For desired tomorrow
第3話「変わり行く未来」

 「軍との問題で行き先が先送りになりましたが、
  我々の目的地は火星です!」
 プロスが声高々に宣言する。
 それに反論する者、傍観を決め込む者。
 プロスは理由、計画などをゴートと一緒に説明している。
 ルリはプロスの言葉を聞いて、安心したのかコミュニケを繋げた。

 ピッ!

 『アキトさん、行き先は火星です』
 「そうか。良かった。これは変わってないようだね」
 以前はムネタケの反乱までに時間はあったはずだ。
 今回はその時間すら無い。
 『軍は焦っているようですね。
  あの後、軍の情報を見たんですけど、
  大至急、ナデシコを拿捕せよという命令がありました』
 「ミスマル提督も休暇返上で出動してきたって言ってたな」
 『そうですね。少しですが、違っています。
  ところで、大丈夫ですか?』
 「ハハハ。まさか、筋肉痛になるとは思わなかったよ」
 「申し訳ございません。御主人様、ルリ様。
  わたしが無理に付き合わせてしまいました」
 リリィがアキトの足をマッサージしながら謝る。
 「リリィが謝ることじゃないよ。
  でも、この時の俺はここまで弱かったのか」
 『無理に訓練して体を壊さないでくださいね?』
 「分かっているよ」
 「心に留めておきます」
 一刻も早く強くならなければならない。だが、今はどうだ?
 全身筋肉痛でリリィにマッサージをしてもらっている。
 「御主人様、落ち着いてください。
  わたしやルリ様も御主人様の味方です」
 アキトの心情を察したのか、リリィが語りかける。
  
 ピッ!

 『アキト!ねえ、ルリちゃんやリリィちゃんとばかりお話しないで、
  私ともおはなししようよ!アキトのご両親についてもしりたいし!』
 『アキト君、艦長とルリルリにその子、誰が好きなの?』
 ユリカとミナトがコミュニケを開いて、用件を突きつける。
 「ハルカ様、わたしの名前はリリィ・フリチラリアです」
 『え?ああ、ゴメンね。名前、覚えてなくて』
 『ねえ!アキト、なんで話してくれないの!
  照れなくても良いんだよ!』
 『艦長、ミナトさんも静かにしてください!』
 ルリが怒鳴る。会話を邪魔されて、気を悪くしているようだ。
 「真に申し訳ありませんが、喧嘩をするなら通信をお切りください。
  御主人様が騒音でリラックスできません」
 リリィがアキトの腕をマッサージしながら、ユリカを睨む。
 『あ〜!何やっているんですか!?
  まさか、アキトとそんな関係だなんて、私という者が居るのに・・
  アキト!浮気なんてしなくても私がいるんだからもう大丈夫だよ!』
 『アキト君、どうしたの?筋肉痛?』
 リリィとアキトを見て、瞬時に・・・
 動揺して自分の世界に走るユリカとリリィが何をしているのか理解するミナト。
  
 ピッ!

 『リリィちゃん・・・・・
  テ・ン・カ・ワ〜、男のロマンを見せ付けてくれやがって!』
 ウリバタケがリリィのコミュニケから用件を伝えようとするが、目つきが変わる。
 「ウリバタケさん、どうしたんですか?」
 ウリバタケの身に覚えの無い怒りにアキトの顔が引く。
 『そんな格好でメイド服を着た美女に奉仕してもらうのは男の夢だと言うのに!
  お前はそれをしてもらっているなんて!』
 ・・・・アキトの状態が本気で気に入らないらしい。
 今のアキトは布団の上にうつ伏せになって、リリィにマッサージをしてもらっている。
 色々と問題はあったが、リリィはネコ耳のカチューシャを外しただけで、メイド服で生活している。
 リリィが仕える者の制服と認識しており、なによりそれ以外の服を持ってきてなかったそうだ。
 「ウリバタケ様、わたしに何か御用ですか?」
 ウリバタケを睨みながらリリィが不機嫌そうに聞く。
 『ああ、リリィちゃんのエステ、
  整備したいんだが・・・あれはどうなっているんだ?』
 『『『あれ?』』』
 『ん?ああ、艦長達はテンカワに用だったのか』
 「ウリバタケ様、整備班に女性は居ますか?」
 リリィが口を開く。全員がリリィに注目する。
 『女性の整備員?わりぃが、いねえな』
 ウリバタケの返事にリリィは溜め息を吐いた。
 「整備班の怪我はレイリスが嫌がっているからです。
  わたしが整備しますので、触れないでください」
 リリィがアキトのマッサージを止めて、立ち上がる。
 「御主人様、申し訳ありませんが。
  続きはまた今度にしていただけないでしょうか?」
 「そうだな、俺も食堂に挨拶だけでもしておかないと」
 アキトも部屋の時計を見てから、立ち上がる。
 『そうか、それなら早く来てくれよ』
 『それじゃ、お仕事に戻りましょうか』
 『そうですね』
 他の者達もそう言って、コミュニケを閉じていく。
 「御主人様。少しお耳に入れたいことが」
 部屋を出て、食堂に向かおうとするアキトにリリィが声をかけてきた。
 「ダイゴウジ様の治療期間は3ヶ月だそうです」
 「そうか。挨拶がすんだら見舞いにいってやるか。
  それで、まだ何かあるの?」
 自分の感想を言って、リリィの顔に気づく。
 「はい。ダイゴウジ様の事ですので、
  敵襲があれば、ほぼ間違いなく出撃する思われます」
 冗談など次元の彼方に置いてきたかのような顔である。
 「敵に襲われる研究所を負傷中でも出撃して守る。
  ガイが憧れそうな条件が揃っているな」
 アキトも理由を言って、
 怪我をして医務室に眠っているはずのガイが何時の間にかエステに乗っている情景を思い浮かべる。
 【・・・・ガイなら本気でやりそうだ】
 「わたしも出来るだけ監視をします。
  御主人様ももしもの時に備えてください」
 「ああ、分かった」

 
 途中、ユリカに遭遇するも、
 ジュンの不在を教える事により追い返すことに成功し、大した苦も無く食堂に到着。
 「はじめまして、テンカワ・アキトです」
 「ああ、あんたかい。新しく雇ったコックっていうのは」
 ホウメイがアキトを出迎える。
 「アタシはリュウ・ホウメイっていうんだ」
 モップを片手に持って自己紹介。
 「テラサキ・サユリ」
 「ウエムラ・ミカコ」
 「サトウ・ミカコ」
 「タナカ・ハルミ」
 「ミズハラ・ジュンコ」
 「「「「「五人そろって、ホウメイガールズで〜す!」」」」」
 ・・・モップや雑巾を持って五人とも自己紹介。
 「自己紹介もすんだね。
  それで、テンカワ。得意料理はなんだい?」
 ホウメイガールズの方を僅かな時間だが、呆れた眼で見てからアキトに問う。
 「ラーメンが一番得意です」
 面接試験のような答え方だが・・
 「でも、他の料理も少しは出来ます」
 料理が出来るのが嬉しいのか、さりざなく自己主張。
 「なら、専門は中華か。
  それじゃ、チャーハンを急ぎで作っておいてくれないかい?」
 「はい。分かりました」

 《アキト、聞こえる?》
 《・・・・ラピスか?》
 突然、来た会話に料理と平行して答える。
 《アキト、リリィって誰?》
 また、この質問。此処で答えれば、あとはルリへの答えで1回だけだ。
 《『時と次元の狭間』での事は覚えているか?
  その時のリストに補佐役ってゆう助けてくれる存在があったからラピスの補佐にしようと思って》
 《うん。その説明は私も聞いたから。
  それで、なんでナデシコに乗っているの?
  なんで、動物の姿じゃないの?》
 ラピスの問いに食材が焦げないように腕を動かしながら、返事を考える。
 《・・すまない。色々、手違いがあるみたいだ》
 《・・・・・そう、分かった。それより、アキトの部屋に鏡ある?》
 《鏡?あるけど、それがどうかしたのか?》
 《あ、そろそろ戻らないと、それじゃ、アキトまたね》
 【あ、待て・・・切ったか。実験の合間だったのか?それにしても、鏡?何に使うんだ?】
 そう自問する間、体は動く。体が以前の時代と同じように、此処の食堂で成長した味を出す為に。
 「出来ました」
 チャーハンを皿に盛り付け、ホウメイの前に置く。
 「外見はよく出来ているね。問題の味はどうかな?」
 ホウメイがアキトのチャーハンを一口、食べる。
 ・・・・・・試食中。6人の視線がホウメイとチャーハンに注がれる。
 「・・・・大した物だね。テンカワ、明日から中華は任せるよ」
 「はい!」
 「さて、それじゃ、防衛ラインも近いことだから・・・・
  テンカワは調味料や食材を覚えておきな。此処は世界中の調味料が揃っているからね」
 もうすぐ、防衛ライン。
 そんな時に料理、仕込みなんてしたら振動で危ない。
 よって、ホウメイ達は食堂の掃除している。
 新入りのアキトは暗記。腕が良くても、残りの食材を知らなければ話にならない。


 ドォォォドォォォォォォォ・・・←一回り大きく
 ミサイルが連続で爆発する音が響き渡る。
 第4防衛ラインはナデシコに損傷を与えず、ただミサイル代を消費するだけに終る。
 「第3防衛ラインに突入しました。同時に敵機デルフィニウム、9機確認。
  ナデシコに接近してきます。このままだと10分後には交戦領域に入ります。艦長、どうしますか?」
 ルリが艦長に報告する。
 デルフィニウム・・移り気、気まぐれ、浮薄、かわりやすい、傲慢、慈悲、清明と多くの花言葉を持つ存在。
 ・・・あまり、良い意味の言葉とは言えない物も含まれているが。
 リリィが聞けば「副艦長が乗る機体に相応しい名前ですね」と嫌がらせを言うだろうが、
 この花言葉を知らないので、それはなかった。
 「・・・エステバリスを発進させてください。
  パイロットにはナデシコの防衛を第一に、敵機の撃墜は控えてくださいと連絡してください」
 「そうですな。相手は木星蜥蜴はなく、軍ですからな。お得意様でもありますし」
 ユリカの作戦にプロスが同意する。

 ピッ! 

 『艦長、何時ダイゴウジ様に出動要請を?』
 突然、コミュニケの通信が開いて、リリィが艦長を責める。
 「へ?」
 「・・・・ヤマダ機、動いています」
 艦長の呆けた顔を無視して、ルリが格納庫の映像を出す。

 ピッ!

 『おい、誰だ!ヤマダの奴をエステに乗せたのは!?』
 『フッ。艦長、俺に任せな。
  俺のこの拳で襲い掛かってくる敵を叩き潰してやるよ』
 『お前は足を怪我しているだろ!!』
 『この程度の怪我など怪我にあらず!ヒーローとは不死身の存在なのだ!』
 ・・・・・この2人はブリッジに通信が繋がっているのを覚えているのだろうか?
 『ガイ!無茶はよせ!』
 「あ、アキトだ」
 アキト参戦。
 『安心しろ。俺に掛かればこんな物、無茶じゃねえ』
 ヤマダ機、発進準備完了・・発進。
 『・・・・ユリカ、ガイの足の怪我もあるから、俺も出ていいか?』
 アキトの疲れた声が聞こえてくる。
 「そうですな。お給料の分は働いてもらいませんと」
 「仕方ないよね、許可します。でも、無茶しないでね」
 プロスとユリカの許可を得てから、アキトも発進準備に取り掛かる。
 『リリィ・フリチラリア、出ます』
 フリチラリア機、発進準備完了、発進。
 『テンカワ・アキト、行きます』
 テンカワ機、発進準備完了・・・発進。
 

 それで、交戦領域だが・・・・・・・・・ガイは既に捕まっていた。
 1機だけ倒したようだが、その間に囲まれてしまって、今に至る。
 「・・・・・ガイ、捕まったのか」
 先行していたデルフィニウムが停まる。ジュンの熱い説得が始まったようだ。
 ・・・・・・・・説得は続く。アキトとリリィも人質がいるので、迂闊に手は出さない。
 結果・・・・予想通り、説得は失敗。そして、予想通り・・・
 ジュンのデルフィニウムのミサイルがヤマダ機目掛けて、発射される。
 『なっ、離せ!』
 一閃、黒く光る鎖がミサイルを切り、破壊する。
 テンカワ機のライフルがピンポイント射撃でヤマダ機を捕まえていたデルフィニウムを撃つ。
 ジュンの機体がテンカワ機とフリチラリア機の方向に向く。
 「ガイ、ナデシコに戻れ!」
 『おう、囮はすんだ。俺は研究所の防衛に回る。
  しかし、凄い腕前だなアキト。軍隊経験でもあるのか?』
 『・・ダイゴウジ様、今すぐお戻りください。
  そのお体では後の戦いに支障をきたしますよ?』
 不機嫌と怒りを含む声で、ガイとの通信をあけるリリィ。
 『わ、解った』
 ヤマダ機がナデシコに戻っていくのを見届けてから、敵と向かい合う。
 
 ピッ!

 『・・・テンカワ・アキト!僕はお前が憎い!!』
 【・・・リリィ?】
 ジュンの台詞にアキトは違和感を感じた。フリチラリア機から。
 『お前の何がユリカを魅了した!?
  ユリカと子供時代の知り合いという関係しか無いお前が!!』
 ・・・・・話は通っているが、ジュンは気づいていない。
 『僕は何時もユリカを見守ってきた!
  それなのに何故、ユリカはお前を選ぶ!』
 「・・・ジュン、毎日一緒に遊んだり、勉強したりするだけで良かったのか?」
 『誤魔化すな!』
 アキトの問いかけをジュンは理解していない。本格的に頭に血が上っている。
 「ユリカの話を聞いただろう。俺達は火星に行く。
  軍の方もネルガルがなんとかするさ。
  それより、お前は・・・
  軍人としてナデシコ拿捕の為、此処にいるのか?
  ナデシコ副艦長に戻る為に此処にいるのか?」
 説得を始める。成功しなければならない説得。もし、失敗したらサヨナラである。
 『・・・・・僕にナデシコに戻れというのか?』
 「そうだ。ユリカを支える者が必要だ」
 『・・・ならば、僕と一騎打ちで勝負しろ!
  敗者は勝者に従う、良いな!!』
 ジュンの言葉を引き金に、突然リリィの感情が流れ込む。
 《御主人様、このような小物などわたしにお任せを!!》←赤文字、二回り大きく
 ・・・言葉で表すなら、大激怒。色なら全てを焼き尽くさんとする赤。
 完全にご機嫌斜めのリリィである。
 《・・・わ、解った。解ったから落ち着け》
 《ご無礼申し訳ございません。
  わたしのような者の我侭を聞いてくださってありがとうございます》
 フリチラリア機がテンカワ機とアオイ機の間に入る。
 『逃げるのか、テンカワ・アキト!?』
 『元ナデシコ副艦長、アオイ・ジュン。御主人様の意に従い、ナデシコに連行する』
 ジュンの怒りもリリィの気に比べれば可愛い物だ。
 アキトの代わりに冷たい怒りの表情をしたリリィが其処にいる。
 『先ほどの会話・・・元副艦長は艦長の何を見ていたのですか?』
 『なんだと?』
 この会話をしている時でも、リリィから威圧感が放たれている。
 アキトなら少しの違和感程度だが、ジュンには得体の知れない恐怖。
 本人は気づいていないだろう、僅かだがリリィから距離をとっている事に。
 ジュンの恐怖を読み取り、援護に向かう軍人達。
 それを遮るアキト。
 「一騎打ちを邪魔する気か。
  良いのか、味方の機体を放って置いて?」
 ライフルを構えて、警告する。
 【俺がこの役をするとはな・・。言質も取ったからいいか?】

  
 『艦長の何が欲しいのですか?』
 『僕はユリカを愛している!』
 お互いが高速で動きあい、攻撃の時を見計らっている。
 『容姿?首席としての頭脳?ミスマル提督への人脈?』
 『キサマ!!』
 ジュンのデルフィウムが殴りかかるが、避けられ・・・
 『何!?』
 『この程度で御主人様に何も無いと言うとは。
  ・・・このままでは本当に何も無くなりますよ?元副艦長』
 背中の左に付けていた鞘から刀を抜いて、腕を切り落とす。
 『元副艦長、軍とは愛する者を天秤にかけれる物ですか?』
 『そ、それは・・・・』
 やっとリリィが説得に入る。
 同時に他のデルフィニウム部隊が動けない仲間を連れて帰っていく。
 『隊長、我々は行動不能の友軍の保護の為、基地に戻ります。御武運を!』
 『・・ハハハ、僕の人望なんて、こんな物か。僕はなんだろう?
  影の薄い僕を見てくれない。必死に勉強してもユリカに勝てなかった』
 『・・・どうやって軍の基地に入られました?
  ナデシコ乗艦時には軍を辞めたと思いましたが?』
 『・・・・そうか。君が怒っていた理由、解った気がするよ。最期には男らしくなったかな?』
 デルフィニウムが動き出す。ナデシコを守る紙の盾になるように。
 ・・・すなわち、第2防衛ライン到達。ミサイル発射。
 「馬鹿な、早すぎる!」
 アキトは驚愕し、腕に力がこもる。
 『何も解っていないのに解った振りをする!
  だから、わたしは貴方が大嫌いなんです!!』

 フリチラリア機がデルフィニウムをナデシコに向けて蹴飛ばす。
 ピッ!「ブリッジ、俺はミサイルを破壊しながら回避する!
  何があってもディストーション・フィールドを解除するな!!」
 アキトが通信を開くと同時に叫ぶ。
 『そんな、ディストーション・フィールドを解くから
  直ぐに「ナデシコを落とすつもりか、艦長!」
 ユリカの返事を聞いて、わざわざユリカではなく艦長と呼び、話を終わらせようとする。
 『・・・・・・・・信じているから。信じているから必ず戻ってきて!』
 「ああ、分かっている」
 眼前に迫ってくるミサイル群を睨む。
 フリチラリア機がバズーカ砲のような物を持って、隣に来る。
 《御主人様はわたしの生きる希望。常にお傍に》
 《・・・本気で行く》
 アキトの機体がミサイル群めがけて動き出す。
 ライフルでミサイルを撃墜し、
 ディストーション・フィールドを纏わせた拳で粉砕する。
 リリィの機体が黒く発光し、さらに高速で動く。
 バズーカ砲から光弾が発射され、光弾が八つに分散し、それぞれがミサイルを破壊する。
 左腕の鎖が舞う。一振りごとに黒い光を纏った鎖はミサイルを切り裂き、破壊していく。
 ナデシコのディストーションとエネルギー供給、2つのフィールドに挟まれた狭き舞台。
 その中を舞う2つの機体。爆発が2人に花を添えていく。
 1度の失敗すら許さぬ舞台。その中を撃墜、粉砕、破壊、切る、回避する。
 

 「アキト・・・・戻ってくるよね?」
 「第2防衛ライン、突破。
  艦長はアキトさんを信じるのではなかったのですか?」
 「・・・ルリさん、あのミサイルとディストーション・フィールドに板挟みでした。
  言い難い事ですが、生存は絶望的だと・・」
 「僕のせいだ。僕が、邪魔しなければ・・僕が、殺したんだ」
 「テンカワ機、テンカワ機、応答願います!
  テンカワ機、テンカワ機・・応答・・・願います・・・・」
 絶望に支配されるブリッジ。人それぞれが後悔を背負い、悲しみに沈む。
 「アキトさん、返事をしてください!
  何処に隠れているんですか!皆、心配しているんですよ!」
 「ルリさん、認めたくない気持ちは分かります。
  ですが、現実を認め、彼の死を無駄にしない為に」
 プロスがルリをなだめようとするが、
 『テンカワ機、フリチラリア機、ナデシコ上空に発見!』『ごめん、ルリちゃん』
 オモイカネの報告ともにアキトが通信が届く。
 「・・アキト・・」「アキトさん」
 「なんと・・奇跡の人ですな」
 「ナデシコを待てなくて、上に逃げてたんだ」
 「良かった・・・本当に良かった」
 絶望が喜びに変わる。沈む気持ちが大きいほど、弾む気持ちは大きくなる。
 『皆、酷いな。聞こえていたけど、リリィの心配していたか?』
 ・・・・返事が無い。
 「あ・・・・それよりアキト、大丈夫?疲れてない?」
 『・・・・してなかったのか?』
 『わたしは・・・御主人・・・様の・・気持ちだけ・・・で満足です』
 「リリィさん、どうかしましたか?」
 『・・無理を・・・し過ぎました。限界・・です』
 言い終わると同時に通信が切れる。
 「安心してください。気絶しただけのようです」
 『・・・そうか、すまないが・・回収してくれないか?
  俺も・・・緊張の糸が切れたり、疲れて・・・気絶しそうだ』
 「僕が回収してくるよ」
 アキトの言葉にジュンが駆け出す。

 
 「・・・テンカワ・アキト。君の事はまだ分からない。
  僕より君の方がユリカの王子様に相応しいかもしれない。
  だが、負けを認めるのは今だけだ。何時かユリカを振り向かせてみる」
 ジュンはヤマダ機を借りて、2人を回収しようとする。
 「早く回収しないとな。ビッグバリアまでもうすぐだ」
 両手に掴んで、戻ろうとする・・・
 「馬鹿な・・・!ビックバリアが消失・・?」
 ジュンの眼には機能を休止したビックバリア発生装置が浮かんでいる。
 自分やユリカすら停止パスワードは知らないはずの物が!
 「・・・何が起こっているんだ?」
  
                         第3話 終 

 シュウ:やっと、終わった。今回は思いつきで書いたのが多かった・・・。
 ジュン:お疲れ様。それで、なんで僕が此処に?
 シュウ:オリキャラが居ないからね。あと、君が今回の話の必要キャラだから。
 ジュン:そう言えば、僕が戦うのはテンカワとフリチラリアのどちらかだったんだよね?
 シュウ:それはサイコロで決めた。偶数はアキト、奇数はリリィ。5、4、5でした。
 ジュン:・・・それにしても何であんなに嫌われているんだ?
 シュウ:それは自分で調べろ。少なくとも君は艦内で2番目。
     1番はムネタケ・サダアキだから、次回からは君が艦内で1番嫌われている。
     それと、アキトだけ筋肉痛になった訳ですが、TVのアキトは体を最低限しか動かしていないと思ったからです。
     実際の実力はアキト(序章)>リリィ>アキト(現在)です。