紫電〜異なる時の流れにて
 
プロローグ 乱入者 

 火星宙域で睨み合う二隻の宇宙戦艦。
一方は地球連合宇宙軍所属 機動戦艦ナデシコB。
艦長は宇宙軍中佐 ホシノ ルリ。
対するは所属不明の機動戦艦ユーチャリス。
艦長は全太陽系指名手配のテロリスト テンカワアキト。
「追う者」と「追われる者」との邂逅。
「追う者」の懇願と「追われる者」の拒否。
そして「追われる者」がその場から去ろうとしたとき、「乱入者」が現れた。


 「ラピス、ジャンプの用意だ。」
 「・・・良いの?アキト。」
 「・・・良いんだ。」
ルリの懇願を拒絶し、アキトはその場から去る準備をラピスにさせる。
「昔」と変わらぬ生活を望むルリの願いは、
自分を変わりすぎたと思っているアキトには到底受け入れられないものだった。
 「待ってくださいアキトさん!!話したいことはまだ・・・」
 「君にはあっても俺にはない。・・・さよなら。」
アキトが別れの言葉を告げる。
それを聞きながら、ルリは今自分が乗っている艦がナデシコCでないことを呪った。
ナデシコCなら、システム掌握で強引にでもアキトを引き止められるのに。
だが、ナデシコCは「火星の後継者」鎮圧の際の『多大過ぎる』戦果のため、無期限の凍結が
決定している。
当然ながら、その戦果によって得た中佐という地位を捨ててもこの決定は覆らない。
 (こんなことなら少し手を抜けば良かった!)
ルリが軍人としてあるまじき考えに囚われ始めたとき、ユーチャリスとナデシコB双方の
オペレーターはそれぞれの艦長に同じ報告をした。
 「「!?前方に原因不明の重力震を感知!!」」
 「「何だと(ですって)!?」」
 「「重力震の発信源に質量反応を確認!!」」
 「「ジャンプか(ですか)!?」」
 「「違う(います)!!」」
その言葉が終わるや否や、ユーチャリスとナデシコBの間に1体の機動兵器が現れた。
大きさこそエステバリスと同じ位だが、灰色のボディに3対6枚の光の翼とも後光とも
つかないものを生やし、その両腕にはクワガタの顎を連想させるクローが付いている。
その姿に見覚えのある人間は、少なくともこの場には1人もいなかった。
その後、その灰色の機動兵器は背中の光の翼を消してその場にたたずむ。
アキトとルリは突然の重力震と機動兵器の出現、そして妙にラピスとハーリーの息が合っていることにも困惑しつつ、事態を静観することにした。
・・・自分達のことは棚上げしたようだ。


 「「前方の機動兵器から通信要請が届いてるよ(ます)。」」
 「「・・・繋いでくれ(ください)。」」
機動兵器からの要請を受け、ユーチャリスとナデシコBは機動兵器との通信回線を開く。
そして、両艦のモニターに機動兵器のパイロットと思しき人物の顔が映る。
モニターに映ったその顔は、どう見ても14、5の少女のものであった。
しかも、ハッキリ言って美少女だ。
肩まで伸ばしたその髪が灰色だというのは減点だが、黒子1つない透き通るような白い肌に
整った目鼻立ちと、その美しさは宇宙軍一の美少女と名高いルリにも引けをとらない。
惜しむらくは、その無表情であろうか。
にっこり笑えばなお良いのに、とはアキトの感想である。       
・・・もっとも、その無表情が萌える、という感想もあるのだが。
 「テンカワ アキトさんとホシノ ルリさんはいらっしゃいますね?」
その少女が、通信を繋げると同時に発した言葉がこれだった。
 「「・・・君(貴女)はいったい誰なんだい(なんですか)?」」
アキトとルリが誰何の声を上げるが、少女はその声を無視して言葉を続けた。
 「いらっしゃるようですね。
 ・・・それでは申し訳ありませんが、今からお二人の肉体を頂きます。」
 「「・・・へ!?」」
唐突な少女の言葉に気の抜けた返事をするアキトとルリ。
だが、相手の反応など彼女の気にするところではなかったらしい。
彼女の乗る灰色の機動兵器はナデシコB目掛けて急突進する。
 「!?ディストーションフィールド展開!!」
 「り、了解!!」
ディストーションフィールドを展開して防御を固めるナデシコB。
だが、灰色の機動兵器は腕から光の刃を出すと、ナデシコBのフィールドを切り裂く!!
 「そ、そんな!?ディストーションフィールドを切り裂いたぁぁ!!?」
さらにナデシコBを衝撃が襲う。
 「うわぁぁ!!」
 「落ち着きなさいハーリー君!!現在の状況を確認!!」
 「は、はい!!先ほどの機動兵器は本艦のミサイル発射管、グラビティブラストを破壊!
 さらに格納庫より侵入!そのままブリッジに向かって来ています!!
 ・・・と言うよりもう来ます!!!」 
そのハーリーの叫び声が合図かのように入り口を破壊して灰色の機動兵器がブリッジの中に  
突っ込んできた。・・・実際にハーリーの声に合わせたわけではないだろうが。
 「・・・前代未聞だぜこいつぁぁ!!」
三郎太が思わず叫ぶ。
確かに、過去機動兵器に乗ったままブリッジインした者はいない。
だが、今この瞬間その第一号が誕生した。そしてさらに、その第二号も現れた!!
 「やめろぉぉおお!!!」
 「アキトさん!?」
灰色の機動兵器が侵入した跡を通って、漆黒の機動兵器もブリッジインした。
言わずと知れたブラックサレナである。
ブラックサレナは灰色の機動兵器を両腕で抱え込むと、壁に向けて突進する。
そしてそのまま壁を突き破り、艦外へと飛び出す。
・・・外が真空であるということは完全に忘れているようだ。
実際には隔壁が緊急閉鎖されたため事なきを得たが。
 「・・・あいつら滅茶苦茶しやがるぜまったく!!・・・艦長!俺も出ます!!」
 「高杉大尉!?・・・わかりました、ただし・・・」
 「わかってますよ。
 まずあの灰色の奴をぶちのめし、次に黒い奴をとっ捕まえる!!・・・ですね?」
 「はい!」
「では、高杉 三郎太出撃します!」
ルリに向かって敬礼して、三郎太は格納庫へと走っていた。
・・・自分の愛機が跡形もなく破壊されていることを知らずに。


 艦外へ飛び出したブラックサレナと灰色の機動兵器の戦いは、一方的なものだった。
ブラックサレナから放たれたグラビティブラストやハンドカノンと、ユーチャリスが放った
無人兵器による濃密な火線を、灰色の機動兵器は一発も掠らせずに避け続ける。
逆に、灰色の機動兵器が腕から出した光の刃は次々と無人兵器を切り伏せていく。
見る人はおろか見ない人が見ても、灰色の機動兵器が無人兵器もブラックサレナも歯牙にも
かけぬ実力の持ち主だとわかるだろう。
 「何故俺とルリちゃんを攫おうとする!?」
 「それが私の受けた『依頼』だからです。」
ハンドカノンを連射しながらのアキトの問いに、灰色の機動兵器を駆る少女は律儀に答える。
・・・つまりは、それだけの余裕があるということだ。
 「依頼だと!?誰の依頼だ!?」
 「『業務上の機密』です。お答えできません。」
 「ふざけるな!!」
 「私はいたって真面目です。」
確かに少女の顔にふざけた感じは浮かんでいない。が、真面目な顔をしているとも言えない。
その顔は初めてモニターに映ったときから少しも変わってはいなかった。
ブラックサレナと互角以上の機動をしながら、顔を歪めもしていない。
それはもはや単に無表情だから、では説明の付かないことであったが、当たらない攻撃に
焦りを募らせていたアキトがそのことに気付くことはなかった。
 「くっ、このままでは勝てんか!?・・・何!?」
突如灰色の機動兵器は無人兵器の最も密集している空間に突進した。
その直後、灰色の機動兵器目掛けて幾つもの光の筋が走る。が、そのほとんどは周囲の無人
兵器によって防がれ、残りも灰色の機動兵器を捉える事はなかった。
 「ち、しとめそこなったか!やっぱ借り物の機体じゃ照準がうまくあわねえか!」
光の筋の正体は三郎太の駆るスーパーエステバリスが放ったレールガンであった。
 「貴様!!」
 「おっと待った!!艦長命令でな、お前は後回し、まずはその灰色の奴をぶっ倒すことに
 なってんだ。・・・というわけでな、ここは協力しねえか?」
 「・・・何?」
 「情けないが、お前が手こずるような奴の相手なんて俺1人には到底無理なんでな。」
 「なら貴様はそこで魚夫の利でも狙って待ってろ。俺がやってやる!!」
 「だが、こっちにもナデシコをぶっ壊されるは、俺と部下の愛機をスクラップにされるは、
 あげく艦長を攫うなんてほざかれるはと色々借りがあってな、人任せには出来ねえんだよ。
 ・・・ああ、ナデシコ壊したのはお前もだったっけな?」
 「・・・勝手にしろ。」
 「りょーかい!」
三郎太はおどけた仕草で敬礼すると、レールカノンを灰色の機動兵器に向けて連射した。
・・・全速で後退しながら。
 「じゃ、俺はバックアップ担当するからフォワードよろしく!」
本当に勝手に決めたようだ。
だが、スーパーエステバリスの機動性では後方援護しか勤まらないのも事実ではある。
アキトもそれは理解しているから文句を口にはしない。
・・・あくまで『口』にはであり、その顔には文句がありありだと書いてあったが。
しかし、三郎太の援護自体は非常に的確なものであった。相手の動きを先読みし、確実に
その逃げ道を塞いでいく。結果、先ほどまで一発も当たらなかったブラックサレナや無人
兵器の攻撃が少しずつ当たるようになっていく。
そして、無人兵器の体当たりが灰色の機動兵器の腕を直撃し、光の刃が消失する。
 「今だ!!」
止めを刺すべくブラックサレナは突撃する!!が、
 「有難うございます。」
灰色の機動兵器から聞こえてきたのは『お礼』の言葉だった。
そして、灰色の機動兵器の両腕が伸びた!!
 「!?」
正確には腕に取り付けられた折り畳み式クローアームが展開した、だがそのことにアキトが
気付く前にブラックサレナはクローアームによって動きを封じられる。
さらにそのクローアームより高圧電流が流され、アキトは意識を失う。
 「この機体は接近戦用でして。そちらから近づいて頂いて本当に助かりました。」
 「こっちもサレナ1機に両腕使ってもらって助かったぜ!」
そう言いながら三郎太は灰色の機動兵器の背後に回りこんでレールガンを6連射するが、
今度は背中から伸びた6本のクローアームにより全ての弾丸を掴まれる!!
 「なんだそりゃ!?お前は阿修羅か!?宮本武蔵か!!?」
 「違います。私の名はカミシロ ユキ。『何でも屋 灰蛇(かいだ)』の主。
 この機動兵器の名も灰蛇。どちらにしろ阿修羅でも宮本武蔵でもありません。
 ・・・あ、ちなみに、灰色の蛇と書いて灰蛇です。」
 「灰色の蛇だぁ!?これまた趣味の悪い・・・」
 「さて、残るは・・・」
 「て、無視するな!!」
ブラックサレナを掴んだまま再びナデシコBに向けて突進する灰色の機動兵器 灰蛇。
その前に立ちはだかろうとする三郎太のスーパーエステバリス。
が、それに対し灰蛇は先ほど掴んだレールガンの弾丸を投げつける。
 「な!?とと、当たるかって・・!!?」
投げられた弾丸を避けた次の瞬間、三郎太は目の前に迫る光を見た。それが灰蛇の背中の
クローアームより現れた光の刃だと三郎太が気付くことは最期までなかった。


「さ・・・三郎太さんが・・・三郎太さんが!・・・三郎太さんがああ!!!」
 「落ち着いて・・・落ち着いてくださいハーリー君!!」
 「嘘でしょ、嘘なんでしょ!?三郎太さぁぁん!!」
 「ハーリー君!!!」
 「!?」
乾いた音がブリッジに響き、ハーリーの頬が赤く腫れ上がる。
 「・・・落ち着きましたねハーリー君?」
それを確認すると、ルリはナデシコBを全速後退させる。
 「・・・なんで、艦長はそんなに冷静でいられるんですか!?」
 「・・・私が動揺すると皆が死ぬからです。・・・現に私のミスで高杉さんは・・・」
 「か、艦長のミス?」
 「援護を行わなかったことです。」
 「援護ならシステムを掌握しようと・・・」
 「出来なかったのならしなかったのと同じことです!
 ・・・そしてその時点で私はあの機動兵器が異常な存在だと気付けたんです!!
 それを警告できたはずなんです!!」
そう、灰蛇に対しルリはハッキングを行っていた。だが、電子戦に特化したナデシコCでは
ないとはいえ、灰蛇はルリとオモイカネのコンビによる攻撃をまるで受け付けなかった。
とはいえ、三郎太の敗因と灰蛇の異常なまでの電子戦に対する防衛力とに直接の関係はない。
つまりは、ルリもハーリーとは違う形で動揺していたのだ。
ルリの平手打ちにより一応の落ち着きを取り戻したハーリーにもそのことは判ってはいたが、
・・・結局ハーリーは何も言えなかった。
何も言えずに状況確認用のウィンドウを覗き込んだその時、
 「前方にボソンアウト反応?・・!?これは、ユーチャリス!!」
ナデシコBに向かう灰蛇の行く手を阻むようにユーチャリスが現れた!!
そして、
 「アキトを返して!!!」
ラピスは灰蛇の中のユキに向かって涙顔で叫ぶ。
さらに無人兵器を出して灰蛇を捕らえようとする。だが、
 「申し訳ありませんが、引き受けた依頼は必ず遂行するのが私のポリシーです。」
灰蛇は光の翼―その正体は背部クローアームより出現するディストーションフィールドすら
切り裂く光の刃―を広げ、それを羽ばたかせるようにしてユーチャリスを切り裂く。
・・・無人兵器は最初から存在ごと無視であった。
そして、灰蛇がそのままナデシコBに迫ろうとしたその時、ユーチャリスを中心とした巨大な
―灰蛇はおろかナデシコBまで巻き込むような―ジャンプフィールドが発生した!!
 「ダッシュ、これは何!?」
この突然の事態の説明を、ラピスはユーチャリスのメインコンピュータ オモイカネダッシュ
に求める。
 「先ほどの攻撃により、ジャンプフィールド発生装置が暴走したものと思われます。
 このままでは、10秒後にランダムジャンプします。」
 「ランダムジャンプ!?」
ランダムジャンプ。それは行き先不明のボソンジャンプ。
・・・その不明な行き先の中に地獄が含まれていると言っても否定できる人間はいない。
 「ジャンプキャンセルは!?」
 「実行します。・・・駄目です。こちらの制御を完全に受け付けません。」
 「そん・・・・・・・」
光を残し、二隻の戦艦と1機の機動兵器は消えた。中の人間と共に。



全てが消えた一時間後の火星宙域。
そこに、再び3対6枚の翼と共に灰蛇は姿を現した。
その手には2つの透明なケースが握られていた。中身は、アキトとルリの『肉体』。
ユキは一時間前まで少しも見せなかった微笑みで―本当に微小な微笑だ―それらを眺め、
そして呟いた。
 「色々『事故』もありましたが、なんとか依頼された『品』は手に入りましたね。」
・・・その『事故』とやらを引き起こしたのは自分だという意識はないらしい。
さらに言えば、人間の体を『品』扱いである。
 「しかし、肉体を残して魂だけを何処かに飛ばしてしまうとは、中々興味深い現象です。
 ・・・この品を届けた後で少し調べて見ましょう。」
その呟きを残し、再び灰蛇は光の翼を広げ、その姿を消した。




                   後書き

TAK.:えー、プロローグにしてはいやに長いとか、地の文に対する台詞の量が多いとか他にも
   色々あるんですが、まずは、三郎太殺してしまいましたごめんなさい!!
????:これあんたの初投稿作品何でしょ?それでいきなり人を殺す?
TAK.:初めはそんなつもりはなかったんだけど、書き直してるうちに何時の間にか・・・
????:何時の間にかって、あんたねぇ・・・ダーク書きでも目指すつもり?
TAK.:いや、本編ではそう簡単に死人は出さないつもりだから。と、いうわけで、ダークが
   苦手だという方もご安心を。・・・それ以前の問題で安心できないかもしれませんが。
????:ところで、幾つか質問があるんだけど。
TAK.:何?
????:まず、機動兵器 灰蛇の元ネタってアサルトやらバスターやらが付いたりするアレ?
TAK.:そう。他にも紫の福音戦士やら凶暴な愛馬やらも入ってるけど。
????:ふーん。それじゃあ次は、三郎太の台詞の『お前は阿修羅か!?宮本武蔵か!!?』ね。
   これちょいと分かんないんだけど。
TAK.:阿修羅は説明要らないと思うんだけど。あれって腕6本ある神様だから。
   宮本武蔵ってのは、宮本武蔵が箸で飛んでる蝿を挟んで捕まえたって言う故事から。
????:・・・今時そんなこと知ってる人少ないと思うんだけど・・・
TAK.:そうかなあ。
????:そうだって。じゃ、次ね。私の名前が伏字なのは?
TAK.:貴方の登場が次回だから。
????:・・・次回読む人がいてくれれば良いけどね。
   じゃあ最後に、この後書きがキャラコメなのは?
TAK.:書きやすいからだ!!(大威張り)
????:威張って言うことか!!・・・たく文才ないくせに小技だけは使いたがる・・・
TAK.:まあ、せめて推敲だけはしっかりやってくつもりなので。
????:当たり前でしょうが!!
TAK.:・・・まあともかく、こんな稚拙な文章を読んで下さった皆さん、有難うございます。
????:取り敢えず、私の名前が判る次回までは読んでみてください。

 

 

代理人の感想

いや〜、いいですね。

何がって誤字脱字が無いのが(爆)。

「せめて推敲だけは」とおっしゃいますが、その「せめてもの事」さえできない(しない)人が多数いる中、

こうやってキッチリした文章を書いてくれる方のなんと好ましい事か。

ただ、文章が固まり過ぎていて読みづらいので、セリフと地の文の間とか、適当な所数行ごとに

空白の一行を入れておいたほうがいいかと思います。

 

 

>箸で蝿を捕まえる

「宮本武蔵」読んだ人なら常識、そうでなくとも時代劇が好きな方なら結構ご存知かと思いますが・・・

まぁ、今は知らない人のほうが多いでしょうねぇ。