とあるコロニーの一室。一人の将校がモニター越しに,上官と会話をしていた。

上官とはいっても直属の上司ではないため,めったに顔を合わせたことも無い。

そんな相手から通信が入ったと聞いて,その男は始めは何事かと思ったがその内容はいささか唐突なものであった。

 

「パイロットを一人,ですか?」

「そうだ,先ほど話した船がそちらに寄港する際に補充要因としてパイロットを一人乗艦させて欲しい。人選は君に一任する。」

「そう仰られましても・・・またずいぶんと急な話ですね。」

非常事態が起こったわけではなさそうだと思い少し安心したが、その将校は,相手の一方的な要求が少し気に入らなかった。

事前に連絡もなしにいきなり人手を用意しろといわれても、準備だって楽ではないのだ。

こちらはこちらで忙しいというのに、これだから上の連中は・・・・・・

「うむ・・・実は――――――――――」

だが、話を聞いているうちにだんだんと男の顔からそれまでの不満げな表情が消てゆく。

そして,話が終わった時には男は納得した,という表情で了解の旨を相手に伝える。

 

「では、たのむ」

静かな部屋に低い音を響かせながらモニターから光が消えた。

 

 

 

 

 

通信が切れた後もそ男は薄暗いその部屋でしばらくもの想いにふけっていた。

そして,机の引出しの中から古い写真を取り出し、それを眺めながら一人呟く・・・・

「これは・・・・チャンスと言うべきなのかもな・・・・。

 あいつにも・・・・・私にとっても・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

ANOTHER DARKNESS

〜序章 第1話 「特命」〜

 

 

火星の後継者事件から以降、残党勢力による武装テロが絶えず、また各地で事後処理の混乱に乗じた海賊行為等が急激に増加しつつあった。

月と火星のほぼ中間点に位置するこのコロニー「オニユリ」とて例外ではなかったが,それも3ヶ月経った最近になってようやく減少の傾向を見せ始めた。

 

今日もコロニー周辺の宙域で民間船に略奪行為を重ねていた武装集団が掃討されたところだ。これにより,通常航路の安全が確保され,コロニー間の往来も滞ることは無くなるだろう。

そして,それは一人のエステバリスパイロットの力量によるものが大きかった。たいした規模の集団ではなかったとはいえ,そのほとんどが彼一人によって駆逐されたといっても過言ではない。

だが,その戦果の最大の功労者である男の顔は沈んでいた。

 

 

平和, 男のかねてからの願いはもうすぐそこまで来ている。

だが,供にそれを祝いたかった人たちはもういない・・・

忘れもしないあの日、皆,自分の目の前で死んでいってしまったから・・・・・・・・・・

 

 

 

今でもあの光景は鮮明にまぶたに焼き付いている。

休憩室であのときの惨劇を思い出しながら,男は静かに拳を震わせていた。

とうに飲み干したコーヒーの缶がぱきぱきとやけに響く音を立ててつぶれてゆく。

 

(俺が倒したいのはあんな奴らじゃ無い・・・・・あんな雑魚供じゃない・・・・・!

俺が探しているのは,あの―――――!)

 

 

 

 

「軍曹,基地指令がお呼びです」

不意に現れたウィンドウに男は現実に引き戻される。

「ヤジマ大佐が?」

さっきまでの険しい表情はいつの間にか緩んでいる。

「はい,司令官室まで来るようにとのことです。今回は軍曹大活躍でしたからね,もしかしたら昇進の件とかじゃないっすか?」

「はは,だといいけどな。五分で行くと伝えてくれ」

他愛の無い会話を交わし通信を切った後,気付いた時には手に持っていたコーヒー缶はぐちゃぐちゃに握りつぶされていた。

 

 

 

数分後,軍曹と呼ばれた男は司令官室のドアをノックしていた。

「タケザキ軍曹,失礼します」

「軍曹か,入りたまえ」

部屋に入り,机の前で姿勢を正す。

「まずは,今回の任務ご苦労だった」

「ありがとうございます,それでご用件というのは?」

「そうかしこまるなよ。まぁ,そこにでも座ってくれ。あぁ,その羊羹食べてもいいぞ」

「んじゃ,失礼して・・・」

急に部屋から緊張感が消え,上官が手でうながしたソファに体を沈める。ヤジマもその向いへと腰を下ろした。

二人は,先の蜥蜴戦争の頃供に戦った経歴がある。

その時はまだ伍長と中佐であった二人は常に最前線で戦い,片や家族を,片や息子を亡くしている事もあってか次第に父子の様に接するようになり,それは今でも続いている。

彼が指揮していた部隊のパイロットはタケザキ一人しか生き残っていないこともあるのだが・・・

 

 

「で,今回の用件は?昇進とかだと嬉しいんすけどねぇ」

「ズズ、それは今度の話として,まぁこれを見てくれ」

お茶を飲みながら大佐が差し出したのは一枚のファイルだった。どうやら戦艦の仕様書のようだ。

「ネルガル製戦艦ナデシコB、知ってるな?」

「ええ,火星の後継者を実質一人で壊滅させたあのホシノルリが乗ってる船でしょ?今はその残党処理の任についてるそうですけど,それがなにか?」

「2日後,このコロニーに補給のために寄港する」

「そいつぁ彼女のファンの連中が喜ぶな。それで?」

羊羹を口に運びながら気の抜けた応対をする。

 

 

『電子の妖精』 

確かに能力的にも,また軍内部のアイドル的存在としても申し分無いとは思うがタケザキはどうしてもその少女が好きになれなかった。

どんなに秀でた能力を持っていてもまだ16才の少女である。そんな子供が戦場に出るという事自体、彼の倫理観からも容認しがたいものがあった。

それ以外にも,彼女には軍人になりきるには何かが足りないような気がしてならなかった。

 

 

 

 

「その際、君にその船に乗ってもらいたい」

 

 

 

 

少し考え事をしている最中のいきなりのぶっ飛んだ答えにしばし頭が呆けた。

 

 

 

 

「は?ちょっと待ってくださいよ。いくらこの宙域の不穏分子は掃討したからといって小隊長の俺が今の部隊を離れるのはどうかと・・・それにいきなりそんなこと言われても俺がそれに乗る理由がわかりません」

至極当然の質問をするタケザキに向かってヤジマはあくまで落ち着いた表情,そして低い声で答える。

「ここから先は機密事項だ。他言無用、守れるな・・・・?」

彼の表情が親しい友人から上官のそれに変わる。それにつられてタケザキも羊羹を切り分ける手を止めた。

沈黙を了解と得たヤジマは話しを続ける。

「ナデシコBには火星の後継者残党の掃討以外にも別の極秘任務が与えられている・・・・もちろん非公式でな。私も先ほどミスマル提督から初めて聞かされた・・・。」

「極秘任務?わざわざ非公式で?一体どんな任務なんです?」

 

 

 

ズズ,お茶を一口飲み、少し間を置いてから大佐の口は口を開いた。

 

 

 

 

 

「連続コロニー襲撃事件の首謀者と思われる所属不明の黒い起動兵器及びその旗艦と思われる戦艦の捜索,拿捕。これがその内容だ・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『連続コロニー襲撃事件』

 

その名を聞いて再びあの惨劇が脳裏によみがえる。

次々と破壊される兵器群――――――

耳に飛び込んでくる仲間の悲鳴――――――

業火に包まれるコロニー――――――

 

 

 

そして・・・・それらをあざ笑うかのように、動かなくなった機体の中で泣き叫ぶ自分の目の前でその姿を消したあの黒い悪魔・・・・!

 

 

 

 

 

 

 

「上層部の連中はその戦艦のことを『ユーチャリス』,機動兵器のほうを『ブラックサレナ』と呼称しているそうだ・・・・」

うつむきながら、押さえきれないほどの怒りと憎しみで体を震わせる目の前の男に彼は再び話し出した。

 

「・・・・・ブラック・・・サレナ・・・・」

僅かだが震える声で、彼はその憎き名を心に刻み込んだ。

 

「これも知っているのは極一部の人間だけだが,数時間前ナデシコがユーチャリスと接触した」

「・・・・・!その結果は!奴はどうなった!!」

テーブルに身を乗り出し,つかみ掛かるような勢いで尋ねる。もはや敬語を使うことにも気が回らない。

 

「作戦は失敗。いくら装備と人員が優秀とは言え、艦載機が一機しかないんのでは破壊はともかく拿捕など不可能だ。案の定,例のブラックサレナに翻弄された挙句、機関部に被弾。そのまま逃げられたらしい」

首を横に振り,ため息をつきながらヤジマは答えた。

それを聞いたタケザキも力が抜けたようにしてソファに座りうつむく。

 

「そこで,パイロットを増やしたいわけだが,極秘任務である以上,そう多くの人員は割けない。また,本部から人間を派遣する時間も無い。だからこの基地でトップレベルの腕を持つ君に行って欲しいわけだ・・・・」

 

ひとたび間を置いてから目の前の男に尋ねる。

 

「・・・・・・・・・引き受けてくれるな・・・・・?」

 

 

 

 

 

そしてしばしの沈黙・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・出航予定は?」

先に口を開いたのはタケザキだった。

「補給と修理が済み次第・・・・おそらく4日後ぐらいになるだろう」

ファイルに書かれた補給物資の要項に目を通しながらヤジマは答えた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・作戦は目標の拿捕なのか?破壊ではなくて・・・・」

少しだが,彼の顔が上がる

「そうだ,理由はわからないが上層部は何故か奴を生きたまま捕まえたがっている・・・・・」

答えながら立ち上がり、窓辺に立って外を眺める。

「あくまで噂だが,相手と上の人間には個人的な関係があったらしい。ネルガルの影もちらほらしているしな・・・・

 あまり多くの人員を動員したがらないのもそこに理由があるのかも知れん・・・・」

表面上は冷静を装っていても,彼の低い声に怒気が含まれているのがわかる。

彼もまた,あの黒い悪魔によってかつての部下を多く失った・・・・・

上のヌルイやり方が不満なのもいたしかたない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・もし,相手の抵抗が激しかった場合は・・・・?」

 

 

 

 

再びの沈黙・・・・

 

 

 

 

 

 

今度はヤジマが先に口を開いた。

 

 

「相手は特A級テロリストだ。その場合は仕方ない・・・・・・な・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「引き受けてくれるな・・・・?」

振り向きながら先ほどと変わらない口調で再び尋ねた。

 

 

 

 

タケザキはしばらくその目を閉じ

そして立ち上げる・・・・

再び二人の目が合ったとき,その眼は強い眼差しで上官を見つめていた・・・・

 

 

 

 

それを見たヤジマはうっすらと笑い,そして姿勢を正して彼に命じる。

 

「タケザキ ヒロオ軍曹、本日を持って第三コロニー守備小隊隊長の任を解任,並びに2日後のナデシコBへの乗艦を命じる!」

 

彼はゆっくりと右手を額にかざし,敬礼の姿勢で静かに,そして力強く答えた。

 

 

 

 

 

「タケザキ軍曹、拝命します・・・・!」

 

 

 

 

 

 

〜第1話 終〜

 

 

 

 

 

後書き

始めまして,タケノコと申します。

いやぁ,書いちまった!受験生だってのに書いちまった!!

少し気晴らしにと思ってネットをブラブラしてこのページを見つけたが運の尽き!

もともと好きなアニメだった上に,完成度の高い作品が多く勉強そっちのけでディスプレイに向かってしまう駄目駄目な日々!(爆)

それらをみてると、「ココはこうした方が面白い」とか考え出した日にはもう学校だって上の空!(大爆)

ッてナワケで書いてしまったワケなこの作品。本元のキャラはあんまり自分の力量では書ききれないような気がしたんでオリジナルから入ってみました。まぁ,既存のキャラも書きますけどね。

やっぱ,アキトはあれだけの事しちゃったわけだからこういう人たちもいるよな,とか考えたらネタが出るわ出るわ(笑)1時間で書き上げました。

ちなみにカッコつけて書いたプロローグは、大事なのは最後の5行だけです,はっきり言って。

もう,暇さえあれば書きつづけたい今日この頃ですが,やはり受験生という事もありますんでそろそろそうもいかなくなってくる時期なんですよね。

アぁ,せめてこのページ見つけるのが去年だったなら・・・

と、おもったら、なんか「自分は受験生です」って言ってる投稿者の方がたくさんいるんですけど・・・

 

イイのか!?受験生!(俺含む)

 

後,感想待ってます。拙いながらもがんばりますので皆さん応援してください。できれば月に一話ぐらいは・・・