど、
 はっきり言って、今の俺では誰か一人を選ぶ事なんてできない。
 俺自身が、まだ自分というものをもてていないのだから。」

 これくらいでフォローはいいだろう。
 しかし、折角リョーコちゃんと二人っきりなのに計画は進められなかったな…

「じゃあ、自分をもてるようになるまで、彼女を持たないつもりか?」

「今はわからない。
 ただ、辛いときには支えになってくれる人がいたらいいな、とは思うけど。」

 計画は前進もしなかったが、後退もしていない。
 それでよいという事にしておこう。

「……時間だよ。
 休憩は終わり、ナナフシへ向かおう、リョーコちゃん。」

「……ああ、解った。」

 

 

 ドン!  ドン!!  ガガガッ!!   ドオオオォォォン!!

 待ち伏せをする位の頭が敵にあったっけ?
 どちらにしろ、敵の部隊と接触してしまったことには変わりはない。

「テンカワ!!
 俺をおいて先に行け!!」

「駄目だ!!
 リョーコちゃん一人でどうにかなる数じゃない!」

 そう、リョーコちゃんを一人にもできないし、かといって時間もない。
 打つ手なしかな…
 此処を突破するさいのに全力をだせるなら簡単なのに。

「テンカワ!!
 俺達の目標はなんだ!!ナナフシの撃破だろう!!
 そのために出来る事をやってきたんだろ!!」

 リョーコちゃんの気迫に少し押されてしまった。

「それに、俺だって簡単にはやられねぇよ。
 テンカワがナナフシをやっつけるぐらいは一人でも持ち応えられるさ。
 だから、ナナフシをさっさと撃破してこい!!」

 ここまで叱咤激励されたのは何年振りなんだろう。
 改めてリョーコちゃんは強いと思う。

「リョーコちゃん!
 直ぐに帰ってくるからね、絶対無理はしないでね!!」

「おう、ナナフシを倒す奥の手が見れないのは残念だけだな!
 待ってるぜ、テンカワ!」

 その声援を背に、俺はナナフシに向かって…行く前に、もう一度リョーコちゃんに声をかける。

「リョーコちゃん、付け足し!
 俺は、リョーコちゃんに、惚れ直しちゃったよ!!」

 後ろで何か叫んでいたが、聞こえないという事にしておこう。

 

 

『アキト君、悪い知らせがあるんだけど。』

 通信ウィンドからイネスさんが顔をだす。

「……ナナフシですか。」

『その通りよ。
 ナナフシがマイクロ・ブラックホールの生成を始めたわ。
 間に合う、アキト君?』

「期待されて、それを裏切った事はありませんよ、イネスさん。」

『そう、じゃあ私も期待するとしましょう。
 また後でね、お茶でも飲みましょ。』

 最後にニコッと笑ってからイネスさんはウィンドを切った。
 俺は、一層エステを速めたいのを懸命な思いで押さえつけながら、ナナフシへ向かう。

「………見えた!!」

 ここからが本当のミッションだ。
 まして時間の余裕もない。
 俺は雄叫びを上げながら、ナナフシに向かって加速した。

 

 

 改造された戦車の波、波、波。
 後一歩でナナフシという所なのに…
 それにしても、過去にはなかった戦車の襲撃があったくせに、過去と同じくこいつ等がいるのは反則だよな。

「俺には時間がないんだよ!
 お前らをかまっている時間がな!!」

 俺はそう自分を激励し、
 戦車部隊からの攻撃は無視して、ナナフシへ一直線上にいる戦車を踏みつけながら向かう。


 ナナフシは既にマイクロ・ブラックホールの生成を殆ど終えていた。
 最終段階を迎えたらしく、光り始めていた。


「バーストモード発動!
 大仕事だ、最後まで持ってくれよ!!」

 俺の声と共にディストーション・フィールドがエステの周囲に浮かび上がる。

「最大加速!!」

 その一瞬の後には壊れてしまっても良いと思うほどの急加速をする。
 エステが悲鳴を上げているのが解る。

「あと少し!!
 そこまで持ってくれ!!」

 加速を更に強めながら、ディストーション・フィールドを一点に集中させる。
 DFSは使えないため、今度は右拳に集める。

「ナナフシッ!!
 お前の最後だ!!」

 俺はナナフシへ向け、そのスピードを落とさぬまま飛び込んでいった。

 

 

 ナナフシはその中央部に大きな穴が開き、
 また、その時に生成していたマイクロ・ブラックホールのエネルギーが逆流した事もあり、
 次の瞬間には、跡形もなく吹き飛んでいた。




 俺のエステは、もはや動けなかったので、助けが来るのを待つしかなかった。


「お〜〜〜い!!テンカワ〜〜!!
 生きてるか〜〜!!」


 エステの中で、二時間以上が経過した頃、リョーコちゃんの声が聞こえてきた。

 俺はエステから這い出て、周辺を確認する。

「リョーコちゃん!
 無事だったんだね、良かったぁ〜〜!」

「ああ、どうにかな。
 テンカワが最後に言った言葉を確かめるまでは、死んでも死に切れないって頑張ったからな。」

 俺が最後に言った言葉?

「最後に言った言葉を確かめるって?」

 あれは、俺の内心なんだから、確かめるも何もないような。

「テ、テンカワ!
 今は無理でも、何時か、お前を振り向かせてやるからな!!」

 う〜〜ん、それは無理だと思うけど…
 それに、俺としてはリョーコちゃんを落としたいんだけどな。

 …でもリョーコちゃんがこんなに積極的になるなんて。
 実は、計画は前進したのかな?

 

 

後書き
 何時の間にかリョーコの比率が高まっているような……
 私は、そんなにリョーコの事が好きではない筈なのに…何故?

 イネスさんの説明シーンも結構カットしてしまったし…
 唯一の救いはルリちゃんがいるぐらいか…

 

 

代理人の「ちょっと待ていアキト!」のコーナー

 

今回は・・・・ちょっとひねってここ!

 

 なんて都合の良い人間なんだ。
 そう自分自身で思わなくもない。

 

思え(笑)。もっとキッパリはっきり自覚しろ(笑)。

まあ、自分に都合のいいように考えるのは人間の悲しき性。

だがそれを実行するのは色々と問題があるとお兄さんは思うぞ(笑)

 

 

 

ちなみに、代理人は割とリョーコが好きなのでこのままでもおっけーです(笑)