For desired tomorrow
第2話「補佐役」


 「「何ですか!?」」「何か?」
 3人の女性のキツイ視線にキノコ頭の男は怯んだ。
 「・・・・・」
 男は自分の出鼻をくじかれて、言葉に詰まる。
 後ろには銃を構えた部下がいるのに。
 「ちょっと、これが目に入らないの!?」
 部下を前に歩かせ、銃を見せる。
 「ナデシコはアタシがアタシと軍のために使ってあげる事になったわ」
 「血迷ったのか、ムネタケ!?」
 フクベ提督が怒鳴るが、聞いてはいない。
 「既に他の場所は占拠したわ。大人しく降伏することね」
 ムネタケの言葉を示すように、艦内の映像が流れてくる。

 ピッ!

 『いったい何なんだい、こいつらは?』
 調理中なのか、包丁を持った不機嫌なホウメイ。
 勿論、銃は突きつけられている。
 『・・・助けて・・くれ』
 格納庫では・・・・何故か、ウリバタケ以下整備班数名がボロボロで倒れている。
 兵士たちも「何があったんだ?」という表情である。
 「どう。分かったでしょ?
  それにこれは軍の命令なの。分かる?
  分かったなら、直ぐに従いなさい!」
 「前方から戦艦クロッカス、パンジー。後方からトビウメ、来ます。ナデシコ、包囲されました」
 ルリの報告と同時にトビウメからの通信がきて、繋げようとする。
 「耳を塞いで!」
 アキトは忠告と同時に自分の耳を塞ぐ。
 リリィとルリも耳を塞ぐ。
 他の者達は反応しきれていない。
 『ユリカ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!』
 通信を繋いだ瞬間、ブリッジを覆いつくさんとばかりに巨大な画面が現れ・・
 どうやったらそこまでの大音量の声を出せるか、疑問に思うぐらいの声が出てきたので・・・
 「お父様!!」
 《御主人様、こういうのを超音波兵器と言うのでしょうか?》
 《・・・・ミスマル提督を乗せて、木連に通信できたら戦争に圧勝できる気がしてきたよ》
 「・・・・・・」
 ユリカは耐性があるのか平然と普通に会話している。
 リリィとアキトは精神感応で音について会話をしている。
 ルリは耳を塞いでいたので、不快に顔を歪めている。
 他のメンバーは・・・・気絶中だったり、うずくまっていたり・・・
 一番悲惨なのは・・・ムネタケ、味方に攻撃されて気絶中。
 兵士達は予測していたのか、耳栓をしていた。上司に報告しないあたり、ムネタケの人望がよく分かる。
 親子の会話が続く・・・・念のために言うが、相手は敵である。
 「これはこれはミスマル提督、軍とはもう話は済んでいるはずですが?」
 いち早く回復したプロスペクターが親子の会話を終了させる。
 『すまないと思っている。
  軍隊の悲しい事で上からの命令なんだよ。
  進んで軍に協力してくれると助かる』
 珍しくまともな返事を返してきた。
 先ほどのムネタケと比べたら雲泥の差である。
 「断れば、実力行使ですか?」
 アキトも話に加わる。後ろには定位置とでも言うようにリリィが従っている。
 『ん?君は?』
 「お久しぶりです。火星で隣だったテンカワです」
 『・・・おお、テンカワ夫妻か。・・・という事はアキト君かね?』
 「はい。それで、ナデシコを寄越せと?」
 『すまないな、こちらとしてもこんな任務は不本意なんだよ。
  部下達も休暇中なのに出動していてね。
  木星蜥蜴が来て、迎撃中に君達が逃げてくれれば良いのだが、そうなると君達の立場がかなり悪くなる』
 《・・・相手は予想していたより、交渉が上手いですね》
 《・・・・それはミスマル提督に失礼だぞ》
 精神感応でリリィが割り込む。
 『妥協して、交渉という所で・・・な、ユリカ。こっちに来て話し合おう?
  緊急事態になってね、出動してきたんだ。どういう事になるか分かっているだろう?』
 ミスマル提督が両手で拝むように自分の娘に話しかける。
 「分かりました。それならそちらに伺いましょう!」
 プロスペクター、何が嬉しいのか喜色満面。
 『ああ、それとマスターキーも持ってきてくれ。艦長不在時に、艦を動かす必要はないだろう?』
 「艦長、如何なされますか?」
 リリィが『艦長』という言葉に力を込めて、ユリカに聞く。
 【・・・・試しているのか?相手は親であっても、敵だからな】
 結果・・・・ユリカはマスターキーを抜いて、出かけていく。

 
 「・・・どうします、アキトさん?」
 食堂に押し込められて、暫くたってからのルリの問いかけ。
 「そうだな、出来るだけ実力は隠しておきた・・・ルリちゃん、怒ってない?」
 アキトは普通に会話しようとするが、自ら放棄している。
 「御主人様、今のうちに戦闘服・・・失礼しました。時期を見誤りました」
 隣に座っていたリリィが提案して、直ぐに謝る。
 「戦闘服?いったい何のことですか?」
 「ホシノ様、ホシノ様ならご理解しておられると思いますが?」
 ルリの問いにリリィが返し、納得してきている。
 「貴女もですか。疑問が解けました。
  ところで、何であの時は答えてくれなかったんですか?」
 「あの時?」
 「どうした!!皆、暗いぞ!!俺が元気の出る物を見せてやる!!」
 ガイの声が食堂に響き渡る。
 アキトも注意がそちらに向く。
 「アキトさんも以前は熱中していましたね。
  それで、アキトさんは何時、気づいたんですか?」
 ルリが微笑み、言葉を変えて同じ質問をする。
 「エステに乗っている時、ユリカが俺に気づいたときだよ」
 「そうですか。それで」
 「御主人様、少し席をはずしてもよろしいでしょうか?」
 リリィが話を見て、許可を請う。
 「少し、ダイゴウジ様とお話したいのですが」
 「・・・・・いいけど、変なことは言うなよ」
 ・・・ユリカの艦長としての問いかけを見て、多少、信用が変わってきている。
 
 「ん?何だ?ゲキガンガーに興味があるのか?」
 リリィに気づいて、声だけ対応する。目はゲキガンガーに集中している。
 「はい、特にゲキガンガーに見入っているダイゴウジ様には」
 「おお、そうかそうか。やっぱり、ゲキガンガーは良いよな」
 先ほどの会話で複数の男の視線がガイに突き刺さるが、気づいていない。
 「そうですね。『仮想の存在』ですので」
 「どういう意味だ?ゲキガンガーを馬鹿にするな」
 ガイが立ち上がり、リリィを睨む。女性相手に手を上げないのか睨むだけだが。
 「ゲキガンガーと敵との戦いで破壊された物の修理費、負傷した者の治療費。
  莫大な金額になります。また、自然が破壊されれば、環境破壊に。
  市街戦をしてしまえば、民家にも被害がでるでしょう」
 「戦いに犠牲はつき物なんだよ・・・」
 少し寂しそうに答えるガイ。理解はしているようだ。
 「残念ながら、その通りです。全ての行為に代償はあります。
  民家の被害は誰が払うのでしょうか?それはゲキガンガーを管理している者達です。
  多くの資金が必要でしょう。また、全てが終わっても平和になるのでしょうか?
  ゲキガンガーは強力な兵器です。軍事目的に使われる可能性もあります」
 「正義の味方は・・・そんな事、しねぇ
 自分の状況を正しく認識しているのか、言葉に力はない。
 「ダイゴウジ様、申し訳ございません。
  ただ、これだけは理解しておください。
  人それぞれが違う正義を持っており、
  戦いで泣くのは『悪の軍団』ではなく力を持たぬ民間人なのです」
 そう言って、頭を下げる。
 「・・・・・・・それなら、俺が正義をみせてやる!!」
 理解したのか、していないのか、行動だけは認められる。
 「行くぞ、艦を取り戻し、艦長を救うのだ!!」
 ガイの音頭に少し遅れて、後に続く一行。
 「ヤマダさん、こけますね」
 席から見ていたルリの指摘通り、ガイはこけて・・・士気が高くなった一行はガイを踏んでいく。
 足を怪我しているのだから当然であるが悲惨でもある。だが、兵士も悲惨である。
 やる気などすずめの涙ほどしかない。命令がなければ此処に来ていない。
 銃はとりあえず構えるだけの状態。そんな状態でデカイオッサンであるゴートにタックルされる。
 他の者には袋叩きにあう。もしかしたら、この出来事で一番不幸な人間かもしれない。
 「御主人様、ゴート様はブリッジ方面に向かいました。
  格納庫には数名の兵がいますが、まだこちらの行動に気づいていないようです」
 リリィが報告する。
 ゴートがブリッジに行くのなら、既に決まっている。
 行くのは格納庫である。
 
 「なっ、銃を避けた!?」
 「奴には弾が見えると言うのか!?」
 「バケモノメッ!」
 通路で遭遇した兵士だが、大した事を出来ずにアキトに倒される。
 「格納庫に退避!」
 「銃を構えろ!」
 格納庫では流石に応戦の準備もできあがっているが、
 「レイリア!」
 リリィの声に反応して、紫色のエステバリスが兵士達を捕まえていく。
 「御主人様が乗られる艦を血で汚したくないので警告します。
  大人しく降伏してください」
 反応が分かれた。降伏の意を示す集団と警告を受け取らない集団。
 ちなみに彼らは手で摘まれている状態である・・・
 「馬鹿、やめろ!降伏するんだ!」
 「ふざけるな!あんなネコ耳メイドにいいように扱われて!」
 「聞いていなかったのか?血で汚したくないって!?」
 「警告だろ?自分で言っただろ?」
 ・・・・・・・仲間割れを始めた。ちなみに彼女の機体は立っている。
 「御主人様、わたしがこの者達の処遇を決めますので、
  御主人様はチューリップをお願いします」
 「ああ、分かった」
 同情するように兵士を見て、エステバリスに乗り込む。
 「今回もマニュアル発進ですか?」
 「・・・・・飛行ユニット付けていくよ」
 《御主人様、お話中申し訳ありませんが、チューリップが本格的に起動し始めました》
 《分かった》
 「ルリちゃん、出撃する。そろそろブリッジに戻ってくれ」
 テンカワ アキト 出撃準備完了・・・・・出撃。
 「・・・御主人様も無事、出撃できたことです。
  もう一度、言います。降伏しますか?この高さなら骨折はしますね」
 この言葉で兵士達は理解した。
 血で汚したくないというのは警告ではなく、血が出なければ床に落とすという脅しであることに。
 「こ、降伏します!!」
 「頭の良い方は嫌いじゃないです」
 リリィは微笑み、縛る物がないのでとりあえず放っておいた。
 
 そうやっているうちに、ユリカ達が戻り、マスターキーを差込み、
 アキトがチューリップの注意をひきつけている間に、グラビティブラストで破壊。
 俗に言う、必勝パターンである。

 ナデシコが宇宙軍の戦艦から逃げて・・・
 「いや、すみませんね。わざわざお呼びして」
 此処はプロスペクターの部屋。
 「あの、俺なんかしましたか?」
 「プロスペクター様、御主人様に何か?」
 呼ばれたのはアキトとリリィ。
 「ああ、私のことはプロスで構いません。
  リリィさんの契約は済んでいませんでしたので。
  まったく、軍の所為で予定が狂いましたよ」
 契約書を再度、取り出す。
 「それで、俺は?」
 「リリィさんは・・・・テンカワさんと特に親しいので。まあ、事前にという事で」
 【プロスさん、言葉を選んだな】
 アキトはプロスの返事に中間管理職の苦労を少し理解できた気がした。
 「俺はリリィが良いと言うなら何も言いませんよ」
 「そうですか。リリィさん、ナデシコに乗るおつもりはありますか?」
 何時もと変わらない笑顔で聞くプロス。
 「はい。わたしの御主人様の所有物なので」
 リリィの返事にプロスは頭を悩ませる仕草をする。
 「すみませんが、リリィさん。
  艦内の風紀という物がありまして、発言やその服装は少し問題がありまして」
 着替えていないので来た時のまま、ネコ耳のカチューシャを着けたメイド服の美女。
 「これは普通の物より高性能ですが・・・問題があるなら善処いたします」
 ネコ耳のカチューシャを取り外す。
 「この耳の部分は集音マイクになっております。
  この服は販売されている防弾服と同等の防御性能です」
 《言ったのは事実ですが、本当の理由はこれを着ければ直ぐに迎え入れてくれると仰られていたので》
 精神感応で本当の理由をこっそり教えられる。
 《・・・誰に?》
 《御主人様はご存知ではないと思いますが、ファルナ・F・クライム様です》
 知らない名前が返ってくる。同時に褐色の肌の美少女が浮かび上がる。
 この少女がリリィの言うファルナ・F・クライムなのだろう。
 「趣味ではないと・・・できるなら、制服を着ていただきたいのですが。
  まあ、これはおいおい話すとしましょう。契約が先ですね」
 プロスが名前の記入欄を示し、ボールペンを渡す。
 「あ、すみません。俺、そろそろ食堂のほうに行って良いですか?
  挨拶すらしてないんですけど」
 アキトが時間を見て、会話に割り込む。本来なら食堂でジャガイモの皮むきでもしている時間だ。
 「ああ、すみません。時間をとらせてしまって。
  でも、行き成りの実戦で疲れたでしょう。
  私が先に食堂に言って置きましたので、今日はゆっくり休んでください」
 「・・ありがとうございます」
 《御主人様、訓練室に行かれるのですか?》
 再度、精神感応。
 《ああ、肉体はあの時のままだからな。ブラックサレナを扱えるぐらいはな》
 《なら、わたしと組み手でもどうでしょうか?御主人様には及びませんが、少しはできます》
 《分かった。訓練室で待っている》
 アキトはプロスの提案をありがたく受け取り、部屋を出て、提案内容を無視して、訓練室に足を向ける。


 「アキトさん、やっぱり来ましたね」
 「ルリちゃん」
 「アキトさんなら此処に来ると思いました」
 「この体じゃ、今後の戦いに不安だからね。
  それで、ルリちゃん何か聞きたいことがあるんじゃない?」
 「そうでした。
  アキトさんはどうするつもりですか?ラピスはどうしました?
  リリィさんはいったい何者ですか?」
 アキトに詰め寄る。まだ、気にしている。
 「まず、最初の質問から歴史を変えようと思う。あんな未来は嫌だからね。
  ラピスはネルガルの研究所でブラックサレナの設計の準備をしてもらっている。
  リリィは・・・」
 リリィの事で言葉に詰まる。上手く説明できない。 
 まさか『時と次元の狭間』という所で餞別で貰った『補佐役』ですと言っても信じてくれないだろう。
 「・・・分かりました。アキトさんを困らせても仕方ありません。今はいいです。
  それで、ラピスはネルガルの研究所にいるんですね」
 先輩であるルリにはモルモットとして扱われるラピスが想像出来るのか良い顔をしていない。
 「すまない、ルリちゃん。何時か話すよ」
 引いてくれたことに安心する。
 少し機嫌が悪くなったかもしれないが、上手く説明できないのではそれ以上に悪くする可能性がある。
 「ハーリー君にラピスのサポートをするように頼んでみます」
 「ハーリー?・・・・ああ、マキビ ハリ君の事か?」
 「彼も戻ってきていたようです。直ぐに私に連絡して来ました」
 「・・・・そうか、ルリちゃんにもお願いできるかな?」
 「何ですか?」
 「まず・・・」「・・・・アキトさん・・・」「・・・それから、・・・・」「・・・それなら、こうすれば・・・」
 「ああ、なるほど・・・それで、・・」「・・・分かりました。・・・ところで・・・」「・・・ああ。・・・」
 秘密の会話をしている最中に訓練室のドアが開く。
 「御主人様、お待たせしました」
 リリィが入ってくる。アキトとルリがリリィに気づき、秘密の会話を止める。
 「御主人様、ホシノ様。
  別にわたしはお2人の絆を引き裂くつもりはありませんし、
  わたし如きの約束より優先される話というのは理解できます。
  ただ、わたしの存在を認めて、お話を中断しないでください。
  わたしを少しでもいいですから信じてください」
 リリィの視線が2人の眼を見る。睨むのではなく、意志を持った眼で見る。
 「そうですね。リリィさんもアキトさんの味方なんですね」
 「そうだな。とりあえず、資金面での計画は大丈夫として、問題は俺の方だな」
 アキトはルリから離れ、リリィに組み手の意思を示す。
 「畏まりました。
  自らの主を助けるのがわたし達『補佐役』の存在理由」
 言いながら、服をポンと叩く。
 叩いたのを合図にリリィが光に包まれ、光が収まったときには服が変わっていた。
 「その服は・・」「俺のと同じ物か?」
 「リリィ フリチラリア、参ります」
 リリィは漆黒の戦闘服に身を包み、構えを取っていた。

                              第2話 終
 
 作者シュウ:はい。とりあえず、書き終わりました。
   リリィ:今回でフルネームでました。リリィ フリチラリアです。
   シュウ:ユリ科フリチラリア属 クロユリ。
   リリィ:クロユリの英名はKamchatka lilyです。「カムチャッカ島のユリ」だそうです。
   シュウ:花言葉は恋、呪い。
   リリィ:御主人様にあだなす者に呪いを・・というキャラではないのですが?
   シュウ:私はまだ言ってないって。
   リリィ:今回の評価は10点です。今回も読んでくださってありがとうございました。
   シュウ:あいかわらず低いね。って勝手に終わらせるな〜。

 

 

 

代理人の感想

 

ジュン・・・言及してさえもらえないのか。哀れな(笑)。