漆黒の戦神アナザー

婦警(セラス・ヴィクトリア)の場合











_今宵、夜霧の立ちこめたロンドンの町の一角に私は来ております。
ここに漆黒の戦神・テンカワアキトの行方を知る人がいらっしゃるそうです。




38分経過ー

_おかしいなーカメラさん、時間間違えてませんよね?(カメラマン頭を縦に振る)

「ど、どうもすみません!遅れちゃいました〜」

_…………何時の間に後ろに来てたのですか?

「あっ気にしないで下さい。こうゆうの得意なんです。」

_そ、そうですか。(汗)セラス・ヴィクトリアさんですね?

「はい、そうです。」

_あの漆黒の戦神の行方をご存じとか。

「知っているというか………伝言を頼まれたものでこの取材を受けたんですけど。」

(キラーン)では、今行動を共にしているということですか?

「ええまあ……」

_是非教えてください!

「まあ…その何というか………暫く姿を消すから探さないでくれとの事です。」

_……どの様な理由ですか?いや、是非とも知りたいと仰るじょせ……おほん、方々がいらっしゃるので。

「うーん、まず順序立てて話しますね。」

_はい。

「私が彼と出会ったのは数ヶ月前、満月の綺麗なホントに気持ちのいい夜でした。」

_それはロマンチィックですね。

「あたしは自分の仕事を終えて帰宅している途中でした。突然近くの森からバッタが数匹飛び出して来たんです。」

_そして彼に助けられたのですか。

「はい、とっても強かったですよ。銃と何故か光る拳だけで倒しちゃったんです。」

_そうですね。彼は地球最強の戦士ですから。

「でも、“普通”の人間であれだけの動きが出来るのも凄いです!」

_はっ?普通?

「それで、彼にお礼言おうと思って近付いて行ったんです。そしたら彼が大丈夫かい?と言ってニッコリ笑ったんですよ!(ぽっ)」

_テンカワスマイルですか……。(何かを押し切られた気が。)

「ええ、それで危ないから家まで送って行くよと言われたんですけど……断りました。」

_おや、どうしてです。

「実はあたし、仕事の関係上よく狙われたりしているんです。だから危険なのでお断りました。ですけど……」

_彼がそれ聞いてほっとく訳ないですねそりゃ。

「は、はい。凄く怒って「君みたいな女の子を狙うなんて許せない!」と言って絶対にとっちめてやるって張り切ってました。」

_その犯人に同情しますよ。彼を怒らせて只で済むとは思えませんし。

「確かに怒ってましたけど…それでこれからが本題なんですが、結局家まで送ってもらうことになったんです。」

_はい、それで?

「案の定、途中で襲われました。」

_暴漢の命は助かったのですか?

「それがそのぉ………」

_まさかお空の星にしてしまったとか。





「テンカワさん大怪我を負ってしまいました〜」


_かっくーん(取材スタッフ全員の顎が外れる)




_あ、ええぇ、何ですって〜彼が大怪我ぁ?!

「は、はい。で、でも凄かったんですよ。あの首切り判事に対峙して3分も立っていたんですから!」

_く、首切り判事………。

「あ、あはは………やっぱり凄い事言っちゃったかな?」

_ほ、ホントに彼倒されちゃったんですか?それでどうやって貴女助かったんです?

「闘って何とか、一時的に退けたんです。テンカワさんが闘ってくれたおかげで相手も体力と銃剣を消耗してたみたいで。でなきゃ結構危ない所でした。」

_銃剣って…相手は何者ですか!?


「あたしの事を目の仇にしている人です。1ヶ月に一度は襲われるんで困っているんですけどね。ホントにしつこいんですよ〜〜(泣)」

_今まで結構闘って来たんですか。よく無事ですね……(滝汗)

「はい、マスターが居なくなってからずっと。もういい加減うんざりです……ホント。(嘆息)」

_それでテンカワアキトはどうなったんですか?

「ええ、何しろ酷い傷で……なんとか自宅に引っ張り込むので精一杯で。早速応急処置したんですけど……」

_病院へは?

「私の家、人里から少し離れているんです。電話もありませんし、何より出血が酷くてろくに動かせませんでした。」

_八方ふさがりですね。

「それで…致し方無いので奥の手を使って助けたんです。すぐに良くなりました。」

_はあ…………(寒気)

「でもホントに奇跡でした。後で聞いた話だとテンカワさんって女性の方との付き合いが多いって言われてますよね?」

_そ、そうです。

「その割には奥手だったみたいですね。“だからこそ”助かったんですけど。もし女たらしなんかだったら最悪な事になってました。」

_(何かとんでも無い事聞いているんではないだろうか?)

「それで傷がまだ癒えないから、暫く療養しているから探さない様に仲間に伝えてくれと言われたんです。」

_取材を受けて頂いた理由はそうゆう事だったんですか。

「はい、でも納得してくれるとは思えないとか言ってましたね。その事でよくうなされてましたし。」

_それは自業自得とも言えますよ。

「あのー、伝言も言い終わったのでそろそろ帰りたいんですけどぉ…。…いいですか?」

_あ、ああはい結構です。最後に何か一言。

「マスタァー何処に行かれたんですかぁぁぁぁぁあの変態少佐との決着はまだ済んで
ないんですかぁぁぁぁ早く帰って来てくださいぃぃぃぃぃ何年待たせる気なんですかぁぁぁぁぁ(号泣)」

_あ、ありがとうございました………。













円卓会議ー

かつてアーサー王は部下である円卓の騎士達と円卓状のテーブルを囲み、
忌憚のない話し合いを行ったとされる。
後の国連や国際会議の席の配置にも使われ、上座下座の無い様なテーブルになっているため、
全ての出席者が対等に話せる様になっている。(建前上は)
他にも国家の幹部の集まりなどの重要な会議の事を指す場合にも使われ、
200年近く前の英国にもそれにその名称をあやかった組織が有ったとされているが、真相は定かではない。

それはさておき、


今、某戦艦の内部で1つの円卓会議が行われていた。
いや、これを円卓会議等と呼んだらアーサー王が嘆くだろう。
それを語るにはあまりにも醜悪な零囲気だからだ。

「どう思いますか?この内容を見て…………」

薄暗がりの中で小柄な人影が一冊の本を掲げる。
それは戦神シリーズの新刊であった。

「駆け落ちとしか思えません!どう見たってそうです!」

丁度向かいの席に座っていた人物が激昂し立ち上がる。
三つ編みに編んだ髪が逆立っていて、某ホラー映画の間○夫人の如き迫力。

「負傷を理由に私達や世間からドロップアウト。確かに言い訳にしては下手くそよね。」

その隣に座っていた白衣を着た人物が静かに言う。だが全身から怒りのオーラが立ち上がっていた。

「そうよね!アキトに生身で勝てる人なんて北ちゃんぐらいしかいないもん!絶対に嘘だよ!」
最初に本を掲げていた影の横にいる人物も、立ち上がって意見を述べた。
声が馬鹿でかいので周りの人物が顔をしかめていたが。

「所でこのセラスとかいう女の所在は掴めたんですか?」

白衣の横に寄り添う様にして座っている二つの影の一人が声を上げた。
声音は大人しそうだが、やはり怒気が含まれている。

「それなんだけど、未だに解らないわ。ウチのシークレットも動員して探しているんだけど。二人で行動してるなら足取りが掴めそうなものだけどね。」

さっきのでかい声に顔をしかめていた一人が捜索状況を報告する。
声が高いがさっきの様なきんきん声では無くよく響く声だ。

「顔写真とかはあるんだろ?俺も知り合いに知らないかどうか尋ねてみるからよ、
みんなに分けてくれないか?」

「無いんです。」

「え?」

この場に居た全員の声がハモる。
各々の手元にある本を見る。そこには必ず表紙を飾っているグラビアが無かった。

「あれ………今回は写真無し?」

「いえ、ライターさんに問い合わせてみたんですが、写真は取ったけど何故かどのフィルムにも姿が写ってなかったそうです。もちろん嘘発見機にも掛けて見ましたが、嘘はついてません。」

「………………。」

「この女、一体何者?」

その後、全員が暫く押し黙っていたが、結局捜索を続行するというと発見時は抜け駆けしない
(いざとなればそれを守る確率は皆無だが)方針で満場一致し、会議は終了した。

もう一つの議題、ゴート・ホーリー失踪事件はすっかり忘れ去られていた。(爆笑)
だが、彼女達は知らない。事態は彼女等の予測を遙かに超えている事を……。







欧州某所


二つの影が満月の下を走っていた。
その速度は尋常では無く、鬱蒼とした森林地帯をまるで平原の様に駆け抜けてゆく。

一人は黒いマントを着てバイザーを着けた男、
もう1人は古いスコットランド・ヤードの制服を着ている女性。
女性の方は馬鹿でかい包みを抱えているが、走る速度は男と遜色無いという
非常識極まりない事をやってのけている。

ヒュン

何かが空を裂き飛んで来る。
女と男は素早く回避行動を取った。

カカン!

二人が一瞬前まで居た空間を何かが薙いで行き、その先にあった木に突き刺さる。
それはごっつい2本の銃剣だった。

ドゥ!ドゥ!ドゥ!

男が振り向き様、銃剣の飛んで来た方向に手にした拳銃の弾を撃ち込む。
微かに赤い軌道を帯びた3発の弾が暗闇に吸い込まれていく。

ヒュッヒュッヒュ!!

お返しとばかりに同じ数の銃剣が飛んで来た。
時間差を付けて飛んできた2本は回避したものの、最後の一本が腰に突き刺さり、激痛を男にもたらす。

「ぐっ!」

「テンカワさん!」

女性の方ーセラス・ヴィクトリアは立ち止まり、アキトに声を掛ける。
男ーテンカワ・アキトの方は呻きながら腰に深々と刺さった銃剣を引き抜く。
血がボタボタと垂れ、地面に大きな染みを作る。
歪めた唇の間から見えた犬歯は鋭く尖っていた。

「危ない!」

何とか銃剣を引き抜いたアキトに素速くセラスは飛び付き、地面に押し倒す。
直ぐ頭の上を十数本の銃剣が空を切っていった。

「大丈夫…じゃないですね。祝福儀礼を受けた刃物は私達でもやっかいですから。」

近づいて来た敵の気配を感じてセラスはゆっくりと立ち上がる。
抱えていた包みのカバーを解き、自分の武器を取り出す。
やがて敵が動く事によって発する空気の揺らぎが止まった。

「……良い月だな………フリークス共……」

ゆらりと木々の暗がりから人影が姿を現す。
セラスは返事の代わりにそれに向かって発砲した。

ドム!ドム!ドム!ドム!!


ちなみに彼女が使用している武器は、連合軍の攻撃機から取り外して手動で取り回せる様に改造した
対地対空両用75ミリ機関砲。弾頭は爆裂徹鋼焼夷弾。
セラスが長年愛用してきた対化け物用兵器『ハルコンネン』の後継武器だった。
最近はこれくらいのモノをぶち込まないとダウンしない。
相手はヘタすると並みの戦車よりも頑丈かもしれないのだ。

「ふぅっ!」

暗闇の中でも真昼の様に周りを見る事の出来るセラスの目が全弾が外れた事を認識する。
飛んで来る銃剣を回避しながら、直ぐさま新しいマガジンをイジェクトして、遊底を引く。
この兵器の欠点はやはり近接戦には向かない事と一回の弾数が少ないことだろう。

「どうした?もっと踊れ。私に地獄と血をみせろ。」

其奴がニヤリと笑った。
爬虫類じみた嫌な笑みだ。

アキトの脳裏に終生の敵である某暗殺者の顔が浮かび上がる。
確か奴もこういう笑みを浮かべるのが好きだった。

シャリン!シャキ!

逆手に構えた大型の銃剣を両手に持ち、ジリジリと間合いを詰めてくる。
立ち直ったアキトが拳を握り前に出る。
身体から昂気が放たれ、周りの空気を圧迫した。

「シィィィィィィィィィィィィィイイ!」

叫びながら突進してくる!
首元と心臓目掛けて繰り出された銃剣をかわして、相手の胸元に拳を叩き込む。
奴は一瞬仰け反るが直ぐに体勢を立て直し、足を狙った斬撃を放つ。

グシュ!

両太股に感じる痛みに耐えながら顔面に掌底と肘を連続で叩き込む。
一瞬ふらついた所を横合いに回り込んだセラスが狙いを定め叫ぶ!

「退いて!」

ドン! ズダン!

間一髪で身を引いたアキトの目の前にいた男が横から飛んで来た砲弾を食らった。
閃光と爆風が辺りを包み、一瞬だが視界が閉ざされる。

気配を空気の動きで探る。
まだ動いている!

更に相手の気配目掛けて連射するセラス。
砲弾と反撃とばかりに投げられた銃剣が交差しー

爆発。


そして爆煙が晴れた時、3人は再び対峙していた。
男の顔は少し崩れていたが、見る間に傷が塞がっていく。

「いい加減しつこいですよ、アンデルセン!」

目の前で銃剣を交差させた両手に10本挟んで構える男にセラスは叫ぶ。

「……最初出逢った時は私の攻撃をまともに食らって可愛い悲鳴を挙げて
苦しんでいたのに…言う様になったなぁ……ドラキュリーナ?」

「彼女が一体何したっていうんだ!?」

アキトの叫びに嘲笑で答える。

「貴様等の存在は存在自体が罪なのだ。塵に過ぎないモノは塵に還れ!」

口の端を更に吊り上げ、アンデルセンは笑い叫ぶ!

「消え果てろ、異形共!!」


再び殺気が膨れ上がる!
二人は咄嗟に身構えー

「待てえぇぇぇぇぇい!!」

第三者の声に全ての動きは遮られた。

「むうぅぅぅぅぅぅん!!」


何かがこちらに向かって飛んでくる!
そして双方の丁度中間に降り立ち両手をかざす。

「その役目は我のすべき事だ!」

それを見て3人は凍った。

「ゴートさん…‥何故此処に?それにその格好は……」

ナデシコに居たおかげでその方面に免疫のあるアキトは何とか気を取り直し、ゴートに声を掛ける。

「我が神よりお告げを受け、お前を浄化する為に参った。」

太い眉をしかめ、両手を広げて大仰な素振りで、ゴートは答える。
取り敢えずアキトは顔を白黒させているセラスを後ろに下げ、この自称神の戦士に向き直った。

今の彼の格好は………。

頭はザビエルカット(昔の修道僧のヘアカット)、首にはヒラヒラのフリルの付いたスカーフを巻き、
胸元にはどう見ても怪しい露天業から買ったがらくたにしか見えない聖印を下げ、
上半身は何も着ておらず、下はブリーフ一丁だった。
足には指先が割れている対水虫用の靴下を装着しており、
更に通気の良いサンダルを履いているため水虫、皮膚病予防としては最早完璧とも言える。

「テンカワよ。お前が吸血鬼になった経過は神より伺っている。その境遇は充分に同情に値するものだ。さあ………我が神の慈悲を受けよ。そうすれば安らかなる……」

「死ね、邪教徒が。」

ゴートが最後まで言い終わる前にアンデルセンがゴートに対して攻撃を仕掛ける。
絶好のタイミングで放たれた銃剣がゴートの身体をずたずたにー

ぽすぽすぽす………カチャンカチャン。

「何ィ……?」

しなかった。何と銃剣はゴートの身体の表皮を傷付ける事無く、地面に落ちてしまった。

「むう……これは神の祝福を受けた武器だな。それでは話にならん。少なくとも私と闘うときはな。」

「何故だ!?」

叫ぶアンデルセンを哀れむ様にしてゴートは言う。

「神聖なる神の祝福と加護を得た者に、連なる力は及ばん!」

そう言い放つなり彼は空中に高く舞い上がる。





「むうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんん!!」





舞い上がりながら雄叫び(?)を上げるゴートの周りに光が満ち溢れてきた。
その光を見て、強い衝撃を受けるアキトとセラス。
アンデルセンもその光景に目を奪われている。

しゅぱーん!しゅぱーん!


突然ゴートが両手の指先を腰のブリーフの両脇に突っ込む!
そして強引にブリーフの脇の裾を伸ばしそのまま頭の上をくぐらせて反対の肩に引っ掛けた。
逆の方も同じ様に引っ掛けるとそこには……。





「いぃぃぃぃぃややあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」






それを見た瞬間、セラスは身も蓋も無く叫ぶ!
脱兎の如くゴートに背を向けて走り出す!

「あっセラスちゃん置いていかないで!」

その後を泡喰って追い掛けるアキト。
セラスが思わず逃げ出したゴートの格好は…………








前、お稲荷さん。

後、極Tバック。










最早語る必要などどこにも無く、“それ”から少しでも遠ざかる事しか頭に浮かばなかった。
途中でアキトが彼女を抱きかかえてジャンプ移動し、安全な所まで逃げた後でもセラスの恐慌は、暫くの間収まらなかったという………。


後に残されたゴートとアンデルセンの闘いがどうなったかは……誰も知らない。
翌朝その一帯が焼け野原になっていたのが確認されていただけである。














その日の翌朝

朝日の降り注ぐ丘の上に一つの人影が立っていた。
その人物は焼け野原になった眼下の風景を見渡して一言呟く。

「200年近く経っても、相変わらず半端な闘い振りだな婦警。」

そう言い放ち、肩を竦める。

「まあ……それがお前なのかもな。」

笑みを浮かべてゆっくりと笑い声を辺りに響かせ。
静かに笑う男のマントと鍔の広い帽子を、風がゆっくりと薙いでいった。



「全く………今日は嫌な天気だ………」




















後書き

書き終えてみて気付いたこと。

肝心のセラスとアキトの絡みが無い。
ゴートの話を書いていたら長くなってしまい、二人の触れ合いが無くなってしまった。
……こんなんでいいんでしょうか?

 

 

代理人の感想

 

 

これでいいのだ!(^^)b