ナデナロク

EX2<冷たき血の女>Yurika Side of Life

前編

―――0―――

Who are you?

The man who drives me mad.

If I can escape the fear, I will kill you.

 

Cap1〜2

何で・・・。

アキト、アキト、アキト!2人はラブ、ラヴィ!

何であなたは・・・

アキト、アキト〜何処?

・・・私の幸せを奪ったの!

 

Cap3〜4

壊れた私のココロ。

(タスケテ・・・タスケテ・・・。)

それを繕うように呼び掛ける貴方は誰?

「僕は知っている、君の強さも、弱さも・・・。

そして・・・魂を賭けて君を守ろう。」

 

―――1―――

「ユリカ!ここは引け!

さぁ、早く!」

崖の端へと追い詰められているユリカ。

僕は目の前のアキトと呼ばれる男から守るようにユリカを守護する。

銀の剣と銀の毛並みが月の光に反射されて輝く。

幻想的な雰囲気の中、剣呑たる殺気が辺りを充満する。

ユリカは、こちらへ目配せすると、怪我をしている体に鞭打って、崖の少ない足場を危なげに飛び降りる。

手助けをしてやりたいが、僕は目の前にいる男の相手で精一杯だ。

 

僕の名は、ジュン。

姿は、巨躯の狼であり、フェンリルの末裔だ。

フェンリルは発達した知能で言葉を操り、その巨躯は中級眷属を容易くも葬り去る。

しかし、目の前の男はそれ以上の実力者だった。

手足の一本では帰れないかもな・・・。

すると、目の前のアキトは、一言つぶやく。

「畜生、何なんだよ、あの女!」

何なんだよ、あの女・・・か。

僕は、ユリカと出会った時の事を思い出す。

ユリカの事は全て、手に取るように判った。記憶、感情、そして消せない過去・・・。

僕の中の哀しみが心を荒れくわせ、言葉が漏れてしまった。否、それは本心からの願いだったのであろう。

しばしの沈黙、それは僕に思考の時間を与え、アキトには体力の回復の時間を与える。

しかし、突如僕の誇り高き咆哮がそれを遮る。

「ユリカは、不器用なんだ・・・。

自分自身に戸惑いを感じている。

いつか・・・、そう、いつかで良い。助けてやって欲しい。」

アキトは、ユリカの相棒である僕の言葉に、呆気に取られた顔を浮かべる。

その瞬間、僕は飛び立った。

これだけ時間を稼げば、気配を完全に断ち切る事の出来るユリカならば大丈夫であろう。

僕は、ユリカの心の声を探しながら、そちらへと走り去っていった。

そして、先程思い出した痛みをそっと胸に噛み締める。

僕では彼女を幸せに出来ない・・・。

 

―――2―――

私は両親からユリカと呼ばれ、平凡だが、幸せな家庭に生まれ育った。

父の職業は、鉄砲作りであり、天才的な才能はなかったが、日々の努力で頑張ってきた。

父の鉄砲は、天才達の作った物に比べ、精度、威力は確かに平凡な水準だが、決して暴発しない物だった。

しかし、私には他のものと比べ輝いているように見える。自慢の父親だった。

ローウェンの銃、それは1級品のブリュースターの銃にも勝るとも劣らない物だと私は、思っている。

そんな父の元に、今日は半年に一回、銃の点検をする為に、月臣と呼ばれているおじさんが訪れる日だ。

月臣のおじさんは、いつもお土産を片手に、アキトと呼ばれる、8歳程の同い年くらいの男の子を連れてくる。

私はこの少年が可愛い弟みたいで、好きだった。そして、何か懐かしい感じがする・・・。

 

ベルの音と共にドアが開く。

「やぁ、ローウェン。今回もまた、銃の点検お願いするよ。」

噂と共に、月臣のおじさんが現れた。

「アキト、アキト、アキト〜!」

私は、階段をすぐさま飛び降りる。月臣のおじさんの隣に居る少年、アキトへと挨拶をする。

「お久しぶり!アキト。

アキト〜何して遊ぶ?半年の間で、この街も大分変わったんだよ。

前回見なかったから1年ぶりだよね?ね?また、私が案内してあげる!

今回は邪魔者のルリもいないから2人で・・・キャッ!」

アキトの困った表情を浮かべる。月臣はそれを横目に、悲しそうにおどけて言う。

「私もいるんだがな・・・。」

罪悪感など、微塵も感じさせない表情で、私の方を向き、屈託の無い笑顔を見せる。

「あぁ、おじさん。ついでに、久しぶり!」

「ついでか・・・、参ったな・・・。」

奥の作業場の方から、豪快な笑いと共に父がやってくる。

「すまんな、月臣。

うちの天真爛漫な娘が失礼な事を言って。」

月臣のおじさんはまたも、苦笑し、父は銃を受け取ると作業場へと入っていく。

余り会話のしない2人だった。

月臣おじさんは、ふと私のほうへ向き直り、

「あれ、ルリちゃんはどうしたんだ?」

「うん。ルリは、今日は泊まりで、友達の家に行ってるの。

だから、おじさんが来る事、話してないよ?今日は・・・アキトとラブラブ、ヴィ!」

月臣おじさん、何で呆れた顔をしているんだろう?

 

「ねぇ、お父さん。アキトに街の案内をするの。良いでしょ?」

私は作業場の父の方へ近寄り尋ねる。

私は、後ろにいるアキトの方を見るが、心底嫌そうな顔で、断る。

「気持ちは嬉しいけれど、今回もパスさせてもらうよ。」

「ぶぅー。折角今回も、美味しい手料理をご馳走しようと思ったのに!」

1年半前から私は料理を覚えて、アキトに街を案内するついでに、

知り合いのレストランで料理を作らせて貰い、アキトに食べてもらった。

家で作らせてもらえないのだから、しょうがない。でも、何で作らせてもらえないんだろう?

アキトは余りの美味しさに、涙を流しながら倒れて喜んでくれたのに・・・。

そして後ろから、言葉が聞こえた。

「アキト行って来い。」

後ろには、意地の悪そうな顔をした月臣がいた。

アキトは、始め憮然とした表情で佇んでいたけど、私は、それを頭で理解すると、満面な笑みを浮かべお礼を言う。

「じゃぁ、行ってきまーす。」

私はアキトが何か言った気がしたけど、気にしないで引きずるように街へと繰り出した。

 

辺りが変わってよっぽど珍しいのか、アキトはしきりに周りを見ている。

私は、アキトをこの街に出来た、新しいお店や、建造物を案内していると、お昼の時間が近づく。

私の足は、自然と知り合いのレストランの方へと向いていた。

アキトは何かに敏感に気付き、余りお腹が減っていない事をアピールして、家に戻ろうとする。

(ちぇっ、バレたか。)

仕方なく私は、最近出来たばかりのお洒落な軽食店へと案内する。

カフェテラス風のお店で、ヴェネツィアの街の特徴である湖も見える。

景色の良いその店は、若者に大人気だ。

「はい、口開けて。アキト美味しい?どんどん食べてね。」

アキトの目の前には、パフェ3杯、アイス2個、クレープの空が5つ並んでいる。

「も、もう良いよ。」

「そう?やっぱり食べさせるのって楽しいよね。

こうしていると私達、新婚さんみたいじゃない?」

シンコン・・・。ふと、何かが頭を掠める。

しかし、アキトはある一角を見ると、急に立ち上がり、駆け出していく。

私はそれを目にすると、思考の渦から、現実へと引き戻される。

「アキト〜何処へ行くの〜。」

「お前の家の方角が燃えている!」

私はお勘定を済ませると、物凄いスピードで疾走するアキトへ追いつこうと必死に走る。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・。お父さん大丈夫かな・・・。

それにしてもアキト足速いな・・・全然追いつけないよ。」

差は広がるばかりで全く縮まらない。瞬く間に見失ってしまった。

 

10分後、群がる野次馬を押しのけながら、ようやく私は自分の家の前へと戻ってきた。

「アキトォ〜、ねぇ何処なの、アキト〜。」

アキトの姿を探すが、何処にも見当たらない。

しかし、突如何かの光に導かれるように、そちらに目を向ける・・・。

そこにあるのは、腕。

そう、切り取られた右腕だった。

その場所からは、赤い液体が流れ出て、床を這っていた。

私は悲鳴を上げるしか出来なかった。

そして、視線を倒れている何者かの隣の人物を見る・・・しかし、それを頭の中で否定する。

「・・・。」

倒れ伏す人物は、自分の父親だ。そしてその隣には・・・

血を纏った剣を持っていて、血まみれになったアキトだけが佇んでいた。

声が出ない・・・。

これは・・・なんで?

アキト・・・これはアキトがやったの?

アキトは剣を振り上げ・・・

「止めて!!!」

ようやく声を出すと、アキトはやっと私に気付く。

「ち、違う。聞いてくれ。」

近づいてくる・・・。私は、再び心から勇気を振り絞り声を上げる。

「止めて!来ないで!!」

頑なに否定する。

 

それに応えるように、アキトから私を守るように、隣から一人の金髪の少年が現れる。

「大丈夫かい?何も心配いらないよ。僕が君を守るから。」

そう言うと、その少年はアキトと対峙する。

アキトは、少年と対峙した瞬間恐怖の顔を浮かべた気がする・・・

それよりも私は、自分の父親が気になった。

父親の腕は肩口から何かに抉られ、吹き飛ばされたように、無くなっていた。

呻いている事から、まだ生きていると言う事が判るが、肩口の出血から見ると、

早急に手当てをしない限り、いつまで命を取り留めていられるかはわからない。

私は何度もこの現実を否定しようと、目を閉じた。

しかし、目の前の血臭は濃厚に私の鼻を刺激する。

頭がボーっとする・・・。

私を庇うように立つ少年は、悔やまれるように言葉を発する。

「月臣、君ならこの事態を何とか出来た筈だ。

何故・・・、何もしなかった!」

その少年の向いている方へと自然と頭を向ける。

そこには確かに、月臣おじさんがいた。

月臣おじさんは、腰からショットガンのような銃を抜き、少年をポイントし、つぶやく。

「悪ガキめが、地獄で懺悔しな。」

そう言うと、引き金を絞り、轟音が空気を熱く焦がす。

轟音は6回鳴り響いた。

しかし、弾丸は一発も少年をかする事すら出来なかった。

それはそうだろう、少年と月臣おじさんとは、距離が50mは開いている。

当たる訳がない。

 

月臣おじさんは舌打ちすると、銃を腰へと仕舞い、剣を取り出し、後ろへと振り回す。

月臣おじさんの後ろには、アキトが迫っていた。

「なんで・・・、なんでなんだよ!」

アキトは、月臣おじさんの背後へと回り込み、斬りかかっていたのだ。

「ふん。下らぬ余興だ。」

そう言うと、アキトを軽くあしらい渾身の力を込めて拳を振り抜く。

アキトは吹き飛び、レンガを打ち砕き、血反吐を吐き動かなくなる。

「そのまましばらく、大人しく寝てろ。」

月臣おじさんは、私も見た事のないような表情を浮かべ、少年へと対峙する。

私はアキトや、月臣おじさんを見ても、特に感情は浮かんでは来なかった。

そして少年はまたもつぶやく。

「ごめん。彼は強い。僕は君を助けてあげられない。

こんな僕を許しておくれ。」

目の前の少年は、悲しげな表情でこちらを振り向く。

「ふん。大した道化だ。最後に言う事はそれだけか?」

そう言うと、月臣おじさんは、少年目掛けて疾走する。

一瞬、そう、一瞬だけその少年は金色に光った気がした。

そして、剣の刃が手で受け止められる錯覚を見せる。

しかし、それは本当に一瞬の事で、剣はその少年の肩口を抉った。

「まだ・・・、まだ遠いか。」

少年はその場を飛び去り距離をとる。

「それと・・・、もう動かないでください。

最新鋭のものが、この場の全員を狙っている。きっと貴方の事だから、お気付きでしょう?」

そう言い残すと、少年はさっそうと立ち去っていった。

月臣おじさんも、それを追わず、アキトの方へと歩いていき、アキトを担ぐとその場を去る。

「すまなかったな。」

声は二人から聞こえた気がした。

残された私は唖然とした表情でその場所で座り込んでいた。

 

ショックで座り込んでいた私が、現実に気が付いたのは、いつの事だっただろうか・・・。

私は父親の所へ辿り着き、ただ泣いていた。

あの少年と月臣おじさんの関係って一体・・・。

アキト・・・。なんで・・・。

ココロがイタイ・・・。

 

―――3―――

私の父は、何とか一命を取り留めた。

しかし、利き腕を失った事により、もう鉄砲の作成は不可能となってしまった。

今まで努力により積み立ててきた物が、一気に崩れ去ったことによる現実への逃避。

それが父を変えた。それにより、両親は離婚。私は父側へと引き取られ、幸せな家庭は崩れていった。

一体私が、何をしたのよ・・・。

父は酒びたりになり、生活は赤字となる一方。

今までの貯えも、今やほんの一握りとなった。

 

私達は、西のはずれにあるドゥームへと移り住んだ。

そこは、浮浪者や犯罪者が移り住み、警察は組織と組んで甘い汁をすすっている無法地帯だ。

父は、私を娼婦館で働かせた。

私は、ルリを守るため必死だった。

私の家族は、ルリだけ・・・絶対守ってみせる!

娼婦館で暗殺技術を仕込まれ、人殺しの仕事をしつつ、毎晩違う男に抱かる。

汚れていく私、壊れゆく私のココロ・・・。

モウ、死ニタイ・・・。

そうさせたのはアイツ・・・。

憎い・・・にくい・・・ニクイ。

アキトに対して憎みを感じるが、それと共に心の何処かに痛みが生じる。

ココロが痛い・・・いたい・・・イタイ。

心の痛みは激しく私の胸を焦がす。

それでも、なんとか正気を保つ事が出来たのは、妹のルリのお陰。

ルリだけが私の全て・・・。

 

数日後、私は気が付いたら暗殺用のナイフを握っていた。

その先端から流れ落ちる液体は、月夜に照らされ赤黒い絨毯のような床となる。

目の前には、男の死体。私の父親・・・いや、あんな男、父親ではない。

この男は、私の働きにより、いつの間にか娼婦館の幹部になっていた。

それだけでは事足らず、更なる権力や、名誉の為に、ルリを娼婦館へと売ろうとした!

・・・・・・。

不思議と罪悪感は沸いてこない、いや当然か・・・私のココロは壊れているのだから。

 

更にその数日後、静寂な夜に、1階から床を踏む音が聞こえてくる。

数は5人・・・足音を残す事から、3流役者だ。

私はベッドから起き上がり、侵入者にも気付かれずに、2階へと降りる。

2人組は1階を探索し、3人組は2階へとゆっくり上って来る。

足音が通り過ぎると同時に、私は周りに溶け込むようにその男の背後につく。

そして、ナイフを首筋へと回し軽く・・・引く。

鮮血が飛び散り、その男が倒れる前に、2人目の首を掻き切る。

ここに来てようやく最後の男が私の存在に気付くが、声を上げる前に喉へと突き刺す。

声帯を潰し、絶命する侵入者。

1階からは、襲撃がばれた事によりこの家から退散していく気配がある。

私は3階へと戻り、追っ手が増援を連れて戻ってくる前に、ルリを連れてこの場所を去る。

これは、逃げる良い機会なのかもしれない。

私の過去を知る男も殺したし、その事により私は追われる身となった。

そう考え、私は逃げた。

ドゥームから東へと向かう。目の前には、森がある。

古代の森と名付けられたその森は、国3つ分の面積をほこり、その森をを抜けると、ようやく帝都へと辿り着く。

そこならば、少しは休む事が出来る・・・。

 

逃亡は順調だった。時々3流の暗殺者が忍び寄ってきたが、全て捌き獣の餌とする。

しかし、3日3晩の進行は、幼いルリを疲弊させていた。

そんな中で、今度は傭兵二人組みが現れた。

何らかの理由でギルドを追放され、ドゥームへと流れ着き娼婦館で雇われたゴロツキであろう。

私はルリを庇いながら戦った。

しかし、傭兵はB級程のつわものであり、ルリを庇いながら戦うのも限界がある。

私は肩口と左腕からの大量の出血と引き換えに、その二人組みを大地へと還す。

私もそろそろ限界に近い・・・このままルリだけを逃がして・・・。

いや、駄目だ!ルリを守れるのは私だけ・・・絶対街まで辿り着いてみせる!

 

古代の森の入り口へと入り、街道を少し外れた獣道を歩く。

気配は4つ・・・?この気配は・・・、ヤバイ!

私はそう直感すると、街道へと戻り、ルリの手を引いて森を疾走する。

道は二つに分かれていた。右か、左か・・・私は迷う時間をも惜しむように左を選択する。

走りながら私はこの暗殺者について考えていた。

娼婦館が抱える暗殺のエリート集団。

私が全快で、ルリがいなければ、決して勝てない相手ではないだろう。

隙をうかがうように、後を尾行してくる。

未だに暗殺者は姿を見せない。それが私にとって救いだった。

目まぐるしく頭が回転するが、名案は思いつかない。

焦りが焦りを生む。

気が付くと目の前は崖だった。囲まれた!

私は滴り落ちる汗を拭いもせずに、ルリの前へと立つ。

小さい口笛と共に、4人の黒い影は、一斉に私へと襲い掛かってくる!

誰から迎え撃つ!?私は一瞬の戸惑い、それが相手に隙を与える形になってしまった。

激痛と共に、右足にクナイが突き刺さり、地面とを繋ぐ。

完全に足を奪われてしまった。

飛び込んできた黒き影一人をナイフでねじ伏せ、首を掻き切る。

残りの2人は目の前まで迫っていた。

右からの気配に気付くと、残りの一人のクナイが、私の心臓を貫こうと黒光りする!

私は、まだルリを守りきれていない・・・。

走馬灯のように、記憶ではなく思考だけが空回りする。

(タスケテ・・・タスケテ!!!)

私は心の中でそう叫んでいた。

 

―――4―――

鋭き咆哮が駆け巡る。

木が圧し折れ、土を抉り、砂埃を舞い上げて不可視の衝撃波は、私の隣をすり抜け

その暗殺者ごと黒光りクナイを木っ端微塵に吹き飛ばしていた。

「もう、心配ない。」

突然現れた銀髪の巨躯な男に以前このように立ちはだかった少年を思い出し、身震いをする。

もう、忘れ去ったと思ったのに・・・。

更に、この男が味方と言う保障はない・・・。

銀髪の男は、暗殺者へと立ち向かい、一瞬で間合いを詰め、拳を振り上げる。

触れた拳の先から、鮮血が飛び散る。暗殺者の顔は、首ごと吹き飛ばされている。

私は、呆気にとられていた。逃げ出そうにも足元のクナイが抜けず動けない。

銀髪の男は、最後の一人の暗殺者を片付けると、私の方へと歩いてくる。

その瞬間、私の足元のクナイは、少量の鮮血と共に抜け落ちる。

もう、血が少ないのであろう、意識が薄い。

「そんなに、怯えないで。僕は敵ではない。」

私は、それでも敵意をむき出し、男が一歩進むたび、ルリの手を握り、後ろへと後ずさる。

何かが崩れる音が聞こえた・・・。

突如襲う浮遊感と、流れ落ちる景色が頭の中に鮮明に映し出される。

私は、ルリを抱え込んだ。

「絶対守るから!」

私は強い衝撃と共に意識を手放した。

 

気が付いたら、気配が二つあった。

一つはもちろん、ルリ。

そして、もう一つが・・・?人間の気配ではない。

私は、身を起こし状況を把握するようにつとめる。

ルリは、大きな狼をベッド代わりにして、その上で熟睡していた。

その狼はと言うと・・・。

「ようやく気が付いたね。僕の名前はジュン。

君の悲鳴が聞こえて助けに来たんだ。」

私は狼が人語を理解し、喋る事に疑問を覚えた。が、それは些細な事だ。

「私達をどうするつもり?」

「食べるつもりなら、もう殺して食べている。

言っただろ、君の声に引かれて来たって。」

「私は助けを呼んだ覚えは無いわ。」

まだ、安心できない私は、再び敵意を現す。

「ルリが起きるぞ?」

その一言に、私は敵意を抑え、ジュンと呼ばれる巨躯の狼の話を聞く事にした。

「僕は、フェンリル族の末裔。

君の心の声を聞いたんだ。僕は、君の魂の契約者だから。」

私には理解が出来なかった。しかし、次の瞬間、驚愕と共に理解する。

暖かい・・・。私の目からは大粒の雫が滴り落ちる。

いつの頃から、流していなかったのだろうか。その機能はすっかり失われた物だと思われていた。

そして、ジュンの口から言葉が紡がれる。

「生き物は・・・一人で生きていく事は出来ない。何かに支えられえて、また何かを支えている。

君を必要とする人はたくさんいるんだ・・・。それが僕であり、君だ。」

言葉は魂に語りかけるように、私の中へ浸透した。

うわべだけの言葉じゃない・・・重みがあった。

「私は・・・変わってしまったわ。

全て・・・何もかも、あの時から!」

私は、子供のように泣いていた。

そして、ジュンは諭すように言った。

 

「運命って信じるかい?

人の本質という物は、産まれる前から決まっている。

本質は、自分であれ、他人であれ、変える事は出来きず、変わる事も無い。

そして、それは偽る事の出来ない物だ。

僕は、知っている。君の強さを、弱さを、そして・・・優しさを。」

 

そして、更に言葉を続ける。

「僕は命・・・いや、魂に賭けて、君を守ろう。

この誓いは、肉体が滅びようとも関係ない。

君と僕とは、魂で結ばれたんだ。」

私はあの瞬間から、何となく理解した。ジュンの魂は、私のそれを解き明かす。

私は、魂を見られている感じがした。

しかし不快ではない、これが魂で結ばれるという事・・・。

「ルリも・・・ルリも守ってくれるの?」

「あぁ、もちろんだ。

彼女は君の一部であり、君も彼女の一部でもある。」

ジュンはルリの方を見て・・・微笑んだ気がした。

私のココロは・・・まだ生きている。

 

〜あとがき〜

私は、レナやリロイ等の本質は結構似ていると思っているのですが、

(ジュンの台詞ですね。本質は変わらない。そして上辺だけの人と言うのは、ザント君が良い例かな?

多分いつか、化けの皮が剥がれるでしょう。)と、言う事で、他の人は如何お考えでしょう?

これから本編でユリカをどうするのか・・・まだ決めていません、どのようにしようか・・・。

ちなみに、この頃のユリカは実力はあるけど、精神的にはまだ暗殺者となりきっていません。

とある王国での出来事に入る頃には、完全に?心が壊れ、冷血となってます。