――帰ってこなかったら、追っかけるまでです――

――だって、あの人は・・・――

――あの人は――

――大切な人なんですから!――




















機動戦艦ナデシコ
ANOTHER STORY


 
第零話 『過去への扉』交わらぬ道








「アキトさん!!もういいかげんに観念して、私たちのところへ帰ってきてください!!
 ユリカさんも、あなたが帰ってくることを信じて待ち続けているんです!!
“アキトの代わりは私がするの!”って言って、一生懸命にラーメン作りの練習をしているんですよ!!」


すべてを飲み込もうとするかのような、暗黒の宇宙。
その暗黒の宇宙にある一つの星・・・火星。
その近くを、二隻の戦艦が激しいチェイスを繰り広げていた。
一隻の名は『ナデシコC』思慕の名を冠する船。
もう一隻の名は『ユーチャリス』清らかな心の意を持つ船。
その、ナデシコCに搭乗する。コンピュータネットワークを自在に操る妖精『電子の妖精』――ホシノ・ルリは目の前に開かれたウィンドウに映し出された男に向って必死に叫んでいた。

「・・・ルリちゃん。
 前にも言ったはずだ、君の知っているテンカワ・アキトは死んだと・・・。
 いまさら、どの面下げてユリカに会いに行けというんだ?
 それに、俺のこの手は血に塗れ過ぎている・・・あいつをこの腕に抱く資格なんてないさ・・・」

ウィンドウの中の、アキトと呼ばれた黒いマントとバイザー、それに黒の戦闘服を身に纏った男・・・。

初代ナデシコに乗っていた元コック兼パイロットであった、テンカワ・アキトは、自らの手を見つめながらそう言った。

「そんなのただのカッコつけにじゃないですか!!」

そんなアキトを見て、さらに声を張り上げるルリ。

「アキトさん」

いきなり、アキトを映していたウィンドウに、アキトと同じ色違いの白いマントとバイザー、そして白の戦闘服を身にまとった青年が現れた。

「シンジさん!?」

その青年に驚くルリ。

「・・・やぁ、ルリちゃん」

懐かしそうにその青年――イカリ・シンジは言った。

「やっぱり・・・あなただったんですか。アキトさんと一緒に『火星の後継者』を追っていたのは・・・。」

「・・・まあね」

「そこに、シンジさんががいるならあなたにも話があります!
 シンジさんは、私のナイトになってくれたんじゃないんですか!?
 それだったら、アキトさんを連れてあなたも私たちのところへ帰ってきてください!!」

ルリは、必死にシンジに呼びかける。

己にとって、この青年は兄とも言える人なのだから・・・。

帰って来てほしかった・・・自分たちの下へ・・・。

だが・・・。

「残念だけど、それはできない。アキトさん風に言うなら、君の知っているイカリ・シンジは死んだ・・・。
 って、なるのかな?」

「はぐらかさないでください!!
 ・・・わかりました。そっちがその気なら、こっちも容赦しません!
 これより、宇宙軍本部第四艦隊所属機動戦艦『ナデシコC』は、ヒサゴプランのコロニーを連続襲撃したと思われる戦艦と、機動兵器及び、そのパイロットを逮捕します!!」

そんなルリの声とともに閉じられるウィンドウ。

「・・・・・・・・」

通信を切ったルリは、力を抜き、その身を艦長席のシートへと預ける。

「よかったんすか?艦長」

隣の副官席に座っていたナデシコCの搭載兵器、スーパーエステバリスのパイロット。タカスギ・サブロウタは、ルリを気遣うように言う。

「ええ・・・。
 こうなったら、力ずくでもアキトさんたちを連れ戻して見せます。
 ハーリー君!」

「は、はい!!」

そのまた隣のIFSシートに座っている少年、マキビ・ハリ――通称ハーリーは、かけられたルリの声に勢いよく返事をした。

「これから、敵戦艦『ユーチャリス』のシステムを掌握します。サポート、お願い」

「了解!」

そう言うと、ユーチャリスへのハッキングの準備を進めるハーリー。

「艦内警戒態勢パターンAへ。総員第一種戦闘態勢」

ルリの命令が、このナデシコCのメインコンピュータである『オモイカネ』に伝えられ、ナデシコC内に警報が鳴り響く。

「エステバリス隊。全機発信準備完了だぜ!ルリルリ!!」

そんな声とともに、ルリの目の間にナデシコCの整備班班長ウリバタケ・セイヤを映した、通信回線ウィンドウが開く。

「よぉーーし!!アキトの野郎、この間の借りを返してやるぜ!!

「まっけないぞぉ!!」

「今回も・・・マジ・・・イズミです・・・よろしく」

次々にエステバリスカスタムのパイロット達である、スバル・リョーコ、アマノ・ヒカル、マキ・イズミを映したウィンドウが開く。

「さてと・・・俺も行きますか。女性を泣かすような悪い奴は、さっさととっちめてやんねーとな」

サブロウタも、副官席から立ち上がり、エステバリスの格納庫を目指し走り去る。

「アキトさん・・・シンジさん・・・」

次々に整えられていく戦闘態勢の様子を見て、ルリはもう一度その名を口にした。

"できれば、あなた達とは戦いたくなかった・・・。"

そんな思いを胸に抱いて・・・。


















「ラピス、状況はどうだ?」

隣のIFSシートに座っている薄桃色の髪を持つ少女、ルリと同じく人の手により作り出されし妖精、ラピス・ラズリに聞くアキト。

「ナデシコCから、ユーチャリスのシステムへの侵入を確認。いま、押されてる・・・」

悔しそうに言うラピス。

だが、それも仕方ないだろう。

あくまでも、ユーチャリスはナデシコCの試作艦とも言えるべき戦艦である。

試験艦のユーチャリスに比べ、能力的にはナデシコCが上の部分もある。

「まずいですね・・・」

アキトの後ろに立っているシンジがそう呟く。

「ジャンプは出来るか?」

「ええ・・・出来るとは思います。 
 一応、少しの間時間を稼げれば・・・」

「・・・分かった。俺がサレナで出て時間を稼いで来る」

そう言うと、ユーチャリスの格納庫へと行こうとするアキト。

「・・・僕も行きましょう。
 さすがに、サレナとエステバリスじゃ、機体性能に差があるとはいっても、リョーコさん達が相手だとアキトさん一人だけじゃきついでしょうから」

「・・・好きにしろ」

アキトはそう言うと、格納庫に向って歩き始める。

「と、言うわけで・・・ラピス。ここは頼めるかな?もしもの時は『アレ』も作動させてもいいから」

「わかった・・・。アキトもシンジも・・・気をつけて」

「ありがとう・・・」

そう言うとシンジは、アキトに続き格納庫へと駆けていった。















ズガァァァン!!















「サブ!!」

リョーコの声が響く。

「っく!大丈夫だ!!」

機体の左腕を吹き飛ばされたサブロウタが、返事を返す。

「えぇぇぇい!!」

ヒカルが叫びながら、エステバリスに持たせたレールカノンを連続発射する。

ドォン!! ドォン!! ドォン!!

「甘い!!」

それを、確実に避けていくアキトの纏う黒き鎧、ブラックサレナ・・・。

「もらった!!」

しかし、ハンドカノンをエステバリスに向けたブラックサレナの後ろには、イズミの乗ったエステバリスがいた。

「これで!!」

アキトのブラックサレナを、羽交い絞めにしようとするイズミ。

「させません!!」

シンジが叫ぶ。

シンジは、己のが駆る機体。アキトの乗るブラックサレナの兄弟機『ホワイトサレナ』に装備させたハンドカノンをイズミのエステバリスに向かって放つ。

ガァァァン!! ガァァァン!!

ホワイトサレナの放ったハンドカノンは、イズミのエステバリスの張ってあるディストーションフィールドを掠めていく。

バランスを失い、ブラックサレナから離れるエステバリス。

「っく、やるわね!!」

イズミはそう叫ぶと、バランスを失った機体を安定させ、もう一度ホワイトサレナとブラックサレナに突っ込んでいった。

「おらおらおらぁ!!真打ちを忘れてもらっちゃあ、困るぜ!!」

左腕を破壊されたサブロウタのスーパーエステバリスも、左腕のパーツをパージし、二機のサレナに向かって急加速を掛ける。

「俺も行くぜぇ!!覚悟しろよ、アキト!!」

リョーコも自らの機体、赤いエステバリスカスタムをブラックサレナに向かい、突撃させる。




















アキト達が戦っているその頃、ユーチャリスとナデシコCでも静かな戦いが行われていた。

「確か・・・ラピスさんでしたね」

ユーチャリスのシステムに侵入していたルリは、自らに接触を図ってきた存在に、そう問いかけた。

「ホシノ・ルリ・・・私はアキトの目、アキトの耳、アキトの手、アキトの足、アキトの全て。
 アキトは・・・あなた達のところへはもう帰らないって言っていた・・・。
 だから、もう帰って・・・。」

淡々と言うラピス。

「それでも!アキトさんは私たちにとって大切な人なんです!」

「それでも、アキトは帰れないと言っていた・・・」

ルリとラピスの話は平行線を辿っていた。

「埒があきませんね・・・。
 それでは、無理やりにでもユーチャリスのシステムを掌握します!!」

そうルリが叫ぶと、急にルリがその存在感を増す。

ラピスにとって、それは重圧となって圧し掛かってくる。

「・・・っく、負けない!」

ラピスも、慌ててプロテクトを作動させ、ルリのシステム浸入を防ごうとした。

だが、それも空しくユーチャリスのシステムはルリの手によって次々と掌握されていく・・・。

「・・・いいえ、ラピスさん。残念ですが、今のあなたでは私にはかないません!!」

その言葉とともに、更にユーチャリスのシステムを掌握していくルリ。

「ダッシュ!ファイルナンバー7098を開いて!!
 それを実行!!」

これでは勝ち目がないと思ったラピスは、シンジに聞いたファイルを開き実行しようとする。

「無駄ですよ・・・。これは!?」

急に感じた違和感にルリが気がつくと、急にルリの周りの空間がぼやけ赤く染まっていく。

"ソレ"は、データを無理やり侵食し自分のものへと変えていく。

そして、データを自分の物にするたびに"ソレ"の放つ赤い光は、更にその輝きを増していった。

「プログラム・・・『イロウル』。
 シンジがプログラミングした、ハッキング専用のプログラム。
 その能力は、自分に接触している全てを支配化に置くこと」

ラピスが淡々と言う。

「っく!仕方ありません。システム掌握を一時停止!!
 オモイカネ!!回線をバイパスに、プログラムの侵入を阻止してください!!」
 
「ルリさん!!まずいです!ユーチャリスから強制的に送られてきたプログラムが、勝手に増殖し始めました!!
 オモイカネも、影響を受け始めてます!!」

ナノマシンの輝きを身に纏ったハーリーの声が、ナデシコCのブリッジに響いた・・・。










「ラピス・・・使ったのか。」

シンジは、目の前のモニターを埋め尽くそうとする赤い光を見ながら呟いた。

「シンジ・・・」

アキトが通信回線を開いてシンジに話し掛けてきた。

「ええ・・・。ユーチャリスに戻りましょう。
 幸い、エステバリスも影響を受けて、システムをフリーズさせているみたいですから」

シンジは、赤い光にまだ埋め尽くされていないモニターに映る、停止したエステバリス達を見て言った。










「どうですか?ハーリー君?」

「な、なんとか増殖は阻止できました・・・。
 一体、何なんだったんでしょうか・・・あれは・・・」

疲れたように突っ伏して言うハーリー。

「もう一度・・・システム掌握いける?」

「無理ですよ!さっきので、システムがまだ一部ダウンしているんですから・・・。
 オモイカネも、影響受けちゃったし・・・」

[ごめん・・・ルリ]

ハーリーの言葉に、オモイカネのウィンドウが力無く開いた。

「・・・打つ手無し・・・ですか。
 ハーリー君・・・とりあえず、サブロウタさんたちに帰還命令を出して下さい」

ルリはそう言うと、ほかの方法がないか必死に考え始めた。




















「これで、終わりっと・・・」

そう言うとシンジは、IFSインターフェースから手を離す。

それとともにウィンドウを覆っていた赤い光が、次々と消滅していった。

「ごめんなさい・・・」

ラピスは、俯いてしょぼんとした声で言う。

「気にしなくてもいいよラピス。それよりもルリちゃん相手によく頑張ったね」

そう言うと、ラピスの薄桃色の髪をクシャクシャと撫でるシンジ。

「シンジ」

ラピスの頭をなでていたシンジに声を掛けるアキト。

「何ですか?」

「ジャンプは、続行可能か?」

「・・・ちょっと、きついですね。
 ジャンプシークエンスの途中でイロウルを起動させましたから・・・。
 一体、システムにどんな影響があるか・・・」

「そうか・・・」

「賭けになりますけど・・・緊急用の補助システムを使ってジャンプしますか?」

「・・・それしかないか。ラピス、ジャンプの用意を」

「わかった・・・アキト」

そう言うと、ユーチャリスのオペレーター専用シートに座るラピス。

その体は、次第にナノマシンが放つ光で覆われていった。

そこに、ナデシコの様子をモニターしていたシンジが、驚愕の声を上げた。

「・・・!!
 アキトさん!ナデシコCから牽引用のドラッグアンカーと、強襲用のビームアンカーの射出を確認!直撃コースです!!」




「なに!?」

「ダッシュ、回避だ!!
 ・・・だめです、当たります!!」










ズガァァァァン!!










「っく、被害状況は!?」

「第三装甲板中破、第二十から第三十六番までの隔壁を閉鎖!!
 相転移エンジンに異常発生!
 コード187から295までを隔離!!
 ですが大丈夫です。通常航行は十分行けます!!」

「そうか・・・俺は、サレナでアンカーを断ってくる!」

シンジの報告に、安心したような声を上げつつ、格納庫に向かおうとするアキト。

だが、事態は彼の予想を遥かに超えるものへと発展していく。

途端にユーチャリス内に鳴り響く警報。

「アキト!!ジャンプフィールドが暴走してる!」

「何だって!!」

ラピスの報告に驚きの声を上げるアキト。

「くっ!!補助システムファイルナンバー、2138から3208までエラー!!
 ダッシュ、ジャンププログラムの解除!!」

[無理です、全システムの損傷は甚大!!] 

「くそっ!!やっぱり、イロウルに侵食されたシステムと、補助システムだけじゃ無理だったか!!」

ナデシコに搭載されている、スーパーコンピュータ『オモイカネ』のコピー『オモイカネダッシュ』――通称ダッシュの報告に、シンジが苛立たしげに叫ぶ。

「アキトさん!!シンジさん!!」

そこに、ルリからの割り込み回線が開いた。

「ルリちゃん!ユーチャリスは、補助システムのエラーで完全に座標データが狂って、現在ランダムジャンプに移行している!!
 すぐにアンカーを切り離して、僕たちにかまわずこの空域から離脱するんだ!!」

赤いナノマシンの光に包まれたシンジが、ルリに叫ぶ。

「!!!!!!
 でも・・・そんなことしたら、アキトさんにシンジさんそして、ラピスさんは!!」

明らかに、狼狽した様子で叫ぶルリ。

「ルリちゃん!俺たちは全員が、ジャンプに耐えられる。
 しかし、ナデシコの中には、ジャンプできない人間がいるだろう!!
 ナデシコのクルーを犠牲にする気か!?」

アキトが必死に叫ぶ。

「!!!!!!!!
 ハーリー君!アンカー切り離し!!
 ディストーションフィールド緊急展開!!急いで!!」

「了解!!」

アキトの必死な声を聞いたルリは、ハーリーにすばやく命令を下す・・・しかし。

「だめ・・・ジャンプする!!」

「まずい!!完全なランダムジャンプだ!!」

「っく・・・。
 すまない!!ナデシコの皆!!」

アキトとシンジ、そしてラピスの声とともに、ナデシコCとユーチャリスは虹色の光の渦へと巻き込まれていった・・・。

その光がはれた時、そこに先ほどまであった二隻の戦艦の姿はなく、ただ漆黒の空間が広がっているだけであった・・・。






























過去の世界・・・男と青年、それに少女はそこでもナデシコに乗る。

それが、一体何をもたらすかは・・・まだ分からない。

白と黒は混じりあい、新たな歴史を紡ぎ始める。





次回!!

『白の騎士 黒の王子』

第一話 『男らしく』と『俺らしく』行こう!!

をみんなで見よう!!















後書き

『白の騎士 黒の王子』第零話どうでしたでしょうか?

これは、前に投稿していた奴に加筆修正を加えただけなんですよね(汗)

一応次からは、ぜんぜん別物に変更していくつもりです。

それでは、次回第一話『男らしく』と『俺らしく』行こう!!

をお楽しみに!!

それと、もちろん感想などはいつでも受け付けています。

よろしければ、メールお願いします!!

 

 

代理人の感想

作者の方がなにやら考える所があったらしく、作品を大幅に修正しての一本めです。

 

 

・・・・まぁ、プロローグはしょうがないよね(爆)。