紫電〜異なる時の流れにて

第1話 似て異なるモノ





「ここは・・・どこだ?」

 あの灰色の機動兵器の攻撃により気絶した俺が目を覚ましたとき、
辺りはそれまでとは全く違う景色となっていた。
草が一面に生い茂り、空には月が浮かんでいる。
ご丁寧に草や土の匂いがし、そよ風まで吹いている。ここが戦艦や機動兵器の中である筈がない。

・・・『匂い』・・・だと?

何故匂いがする?俺の嗅覚は・・・

そういえば、俺のバイザーはどうした?いや、バイザーが無いのに何故月が見える!?
・・・五感が戻ったというのか?・・・!だとしたら!!

俺は傍に生えていた草は引き抜いて口に入れた。結果は・・・

「苦くて・・・不味い!!・・・味覚も戻っている!!・・はは・・・あははは!!」

俺は狂ったように笑い転げた。



 しかし何故こうも急に・・・ん?・・・何だこの服は?
どう見ても何の変哲も無い普通の服だぞ・・それに、体も随分貧弱に・・・
しかもリュックサック?中身は・・・こ、これはお玉!包丁もあるぞ!!
まさか!!・・・いやしかし!?・・・あそこに倒れているのは・・・自転車?
!!・・『あの時』サイゾウさんに貰った自転車だ!!
・・・間違いない・・・俺は!!!・・・


(アキト!アキト!!)

突然、頭の中で声が聞こえる。そう、この声は、

(ラピスか!?)

(アキト!!・・・やっと気付いてくれた)

俺はラピスと互いの状況について確認し合った。
その結果、ラピスもまた体が若返り、現在は北辰に攫われる前にいた研究所にいること、
そして、今がナデシコが出航した日だということを確認した。
・・・俺の予想通りだ。

(ラピス、こうなった理由に心当たりはないか?)

(そんなのあれしかない!!ランダムジャンプ!!)

(!?ランダムジャンプが起きたのか!?)

(アキトを捕まえようとしたヤツ!あいつがユーチャリスを攻撃したせいでジャンプフィールド 発生装置が暴走して・・・)

(なるほど・・・そうか・・・ジャンプか・・・ククク・・・そうかジャンプか!!)

(アキト?)

(つくづく俺の人生はジャンプに振り回される!!・・俺の両親が殺されたあの日から!!)

(アキト・・・!そういえばアキトの体も元に戻ったんだよね?ということは五感も・・・)

(ああ。・・・ラピス、だからといって俺はお前を捨てたりなんかしない。
必ず北辰よりも先にお前を助け出してやる!!だから、それまで待っていてくれるか?)

(うん!!分かったアキト。・・でも、こうやってリンクで話をするのは良いよね?)

(勿論だ。話相手になら何時でもなってやるぞ。)

(ありがとう!!ところでアキトはこれからどうするの?私を助けるのにも今のままじゃ・・・)

(ああ、だから取り敢えずは前回通りナデシコに乗ろうと思う。そうすればネルガルとの関わりも作れる。
・・・何より、俺にはあんな未来を認めることは出来ない!!
俺のエゴだってことは分かっている!それでも俺はあの未来を変えてみたい!!
そのためにも、これから事態の中心になるナデシコに乗るのが最良だと思うんだ。)<

(分かった。じゃあ、私も未来を変える手伝いをする!!)

(ラピス・・・ありがとう。・・じゃあ早速で悪いんだけど、頼まれて欲しい事があるんだ。)

(良いよ!!何?)

 そして俺はラピスに三つの頼み事をした。

 一つ目は、ジャンプフィールド発生装置の製作。
これのあるとないとでは、出来ることに大きな違いが出る。
・・・ジャンプが俺の人生を振り回すなら、こっちもせいぜいジャンプを有効利用させて貰おう。

 二つ目は、ブラックサレナの再現、及びそれを超える機動兵器の開発。
北辰やあいつ、あの灰色の機体を操った少女が敵に回る可能性がある。
特にあの灰色の少女は完全にあのときの俺よりも強かった。
それに対抗するにはブラックサレナ以上の力が必要だ。
勿論、俺自身が強くなる必要もあるが。

 三つ目が、情報収集。
ネルガルやクリムゾンといった企業、組織を相手にするには単純な力だけでは足りない。
敵対する場合だけでなく、味方に引き込む場合にもだ。
・・・もっとも、ネルガルはともかく、クリムゾンとは手を組む気になれそうもないが。

これらの頼みごとをした後、俺はナデシコのあるサセボドッグへと向かった。






「あのー。以前どこかでお会いしませんでしたか?」

「・・・いえ、初対面だと思いますが?」

 ラピスに頼み事をした後、俺は『前回』と同じ方法でナデシコに乗り込むことにした。
・・・勿論、途中でユリカと『再会』するのも前回通りだ。

一目見た瞬間に沸き起こった抱きしめたいという衝動。・・・やはり俺はユリカを忘れられない。
それはある程度予想していたことだ。なんせ、ユリカを取り戻すために5桁の人間を殺したんだ。

だが・・・違和感?

何かは判らないが、何かが違う。そんな気がする。

・・・もしかして、ユリカが若いからか?

別に未来のユリカが老けているという訳じゃない。まだ26だし。
・・・『今』のイネスさんより2つ下なだけか。別にイネスさんが年食ってるという訳じゃないけど。
いや、三年間眠っていたから実質23・・・ミナトさんより1つ上なんだな。

・・・今更ながら全然そうは見えなかったよな。あいつ。
屋台を引いていたときも20代に見られたことすらなかったしな。
みんな俺の方が年下と聞いて驚いてたし。

・・・何考えてるんだ俺?あいつの年勘定なんてそれこそ今更じゃないか。
・・・俺も未練がましいな。





 ナデシコに乗り込んだ俺は、プロスさんに艦内を案内されている途中にルリちゃんと再会した。
そう、『再会』だ。何故なら彼女も『帰還者』だったのだから。

「お久しぶりです。アキトさん。」

「!!・・・ルリちゃん・・・なのか!?」

「おやおや、お二人は知り合いだったのですか?」

俺とルリちゃんが知り合いということで、プロスさんが気を利かせて去って行った後、俺はルリちゃんの事情を訊いた。

「そうか、ユーチャリスのジャンプにナデシコBも巻き込まれたのか。」

「はい、その後私が目覚めたとき、私はオモイカネの最終チェックをしているところでした。今から一週間前のことです。
・・・それから私はここで待つことにしました。
はっきり言って確証はありませんでした。でも、確信はありましました。
そして、やっぱりアキトさんは来てくれました!!」

「ルリちゃん・・ありがとう、俺を待っていてくれて。・・・それとごめん。あの時、俺は君を守れなかった。」

「良いんです。私はまたアキトさんに会えただけで・・・」

ルリちゃんはそう言って微笑んでくれた。

「ルリちゃん・・・ありがとう。」

「いえ。・・ところで、あのラピスという子は?」

「ラピスも戻ってきているよ。俺が目を覚ましてすぐにリンクで話しかけてきた。今は昔いた研究所にいるそうだ。
・・・しかし、俺にラピス、ルリちゃんとくると、他のジャンパーももしかして・・・」

「はい、ハーリー君、ナデシコBでオペレーターを務めていたマキビ ハリ君も戻ってきています。
3日前に連絡がありました。」

「そうか。・・あともう一人いたはずだが・・・あいつは今頃木星か。
・・・となるとすぐには確認出来ないな。」

俺がナデシコBの副長、高杉 三郎太の話をした途端、ルリちゃんの顔が見る見る曇っていった。

「・・・・・・高杉さんは・・・多分戻ってきていません。」

「?・・・何故だい?」

「あのランダムジャンプの前に・・・お亡くなりになったからです。」

あの時人が死ぬ理由。俺はそれを1つしか思いつけなかった

「・・・あいつか!!」

あの灰色の機動兵器!!あいつしか考えられない!!

「・・はい・・・」

「・・・ごめん。思い出させちゃって。」

「いえ。良い・・・

「ガァァァイ・スゥパァアア・ナッパァァアアアア!!!」

ズシィィィィンンンン!!!!

・・・ヤマダさんですね・・・」

「ああ。・・・当たり前と言えば当たり前なんだが・・・相変わらずだな。
・・・じゃあ、行って来るよ。もうそろそろ襲撃があるから。」

「はい、お気をつけて。」


この後俺は知ることになる。ここが俺の知っている過去ではないことを。
ここが俺の知る過去と『似て異なる世界』だということを。






 アキトさんの二回目の初出撃を私はオペレーター席から見つめていました。
前回は成り行きで、今回は自分からという違いはありますが、アキトさんが囮になって敵を集め、
そこをナデシコのグラビティブラストで殲滅、という作戦自体は『前回』と変わりありません。

アキトさんの能力を考えればアキトさんが殲滅する方が手っ取り早いのですが、
『ただのコック』である筈のアキトさんが、そのような高い戦闘力を見せては変な疑惑を持たれかねないので、
今回は囮に徹することにするそうです。
私も同感です。これほどの敵を単機で殲滅するなんて、軍のエースでも難しいでしょう。

ですが、先ほどから一発も被弾していないというのも充分凄いんですけど・・・

ユリカさんは「さすが私の王子様!!」なんて言ってますから多分大丈夫でしょうけど、
プロスさんなんかかなり目が鋭くなってます。
・・・あ、宇宙そろばんを弾き始めました!!
戦闘終了後にアキトさんにパイロットと兼業するよう持ちかけるつもりですね?


・・・ん?どうしましたオモイカネ?・・・レーダーに反応?・・・機動兵器!?

「艦長!こちらに機動兵器が1体向かって来てます!」

「ええ!?モニターに出して!!」

モニターには、こちらに向かって飛行する1体の紫の機動兵器が映りました。
エステバリスの陸戦フレームに、空戦フレームの飛行ユニットを取り付けたカスタム機のようですが、
それ以外にも、明らかにエステとは違う構造をしている部分があります。

何より、重力波エネルギー供給システムの範囲外から飛んできたのにも関わらず、
バッテリーが取り付けられているようには見えません。
核融合炉かなんか積んでるんでしょうか?
さもなくばバッテリーを内蔵化しているか、ですね。

他にも、ラピッドライフルよりも小型な銃を右腰に、エステサイズの刀を左腰に付けています。
そんな武装もエステバリスには無かった筈です。

「艦長!紫の機動兵器から通信要請が来ています。要請者名シドウ ユウ
・・・って紫電ですか!?本物の!?」

メグミさんが大声を上げて驚いてます。
いえ、メグミさんだけでなくブリッジの全員が驚いてるようですね。
正確にはプロスさんとゴートさんはちょっとびっくりした、という程度なんですが。
逆にキノコさん(ムネタケ副提督)は「何であいつがこんなところに!?」なんて取り乱してます。
どうやら有名人らしいですが

・・・私の記憶に『シドウ ユウ』や『紫電』といった名前ありません。

「繋いでください!!」

ユリカさんの指示によって、『シドウ ユウ』なる人物との通信が開き、モニターにその姿が映りました。

薄紫のショートカットと、それに合わせた同じく薄紫のルージュが印象的な女性。
結構な美人ですね。ミナトさんに匹敵するかも知れません。・・・あくまで『匹敵』ですが。
年の頃はおよそ30前後でしょうか?
顔に『子供っぽい笑み』、とでも言いましょうか、そんな笑顔を浮かべてます。
とても『紫電』なんて勇ましい名前(多分二つ名ですね)が似合いません。
乗ってる機体はそれっぽいんですが。


「シドウさん。確か乗艦は明日の筈でしたが?」

「その前に職場無くなったら困るでしょ?だからこうやって駆けつけて来たのよ。」

どうやらプロスさんは明日来るはずの人が今日来たからびっくりした、ということのようですね。

「成る程。それではお願いします。」

「んじゃ。シドウ ユウ、現時刻をもって機動戦艦ナデシコ所属艦載機動兵器部隊隊長に着任します!!
・・・というわけで、作戦指示お願いねミスマル艦長。」

「え!私の事をご存知なんですか?」

「命預ける相手の名前と顔くらい調べておくわよ!・・・で、現在の状況、貴女の立てた作戦、及び私のすることは?」

「は、はい。現在私達は・・・・・・」

シドウ ユウさん・・・明らかに彼女は『前回』いなかったはずです。
これは一体どういうことなのでしょう?

そして、彼女は一体何者なのでしょう?
エステバリス隊の隊長を勤めるというくらいですから優秀なパイロットなんでしょうが。
・・・訊いてみましょう。

「あの、ミナトさん?」

「なあにルリルリ?」

・・もうルリルリですか。随分早いですね。
そういえば『今回』は結構こちらから話しかけてみましたから、そのせいでしょうか?

「あ、ごめん。ルリルリってのは私が考えたルリちゃんのあだ名なの。・・・気に入らなかったかしら?」

「いいえ!!嬉しいですとても。・・・それよりミナトさん。シドウさんって一体何者なんですか?
皆さんはご存知のようなんですが。」

その質問にミナトさんはキョトンとした顔をしました。

「彼女は地球圏最強って噂される傭兵集団『Sechs Farben(ゼクス ファルベン)』の総帥よ。
彼女自身も一流の傭兵として有名ね。」

「傭兵?」

「そう。紫を好むこととその鮮やかな戦い方から紫電って二つ名が付いたんだっけ。
火星でチューリップを撃墜して、以来フクベ提督と並ぶ英雄として有名になったのよね。
・・・テレビのニュースでもやってたし子供でも知ってる話だと思ったんだけど、ルリルリは知らなかったの?」

「私は研究所暮らしが長かったもので・・・後、私少女です。」

「あ、ごめんなさい。」

「いえ、いいんです。」

地球圏最強の傭兵集団総帥、チューリップ墜としの英雄、ですか。
そんな存在、『前回』にはいませんでした。

・・・ここは、私達のいた過去ではない?

とにかく、この事はアキトさんにも知らせる必要がありますね。

他の人に気付かれないように文字表示でアキトさんに伝え・・・

「ああ!!アキト!!シドウさん!!何やってるんですか!?」

突然ユリカさんが大声を出しました。

一体何でしょう?・・・ってアキトさん!!本当に何やってるんですか!?



 紫電。地球圏最強の傭兵集団『Sechs Farben』総帥。フクベ提督と並ぶチューリップ墜としの英雄。
・・・確かに、ここはルリちゃんの言う通り俺達の知る過去ではないようだ。
よくSFで言うパラレルワールドって奴か?
・・・はは・・帰ってきたのかと思えば、時間の流れすら違う世界にとばされていたとはな・・・
俺達は『帰還者』じゃなくて『異邦人』だったということか!!
つくづくジャンプは・・・

「何泣き笑いしてるのよ?今頃になって怖くなった?」

俺を抱えてるユウさんが声をかけてきた。
そう『抱えてる』。
彼女のエステは俺の乗ったエステを抱えて目的地点に向かって飛んでいた。
・・・俗に言う『お姫様抱っこ』でだ!!

「あ、いえ、そんなことありません。・・・すみませんが、俺は大丈夫ですから降ろしてくれませんか?」

「ちょっと腕が立つからって素人が無理しない!
・・・貴方もしかして、女に抱きかかえられているのが恥ずかしくて泣いてた訳?
大丈夫よ!『人の噂も七十五日』って言うし。」

「75日間も噂になるってことですか・・・」



 ユリカから現在の状況を訊いたユウさんは、そのまま真っ直ぐ俺の傍まで飛んでくると
いきなり俺の乗るエステを抱きかかえた。

「遠目から見た分にはそこそこ腕は立つようだけど、まあ本職が来たんだから後は任せなさい!!」

そしてそのまま俺の返事も聞かずに目的地点に向けて飛び立った。
・・・流されやすい性格は変わっていなかったようだな、俺って。

それにしても、かなりの腕だなユウさん。
バッタやジョロの隙間を縫うようにして、ほとんど真っ直ぐに目的地点に向かっている。
その間、全く被弾していない。
さらに、エステ1機を抱えたままこうも飛べるこの機体もかなりのものだな。
さすがは傭兵集団総帥にしてエステバリス隊の隊長、といったところか。

ん?・・・待てよ?

「あのーユウさん?総帥自らがエステバリス隊の隊長を勤めてるって事は、Sechs Farben の方は?」

「皆、ネルガルの他の部署に出向という形で行ってるわよ。
・・・別に私、Sechs Farben からネルガルに引き抜かれたわけじゃないのよ。」

成る程、つまりネルガルは『シドウ ユウ』個人ではなく『Sechs Farben 』を雇ったってわけか。
で、その後にばらばらに活用。・・・傭兵というより人材のセット派遣業みたいだな。

そんな取りとめもないことを考えていると、突如ユウさんの顔が険しくなる。

「げ!・・・やばいわねこりゃ。」

おそらく、俺の顔もそうだろう。理由はブリッジより聞こえたルリちゃんの言葉。

「艦長!ナデシコ上空にミサイルと思しき高熱源体を感知!!数およそ300!!




 アキトさんが少々恥ずかしい事と、それを見たユリカさんが少々煩い事を除けば、戦闘は問題なく進んでいました。
が、突如オモイカネから警告が来ました。

「ルリ!ナデシコ上空に高熱源体の存在を感知!!数は約300!!98.5パーセントの確率でミサイルだよ!!!」

「何ですって!?・・艦長!ナデシコ上空にミサイルと思しき高熱源体を感知!!数およそ300!!」

「ええ!!?」

「艦長!連合軍極東方面軍より連絡です!!

“上空のミサイル衛星が木星蜥蜴によって乗っ取られた。現在サセボドッグに向けて全ミサイル325発降下中”

ってそんなぁぁ!!?」

メグミさん半泣きです。
まあ、いきなり「ミサイルが300発降ってくる」なんて言われれば誰でも泣きたくなります。
ましてや、メグミさんはついこの間まで声優さんだったわけで。

かくいう私もかなり焦ってます。
いくらここが私たちの過去じゃないからってこうも予想外のことが起こらないでも良いじゃないですか!!

それにしても、、キノコさんが一番慌ててるのは問題なんじゃ・・・
仮にも軍人さんなわけですから、こういう時は一番冷静になる必要があると思うんですけど。
それこそ、隣のフクベ提督のように。

・・・とはいえ、やっぱりキノコさんですし。この辺りは私達のいた世界と変わらないということですね。



「えーと、オペレーターの・・・」

「ホシノ ルリです。」

ユリカさんが話しかけてきました。・・・当たり前ですが、まだこちらの名前は知らないんですよね。

「ルリちゃん!ミサイル到達までの時間とナデシコが発進可能となるまでの時間は!?」

ミサイルが来る前に逃げようというつもりでしょうが

「ミサイルの初弾到達まで後3分30秒!ナデシコ発進まで後2分です!
ですが、1分30秒ではミサイルの射程圏外まで逃げられません!!」

・・・ついでに、この艦を破棄しても4分も無いんじゃ安全圏まで逃げ切れませんね。
この事を言ったら間違いなく艦内パニックですが。

「こちらのミサイルによる迎撃は!?」

「向こうの数が多すぎます!!」

「ディストーションフィールドは!?」

「大気中では相転移エンジンの反応が悪いため全弾を防ぎきるまでは持ちません!!」

「グラビティブラストは!?」

「前方にしか打てませんので上空から来るミサイルの迎撃には使えません!!」

「・・・・なら、艦を垂直に傾けます!!それなら!?」

「!?・・それなら・・全ミサイル迎撃可能です!!ですが、そうすると木星蜥蜴の方が・・」

「木星蜥蜴は私達が2分以内に殲滅する!!これなら問題ないわね?」

突如ユウさんが通信で話に割り込んできました。

「出来るんですか!?」

「この素人さんにも協力させればね!!・・・本職として業腹だけど!!」

苦笑しながらシドウさんが答えます。
成る程、だからアキトさんを抱えたわけですね。
・・・戦闘はプロに任せて素人は引っ込んでろ!!というわけですか。

でも、そんなこと言ったらナデシコのクルーの殆どが素人さんなんですけどね。

「アキト!!お願いできる!?」

「ああ、まかせろユリカ!!」

・・・妙にやる気満々ですね。そんなに抱えられているのが嫌だったんですか?

「私からも1つ聞くわ。・・・2分だけで良いから、死ぬ覚悟死なない自信は持てる?」

顔から笑みを消してシドウさんもアキトさんに尋ねます。

「・・・ああ!!」

「なら・・・頼むわよ!じゃあ悪いけど・・・・」

突然シドウさんとの通信が切れました!
と、同時に、何故かアキトさんとの通信も切れました!!
これは一体!?・・・駄目です!!どうしても繋がりません!!

「え!?ちょっと待って!?アキト!?シドウさん!?・・・ええと通信士の・・・」

「メグミ レイナードです。」

「メグミさん!アキトとシドウさんとの通信を繋げて!!」

「それが、さっきから試してるんですけど何故かパイロットとの通信が繋がらないんです!!」

「ええ!?なんでええ!!?」





「これで気兼ねなく話せるな、アキト・・・・」

 通信が切れると同時にユウさんの口調が変わる。画面越しに放つ気配もだ。
・・・これと似た気配、どこかで感じた覚えがある?

彼女のエステは俺のエステを地面に降ろすと、腰から銃と刀を抜いた。

「銃と刀。どっちが使い慣れてる?」

「先ほどまで素人呼ばわりしていたくせに、行き成りそういう事を訊きますか?」

「茶番はもういいぞ。そのために通信を切ってやったんだ。」

「・・・よく分かったな?」

俺の口調も変わる。これ以上本性を隠しても意味はない。

「分からいでか!!こちとら『殺し』『壊し』で飯食ってる身だ。強い奴には自然と目が行く。
・・・殺られる前に殺れるようにな!!

ユウさんが今までとは違う笑みを見せる。
口の端を吊り上げ、目には危険な光が入った・・・そう、『狂喜』という言葉が似合う笑みを。
この眼光、北辰と同じか!?
そうだ!!今の彼女の気配、北辰のそれと似ている!!・・・彼女もまた『外道』か!?
・・・或いは

「・・・『戦争屋』って奴か?」

「せめて『趣味』を『仕事』にしていると言え。・・・で、どっちだ?」

「・・・俺は銃を使う。」

俺がそう言うと、彼女は自分のエステの銃をよこした。

「その銃の特徴は3つ。

 貫通力がある。
 撃つ時こちらのディストーションフィールドが薄くなる。
 弾切れはない。

取り敢えず、向こうの敵は貴様が殺れ。こちらは私が殺る。
・・・安心しろ。余程の無茶をしなければ『才能』ということにしてやる。」

「分かった・・・いくぞ!!」

その言葉を合図に、俺達は攻撃を開始した。




 アキトさんとシドウさんの戦いぶりは、ナデシコにいる人達を魅了しています。

アキトさんはシドウさんより渡された銃を使い、バッタやジョロを次々と撃ち落してます。
とても狙いをつけてるとは思えないほどの間隔で連射していますが、一発も外したりはしません。
しかも、敵が一直線になっているラインを狙い、一度に4〜6体は撃ち落してます。

・・・そう、アキトさんの撃った銃弾は敵を容易く貫通しているのです。
・・・どういう銃なんですかあれ?

「どうやらエステバリスのディストーションフィールドの一部を銃口内に収束して、
それを弾丸にして撃ち出す仕組みみたいだ。」

と、オモイカネは分析しましたが
・・・ディストーションフィールドを腕などに収束する技術はありますが、それを『飛ばす』技術は聞いたこともありません。 少なくともネルガルにその技術が無いことは、ナデシコのエステバリスにそのような武装が無いことからも確かです。
一体どこでそんな技術を手に入れたんでしょう?
或いは、独自に開発した?
・・・どちらにしろ、ただの傭兵ではなさそうですね。

しかし、私以外の人が注目しているのはむしろシドウさんの戦いぶりでしょう。
刀を構えたまま敵集団に突進し、そのまま通り抜けざまに敵全てを切り捨てる。
その姿は、まさに戦場を切り裂く紫の電光!!!

・・・なんか、こういう話し方私のキャラじゃない筈なんですけど。

それはそれとして、シドウさんのエステ、まるでブラックサレナのような動きです。
・・・って、本当にブラックサレナ並の加速度で動いてるんですか!?
・・・『あの頃』のアキトさんと同等の操縦技術を持つという事ですか?
アキトさんが復讐者として全てを捨てる覚悟で得たのと同等の操縦技術を持つ。
・・・ますます只者じゃありませんね。




さて、この様子なら向こうは本当に2分で敵を殲滅するでしょう。
となれば、こちらもこちらのやるべきことをやるまでです。

「相転移エンジン出力臨界!!ドッグ注水80パーセント!!海中ゲートオープン!!・・・発進準備完了!!」

「機動戦艦ナデシコ、発進!!!」

2度目のナデシコの出航です!!・・・なんか1度目と随分状況が違ってしまいましたが。

「グラビティブラスト充填開始!!」

「了解!!」

「艦首を上方へ90度傾けた後、海上へ浮上してください!!」

「りょーかい!!」

ここで私はある重要な事を忘れていました。それは・・・

「キャアァァァ!!」

「お、落ちるぅぅぅ!?」

ここは地球上ですから、艦内の重力制御を行っていなかったことです。
・・・前にも火星に到着する際にやってしまいましたね。
とにかく、艦内の重力を制御して・・・

「ふう、危なかったぁぁ!!・・・それで、ミサイルは!?」

「グラビティブラスト射程内まで後11秒!10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0!!

「グラビティブラスト発射ぁぁぁ!!」

ユリカさんの号令と共に、重力波が天を貫きます。そして、轟音と共に爆炎が次々に巻き起こります。
・・・そして爆炎が収まったとき、空には雲ひとつありませんでした。

「・・・全ミサイルの撃墜を確認!!」

その私の報告に、艦内は沸きあがりました。

「見事だ!!まさに逸材!!」

「嘘よ!!こんなの偶然よ!!」

「凄いよ!!流石ユリカ!!」

「アキト!!私の指揮見ていてくれた!?」

「ですから艦長!!パイロットとは通信できないんです!!」

「助かったぁぁ!!まだちょっと死ぬには若いものね。」

「ふう、出航と同時に撃沈では大損害でしたな。」

「うむ」

ここは私達のいた過去ではない。でも、ナデシコの人達は相変わらずです。
・・・この世界で生きていくのも悪くない。そんな気がします。





「無事作戦成功ね!」

そうユウさんは話しかけてきた。その顔にさっきまでの『狂喜』はない。

「そうですね。・・・ところでユウさん、1つ訊いていいですか?」

「何?」

「何で俺の茶番に付き合ってくれたんです?」

「・・・人が隠そうとしてること暴くなんて悪趣味じゃない?その隠し事のせいで自分が不利益被るわけでもないのに。」

少し照れくさそうにユウさんは答えた。
その瞬間、俺は悟った。『この人は違う』と。
この人は少なくとも『外道』ではないと。
そして、俺はこの人のことを誤解したことを恥じた。

「すみません。俺は貴女のことを・・・」

「良いから良いから!ドンパチ好きなのは間違いないんだし。」

「それでもすみません。それと・・・ありがとうございます。」

「どうも。・・・まあでも、残念ながら貴方今回の戦闘で目を着けられたわよ。 そういうことに目敏い奴が1人いるから。」

そういうことに目敏そうな人物。・・・確かに1人いたな。なにせネルガルSSのトップだ。

「プロスさんですね?」

「ええそうよ。・・・よく分かったわね?」

「・・・人の気配には敏感なんです。」

「成る程ね。・・・貴方のこと気に入ったわ!!

「・・え!?あ、あの突然何を・・・」

「先ほどの操縦技術!!そしてプロスさんの正体を察する感覚の鋭さ!!
是非とも『Sechs Farben 』に欲しい人材ね!!」

なんだ、そういう意味か。

「あからさまに安心したって顔ね。・・・心配しなくても私に年下趣味は無いわよ。」

あ、いや、その。




 天を貫く重力波を号砲にして、俺達の新たなる戦いは始まった。
ここは俺達の『過去』と似て異なる世界。
そのことを初めは呪ったが、だからこその出会いもあった。
シドウ ユウ。北辰と似た狂喜と、俺を思いやってくれた優しさを併せ持つ人。
彼女との出会いは何か大きなものを俺にもたらす。そんな気がする。

が、まあそれはさておき・・・

「ユウさん、通信でナデシコを水平に戻すように言ってくれませんか?」

「あ、ごめん。忘れてたわ。」






後書き

TAK.:「紫電〜異なる時の流れにて」第1話をお読みいただき有難うございました。

ユウ:代理人様の御意見を参考に格段に読みやすくはなったこの作品、是非感想等をお聞かせ下さい。
   ・・・と、言いたいところだけど、途中まで「時の流れに」の一部を端折った物なのよねこれ。

TAK.:前回言い忘れてしまいましたが、これ「時の流れに」の三次創作なんで・・・

ユウ:だからってねえ。一応時系列の違う世界って設定なんでしょう?ならもう少し変えてもいいんじゃない?
   まあ、それはともかく、質問なんだけど。

TAK.:何です?

ユウ:私が貸してアキトが撃ってた銃の原理って・・・

TAK.:はい、まんま咆竜斬です。小型の。

ユウ:・・・パクリじゃないのこれ?

TAK.:・・・否定は出来ません。ただこれ、後々重要なことになってくるので・・・

ユウ:伏線って奴ね。場合によっては無かったことになる奴。

TAK.:まあ、この伏線はなかったことにはなりませんが。

ユウ:断言したわね?

TAK.:ついでに約束破って後悔する心の準備もOKです!!

ユウ:・・・撃つよ?

TAK.:あわわわ、なるべく言った通りにするように努力しますんでご勘弁を!!

ユウ:まったく・・・それではこの駄文を読んで下さった皆さん。ご愁傷様。

TAK.:おい、ちょっと待てい!!そりゃないんじゃないの!!?

 

 

 

代理人の感想

いい味出してますねぇ、ユウさん。本編ならず後書きの漫才でも(笑)。

ナデシコにはミナトさんとホウメイさん以外「大人の女」がいないので

(おまけにホウメイさんは「母性」は感じさせても「女性」を感じさせる事は少ない・・・つーか皆無)

戦闘以外でも随分と活躍できそうです。

まぁ、舞歌さんあたりとはかぶる可能性もあるんですが・・・・・出てきますよね(爆)?

 

>Sechs Farben

ドイツ語で「六つの色」と言う意味だと思います。

親分のユウが「」ですから、の六人を率いて虹の七色とか(笑)。

そろった所で「虹の七色対北斗の七つ星」とか言って、北辰&六人衆とやらせたら面白いかもですね。