ナデナロク

EX03<黒き咆哮ブラックハウリング>Tsukiomi Side of Life

 

―――0―――

復讐後の覚悟だ。

全てが終わった後には、もうお前には何も残らない。

唯一残る物・・・それは、血塗られた手と敵、そして・・・過去だ。

それでもやるのか?

 

轟き叫ぶ黒き咆哮。

俺にこの獣を飼いならせるのか・・・

 

―――1―――

そう、全ては俺があいつを拾った事から始まった。

ただの気紛れなのか・・・それとも・・・これが俺の「運命」なのか。

 

俺はこの灰色の街の空気はどうも好かない・・・胸糞悪い街だ。

空気だけじゃない。雰囲気さえも薄暗くどんよりと重い。

人々に生気はなく、あるのは欲望の目。

俺の剣や財布を盗もうと淡々と隙を狙う獲物の目だ。

俺は細い路地裏をゆっくりと進んでいく。

目的地はもう少し・・・国に喧嘩を売ってきた組織を潰す事。

本来なら王国が動くところだが、王国は資金難により出兵などの手痛い出費は抑えたい。

そこで、俺の出番だ。この程度の組織、俺だけでも十分潰せる。

ましてや親友の頼みと国の為なのだから、断るつもりもないしな。

 

俺の名は月臣。

王国に反抗する敵対する暴力組織を潰して活動する者だ。

今までに3つは組織を潰してきた。ここも時間の問題だろう。

組織を潰す事は俺にとって、親友の国の治安を維持する為と、運動不足の解消にしかならない。

何故俺は国に雇われているかと言うと、俺は昔ギルドにいたが、いざこざの為にギルドを脱退し、

今はカルジア国で、親友の王子と共に国に貢献しているわけだ。

王国では王子が蒸気機関の発明で忙しいらしく、俺について来ようとしたが、諦めたようだ。

まぁ、面倒が減ってこっちは嬉しいのだがな。

 

―――2―――

俺は、組織が使っている教会へと到着した。

この街には二つの組織があり、この教会がその組織の一つだ。

ボロボロの教会だったが、造りはしっかりとしている。

そして所々人の手が行き届いている事から、人がいる証拠だ。

 

俺の狙っている組織は、変な宗教集団とグルになって活動を行っているらしい。

活動の主な内容は、薬を売買し、信者に売りつけ資金を上げる。

そしてその資金を使って更なる信者を増やしていくと言う事だ。

初めのうちは見てみぬ振りをしてきたが、使い捨ての信者がうちの国に

破壊工作をしに来るようになってから組織の壊滅案が出された。

組織は他の国と組んで、カルジア国を攻め込もうと考えているに違いない。

俺の見立てでは、南東の・・・っとそんな事はどうでも良い。

ようは、組織が各地に転々としているため、俺が各地を放浪していると言うわけだ。

 

俺はドアを蹴り上げ吹き飛ばす。

人々の驚愕の顔の中に、見知った顔と服装を見て笑顔でフレンドリーに挨拶する。

「やぁ、また会ったな。先月潰した教会の教祖さん。

名前は・・・忘れた・・・まぁ、死ぬから同じだな。」

「そんな〜困りますよ。僕はまだ死にたくありませんから。

ヴァフスです。覚えてくださいね?」

先月逃した教祖は、さして困った様子もさせずに首を傾げる。

「貴様か!最近教会を潰しまわっているという輩は!」

私腹を肥やしていそうな恰幅の良い中年おやじは、敵対心を剥き出しに俺に立ち向かってくる。

「下っ端じゃ何も知らされてないんだな。何も知らず眠れ。」

俺は無下に言い放ち、腰の刀を抜く。

「何だと!」

「貴方じゃ手に負えませんよ。」

ヴァフスが手を鳴らすと、信者達は操られるように、ゆっくりとした足取りで俺に向かってくる。

俺は信者を避けながら最短ルートで中年おやじに肉薄し、一閃と共にヴァフスの目の前へとその首を飛ばす。

「たまには見下されるのも良いもんだろ?」

ヴァフスは、気味の悪い微笑を浮かべるとその頭を踏み潰す。

脳漿が飛び散り、眼球がドロリと、とろける。

俺は邪魔する信者を掻き分け殴り飛ばし、ヴァフスへと接近する。

「全く・・・手荒な人だ。」

 

空気を振るわせる音速の音が聞こえた。

俺はすかさず近くにいた信者を盾にし、その攻撃を防ぐ。

「いやぁ、助かりましたよ。サブロウタさん。一時はどうなる事かと・・・」

「そんな事は良いですから。さっさと逃げてください。

いくら貴方でもこの人の相手は辛いはずですよ。」

突如横手から現れた、サングラスをかけた赤毛の好青年は右の掌をこちらにかざしている。

一瞬隙を見せた瞬間にヴァフスは素早くその場を立ち去り、その合間を信者達が埋め尽くす。

「ちっ。」

それに気付くと青年もまた消えていた。

まぁ、ここの組織の頭は潰したから大丈夫だろう。

頭が無ければ所詮動けない輩だからな。

俺は信者を適当にあしらい、火をつけて赤く染まる教会を後にした。

 

宿へと帰る途中、雨が降り出した。

教会の火が周りに飛び散る事は無くなったか。

そんな中、俺は倒れている少年を見付けた。

この辺では当たり前の光景だった。力の無い子供など、この街で一人で生きていくことは不可能に近い。

しかし俺は、何故かこの少年に興味を持ち話しかけていた。

近づくと、その少年は黒い弾丸の様な動きで俺へと疾走してくる。

手にしているのは短剣だ。心臓を一裂きにする為か、俺の心臓に向けて一直線で飛び掛ってくる。

短剣の切っ先は、俺の胸を抉り・・・甲高い音と共に落ちる。

「どうした坊主。」

少年はぐったりと倒れ、うわ言のようにつぶやく。

「組織は・・・潰す・・・つぶ・・・。」

そう言うと、少年は沈黙した。

俺は少年の隣に座り、生死を確かめる。腹部に鉛の弾が打ち込まれ、辛うじて生きてはいるが、重症だった。

普段なら見過ごすところだが、俺は宿へとその少年を持ち帰った。

こんなへんぴな土地で銃を使う裕福な者と言ったら・・・俺が狙っている組織しか思い浮かばない。

「組織の場所を探し出す手間が省けたな。」

死なれては困るので、少年をベッドへと寝かせて、少年の腹部と俺の手に酒を浴びせて消毒し、

その手を傷口へと侵入させる。

嫌な手応えを掌の感触に伝え脳へと送ってくる。

その意識を何処かへと追いやり、慎重に腹部から弾丸を探し出す。

腸の直ぐ隣に、硬い物があった。明らかに異質な物を俺は一気に引き抜く!

少年は軽く呻いたが、それっきり大人しくなる。

またも酒で消毒し、俺の医療具から傷を縫合する。

傭兵業をやっていると、怪我は当たり前で、自分で傷口を縫合したりするのは日常茶飯事だ。

手馴れた手つきで縫合を終えると、消毒に使った酒を喉へと流し込む。

喉の潤いと共に、俺は床に寝転がる。

暫し目を瞑り気を落ち着ける。雨の日はあの事件を思い出し古傷が疼く・・・。

 

沈黙の中、それを破ったのは少年だった。

「カナシイ夢を見た・・・。そして、暖かい声が聞こえた・・・。」

少年は起き上がり、俺に対して言葉を掛けて危なげに扉へと向かう。

「助けてくれてありがとう。でも、僕に関わらない方が良いです。

組織が付け狙っていますから。それに・・・。」

更に言葉を紡ごうとした少年に、俺は立ち上がり、制止をかける。

「それは都合が良いな。今からその組織を潰してやろう。」

苦渋の表情を見せる少年に俺は、ニヤリと笑い上げた。

「お前の顔を見てれば判る。それに倒れる直前言ってたからな。

組織が憎いのだろう?俺が潰してやるよ。」

少年は深く悩む表情をし、怒ったように俺に対し、反論してくる。

「組織は・・・僕の大切な人達を殺した・・・だから、何度か組織の取引を邪魔した。

それだけで精一杯なんだ!あんた一人で敵うはずないじゃないか!」

「じゃぁ、お前も来るか?」

俺でさえ捉えるのがやっとの動きをした少年・・・それに俺の興味は移っていた。

こんなへんぴな所で面白い拾いものをしたな。

驚愕と共に少年は暫く考え・・・頷いた。

「まぁ、明日は早い。今日はここに止めてやるから、さっさと寝ろよ。

もちろん床だぞ?」

少年は憮然とした態度になり、床に黙って寝転がる。

俺はまたも酒を含みベッドへと横倒れになった。

 

―――3―――

大地は日の光を迎え、鳥達が囀る。

俺はゆっくりとベッドから立ち上がり欠伸をする。

俺は床で寝ている少年の方へと近づき、爪先で軽く小突く。

「痛いなぁ!何するんだよ!」

少年は顔を真っ赤にして、俺に対し喚いている。

力加減を間違えたかな?最近加減する事が無かったからな・・・。

しばし遠い思考に入ったが、戻ってきてもまだ、少年は喚き散らしている。

「それだけ元気なら大丈夫だ。」

笑いながらしたの酒場へと降りていく。

少年は渋々後ろを付いてきて、俺は席に着き料理を注文する。

「心配するな、俺の奢りだ座れよ。

その代わり、いくつか質問に答えてくれよ?」

さて、ここからが質問タイムだ。

「少年、名前は?」

「・・・アキト。」

暫しの沈黙の後、返答は返ってきた。

あれくらいで腹を立てるとは、まだまだガキだな。

「聞こえてるよ・・・。」

「おっと、失敬。」

アキトはようやくこちらに歩み寄り、向かいの席へと腰を掛けた。

打ち解けてくれたらしい。

「俺の名前は月臣だ。後でなら、何でも聞いていいぞ。

んで、お前の両親はどうした?」

両親が居なければ、本人の気持ち次第でこいつを連れまわせる・・・。

しかし、俺は何故この少年に構うのであろうか少し疑問を覚えた。

会った時から妙な感じがする・・・以前もこうしてこいつを鍛えたような・・・。

「殺された。」

何の感慨も見せぬ少年。普段は年相応の表情をするが、何がここまで彼を変えたのだろうか。

「そうか。復讐か?」

「あぁ。」

少年はただ短く応える。

「そうか。復讐は辛いぞ?覚悟はあるのか?」

「覚悟?」

 

「そう、復讐後の覚悟だ。

全てが終わった後には、もうお前には何も残らない。

唯一残る物・・・それは、血塗られた手と敵、そして・・・過去だ。

それでもやるのか?」

 

以前にも言った事のあるような既視感デジャヴを感じながら俺は話す。

「後悔はしない。」

少年は静かに、だが強い意志を持って答える。

この時俺は直感した。

こいつは強くなる。そして・・・。

「よし判った。俺はお前に戦う牙を与えよう。」

俺はナイフを与え、少年はそれを受け取り頷く。

「牙は与えた。後は俺から技術を盗み、死ぬ気で研ぎ澄ませ。」

俺はそう言うと、注文した料理に手をつける。

「何で・・・何で僕に構ったりするの?」

少年は、不思議そうに・・・いや、哀しみの中に淡い嬉しさを含んだ声でそう尋ねる。

「単なる好奇心だ。」

少年はそれを聞くと、一心不乱に食べ物へと手を運んでいた。

まったく、俺の方が知りたいよ。

 

朝飯が終わると、俺は立ち上がり、荷物をまとめて宿を出る。

「何処行くんだよ。」

慌ててついてくるアキトに俺は当たり前のように応えてやった。

「何処って・・・組織の襲撃。

今更怖気づいたのか?さっさと案内しろよ。」

アキトは俺を唖然とした表情で見ている。

「何で朝っぱらからやるんだよ!普通、夜とか夜明けだろ!」

「関係ない。あの程度の雑魚組織、俺一人でも十分だ。」

そう言い放つと俺は歩き出す。

「ちょっと待てよ!」

「何だ。」

俺はそのまま歩を止めずに、少年に聞き返す。

どんどん離れて行く背中に少年は慌てて声を掛ける。

「そっちじゃないよ。」

「おっと、こりゃ失敬。」

本日2度目の失敗だ・・・。少々意気込み過ぎたか。

 

―――4―――

少年が案内した先には、それなりの高さをもった屋敷だった。

見張りは二人居る。おそらく、どちらかが応戦して、もう片方が通報役であろう。

俺は少年に作戦を話す。

「お前が先に行け。俺が援護してやるから。

お前の武器はスピードだ。一気に駆け抜けろ。止まると狙い撃ちにされるぞ。」

お粗末な作戦だが、俺の援護があればこの少年一人でも何とかなるだろう。

ならなかったら、それまでだ。

それに強くなるには実戦が一番良い。

場の気配が読めねば必ず死ぬ。それが体験できるのは実戦だけだ。

少年は、一振りのナイフを握りなおすと、見張りの死角へと回り込み、一気に加速し見張りに飛びつく。

目の前に急に現れた黒い物体に、見張りは反応出来ず、切り裂かれる。

見張りは声をあげようとした所、俺は剣を投げ放ち喉へと突き刺す。

その光景に、もう一人が正気に返り、銃を構えてアキトをポイントしようとする。

しかし、そのときには既に見張りの懐へと入っている。

アキトはまたも腹部を抉り、そのまま駆け抜ける。

こういった場合、首を切るか、頭をかち割るかして、

相手に声を上げさせない事を教えるべきだったな。

少々後悔しつつ、こちらも持っていた投げナイフで喉へと投げ放つ。

そして、ついでにアキトにもお仕置きのプレゼントとして一本投げておく。

見張りは倒れこんだ拍子に喉を突き刺され絶命する。

アキトは飛んで来たナイフを目の前で間一髪斬りおとす。

ほぉ、野生の感だけは一人前だ。

アキトはナイフを投げたのが俺と解ると、すぐさまこちらに戻ってきて抗議する。

「あぶねぇな!何するんだよ。」

「訓練だ、訓練。スリルがあって楽しいだろ?」

そう言うと、アキトはナイフを突き立ててくる。

「相手が違うだろ、相手が。

それと、奇襲で相手を殺すときは喉か頭を狙え、声を上げられたら面倒だ。

さぁ、ほら、行った行った。」

アキトは促され、不満を残しながら屋敷へと突き進む。

俺はゆっくりとその後を追い、アキトが殺し損ねた奴の息の根を確実に止めながら歩を進める。

 

俺が最上階への階段に差し掛かった時、銃声と苦痛の声が聞こえた。

「ちっ、あいつ早まったか。」

俺は階段を2段飛ばしで上り、最上部の光景を見詰める。

「遅かったか・・・。」

その場に居たのは3人、そして残りは肉隗だった。

俺、組織のボス、そして・・・、

胸から血を出して壁へと倒れこんでぐったりしているアキトだった。

ここまでの男だったか。

俺はそう思うと、後ろから来た敵を一蹴し、ボス目掛けてゆっくりと歩み寄る。

「ガキを殺して満足したか?

お前には十分なほどの懺悔の時間を与えた。

十分に組んだ異常者の神に懺悔出来たろ?」

ボスは余裕の表情で銃を俺にポイントし、引き金を握る。

轟音と共に甲高い音を発する!

ボスは驚愕の表情を浮かべる。

ボスが驚いたのは、俺が銃弾を剣で逸らしたから・・・

 

では無かった。

ボスが驚いたのは、そう、轟音と共に鳴り響いた咆哮。

例えるなら・・・地獄より呼び覚まされた魔物・・・ヘルハウンドか。

いや、ヘルハウンドに悪魔を混ぜた人魔に近いだろう。

俺はゆっくりとそちらに視線を動かす。

「で、デビル・・・。」

ボスはこの世の物とは思えない物を見て、絶叫を上げ発砲する。

銃弾はアキト・・・いや人魔の皮膚を抉る事を出来ず、そのまま落ちていった。

次の瞬間、人魔は姿を消す。

発砲したボスを敵と認識したのだろう。

俺の目にも捉えられぬスピードで、その膂力を操りボスの首を握り潰し、心臓を鷲掴みにする。

心臓の肉片が飛び散り、残るは俺のみとなる。

人魔は俺という獲物を見付け、意気揚々と俺に近づいてくる。

冷や汗が垂れる感覚が背中を伝う。

俺にこの化け物を何とか出来るのか・・・。

そして、人魔は鋼のような筋肉を撓ませ、かき消える。

俺は覚悟を決めて、目の前を一閃させる。

手応えは、ない!

死すら意識する中、突然人魔は俺に弾かれるように後ろへと吹き飛ぶ。

そしてその部屋の中を閃光が荒れ狂う。

それが収まった時には、人魔は消え去っていた。

その場にいるのは・・・俺とアキトだけとなっていた。

ちっ、一体何なんだ。

俺はアキトを抱え、オープンテラスとなったその部屋を後にする。

そして、宿へと戻る途中ふと思う。

俺にこの獣を飼いならせるのか・・・。

 

 

〜あとがき〜

お話の内容ですが、アキト君の性格。

この時点ではまだ素直で良い子です。

ただ、破壊への欲求がありますが(汗)

月臣に指導を受けるにつれそれが現れ、アキトは黒の王子様?本編のアキトへと変身します。

キャラ設定をナデシコにしたのは、こう言う運命がある為ですかね。

そして月臣の運命と言ったら、一番忘れちゃいけない出来事・・・。

それが、ColdBloodの後編になると思います。(こちらは難航しているのでどうなるかわかりません)

 

この章では月臣サイドでしたが、アキトサイドを私のHPに置いておきます。

Ex03 of half<悪魔の少年>Akito Side of Life

でも、内容的には同じです。ただ、アキトの夢の内容と心情が書いてあるくらいです。

でも、こういった裏設定の小説は少なそうだよな・・・。

まぁ、それは良いとして、読めば多分解ると思いますが、この頃の設定としては、子供時代のアキトですね。

気になる人は読んでやってください。

ただし、リョーコちゃんが死ぬので、嫌な人は見ないでください。

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