「おもしろい・・・」

 

 エレベータから地上に出ると、辺り一面、視界を埋め尽くさんばかりの木星蜥蜴の群れ。
 その中に、連合軍の機体は一機も見当たらない。
 正直、どうでもいいが・・・

 

 バキィッ バキィッッ!

 

 突然のことに、反応できていないバッタをなぎ払う。
 そしてそのまま、キャタピラを高速回転させてこの場から離れる。

 

「鈍いな・・・」
(今調節中よ、あんまり無茶しないで!!)
「へいへい」

 

 頭に響く声に、気のない返事を返す。
 他人に言ったら気味悪く思うだろうが、彼にとってはこれが普通である。

 

 そんな事をしながらも、バッタを倒し続けている。
 レーダーに映るのは、木星蜥蜴をあらわす点のみ。味方の識別信号はひとつもない。
 絶望的な状況。
 しかし―――

 

    ―――ニイッ

 

 口元に浮かんでいた禍々しい笑みが、さらに壮絶なものになる。

 

(リョウ、終わったわ!)

 

 それに伴い、エステバリスのスピードがさらに速くなる。
 迫ってくる木星蜥蜴の数がだんだん増えてきている。
 それをキャタピラをうまく使って避け、さらに何体かを倒す。
 しかし―――

 

 ピッ!

 

『あ〜、さっきの女のコ!!』
『俺のゲキガンガー返せ!!』

 

 突然、バカデカいウィンドウが二つ開き、満面の笑みを浮かべた女性と、暑苦しいさっきのアホの顔が視界を塞ぐ。

 

「ちぃっ!」

 

 突然のことで、しかもあまりの声の大きさに頭がクラクラする。
 しかしここは戦場。
 なんとかその場から移動する。
 直後―――

 

 ドドドォーーーン!!

 

 今までいた場所に、無数のミサイルが着弾していた。
 直撃ではなかったとはいえ、至近距離。ある程度のダメージを受ける。

 

(リョウ、大丈夫か?)
「なんとか・・・」
(けど一体何考えてるの、あの二人)

 

『ケガはダイジョウブ?
 ゼンゼン動かないから心配したんだよ!!
 けど、そこにいると危ないから、速く戻ったほうがいいよ!!』

 

『なんでお前みたいなのが俺のゲキガンガーに乗ってるんだ!?
 まさか俺の見せ場を取るつもりだな!!
 そんなことはさせんぞ!!
 さっさと俺のゲキガンガーから降りろー!!!』

 

 状況が分かっていなのか―――と言うか、絶対に分かっていない―――再度大声を出して邪魔してくる二人

 

「邪魔だ!!!
 ルリちゃん、このウィンドウを消してくれ!!」

 

『ちょ―――』
『話を―――』

 

『すみませんでした。
 ところでリョウさん、大丈夫ですか?』

 

 バカデカいウィンドウが消え、続いてすみに小さなウィンドウが開き、ルリのすまなそうな顔が映される。

 

「リョウのヤツは気絶している。
 それよりルリちゃん、作戦は?」

 

『あ、はい!
 後8分ほどで、ナデシコは浮上します。
 それまでに敵を集め、この地点に到着してください』

 

  「―――了解!!」

 

   目的地点を確認し、再び攻撃を開始した。

 












  『―――了解!!』

    その言葉を聞いて、ルリは通信をきった。

    両隣にいるメグミとミナトは、二人の会話を興味深く聞いていた。
 プロステクターとゴートは怪訝な顔をしている。

「ちょっとルリちゃん!!どうして通信きっちゃうの!?
 せっかくおしゃべりしてたのに!!」

『俺のゲキガンガー返せー!!』

「五月蝿いです」

 医務室からの通信は強制的にきり、後ろを向く。そして―――

「現在戦闘中です。
 騒ぎたいのなら、そこのキノコと一緒に外に出てくだい」

 どちらが艦長か分からないセリフをいう。

「ちょっと、アタシは副提督なのよ!!偉いのよ!!
 オペレータごときがそんなことを言う資格なんてないのよ!!」

 今まで騒いでいたムネタケが、さらに騒ぎ出す。

「自覚があるなら黙っていてください」

 ―――ギロリ!

 ビクッ!!

 ムネタケの言葉を聞き流して、にらみつける。
 その視線の先にいた人たち(ミナトとメグミ以外)は、音をたてて固まった。
 本能が言っている。
 ―――逆らうな!!

 












  「クソッ!!弱いくせにゾロゾロと―――!!
 迫ってきたミサイルをよけ、ワイヤード・フィストでバッタを一体ぶん殴る。
(文句言わないの)
「そんなこと言うなら代わってくれ!!」
(あら、か弱い私がそんなことできるわけないでしょ)
  「リョウは!?」
(まだ目を回している。諦めろ)

    響いた声は、限りなく冷たかった・・・

 












  「フクベ提督、艦長が使いものにならないので、指揮をお願いします」

   いまだに固まっているユリカを尻目に、ルリがそう提案する。

 こうゆう場合、副長が指揮するものだが、ルリはその存在に気付いていない。
 正確に言うと、メグミとミナトも気付いていない。

「しかしこういった場合、副艦長に指揮権を渡すものではないんかね?」

「? 副艦長はまだ来られていませんが」

「僕はちゃんといるよ」

「「ええーっ!!!」」

 突然の副艦長の言葉に驚くメグミとミナト。声こそ出していないが、ルリも目を見開いて驚いている。

「いつ来たんですか?」
「ぜんぜん気付かなかった」
「存在感、ないわね」

「いいんだ、いいんだ。どうせ僕なんて・・・」

 

 三人の口撃にいじけ、いきなりのの字を書き出す、副艦長アオイ・ジュン―――

 その様子を同情の眼差しで見ていたが、思い直し―――

「では指揮権を移させてもらう。
 ホシノ君、注水は?」

「現在だいたい5割、あと5分ほどで完了します」
「囮の方は?」
「あと3分ほどでポイントに到着します」
「ハルカ君」
「はいはーい
 相転移エンジン、準備オッケーよ」
「注水8割完了しだい、発進する」

 

 即席艦長と違い、的確に指示をだしている。
 英雄と呼ばれることだけはある。

 












  「後はここで2分耐えるだけ!」

   なんとか、ここまで到達した。
 ―――武装なしでよくたどりつけたよな・・・
   迫りくるバッタを倒しながら、つくづくそう思う。

  『シンさん、海に向かって飛んでください』

  「―――へ?」

   いきなりのルリからの通信に、思わずそんな声が出る。
<

   まだ、時間にはなっていない。

  「今ナデシコは海の中にいますから」

  「分かった」

   ルリの言葉を信じ、海に向かってジャンプする。

   普通ならこのまま海にダイブするだけなのだが、タイミングよく現れたナデシコに着地する。
 そして―――

  「グラビティ・ブラスト、発射!!!」
 

   提督の命令と同時に、ナデシコの主砲は発射され、残っていた木星蜥蜴全てを殲滅した。




 こうして、ナデシコの初戦闘は圧勝で終わった。

 













 

 

   あとがき
 

 

 短いですが、第一話Bを書き上げました。
 実はこの話、はじめはまったく書く気がありませんでした。
 しかし、こんな駄作でも続きを読みたいたいという心優しい方からのメールに励まされ、戦闘シーンがあった方がつなぎやすいと思い直し、書くことにしました。
 本来なら第一話に入れるべきものなので、短いですが勘弁してください。
 

 

代理人の感想

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