_えー今私は、欧州のとある連合軍基地に来ております。あ、どうも貴女が漆黒の戦神の秘書を務めたという方ですね?


「ええ、そうよ。」


_お名前は?


「影山サキ。サキちゃんと呼んでも良いわヨ?」


_はあ……何か親しみやすそうな呼び名ですね。


「当然よ。アキトさんが付けてくれたんだから♪」


…………えーそろそろインタビューに入りましょう。彼と出会ったのはいつ頃ですか?


「丁度この辺で蜥蜴達の一大攻勢があった時ネ。その時に当時ここの司令官だったオオサキ・シュン隊長の秘書として派遣されたの。」


_いきなりあの戦神の秘書になったのではないのですか?


「そうよ。だって彼元々軍属じゃなくてネルガルから派遣されたっていう身分だったし。」


_まあ……そうでしたね。それで初対面の時はいつ頃で?


「私が司令部に着任の挨拶に行った時ヨ。執務室でオオサキ隊長と作戦の事で怒鳴りあっていたワ。」


_二人が喧嘩をしてたのですか。あの二人は強い信頼関係を築いていると聞きましたけど。


「あの頃は彼が来てまもなくの頃だから、まだ感情的に折り合いが付かなかったのよ。お互いの能力は認め合っていたみたいだけど。」


_成る程、それでサキさんはどうしたのですか?


「間に入って着任の挨拶をしたわヨ。丁度険悪な状態になりかけていたから、場の空気を変える為にもね。」


_戦神とオオサキ司令官の間に割って入るとは随分大胆ですね。


「大丈夫、あの二人基本的には女性に優しいから。アキトさんなんか特に(きゃっ♪)」


_……それが彼の欠点でもあるのですけどね……


「…何か問題でもあるのかしら?(ギロリ)」


_い、いえ。(滝汗)そ、それで彼の秘書になった経緯をお聞かせ願いたいのですが。


「そうね、着任してから半月経った頃かしら。基地の側まで来ていた蜥蜴の群を撃退していた時に、シュン隊長の乗っていた指揮車が攻撃を受けて隊長が負傷してしまったのよ。」


_それは一大事ですね。


「ええ大変だったわ。今までの楽勝気分なんか吹っ飛んでしまっていたし。でも一番落ち込んでいたのはアキトさんだった。」


_あの漆黒の戦神が落ち込んでいたと?


「世間では彼の事を戦神だの戦鬼だの言うけど、私の見た限りではそんな感じではなかったワ。なんてゆうか…闘い続ける事を自分に課しているけど同時にその事で苦悩している…本当はあの人は闘いが好きでは無いのではないかなって…そう思ったの。」


_意外な見方ですね。


「それで司令室のあるビルの屋上まで彼を呼びだして、励ますことにしたのヨ。」


_……それで彼は来たのですか?


「30分遅れで来たわネ。何か邪魔が入って出かけるのが遅れたって。(怒)」


_心当たりが有るような無いような(汗)


「まあ、あの鬱陶しい金銀姉妹の事は横に置いておくとして(爆)、彼に言ったのよ。1人だけで無理をすることは無いんじゃないかって。」


_でも彼に無理するななんてよく言えましたね。


「そしたらこう言われたワ。俺は全てを変えていかなければならない、だから負ける訳にはいかないんだって。なのにこんな所で失敗してたら変えれるモノも変えられないって。その時凄く悲しそうな顔をしてたけど。」


_彼は人知れず何かを背負っているという噂がありますしね。


「でも私はそれを聞いてこう返したの。自惚れるなってネ。」


_あのテンカワ・アキトにそんな事言ったんですか!?


「そうよ。たった1人で全てを変えようなんて自惚れ以外の何でもない、そんな事考える暇あったら信頼を築きなさい。今貴方がやるべき事はそれでショと言ったのヨ。信頼できる仲間を作り彼等と共に闘いなさいって。自分の考えだけを見ていては駄目ともね。」


_ず…随分とキツイ言い方ですね。(アイツに対してここまで言うとは…(汗))


「まあ…最初は顔を真っ赤にして怒っていたし。でも解ってくれたわヨ。『そうだな…俺には共に闘ってくれる仲間達がいる……その事をすっかり忘れていた。有り難うサキちゃん、君のおかげで気付いたよ』て言ってニッコリ笑ったのヨ(うっとり)」


_(またテンカワスマイル…)そうですか、しかし戦神に対し意見するなんて怖くなかったですか?


「別に怖くなんか無いわ。確かに戦闘の時は鬼気迫る感じで闘っているけど……それに彼にはよりいい男になって欲しいしネ♪」


_話を戻しますが、彼の秘書になった経過を教えてください。(話題変えなきゃ拙いね。こりゃ)


「(雰囲気を邪魔され少しムッとしながら)経過?シュン隊長が全治一ヶ月の負傷で司令の席が空いてしまったから、代理で誰かが司令をやらなければならなくなったのヨ。」


_それで彼が司令になったと。


「いいえ、後任はカズシ副官よ。アキトさん本人が辞退した事と軍が立場上の為に指定したの(怒)」


_えっ?しかし貴女は彼の秘書になったのでは。


「最後まで話を聞いて、その次の日に……」


_はい。


「カズシ副官が出勤途中で何者かに狙撃されて入院してしまったのヨ。
ちなみに全治1ヶ月ネ。」


_暗殺されかけたんですか!


「そうみたいね。シュン隊長もカズシ副官もなにかと疎まれていたし。私は現場に居なかったから詳しい事は解らないけど……」


_ではやはりその後に。


「アキトさんが司令になったのヨ♪嫌がっていたけど、私の泣き落としと周りの拝み倒しで快諾してくれたワ。」


_(それって快諾とはいわないのでは?)そうですか、それで司令としての活躍はどうでした?


「デスクワークはイマイチね。やはりパイロットの方が向いているって言っていたし。でも彼にとっては安らぎの日々だったと思うワ。」


_司令の仕事はキツイと聞きますが、安らぎとは意外ですね。


「だって執務室は用件と司令の許可が無いと入れないでしょう。彼も追いかけ回されなくて良かったんじゃない?(クスッ)」


_……やはり男女間の問題ですか?


「ええ、あそこなら私用では入れないし中にトイレとかも完備だから仕事が終わるまでは出る必要も無いし、ゆっくりするのに最適でしょ?無理に入ろうとしても私が追っ払ってやったワ。(にやーり)」


_それって黒髪の整備士とか金髪のオペレーター、銀髪のパイロットの事ですか?(滝汗)


「他にも基地内の彼の追っかけとかもヨ。数が多いから対処に時間が掛かるし、司令室の前で鉢合わせしては騒ぐし煩い事この上なかったわヨ。(怒)しかもアキトさんが脅えて仕事に手が着かなくなるし。」


_彼女達相手では苦労したでしょう。


「あんまり煩い場合は、
ちょっとお仕置きしておいたけど。そしたら一時的に静かになったワ、ウフフッ。」


_……彼女達にお仕置きですか。(汗)


「まあ、扉を少しだけ開けて廊下に
スタン・グレネード放り込んだだけよ。アキトさんは後が怖いとか言って青

くなってたけど、心配性なんだから。
私を心配してくれる気持ちは嬉しいけどネ☆」


_ま、まあサキさんはその後どうなされたのです?


「彼に色々とデスクのお仕事を教えたの、それこそワンツーマンで。プライベートの時もレッスンしたから2ヶ月目位にはかなり上達したわヨ。
…………他にも期待したんだけど何もなかったわネ。その代わりに料理なんかも作ってくれたけど。おいしかったわー。」


_シュン隊長って全治1ヶ月のはずでは?


「それが病院出る時に、
暗殺者狙撃されてそのままUターンで再入院よ。今度は2ヶ月ですって、ホントに不幸な事は続くものネ。(嘆息)」


_…不幸過ぎますよ、それは。


「それから暫くして彼が元々居た戦艦から召集が来てそこに復帰していったわ。色々と
余分なモノまで付いていったみたいだけど。(怒)」


_サキさんは着いて行かなかったのですか?


「何故か、転属願いが受理されなかったワ。ホン、トなんででしょうねぇ?(ギリギリ)ホントは無理してでも付いて行きたかったけど、そんな事したら彼に迷惑が掛かるし。しょうがないと思って見送ったのヨ。(ガキン)」


_あのー笑顔でベンチの肘掛けを握り潰さないで下さい。怖いですから(滝汗)


「あらいけないわ、私ったら。」


_(チラッと時計を見て)時間が迫って来ましたので、最後に彼に何か一言お願いします。


「色々あったけど貴方と出会えて本当に良かったと思っているワ。無理だけはしちゃ駄目よ?」


_本日はありがとうございました、後日表紙を飾る写真を撮りたいのですがお時間の方はよろしいでしょうか?


「残念だけどこれから出張なの。暫く帰って来れないから御免なさいネ。」


_そうですか……じゃあこの場で撮っちゃうおうか?カメラさんお願いしまーす。


「ポーズはどうするの?」


_ああ、サキさんの好きなポーズでお願いしますね。


「これでどうかしら?」


_凄くいいですよ。ハイそのままで……3……2……1……チーズ!


カシャ!


_はい、ありがとうございます!お疲れさまでした!


「どういたしまして。」

 

 

 

 

 

2日後 地球の軍港で停泊中のナデシコ




ブリッジ内部




「平和ですね、オオサキ副提督。」


「ああ……」


ブリッジではジュン、ゴート、ミナト、プロス、ハーリー、シュンとカズシ等が仕事をしていた。

本来そこで働くべき人間が何人か居らず、時折遠くから男の悲鳴が聞こえる点を除けば概ね普段の状態とも言える。


「まさかあの子の事が出てくるとはなー。この内容じゃあ今頃お仕置き部屋の中地獄ですね。」

カズシは手にした本を見やる。その表紙を“ぶい”サインをした影山サキのグラビアが飾っていた。

「ああ………特にあの時一緒に居たメンバーなんかは大荒れだろうな。」

どこか達観した面持ちで遠くの方を見るオオサキ。ちなみに彼の身体はアフリカの方を向いていた。

「散々派手にやり合ってましたしね。といっても影山さんの圧勝が多かったけど。」

両陣営が壊した機材や建物の修理費の請求や他の部隊からの苦情、経理部に怒鳴り込まれて痛んだ胃が思い出した様に疼く。

「そういえば勝率9割いってたな。」

(それって一方的に負けてたのでは?)

口に出すのは恐ろしいので心の中でジュンは突っ込んだ。
ハーリーも同意見の様だが恐ろしいのは同じ様で黙っている。

「そういえばオオサキ提督、今回の停泊中に新しいクルーが配属されるのでしたね。」

話題を変えたいのか話にプロスが割り込んで来た。


「ああ、もうすぐ着任の挨拶に………」







「来たわヨー!」







ブリッジの扉が開くと同時に、影山サキ本人が姿を現した。
そう、彼女の出張先とはナデシコだったのである!




10分後



「…………でここが食堂です。」

サキはジュンに連れられてナデシコの中を案内されていた。


「なかなか大きい食堂ですね。」

お互いに笑顔で話しているが何故か張り詰めた空気が漂っている。
特に
の悲鳴が聞こえる度にサキの頬がひくつくのを見て、ジュンがびびったりしたりして。

「で……何か…他に質問は……?」


ごく普通の声で、ごく普通の表情でジュンがサキに聞く。
営業用スマイルで彼女は質問した。

「彼は何処?」

それを聞くとジュンはサキの方に歩き出す。
すれ違い様に後ろ手で小さなメモ用紙をそっと彼女の手に握らせる。

「勤務開始は明日からですので今日はゆっくりしてください。では……」

そしてそのままブリッジの方に歩き去っていく。
つまりは用は済んだということだ。

(無能じゃないわね………まあいいことだワ。)




メモの内容を覗きながらサキは薄笑いを浮かべた。

 

 

ヤガミ・ナオは欠伸をしながらお仕置き部屋の表の扉にもたれ掛かっていた。
中では不気味な笑い声や叫び声、嬌声が聞こえる。

少し前から男の方の悲鳴が聞こえなくなったが、まあこれは何時もの事だ。
自分は彼女達がお仕置きを終えた後、アキトを彼の部屋まで送り届ければ良いだけの事。

ヘタに助けに入って巻き添えを食らうのは、絶対に避けなければならない。

(すまんな、アキト。俺はミリアと一緒になりたいだけなんだ。お前の分まで幸せになるから成仏してくれ。)

既に彼の意識内ではアキトは鬼籍に入っているようだ。
薄情と言えば薄情だが、以前彼女達の怒りに触れてお仕置きを食らった時の恐怖が彼を保身に走らせていた。

「えーと、こっちよネ。」

ぎょっとして声の聞こえた方に振り向く。
黒いスーツ姿の女性が何時の間にか、自分のすぐ側に歩いて来ていたのだ!
メモ用紙を覗き込みながら何やらブツブツ言っている。

(何だこの女……俺に気取られずにここまで来るなんて……いや待て、この顔どこかで見たような?)


ナオの当惑など気にも留めず、彼女はナオの目前でぴたりと止まった。

「あっここみたいね。こんな人気の無いトコに連れ込むなんてどういう神経かしら?」


ちなみにこの周辺は居住区にも関わらず、誰も人が住んではいない。
住んでたクルーが自主的に他の部屋に移るか、彼女達の脅し誠意ある
“説得”で余所の地区に移ってもらうかしたため、
全くと言って良いほど人気が無い。

あるのは怪しげな部屋が数部屋と、事あるごとに部屋と廊下を行き交いする謎の行列だけだった。
良識あるクルーからすればここは
万魔殿といっても良い。

そんな所に入り込んで来るのは送迎を担当するナオか、哀れな犠牲者もしくは某同盟関係者位だ。


(俺に気配悟らせねえとは…何者だ?)

ゆっくりと彼女の方に向き直り腰に手を当てる。
いざとなったら背中に隠してあるブラスターを抜き打ちする気で。

「あー済まないがお嬢さん。」

できるだけ愛想良く声を掛ける。

「はい?」

ニッコリ笑う彼女。

次の瞬間、ナオは動くのを止めた。

何故なら自分の首もとに扇子が突き付けられていたからだ。

いや、只の扇子とは呼べない。
その扇子はツヤを消した金属で出来た鉄扇だったのだから……。


「いきなりで悪いけど退いてね。今急いでるの。」

あくまで笑みを崩さずに彼女は言い放つ。
全身に寒気が走る中で、ナオは思い出した。

(新しい本に登場した影山サキ……だったっけ?何故此処にいる?)

そんなナオの疑問など、気にもせずサキは扉に歩み寄る。
ボタンを押すが反応が無い。

「その扉はあかないぜ。内側からしか開かない仕組みになっているんだよ。だからなぁ…」

何とか諦めてもらうとしたナオの努力は一瞬で霧散する。


ザクッ!


ナオに突き付けていた鉄扇を円状に折り曲げ、扉に突き立てたのだ。
そのまま抉る様にして扇子をぐるりと一回転させ引き抜く。


カラン。


「………嘘。」


扉のボタンがあった所に握り拳大の穴が開いていた。


そして懐から黒い球体を取りだして、それに付いているピンを引き抜く。

「おい待て!」

その穴から球体を放り込んだサキに対し掴みかかるナオ。
流石に今度は黙ってられないらしい。

「大丈夫よ。スタン・グレネードだから。死にはしないワ。」

親指を立てて襟首に手を掛けていたナオにパチンとウインクする。

 

 

 

 

ずどん!!





扉が内側から一気に吹っ飛び同時に凄まじい爆風が吹き出してきた!
二人に向かって扉が飛んでくる!


「うおっ!」



「あれっ?」



左右に分かれて横っ飛びし、扉を避ける二人。
ごろごろと数回転がってからようやくナオは起きあがる。

「あちゃー、本物の方を投げちゃった様ネ。」

数メートル離れた所でサキは既に立ち上がり、服に付いた埃を払っている。

どうでもイイがどうやって艦内に、そんな物騒な物持ち込んだんだろうか?




「あー!!いけない!!アキトさんまで巻き込んじゃったぁ!!」





当たり前だろうが




ナオはそう毒づきたかったが、怖いので黙っていることにした。
その姿に普段のクールさは
微塵もない。



「アキトさーん!返事をしてー!」


叫びながら部屋の中に、突入していくサキ。
ナオには最早止める術も気力もない。

ただ突っ立っているのも意味が無いので、彼女の後に続く。



「アキトさん、しっかりして!助けにきたのヨ!」

ぷすぷすと燻っている部屋の中で………。

サキは部屋の中央の長椅子にくくり付けられたまま、
こんがりと焦げているアキトに縋り付いて叫んでいる。

意識は無いようだが、呻いている所を見るとそれ程酷い状態とはいえないかもしれない。

「早く………手当しなきゃ!」


彼を縛っている薔薇色の鎖を、近くに転がっていた
が持っていたで切り裂く。

鎖を外すとアキトの身体を触って外傷が無いか調べ、それが終わると自分の背中にアキトを担いだ。



「サキちゃ〜ん、ふぁいとぉ!!」


気合いを入れる為雄々しく叫び、勢い良くサキは走り出す。

部屋を出るまでに何か柔らかい物を幾つか踏んづけた様な気がしたが、



「ンな事ぁどうでもイイノヨ。」



の一言で片付け、自室に向かって一直線で爆走していった。


「…………。」

後に残されたのは、呆然と佇むナオと屍(←間違い)の山だけ。


2,3分黙って突っ立っていたナオだが気を取り直すと、


「コイツはひでぇや。」

等と言いながら彼女達の上にゴザを掛けてやる。
もちろん茶目っ気を出すために十手を持つのも忘れない。

まあ暫くすれば意識を取り戻すだろうと考えながら溜息をつく。


「これからが大変だな。」

そしてこう思った。


(どうでもいいけどミリアや俺は巻き込まないでくれよ。
頼むから!


彼女達の今までの行動を考えれば、限り無く不可能なお願いを心の中で繰り返していた。

 

 

 

 

「お待たせしたわね。こうして直接お会いするのは初めてかしら?」


自室に戻りアキトの手当を済ませ、寝室に寝かせると彼女はリビングルームで待っていた客人達に挨拶をした。


「初めまして、僕が組織会長アカツキ・ナガレさ。」

「作戦参謀のアオイ・ジュンです。」

「開発担当のウリバタケ・セイヤだ。」

簡単に挨拶を交わし、全員がテーブルに着席する。

そして30分程何事かを話し合った後、彼等は満足げな笑みを浮かべて部屋を辞していった。


そしてそれを見送った後、彼女もいささか暗い笑みを浮かべる。

(これでナデシコ内での足場と手駒が出来た。後は彼がどう動くかね。)

前回ナデシコへの異動が同盟の陰謀で却下された時に、偶然接触出来た彼等を上手く丸め込み、今こうして此処にいる。
彼等には彼女達への対応策、そしていざという時のサキ自身の加勢を約束した。

今のポジションはこの戦艦と乗っているクルー達を調べるのに最適の状態とも言える。

何より彼女の最大の関心時はやはりアキトだった。

(地球に潜入してかなり経つけど、これ程興味深い存在は初めてネ。)

故郷から遙か離れたこの星に、味方と通じる企業の手引きで入り込んだのは半年以上前の事。
地球各地を巡りながら連合軍の情報を得て、自分の上司に報告するという任務を繰り返していた。
通じている企業から情報を得れば良いかもしれないが、彼女の上司はそれ程相手を信用していない。


そうしてあちこちを巡っている内に西欧に辿り付き、出会った男がテンカワ・アキト。


彼女は寝室に入り、ベットの上でまだ寝ているアキトの顔を凝視する。


圧倒的な戦闘力を持ちながら精神的には必ずしも強靱とは言えないその矛盾した人間性。
今までの兵器の技術ステップを無視する、強力無比な彼の乗機。
優しさの中にも何かしら暗さを併せ持つその眼差し。
あの瞳の暗さは………過去の自分に相通じる物を感じた。

興味が尽きない男ともいえる。


(この男に舞歌様の願いを果たせるだろうか?)

今のままではおそらくは無理だろう。

強い力だけで全てを変える事等、出来はしない。
武力のみで何かを成し得た存在は遠からずその力で破滅する。
サキの目には彼の突出した力と兵器、そして彼の精神の裏面の惰弱さと闇は諸刃の剣に映った。

上手くやれば地球圏の救世主、一歩間違えれば瓦礫と死体の山を築きかねない存在ー

このまま闘い続ければ後者の可能性が高まってくるであろう。
そのフラグは既に立ち上がりつつある。

(貴女が表に出てきた位だしね。尚更やっかいだワ。)

彼女の脳裏に紅い髪の少女が浮かぶ。
呪われた血筋とその華奢な身体からは想像も付かない程の鬼気を秘めた真紅の羅刹・北斗。

(貴方に呼ばれて表舞台に出てきた様なモノね。そうでなければ彼女が日の当たる所に出る事は無かったはず。)

彼女については良く知っていた。彼女と共に暗殺術を学んだ者達で数少ない生き残りの1人だから。
紫苑・零夜と彼女の上司である東・舞歌以外で北斗との接点を作ったのは彼女位のものだ。


………木連で彼女と互角に闘える唯一の存在としてだが。

今ならこの男の息の根を止める事が出来る。
だがそれをやったら、この戦争を止める術が無くなるやもしれない。

最早、北斗の存在は日の目を見ている。
彼がいなければ羅刹を止める事が出来るのは自分しかいなくなるのだ。



只の暗殺者であった自分を拾い、人間の感情を与えてくれた舞歌の兄。
彼女が愛した唯一の男。

彼が生きていたら、この愚かな戦争をどうにかして止めようとしただろう。
自分を友と呼んでくれた彼の妹も、彼の遺志を果たす為に自分を地球に派遣したに違いない。

いつの間にか彼の首筋に手が掛かっていた。
頸動脈の上に乗っかっていた指をゆっくりと引き、アキトの頬を優しく撫でる。


(あの人の願いを果たす為に。)



ゆっくりと部屋の扉を開けながら振り向く。



「お願いよ。私の期待を裏切らないでね………。私もベストを尽くすから。」


そう呟くと彼女は部屋の明かりを消し、部屋を出ていった。









東家隠密五行衆筆頭、水弧と漆黒の戦神テンカワ・アキト。



この二人の出会いが、時代の流れに大きなうねりを起こす事を知る者は未だに居らずー













 

 

 

 

 

 

後書き

サキちゃん書き終わりましたー
はっはっは、全然似てないかもなー。

一応、

敵側のスパイ。
高い戦闘能力。
人を煙に巻く性格。
陰謀を張り巡らす。
狙撃。(爆)
鉄扇使い。

以上の点は抑えたのですが、少し異色かもしれません。

この影山サキはまたちょくちょく書くやもしれないです。
まあ単品としてですけどね。

鋼の城さん 舞歌の兄さんの設定使わせて頂きました。

大魔王様 シュンとカズシ使わせて頂きました。この場を借りて断りを入れさせて頂きます。

黒貴宝さん アナザーの設定をお借りしました。感謝感謝!

別人28号さん  のほほんサキちゃん恋日記を参考にさせて頂きました。ちっとも似てないです。すいません。(^^;)

鳥井さん  ふははははは、自分はルビコン川を超えました!さあ、カモンカモン!!


後北ちゃんSSお待ちの皆様、9月中には何とか仕上げますのでどうかご容赦の程を。


以上後書きでした。

 

 

 

 

 

代理人の感心

 

うむぅ、確かにこう言うのもありですな。

サキというキャラクターをサクラの設定とは一切切りはなし、

時ナデ向けにアレンジしたのは割と大胆な発想ですが、

アレンジがしっかりしているので違和感なく読めました。

・・・まあ、「2」はやっていないので「らしい」かどうかはわかりませんが(笑)。