第二話   戦乙女 

 

 

 その知らせを聞いたとき、
 アリサは身動きができなかった。

 それもしかたないだろう。
 家族が、友人が一遍に死んだと知らされたのだから。
 当然の反応だろう。


 そんな彼女に一筋の光明が見えた。
 彼女の最愛の姉は助かったと…


 それを聞き、彼女は少しは正気を取り戻した。
 一人でも大切な人が生きている。
 その知らせのお陰で、もう一度自分の足で立ち上がることができた。

 

 

 

 

 

「姉さんが軍隊に入った〜〜?」



 普段のアリサからは、考えられない様な素っ頓狂な声を出している。
 それ程サラが入隊した事が驚きなのであろう。



「あの、あの軍人嫌いの姉さんが…
 私がエステバリスのパイロットになると言ったら、絶縁だとまで言った姉さんが…

 そんな姉さんが、軍人になった〜〜!?」



 アリサの両親は街で普通の生活をして暮らしていた。
 親がエリート軍人とは考えられないような普通の生活を。

 しかし、アリサは祖父からの隔世遺伝か、
 軍隊に憧れと尊敬の念を抱き、入隊した。

 その事に一番反対したのが姉のサラだった。

 そんなサラが両親が死んですぐに軍人を志すということは、
 アリサはとても信じられなかった。
 だからアリサは、それを知らせてくれた祖父にその基地の現状を教えてもらった。


 そうして見せて貰った資料には、
 アリサも知っている名前があった…
 優しそうな笑顔があった…



 パイロットとして信じられない戦果を単独で挙げているという人。
 軍の中には実在そのものを怪しむ声もあった人。 
 そう、創られた英雄ではないのかと。

 しかし、女性士官の最も憧れている人。
 一度で良いから会って見たい人、ナンバーワン。


 テンカワ・アキト   ネルガルから出向中



 その基地にはアキトがいた。
 そして、サラのいた街を救ったのもアキトだと書かれていた。



 アリサは、サラに会いに行くという事を名目にして、
 所属基地の変更を祖父たる、西欧方面司令に求めた。

 

 

◇       ◇

 

 

「ちょっと聞いてもいい、サラちゃん?」



 俺の横にいる美女に問いかける。



「なあに、アキト?」



 それに対して、サラちゃんは満面の笑みで答えてくれる。
 とてもいい感じである…
 サラちゃんが勝手に俺のベットに入り込んでいなければ。



「色々聞きたいことはあるんだが、
 まず第一に、この部屋にどうやって入った?」



「カードキーを使ってだけど?」



「ああ、カードキーを使ってね。
 なら問題ない………
 …わけないだろう!
 どうやってカードキーを手に入れたの?」



「別に御爺様に頼んだら、コピーを送ってくれたのよ。」



 サラちゃんは即答してくれる。



「そう言えば、サラちゃんのお爺さんは西欧方面司令だっけ…
 これじゃあ、別の女性をこの部屋に連れて来れないな…」  

 

 いくらなんでも、公私混同のしすぎだろ爺さん。
 ま、爺さんも孫がこんな使い方をしているとは、夢にも思っていないだろうが…


「何か言った、アキト?」



「いや、別に。
 それじゃ二つ目だけど、どうやって俺のベットに潜り込んだ?」



 そう、それこそが最大の謎。
 この俺がたとえ寝ていたとしても、ベットに入られても気付かなかったなんて信じられん。



「?どうやってって、普通に潜り込んだだけだけど?」



 ……。
 俺はあの街でも、サラちゃんが何時の間にか傍にいたことを思い出していた。
 どうやらサラちゃんが普通に近付いても、俺には解らないらしい…

 こんど気配の消し方を習ってみるか…



「最後の質問。
 どうして潜り込んだの?」



 これまでの質問に即答していたサラちゃんが口籠った。
 そして、顔を赤らめている。



「他のオペレーターに聞いてみたら、ベットに潜り込んでみたら、って言われたから。」



 確かにオペレーターにそう言っておいてくれとは頼んでおいたが…
 ここまで世間知らずだったとは、思いもしなかったな。
 あれは駄目もとで言っておいたのだが。

 これは、新・紫の上計画を発動することができるのか?
 しかし、恋愛以外の事では、もの凄く頭が良いんだよな…
 やはり俺色に染め上げるのは無理かな。

 今度、何も知らない美少女を見つけたら、新計画を実行に移そう。

 取り敢えずは、あのオペレーターにもっと色々頼みに行かないとな。
 お礼は何をしようかな……彼女とはデートしたいと思わないしな〜

 

◆       ◆

 

「姉さん!!」



「アリサ!?どうしてここに?」



「私もこの部隊に配属になったの♪
 そんな事よりも、此処には、あのテンカワ・アキトさんがいるって聞いたけど、本当?」



 突然オペレーター室に乱入したのは、まあ良いとして置くにしても、
 いきなりアキトについて尋ねるか?

 普通こういう場合は、両親や知人が死んだ事について何か話してからだろう。
 しかも、それら全部を『そんな事』で片付けてしまっていいのだろうか。
 アキトに支えられて、あの時の出来事を克服したサラでさえ吃驚しているぞ。



「え、ええ。
 確かにアキトは、この基地にいるわよ。」



 それでも真面目に答えているあたり、サラらしいと言えなくもない。



「本当だったんだ!!
 彼の噂を聞いてから、一度で良いから会って見たかったんだよね〜〜。
 じゃあ姉さん、私はアキトさんを探しに行ってき『ガシ』」



「ちょっと待ちなさい、アリサ。
 なんであなたは、アキトの事を知っているの?
 それも何か詳しそうじゃない…」



 そのままアキトを探しに行ってしまおうとするアリサを掴まえて、サラが不満げに聞く。
 サラには、双子の妹のアリサが自分よりもアキトの事を知っているのは許せないのだろう。
 実によく解る理由である。

 一方のアリサは、そんなサラの心境を知らないので、
 いかにも嬉しそうに答えた。



「姉さん、彼の事を知らなかったの!!
 あんなに有名だったのに…」



「そ、そんなに有名人なの?」



「そっか、一般人の間ではまだそれ程有名じゃないかもしれないわね。
 特にこっちでは、西欧以外の方面の戦闘なんてTVでも滅多に放送しないし…
 でも、軍の中では知らない人がいないぐらい有名よ。
 ナデシコの英雄…創られた英雄と言って、ネルガルが情報操作しているという説もあるけど、
 実際にナデシコが驚異的な撃墜率を誇っているのは確かだし、
 向うではTVで特集されたりもしてたみたいだし。」



「こっちでは放送されてなかったと言う割には、詳しいのね。」



「ふふ、ちょっと興味があったから、
 向うからその特集を録画したのを、送ってもらったんだ。
 それを見たら……私の宝物の一つよ。」



 少し、潤んでいるかのような瞳と、赤らんだ顔でウットリと言う。
 そして、今度こそアキトを探しに行こうとするアリサをサラがまた掴まえた。



「あ、あのね、サラ。
 今度私もその特集を見たいな〜〜」



「別にいいけど…
 何を赤くなっているの?」



 そんなこんなで、二人の頭の中には両親の事等、既に遠い過去の事になっているのか、
 両親が死んでから初めて会ったにも拘らず、一切その事には触れずに別れたのであった。

 

     ◇       ◇

 

「それにしても、サラちゃんがあそこまで世間知らずだったとは…
 次は何をして貰おうかな。
 コスプレの属性は俺はもってないし…
 でもサラちゃんなら、あんな服を着ても似合うかもな、いや、やっぱりあっちの服の方が。」



 俺は料理をしながら、そんな馬鹿なことを考えていた。
 昼時には、そんな事を考えている暇はないのだが、
 一段落着いて、残っている人も数人しかいなくなった食堂では、
 俺の顔がにやけていても、気にする人間などいはしまい。



「何変な顔しているんですか?」



 訂正、気にする人間がいたようだ。

 それにしても、またもや気付かなかったぞ?
 サラちゃんだけならまだしも、気配を感じない人間が二人もいるのは問題だな。
 もっともっと訓練を積まなくてはいけないな。

 俺は、明日からの特訓をしなくてはいけないかもと思いつつ、顔を上げる。



「いえ、何でもないです。
 え〜〜と、今からお昼で……
 あれ、君はこの基地の人?」



 こんなに美人がこの基地にまだいるなんて情報は手に入れていなかったのだが…
 チェック不足か………俺もまだまだだな。
 やはり特訓は必要だ。



「いえ、今度この部隊に配属されたアリサ・ファー・ハーテッドです。
 階級は中尉で、エステバリスのパイロットです。
 ………あの、御名前を御聞きしても宜しいでしょうか?」



「俺の名前?
 テンカワ・アキトだけど。」



 向うにいた時は、初対面の人でも名前を聞かれるなんて殆どなかったことだな。
 実は俺ってあまり有名じゃないとか…
 でも、ファンレターはたくさん来たんだけどな〜。



「やっぱり!!
 あの、ナデシコの、テンカワ・アキトさんですよね。
 私、あのTVの特集を拝見いたしました。
 それから、ずっとお会いしたくて…
 こんな所でお会いできて、光栄です!!」



 ああ、久しぶりに俺のことを知っている人に会えた。
 久しく聞いていない嬉しい言葉、尊敬の眼差し。
 俺は、やっぱり有名だったんだ!



「そんな鯱ばって話さなくていいよ。
 これからは一緒にエステバリスで戦う同僚なんだし、
 …あれ、名字が同じって事は、サラちゃんと?」



「はい、サラは双子の姉です。」



「そっか、じゃあ、俺の事はアキトでいいよ。
 サラちゃんもそう呼んでくれているし…その代わり俺もアリサちゃんって呼ぶから、
 いいよね、アリサちゃん?」



 俺の事を知っている以上、半分落ちているようなもんだしな。
 なにも急ぐ必要はない。



「はい、有り難う御座います、アキトさん。」



「ほら、駄目だよ。
 敬語を使う必要もないよ、アリサちゃん。」



 俺はアリサちゃんを見ながら始めは怖い顔をしてから、一転して笑いかける。
 このコンビネーションを使う必要なかったかもしれないが、
 話しの流れ的に使うべきところだっただろう。



「そうだ、アリサちゃんはこれからお昼だったよね。
 何が食べたいの?」



「注文と言われましても…
 あの、アキトさんが調理なされるのですか?」



 あくまでも敬語を使ってくるアリサちゃん。
 どうやらアリサちゃんの癖のようだから気にしないでおくか。
 名前で呼んでくれているし。



「あ、俺の料理の腕を疑っているな〜。
 確かにまだ修行中だから、一流のシェフとは言えないけど、
 結構いい腕をしてると俺は思ってるだけどな〜。
 アリサちゃんも食べて確かめてみてよ。」



「それじゃあ、ミートスパゲティをお願いします。
 私の舌は結構厳しいですよ、アキトさん。」



 冗談を言える位、俺に気を許してくれたか。
 上出来上出来。



「ははは、それは怖いね。
 アリサちゃんに駄目だしを受けないよう、気合を入れないといけないな。」



 こうした受け答えの一つ一つが大切なんだよな。
 会話のキャッチボールの積み重ねが少しずつでも近づけさせるからな。
 俺は調理を開始しながらも、意識の半分以上をアリサちゃんに向けていた。



「ふふ、頑張ってくださいね、アキトさん。」



 そう、優しそうな顔で話しかけてきた後は、俺の料理を作る手際を見ている。
 もうここからチェックしているのかな?
 それとも俺から目が離せなくなっただけとか。

 そんなふうに俺に都合よく解釈していたら、いきなりアリサちゃんが問いかけてきた。



「……そう言えば、何で姉さんの事も名前で呼んでいるんですか?」



 ギクッ!
 手元が狂いそうになったぞ。

 アリサちゃんはサラちゃんと違って世間知らずではないらしい。
 これはサラちゃんにあんな服を着せるのも無理だな…

 これから仕立て屋さんまでサラちゃんを連れて行こうと思っていたのに、残念だ。




「ああ、サラちゃんね、アリサちゃんと同じだよ。
 やっぱり名前で呼び合うのが、親しくなる第一歩だし、
 それにサラちゃんがちょっと落ち込んでいた時に始めて出会ったから、
 元気付ける意味もあって、親しい人が傍にいるのを解ってもらおうと思ってね。」




 最近は言い訳をする事なんてまるでなかったんだけどな…
 ま、落としてしまえば言い訳もしなくて済むしな、もう少しの辛抱だ。



「やっぱり、あの戦いもアキトさんが?」



「うん、まあね。」



 こういう事は自分で自慢してはいけない。
 あくまでも、何てことない振りをしつつ、周りの人から凄かった事を聞いてもらわなくてわ。
 サラちゃんあたりが一生懸命吹聴してくれるだろう。

 そして、それを知った時に、アリサちゃんは一層尊敬すると…
 完璧だな。

 俺の頭の良さに我ながら感心してしまうぞ。



「はい、お待ちどうさま、アリサちゃん。
 ミートスパゲティのできあがり、美味しいといいんだけど。」



 俺は会話しながらもきちんとつくっていたスパゲティをアリサちゃんの前に置いた。
 麺は硬すぎず軟らかすぎず、いい具合に出来上がっただろう。
 
 

「いただきます。」



 アリサちゃんが食べ始めると、ドキドキしてしまう。
 やはり自分の料理の腕に、まだ自信が持てていないからなのかな。



「美味しいです、アキトさん。
 麺もちょうどいい硬さですし、何か暖かい感じのするお料理ですね。」



 アリサちゃんはそう褒めてくれた。
 暖かい感じというのがどんな意味か解りかねたが、ここは好意的にとっておくべきだろう。

 アリサちゃんも家族を亡くしたばかりだもんな、
 家庭料理的なものに飢えていたのかもしれないし。





「そう言えば、サラちゃんは何時頃まで一緒に生活していたの?」



「…私が軍の訓練学校に入るまでですから、十五歳位までですかね…
 なんでそんな事を御聞きになるんですか、アキトさん?」



「いや〜、サラちゃんは少し世間知らずなところがあるけど、
 アリサちゃんはしっかりしていると思って。」



 それもあるが、今後のためにも情報は多い方がいいに決まっている。
 それに二人の違いをしっかり認識しておかなくては後々面倒な事が起こりうるからな。



「ああ、姉さんは女子高、大学と家と学校の往復だけの生活をしていましたから。
 だから男性も苦手だったのですが…
 男性のファーストネームを呼ぶなんて考えられなかったのですが、
 どうやらアキトさんのお陰でそれは大丈夫そうですね。」



 意味深な発言をしてくるな、アリサちゃん。
 それは俺を、義兄として迎えてもいいということなのか?
 だが、俺としてはアリサちゃんに『お義兄さん』と呼ばれても嬉しくないぞ。
 やはりサラちゃんと一緒に俺の傍にいて欲しいんだが…



「ははは、サラちゃんの為になったって言うのなら光栄だよ。
 でも、俺としてはサラちゃんもだけど、アリサちゃんの事も結構気になるんだけど。」



「逢ったばかりの私の事がですか?」



 不思議そうに、そして少し嬉しそうに聞き返してくる。



「そ、アリサちゃんの事。
 だってアリサちゃんって言葉使いは丁寧だけど警戒心が強いでしょ。
 それに思い込みも激しそうだし…
 ご両親が亡くなって直ぐに、知っている人が殆どいないこの基地にやってくる事になって、
 実はストレスも溜まっているんじゃないかな。」



 俺の性格判断は間違っていないはずだ。
 それだけで、人を見分けるなんて事をしてきた時に培ってきたものなのだから。

 アリサちゃんも自分の内面を会って間もない俺に言い当てられて驚いている。
 しかしそれ程悪い気はしていないらしい。

 内面を言い当てられると怒り出す人もいるから、これは気をつけないといけないんだけどね。



「…凄いですね。
 本当はその通りなんです…」



「だからね、そんな時には俺の所に来てくれて良いんだよ、アリサちゃん。
 もしかしたら、話しを聞くぐらいの事しかできないかもしれないけど、
 俺にでも、フラストレーションをぶつければ、少しは落ち着くと思うし。
 俺に出来ることなら、何でも付き合うからさ。」



 俺の言葉に敬愛の眼差しで答えてくれるアリサちゃん。
 これで少なくとも、義兄としてよりも男として意識してくれるな。

 

 

 

「第一級戦闘配備!!」



 シュンさんの号令と共に司令部に緊張が走る。
 当然ながらアリサちゃんにも出撃命令が出ている。

 俺としても、すぐに出撃してもいいのだが、少し気にかかることがある。
 今回はそれを終えてからにしよう。

 それにヒーローは美味しい所どりと、決まっているし。
 アリサちゃんの危機に颯爽と登場すれば、今のアリサちゃんなら一発で落ちるだろう。


「アリサちゃん、くれぐれも気をつけてね。
 俺は気に掛かる事があるからあるから、少し遅れるけど、絶対に無茶しないでね。」



「解りました。
 あんまり遅くならないで下さいね、アキトさん。」



 現在は、少数の敵しか確認されていないから、アリサちゃん達基地の人だけでも大丈夫だろう。
 その間に、ちょっとしたことの手筈をしておかなくては…

 

◆       ◆

 

 アリサ達が飛び立ってから既に四時間以上が経とうとしていた。
 初めの頃こそ敵は少数だったものの、間段なくバッタやジョロが現れ、消耗戦となっていた。

 その間、基地の人間も懸命に戦ってはいるが、
 次々と現れる新手に、人間だけが疲労の度合いを濃くしていく。
 このままいくと、基地の全面的な敗退も見えてきたその時、



「私に考えがあります。
 このままでは疲れを知らない無人兵器の思うが儘です。」



「それで、アリサ中尉の策とは何かね?」



「私が囮となってチューリップを誘い出します。」



「アキトは何かすることがあると言ったのだろう?
 それを待ってから仕掛けても遅くはないと思うが。」



「はい、アキトさんは何かの準備をされているようでした。
 だからこそ、チューリップの場所の特定ぐらいは私達でしておかなければならないのでは?」



「……確かにアキトにおんぶに抱っこではいけないが…
 …絶対に無理はするな、チューリップを見付けたら直ぐに戻ってくるんだぞ。」



「了解!
 アリサ機出ます!」

 

 

 

 アリサが基地を出て程なく、アキトが格納庫に姿を見せた。



「アキト、アリサがチューリップを誘い出すって出撃していったわ。
 アリサを助けてあげて。」



「ん、わかった。
 大丈夫、絶対助けるから安心して待っててね、サラちゃん。」



 アキトは、にこやかにサラに笑いかけながら出撃していった。







 一方アリサの方では…
 飛び立って間もなく、チューリップを発見した。
 そのチューリップは、



「まさか、チューリップが基地の周りを飛行しているなんて!!」



 そう、チューリップは基地を基点とした円を描いて飛んでいた。
 これだけ大きな円周を移動されていたら、場所の特定が出来ない筈である。



「チューリップの場所は特定できたし、もうこんな場所にいる必要はないわね。
 後は、伝説の英雄の戦いを特等席で見せて貰って…」



 チューリップを発見できて気が緩んでいたのか、
 サラは何時の間にか退路を、無人兵器によって塞がれてしまっていた。

 今は未だエネルギーがあるから反撃しながらも避けられているが、
 そのエネルギーだって何時までも持つものではない。

 最初のうちは見事な動きでバッタどもを翻弄していたサラだったが、
 少しずつ運動量が減ってきていた。
 四時間以上に亘る戦闘の疲労もピークに達していたのだ。



「このままでは…
 私はこんな所で死んでしまうの?まだ死にたくないのに…」



 その時、サラの眼前を閃光が走った。



「サラちゃん、大丈夫かい?」



 サラの周辺にいた無人兵器が一斉に撃墜されていく。
 爆発が収まった後、そこにいたのは漆黒のエステバリス。



「アキトさん、アキトさん、アキトさん(涙)
 もう、遅いですよ、遅すぎますよ。」



 サラは涙腺が壊れてしまったかのように涙を流している。



「ごめんね、アリサちゃん。
 ソナーの配置に手間取ってしまって…
 でもね、俺も怒っているんだよ、アリサちゃん。」



 アキトは、アリサの様子を知ると、エステバリスの動きを止めた。



「アリサちゃん、俺と無茶をしないって約束したのに、それを破ったでしょう。
 アリサちゃんが飛び立っていったって聞いて、心臓が止まるかと思ったんだからね。」



 そう言いながら、アキトは少しずつエステバリスをアリサの方へ近づけていく。



「……ごめんなさい。」



 アリサはシュンとうな垂れてしまった。
 その表情は、まともな精神の持ち主では慙愧の念に耐え切れず、自殺してしまうかもしれない。

 しかしアキトはまともな精神の持ち主では、勿論ない。



「いいや、駄目だね。
 絶対に許してあげない。」



 二体のエステバリスの距離は、もはや腕が届く範囲にまで近付いている。



「……そんな、どうしたら許してくれるんですか、アキトさん?」



「う〜ん、そうだな。
 これからは、絶対に一人で勝手に出撃していかない事と、俺の傍らにいてくれる事。
 これを守ってくれるなら、許してあげる。」



 そう言って、アキトはアリサを抱きしめた。

 ちなみに、現状はバッタに周囲を完全に囲まれていたりする。
 アキトはそんな事は丸っきり気にしていないが…

 そう、アキトにとって優先順位を考えれば…
 考えると当然か。



「え、それって……」



「それじゃあ、アリサちゃんは特等席で俺の戦いを見ていてね。」



 アキトはアリサにそう言い残して、取り敢えず周囲にいるバッタを薙ぎ倒していく。

 その戦い方は、圧倒的なまでの力の差が感じさせられ、
 そして、華麗でありながら、苛烈さを感じさせるものだった。

 周囲の敵をあっという間に殲滅させると、遠くに見えているチューリップへ向かっていく。

 その機体には赤い光が纏わりつき、
 禍々しいまでの闇夜に一筋の光をもたらしていた。





 そんなアキトを真っ直ぐに見つめるアリサが一人空中に佇んでいた。












後書き
 サラもアリサもまるで違う人となってしまった…
 ま、それもアリという事で。

 

 

 

 

代理人の「待てやコラアキト」のコーナー(笑)

 

そもそも主人公が全く別の人なんですからOKでしょう(笑)。

どんどん壊しちゃってください(爆笑)。

さて、リニューアル二回目のこのコーナーですが、

今回のツッコミどころは多数の候補(笑)の中からこれに決定!

 

ま、落としてしまえば言い訳もしなくて済むしな、もう少しの辛抱だ。

 

鬼畜め(笑)。

 

 

おまけ

「ちょっと待ていサラ&アリサ」のコーナー(爆笑)

 

両親が死んでから初めて会ったにも拘らず、一切その事には触れずに別れたのであった。

 

死んだ両親より男の話を優先させるとは・・・・・・・

実にこの話のアキトに相応しい女性たちだ(核爆)。

そうか、さっき「壊してくれ」なんて言ったけど既に二人とも壊れていたか!

さすがだ皇さん(爆)。